ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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80:深海の幸を賭けた戦いーその2

 この戦いの結末がどうなるか……その問いの答えは単純な二択となる。

 

『ロンミンが耐え切って勝つ』

 

『ヘルパーT細胞が押し切って勝つ』

 

 この二択である。

 

 二人を比べて、ロンミンが勝る点は全ステータスの圧倒的な高さと安定性、そして時間が経てば経つ程強くなっていく継戦能力だ。

 全場面に対応できるステータス。例外もあるが重いデメリットや厳しい条件も特に無く、いつでも気軽に扱いやすい装備やスキル群。デバフや状態異常にも強く、八千代本人の集中力と体力が続く限りはいつまでも戦えるのがロンミンの強みである。

 

 ──お前せっかちな上に身体脆いんだからそんな上手いこといかないだろって?その通りだよ!

 

 それに対してヘルパーT細胞は、火力と速度に全てを捧げた脳筋全開のステータス&スキル構成。耐久に関わるステータスは、キャラメイク時から一度もポイントを振っていない貫禄の初期値だ。

 しかし、その分物理にも魔法にも優れた火力を持ち多くの手数を稼げ、豊富な回復手段で数値以上の耐久力も実際持っている。低耐久を逆手に取りスキルのデメリットも実質無効、それを助長する装備の存在も手伝って、ひたすらに火力を擦り続けられるのがヘルパーT細胞の強みである。

 

 ──最近、ステータスが尖り過ぎてそろそろ制御が怪しくなってきてるんだよね……!

 

「いい加減、死んでくれて構わないんだけどな!」

「何だぁ、弱音を吐くには早いんじゃねえか!?」

 

 ヘルパーT細胞が攻め、ロンミンが守る。『彷徨う大疫青』の撃破報酬たる頭装備【燃ゆる貌(シィンダー・ヘッド)】でデバフを掛けつつ、影狼との連携で削っていくも要所要所で凌がれて致命打には至らない。

 このロンミンの守勢を支えているのは、不世出の奥義「月下美人(コードムーン)」の能力の一つ『癒しの麗光(ムーンヒール)』だ。HPを回復するだけでなく、デバフの削除や失った部位の再生も可能なこのスキルのおかげで、隙を作ることもゴリ押しで決め打つことも許さない。大技はスキルで相殺ないし逸らすことは可能だし、盾を失ったとはいえ、これを火力で超えるのは至難であろう。

 

 ──うーん、自爆覚悟になるけど……やるっきゃないよね!

 

 このままいけばロンミンが勝つ、それは戦っている両者は勿論観客達も良く分かっている。

 ヘルパーT細胞は選択する。自滅のリスクはできてしまうが……勝利のためにも、そんな小さなものを躊躇ってはいられない。どうせこのまま凌がれ続ければ負け一直線なのだからと、燃ゆる貌を外して装備を変更、更に別のアイテムを起動した。

 

「青の次は赤か。随分とカラフルだな」

「私が倒したレイドモンスターは、彷徨う大疫青だけじゃないんだよ──『人臓恒星赤晶(たいようにほえる)』!」

 

 レイドモンスター『焠がる大赤翅』討伐報酬の一つ、装備することで二度とスロットから外せなくなるアクセサリー『人臓恒星赤晶(たいようにほえる)』。

 喚起(きどう)することでHP・MP・STMが2倍になる上に、スキルと魔法のリキャストタイムが0.8倍に短くなる。その代償として喚起後は確実なる死が約束されており、リスポーン後喚起時間1分につき10分の超弱体化状態を強制される。

 

 最大起動時間は60分……まさに諸刃の剣。

 

 更に、装備も変更だ。

 武器は【兎花『清命』】から【封竜儀礼剣(シーゲル・リートゥス)】へ、防具は【狩竜装(ストーカー)】一式を重ね着。魔法を強く使うための『賢者』から、より物理と魔法の両立に特化した『神秘の剣(レーツェル)』へとジョブチェンジを果たした。

 

「あれは儀礼剣(リートゥス)!ヘルパーT細胞選手、ここでジョブを切り替えてきた!」

「いつの間にあんなの手に入れてたのかしら……私もアレは初めて見たわ」

「よくもまぁ、あんな色々と使えるよな……」

「それ、あなたが言う?」

 

 ──1時間以内……いや、もっと早く決める!

 

「身銭を払い切る覚悟で行かせてもらうよ!」

「面白い……こいよ、全部凌ぎ切ってやる!」

「させないよ……【加算詠唱(アッド・スペル)】!」

 

 神秘の剣(レーツェル)は、専用装備である儀礼剣(リートゥス)に魔法を保存しそれを戦闘で解放することで戦うジョブ。同等の存在である『剣聖』と比べて不人気だが、その力は勝るとも劣らないものがある。

 最大の利点は、手札の多様性と前衛後衛の立ち回りを同時に行えることによる隙の少なさ。スクロールのように剣に魔法を収めているため、名を呼ぶだけで詠唱要らずで魔法を扱え、収められるその数も実質的に制限がない上に種類も豊富。あらゆる手段を実行可能な万能性が神秘の剣(レーツェル)の強みなのだ。

 

 儀礼剣の魔法は使い捨て、バフも乗らないので最大火力はそれなりという欠点こそあるが……ヘルパーT細胞は、己自身の火力全特化なステータスでその欠点をカバーできる。

 ヘルパーT細胞の普段使いは、火力・射程・コスパの三拍子が揃った【マジックエッジ】や各種バフと回復くらいだが……神秘の剣(レーツェル)の今は、数多くの魔法を捨て駒として大量に使い潰す戦法を取る。

 

出力加算(アッドブースト)、【雷鐘】!」

「相変わらず数が多い……けど、あの頃とは違って今なら対応できる!」

「だろうね、でもこれはどう?【暴虐の雷獣(バイオレンス・サンダー)】!」

「うおお!?でも、受け止められ……ッ!?」

 

 "彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"撃破によって修得した【雷鐘】、無数の雷が封竜儀礼剣(シーゲル・リートゥス)によってホーミング性能を付与されてロンミンに迫る。しかしロンミンはこれを避ける避ける、封翔の撃鉄(ソニックトリガー)で強化された速度で雷さえ置き去りにしてその身を貫くことを許さない。

 雷鐘では足りない、それを確認したヘルパーT細胞はすぐさま次の一手を打ち出した。破壊力と攻撃範囲では最高クラスの魔法【暴虐の雷獣(バイオレンス・サンダー)】、他の雷魔法……雷鐘を吸収して更に威力と範囲を増した一撃で面制圧を試みる。

 

 あまりの広範囲攻撃に、これを避けるのは無理だと判断したロンミンはスキルで受ける方向で対応することを決めた。

 刀系防御スキル、「秘剣『桜花ノ構エ』」で受け流しつつ反撃態勢を取る……つもりであったが。その目論見は、雷魔法の強い光でできた影に身を潜めていた影狼によって阻止されてしまう。ヘルパーT細胞に意識を割いていたせいで、こちらの動きを見落としてしまっていた。

 

「くそ、しくった……!」

「やった……訳無いよね、追撃!」

 

 影狼がロンミンの刀を持つ左腕を乱し、スキルを不発させたことで【暴虐の雷獣】が直撃。作戦の成功に喜ぶも、サイガー0のコールが無いことからまだ殺せていないことを理解し追撃に出る。あまり近付きたくはないのだが仕方無いと割り切って。

 影狼の集い(シャドウガーデン)で召喚した影狼は、数を絞る程一匹の質が良くなる代わりに撃破された際の再召喚までの時間が長くなるという欠点がある。ロンミン相手に近接役を任せるために、質を高めて召喚したことで目論見通りの働きをしてくれたのは良いが、魔法の巻き添えにしてしまったせいで次また出せるようになるまでには長い時間を要する。なので暫くの間はリスクを負って自ら特攻せねばならないのだ。

 

 ──『愚者(フール)神秘(アルカナム)のデメリットがあるから、本当はあんまり近づきたくないんだけど……せっかくのチャンス、ここで畳み掛けないと終わらない!

 

 勝負を決めるべく、ヘルパーT細胞は惜しみなく不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)を三つ同時に発動する。

 

 ソロでの戦闘時、STR・DEXを3倍にしてスタミナ消費減少と毒属性を付与する「独身貴族(ロンリービート)

 

 武器に竜巻を纏わせる「偉風導動(リーガルック)

 

 そして、自身を赤熱化させてSTR・AGIを大きく上げ、更に触れたものを融解・爆破する追加効果を得る「活火激発(クリムゾン)

 

 荒れ狂う業火が渦を巻いて、舞い散る土煙ごとその中のロンミンを貫かんと放たれる。

 ロンミンの莫大なHPと高い耐久力も、当たれば確実に削り切れるだろう一撃だが……それを簡単に受けてくれる程、ロンミンがヤワな相手ではないことは知っての通り。どう対応してくるかを見定めて次に繋げなければならない、しかしロンミンの取った行動は、ヘルパーT細胞の反応速度を軽く上回る恐るべきものであった。

 

「あれは……間違い無い、「臨界速(ブラディオン)」だ!」

「それは、サンラク氏が『最大速度(スピードホルダー)』となった時のスキルでは……!?」

 

 ──どこかで必ず使わなきゃいけないとは言え、やっぱり制御キツいぞコレ!

 

 夜駆ける幻狼の魔眼(ヴォルファント・ヴィル)を以てしても尚、制御に苦労する炎の竜巻を消し飛ばす程の超速度。だがこれで終わりではない、「臨界速(ブラディオン)」による加速は5歩まで続く……そして、一歩を踏み出す毎に更にスピードは加速を重ねていくのだ。

 流石にこれを毎歩コントロールするのは厳しいと判断したロンミンは、最も加速する5歩目に焦点を合わせ上へ上へと移動する。その間に武器をララ=ルーナに切り替え、六連結「別天津の震烈鎚衝(メテオレイジ・インパクト)」の用意に入った。発動し武器を振り被ってからヒットまでの時間が長い程、威力と範囲が上がる打撃スキルである。

 

「ペシャンコにしてやるぜ、ヘルT!」

 

 このスキルに於けるダメージ増加は、『ヒット判定の増加』によるもの。単発の一撃ならリジェネで死ぬ前に回復できるヘルパーT細胞も、複数ヒットの前には成す術無い。

 一応、凌ぐために使えるものはある……がそのうちの一つである「相対的立体運動(ソリッド・マニューバー)」は先の攻防の中で既に使ってしまった。もう一つはあまりにもタイミングがシビア過ぎて、失敗した時点で敗北が確定してしまう博打となる。

 

「ロンミン選手の大技、これは避けられない!」

「サンラク、あなたならどう対処するの?」

「そうだな、俺なら……お、どうやらヘルT氏も同じことをするようだぜ」

 

 ──「永劫の眼(クロノスタキサイア)」、「降魔の眼(デモノタキサイア)」……タイミングを合わせて……!

 

「……こ、こ!」

「ハァ!?」

 

【規定速度観測、条件達成】

 

【称号『最大速度(スピードホルダー)』を獲得しました】

 

「新たな最速の誕生!しかしヘルパーT細胞選手これを凌いで見せた!いったいどうやったんだ!?」

「まぁこうなるか……元のステータスがあの頃の俺とは大分違うしな」

 

 かつてのサンラクが出した速度を追い越し、最速の称号がロンミンへ移った。しかし、そんな目出度い一撃も躱されたのでは意味が無い。

 いったい、ヘルパーT細胞はどうやって今の攻撃を回避したのだろうか。観客にも視覚を強化するスキルを使っていたことは分かるが、それでどうして避けられたのかというのが分からない。当然だが予想が当たったという顔で今の流れを見ていたサンラクに話が振られる。

 

「今、ヘルT氏が使ったのは「光界速(ルクシオン)」っていうスキルだ」

「ルクシオン?」

「ああ……連結スキルの一つで、直線の加速力なら「臨界速(ブラディオン)」以上なんだが、その性質上このスキルで最大速度(スピードホルダー)を取ることはできない。何故ならこのスキル、厳密に言えば加速じゃなくてコマ送り的な瞬間移動を繰り返すスキルだからだ」

「瞬間移動!?」

 

 ヘルパーT細胞が使ったのは「光界速」、加速スキルの最高峰に位置する連結スキルである。

 このスキルの特徴は、単純にAGIを上げた訳ではなく短距離間の瞬間移動をコマ送りのように繰り返すことで、結果的に傍目には『早く移動しているように見える』ということ。

 

 瞬間移動をする時、次の位置に移動するまでのその一瞬はアバターは世界から消失する。当然いないものに攻撃が当たるはずも無い、ヘルパーT細胞はこの仕様を利用してピンチを乗り切ったのだ。

 当然だが、成功は賭けに勝った結果である。ドンピシャのタイミングを引けなければ、失敗して直撃を受けるか、ロンミンの中に埋まってそのまま生き埋めになる可能性もあり得たのだ。中々酷い博打であったが、その見返りはあまりに大きい。

 

「立場逆転だね、これで終わりにしようじゃん!」

「抜かせ、そんな簡単に終わるかよ!」

「いーや、これで終わらせるね!竜魂解禁──【ストーカー】!」

竜滅装備(バスターアームド)だったのかよソレ!」

 

 竜魂解禁で竜滅装備(バスターアームド)の本領を引き出し、ロンミンの放った「滅魔の六槍(スピア・オブ・ヘキサゴン)」を迎撃する。ヒット判定を6倍化されて投げられたアステヴァルを、側面にマジックエッジを当てて逸らし外させたのだ。

 真なる竜種『忍び潜む狩人(ストーカー)』を撃破して得たその力は、攻撃へのホーミング性能の付与と側面・背面への攻撃ダメージ増加。そして竜魂解禁によって初めて解放される、対象の死角からの攻撃発生効果。四方八方、どこからでも放たれる魔法が自由自在にロンミンを襲う。

 

 魔眼の力を以てしても、発生するまではどこから来るのか分からない魔法やスキルを全て対応し切るというのは無理がある。『威代の匠光(ムーンスミス)』でも回復が間に合わなくなる程耐久値を消耗するのが、この状態の欠点であるが。決め切るべき時にリソースをケチって仕留めきれませんでしたでは、そんなのは笑い話にもならない。ここで壊してしまっても構わない位の心持ちで、ヘルパーT細胞は封竜儀礼剣(シーゲル・リートゥス)を振るっていく。

 

 炎の竜巻【螺旋極炎(ヘルズフレア・ストーム)

 

 超高圧水鉄砲【豪流地烈槍(ハイドロバンガード)

 

 暴虐の雷獣(バイオレンス・サンダー)と対を成す【深獄の雷槍(ヴォルグ・ジゴヴォルト)

 

 降り注ぐ魔力の雨【マギ・スタンピード】

 

 高ランクの魔法を惜しみなく使い、自身の物理攻撃も併せてロンミンを追い詰めていく……が。

 

「ロンミン選手、受ける、受ける!猛攻に晒されながらも致命傷だけは絶対に食らわない!」

「どうやら、ヘルT氏の竜滅装備の効果は『相手の視覚外から攻撃を発生させられる』というものみたいだな。オマケも大分強いが……攻撃は常に死角から来ると分かっているなら、あんな大立ち回りも不可能じゃないんだろう。にしたって、アレは俺も生きて凌げるか分からんレベルだぞ……」

「ロンミンはアクセサリーの効果で視野が通常よりかなり広くなってるから、余計に予測を立てやすいというのもあるのでしょうね」

 

 ──マズい、このままだと勝負を決める前に時間切れになっちゃう!

 

 最初はともかくとして。一つ、また一つと魔法を放つ度にロンミンの対応の精度が上がり、今では当てることさえ難しくなってしまっている。

 理由は解説二人が話した通りであるが、それに加えて身内故の人読みや「飽くなき旅路(グーゴルプレックス)」の効果が有効性を増してきているというのもある。時間が経てば経つ程強くなるロンミンというキャラクターの特性が、戦闘時間の経過によって真価を発揮し始めているのだ。

 

「どうした、顔が青いぜヘルT?」

「うるさい!さっさとやられちゃいなさ……ッ!」

 

 撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)を放つ直前、ヘルパーT細胞は脳裏に過った直感に従い発動を止めて一歩退がる。

 その予感は当たっていた。もしもそのままスキルを放っていたならば、彼女はロンミンの反撃……六連結「巨人の大逆襲(アトラス・カウンター)」の直撃を受けて、アバターを粉砕されてしまっていたことだろう。紙耐久ビルドを愛用してきたが故の死への敏感さが、寸でのところで命を拾わせたのだ。

 

「避けられたか、まぁ良いさ……時間稼ぎはこれで十分だ。竜魂解禁──【パーフェクト】」

「そっちも竜滅装備(バスターアームド)だったんだね……!」

「さぁ、ここからは私の時間だ!」

 

 覇憧傑刀『擊竜』、擊竜蜂装(ポイゾレータ)に宿る完璧たる竜の力を呼び覚ましロンミンは反撃に出る。ここまで防戦一方であったが、遂に攻撃する側とそれに対応する側、その立場が入れ替わるのだ。

 戦いはこれにて終盤戦へ移行する……決着の時はもうそう遠くない。




 ストーカーは、『追われる側から見た狩人への恐怖』を基とする真なる竜種の一体。
 別天津の隕鉄鏡を使用しているプレイヤーに対し低確率で襲撃を仕掛けて来る。使用時間が長くなる程襲撃確率が上がる。
 色々と厄介な性質を持つが、『常に相手の背後を取ろうとする』思考ルーチンを見抜ければソロでもそこまで苦戦する相手ではない。
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