ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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94:死が二人を分つとも

 さて、特に遭遇アナウンスも無くいきなり始まった"綺憶喪失(ロストメモリー)"戦。

 以前に戦った時は、先客(ガル之瀬)がかなり削った手負いの個体だったこともあり殆ど瞬殺だった。万全な状態でエンカウントした今回は前回程簡単にはいかないだろうけど……それでも、私が苦戦することはまぁあり得ないだろう。

 

「…………!!」

「ハッ、攻撃が遅えよ!」

 

 "綺憶喪失(ロストメモリー)"の剣を避け、返しの突きを燃え盛る頭部に直撃させる。そのまま背後に回り、奴が方向転換する隙にもう一発。一度距離を取ろうとするのを離さず追いかけ、更にもう一発。

 やはり、コイツへの対処は難しくない。流石に楽ちんとまでは言わないが、それでもさっまで戦っていた"拡大解釈(マグニフィセント)"の方が手強かったぞ。考えられる原因は……二つ程か。

 

 まず、"拡大解釈(マグニフィセント)"と比べて出現タイミングが早いせいでその分格が落ちてしまうこと。

 "綺憶喪失(ロストメモリー)"は中盤のモンスターであり、向こうと比べるとレベルもステータスも低く、体格や身体構造も全く違う。下半身が馬になっているせいで小回りが効かず、四本腕による手数も、体格で押せるパワーも無いとくれば、そりゃあ比べたら見劣りしてしまうのは当然のことだろう。よりにもよって、直前まで"拡大解釈"と戦ってたしね……

 

 そして、私自身のスペックの向上だ。

 初めて奴と戦った頃、私はまだレベル30くらいだったしスキルもステータスも今と比べると天と地程の差があった。しかし今の私のステータスは、あの頃の7〜8倍は軽く超える程のもの。前回でも手負いとは言え瞬殺した相手に対して、余りにもオーバースペックが過ぎると言うものだ。

 

「食らいな、「撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)」!」

「…………!!」

 

 その上で、スキルの性能も上がったとなればこうも一方的になるのも当然と言える。

 撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)で頭部を爆破貫通してやり、怯んだところに更に上段斬りを二連撃。この一撃で"綺憶喪失"の頭部を模る炎が消え去り、その中に隠れていた弱点らしきものが露わとなった。

 

 ──そう言えば、ガル之瀬がトドメ刺した時も最後頭の炎が消えてたな……

 

 あの時はそのまま倒したので、まじまじと確認する程の余裕は無かったが。しかし、倒すことそのものが目的じゃない今回はトドメまではいかず『見』に回る余裕がある。

 取り敢えず、まずはスキル無しで一度小突いてみよう。「相対的立体運動(ソリッド・マニューバー)」で攻撃を回避しつつ頭上に回って……あらよっと!

 

「うーん、変な感触だな……!」

 

 微妙な触り心地だ。表面は硬いんだけど強く押せば潰れそうな程度で、中身は普通に貫通できそうな柔らかさと弾力を感じる。肉質的には弱点と呼んで良いのかちょっと曖昧なところだ。

 例えるなら、そう……道端に履き捨てられて乾燥したガムみたいな。アレ、踏んじゃったら取るのにめちゃくちゃ梃子摺るんだよなぁ……おっと、話の脱線が酷いぞ軌道修正しないと。

 

「オ……!……………!!」

「喋った……!?」

 

 もう一発、追撃の縦斬りを入れようとしたところで"綺憶喪失(ロストメモリー)"に変化が訪れた。シャンフロのモンスターは基本的に吠えるか呻くくらいしかしないのに、何と喋り出したのだ。

 

 ──いや、首が無いのにどうやって……?

 

 いや、そのツッコミは今は野暮だ。そんなことよりもちゃんと変化があったことを喜ぼう。

 凝り固まった何らかの部位を、炎斬『熔命』の熱で溶き解すことで"綺憶喪失(ロストメモリー)"に変化が訪れる。どうなるのかは分からんけど……"禍刃剥命(エンプレスキラー)"みたいに正気に戻るのかな?首が無いのは変わらないから通常種に戻るとか?

 

「確かめてみないと、な……ッ!」

「…………!!」

「うおお!?危ね……っ!」

 

 ──お前も来たか、"禍刃剥命(エンプレスキラー)"!

 

 もう一度「撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)」をお代わりしてやろうとしたが、その前にやって来た横槍の鎌を避けるのに動作を費やされて不発に終わる。始めに探そうとしていた"禍刃剥命(エンプレスキラー)"が、恐らく戦いの騒ぎを察知してやって来たのだ。

 体勢を整え直している間に、時間が経ったことで"綺憶喪失"の炎も復活し、再び偽の頭部が形成されてしまう。やり直しになるか……HPも回復してるのかな?してないなら、もしかしたらやり直す前に倒してしまうかも知れないけど。

 

「…………!!」

「…………!!」

 

 ──うわ、大怪獣バトル始まったよ。

 

 流石に、二対一にもなればそう上手くはいかなくなるかな?何て考えたが。その前に私そっちのけで"綺憶喪失(ロストメモリー)"と"禍刃剥命(エンプレスキラー)"が、凄惨な殺し合いを始めてしまった。

 

 ──うーん、割り込む余地が見当たらんな。

 

 私相手の時には全くしていなかった機敏な動きで翻弄し、キレのある攻撃を"禍刃剥命"に仕掛けていく"綺憶喪失(ロストメモリー)"。

 即死、鈍足、毒……何でもありな状態異常を大量に仕掛け、鎌と大剣、自在に伸びる影の連携で"綺憶喪失"を追いかける"禍刃剥命(エンプレスキラー)"。

 

 両者の攻撃が激し過ぎて、下手に介入すれば返り討ちに遭うだろう状況になっている。いや、私のステータスなら大丈夫だとは思うけど……ユニークだし失敗したら面倒だから慎重にいきたいのだ。

 確実に、まずは"禍刃剥命"の方を正気に戻せるタイミングを待とう。狙うのは、奴の操る鎌が一直線に揃う瞬間……その時を逃さず動けるように、事前に武器を剥命の惨鎌(デトラモルテ・ファルペシム)に変えておく。

 

「本体はともかく、あの武器持ってる方は普通の攻撃も効くからな」

 

 "禍刃剥命(エンプレスキラー)"は、黒死の天霊(トゥルー・クワイエット)本体とそれが被っている『亡国の悪姫霊』の皮、歪められて鎌の持ち手にされている『亡国の悪霊群』複数で構成されている群体型のモンスターだ。

 悪姫霊を殺し、喪失骸将(ジェネラルデュラハン)の元となった人物の首も取り返して、それでも尚尽きない怨みによって成仏せず彷徨い続けている……そんなモンスターであるため、撃破にはただHPを0にするだけでなく『お前の復讐はもう終わった』と、現実を突き付ける一手間が必要になる。

 

 そうすることで、正気に戻った黒死の天霊(トゥルー・クワイエット)は成仏し晴れて撃破扱いとなる……だが、今回はそれだけではダメだ。何せ、目の前に変わり果ててしまった大切な人が居るのだから。

 どちらかだけではいけない、ただ二体を倒すだけでもいけない。両方を救って、初めてこのユニークはクリアとなるのだ……はず、多分ね!

 

 それを成すためにも、まずは"禍刃剥命(エンプレスキラー)"の方から正気に戻してやる。

 そうだな、ざっくり流れを纏めるなら……

 

 ①"禍刃剥命(エンプレスキラー)"を正気に戻す

 

 ②"綺憶喪失(ロストメモリー)"の炎を無力化して、"禍刃剥命"の持ってる頭部を返してやれる状態にする

 

 ③首が戻って正気に戻った二体が引き合い、成仏してシナリオクリア!

 

 ……てな感じになるか。具体的にどうやってそれを成すかは、まぁやりながら考えるとして。

 ①のやり方は分かる。まずはそこからだ……鎌の位置が揃ったこのタイミングで仕掛けに行くぞ。奴の心を縛っているものを取り除くのだ。

 

 ──こ、こ!

 

「…………!!」

「いけないよなぁ、よそ見なんてしちゃあ!」

 

 月下美人(コードムーン)の切札『絶世奥義:月華爛漫(ミステルミナ・ムーンフォース)』を発動。月の力でステータスを三倍化する。

 "禍刃剥命(エンプレスキラー)"の鎌が一列に揃うタイミングでブチかます……『絶世秘技:花天月地(ムーンフォール)』。月の浄化力を極限まで増幅させた一撃で、鎌の持ち手を担う悪霊群を一網打尽にしてやる。

 

 ──まずは……鎌、取ったりィ!

 

 "禍刃剥命(エンプレスキラー)"に歪められているとは言え、悪霊群はただの雑魚モンスター。最強レベルの聖浄な力と剥命の惨鎌(デトラモルテ・ファルペシム)の即死効果に抗えるはずもなく、一瞬にして断末魔の声も上げずに散っていった。

 

「…………!!」

「ま、こっち来るよな……でも!」

 

 戦闘中にいきなり武器を壊され、当然怒り狂った"禍刃剥命(エンプレスキラー)"はその矛先を私へ向ける。掴み沈める影と数多の病魔を宿す黒霧が、360度逃げ場を失くすように囲い襲い来る……のを、意に介さずに私はそれを突っ切り破った。

 

 ──お前の技は、即死以外は問題無いんだよ!

 

 "禍刃剥命(エンプレスキラー)"との戦闘も、5回目ともなれば流石に立ち回り方は分かっている。何ができて何ができないのかも、例え初見の技があったとしても予測の付く範囲でしかない。

 思い返せば、もうそんなに戦ってるのか……エクゾーディナリーって貴重だったんじゃ?こうなると通常種にも会ってみたいな……とと、まぁ要するに"禍刃剥命"相手は自信があるってことよ。

 

「…………!!」

「お前は……後!」

「………………!!?」

 

 自慢の状態異常が効かないことに驚いているのか動きが止まった"禍刃剥命"を一旦置いておいて、"綺憶喪失"へ矛先を移しこの場から退かす。

 今の私の状態だと、武器で攻撃するとそのまま倒しちゃうかも知れないので、仕方無いから「戦砕琥示」を付与したキックでぶっ飛ばすに留める。

 

 これで邪魔は無くなったが……その対処のために一手分使ったことで、"禍刃剥命"に落ち着けるだけの時間を与えてしまう。状態異常が効かないならと直接即死させるように動いてきた。

 これはもう仕方無い。奴に時間を与えた時点でこうなることは分かっていたし、食い縛りすら無視する即死耐性だけは今も持ってないからね……でも、だからって死んでやるとは限らないぞ。

 

「…………!!?」

「残念ながら、即死耐性は無いんだけどな……その対策はちゃんとあるんだよ」

 

 私には残機と呼べるものが幾つかある。

 

 シナリオ開始時に装備させられた、【禍つ魂に安息あれ】の持つ蘇生効果。

 

 不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)綺憶像失(ロストメモリー)」による三度の蘇生。

 

 そして、【月天霊装(プルーク・ラ・ルナ)】による蘇生効果。

 

 上二つに関しては、即死の飛び交う環境であるが故の救済措置……というか、シナリオの前提を考えれば初めからある蘇生方法だ。元よりある程度即死させられることを前提としているのだろう。

 しかし、蘇生ができるとは言えそれで簡単に死んでやるつもりは無い。なので、初めて試すことにはなってしまうが、『即死をすり抜けられるかも知れない』手段を使ってみた……そして、その目論見が無事に的中してくれた。

 

 アクアリエ謹製アクセサリーの一つ、【偽月蠍人形】……戦闘中、一度きりだがHP・MPの全回復と状態異常のリセットをしてくれる回復に特化したアクセサリーだ。

 使用上、HPが0になってから実際に死亡判定が下されるまでは少しの間がある。その間に魔眼の力で正確に割り込み、偽月蠍人形の効果を発動させて全回復。死ぬ前にHPが1以上に戻ったので死ぬことは無くなったという訳だ。

 

「悪さをするのは……その、皮よぉ!」

「…………!!」

 

 即死を防いでも油断しちゃいけない。次の行動に移られる前に決め切らなければ、第二第三の即死攻撃で今度こそ殺されるからだ。

 まず、『撃滅の灼光(ムーンライター)』で大剣二刀流をしている両腕を撃ち破壊。この腕は悪姫霊のものなので攻撃はしっかり通る……月下美人(コードムーン)による攻撃だから、関係無いけど一応ね。鎌を振る手間要らずですぐに攻撃できるからこの場面だと最適解よ。

 

「……………!!」

「これで終いだ、正気に戻りな!」

 

 これまでで一番大きな隙に、頭上へダイブして掴み掛かり悪姫霊の皮を引っ剥がす。そして、月華爛漫状態で全身月光人間になっている今の私なら、本体から離れた悪姫霊はこうして触れているだけでも聖なる力でダメージを食らい続ける。

 復讐を一度は完遂し、それでも尚尽きぬ怨みで追い続けた愛する人の仇。その余りにも無様な姿を目の前で見せ付けてやる……その心が落ち着き、溜飲が下がるその瞬間まで。

 

『……嗚呼、なんて無様な姿なの』

「落ち着いたかい」

『ええ、ありがとう。これで……』

 

 悪姫霊が聖なる力に焼かれ、燃え尽きるのとほぼ同じ頃。憑き物の取れた"禍刃剥命(エンプレスキラー)"は正気を取り戻し、『ヨハンナ』へ回帰した。私の分かり切った質問に、バツの悪そうに答えている。

 

「ちょっと待ちな、まだやることは残ってるよ」

『……?』

「アンタの旦那さん、まだ戻してやってないだろ」

『ッ……!ヴィンセント様!?』

 

 "禍刃剥命"だった頃の記憶は曖昧だったのか、ヨハンナはぶっ飛ばされた後頑張って戻って来たらしい"綺憶喪失"に対して、初めて見たかのような反応をする。

 そして、私の言葉の意図を優秀なAIでしっかりと察知し落ちていた大剣を拾い直す。どうやらこのまま協力して②の作業に移れそうだ。悪霊共だけを狙って本体にはノータッチだったから、まだ戦えるだけの余裕を残せているんだろう。

 

『ねぇ、貴女……』

「皆まで言うな、こっからが本番だぜ」

『ありがとう……嗚呼、ヴィンセント様!どうか、正気に戻ってくださいませ!』

「絵面が怖えんだよなぁ……」

 

 正気を失い、変わり果ててしまった愛する人を取り戻さんとする女。

 シチュエーションは良いけど、動く首無し死体とその生首を持つ女っていう構図はちょっと……絵面的にエグ味が強いよね。シャンフロは健全なゲームだからちゃんと規制入ってるけども。まぁ、絵面に関しちゃ両方アンデットな時点で今更か。

 

 絵面についてはさて置いて、どうやって"綺憶喪失"を正気に戻すかだ。

 鍵となるのは頭部の炎……アレが失くした頭部の代わりになっている以上、どうにかしない限りは首を戻してやることはできない。如何にしてあの炎を掻き消すか、それが問題だ。とは言えヒントは既に得ている……少しずつでも、試していこう。

 

 ──さ、やりますか!




 Q:ロンミンって、どんなタイミングでシャンフロの知識得てるの?
 A:リアルでwikiを漁ったり、ベヒーモスの資料を漁ったりして。特に本文では描写されていない間にやっている。
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