ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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79:深海の幸を賭けた戦い

 

 

 

 

 

※ロンミンとヘルパーT細胞の戦いは三人称視点でお送り致します※

 

 

 

 

 

 深夜、多くの星々が照らすフィフティシアの街はその一角を時刻に合わない喧騒に包んでいた。

 そこは闘技場……街を訪れる開拓者達がこぞって力を示すべく戦うある種の聖地とも呼べる場所。

 

 そこにはいつも戦い、鎬を削り、そんな様を見守る多くの開拓者達の姿があるが……今宵は少しばかりその数が多かった。

 何故なら今日の対戦カードは特別。今現在日本で最も勢いのある配信者・緋刈黎桜ことヘルパーT細胞と、その身内にして『人生縛り』という自主的なリスポーンを禁止する無茶な縛りを継続したままユニークモンスターを撃破したプレイヤー・ロンミンという注目度の高いカードであったから。

 

「さぁ今宵もこの時間がやって参りました。『フィフティシア・グランドバトル』……実況はわたくし黎桜ちゃんファンクラブ会員NO.13、アヤメマウンテンが。解説はクラン:旅狼(ヴォルフガング)よりサンラク氏と個人勢のシュトーレン氏が担当致します」

「この決闘そんな名前付いてんの?」

「さぁ?これまで聞いたこと無いし、適当にそれっぽい名前を付けただけでしょう」

「両選手の入場です!まずは東側・ヘルパーT細胞選手がスタジアムに姿を現しました!」

 

 大会名への疑問を華麗にスルーし、実況は入場したヘルパーT細胞へ注目を移す。その勇姿を拝みに来た多数のファンからの声援に、笑顔と手振りで愛想を振り撒きながらヘルパーT細胞は堂々とスタジアムのど真ん中へ入場した。

 かつてロンミンと共闘した時から、その装備は攻略が進んだことでより強力なものへ変化している。右手に持つのはかつての【致命の長杖(ヴォーパル・スタッフ)】から真化を経て生まれ変わった【兎花『清命』】、左腰に黒い装丁の魔導書を携えて。防具もかつての【魔道士の正装】シリーズから、真化を経て生まれ変わった【煌紅月装(ルーベルメン)】シリーズになっている。

 

「そういえば、ヘルT氏とは兎御殿でも会ったこと無えんだよな……この目で見たのは初めてだ」

「あら、そうなの?同じユニーク持ちでも出逢う機会ってそんなに無いのね」

「ロンミン氏も、一回一緒に戦ったことはあるけどその時はあの人初期装備だったからな……昨日会ったけど別に詳細を聞いた訳じゃないし、俺戦う二人のこと全然よく知らねえな……なのに、何でここに座ってんだろうな?」

「別に何でも良いじゃない。当事者の二人以外は、ただの賑やかし要因でしかないんだから」

 

 更に、この日に備えてアクセサリーやスキル・魔法もしっかりと整えて準備は万全。何が相手として来ようと勝てる……そう自信を持って断言できる程の完成度を認めていた。

 だが、油断など微塵もしていない。これでも親戚として長い付き合いがある、相手の強さは自分が最も良く知っているからだ。

 

 これまでも、何度も同じゲームを一緒にプレイしては、勝ったり負けたりを繰り返してきた友であり好敵手。深海関連のゴタゴタを抜きにしても、戦うからには絶対に負けたくない相手。それが黎桜にとっての八千代である。

 今回は自分が勝たせてもらう。そんな意気込みを胸に抱いて、ヘルパーT細胞はロンミンが出てくる予定の西側の入場門を見据えた。

 

「来ました、西側・ロンミン選手の入場です!」

 

「来たね」

「お待たせ。今日は私が勝たせてもらうよ」

「こっちの台詞。八千代ちゃんは次のキャラメイクで付ける名前を考えておきなよ」

「そっちこそ、シンパ共への補填をどうするかちゃんと考えておけよ」

「なにおう」

「早速始めるかぁ?」

 

「何か、凄いバチバチだな……」

「仲が良いんだか、悪いんだか……昔からゲームが被るとよくこうなるのよね」

「両者一触即発といったところですが、もう少しだけお待ちください!主審:サイガー0氏によるルール説明がございますので!」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 今回の決闘に於いては、以下に記述するルールが適用される。

 

 ・主審:サイガー0の号令と同時に開始、制限時間は無制限でどちらかが敗北条件を満たすまで続く

 ・ポーションなど、HPを回復する目的でのアイテムの使用禁止

 ・降参する、または一度でもどちらかが死亡した時点で決着

 ・場外に出たら失格、反則負け

 ・勝者には、サイガー0がロンミンから預かったルルイアスでの戦利品が全て贈与される

 ・この決闘の結果には、いかなる文句も付けてはならない

 

 大して変わったルールは無い、あくまで『一度した約束はちゃんと守れ』というだけのルール。

 しかし、これを裁定したのがトッププレイヤーの一人であるサイガー0ともなれば話は変わる。彼女の定めたルールを破るということは即ち、彼女の顔に泥を塗るということ……多くのプレイヤーからの敵対を許容するということになるのだから。

 

 勿論だが、二人に横紙破りをする気持ちなど微塵たりとも存在しない。どちらかと言えば、ヘルパーT細胞のファン達が暴走するのを防ぐために定められたルールである。

 

「ルールを遵守し、正々堂々とした戦いをお願いします……それでは、始め!」

 

「──八連結……『飽くなき旅路(グーゴルプレックス)』!」

「逃がさないよ、【マジックエッジ】!」

 

 サイガー0の合図と同時に、ロンミンは目一杯後退しつつ盾を構え、八連結同調「飽くなき旅路(グーゴルプレックス)」を発動する。そしてそれを追うように、ヘルパーT細胞も【マジックエッジ】を道を塞ぐように連射して行く手を阻んだ。

 ロンミンの発動したスキル「飽くなき旅路(グーゴルプレックス)」は、発動と同時に残りHPの99%を削り、『削れた実数値÷1000』%のバフを戦闘終了まで30秒毎に重ね続けるという効果。

 

 魔法を使えず、ポーション無しでは回復手段に乏しいロンミンは、『癒しの麗光(ムーンヒール)』を連打するためにも最初は逃げ回らなければならなかった。

 しかし、連射されるマジックエッジの数があまりにも多過ぎる上に逃走ルートを先読みして塞ぐように放たれるせいで、足を止めて盾に頼らざるを得ない状況にされてしまっている。

 

「チィ……流石にこれは多いな」

「逃がしはしない……しっかりと戦って貰おうじゃないの!ヨハンナ!」

『ええ……【天霊祈祷(シニタモウコトナカレ)】』

「そして私も……【影狼の集い(シャドウガーデン)】!」

 

 いきなり逃げの一手、というとは即ちそうしなければならない事情があるということ。それを分かっているヘルパーT細胞は、逃げを封じるべく複数の魔法を一度に行使する。

 薙刀に取り憑いた精霊……元"禍刃剥命(エンプレスキラー)"の『ヨハンナ』。そして、刻傷に侵された左手でも問題無く装備可能な、影リュカオーン素材を用いて造られた魔導書【影狼の黒印】による二つの魔法。超高効率のリジェネと、影より生み出されしオオカミの大群でより強い攻勢を仕掛けていく。

 

「ハァ!?何だそれ……」

「カッコいいでしょ!勿論見た目だけじゃないよ!」

「チィ、迎撃……ヘルT優先!」

 

「「撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)!」」

 

 ロンミンのアステヴァルと、ヘルパーT細胞の清命がぶつかり合い火花を散らす。

 同じスキル、同じタイミング……しかし、現状では火力に勝るのは後者の方。力負けし吹っ飛んだロンミンに影狼の群れが隊列を成して襲い来る。

 

 槍では相性が良くない。範囲攻撃が可能な【煌月杖ララ=ルーナ】に武器を変更し、煌月サイドの月光刃で迎え討つ。

 影狼達はその名の通り影の産物、闇を祓う光そのものであるララ=ルーナの刃は天敵。向かう側から一匹、また一匹と、バッサバッサと薙ぎ倒されていく……が。例え倒され影に戻ったところで、少しのクールタイムが開ければ影狼は再召喚され、再び隊列を成して襲い来る。

 

 ヘルパーT細胞的には、影狼がロンミンにダメージを与えられるかどうかは割とどうでも良い。大事なのは手数で動きを制限して、どうしても動けなくなってしまう隙を作り出すこと。影狼達はあくまで隙を作るための囮でしかないのだ。

 急ぐ理由もある。ロンミンが初手で使ったスキルと同じエフェクトが、既に何度か発動している……即ち効果が継続して強くなり続けるバフを掛けてあるということ。今は火力特化型の自分の方が強いが時間が経つ程その強みは失われていく、だからその前に何としてでも決着を付けなければならないと、優勢ながらも少なくない焦りがあった。

 

「その盾、邪魔だなあ……排除させて貰うよ!」

 

 影狼を解除し、別の魔法へ変換する。伸ばした影で対象を拘束する【黒影の束縛(レストリクション)】、縛る影が盾を持つロンミンの右腕を拘束し、一瞬動きを止める……すぐに振り払われてしまうがその一瞬で十分と、間髪入れずに次のスキルを発動した。

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)──「戦砕琥示(ウォールフェン)」!」

「っぐう……盾が!」

 

 打撃の威力が小さい程ノックバックが大きくなるスキル「戦砕琥示」で盾を弾き飛ばし、ロンミンのガラ空きとなった懐に「曙光差す切先(スピア・オブ・ドーン)」を撃ち込んだ。熱を帯びて真紅に染まる刃が迫る。

 そのままなら直撃コース……しかし勿論、ロンミンも素直に受けてやる訳が無い。刃が触れた瞬間に「相対的立体運動(ソリッド・マニューバー)」で攻撃を回避し、すかさず「鞍馬天秘伝」で跳び弾き飛ばされた盾を回収。体勢を立て直す……と思わせてこのまま反撃に出る。

 

「散々好き勝手やってくれやがったなぁ……お返しだ、ありがたく受け取りな!」

 

 手に取った【怨蛇の大盾】が熱を帯び、青白く発光する。ヘルパーT細胞はこれはマズいことが起きるとすぐに理解し、影狼をけしかけてその行動を潰そうとする……が、もう遅い。ロンミンはこのスキルのモーションに入った時点で、既に無敵状態になっているからだ。

 轟襲鷲獅子(ジェット・グリフォン)順風満帆(フリーダムフォール)"を撃破して修得した、不世出の奥義「盾風幡叛(フリーダムフォール)」。その効果はこれまでに受けた盾のダメージを破壊力に変換し、高火力のカウンターとなった盾を投げ付けるというもの。

 

 ヘルパーT細胞の攻撃が高火力だったおかげで、受けに回っていた時間は短いがそれでも十分な威力と速度を得られた。これを「曇りなき眼(ルナティック・アイ)」による補正視覚で、狂い無く調整したコントロールを以て思いっきり投げ放つ。

 追撃のために近付いたばかりに、ヘルパーT細胞は自ら放たれた盾に当たりに行くというような状況になってしまった。これでは回避スキルも間に合わない……それならいっそ、と避けも守りもせずにこれを受け入れる。

 

「あーっとお、直撃だぁ!?」

「あの子、耐久は紙以下だから……流石にあんなの食らっちゃひとたまりもないわね……」

「……いや、まだ終わってないみたいだぜ」

 

 盾を受けたまま地面と激突し、ヘルパーT細胞は大きな土煙を立ち上げる。彼女を応援していた客席から敗北を過らせる悲鳴が響くが、その煙が晴れてから出てきたヘルパーT細胞は、何処にもダメージを感じさせない無傷であった。

 審判:サイガー0のコールは無い。つまり何らかの効果による復活ではなく、あの攻撃をしっかりと凌ぎ生き延びたということ。手に握った盾を忌々しそうに観客席の方へ投げ捨て、滞空状態から着地したロンミンと向かい合う。

 

「やってくれたね、死ぬかと思ったよ!」

「そうすりゃ良かったじゃないか。さぁ第二ラウンドといこうか!」

 

 ロンミンは武器を【覇憧傑刀『擊竜』】に変え、ヘルパーT細胞は頭装備に重ね着をしてアバターの頭部を蒼炎に包む。お互いにまだ見せていない新たな武器での第二ラウンドだ。

 

「……何それ?」

「『彷徨う大疫青』の撃破報酬だよ。ちょうど昨日復活したから皆でリスキルしたんだ」

「ハア!?マジか、良いなぁ……」

「ロンミンが手に入れた大群青の報酬も、私が貰ってってあげるよ!大人しくやられなさい!」

「ぬかせ、やられるのはお前だ!」

 

 戦いはまだまだ始まったばかり。

 決着の時は、まだ遠い。




Q:ヘルパーT細胞の紙耐久でどうやって生き延びたんです?
A:バフを重ねてSTRを上げて受け止めた サイガー0はスキルのエフェクトをしっかりと視認していたのでコールせず試合を続行させました

煌紅月装(ルーベルメン)】シリーズ
 ヘルパーT細胞の着けている一式装備。ロンミンの【月天霊装(プルーク・ラ・ルナ)】とは、使用素材が"皇金世代(ゴールデンエイジ)"のものか"赫下檄発(クリムゾン)"のものかという違い。
 月天霊装と同様に重ね着が可能だが、特殊効果の方に重きを置いているため、月天霊装と違ってVITが初期装備並みに低い。その分発動する効果は月天霊装以上に強力。
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