ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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9:夜が明ける

「終わったぁ……」

「な、長かった……疲れた……」

 

 リュカオーンとの長い戦いが終結し、力が抜けた私達は沼荒野に座り込み天を仰いでいた。今はもう魔魂丸薬(イヴィル・フォース)の副作用で死が確定していることもあって動くのが凄く億劫な気分なのだ。

 服用してから7分くらい経っているので、残された余命はだいたい3分。ここから10レベル分の経験値を稼げば生き延びることはできるけど、流石に沼荒野にそれができる程経験値を稼げるモンスターはいないだろう。蟲野郎はレアモンスターだったからそう簡単には再会できないだろうし……

 

「最後だしお礼言っとくよ。加勢に来てくれてありがとうヘルT、おめーが来てくれなかったらジリ貧になって負けてたはずだからね」

「どういたしまして。ロンミン、報酬の確認はしなくていいの?称号とかスキルポイントとか、色々と貰えてるよ?」

「どーせもう使えないデータなのに、確認する意味は無いでしょ……これまでやってきたことやユニークが消えるのは惜しいけど、人生は一度きりって決めてるからね。これはもう仕方ない」

「……確認するけどさ、人生縛りで禁止してるのはリスポーンなんだよね?」

 

 その確認に首肯する。縛っているのはあくまでリスポーンのみ、「ゲーム的な都合」による生き返りを禁止しているので、設定次第だが蘇生は不可能という訳ではない。

 シャンフロは蘇生アイテムがあるタイプのゲームということは知っているが、スタートダッシュ・パスの初期アイテムには無かったし無いということは序盤では手に入らないということなのだろう。なので蘇生はハナから諦めている。

 

「ここでロンミンは死んじゃうけど、それでも第二第三の私がまたこの世界に降り立つさ。その時はまた連絡するから一緒にやろーぜ」

「……そうだね。ゲームだもん、またいつでも一緒にプレイする機会はあるよね」

「そうそう。それじゃあ黎桜、またなー」

「またね、八千代ちゃん」

 

 話していると時間が来た。1まで下がり切ったレベルはこれ以上下がらず、魔魂丸薬の副作用によって代わりに命を徴収される。HPが0になる訳ではない直接の死、それにより『ロンミン』の肉体はポリゴンの欠片となって散っていった。

 見るのはこれで二度目となる、リスポーンとログアウトを選択する画面。次にこの画面と会う時はもっと先のことでありたいなどと考えながら、脳波による操作でログアウトを選択する──

 

「……へ?」

「おかえりー。また会ったね」

 

 ──はずだったが、散ったはずの『ロンミン』は五体満足の状態で沼荒野に寝転がっていた。

 ロンミンとしてここにいる、つまりは生き返っているということになるが……どうしてそうなったのかが分からず、私は黎桜の言葉も聴き取れずにしばらくの間放心状態になっていた。

 

「……ヘルT、何やった?」

「蘇生アイテムだよ。『生命の神薬』」

「……蘇生アイテムって、今の段階じゃ手に入らないんじゃなかったっけ?」

「私を誰だと思ってるの?登録者数350万人を誇る超人気配信者、緋刈黎桜ちゃんだよ!姫プやキャリーしようとしてくるリスナーの一人や二人なんて当たり前に居るんだよ」

 

 ──そうだった……こいつ、ゲーム内での姫プとか普通に受け入れられるやつだったな……

 

 黎桜は顔出しもしている配信者であり、そのルックスの良さからゲームの腕前関係無いファンもかなりの数付いている。プレイヤー同士でアイテムのやり取りができるゲームをしていると、美少女の覚えを良くしようとレアアイテムのプレゼントなり、高難度なイベントでのキャリーなりしてやろうとする輩が少なからず出てくるのだ。

 普通は無用なトラブルを避けるため、そういった行為は断るのが配信者。しかしこいつはどういう訳か「貰うべきではない相手」をしっかりと見極めてその手の輩からの申し出はきっちり断れるので、未だにトラブルを起こしたことは無い。流石は今は発禁になった()()()()で、一つのサーバーを征服しただ一人の女王となった女か……私はやってないから伝聞でしか知らんけども。

 

 何はともあれ、私はまだロンミンとして動けるみたいだ。そのことは感謝しておこう。

 

「……言いたいことは色々あるけど、今回はそのおかげで助かった訳だし言わないでおくよ。その審美眼が曇らないことを願ってるよ」

「ありがとう♪それじゃあリュカオーンの討伐報酬確認といこうかな!」

 

 リュカオーン……『影狼を穿つ』という称号を獲得したことから分かる通り、正確には本体たるリュカオーンの分身だったあいつ。しかし分身とは言えユニークモンスター、報酬にアイテムやスキルポイント以外にも色々貰えている。

 

 リュカオーン討伐報酬

 ・スキルポイント100

 ・アイテム『夜駆の魔眼』獲得

 ・アイテム『影狼の鋭牙』獲得

 ・アイテム『影狼の黒毛』獲得

 ・称号『影狼を穿つ』獲得

 ・特殊状態『リュカオーンの刻傷』付与

 ・特殊状態『導きの灯火』付与

 

 だいたいこんなところか。そして本体に通じるユニークシナリオEX『夜闇を祓うは勇気の灯火』の受注資格も貰った。この導きの灯火とやらで奴の居場所を突き止め、その上で殴り込みに行けばいいということなのだろう。

 しかし分からないのは『リュカオーンの刻傷』とかいう特殊状態だ。身体を確認してみたけど特にそれらしいものは見当たらないし、ステータスを見てもそんな状態にはなっていない。いったいどうなっているのかと考えていると、私達の頭上に黒いモヤのようなものが集い何かを形作るのを見た。

 

「何だよ、また新手か!?」

「今度は何だろ……とりあえず魔法の用意はしt」

「ワウンッ!!」

「……はい?」

 

 今度は何事かと二人して警戒し武器を取るが、モヤはデフォルメしたリュカオーンの生首とでも言うべきフォルムを取る。それまでの禍々しい雰囲気とは一転可愛らしさすら覚えるその姿に、私達は呆気に取られポカンと口を開いていた。

 

「ワウッ!!」

「おわあっ!?」

「わわっ……!?」

「モグモグ……」

 

 ──────────

 :匿名の視聴者さん

 食われた!?

 

 :匿名の視聴者さん

 食われた!?

 

 :匿名の視聴者さん

 まだやることあんのかよ

 

 :匿名の視聴者さん

 流石にもう死なないとは思うけど……

 

 :匿名の視聴者さん

 これで刻傷ってのを付けられるのかな

 

 :匿名の視聴者さん

 まさかこのまま食われないよね……?

 ──────────

 

「うへえ、やっと終わったか……!」

「うう、生臭い……!」

 

 しばらくの間私達を咀嚼していたリュカオーンの首であったが、満足したのか味の無くなったガムのように地面に吐き捨てられる。奴の唾液の生温かい感触からようやく解放されると、私はほぼ全身……ヘルパーT細胞は左腕に、黒い傷痕のような刺青が彫られていることに気付いた。

 やることやって、リュカオーンの生首はまた無数のモヤとなって夜の闇に消える。残されたのは何やら奴の細工を受けた私達であった。

 

「もしかして、これが刻傷ってやつ?」

「だろうね。効果確認してみよっと」

 

 リュカオーンの刻傷効果

 ・格上からのヘイト増大

 ・格下が逃走を積極的に行うようになる

 ・呪い無効

 ・NPCとのコミュニケーションに補正

 ・改宗(コンバージョン)不可

 ・刻傷付与部位の装備は一定時間(累計3分)が経つと破壊される

 

 ──そ、装備の破壊だとおッ!?

 

 3分で装備が壊れるというテキストを見て、慌てて装備欄を確認する……しかし、私の装備枠はどこも刻傷は付与されていなかった。私の刻傷は全てアクセサリースロットに付いていたのだ。もしかしてチェストリアを破壊された時に、そうなると決まったのだろうか。まだレベルの都合で2枠しか開けられなかったのに、何と5枠も解放された上で刻傷に埋められている。私のチェストリア……

 ちなみに、ヘルパーT細胞の方は見た目通り左腕に刻傷が付与されていた。両手装備ができなくなってしまうが、魔法使いのあいつにはそこまでの痛手ではないだろう。あいつ右利きだし。私は左利きだから逆だったらお互いに大打撃を受けたことになっていた……危ない危ない。

 

「報酬はこれで全部かな?突発的な戦闘だったけど最終的に勝てて本当によかったよ。私はこのままセカンディルにデスポーンして落ちるけど、ロンミンはこの後はどうする予定なの?」

「そうだなぁ……エリアボスの位置もそう遠くないみたいだし、倒してサードレマに行こうかな?彷徨う大疫青戦にも参加したいしね」

「……それ、今日の昼に終わったって聞いたよ?」

「……マジ?もう終わってんの?」

 

 何と、昼の内に既にサードレマのレイドモンスターは倒されているのだという。私が呑気にカセキホリダーを楽しんでいる間に、サードレマでは全てがもう終わっていたのだ。この瞬間私はサードレマへ急ぐ理由を9割失った。

 だったら疲れてるし、セカンディルに戻って私も落ちようかなぁ……街で受けた依頼も化石掘ってる内にどれも達成できるようになってたし、その金で装備の修復と強化をして……そうだ、アイテム入れてたチェストリアは壊されてたんだった……

 

「……しばらくカセキホリダーやってるよ」

「う、うん……お疲れ様」

「お疲れ。あんまり夜更かしすんなよー」

「お互い様でしょ。じゃあねー」

 

 別れの挨拶を済ませ、魔魂丸薬の副作用で死んだヘルパーT細胞を見送る。そういえばフレンド登録するの忘れてたな……まぁ身内と分かってるならいつでもできるし後ででいいか。

 さて、また化石掘らなきゃ……通常インベントリにしまってたアイテムと、リュカオーン戦で使ってた武器以外全部ロストしたからなぁ……依頼達成分くらいは補填しとかないと。小さな祝福の効果でNPCの信頼値が上がりやすく下がりやすい状態になってるから、依頼を放置したり失敗した時の対応がちょっと怖いのだ。

 

「よーし、掘るぞー……」

 

 あれだけ楽しかった化石掘りも、義務感でやる上に独りだし激闘の後なせいで、モチベーションが全然上がらない。結局必要な素材を集め終えた時には夜が明ける時間になってしまっていた。

 

「寝よ……」

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□

 

 

 化石掘りを終え、セカンディルに戻って全てのタスクを終えログアウトしたのだが。時計が示す時刻は午前7時、完全に徹夜をして朝飯時まで熱中してしまっていたことを知る。お爺ちゃんが今も生きてたなら、きっとキツく叱られてただろうな……

 

「あ、そうだ……15時から新連載の打ち合わせあるじゃん、だるう……」

 

 もう眠気がヤバいし、寝ようと思ったのに午後から仕事があることを思い出してしまった。出版社で新連載に関する打ち合わせ……あのオフィス、今時ユニバーサルデザイン採用してないから動き難くて嫌いなんだよなぁ、打ち合わせなんてリモートでやれば良いのに……

 色々愚痴ったが、既に決まっている予定に文句を付けても仕方のないこと。悪いのは予定を忘れて夜更かししたこっちなのだから、仮に遅刻したり行けなくなったら責任を取る必要がある。目が醒めるまで寝たかったけど、起きれないと困るのでアラームを12時にセットして私はベッドに潜った。

 

「面倒だけど……これがお仕事だから、頑張らないといけないんだよなぁ……」

 

 面倒事はさっさと終わらせて、また家に帰ってゲームをしよう。そのための英気を柔らかい布団の中で養う私なのであった。

 

「……義体の充電忘れてた」




 八千代は年齢的には高校生だが、学校には行かず漫画家をやって生計を立てている。一応義体のメンテ代なども込みで、自立した生活を送れるくらいの収入は得られている。

ステータス紹介
PN:ヘルパーT細胞
LV:30→1(残りSpt:100)
JOB:魔法使い
SUB:傭兵
152000マーニ
HP:10
MP:120
STM:30
STR:100
DEX:50
AGI:65
TEC:50
VIT:1(+47)
LUC:1
魔法
【ファイアーボール】
【マジックエッジ】
【魔法障壁】
【加算詠唱】
【属性付与『力』】
【属性付与『火』】
【属性付与『風』】
【属性付与『水』】
【属性付与『土』】
【属性付与『雷』】
スキル
・パワースタンプ
・パワースイング
・パワースマッシュ
・蠅叩き:LV7
・死中に活:LVMAX
・ジャストパリィ
・スライドムーブ
・グレートエスケープ
・エスケープランナー:LV3
・アクセル:LVMAX
・隠密行動:LV5
・ハイジャンプ
・魔法適正:小

装備
右:致命の長杖
左:無し(リュカオーンの刻傷)
頭:魔導士の耳飾り(+5)
胴:魔導士のローブ(+16)
腰:魔導士のズボン(+16)
足:魔導士の靴(+10)
アクセサリー:収納鍵チェストリア
アクセサリー:恵みのネックレス

「規定時間以上ノーダメージ」により刻傷付与
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