ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「『
月の光がアモルパレントを包み、根本からへし折れていた刀身を修復する。傷一つ無い新品同然の状態まで瞬く間に戻ってきた。
回復効果『
レーザー攻撃『
味方全体へのバフ撒き『
装備強化・修復『
そして必殺技、ゲージがMAXの時のみ使える自身へのぶっ壊れバフ『
今の私は、まさにその月華爛漫状態。ステータスは他のどのプレイヤーの追随をも許さないレベルにまで跳ね上がっている。
更に、月華爛漫によって装備可能になった最強装備【
スキルは依然として使えないままだが、それを加味しても今の私はこれまでより強い。たった5分だけの最強形態……クターニッドと渡り合えるだろうこの状態が保つ間に決着を着けようじゃないか。
「『
斬り結びつつ、回復効果を持つ『
今の私は
──それでも半分までなのは、このアバターにそこまでの力が無いからってことなのかな。
まぁ、そこは世界観のフレーバー的なものが何かしら関わってそうなっているのだろう。気になるけど確かめるならルルイアスを出た後で良い。
回復ができるのなら、コイツもまた使えるようになるということだ。
「合わせて4.5倍……これならおめーのその巨体だって上回る力を出せるぜ、クターニッド!」
乗算による凄まじい補正が掛かったアバターの性能はまさにチート級、クターニッドや触手の攻撃を何一つ問題無く回避していける。
隙を突いて一発、また隙を突いて一発と削りを入れながら位置を調整しタイミングを測る。青の聖杯をさっさと破壊するための準備だが、いちいち一つずつ聖杯を破壊しては時間が足りない。
──だから、こうするんだよね!
アモルパレントで触手を弾き、反撃の下段蹴りでクターニッドを転倒させる。そうすると聖杯を失ってフリーになっている右側の触手で身体を支え起こそうとするが、起き上がるまでのその時間は聖杯を持つ左側への警戒が甘くなる。
この隙を狙い、左側の触手を狙っていく。聖杯ではなく触手の方を狙うのだ。斬ってクターニッドの手数を減らすとかそういう訳ではない、私の狙いはそれによって聖杯の位置を揃えることだ。
「ようし、そのまま動くなよ……!」
縦一列に揃った聖杯を一斉に攻撃する手段、それは月華爛漫状態でのみ使えるムーンゲージを消費して放つ必殺技。『
剣に纏わせた月光を圧縮し、ヒットと同時に解き放つことで威力・範囲を拡大する上段斬り。ムーンゲージ10を消費して放つ、その名は──
「絶世秘技──『
天から地へ、通り抜けていくような光の軌跡に巻き込まれた聖杯が粉々に砕けていく。左側の触手が持っていた4つの聖杯を、花天月地の一撃で全て破壊することに成功した。反撃を食らってぶっ飛ばされたがまぁ必要経費だ。食らった分は回復できるし何も問題無い。
聖杯を破壊したことで、様々な反転ギミックが消えるだけでなく天井を覆い尽くすように生えていた無数の触手もまた消える。私を苦戦させていた要因である、クターニッド側の『手数』が激減したことで一気に戦いやすくなった。
『──
「……成る程、そうくるか!」
もう何度聞いたか分からない呪文によって、私の武装をコピーしてくる魔法が発動するが……今度のそれは今までと違い、両腕だけでなく聖杯を失って空いた8本の触手にまで、コピーした私の武器達を装備させていた。
手には【怨蛇の大盾】を。
触手には、右上からそれぞれ【覇憧傑刀『擊竜』】【アモルパレント・リペア】【
私の持ってる装備全部載せ。クターニッドの奴が私以上に私をしていやがる。
だが、使いこなせるのかソレを?いくら同時に持てるからと言って、全く性質の違う武器を同時に扱うなんて難し過ぎる。いくらシャンフロのAIが優秀とは言え本当に……
『──
「……まぁ、そうくるよな」
クターニッドの選んだ戦闘スタイルは、賦活性と子守火でバフを掛け【擊竜】で右側からの攻撃を、【金剛牙】で左側からの攻撃を、【怨蛇の大盾】で正面からの攻撃を防ぎ残りの武器で反撃するというものだ。
アモルパレントと孤毒剣をバフ用、擊竜と金剛牙を防御用にと割り切って、攻撃は他の4本だけで行うことで選択肢を現実的な範疇に収めている。成る程それなら無理無く扱えるのだろう。
──だーから、引き撃ちやめろって!
それだけでなく、亀のように防御を固めた上で私から距離を取って【ディア=ルミナス】による遠距離攻撃をチクチクと刺してくる。
武器が沢山あるせいで、普段殆ど死に性能と化している【
──コイツ、絶対分かっててやってるだろ!?
思うにコイツ、私の今の状態が時限制だということを分かって時間稼ぎに勤しんでいるのだろう。今は強くても5分後にはポンコツだものな、私だってそんな相手なら時間稼ぎに徹するさ。
『
「面倒臭い……本当に……!」
頑張って矢を掻い潜り近付いても、固い守りをこじ開ける前に振り払われてしまう。そのままノックバックの強いディア=ルミナスの必殺技で押し返されてまた振り出しだ。小さなダメージの蓄積はしてるはずだけどこれでは埒が明かない。
もっと、もっとバフが要るな。必要なのは攻撃を掻い潜るためのAGIと、押し返されないようにするためのVIT、そして少ない攻撃で結果を出すためのSTR……なんだけど。今のステータスでも押し返されてしまう時点で、VITに関しては相当な上昇量が要ると思うんだよなぁ。
直撃を受けてもノーダメくらいのVITが無いとこの不毛な押し問答を続けることになる、だ……
「……そういや、その手があったな」
そこまで考えて、思い出した。月天霊装の実質的なメイン効果のことを。
月天霊装は、それ自体がぶっ壊れたスペックを持つがその本質は『下敷き』なのだ。コイツは装備部位にもう一つ、違う装備を着けることができる……重ね着が可能な装備なのである。
「竜魂解禁──『パーフェクト』!」
月天霊装の上から更に
試しにまず普通に突撃。『月女神の光矢』を引き出して、どれくらいノックバックを食らうかを確かめる。ジグザグの動きで連射される通常矢を躱し懐へ潜り込み、私の攻撃を防がせる。
『
「……っぐ!これでもダメか!」
すると、距離を離すためにクターニッドは月女神の光矢を放って私を突き飛ばそうとする。
それをワザと受けることで、どれ程の耐性が付いたかを確認するのだが……かなりノックバックは軽減されたが、それでも接近戦を有効にするにはまだ足りない程度でしかなかった。
もっと、もっと勢いが要る。耐性を付けてもダメというのなら、あとはノックバックに負けない推進力でゴリ押すくらいしか無い。
だが、どうする。生半可な突撃をしたところで受け止められてまた引き離されるのがオチだ。盾で防がれるならともかく、擊竜と金剛牙には確実にこちらが押し負ける。二振りとも耐久減少無効効果を持っているので、こういう鍔迫り合いとか押し合いにはめっぽう強いのだ。
「『
「ヒステリア!」
「最強種は一筋縄じゃいかないねえ!それでも勝つんだろう、だったら頑張りな!」
「……ハッ!ありがとうよ!」
どうしたものかと悩んでいると、ヒステリアがもう一度『彼方への呼び掛け』を掛けてくれた。復活したスキルは……「フリットフロート」と「撃炸貫廻」か。
──つまり……そういうことだな?
ヒステリアがどういう攻略を想定したのか、復活したスキルを見れば何となく分かる。確かにそれならノックバックに抵抗できる勢いを得ることができるかも知れない……いや、やろう。月華爛漫状態が終われば負け確なんだ、悩んでる暇は無い。
すぐに
「さぁ……正念場だ」
この高高度から封翔の撃鉄による二段ジャンプを「フリットフロート」で下方向に変換し、突撃の勢いを乗せて「撃炸貫廻」をぶち当てる。それがヒステリアの想定する作戦だろう……実際、今の状態だともうそれくらいしかできることが無い。
しくじれば敗北必至のハイリスクな戦法、成功させないことには「これから」も何も無い。一呼吸置いて腹を括り、私は思いっきり空を蹴った。
落下による重力の後押しと、月華爛漫状態の光を浴び続けたことで発動した月天霊装の方の『月華爛漫』によって更に上がったステータスは、ただの特攻を必殺の砲撃へ変える。
クターニッドも迎撃の『月女神の光矢』を放つがそれを掻き消して一直線に突き進む。
「『
擊竜と金剛牙を構え、防御態勢を取るクターニッドに向けてレーザーを放つ。狙うは防御の要となる二振りを持つ触手、武器に直接触れず触手にダメージを与えて怯ませ、武器を手放させるのだ。
これでもう、無敵の武器に突撃を台無しにされる心配は無い。あとは怨蛇の大盾をぶち抜いてこの一撃を当てるだけ──狙うはクターニッドの額、私の装備コピーの核となる宝石。
『────!!』
「ま、そりゃ守ってくるよな……けど!」
私のアモルパレントとクターニッドの怨蛇の大盾がぶつかり合い火花を散らす。クターニッドは他の武器も重ねて更に防御を厚くし、大盾の効果で反撃ダメージを与えて食い下がる。
──無駄な抵抗だぜ、クターニッド!
だが、それは一時凌ぎでしかない。
持てる力の全てを注ぎ込んだ矛と、ただ掲げられただけの盾の激突。そこに矛盾などという故事成語は成り立たないのだから。
怨蛇の大盾が少しずつ罅割れ、クターニッドの腕が圧力に押され折り畳まれていく。
まだ。まだだ。最後まで腕を伸ばせ、その切先を奴の元へ届けるんだ──
「これで、終いだッ!」
──大盾が崩壊する。クターニッドの腕が、触手が勢いに負け弾け飛ぶ。
もう守るものの無い宝石にアモルパレントの切先が触れ、勢いそのままに貫く。眼にも映らぬ程に小さく爆散した宝石に倣うように、クターニッドの模倣した装備達も後を追って消滅。私は勢い衰えぬまま何度もバウンドし地面に叩きつけられた。
遂に、全てのギミック破壊に成功した……が、まだここで終わりじゃない。クターニッドのHPが0になった訳ではないし、コピーを失ったとは言え奴の触手は未だに健在。もう虫の息だが戦う力はまだ残されている。
それに対して、私は子守火も他のアクセサリーによるバフも時間切れで、月華爛漫状態もあと十数秒で終了する。
全てを出し切って、余力の絞り滓すら残らない出涸らし状態。そんな死に体とそう変わらない私にトドメを刺しに、クターニッドはその巨体で地面を蹴り上げ飛び込んでくる。素直な軌道なので避けることはできる……が。
そのための動きをしている間に終わってしまうであろう、月華爛漫状態を残すべく、私は避けも守りもせずにその攻撃を真正面から受け入れた。
ドカン、と。何かが砕けるというよりは爆ぜると言った方が良さそうな音が私から炸裂する。回復手段の『
「ロンミン!」
当然、HPは0となり、アバターはポリゴンの欠片となって霧散する。「
クターニッドの身体から力が抜ける。自分という壁を越えられなかったプレイヤーの敗北を、残念だとでも思ってくれているのだろうか。それとも、イレギュラー的に起きた事態を漸く収められるとホッとしているのだろうか。どちらだとしても……そう考えるには、まだ気が早過ぎる。だって──
【『
【装備条件を満たしていない装備は自動的に格納鍵インベントリアへ戻されます】
──まだ、勝負は着いていないのだから。
状態異常無効。あらゆる環境への適応。MPを消費するか月光を浴びることでの耐久値回復。別の装備の重ね着。1部位装備するだけでもこれ程の恩恵を得られるが、一式揃えることで更に別の効果が二つも解放されるのだ。
その内の一つが『
「
そしてもう一つが、この『
その効果は、死亡時に戦闘中に掛かった効果を全て打ち消した上で完全蘇生させるというもの。それまでの全てを無かったことにして、真っ新な状態に直すということは、つまり──
「全スキル、復活だ!」
「ロンミン!生きてたのかい!?」
──綺憶像失の副作用が消え、HP上限が元に戻り回復不可状態が解消され、封じられていたスキルが全て還ってくる。ということだ。ヒステリアの魔法の影響も消えたが、もう問題無い。
『────!!』
「今度こそ──これで、終わりだ!」
ありったけのバフスキルを掛け、クターニッドを掴み上げて「ハイアーザントップ」で跳び上がる。宝石を破壊したことでアモルパレントが封印されて素手となっているが、私にはちゃんと徒手空拳用のスキルが備わっているのだ。
天井から床まで、思いっきり叩き付ける……『投げ』モーションと威力に補正を掛けるスキル『フォールスロー』を発動した。
首を掴む私の手を離れ、凄まじい速度で落下するクターニッドに最早、受け身を取れるだけの余力は残されていなかった。
轟音を鳴らし、土煙が舞い、強い衝撃を受けた床は爆心地の如く深く抉れ大穴を開けた。
『想定する、流れではなかったが』
『青を退け、我が想像をも越えてみせた』
『その研鑽をこそ、讃えよう』
『人よ』
『其方の命の輝き、しかと見届けた』
グラビティゼロで天井に立つ私と、爆心地の中心に斃れたクターニッドの視線が交わる。そして奴は短く言葉を遺して消滅していった。
決着だ。『深淵』のクターニッド……4度の蘇生の果てに、遂に私は最強種の一角を撃破した。
「……はぁ」
床に着地すると同時に、大きく息を吐く。
フィフティシアに帰るまでは終わりじゃない、それは分かっているけれど。今だけはこの達成感と疲労感に浸っていたいと、そう思うのだった。
「お疲れ様。格好良かったよ、ロンミン」
「……ありがとう。少し休んだら、今度はルルイアスから出る方法を探そうか」
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・『
全部載せした時のロンミンは、凄くビカビカ光っているためとても眩しい。
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