ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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 誤字報告ありがとうございました。チェックしてるはずなのにどうして誤字は発生するのだろう。


83:神威統べる雷

 私達の道中は、順調そのものであった。

 野良モンスターはサンラクの刻傷を恐れて群れて気が大きくなっていない限りは近寄って来ず、エリアの境界を塞ぐ刻傷の効かないお邪魔は私の一撃で御陀仏する。大した戦闘の一つも無いともすれば退屈とすら言える旅路。

 

 冥府への不暁不窟も、晴荒雨毒の大砂漠も簡単に突破して、あっさりと気宇蒼大の天聖地に到達したところまでは良かったのだが。問題は着いてからすぐのことである。

 気宇蒼大の天聖地は、頂上に上がれば上がる程出てくる敵は強くなる……しかし私達は、そういうのを抜きにしても強い敵と当たってしまったのだ。

 

「クソ、ちょこまかと動きやがって!」

「すばしっこくて攻撃が当たりません……!」

「お待たせ、アステヴァル回収してきた!」

 

【ヴォーパルバニー"耳級狩り(コレクター)"】

 

 気宇蒼大の天聖地に生息する、斧を扱うヴォーパルバニーの二つ名付き個体。通常種より二回り程大きく人間の腰位のサイズがあり、これまでに狩ったのだろう大量の耳を紐に括りぶら下げている。コイツが天聖地に来てからずっと付き纏っているのだ。鬱陶しいったらありゃしない。

 他のお邪魔モンスター共と同じように、コイツも「滅魔の六槍(スピア・オブ・ヘキサゴン)」で殺してやろうとしたのだが……普通に避けられた上に、彼方へ飛んだアステヴァルを取りに行っている間に奴と戦っていたサンラクとサイガー0も苦戦を強いられていた。

 

 まず、速い。

 私のステータスから放たれる投擲を簡単に回避して見せたのもそうだが、反応とそれに呼応する瞬発力が高く体格の小ささ故に小回りも効く。それでいて大斧を振り回す攻撃も鈍重ではなく、軽快で出が早く要警戒である。

 

 そして、強い。

 ステータスの超高い私や、レベル150で『最大速度』持ちだったサンラク、現役『最大火力』持ちであるサイガー0の三人パーティを軽くあしらいながら自身は大した被弾の一つもしていない。恐らく誰かしら、一流の武術家のトレースAIが組み込まれているのだろう。

 

「チィ……マジやり辛えな!」

「こちらの行動が噛み合わなくなるタイミングを狙って回避を取られていますね……下手に動くと味方を攻撃してしまいます」

「ここで相手するよりも、戦いながら登って行った方が効率的かもね」

 

 中々有効打を与えられないまま、時間だけが過ぎていくというのが一番困る。私達それぞれ明日には学校なり仕事なりがあるし、余り時間を掛け過ぎて肝心の真なる竜種と戦えなくなるというのが、一番あってはならないことだからだ。

 ここで足を止めて戦うよりは、コイツもボス戦に使うくらいの気持ちで一緒に頂上まで連れていく方が時間的に幾分かマシだろう。下へ逃げられるルートを塞ぎつつ、一人がヘイトを受け持って上へ上へと誘導して一緒に登山と洒落込んだ。

 

「ヴォーパルバニーだから、狙いが分かりやすいのは助かるな……!」

「コイツは割と他の部位も狙ってくるけどね!」

「それでも、狙いが分かるだけマシですよ……!」

 

 ヴォーパルバニーの本能故か、"耳級狩り(コレクター)"の狙いは基本的に首だから攻撃は避け易い。二つ名の割に耳を狙ってこないのは、首を刈った後でゆっくり切り取るつもりだからなのだろうか。

 まぁ、そんなことはさておき。倒すならともかく千日手を維持するのはそこまで難しくないため、三人で色々と話をする余裕もある。主にこれから出逢うことになるだろう真なる竜種の話題だ。

 

「そういえばロンミン氏、件の竜とやらがどんな奴かは情報あるんスか?」

「一応、シュトーレンから聞いたヤツと掲示板見てザッと調べた分だけはね。会敵即殺されたって話しか見つからなかったから碌な情報無かったけど、少なくとも『上空からの攻撃手段がある』ってことと『攻撃範囲がめっちゃ広い』『雷属性を扱う』ってことは確かそうだったよ」

「雷属性ですか……なら、状態異常として麻痺もありそうですね。ロンミンが以前に倒したという竜は何かしら攻略のヒントになりませんか?」

「いやーどうだろう、パーフェクトの野郎とは話だけでも随分と違いそうだからなぁ」

 

 真なる竜種なら、以前に京極と『歩み紡ぐ標(パーフェクト)』を倒したことがある。

 奴は食らった攻撃から相手に適応し、ダメージの無効化と即死攻撃を得るという能力であった。モンスタートレインなどの横槍を意図的に用意しなければ1ダメージすら与えられない、攻撃が通るようになっても大火力が無いとすぐまた適応されてしまうクソモンスである。

 

 そして、調べた限りではパーフェクトとこれから逢いに行く竜には、共通点と呼べそうなものはあまり無い。真なる竜種は個体によってその能力は全く異なるということなのだろう。他の竜をどれだけ倒しても次の参考にはならなさそうだ。

 一応、フレーバーテキストに記されていた『真なる竜種とは肉持つ恐怖の概念(カタチ)』という文面から「能力からその源泉を考察し、竜の力を解き明かす」ことはできると思う。実際は、そんなことを考えている間に終わりそうなものだが……もしもパーフェクトみたいな、攻略法を知らないと詰む奴だった時のために考える余地を頭に作っておこう。

 

「ロンミン、そろそろ頂上に到着します!」

「あれ、もうか……てことはそろそろ……」

「……ッ!二人共、上を見ろ!」

 

 天聖地の登山も九合目……という辺りまで来て、上を見上げたサンラクが叫んだ。その声に釣られて私達も空を見上げると、そこで繰り広げられる光景に言葉を失うこととなる。

 

 ──宇宙戦艦……?

 

 ベヒーモス程ではないにせよ、超巨大な飛行物体が上空で見えない何かと戦闘を繰り広げていた。

 虚空に向かって砲撃をするや、何も無いはずの空が極光に輝きそして光を失う。謎の宇宙戦艦は散らばる光を回収しては、また次の光を求めて砲撃を行い光を集めるのを繰り返していた。

 

「モンスター……だよな?」

「超高空域のモンスターと言えば『カムイ』種ですが……あの飛行船のようなものは、ベヒーモスの資料でも見たことがありません。恐らく、アレこそが目的のモンスターかと」

「じゃあ……あれは捕食行動ってことなのかな?」

 

 上空の光と言えば『カムイ』だが、あの宇宙戦艦は強力なモンスターであるそれらを一方的に撃ち殺しては取り込み己の糧としている。流石にアレが人工物ならこれまでに何らかの言及があるだろうし、アレもモンスターの一種なのだろう。状況的に私達のお目当ての竜である可能性は高い。

 カムイ種という強者を簡単に殺し捕食できてしまう強さ。高高度でありながら視覚補正の無い二人にもハッキリとそれが見える攻撃規模。生物というよりは生物兵器とでも言った方が遥かに適切だろう近未来的な武装の数々。成る程確かに、アレが人に牙を剥けばひとたまりも無いだろう。即殺されてばかりで情報が殆ど無いのも頷ける。

 

「うわ、アイツ降りて来るぞ!」

「人間を優先的に攻撃するルーチンでも組まれてるんじゃねえかな?」

「……何かアイツ、様子がおかしくないか?」

 

 砲撃が止み、宇宙戦艦が明らかにこちらを認識している軌道で降りて来る。"耳級狩り(コレクター)"がお構い無しに攻撃して来るのを捌かないといけないので悠長に見ている場合では無いのだが、あの砲門がこちらに向けられたらと思うと、宇宙戦艦の方にも無関心ではいられない。

 様子を窺っていると、宇宙戦艦に備え付けられた砲台から砲弾が上空へ放たれた。それらは空中で爆ぜ雨霰となって地上へ降り注ぎ、地面を抉りながら帯電しダメージゾーンを作り出す。

 

「うおおいきなり攻撃してきやがった!」

「着弾しても暫くは判定が残る、気を付けて!」

 

 警戒が功を奏し、私達は砲撃に被弾すること無く宇宙戦艦の攻撃を凌ぐことができた。近付く程に命中精度も弾幕密度も上がっていくが、"耳級狩り"も回避に徹するようになった分、対応する余裕ができたので問題は無い。

 すると、もう視界内に全体を収め切れない程に接近してきた宇宙戦艦が、突如として大きくその身を震わせた。その余波で震える空気がこちらにも伝わりまるでユニークモンスターと出逢った時のようなヒリついた感覚に襲われる。

 

 そして、それだけではなく変形を始めた。脚が生えて爪が開き、首と尻尾が伸び、パージされた装甲が電磁浮遊しながらクルクルと戦艦から竜へと姿を変えたソレの周りを囲うように回る。

 目隠しのように顔面を覆う黒のラインに、真紅色の光が灯りこちらを見据えてくる。予想通りの標的であった宇宙戦艦改め真なる竜種……その名を表すメッセージウィンドウが表示された。

 

真なる竜種(The Truth Dragon):NO.XIV】

 

Electron(エレクトロン)

 

【参加人数:3人】

 

【竜狩りが開始されました】

 

「デケぇな……アイツ、体躯だけならジークヴルムよりデカいんじゃねえか?」

「確かに、体格はレイドボスクラスですね……」

 

「…………!!」

 

 真なる竜種……エレクトロンが咆哮のようなけたたましい轟音を喉の辺りから鳴らすと、それを咎めるかのように"耳級狩り(コレクター)"が斧で斬り掛かる。私達よりもエレクトロンの方を脅威とし、優先的に排除しに行ったのだろうが。その判断が命取りとなることを理解することもできなかっただろう、恐るべき速さで"耳級狩り"は地面のシミとなった。

 余りにも速過ぎて、視覚補正を常に受けている私でさえ辛うじて追えたというレベル。そのレベルの速さで"耳級狩り"は踏み潰されたのだ。奴が身に纏う黒い雷には見覚えがある……以前に、水晶巣崖でサンラクから借りたことがあるアクセサリーで発動するヤツと同じだ。エレクトロンはアレと同じか上位互換の能力を扱えるということか。

 

「何て速さ……!」

「アイツも古雷(レビン)(ハザード)状態ってか……上等だ!」

「まずは私がいくよ、二人は観察お願い」

 

 まずは、ステータスが高く即死し辛い私が先陣を切ってエレクトロンへ突貫を仕掛ける。まぁ即死はさせられないだろうけど、崩天地衝(ルルゼ=ペルノイゼ)付きの「滅魔の六槍」でどれ位のダメージを与えられるかを見ておけば硬さやHPのある程度の指標になるはず。3人しか居ないんだから、頼むから体格通りのレイドボスクラスの体力であってくれるなよ?

 

「挨拶代わりだ……受けな、「滅魔の六槍(スピア・オブ・ヘキサゴン)」!」

 

 火力自慢のヘルパーT細胞の最大火力と撃ち合える力に加え、崩天地衝の振動を加えた一撃。道中何体ものお邪魔モンスターを液体に変えてきた一撃をエレクトロンの胸部へ向けて放つ──しかし、奴の周りを浮遊していた装甲板が間に入り、本体を守るべくアステヴァルを阻んだ。

 ガキン!という凄まじい轟音が鳴り響き、勢いを殺されたアステヴァルが地面へ力無く落ちる。挨拶代わりの一撃は、ダメージを与えるどころか装甲にさえ傷一つ与えることはできなかった。

 

「ッ……!ロンミン氏、反撃来るぞ!」

「…………………!!」

大いなる逃走劇(グレイトフル・エスケープ)……!危っぶないな、いきなりやられるところだったぜ」

 

 主を守る役割を果たした装甲板が離れ、エレクトロンの顔が顕になる。口元にバチバチと稲妻を滾らせて私を見据える奴の顔が。その顔と眼が合ったのとサンラクの声が聞こえたのは、そして私がスキルを発動できたのはほぼ同時であった。

 敵対中の対象から距離を取る時、AGIと姿勢制御に補正が掛かる「大いなる逃走劇(グレイトフル・エスケープ)」で電撃ブレスを間一髪のところで避ける。それまで私の立っていた地面は、帯電する雷に焼かれ地面を抉られ草木が激しく燃えていた。スキルを発動してすぐ逃げられたから良かったものの、ちょっとでも遅れたら同じように焼かれていたんだろうなぁ……やっぱり雷属性って属性として強いわ。

 

「ロンミン、大丈夫でした?」

「何とか……さて、どうやって倒そうか?」

「また来るぜ、古雷(レビン)状態だ!」

 

 攻撃を避けて息を吐く間も無く、エレクトロンは全身に黒い雷を纏い突進の態勢を取る。動きを眼で追える私は機動力で劣るサイガー0を抱え、突撃を一緒に回避させた。サンラクは機動力特化らしく自力でしっかりと回避していた……やるじゃない。

 まだ戦いは始まったばかり、じっくりと攻略していこうじゃないか……奴の耐久次第では徹夜コースになりそうだけども。

 

「二人とも、ログアウトは朝になると思ってよ!」

「上等、ぶっ倒して気持ち良く登校してやんよ!」

「ええ、徹夜なんて覚悟の上です……!」




【ヴォーパルバニー"耳級狩り(コレクター)"】
 首ではなく耳に執着する、体格が大きく変わり者のヴォーパルバニー。とある高名な武術家のトレースAIを仕込まれており、その動きは達人レベルで巧く苦戦は必至……なのだが。圧倒的質量と速度には敵わず地面のシミにされた。
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