ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「『我が黒の半身を謳う。夢見る先は深淵源、傲慢故に孤高たる黒き神』」
サイガー0を狙っているはずのエレクトロンの攻撃がサンラクの方へ吸い寄せられていく。サンラクは何度も何度も蹂躙されるが、散ることも爆ぜることも無く粛々とその攻撃を受け続けた。
だが、ここで攻撃を受けているのはサンラク本体ではない。致命秘奥「ウツロウミカガミ」というスキルによって生成された、ヘイトを集めるデコイのようなものなのである。
「ハッハァー!そいつは囮だぜエレクトロンよ!」
「こういうトコ見ると、NPCの限界みたいなのを感じちゃうよねえ」
本体ではないから何度どんな大技を食らっても死ぬことは無いし、デコイを維持できる間はエレクトロンのヘイトを集中させられる。稼げる時間自体はそこまで長くはないが、ほぼ確実にサイガー0から気を逸らせられるのが素晴らしいところだ。
「『玉座は唯一つ、理もまた唯一つ、即ち我が右の半身は黒の理』」
「………………!!」
「砲撃だ!」
「レイさんには当てさせん……!出番だぜ、防ぎ切れよ【
ウツロウミカガミが解け、エレクトロンのヘイトが再びサイガー0へ向けられる。突進では妨害されると思い知ったか、今度は
勿論、ただそれを見ているだけの訳が無い。私はアステヴァルとララ=ルーナを振り回して放たれた砲弾を撃ち落とし、サンラクは盾を展開して私が取りこぼした分の砲弾を防ぐ。それもただ防ぐだけでなく反射して逆にダメージを与えるおまけ付きだ。
「ヘイヘイどうしたどうしたぁ!?仰々しい兵器並べ立ててこんなもんかよエレクトロン!」
「ここぞとばかりに煽るな……」
自分が有利になった途端に煽り倒すようになるのは私も覚えがあるが、逃れられぬカルマというやつなのだろうか。まぁそれでエレクトロンのヘイトを稼いでくれるなら、いくらでもやってくれて構わないのだけども。
しかし、エレクトロンはサンラクの煽りをガン無視してサイガー0に狙いを定める。身体を真っ直ぐに固定してレーザー砲を撃ち放つ、奴の最大火力の攻撃の予備動作だ。幾ら反射能力を持つ盾でもアレを防ぐことはまず不可能だろう……阻止するか、または狙いを外させなければならない。
「『我が白の半身を謳う。夢見る先は至高天、強欲故に暴君たる白き神』」
「………………!!」
「やらせるかよ……『
ララ=ルーナの煌月サイドから月光刃を展開し大鎌モードへ変形させ、エレクトロンの真っ直ぐに固定された首元へ刃を添える。レーザー砲は発射されてしまえばそこからの対策は不可能だが、撃つ前ならば予備動作が長いので対処は可能だ。
できる対策としては、軸合わせが結構甘いので当たらない位置に移動する、カウンター等の何かしらの防御手段を用意して待ち構える、そもそも撃たせない等が挙げられるが……私が選んだのは一番目の方法の変形であった。
──鎌首を擡げるって、そういうこっちゃないんだけどなあ!
「
全ての耐久値を犠牲にして放つ、ララ=ルーナの切札『朧晴斬月』でエレクトロンの首を持ち上げ、レーザーをあらぬ方向へ無駄撃ちさせる。そのまま首を断ち切ってやれれば話は早いのだが、まぁそんな脆い奴ではないことは分かっている。サイガー0の邪魔をさせないだけでこの場はOKだ。
「『全なる唯一つ、理もまた唯一つ。即ち我が左の半身は白の理』」
「………………!!」
「チィ……まだやるつもりかよコイツ!」
「今度は俺が阻止する、レイさんの邪魔は絶対にさせんぜエレクトロン!【
サンラクの手に握られた【槍炎剣アラドヴァル】が黒く煤けた刀身に火を灯し赤く燃え盛る。これが第一段階で、ここからどんどん炎の色も変わってより強い熱を帯びていくのだそう。
点火したばかりのアラドヴァルには、まだ大した『焔』は蓄積されていない。それでもこれは竜を屠るべく生み出された炎、エレクトロンに対しては今の段階でも高い威力を発揮してくれる。
「それはあり得ざる槍、万象積み編みて紡がれし非実在の輝き!
レーザーの発射を阻止するための早口詠唱でアラドヴァルの切札を発動し、バスタードソードであったそれが巨大な炎を纏って槍のように変化する。アステヴァルの切札とは違い、アラドヴァルの切札は純粋な高火力必殺技だ。
あとはこのまま、エレクトロンの口元へ突き刺すのだろうと思っていたが……サンラクは手に握るアラドヴァルをいきなり放り投げ、助走を付ける体勢に入った。何をするつもりなのだろうか?
「これぞ、ラビッツで兎に師事して身に付けた新たなる境地!
「ぶっ飛べアラドヴァル、蹴武「ディストーツトリガー」!」
まさかの蹴り出し。足蹴にされたアラドヴァルは螺旋の回転を描きながら勢いを強め、そのままエレクトロンの口内へ突き刺さる。チャージされていた電力が衝撃によって霧散し、アラドヴァルが栓となることで逃げ場を失った力が爆ぜた。
二度目のレーザー砲阻止。そのまま受けていればいくら竜特効を持つアラドヴァルとは言えタダでは済まなかっただろうが、突撃で電力を弱めたことで破壊されることを防ぎ、尚且つ爆風を利用してサンラクの手元まで帰って来た。レーザーの阻止方法としては完璧と言える結果だろう。
「辺りを消し炭にする威力で自爆したんだ、奴のダメージもそれなりだろうよ!」
「ナイスサンラク、なら次は私だね……!」
「『我が身の左右、二律背反の双理はされど唯一つの我が身が担う』」
──次は雷電ブレスか、なら……
突進、砲撃、レーザーと立て続けに阻止されたエレクトロンの次の行動は雷電ブレス。しかも地面を這わすように放つことで帯電させ、盾で防ぎ難いように工夫がされている。小癪な野郎め。
だが、これはサイガー0の居る場所までは届かない一撃だ。詠唱を邪魔するための攻撃をしているはずなのに何故……と思ったがすぐに気付いた。これはサイガー0ではなく、私とサンラクを自分に近付けなくするための攻撃なのだということに。
「チィ……よく考えてるじゃないか、流石はシャンフロのAIってところかな」
「これは……もう阻止は無理だな!ロンミン氏、何でも良いから俺にバフ掛けてくれ!刻傷に無効化されないようなヤツを!」
攻撃を邪魔されるなら、まずは邪魔ができないように距離を空けさせれば良い。私達は装甲板の動きを崩さないよう、密着していないと攻撃ができないから距離を空ければ邪魔はできなくなる。そのことをよく分かっているようで、エレクトロンは地面に向けた雷電ブレスを自分自身を360度取り囲むようにして放っていた。
一度帯電エリアに脚を踏み入れれば、待っているのは超高速のスリップダメージ。私は耐久が高いのでどうにかできるけど、紙耐久のサンラクは一歩踏むだけでも死にかねない。そうして二の足を踏んでいる間に、サイガー0を狙ったレーザー砲のチャージが完了しようとしていた。
「『我が右方はエレボスの理、我が左方はアイテールの理。双理反転、双神と我が身を以て太極を顕す』」
「無効化されないバフ……なら、コレ使いな!」
「注射器?成る程、自分に打ってバフを得るって感じか……ありがとうッス!」
バフを求めるサンラクに
サンラクは瑠璃天の強化剤で得た速度でエレクトロンとサイガー0の間に割って入り、左手の盾を構えてレーザーを受ける体勢を取るが……大丈夫か?アレは片手用の小さな盾で防ぎ切れるような、そんな生半可な攻撃じゃないぞ。
「『始源よ顕現れよ、我が身は太極の境界点。遠き現世に理を示す者。我が身を喰い違え、双理の神話』」
「詠唱が終わったか、最後まで冷静でいてくれてありがたいぜレイさん!邪魔は俺がさせねえ──
「………………!!」
サンラクの盾が大きく広がり、片手用の小さな盾から全身を覆えるような大盾に変化する。その上で使う超過機構……それは、魔法を反射するのではなく吸収してしまうというものであった。
エレクトロンのレーザー砲が直撃し、盾を構えるサンラクがそれを防ぎ切るべく踏ん張る。いくら吸収して威力を弱められるとは言え、それでもその威力は凄まじいもの。彼のステータスは結構STRにも振ってあるとは聞いているが、様子を伺う限りどう見ても競り負けている。必死に頑張ってるところ悪いが、もっともっと踏ん張って貰うぞ。
「『
自分と味方にバフを与える『
更に装備を修復する『
「サンキューロンミン氏……ここまでお膳立てして貰っちゃあ、決めなきゃカッコ悪いよなぁ!」
サンラクは盾を構える右手を離し、拳を握る。
「
そして、右の拳でそっと優しくコツンという音が鳴る程度の力で叩いた。
「
その優しげな拳骨とは全く似つかない凄まじい勢いで、盾がエレクトロンへ向けて飛んでいく。弱く殴る程大きく、強く殴る程小さくノックバックを発動させる
遠くからの攻撃、しかし余りにも勢いが強く速過ぎて装甲板が反応する前にそのシールドバッシュはエレクトロンへ届く。致死のレーザー砲を押し戻し口元へ衝撃を与えて暴発させ、再びサイガー0を魔の手から救い出して見せたのだった。
「それじゃあ真打、任せたぜレイさん」
「はい、二人ともありがとう──【ゼンド・アヴェスター】!」
遂に放たれる最強の一撃。装甲板が全て重なるタイミングに合わせて放たれたそれが、漆黒の合板を砕くべく衝突する。
2ヒット毎に威力が増大していく50連続攻撃、更に相手の『侵蝕律』なるステータスが自分よりも低い程その威力は更に上がる。
エレボスとアイテール……何でもこの大地を形成しているという超大型モンスター。この地の生命はプレイヤーも含め、多かれ少なかれその影響を受けているが中には例外も存在する。それがカムイのような超高高度に生息するモンスターだ。
エレクトロンはそのカムイを燃料にして稼働する真なる竜種。カムイの力を得ることにより、エレボスとアイテールの影響を自身も受け付けなくなっている……即ち侵蝕律がほぼ0ということ。【ゼンド・アヴェスター】は、エレクトロン相手に対しては最大限の効果を発揮する──!
「はああああああぁぁァ!」
「いっけえ、ぶっ壊せェ!」
「どうか、最後までやり切ってくれよ……ッ!」
「………………!!」
1枚、また1枚と、大きな圧力の掛かる装甲板に亀裂が走りそれが広がっていく。やがて亀裂は装甲板の全体を犯し、遂に1枚目を砕き割った。
そのまま勢いは止まらない。2枚目、3枚目、4枚目……【ゼンド・アヴェスター】は、ヒット数が増す毎にその威力を高めていく。破壊に必要な攻撃回数も次第に減っていき、数発のヒットで壊せる段階に至ると同時に5枚目の装甲板が破壊された。
「あと、1枚……ッ!」
「いけェ、レイさん!」
最後、6枚目の装甲板に刃が掛かる。
ペースを考えれば、ちょうど50回目のヒットであの装甲板も壊せる計算……同時に、サイガー0は反動で暫くの間木偶の坊になってしまう。
功労者を役目は終わったからとすんなり排除させては、そんなことではゲーマーの名折れ。
絶対に死なせはしないし、この頑張りを無駄なものにもさせない。最後の装甲板が壊れたら直ぐに行動できるよう、準備を整えておく。
「これで……ッ、6枚目ェ!」
「………………!!」
──ナイス破壊……ッ!?
「ハッ、やらせるかよ!」
最後の装甲板が破壊され、飛び散った粉塵が晴れると同時に眼に飛び込んできたのは、レーザー砲発射の予備動作に入るエレクトロンの姿。装甲板が盾となってゼンド・アヴェスターを防いでいる間に、奴もまた準備を整えていたのだ。巻き込まれないよう離れていた私とサンラクは、当然妨害などできる訳が無い……アレは発射されてしまう。
と、嘆く前に動け。離れた所からの妨害ならサンラクが実例を見せてくれたではないか、私のスキル構成なら同じことはちゃんと可能だ。
「栓をしろアステヴァル……「
このスキルは、刺突などといった点での攻撃をする際に『今の動きだとここに当たるよ』というガイドをしてくれるスキルだ。ガイドがエレクトロンの口内を示すのと同時に放り投げることで、確実に当てられるようになる!
「………………!!?」
「お前がレーザーを撃とうとする度に、何度だって邪魔してやる……覚えておきな!」
邪魔者は消え、副産物として少なくないダメージをエレクトロンに与えられた。
ここからは後半戦……今度の鍵は、如何にしてあの発電機構をぶち壊すかになるだろう。サイガー0は暫く動けないから、サンラクと二人であの冒涜的機構をぶち壊していくことになる。
「今度は私達の番だよ、気合い入れなサンラク!」
「おうよロンミン氏!レイさんが復帰する前に全部片付けてやらあ!」
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