ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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75:帰還

「あ……」

「既に限界を超えていたからねぇ。こうなるのも然もありなん、と言ったところかい」

 

 クターニッドを撃破し、気分を落ち着けるために少し休んでいたところ。アモルパレントが急速に罅割れていき、崩壊──柄まで全てが消失し装備欄からも消え去っていった。"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"戦以来の武器ロストが起こってしまった。

 ヒステリアの言う通り、こうなってしまったのもまぁ仕方の無いことである。何せシナリオの仕様と『威代の匠光(ムーンスミス)』で延命していただけで、クターニッド戦の時点で耐久値は0になっていたのだから。

 

 戦闘が終わり、脅威は去った。

 それまで限界を超えて共に戦ってくれたことに感謝して、アモルパレントを弔おう。もっと強くしてやれなかったのは残念だけど……

 

「何、そうしんみりすることは無いさ。ほら、インベントリを確認してみな」

「インベントリを……?あ」

 

追憶(メモリー):アモルパレント】

 ・【アモルパレント・リペア】のこれまでの戦いの記憶が封じられた結晶。そこには小さき命の守り刀としての矜持と祈りが込められている。

 

「アモルパレントの記憶……」

「腕の良い鍛冶屋に素材と一緒に託してやりな。その時は生まれ変わった姿を見せてくれるはずだよ」

 

 ──まだ、一緒にいられるんだな。

 

 シュトーレンに託せば、彼女の腕前のことだし素晴らしい武器に生まれ変わらせてくれるだろう。何の素材がアモルパレントには相応しいかな?どんな性能になるかも妄想が膨らむ……が。ここで一つの懸念が浮かぶ。

 アモルパレントの結晶は、クターニッドとの戦闘の結果の産物。この後に控えているヘルパーT細胞との決闘の景品となる、ルルイアスから持ち帰った戦利品の中に含まれてしまうかも知れないと。

 

 元より私の武器だし、ゴネることもしらばっくれることもできるだろうが。ヘルTの奴はこういう時無駄に勘が良くなるし、追求されたら逃れることはできないだろう。

 大人しく最初から出しておくしかないか、ちゃんと勝って回収してやらないとな……

 

「はぁ、面倒臭え……」

「お、ロンミン、上を見てみな」

 

 ──上……?

 

 そう思いながら見てみると、そこには花の蕾のような形になったクターニッドが浮かんでいた。

 第三形態……という訳ではなさそうだ。戦闘終了後のイベントか何かだろう。普通に挑んだ玲達は報酬としてクターニッドの聖杯を貰ったそうだし、私も貰えるのかな?色々とイレギュラーな部分が多いからあまり期待はしてなかった、て言うか報酬があるなんて発想すら無かったんだけど。

 

『青を退け、力を示した其方にこれを授けよう』

 

『我が力、始源の力、その力の断片である』

 

『其方にこそ相応しい』

「お、おう……」

 

 蕾から射出された()()を受け取り、掌の上でコロコロと転がしてみる。

 ソレは、深く澄んだムラの無い『青』で染まった宝玉であった。

 

淵源の蒼宝珠(ナイツ・オブ・コバルト)

 ・クターニッドが『狂える大群青』から抽出した力に自身の力を加えて安定化させ創り上げた宝石。

 

「おおう……超貴重品じゃん」

「『青』を撃破した証……クターニッドが混ざっているから本来のものとは違うのだろうけど、こんなものを持てるのはお前さんくらいだろうねぇ」

 

 ユニークの撃破報酬、という時点で貴重品である事は明白であったが。本来フレーバー的存在で倒される想定では無いだろう『狂える大群青』の要素が混じったことでより貴重な品になってしまった。

 これは……上で待ち構えてる奴らが死に物狂いで奪いに来るぞ。勝たなきゃならない理由が増えた。

 

『行け、旅は続く』

 

 床に空いた穴をクターニッドが指し、そこに入るよう促してくる。恐らくこの穴を通ればルルイアスから出られるのだろう。探し求めていた脱出経路は、始めからクターニッドを倒さないと出てこないものだったのか。

 

「よっし、帰ろうぜヒステリア。フィフティシアに戻ってお前からの試練も終わりだ」

「狂える大群青だけを壁にするつもりが、思ってたよりも大分長くなっちまったねえ」

「またな、クターニッド。今度はちゃんと正規ルートを通って挑みに来るよ」

「アタシは二度と来る気は無いけどね!」

 

【ユニークシナリオEX『反転(マワ)る世界の片隅に在りて』をクリアしました】

 

【アイテム『深淵の警鐘』を獲得しました】

 

【称号『招かれざる客』を獲得しました】

 

【称号『深淵の生還者』を獲得しました】

 

【称号『継承の証明』を獲得しました】

 

【称号『トゥルー・シーカー』を獲得しました】

 

【称号『道は違えど心は同じ』を獲得しました】

 

【称号『群青を跳ね除けし者』を獲得しました】

 

 クターニッドが触手を振り、まるで「バイバイ」とでも言うかのような仕草を見せる。その前に一瞬ハートマークのようなものを作っていたのは、私の目の錯覚だったのだろうか。

 穴を潜り、反転するルルイアスの床を抜けて海面へ浮上していく。途中でルルイアスの支配域を抜けると水の抵抗を受けたり、窒息するようになるので大地蟲の忘殻(ガイアフォース)を装備して影響を無効化。水棲モンスターに妨害されることもなく、無事に浮上することに成功したのだった。

 

「ぷはぁ……漸く戻って来れたか」

「便利だねえこのローブ。数あるならアタシに一つ譲ってくれないかい?」

「構わんよ、予備はまだあるし……それより上陸するまでまだ油断するなよ」

「誰に言ってんだい。帰るまでが試練さね」

 

 その通りなので、慢心せずヒステリアを背負ってフィフティシアの港まで泳いでいく。半分程進んだところでNPCの操縦する船とカチ合い、救助して貰うことに成功する。事情を説明すると驚かれながらも港まで運んでもらえることになった。

 これでもう、余程のイレギュラーが無い限りはこのシナリオもクリアだ。ヒステリアも既に成功扱いということにしてくれているようで、試練の達成報酬について説明を始めている。

 

「この試練を成功させたアンタには、アタシから二つの見返りを用意していた」

 

「一つは英傑武器(グレイトフル)再生成(リバース)権利。まぁ、これに関しちゃあアンタには意味無いものになっちまったが」

 

「重要なのはもう一つの方だよ。クターニッド戦で色々とやってみせたように、アタシには過去の記憶に干渉する魔法が幾つかある。必要な時はそのインベントリアにマーキングしておいたから、それを通してアタシを呼びな。アンタの振り返りたい過去の記憶を呼び覚まさせてやるよ」

 

「アタシはもう行くよ、必要な時にまた会おう……アンタの旅路に幸あれと、祈っておくよ」

 

 そう言って、こちらからさよならを言う間も無くヒステリアは姿を消した。同時にユニークシナリオクリアを伝えるウィンドウが現れる。

 

【ユニークシナリオ『英傑の試練』をクリアしました】

 

【ユニークシナリオ・追憶(メモリー)が解放されました】

 

【ユニークシナリオ・追憶は『追憶の賢者』ヒステリアから受注することで挑戦できます】

 

 ──これが、クリア報酬か……

 

 ユニークシナリオ・追憶というチャレンジ要素への挑戦権と、それをいつでも受けられるようにするヒステリアとの繋がり。副産物的なアモルパレントの強化権を除けば、報酬はこの二つとなる。経験値やスキルポイント、アイテムといった直接的な物は戦闘で入った分しか無さそうだ。

 ユニークシナリオ・追憶……長いので追憶シナリオと縮めて呼ぶが、説明を読む限りどうやら私がこれまで経験した戦いやギミックなどを再現し、再挑戦を可能にしたものであるようだ。自分が経験したことの無いものでも、縁の深いアイテムなどを触媒とすることで追体験が可能らしい。

 

 経験値やアイテムドロップ等は無いが、『戦闘を行った』という経験は得られる。なのでスキル・魔法の習熟や進化に必要な経験を、次のレベルアップまでに確実に稼ぐことを目的として使うのが、追憶シナリオの正しい使い方なのだろう。

 気になるのは、『戦闘を行った』という経験を得られるというのがどういうことかだ。現物を得られないのは、あくまで『追体験』であるということなので納得できる。

 

 では、形の無いモノはどうだ?

 ソレに打ち勝ったという事実こそが重要な経験ならば、追体験とは言え反映されるんじゃないか?この予想が正しければ──

 

「……考えてる場合じゃない、か」

 

 ──思考が大量の鳥の襲撃に中断される。モンスターの攻撃ではない、フレンドから私宛に送られたメッセージを運ぶ伝書鳥(メールバード)だ。

 

 差出人はヘルパーT細胞、私のログイン時間を計算してずっとスタンバッていたらしい。長々と待たされたことへの恨み言が綴られている……いや、待つことを選んだのはオメーだろうに。

 気を取り直してちゃんと中身のある部分を読んでいくと、どうやらヘルパーT細胞だけでなく私のせいでルルイアスに入れずクターニッドに挑戦できなかったプレイヤー達が出待ちしているとのこと。抑えてはいるけど、爆発しないとも限らないので気を付けて帰って来いと書かれていた。

 

 ──「段取り通りにお願いね」か……今更だけど違和感無いように演技できるかなぁ?

 

 一応、事前に事を納めるための茶番の段取りは済ませてあるが演技力が心配だ。人前で喋ることに慣れてるヘルパーT細胞ならともかく、私はその辺りはてんで素人。いらんことを言って無駄に怒らせてしまわないかが心配だ。

 

「おう開拓者さん、そろそろ港に着くぜ!」

「あ、もう?思ってたより大分早いな……乗せてってくれてありがとう、助かったよ」

「良いってことよ!」

「次、会った時は何かお礼をさせてもらうよ」

 

 船が港に辿り着き、船員にお礼を言って私達は解散する。小さくなっていく背中に手を振っていると背後から聞き慣れた声が掛けられた。

 

「おかえりロンミン。ルルイアスは楽しかった?」

「そりゃあもう。地上ではできないようなことが沢山あって語り尽くせないくらいさ」

 

 ──さーて、集中しないとなぁ。

 

 割と疲れてるし、さっさとログアウトして眠りたいのは山々だがもう一仕事しなければ。

 笑顔のヘルパーT細胞の裏に控えた、十数人の怒りに顔を歪ませたプレイヤー達。彼らを納得させるための三文芝居を、私とアイツの演技力で完遂させねばならない。ある意味、どんなモンスター相手よりも難しい戦いがこれから始まるのだ。




『招かれざる客』
 条件:ルルイアスに正規の手段以外で入場する

『群青を跳ね除けし者』
 条件:狂える大群青との戦闘を一定以上熟した上で生還する 本来狂える大群青との戦闘が発生することはあり得ないので、サーバーが急遽ロンミンのために作った出来立ての称号。

【ユニークシナリオ・追憶(メモリー)
 説明:『追憶の賢者』ヒステリアとの友好を深めたプレイヤーに解放される隠しシナリオ。プレイ記録からモンスター情報を取り出すことで、擬似空間での再戦が可能となる。
 戦いたい相手と縁の深いアイテム(ドロップ素材など)を触媒とすることで、プレイヤーが戦ったことの無いモンスターも再現可能。
 このシナリオでは勝利しても経験値は入らず、ドロップアイテムも無い。しかし『勝利した』という経験は得られるため、習熟度などの内部ステータスはしっかり上がっているし、勝利したことそれ自体が重要となるものなら……

 ちなみにロンミンは勘違いしているが、『英傑の試練』のクリア報酬は再生成(リバース)の権利と、それに伴う戦ったモンスターの素材のみ。シナリオ内でヒステリアの好感度を高めていなければ、報酬はアモルパレントの結晶だけで終わっていた。
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