ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「高倍率の抽選を勝ち抜いて、この日のために準備を整えてきた私達を差し置いて、一人で行っちゃったルルイアスは楽しかった?」
「そりゃあもう楽しかったよ。一面が『青』で埋め尽くされた幻想的な街並みに、宙を泳ぐ無数の魚型モンスターや魚人ゾンビ。地上ではあり得ないような強力で巨大なモンスターも多かったし、深淵のクターニッドはユニークの名に相応しい強さだった。できることならまた行きたいものだね」
言葉の端々から棘を感じるが、裏に控えてる奴らの代弁とくればそうなるだろう。今にも私を八つ裂きにしてやりたいところを、推しの配信に乗っているからと我慢しているのだから。
その言葉には私も煽るような口調で返す。せっかく掴んだチャンスをフイにしやがった相手が、その行きたかった場所を満喫してきたと楽しそうに語るのにはそれはもう神経を逆撫でされるだろう。最終的に私とヘルパーT細胞の決闘という、実力行使の流れを作るにはもってこいのはずだ。
──ま、そんな楽しめる程の余裕持った行程じゃなかったけどな……
「クターニッドは倒せた?」
「倒せたよ。これがその戦利品だ」
インベントリアから
辺りから「おお……!」と騒めきが広がる。クターニッドの撃破報酬が聖杯の一つであることは既にライブラリによって周知のようだが、それとはまた違うアイテム……しかも、見るからにレアモノとくればその反応も当然だ。
「クターニッドの撃破報酬って、色んな効果を反転させるっていう聖杯じゃなかったっけ?」
「私はそっちは貰ってない。正規の手段でルルイアスに入った訳じゃないし……コイツには『狂える大群青』の撃破報酬の側面もあるからね」
「狂える大群青……!?」
「大群青って、確かイベント専用のモンスターじゃなかったか……!?」
プレイヤー達の目の色が変わった。まだ穏便に済ませられそうな面をしていた何人かも、計り知れないアイテムの価値に目が眩み「何としてでもアレを手に入れなければ」という顔になっている。
ここで畳み掛けるように、他のアイテムもインベントリアからドサドサと取り出していく。地上を歩くだけでは決して縁の無い、深海の貴重なアイテムやお宝の数々に、レアアイテムを求める廃人達は野獣の眼光をその瞳に灯した。
「ねぇ、ロンミン。その沢山のアイテムの所有権は私達にこそ有ると思わない?」
今にも襲い掛かりそうな廃人を制止しつつ、ヘルパーT細胞は私に問う。
私がルルイアスから取ってきたアイテム群は、本来ならば自分達が手に入れるはずだったもの。だからその所有権は自分達に有る……という、これが茶番でなければあんまりな暴論を。
「それは理屈が通らんだろ。そもそもお前らがルルイアスに来れてたとして、私程の戦利品を集められてたとも限らないんだぜ。現実としてこうなってるのに
「でも、実際にその成果は私達の機会を奪って出したものであることには違いないよね?」
「無敵か?」
うん、良い感じに言い争いが水掛け論になってきたぞ。このまま不毛なやり取りを続けて、ちょうど良いところで決闘を切り出すのだ。
「まったく、往来のど真ん中で喧嘩は止めなさい」
「野次馬が凄い集まってきてるよ」
「シュトーレン、アクアリエ」
「騒がしいからと様子を見に来たら……貴方達どうして言い争いになってるのよ」
と、思っていたら。騒ぎを聞きつけてやって来たシュトーレン、アクアリエの二人によって流れは否応無しに掻き乱されることになる。今来るのは流れが乱れちまうからやめてくれよ……
いや、これは寧ろチャンスか?私やヘルパーT細胞が決闘を持ち出すより、後から来た二人に言って貰った方が受け入れられやすいと思うのだ。
──それに、部外者なら「面倒臭いしとっとと決闘でもして決めろ」って言いやすいしね!
「とまぁ、かくかくしかじかでこういうことになってる訳なんだよ」
「成る程、面倒臭いことになってるんだなぁ」
「まどろっこしいわね、一々言い争ってる暇があるなら決闘でもして決めなさい」
「ホントに言ってくれたよ……」
随分と都合の良い展開だが、そうなったからには全力で乗っからせて貰おう。この流れを維持しつつ決闘を確定させるのだ。
「そうだね。言葉じゃ解決しないだろうし、後はもう暴力で決めるしかないか。このフィフティシアの闘技場で私とそっちの代表者とで戦って、勝った方が深海のアイテムを総取りするんだ」
「私はそれで構わないよ。皆はどう?」
「構いませんよ、もうそれで」
「PKになるよかマシだしね」
──ふぅ……取り敢えずどうにかなったか。
向こうの代表がヘルパーT細胞になること。お互いに万全な状態で戦えるようにするために、本番を二日後にすること。勝った方がアイテムを総取り、恨みっこなしにすることをシュトーレン、アクアリエの取りなしの元決めて解散となる。
「それじゃあねロンミン、後悔の無いように準備はしっかりとね」
「そっちこそ、首を洗って待ってなよ」
一触即発の雰囲気であったが、どうにかこの場は茶番をやり切って終わらせることができた。
ヘルパーT細胞は、このまま取り巻き共を伴って決闘の準備に取り掛かるらしい。私も準備に掛からないといけないけど、流石に疲労が結構ヤバいし明日からにしようかな……と、思っていたが。どうやらまだログアウトはさせて貰えないらしい。
「おっと、逃がさないわよ。ロンミンには私達も用があるの」
「大丈夫、黎桜ちゃん達と違って嬉しいヤツだよ」
ログアウトボタンを押そうとしていた手を止めて話を聞いてみると、素材不足でできていなかった私の傭兵の鉄鎚と鉄槍の真化ができたとのこと。
ハンマーも槍も今はゴルドゥニーネの眷属の素材から作った新しいものを持っているが、こっちはより貴重な素材をより腕の良い鍛冶師が作ったのだからより高性能になっているはず。正直言って眠気は辛いがこれなら我慢して残る価値はありそうだ。
「遂にできたの!?どうなった!?」
「落ち着きなさい、すぐ見せてあげるわ。まずはハンマーの方から……"月華美神""輝晶点穴""皇金世代"の素材を
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【
[カテゴリ]
・長杖
・大鎌
・ハンマー
[効果]
・『月纏』:この武器は耐久値を消費して「月纏状態」になる。「月纏状態」では、全体的な性能が向上し各効果の効果量が上昇する
・この武器は月光を浴びる、または所有者のMPを消費することで耐久値を回復する
・アンデット特効
・この武器による攻撃は、実態を持たない相手にもヒットする
・この武器による与ダメージは、攻撃対象のカルマ値が高い程上昇する
・『
・『
・『
・『
・『
[
・
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「テキスト長っがいな……でも、強そう」
「こっちの水晶の面が晶月サイド、金の面が煌月サイドよ。面によってできることが変わるから向ける面には気を付けて使いなさい。まぁ、ただの棒として振り回すだけでも強いけどね」
甦機装、それも大量のエクゾーディナリー素材を使ったに相応しい性能。実際にどれ程のものかは試してみないと分からないが、カタログスペックは十分過ぎるものがある。
レガシーウェポン系の武装は、これ以上の強化ができないということらしいが。これだけ強くなってくれればそれも構わないだろう。こうなれば傭兵の鉄槍もどう変わったかが楽しみだ。
「シュトーレン、傭兵の鉄槍は!?」
「ふふ……刮目しなさい、これがプレイヤーの手で新造された第六の
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【星天槍アステヴァル】
[カテゴリ]
・槍
・
[効果]
・この武器は光を当てる、または所有者のMPを消費することで耐久値を回復する
・対竜特効
・アンデット特効
・この武器による攻撃は、実態を持たない相手にもヒットする
・この武器による与ダメージは、攻撃対象のカルマ値が高い程上昇する
・『慈悲の槍』:この武器を装備している間、所有者による攻撃がパーティメンバーにヒットした時その与ダメージを回復に変換する。対象のカルマ値が一定以上の場合、この効果は発動しない
・『闇祓う槍』:この武器の耐久値を消費して、周囲に光のフィールドを展開する。フィールド内では自分とパーティメンバーは時間経過でHP・MPが回復し、状態異常にならない。既に状態異常の場合は解消される
・『星灯る槍』:この武器の耐久値を消費して、瞬間的に射程を上昇させる。屋外エリアでは最大射程が上昇する
・『
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「こっちもテキスト長い……そして強い」
「ちなみにソレ、まだ未完成なのよ」
「え、マジで?」
「マジよ。ロンミンは輝槍仮説ってシャンフロで聞いたことあるかしら?」
星天槍アステヴァルは、私が渡したローエンアンヴァ琥珀晶の中に入っていた『ブリューナク因子』なるものを利用して造られたそう。そういえばサンラクが使ってた剣もブリューナクだったか?輝槍仮説とかいう割に槍じゃなくても良いんだな。
この
そして大事なのは、ブリューナクとは「竜を屠るべく造られた輝ける槍」ということ。輝槍仮説と名付けられていることから分かるように、その仮説を実証する必要がある。
そう、当たり前だができたてのアステヴァルが竜を屠るなんて経験しているはずが無い。竜を殺し輝槍仮説を実証することで、アステヴァルは初めて真の姿に『成る』ことができる……とのことだ。
「竜なら丁度良い情報があるわ。今は亡き『天覇のジークヴルム』が縄張りとしていた気宇蒼大の天聖地の頂上……そこに、ジークヴルムの如く黄金に輝く竜が降り立ったそうよ。情報を語った奴は一瞬でやられたし初回以降逢えてないと言っていたから、能力とかは碌に分かっていないみたいだけど」
「へぇ……決闘が終わったら行ってみるよ」
「んじゃ、次は俺だね。消耗品の補充と新しいアクセサリー、アイテムを作ってきたよ」
「ほう……!」
目の前に広げられる、これまでにも作って貰った消耗品の数々と見たことの無い別のアイテム。この二つが例のものなのだろう。私は嬉々としてソレらを手に取り説明を見た。
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【
[カテゴリ]
・アイテム
[効果]
・このアイテムを取り付けた武器に特殊状態『破界のアトラス』を付与する。
・『破界のアトラス』:これを付与した武器での攻撃に強い振動属性を追加する。効果中は武器の耐久値が減少し続ける
【
[カテゴリ]
・アクセサリー:人形
[効果]
・戦闘中一度だけ装備者のマイナスの状態変化をリセットし、HP・MPを全回復する。
・蠍系モンスターの野生値が上がりやすくなる
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アイテムの方は、「強い」振動というのが未知数だが属性の強さは
まぁ、その場でリスポーンする方法が限られているゲームに於いて、全回復アイテムが弱くなる訳が無い。私は人生縛りで自主リスポーンを禁止してるから尚更だ。
「おお、どれも強そう!」
「喜んで貰えて何より。黎桜ちゃん相手にもしっかりと役立ってくれるはずだよ」
「貴女達二人、同じゲームしてるとちょくちょくこうして喧嘩になるわよね。親戚同士なんだからもう少し仲良くプレイすることはできないの?」
「善処はしてるよ。今回は決闘まで予定調和の茶番だったけどね」
「あら、そうなの」
「やるからには私が勝つけど。こうして戦力増強もして貰ったことだし」
思わぬ即戦力だったが、恐らく悍ましい程の火力特化をしているだろうアイツと戦うには、どれも良い働きをしてくれそうでありがたい。
そして、ここまでして貰ったからには戦利品を守るためにも負ける訳にはいかない。試しに崩天地衝を取り付けてみたアステヴァルを掲げ、私は二人に決闘の勝利を約束した。
「二日後だったわね、結果がどうなるかは直接見せて貰うとするわ」
「どっちかって訳にはいかないから、俺らは両方応援するけどね」
「いいよ、新しいアイテム達をありがとう。二日後を楽しみに待っててね」
「ええ、貴女もそろそろおやすみなさい」
「じゃあね、八千代ちゃん。おやすみ」
「おやすみー。またね」
ログアウトしていく二人を見送り、私も漸くログアウトできるようになる。
ゲーム世界から解放され、生の眼で見る光が眩しく瞳を差し現実感を伝えてくる。
「ああ、眠い……」
義肢を外して充電しないといけないが、最早それをしようとする程の気力も残っていない。
もうやることは全部明日でいいやと、ベッドに身を預け目を瞑る。そのまま明日の朝まで、私は深い眠りへと落ちていくのであった。朝起きてからそのことを後悔したとは言うまでもない。
アステヴァルの能力は【53:ペンシルゴンとの共闘】で先出しした時から変更を加えています。