ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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82:頂を目指して

「ふぅ……疲れた」

「お疲れ様です、おめでとうございます。勝利報酬を受け取って下さい」

 

 いやぁ、終わった終わった。最後はステータスの暴力で押し潰すことができたけど、物凄い攻撃の嵐は本当に対処がキツかった。少しでも対応をミスればこっちがやられていたと考えると……本当に勝てて良かったよ、いやマジで。

 何はともあれ、これでルルイアスから獲ってきた戦利品は改めて私の懐に収まる訳だ。シュトーレンもちょうど来ているし、早速何かしら新しい装備を作ってもらうことにしよう。アモルパレントとか断命剣の修理も任せたいし、他にも色々と強化なり新造なりやって貰って……ふふ、どんな物が作られるのか今から楽しみだなぁ。

 

「いやぁ、負けた負けた。勝利おめでとう、ロンミン。次やる時は私が勝つからね」

「もう戻って来たのか。早速この素材達を使おうと思ってるんだけど、シュトーレン見てない?」

「いや、会ってはないけど……向こうも同じ考えだろうし、まだ近くに居るんじゃない?」

「それもそっか……あ、噂をすれば」

 

 リスポーンしてすぐに闘技場まで戻って来たヘルパーT細胞と話していると、ちょうど話題の人物であるシュトーレンが来るところであった。ついでにサンラクとあと何か知らん人達も一緒だ。

 

「お疲れ様。早速だけど深海の素材で装備を作るんでしょう?私に任せておきなさい」

「そのつもりだよ、よろしくね。これまでの装備の強化もできたらで良いからお願い」

「……あら、殆ど全部じゃない。数が数だから暫く掛かるけど大丈夫なの?」

「大丈夫じゃない?防具は月天霊装があるし、アステヴァルとララ=ルーナは残してるし。それに暫くこっちも仕事に集中しないといけないから、そこまでシャンフロにかまけられる訳でもないし」

 

 装備の殆どを預けたことで心配されるが、数日は仕事を空けた分の遅れを取り戻さないといけないからシャンフロに使える時間が減るし、そこまでの問題にはならないだろう。残した分だけでも性能的には十分過ぎる程強いしね。

 いや……別に、ゲームにかまけて仕事をサボってた訳じゃないからね?普段から何かあった時のための「余裕」をちゃんと作ってるから、締め切りに支障なんて出す訳無いから……さっきから、私は誰に対して言い訳をしているんだろう?

 

「決闘を見させて貰ったが……アンタもしかして、『(オミクロン)の真の女王』か?」

「ああ!なんか既視感があると思ってたんだ!」

「ッ……!そういうあなた達は『γ(ガンマ)のガンマン』に『φ(ファイ)の野人』!そしてサンラクは『μ(ミュー)ーsky』のサンラクだったんだね!」

「マジかよ……こんなところにまで、孤島の亡霊が潜んでいたのかよ……!」

 

 ──……よく分からんが、向こうは別ゲーの話題で盛り上がっているみたいだな。

 

 中々面白そうな会話が聞こえてくるが、どの名前も聞いたこと無いし私の知らない別のゲームの話なのだろう。ツッコミたい点は色々あるが楽しそうな会話に水を差すのはやめておこう。

 まぁ、それは置いておいて。もう寝ても良い位の時間ではあるけど、暫くシャンフロには忙しくなって触れなくなるし、もう一つくらい何かしらやっておきたいなと思っている。ちょっと遠いけど挑みに行ってみようかな?『気宇蒼大の天聖地』に出現するという真なる竜種に。

 

 ──輝槍仮説(ブリューナク)……アステヴァルの真の姿がどんなものになるのかも気になるしね。

 

「ねぇシュトーレン、気宇蒼大の天聖地って何処から行けば良いんだっけ?」

「はい、地図よ。前に言った奴に挑むのね」

「うん。寝る前にもう一回やっときたいし、後回しにして先越されるのも嫌だからね……うわマジか、サードレマまで戻らないといけないのかよ。めちゃくちゃ遠いじゃん」

「……裏技、あるわよ」

 

 ──裏技?

 

 聞くと、どうやらシャンフロに於ける戦闘エリアは各街から行くだけではなく、隣接するエリアから侵入することも一応可能なのだという。

 ただ、これはあくまでシーケンスブレイクなので当然簡単にはされないよう対策されている。具体的にはエリアの境目にはエリアボス……それこそ『ユザーパー・ドラゴン』のような最終盤のボスより強力なモンスターが待ち構えているらしい。

 

 それだけでなく、戦闘エリアは進行ルートから逸れる程モンスターも強くなりやすいし、マップも無いので迷いやすい。直接は関係無いけど不意の隠しエリアやユニークとの遭遇で、本来の目的を忘れて寄り道に時間を費やしてしまうこともザラだ。

 だいたいこういった理由から、エリアを跨ぐような移動はお勧めされることはない。確実に行きたいのならサードレマまで戻り、『神代の鐡遺跡』→シクセンベルト→『雲上流編の雲海地』→テンバート→『気宇蒼大の天聖地』と進むべきだとのこと。

 

「うーん、速さを取るか、確実性を取るか……」

 

 追憶結晶を決闘の準備で使い切ってしまっているせいで、こんなところで悩まなければならなくなってしまった。補充は一個につき24時間だからまだ新しいのは貰えない、あったら悩まずサードレマに戻る選択肢を取れたんだけどなぁ……

 

「……攻略に行くなら、お手伝いしますよ?ロンミンが良ければですけど」

「お、レイ手伝ってくれんの?ありがたいや、それなら……」

「おっと話は横からだが聞かせて貰ったぜ、ロンミン氏!真なる竜種を倒しに行くってんのなら俺にも一枚噛ませてくれ、アラドヴァルの強化に竜殺しが必要なんだ」

「サンラクも?オーケイ、これで三人か」

 

 アラドヴァル……そう言えば、サンラクも"皇金世代"戦でブリューナクを使ってたね。

 同じカテゴリ、違う仮説……竜殺しを成せばどちらも仮説を実証することになるけど、『これこそが真のブリューナクだ!』みたいな争いにならないことを今から祈っておこう。プレイヤーとゴタゴタするのはもうたくさんだ。

 

 ──さて、他に参加したい奴は居るかな?

 

 確認してみたが、ヘルパーT細胞は決闘で使ったアクセサリーの副作用で超弱体化しているので流石に足手纏いになるからと不参加。

 シュトーレンは装備作成に取り掛かるので不参加、サンラクと一緒に居た人達はいつの間にか居なくなってたし、黎桜が来ないならそのリスナー達も当然来ない。結局三人だけで向かうことになる。

 

「あ、しまった!そう言えばアラドヴァルまだ預けっぱなしじゃねえか!取ってこねえと……すんませんロンミン氏!アラドヴァル取りに行ってくるんでちょっとだけ待ってて貰えますか!?」

「行ってらっしゃい。こっちもその間に準備は済ませておくから。レイも何か準備する物があるなら今の内にやっときなよ」

「私は大丈夫ですよ」

 

 サンラクがアラドヴァルを回収しに行っている間に、私も準備を済ませておく。

 と言っても、やることはアイテムの補充と連結してたスキルの解除くらいだけど。どれもすぐに終わるし、サンラクが戻って来るよりもこっちの方が断然早く……お、帰って来た。

 

「すんません、遅くなりました!」

「おかえなさい」

「おかえり。それじゃあ行こうか」

「待ってください、ロンミンの武器って決闘で壊れてましたよね……?甦機装(リ・レガシーウェポン)はロストせず残るとは言え大丈夫なんですか?」

 

 ──あぁ、それもやらなきゃだったか。

 

「大丈夫だよ……ほら、この通り」

「元に戻った……自己修復機能があるのか」

 

 サイガー0の言う通り、決闘で壊したままだったアステヴァルとララ=ルーナにMPを与えて修復させてやる。

 耐久値の全損を条件とする能力を持っているが故の救済措置としてか、この二本は壊れてもロストせず破損状態で手元に残り、耐久値を満タンまで回復させてやれば元通りに修復される。いちいち修理に出す手間が省けるのは非常に助かる。まぁ、アステヴァルはともかくララ=ルーナは甦機装だから、こいつだけが特別という訳では無いんだけどね。

 

 これで本当に準備は完了、さぁ行こう。

 ルートとしては、まず『無果落耀の古城骸』からイレベンタルを通って『去栄の残骸遺道』へ。そしてこれを横切って『冥府への不暁不窟』『晴荒雨毒の大砂漠』を過ぎることで『気宇蒼大の天聖地』を目指すことになる。

 

「よっしゃ、出発だ!」

「おう!」

「よろしくお願いします……!」

 

 言い出しっぺなので、私がパーティリーダーとして音頭を取りフィフティシアを出る。

 二人と共闘する、二度目の冒険が始まった。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

「モンスター、全然出ないですね」

「流石に、旧大陸にレベル150を超えるようなヤツはそう居ないだろうしなぁ」

「群れてたら来ることもあるけど……そういう奴らは単体が雑魚だからねぇ」

 

 イレベンタルまでの道のりは、特に襲撃も無い快適と言えるものであった。

 当然だろう、こちらにはレベルカンスト(150)でリュカオーンの刻傷を持つサンラクが居る。彼よりもレベルの低いモンスターは襲撃より逃走を選ぶし、私達も襲う理由は無いので無視するのだから。

 

「そう言えばさ、ロンミン氏って配信で晴天流のフラッシュメモリー持ってましたよね。アレもう使ったんすか?」

「いや、まだだよ。新大陸で使える所があるらしいからそこに着くまではお預けかな」

「それなら、あの古城の地下にフラッシュメモリー使える施設が有ったっすよ!俺が使ったルートは塞がれてもう使えなくなってたけど……」

「そうなの?じゃあ今度試してみるよ、教えてくれてありがとう」

 

 これは、良いことを教えて貰ったぞ。

 晴天流奥義書……特別なフラッシュメモリー故にこれまで使い道が無く放置していた物が、まさかの今でも使いに行けるという情報。私にとっては値千金の情報だ。

 

 サンラク曰く、彼が侵入に使ったルートはもう使えなくなっているそうだが。それでも別の道を探す価値は大いにある。

 ただ、今は真なる竜種が優先。二人もメンバーを個人的な事情に付き合わせるのは悪いし、竜を倒した後で一人で探しに行くとしよう。メモリーの持ち主である私以外は、仮に一緒に行ったところで無駄骨になるだけだろうしね……

 

 そんなこんなで、特にトラブル無くイレベンタルまで到着。街に用は無いので、そのまま素通りして『去栄の残骸遺道』に出る。

 さて、ここからはボスとの戦闘が最低3回行われることになるが……トッププレイヤー二人が付いているとは言え、流石に目的の前座としては数も質もカロリーが高過ぎる。どうにかして時短できないものかな……使える、かな?

 

「ロンミン氏、考えごとっすか?」

「いやね、この先最低3回は通行の邪魔が入ることが確定してるじゃん?真なる竜種を前にして流石にそんな数の前座は要らんし……時短できる方法は無いかなって考えてたんだ」

「あの決闘で使っていた即死スキルは?モンスターにも有効なら使えるんじゃないですか?」

「アレ刀スキルだし……それに刀はシュトーレンに預けちゃったし、そもそも連結も解除したから今は使えないんだよね」

 

 サイガー0の言う通り、八連結「御神刀『高皇産霊太刀』」を使えば相手を確殺できる……が、その手段は以上の理由から使えない。それにあのスキルは他のスキルを100回使わないといけないから、せいぜいエリアボス程度なら普通に戦って倒した方が多分早いだろう。

 

「だから、これを試してみようかなって」

「これは……アイテム?決闘では使ってなかったヤツっすよね?」

「どういった効果なんです?」

「【崩天地衝(ルルゼ=ペルノイゼ)・極】、要約すれば自分より弱い奴を絶対に殺すアイテムだよ」

「何て物騒なアイテムだ……」

 

 武器の耐久値を大幅に損なう代わりに、強い振動属性を付与する【崩天地衝・極】。その効果は自分よりもレベルの低い相手なら、一瞬にして液状化させて殺してしまう程強力だ。レベルが高いと効果は低くなるけどそれでも十分に強い。

 エリア境のモンスターは特別強いそうだが、それでも旧大陸に私程レベルの高いモンスターはそうそう居ないだろう。レアな奴なら素材が液化するので勿体無いけど、きっと効果的に使えるはずだ。

 

「そろそろ接敵するはずだし、その時には私がまず前に出て試してみるよ。それで上手くいったら道中はこれで戦闘はスキップできる……ダメだった時のために警戒は怠らないでおいてね」

「分かりました」

「了解っす」

 

 そしてまた暫く三人で歩いていると、遂にその時がやって来た。『去栄の残骸遺道』と『冥府への不暁不窟』を分つ境目に鎮座するモンスター、その名を『プライムユニットゴーレム:TypeBC(ボーダークリーナー)』……どう考えても横抜けを防ぐためだけに作られただろう奴が現れる。

 

「出たか。それじゃあ私から行くよ」

「お願いします」

「いつでも準備はオッケーっす!」

 

 レベル評価は130……私よりは低いし崩天地衝の効果はしっかり発揮されるはず。さぁ時短は可能かどうか……確かめさせて貰うよ。

 アステヴァルを取り出し、崩天地衝・極をセットして起動。超振動によって耐久値が0になる前に投げる──これともう一つだけは残しておいた連結スキル、六連結『滅魔の六槍(スピア・オブ・ヘキサゴン)』!

 

「………………!!」

 

「……マジか。デケぇゴーレムを一瞬にして水溜まりに変えやがった」

「凄まじい火力……ですね……!」

 

 ヒット数が6倍になったことで、攻撃で受ける振動も勿論6倍になる。単発なら耐えられたかも知れないけど、流石にそれを6回ともなると耐え切れず私の狙い通りに液状化させてやれた。ヘルパーT細胞との最後の撃ち合いの逆バージョンだね。

 投げたアステヴァルを手元に引き寄せて回収。『滅魔の六槍』はちゃんと当てられた時は槍が自動で手元に返ってくる効果もある。いちいち取りに行かなくて良いのは面倒が無くてありがたい。単体の威力としては、連結スキルの中でも下から数えた方が早いくらいのものだけど。この取り回しのし易さがこのスキルの1番の強みだ。

 

「これならお邪魔も問題無さそうだね、さっさと目的地まで行っちゃおう」

「道中、楽ができるのは助かりますね」

「ボス相手に、集中力もリソースも残せるしな……まぁ、こういう時は大抵そのボスがめちゃくちゃ強いってのがお約束だが」

「サンラク、フラグ立てないで」




【Oの真の女王】
 黎桜の鯖癌での姿『ランゲル・ハンス』に付けられた二つ名。O鯖では7人の姫が唯一人の姫となるべく他のプレイヤー達を配下に争っていたが、その中に割り込み全員を従えることに成功させたことでそう呼ばれるようになった。女王呼びだが使っていたのは男アバター。
 当時の姫含めた配下達は全員『リオちゃんネル』のリスナーでありファンクラブ会員。オフ会で初めてリアルで会った時は涙と共に喜ばれた。
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