ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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86:輝槍が輝く時

「サンラク、狙うべきは体内だ。奴の体内にはカムイを燃料とした発電機構がある……それを壊すことができればきっと弱体化させられる!」

「成る程な、なら……俺が奴を撹乱する!その間にロンミン氏がぶっ壊してくれ!」

 

 そう言って、サンラクは謎のアクセサリーを起動するとエレクトロンに突撃していった。しかし闇雲にぶつかるのではなく、奴の周囲をグルグルと回りながらチクチクと小さい攻撃を繰り返している。

 円の動きを外れるか、自分で解除するまで円周運動を続けるスキル「多重的円周運動(オービット・ムーブメント)」だ。時計回りの動きでエレクトロンを翻弄し、変則的なヒットアンドアウェイでヘイトを稼ぐ。彼のプレイヤースキルなら余程変なミスをしない限りは、いつまでもああしていられるだろう……その分、火力を出すことは難しくなってしまうが。

 

 ──だから、その分は私が出す!

 

 ヘイトがサンラクに向いている間に、リキャストタイムを終えた機動系スキルでエレクトロンの背中へ乗り込む。そこでは相変わらずの冒涜的発電法がより激しさを増して行われていた。装甲板を失ったことによる防御力の低下を、攻撃をより激しくすることで補おうとしているのだろう。

 これ以上好きにはさせない。アステヴァルに崩天地衝をセットし、すかさず「撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)」を放つ。ララ=ルーナではスキルを使っても傷一つ付けることができなかったが、竜特効のおかげか若干ではあるがダメージを与えることに成功していた。どれだけ掛かるかは分からないが、壊せるということが分かっただけでも意味はある。

 

「……ま、そう簡単にはいかないよな」

 

 当然だが、エレクトロンが自身の生命線への攻撃を甘んじて受け入れるなんて訳は無い。自身に備え付けられた機能で反撃を仕掛けてくる。先程背中に居た時には無かった攻撃まで携えて。

 これまでも使っていた銃器に、ガトリングやミサイルが更に追加装備され。床が赤熱し接地する対象にダメージを与えるエリアと化す。壁には電流がバリアのように張り巡らされ、ご丁寧にも発電機構にも同様にバリアを張っていた。

 

 この継続ダメージが結構痛いので、封虹の撃鉄(オーロラトリガー)による飛行で接地しないよう努める。VITが意味を為さない固定ダメージは、私の高ステータスには数少ない弱点の一つだ。

 封虹の撃鉄にはもう一つ、良い点がある。いや効果的には本来こっちが本命の……虹光に触れた相手の耐性を継続的に下げ続けるデバフ効果。どれだけ硬い装甲だろうと、触れれば触れるだけ脆くなっていき最終的に破壊可能になる……はず!どれだけ掛かるかは分からないけどね。

 

「ぶち抜け……「撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)」!」

「…………!!」

「…………!!」

「………………!?」

 

 電撃によるダメージに構わず、発電機構にアステヴァルの一撃をぶつけてやる。やはりバリアもあって大したダメージにはならないが、それはエレクトロンの話。その『中』に在るカムイ達にとっては甚大な被害となる。

 アステヴァルの能力の一つ、瞬間的に射程を向上させる『星灯る槍』。攻撃がヒットする瞬間に発動することでより奥の方へ攻撃判定を発生させ、今回のように守りを貫通して中身に攻撃したり、盾などをすり抜けて攻撃することが可能になる。

 

 ──射程が欲しけりゃ投げれば良い、そう思ってこれまで使わなかったけど……勿体無かったなあ!

 

 実際に使ってみたのはこれが初めて……だが、結構使い勝手が良さそうな能力だった。変に先入観持たず使っておけば良かったなぁ。

 エレクトロンに搾取され続け、その上外部からの攻撃まで食らうカムイ達には気の毒だが、コイツらが生きているのは私達には甚だ不都合なのでここでしっかりと死んで貰おう。悪く思うなよ。

 

「サンラクの方は……」

「ハッハァー!どんどん回れ俺ェ!」

「……大丈夫そうだね」

 

 私がエレクトロンの背中で発電機構の破壊に四苦八苦してる間、サンラクはずっとエレクトロンの周りをグルグルと回り続けていた。

 その速さは時間経過による『慣れ』や、スキルの相乗効果で更に増していっている。アラドヴァルの炎の色も段階が進んで青く変わっていた。

 

「ロンミン氏も頑張ってくれてるが、それに甘んじてるようじゃ男が廃るってもんよ!時間稼ぎやヘイトタンクだけじゃ済まさねえ……エレクトロン、お前は俺とアラドヴァルが確実に滅する!」

 

 アラドヴァルによる斬撃がエレクトロンの顔面にヒットし、液晶を蒼炎が包む。そして燃え広がった炎が爆ぜ更にダメージを与えていく……サンラクはサンラクで、こちらも順調に立ち回れていた。

 非クリティカル攻撃を当てる度に刀身に『焔』を貯める【焔爆(ニトロ)】と、貯めた『焔』に応じて段階的に炎の色を変えていく【焔研(トルク)】を駆使してアラドヴァルを強化しながら、抜群の機動力で撹乱し半ば一方的に攻め立てる。

 

 相手の攻撃は避けるかそもそも当たらない場所に位置取り、しかし自分の攻撃だけは一方的に当たる理想的な立ち回り。

 速度にも勢いにも調子にも乗ったサンラクは、右腕の封雷の撃鉄(レビントリガー)を起動し過剰伝達(オーバーフロー)状態へ。もう十分なはずのその速度を更に高めていく。

 

「もっと、もっとだアラドヴァル!数多の焔を束ねて竜を穿つ槍となれ!」

 

 サンラクの速度は更に高まり、同じく古雷を纏うエレクトロンを完全に置き去りにする。あの速度と動き出しの速さでは、自分が動いたことを知覚することすら困難なはずだが……サンラクは自身の視覚強化スキルを総動員することで、どうにかこの高速の世界に己の感覚を適応させていた。

 だが、これもスキルが続くまでの有限な時間。レベル150に到達したことで、これまでサンラクを支えていた『愚者(フール)』の神秘(アルカナム)が反転。『リキャストタイムが倍増する代わりに回復量が上がる』という仕様になってしまっているせいで、スキル頼みの立ち回りは難しくなってしまっているのだ。

 

「「永劫の眼(クロノスタキサイア)」……!」

 

 ──コイツが切れる前に、決める!

 

 問題はどこにどう攻撃するか……既に「焼燬(キャール)」も「ディストーツトリガー」もリキャストタイムが明けて再使用可能になっているが、同じことを繰り返すだけというのも芸が無いし、エレクトロンは同じ行動に対しては対応してくるタイプ。さっきと同じようにやっても対策されてしまうだろう。

 ならば、どうするか。分かっていても対応できないシチュエーションを作ってやれば良い。そのためにもまずはあの砲門が邪魔だと、サンラクは武器をアラドヴァルから煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)に変更。道すがら充填させておいた月光の力を漲らせ、多重的円周運動(オービット・ムーブメント)を解除して砲門へ飛び込んでいった。

 

「お前ならできると信じてるぜ煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)!ぶちかませ超過機構(イクシードチャージ)──」

 

 攻撃を防ぐべく、装甲がバカみたいに固くなっていることはもう分かっている。闇雲な攻撃では傷一つ付けることさえ叶わない……竜特効の無い武器なら尚更難しいことだ。

 だが、中身の方はどうだろうか?自分自身の攻撃で自傷しない程度の防御はされているだろうが、それでも普通は攻撃されることを想定しない部分。そこに全力の一撃を加えてやれば、破壊とまではいかずとも多大なダメージを与えることができるはず──!

 

「………………!!」

「迎撃するか、好都合だ![超排撃(リジェクト)]ォ!」

 

 砲門に飛び込み、超排撃を放つ……エレクトロンも電力を集め迎撃に出る。だが、それこそがサンラクの狙いであった。

 

「結晶よ、この狭い空間を満たせ!」

 

 まず、先んじて準備を終えていたサンラクの超排撃が発動し大量の結晶が生成される。

 結晶は炸裂し、サンラクを外へ吹き飛ばしながら砲門の内部を大きく傷付けた。そして大ダメージを食らい脆くなった上に、炸裂した結晶の欠片で満たされた砲門で電力が爆ぜる……すると、どうなるかは最早言うまでも無いだろう。

 

「………………!!?」

「狙い通りだぜ、ぶっ壊し……うわめっちゃ漏電してるじゃねえか避けてくれロンミン氏ー!」

 

 行き場を失った力が盛大に爆ぜ、エレクトロンの聳え立つ主砲を根本からへし折った。その結果指向性の消え失せた電力が盛大に漏れ出し、エレクトロンの背中に居た私を襲う。

 幸い、食い縛りで生き延びたサンラクの忠言と封虹の撃鉄で浮いていたこともあり、どうにか呑まれる前に反応して脱出することができた……私の開けた穴から入ってきた電気によってダメージを受けるカムイ達の悲痛な叫びが聞こえてくる。

 

「うおっ、凄え悲鳴……」

「壊せそうな目処が立つところだったからね。外側は守れても中身までは保護されてなかったか」

 

 可哀想、気の毒にとは思うが、奴らは所詮エレクトロンを強化する外付けのパーツ。さっさと死んでくれた方が助かるので同情はしない。

 そんなことより攻撃だ。この漏電によってエレクトロン自身もカムイ達もダメージを受け、こちらに見向きもせずのたうち回っている今は絶好の機会。崩天地衝をアステヴァルに取り付けてから漏電の影響を受けない高さまで封虹の撃鉄で飛び、いつもの「撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)」と「滅魔の六槍(スピア・オブ・ヘキサゴン)」を放つべく投げ槍の構えを取る。

 

「ロンミン氏、俺にタイミング合わせてくれ!」

「……?まぁ良いや、いつでもカマしな!」

 

 サンラクからの連携の要求。どうやら、何かしらやりたいことがあるようだが……魔眼がある限り集中した私がタイミングを逃すことはあり得ない、やりたいことがあるならしっかりとやって見せろよ。

 

「うっしゃあ、もう一度だ封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)!」

 

 古雷を纏い直し、更に私の怨毒包丁と同列の物であろう短剣を自分に刺して刻傷を抑制。エレクトロンのレーザーを吸収して得たエネルギーを炎に変えて纏い『冥炎』状態へ移行。【焔研(トルク)】の段階が進んで炎が金色となったアラドヴァルを構える。

 そしてその状態で発動するのは、サンラクがかつて最速の称号を受け取り、今は私にそれを移した超速の連結スキル──そう、「臨界速(ブラディオン)」だ。

 

 一歩踏み出す毎に加速し、5歩目で最高潮に達する速度と共にアラドヴァルの必殺技をぶつける……それを私と同時に、上下から挟み撃ちの形で行うつもりなのだろう。二つの必殺技をエレクトロンを逃さない形で放てるように。

 きっと、サンラクの攻撃はゼンド・アヴェスター程ではないにせよ相当な威力になるはずだ。ならば私の方も負けてはいられない……技の威力そのものをこれ以上強化することは難しいが、ステータスを上げることで実質的に威力を上げることはできる。

 

絶世奥義:月華爛漫(ミステルミナ・ムーンフォース)!」

 

 プレイヤーの全ステータスを3倍加し、スキルのリキャストタイムをリセットする。これでも相当ステータスは高くなるが、どうせならもっと上を目指してみよう。ついでにサンラクの援護にもなる。

 

「其れはあり得ざる槍、万象積み編みて紡がれし非実在の輝き──輝槍仮説第六(ブリューナク)夜光(アステル)!」

 

 夜光(アステル)の二度撃ち。この技は一度使えば効果が永続するのだが、リキャストタイムさえ開ければ再使用が可能となる……つまり重ね掛けができるのだ。普段はそれが超長いのでまず不可能だが、リキャストタイムをリセットする絶世奥義:月華爛漫(ミステルミナ・ムーンフォース)と合わせれば一度だけだが再使用が可能となる。

 そして、夜光の効果はバフなどのプラス補正を更に強化するというもの。ただでさえ大きな月華爛漫状態による強化や、臨界速による加速を更に強く引き上げてくれる。代償としてアステヴァルの耐久値は全損してしまうが、それを補って余りある性能だ──月華爛漫状態だとすぐに直せるし、そのデメリットも無いようなものだけどね。

 

「さぁ、やっちゃえサンラク!」

「おっ……しゃあ!」

 

 サンラクが四歩目を踏み出すと同時に、私もスキルを発動してアステヴァルを投げる。これで同じタイミングで攻撃が可能になるはず……上下からの同時攻撃で一気にエレクトロンを削り取る!

 

「其れはあり得ざる槍、万象積み編みて紡がれし非実在の輝き──輝槍実証第四(ブリューナク)焼燬(キャール)!」

 

 五歩目を踏み出し、二つの攻撃が同時にエレクトロンを刺し貫く。そして世界に『最速』が更新されたことを伝えるアナウンスが流れた。

 

【既定速度観測、条件達成】

 

【称号『最大速度(スピードホルダー)』を入手しました】

 

「蹴散らせ、アステヴァル!」

 

 崩天地衝(ルルゼ=ペルノイゼ)による超振動、古虹(オーロラ)による耐性弱化、「撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)」「滅魔の六槍(スピア・オブ・ヘキサゴン)」、そして月華爛漫状態とバフを底上げする夜光(アステル)が載った最強のアステヴァルがエレクトロンの背に突き刺さる。超強化された振動と爆裂が硬い装甲を散らし、剥がし、爆ぜさせ……カムイ達を閉じ込めていた発電機構を跡形も無く粉砕してみせた。

 

「貫け、アラドヴァル!」

 

 最速の推進力、最大まで高まった【焔研(トルク)】、古雷(レビン)による蝕電効果、冥炎により更に高められた火力と範囲で、アラドヴァルはエレクトロンの腹を刺し貫く。硬い守りを火力で溶かし、崩し──そして、大きな風穴を開けた。

 

「………………!!」

 

「…………!!」

「…………!!」

「…………!!」

「………………!!」

 

「おお、カムイ達が逃げていく」

「結構巻き添えで死んでたのに……中にどんだけ溜め込んでたんだよコイツ」

 

 竜殺しの輝槍による挟撃で開いた風穴から生き延びたカムイ達が脱出、瞬く間に空の彼方へと消え去り見えなくなっていった。

 これでもう、エレクトロンはカムイからの搾取を前提とする発電機構は使えない。相当な弱体化が為されるはず──と、そう思っていたのだが。どうやら予想とは違った方向性であったようである。

 

「………………!!」

 

「サンラク、離脱して!」

「うおお……ッ!?全、速、力ゥーッ!」

 

 大きなダメージに苦しみ、その巨体をくねらせのたうち回るエレクトロン。その肉体はこれまで以上の電力によって包まれていた。

 自家発電。カムイからの搾取が無くとも、エレクトロンは元より自力での発電ができたのだ。それをせずカムイを虐めていた理由は見ての通り……この巨体に隅々まで行き渡る程の電力を生産するのは負担が大きいからなのだろう。

 

 だが、カムイに逃げられた以上はもう自力で発電を行うしか道は残されていない。

 ここから先、エレクトロンは死に物狂いで発電しその苦しみで暴れ回るだろう。そして大きな傷を負った状態で無理をすることで、身体には更なる負担が掛かりやがて死に至る……実際、既に外殻の一部が負荷に負けて剥がれ落ちてきている。

 

 ──ここが最終フェーズ、エレクトロンを自滅するまで抑え切れば私達の勝ちだ!

 

「竜魂解禁──『パーフェクト』!」

 

 パーフェクトの力を解放し、エレクトロンのアクション耐性を得て刺さったままのアステヴァルの元へ向かいエレクトロンを抑えつける。しかし体格差が大き過ぎて完全に抑えつけるには至らず、少なからず暴れさせてしまうことになっていた。

 しかし、やらない訳にはいかない。ここまで来れば、後は何もせずともエレクトロンは自滅するだろう……だが、そうなるまでの過程で大暴れを許せばその被害は甚大なものになる。少なくともまだ動けないサイガー0はやられてしまうだろうし、サンラクも逃げ切れる保証は無い。生存力の高い私が抑えつけるのが一番丸い選択なのだ。

 

「………………!!」

「こんの……ッ、大人しく、しやがれ!」

 

 パーフェクトの耐性上昇による被ダメの低下と、月華爛漫状態で自由に使える『癒しの麗光(ムーンヒール)』を併せてどうにか食らいつけているが……月華爛漫状態が終わればこの均衡はすぐに崩れてしまう。

 ただ抑えて自滅を待つのではなく、こちらからも奴の自滅を早めてやらねばならない。元々電気に強い構造をしているが故に、限界を超えた発電をしてもそう簡単には崩れないというのなら……その強い耐久力を奪ってやろう。

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)……「転化無象(メタモルフォーゼ)」!」

 

 スキル「転化無象(メタモルフォーゼ)」は、対象に触れることで任意のステータスを強制的に1にし、差分の数値を自分に加算するというものだ。効果時間は1分。これを過ぎると、反動で変化させた自分のステータスが戦闘終了まで1になる。

 奪ったのはVIT。これでエレクトロンのVITは1分間1になり、この間は自傷ダメージが大幅に増大する。刺さったままのアステヴァルから古虹(オーロラ)が供給され続けているので、耐性の弱化によって更にダメージは加速する!

 

 ──くっそコイツ、お構い無しかよ!

 

「サンラク、レイを回収して離れて!」

「お、おう!レイさん、こっちだ!」

 

 加速する自壊に怯むこと無く、エレクトロンは身体を大きく捻り叩き暴れ回る。どうにか縦横無尽に動き回ることだけは阻止できているが、それでも破壊範囲はかなり広いものだ。

 まだ動けないレイはサンラクが回収してくれたし、後は私が耐えるだけ……なのだが、ペース的に「転化無象」が続く一分で終わる気がしない。このままではジリ貧になることは目に見えている。

 

 しかし、私はアステヴァルにしがみついてエレクトロンを抑えつけるのがやっと。新しい武器を取り出す余裕も辺りに活路を見出す余裕も無く、ひたすらに時が過ぎるのを待つばかり。

 せめて「撃滅の貫旋」が使えれば良かったが、生憎使ったばかりでリキャスト待ち中。使えるようになる頃にはとっくに「転化無象」も、月華爛漫状態も時間切れになっているだろう。

 

「クソ、俺達じゃあの電撃の嵐には近付けねぇ……何か、何か使える物は無いか……!?」

「……ッ!サンラク君、アレを!」

 

 ──クソ、もう離脱しないと……ッ!

 

 残り10秒くらいのところでアステヴァルから手を離して離脱。いくらパーフェクトの力で耐性を得ているとは言え、流石にVITが1になっては回復が間に合わない。夜光にはデバフを無効化する効果があるけど、こういう技の反動のような自業自得的なものまでは無効化してくれないのだ。

 状態異常や変化ならともかく、ステータスの直接的な変化までは対応してくれない。やられてしまえば月華爛漫状態も解けるので、ここは一先ず距離を取ろうとしたのだが……視界の端で、サンラクとサイガー0が何かをこちらに向けて投げたのを見てそれを中断する。

 

「ロンミンちゃん、コレを……ッ!」

「今攻撃ができるのはロンミン氏だけだ!トドメはアンタに任せるぜ!」

 

 投げられたのは、斧。

 それが誰の物かと言うと、初っ端にエレクトロンに踏み潰された"耳級狩り(コレクター)"の物だ。奴が死んだ後にドロップアイテムとして残り、戦闘中故に意識されることも無く放置されていた代物である。

 

 ヴォーパルバニー達が扱う致命の名を冠する武器は、敵が強大である程その真価を発揮する。特にこの斧は元主人が呆気なくやられたこともあってか、仇討ちに燃えるような煌めきを放っていた。

 こんな物を渡されて、使わないなんて選択肢はあり得ないだろう。まだ「転化無象(メタモルフォーゼ)」の効果時間は数秒残っている……奴の装甲が最も脆い状態である今の内に攻撃を当てるべく、私はムーンゲージを消費して最大の一撃を振り下ろした。

 

「……ああ、任されたよ!」

 

 絶世秘技・『花天月地(ムーンフォール)』。

 月華爛漫状態で、ムーンゲージを消費しなければ使えないがその分威力は絶大。特効の入るアンデット相手ならこれ一発でボスクラスであろうと御陀仏させられる「月下美人(コードムーン)」の切札。

 

 それが、「転化無象(メタモルフォーゼ)」によって脆くなっているエレクトロンの首元へ直撃した。最高の一発をモロに首に受けて、エレクトロンが悲鳴のような電子音を掻き鳴らす。

 そして、それとほぼ同時に「転化無象(メタモルフォーゼ)」の効果時間が過ぎて、反動により私のVITが今度は1まで下がる。電撃で受けるダメージが凄まじいことになってしまうが……まだ死ぬ訳にはいかない。『花天月地(ムーンフォール)』を完遂するまで耐えるべく、『闇祓う槍』や『癒しの麗光(ムーンヒール)』、その他耐久バフやリジェネスキルを総動員して時間を稼ぐ。

 

「………………………………!!」

「往生際の悪い奴は嫌いじゃない……けど、これで終いだ、エレクトロン!」

 

 装甲に打ち勝った斧が振り抜かれ、エレクトロンの首が胴と分たれ地に堕ちた。

 同時に、猛威を振るっていた電撃の勢いが少しずつ弱まっていき──やがて消える。

 

 エレクトロンの肉体が消えていく。ポリゴンの欠片となって霧散し、そこに巨大な竜が居たことなど最初から無かったかのように、綺麗さっぱり消滅してしまった。

 空が光を放っている。虹色、白、赤……天敵が消え平穏が戻って来たことを喜ぶかのように、多様な光が星を超えて瞬き地上を照らす。それは同時に、私達の勝利を祝福しているようでもあった。

 

【竜の討滅は果たされた】

 

【『明るい未来(エレクトロン)』、撃破!】

 

【最も貢献した装備が竜滅装備(バスターアームド)に変化しました】

 

【称号『紫電一閃』を獲得しました】

 

【称号『星天の霹靂』を獲得しました】

 

【称号『明日への架け橋』を獲得しました】

 

 ──パーフェクトの時は、京極に良いところ持ってかれちゃったからなぁ……けど!

 

「今度は、私達の完全勝利だ!」




『紫電一閃』:エレクトロン撃破で貰える称号。

『星天の霹靂』:星天槍アステヴァルを用いてエレクトロンを撃破したことで得た称号。

『明日への架け橋』:エレクトロン撃破者の内、最も貢献度の高いプレイヤーに与えられる称号。





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