ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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92:線画の騎士を討て

「………………!!」

「チッ、図体の割に動きが速いな」

 

 向こうの突撃から始まった"拡大解釈(マグニフィセント)"戦、まずは突きを盾で受け止める……が、"拡大解釈"は切先を中心にコマのように回転して軸をズラし、側面に回って追撃を仕掛けてくる。

 避けることは普通にできたが、通常個体よりかなりデカい割に動きが俊敏で油断できない。少しミスればそれだけで手痛い一撃を貰うだろう……ならばそうなる前に削り切り殺すのみ。

 

「すり抜けた……!?」

「……成る程、線の部分以外には当たり判定が存在してないんだね」

 

 反撃の「撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)」を放ったが、"拡大解釈(マグニフィセント)"は鎧を描く線の部分以外に当たり判定が無く虚しく空を切ることとなる。

 突きでは当て難い、攻撃するなら線を捉えられる斬撃か広く面を捉える打撃が良いだろう。シールドバッシュは有効なスキルがそう無いから、斬撃で少しずつでも削っていくのが一番か。

 

「俺が足元を狙って態勢を崩す!ダメージはアンタの方が多く与えられるはずだ、メイン火力は任せるぞロンミン!」

「おうよ、そっちも崩しは頼んだよ!」

 

 オルスロットが足止めと崩しを担当し、その隙に私が重い一撃を入れる連携。

 適材適所、お互いがお互いにやれることを探しできることをやる。それだけで自然と連携の形は出来上がり、強い動きに繋がるのだ。

 

 私が剣を盾で受け止め、オルスロットがその隙を掻い潜り足下を斬る。

 姿勢が崩れたところで私が頭を斬り、オルスロットはその隙に離脱する。"拡大解釈(マグニフィセント)"が復帰してきた時、彼の方にヘイトが向かぬよう私が常に間に入り奴の視界を占有するのだ。

 

 ──ちょっと抵抗あるけど……使うか!

 

 それをやりやすくするために、見た目への抵抗はまだあるが【空母鮟鱇の死面(キャリアーフェイス)】を装備して"拡大解釈"のヘイトを向きやすくする。

 スレーギヴン・キャリアングラーを模したこの頭装備は、頭頂部から垂らされた提灯の放つ淡い光によってモンスターの思考を誘導し、ヘイトを装備者に向けやすくする効果を持つ。使うのこれが初めてなので、その誘導効果の程を確かめさせて貰おう。

 

「ピ○ミン……?」

「やっぱりそう思う?」

 

 オルスロットからしても、やっぱりこの装備の見た目はピ○ミンのように見えるらしい。面構えが邪悪過ぎるけど、まぁ似てるもんね……

 被ることで頭の提灯に光が灯り、敵の意識をソレに向けて誘導する。今は元から私にヘイトが向いているのであまり変わらないが、その真骨頂を知れるのはこれから……オルスロットの攻撃が、"拡大解釈"にヒットしてからだ。

 

「よっと……はい、今がチャンスだよ!」

「ああ……断撃『破城斬』!」

「………………!!」

「っと、良い性能してるねこのマスク!」

 

 攻撃を受け止め、伸び切った腕を伸ばす隙にオルスロットが重い一撃を撃ち込んだ。かなりのダメージが入っただろうし、普通なら彼の方にヘイトが移るだろうが……"拡大解釈(マグニフィセント)"は変わらず、私だけを攻撃し続けていた。

 シュトーレンの作品だ、元より性能が低いと疑いなどしてはいなかったが。これなら期待していた以上と言えるだろう。戦いがやりやすくなる。喜びと共に私も「剛断剣『激震地衝斬』」を放ち、"拡大解釈"の肩を斬り壊す。

 

「………………!!」

「腕が増えた……!?」

「第二形態か、結構削れたみたいだね」

「……そのマスクでまともに喋られると、何だか真面目な感じがしないな」

 

 線の中に隠れていたもう一対の腕が現れ、四本腕となった"拡大解釈"が吠えるように胸を逸らす。第二形態のお出ましだ。

 形態変化というものは、そう簡単には行なってこないのがお約束。何かしらの条件を満たす……今回の場合は恐らく、一定以上のHP減少だろう。そんなすぐにはやらないだろうし、少なくとも3割くらいは削れているはずだ。そう願いたい。

 

 腕が増える。形態変化としては単純だが、それ故にかなり強力な変化である。

 何せ、腕が倍になるのだ。生き物の身体で最も器用に動かせる部位が2倍、しかもフリーハンドなので使い方にも融通が効く。例えば……

 

「………………!!」

「うおっ……!?」

 

 ……盾を掴んで押し退け、身体を曝け出させた上で斬る。それ自体は咄嗟に盾を手放すことで回避できたが、その先に置かれていた拳による打撃までは避けられず、やむなく「相対的立体運動(ソリッド・マニューバー)」を使用して無理やり回避した。

 追撃は終わらない。盾を手放して防御が手薄になったところに付け込み追撃を重ねてくる。腕に持つ剣を増やして手数が更に増える……が、その行為は悪手だ。

 

「………………!!」

「剣を増やして手数アップか、四本腕が随分と自慢みたいだがなぁ……!」

「はあっ!」

「…………!!?」

「こっちは二人だ、四本腕は同じなんだよ!」

 

 攻勢を強め前のめりになる"拡大解釈(マグニフィセント)"の足元を掬うように、オルスロットの剣が命中する。それにより"拡大解釈"はバランスを崩し盛大にすっ転び大きな隙を晒すこととなった。

 四本腕に随分と自信があるようだが、生憎と四本腕なのはこちらも同じ。しかも二人分の頭数があるから自由度もより高い……"拡大解釈"の四本腕ではできない連携だってできるのだ。独りで四本の腕を操るよりも、二人で二本ずつの腕を操る方が巧くて強いってことさね!

 

「さぁ、食らいな!」

「………………!!」

「また腕が増えた!?」

「そろそろ終わりが近いってことじゃない!?」

 

 ──第三形態か、大詰めってところかな?

 

 すっ転んで無防備になった"拡大解釈(マグニフィセント)"の頭に、「撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)」がクリーンヒットする。ダメージの反動で倒れた身体が起き上がった"拡大解釈"はそのままの勢いで腕を更に倍の八本に増やし、怒り心頭といった様子で突撃を仕掛けた。

 流石に、ここまで腕を増やされると手数の差は無視できないものになるだろうが。私にはもうコイツの腕とマトモに勝負をしてやる気は無かった。

 

 この形態変化のペースを見るに、コイツのHPはそう多いものではない。既に、私のステータスならばゴリ押しでどうにかなる程度のHPしか残っていないはずだ。ならば後は、多少の被ダメは無視してでも重い一撃を浴びせて終わらせる。例えこれ以上腕が増えるのだとしても、その形態ごとスキップしてやろうじゃあないか。

 

「オルスロット、時間稼ぎよろしく!」

「ッ……!ああ、任せておけ!」

 

 沢山のスキルを発動することになるので、準備には少し時間が掛かる。なのでオルスロットにそれまでの時間稼ぎをお願いしたのだが、こんな短いセリフでも意図を読み取って快く引き受けてくれた。

 

 ──これはしっかりと成功させないと、だな!

 

 盾を弾かれて空いた左手に、【震天の孤毒剣(ロンリー・ウェーバー)】を装備して超過機構を発動。『賦活性(リベレト)』でステータスを強化する。

 

 バフスキルも大盤振る舞いといこう。

 

 戦闘時間が長い程補正が大きくなる「アドレナリン・マックス:LV.MAX」。古城に入ってからずっと戦闘は継続している扱いなので、補正値は上限にまで達している。

 発動してから最初の一撃を確定クリティカルにして、更にレベルが高い程クリティカルの補正を大きく引き上げる「女神は我が手の中にあり(コント・インシデンス・ファイト):LV.MAX」。

 相手の体格が自分より大きい程補正が掛かる、八本腕になったことで効果が上がった「一尺蟲魂」。

 自分のHPを削ることで、一定時間削ったHP分のバフを齎す「蒼天の幻」、自分の被ダメが大きくなる程バフが掛かる「ラスト・ライブス」、純粋にSTRを大きく上げる「剛力無双」。

 

 仕上げに、封翔の撃鉄を起動してAGIを三倍化して準備は完了。封虹の撃鉄も起動することはできるけど、アレは単発火力が欲しい場面とは相性が悪いので今回はナシだ。

 

「準備OK、オルスロット!」

「ああ、後は……任せたぞ!」

 

 私の合図を受け、オルスロットは視覚強化スキルを発動。確実に攻撃を当てられるようお膳立てを整えた上で、覚えたての不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)偉風導動(リーガルック)」を発動した。

 偉風導動の効果は単純、攻撃時に風属性が付与されるというものだ。攻撃性能そのものも去ることながら、今回のメインは風の発生によるノックバックの強化。ティーバッティングのように"拡大解釈"を私の元へと打ち届ける。

 

「………………!!」

「いい根性してるぜ、だが……終わりだ!」

 

 強烈なノックバックで吹き飛ぶ"拡大解釈"、しかし飛ばされながらも腕は私の方を真っ直ぐに捉え攻撃の態勢を取っている。

 転んでもタダでは起きない、そういう生き汚い姿勢は私的に好感度高いが……残念だけどここでお前には死んで貰う。あくまでお前は今回の目的に至るまでの通過点、あまり長々と構っていては本来の目的を見失いかねないからな。

 

 使用するスキルは「剣神断覇」、単純に攻撃の威力を上げるスキルだが……ここまでに発動したバフによって強化されたステータスは、その威力を更に絶大なものへと引き上げる。それが炎斬『熔命』と震天の孤毒剣で二本分だ。

 私の剣と、"拡大解釈"の剣がぶつかり、そして私の剣が打ち勝つ。針金を折り曲げるようにぶつかり合った剣が切先からひしゃげ、勢いそのままに鎧ごと中の本体を斬り──いや、圧し潰した。

 

 床板が爆ぜ、粉塵が舞う。煙が辺り一帯を包むがオルスロットの起こした風で払われる。煙が晴れて景色が鮮明になった時、そこにはもう──

 

「やったか!?は、必要無さそうだね」

「……それを言ったら復活してきそうだな」

 

 ──"拡大解釈(マグニフィセント)"の姿は、どこにも無かった。

 

不世出(エクゾーディナリー)……解明(クリア)!】

 

【討伐対象:輪郭の騎士(コントゥアル・ナイト)拡大解釈(マグニフィセント)"】

 

【エクゾーディナリーモンスターが撃破されました】

 

【称号『騎士の誉れ』を獲得しました】

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)拡大改尺(マグニフィセント)」を修得しました】

 

「よし、終わり……じゃないけどお疲れ様!」

「これで先に進めるな……何があるんだ?」

「その前にドロップあったから確認しとこう、スキルの内容も……お、良いねえ」

 

 "拡大解釈(マグニフィセント)"を撃破したことで、スキルとは別に通常個体には無かったドロップアイテムまで手に入れることができていたので確認する。

 まずはスキルの方、「拡大改尺(マグニフィセント)」という名前で攻撃の当たり判定を伸ばすことができるそうだ。実際に使ってみないことには詳しいことは分からないけども、「偉風導動(リーガルック)」と同様にシンプルでそれ故に強力なスキルであると言えるだろう。リキャストタイムが短くて再利用がし易いのも好印象。

 

 そしてアイテムの方は……「騎士団隊証」という輪郭の騎士(コントゥアル・ナイト)を構成していたあの線で作ったメダルのようなものだった。アクセサリーらしい。

 その効果は……『装備している間、輪郭の騎士(コントゥアル・ナイト)が敵対状態にならない』というもの。この古城の中でしか意味の無いアクセサリーではあるけれど、この古城の中では絶大な効果を発揮してくれる良アクセサリーだ。アイツちょっと歩くだけでもワラワラ湧いてくるし、マジで鬱陶しかったからこの効果はありがたいぞ……早速だけど装備しとこう。

 

「よし、じゃあ開けるよ」

「いつでも大丈夫だ」

 

 確認も終え、恐らく最後の扉を開ける。

 中にも敵が居ることを警戒していたが、特にそんな気配は無く物も一つを除いて何も無い……そんな殺風景な部屋であった。

 

「ハンマー……?」

「随分とデカいな、装備するには相当なSTRを要求されそうだ」

 

 部屋に唯一置いてあった物は、頭から柄尻まで全てが錆びついた大型のハンマー。私どころかオルスロットのアバターよりもデカいので、マトモに振り回すことすら普通は困難だろう。

 罠は無さそうなので、恐る恐るではあるが触ってどんなものかを確かめてみる……すると、触れた途端にあっさりとアイテム化しインベントリアの中へ入っていった。取り出してテキストを確認してみるが……どうやら武器という訳では無さそうだ。

 

「【朽ち果てた破城鎚】……成る程、つまりはそういうことだね」

「……そういうこと、か」

 

 そのテキストを見て、このアイテムの使い道を二人して察する。

 

『いつか来たる時を待ち続けた大鎚。最早その身は風前の灯だが、使命を果たすまでその魂が果てることは無いだろう』

 

 破城鎚というアイテムであること、逆説的に目的を果たしたら壊れる使い捨ての性能であること、そしてこれがこの古城にあり、そしてこの古城でこれを使って壊したいような所と言えば……

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「ま、ここだよなぁ」

「寧ろ、ここじゃなかったら怖いな」

 

 地下へ直通の道を隔てる、アポート対策のされてしまったエレベーターの扉。コイツをこの破城鎚でぶち抜けということなのだろう。

 躊躇うことは何も無い。長らく待たせてしまったようだが、その勤めを果たして貰おう。

 

 使用ステータス条件は問題無し、線画野郎共もアクセサリーのおかげで邪魔はしてこない。巻き込みにさえ気を付ければそれで十分だ。

 念のため、スキル「飛天烈波」を発動して威力を上げておく。巻き込まれないようオルスロットが十分に距離を取ったのを確認して……さぁ、思いっ切りブチかませ!

 

「……開けた!」

「成功、だな!」

 

 ──ありがとさん、お疲れ様。

 

 分厚い扉をこじ開け、役目を果たした破城鎚が塵となって消え去る。

 その様を最後まで見送ってから、壊れた扉に眼を向ける。勿論、下へ向かえるエレベーターなんて親切なものは置かれていない、あるのは底の見えない狭い大穴だけだ。

 

「これを降りるには骨が折れるぞ、ロープを用意して慎重に……」

「必要無いよ」

「え?……まさか」

 

 オルスロットがロープを用意しようとするが、そんなまどろっこしい物は必要無い。下まで一直線なのだから、単純に飛び降りれば良いじゃないか。

 抵抗できないようオルスロットの首根っこを掴み上げ、俵様抱っこの形を作る。そしてそのまま……有無を言わせる暇も与えず、私はオルスロットごと大穴へと飛び込んでいくのであった。

 

「アイ、キャン!フラーイ!」

「ま……待ってくれロンミン!せ、せめて心の準備くらいはさせてくれェー……ッ!」




※ちょっとした先出し
三界王装(アルカディア)】シリーズ
 現在シュトーレンがカムイ素材を加えて再加工中のロンミンに渡るはずだった防具一式。
 一式で装備することで、あらゆる環境に適応しあらゆる場所へ行けるようになる。





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