ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「さぁ、反撃の時間だぜヘルT!」
「ッ……!【マジックエッジ】!」
覇憧傑刀『擊竜』・擊竜蜂装の力は、どちらも『相手に適応し与ダメを増やし、被ダメを減らす』というものである。
適応を進めるには、受けた・与えたダメージの量だったり経過時間だったりと条件は色々とあるが。ロンミンはその条件を既に最大効果を発揮できる程度には満たしていた。火力自慢のヘルパーT細胞が放つマジックエッジを、素手で掴んだ上で握り潰してしまえる程に適応は進んでいる。
「ウソ……ここまで……!?」
「ロンミン選手、マジックエッジを握り潰した!バフの重なりが大変なことになってるぞ!」
「アレもう無理じゃね?」
「まだ切れる札はある、その筈よ」
「もうお前の技は、私には通じないぞ」
「……ッ!そんなの、やってみなくちゃ分からないでしょ!」
ニヤリと笑いながら言うロンミンに、ヘルパーT細胞はムキになって一発きりのカードを切る。不世出の奥義「
「『
「ふんだ!そんなことはないって、証明して見せようじゃないの!」
ロンミンの言う通り、良いタイミングではあれど最適なタイミングではない。
何せここまで押せ押せでやってきたヘルパーT細胞は、攻撃スキルこそリキャスト待ちのものが多いものの。防御スキルや機動スキルなどは使う機会をほぼ作らなかったことで、一部を除いてここまで温存できているからだ。切札を切り月華爛漫状態になるとするのなら、それらまで使い切ってからの方がより効果的であった。
──でも、反省は後!
確かに、と納得してしまった思考を切り替えてヘルパーT細胞は勝ち筋を追う作業に戻る。
ステータスの差はかなりどうしようもない程に開いてしまったが、それは完全に勝率が0となったということではない。月華爛漫状態となったことである程度は埋めるか再び追い越せているだろうし、まだ勝ちの目は潰えていない。ならば諦めず勝利を目指して戦うのみ。
「攻守の立場が逆転!今度はロンミン選手が攻め、ヘルパーT細胞選手が凌ぐ!お互いに一歩も譲らぬ凄惨な殺し合いが繰り広げられています!」
──うぅ……何を撃ってもすぐ潰される!逃げるしかできることが無い!
だが、あまりにもロンミンの防御力が高過ぎて偶に反撃の隙を見つけてもダメージになるどころかマトモにヒットさえしてくれない。生半可な魔法では最早影響を与えることさえ叶わない。
リキャストタイムが明けて復活した影狼を従えて多勢に無勢を狙うも、影狼達はロンミンが腕を一振りするだけで散っていく。自慢の魔法が時間稼ぎにすらならない現状に、ヘルパーT細胞は奥歯をグッと噛み締め悔しがるしかできなかった。
「【
「オオオォォーン!!」
「影狼を束ねて一つにしたか、でもこの程度……」
「いーや、まだまだ!【
影狼を一つに束ねて数よりも質を追求、そこに自身のバフ・デバフの状況を共有する魔法【共に震わす勇気】を重ね更に強化する。
そしてもう一つ。
「グルルル……!!」
『私もまた、戦いましょう……』
「三対一でお相手しようじゃないの!」
「面白い、掛かって来な!」
ヘルパーT細胞、ヨハンナ、影狼による3人掛かりでロンミンを相手取る。影狼の性能は一纏めにしたこととバフの効果も併せてかなりのもの、ヨハンナも元が"禍刃剥命"だけあって、その戦闘能力はかなり高い。こちらもまた【
影狼とヨハンナが左右から気を散らし、ヘルパーT細胞が正面から仕掛けていく。守りに入ればその時点で負けたようなもの、攻勢を奪い返し最後まで攻めの姿勢を崩さない。残り十数分の命を燃やし尽くして勝利をもぎ取りにいく。
「左右は精霊と影狼が、背後は儀礼剣の魔法が、そして正面は自分自身が囲むことでロンミン氏の逃げ場を無くすか。唯一頭上は空いているけど、跳んで逃げようとすれば隙だらけだし、寧ろ狙い撃ちにできるからこれが包囲網の完成系だな」
「これだけやっても、延命のための時間稼ぎにしかならないところが辛いわね」
「『
「そうかしら、ロンミン位の高ステータスじゃないとそこまで強くないんじゃない?」
解説の二人の言葉通り、数の優位を取って攻め続けてもロンミンの命には届かない。あくまでこれは今すぐに殺されないようにするための、延命行為でしかないのだ。勿論ヘルパーT細胞にそんなつもりは毛頭無いが、結果としてそうなっている。
このままでは、ロンミンを倒し切る前に『人臓恒星結晶』のリミットを迎えてしまう。残り時間は既に10分を切っているだろう、かなり絶望的な状況だが希望はまだ潰えていない。
全部だ。バフも攻撃スキルも魔法も使えるものを同時に使って、一撃の火力に全てを賭ける。これでダメならもう何をやっても無駄だと諦められる位の一撃をぶちかませ。
STRとAGIを上げられるだけ上げ、不世出の奥義も出せる分を全部載せして
だが、それを実際に放つには相応の時間と隙を要する。大量のスキルと魔法を重ねなければならないためどうしても時短に限りがあるからだ。
そして、そんな悩みをシャンフロの優秀なAIはしっかりと察知し、ヘルパーT細胞の助けとなるよう行動を起こす。ロンミンの側面から正面へ、彼女からヘルパーT細胞を守る壁となるように移動。スキルを重ねるための時間を捨て石となって稼ぐ。
『あの子には……触れさせないわ……』
「グルル……!!」
「チィ、邪魔だなコイツら……!」
あくまで時間稼ぎに徹される、それだけで中々付け入る隙を見出せずやり難くなる。
ヨハンナは"禍刃剥命"時代から使う多種多様なデバフを与えて『
──邪魔なコイツらを片付けるには……
ロンミンは少しの間思考し、結論を付けると早速行動に移る。武器を擊竜からララ=ルーナに変更し『
月光を固めた浄化の刃は影狼の天敵、また攻撃範囲の広い鎌の一撃で確実に二体を攻撃するつもりなのだろうが、その思惑を察知した二体のAIは即座に後退を選択し鎌の範囲から飛び退いた。これで反撃は不発に終わる──と、判断するにはまだ早い。
「判断が甘いぜ、賢しらAI!」
「
ララ=ルーナは、神代の技術を以て生み出された
それが、超過機構……ララ=ルーナのそれである『超排撃』は、その名が示す通り武器の耐久値を大幅に消耗して強力な一撃を撃ち出すもの。威力も範囲も通常攻撃とは段違いすぎるが故に、一機構でありながら与えられたその二つ名は──
「『
少し離れた程度では、この刃を避けることなどできやしない。ヨハンナは防御魔法を展開し、影狼は地面の影に潜むことで難を逃れようとするが、朧晴斬月は元よりあらゆる防御手段を透過して避けられない限り必ず対象に当たる。そして、影狼の動きを見越してロンミンは地面を抉り掘るように攻撃を繰り出していた。月光刃が二体に直撃する。
闇を祓う光の刃が、ヨハンナと影狼を斬り飛ばし消滅させる。置き土産としてロンミンへのデバフを遺し、活動の限界を迎えた二体はヘルパーT細胞の元へと還っていった。それとほぼ同時に彼女の準備も終わり、最期の一撃を放つ態勢を取る。
「これが私の、最大火力──『
七種類のスキル・魔法を同時に発動し、武器に纏わせて必殺の突きを放つ、ヘルパーT細胞の現時点での最高威力の必殺技。
超威力の突き「
貫通と爆裂「
彼岸より降り注ぐ雷【雷鐘】
炎が描きし大渦【
竜の脅威の再現【
身に纏いし竜巻「
活火山の具現「
都合7種類、これらが「
だが、ロンミンの方にも避けて終わらせるなどというつまらない幕引きにするつもりは無い。朧晴斬月の余波で吹き飛び手元に戻ってきたアステヴァルを再び手に取り、ヘルパーT細胞の最期の一撃を迎え討つ用意を整えていく。
「其はあり得ざる槍、万象積み編みて紡がれし非実在の輝き──
アステヴァルの必殺技で、ヨハンナに掛けられたデバフを解除しつつ「
壊れたアステヴァルの代わりに、武器は蛇槍『金剛牙』を取り出す。金剛牙で繰り出すのは連結スキルでありながら、通常スキルと同等にリキャストタイムが短い「
「いざ、突撃──ッ!」
「さぁ来い、受けて立つ!」
ヘルパーT細胞が突撃するのと、ロンミンが金剛牙を投げたのは全く同じタイミングであった。点と点の二つの攻撃、お互いにすれ違うということも無くぶつかり合って火花を散らす。
拮抗する時間は短かった。ヘルパーT細胞の決死の一撃が金剛牙を打ち破り、その切先をロンミンの首へと届けていく。コロシアム全体を揺らすような大爆発が起き、近くで見ていた観客がその余波を受けて吹き飛ぶ。何人かはHPを全損させられそのまま死亡した。残念ながら彼らがこの戦いの結末を見ることはもうできないだろう。
「凄まじい爆発、果たしてどうなったか……!」
「レイさんのコールは無いが……」
飛び散る粉塵が収まり、内部の様子が再び分かるようになるまでを残った観客や実況席の三人、そして主審:サイガー0は固唾を飲んで見守る。そして煙が晴れた時、彼らが見たのは──
「ふぅ……凄まじい威力だったな」
──「
「……うん、こうなるって思ってたよ」
己の全身全霊を耐え凌がれ、しかしヘルパーT細胞は落胆するでもなく納得といった表情だ。
彼女は、「滅魔の六槍」とぶつかり合った時点でこうなることをもう察していた。ぶつかり合う判定が出るのが一回だけだったなら、まだロンミンを殺し切る火力を保てていたかもしれない。だが、「滅魔の六槍」による攻撃のヒット判定は6倍になる。1回だけならまだしもというところを6回も食らってしまったのでは、とてもロンミンを殺す火力なんて保てるはずもない。
ロンミンに当てることができただけでも、上出来と言って良い内容。それが今の技同士のぶつけ合いへのヘルパーT細胞の評価であった。
「ロンミン選手、耐えた!あの凄まじい威力の一発を見事に耐え切って見せました!」
「うへえ……アレを耐えるとか、いよいよこっちがモンスターみたいだな……」
「永続の、重なり続けるバフって恐ろしいのねえ」
「ふぅ……もう私からできることが無いや。ヨハンナも限界で戻っちゃったし、影狼も一纏めにしたせいで暫く出せないし……『
「何、どっちも必要無い。介錯くらいしてやるさ」
「へぇ、じゃあお願いしようかな?」
「任せな。「御神刀『
観念して地面に座り込んだヘルパーT細胞に、ロンミンから介錯の一撃が贈られる。
八連結「御神刀『高皇産霊太刀』」は、ヒットした敵の死という結果を齎すことで、戦闘を強制終了させるという効果を持つスキル。長きに渡る戦いに幕を下ろす結びの一太刀。
使用条件は二つ。①戦闘開始から『(相手のレベルー自分のレベル)×200』秒の経過。今回の場合はヘルパーT細胞のレベルが150、ロンミンが134なので『(150-134)×200=3200』、約54分の経過が必要となる。
②戦闘開始からスキル・魔法を合計100回以上使用している。連結スキルは連結中のスキル全てが式の対象となるので、連結スキルを使うと効率良くカウントを稼ぐことができる。
以上の条件を満たした上で、特に命中率などに補正の掛からない刃をヒットさせなければ効果が不発に終わる。その上外した際はペナルティとして、このスキルを使うまでに経過した戦闘時間と同じ秒数の間スキル・魔法が使えなくなる。
扱いの難しい代わりに、当たれば文字通り凡ゆる要素を無視して相手を殺して『勝ち確』にするハイリスクハイリターンなスキル。それが「御神刀『高皇産霊太刀』」というスキルであった。今回は事実上の降参であるため、避けられるということも無く無事に当てることができていた。
……もしも、ヘルパーT細胞がこのスキルの効果を知っていたら。潰えていた勝ち筋が幾らか復活することになっていたのだが。
彼女は仮に知っていたとして、自ら白旗を上げた後でそんな無粋な真似をすることは無いだろう。配信者として、人としてのプライドがそんな恥ずかしい真似をすることを許さないからだ。
「今回は私の負けだけど、次やる機会があったらその時は負けないからね」
「上等だよ。返り討ちにしてやるさ」
「それじゃあねロンミン、おめでとう」
「ああ、お疲れ様」
その言葉を最後に、ヘルパーT細胞のアバターが霧散し死亡。それを見届けたサイガー0によりロンミンの勝利が宣告され、深海の幸を賭けた戦いに幕が降ろされるのであった。
「決着、ロンミン選手の勝利です!黎桜ちゃんファンクラブ会員としては残念な結果ですが……とても良いものを見せてもらえました!今はその事実に敬意を表し、勝者を讃えましょう!」
ロンミンの勝利を祝う拍手が響く。ロンミンはそれを聴きながらゆっくりと、心の内に安堵と喜気を抱えて闘技場を後にした。
主役の居なくなった闘技場に、拍手と推しの敗北を悔しがる啜り泣きだけが長らく響いていた。
「