ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「…………!!」
『ヴィンセント様……気をお確かに……!』
さて、ヨハンナが頑張って"
さっき一度戦った時を振り返ってみよう。何度か攻撃を当てたところで、炎が消えて弱点らしきものが露わになったが。時間経過で再点火されたことで狙い直しせざるを得なくなったし、そうしようとしたところで"
──アレを壊せれば良いんだろうけど……
アレの感触は、さっきは道端のガムに例えたけどより近いのはあれだな……スーパーとかで売られてるでっかい牛脂。
アレが何なのか、というところまでは流石に分からないけど。それでも"
そこで、【炎斬『熔命』】の出番という訳だ。
"
「オラ食らえ、「
「……………!!」
幸か不幸か、既に『
遠慮無くスキルをぶちかまし、炎が一旦消えるまでラッシュを仕掛けていく。ヨハンナが自在に動く影で"
「オ……!」
『ヴィンセント様、正気に……!?』
「まだだよ!ホラ、首元のアレどうにかしないとまたすぐ元に戻っちまう!」
『そんな……!ならば、私が……っ!』
ぬか喜びはさせられないと、まだ一手間要ることをヨハンナに伝える。すると彼女は一瞬落胆した様子を見せるも、すぐに気を取り直してアレの破壊に動き出した。
──あっ、ちょ……動きが速いぞ止めろォ!
制止しようとするも間に合わず、ヨハンナの大剣がアレを斬り潰すべく振り下ろされる……しかし傷一つ付けることすら叶わず、カキンという軽い音と共に弾かれて大きな隙を晒した。
炎が消えて苦しそうにしていた"
──ふぅ、
仮に
『ごめんなさい、私のせいで……』
「いいから、次はコレ使ってみな」
『これを……?分かった、貸してもらうわね』
アレを壊すためには炎斬『熔命』のような火属性を持つ武器や、アンデットによく効く強い聖属性が必要になるのだろう。どちらもアンデットであるヨハンナには用意できない属性だ……なので、私の輝晶剣ディアナを貸し出す。これならさっきみたいな事故は起きないはずだし、ヨハンナも強気に出られるだろう。
ゴタゴタしている間に"綺憶喪失"の頭の炎が再点火してしまったので、ここからは第二……いや、最初に一回消してるから第三ラウンドか。またヨハンナと協力して追い詰めていこう。彼女もスペックは高いし、そう苦労はしな……?
「……………!!」
『ヴィンセント様……!?』
「炎が広がった……?』
──第二形態……このシナリオ限定の状態かな?
心強い味方の居る分、どうやら楽はさせてくれないらしい。通常戦闘では見られなかった形態変化が発生……これまでは頭上でだけ燃えていた炎が、上半身全体を覆うようになった。
熱によって鎧が溶けた影響か、心なしか苦しそうな挙動をするようになり、鈍重だった動きは身軽になったことで素早くなった。
「熱っつ……!?成る程、スリップダメージまで完備してるのな……!」
攻撃しようと伸ばした手が炎に触れた瞬間、爆速のスリップダメージを受けてHPが一気に残り5%ラインに達してしまう。引っ込めるのが遅れてたらそのまま焼き殺されてたな……さっきまではそんなこと無かったのに厄介なものだ。
ステータスの表示によると、これは『獄炎』という特殊状態らしい。状態異常なら月天霊装で無効化できるから、特殊状態にさせられるのなら食らってしまうのも納得だ……まぁ、そこに得心がいったとてだからどうしたという感じだが。
いくら私のHPが高いとは言え、防御無視の割合ダメージはどうしようも無い。
対策としては、獄炎に触れないようにするか致命的なダメージを食らう前に消火するかの二択になるだろう。炎斬『熔命』ではリーチ的にほぼ確実に触れることになるし、別の武器を使おう。
「さて、頼んだぜ【
雷炎の弾丸を放つ【
機敏になったとは言え、まだまだ見失ったりはしない程度の速度なので狙いは問題無い。ヨハンナが引き付けてくれる背後で撃ちまくり、少しずつ炎の勢いを弱めていく。一番威力の高い通常弾ならそこまで時間は掛からないはずだ。
「…………!!」
『ッ!そっちはダメ……!』
──ま、撃ち続けてりゃそりゃあこっち来るよな!
ダメージを取り続けたことで、ヨハンナに向いていたヘイトが私に向き直る。確かに接近戦は本意ではないし近付かれてはやり難いが……こっちに来るのは数分遅かったな。
既にお前に与えたダメージも、電力のチャージも十分に溜まっている。この一撃は──お前の何よりも更に疾いぞ!
「
加えてもう一つ、残スタミナ全てを消費して抜刀斬りの速度を強化する
「晴天流──「疾風」!」
「…………!!?」
攻撃をされたことにダメージを受けて初めて気付く神速の抜刀術、正中線をなぞるように放たれた一撃が"綺憶喪失"の炎を剥ぎ取った。
他のスキルの重ね掛けも無く、「疾風」単体でこれ程の威力……発動後にスタミナが0になってしまうことを考慮しても尚強力だ。これでもまだ強化を残しているのだから将来が楽しみである。
──ま、あと少しの命なんだけどな!
そんなことより、アレの破壊だ。炎が消えた今ならダメージを与えられる、再点火のサイクルをなるべく少なくするためにも、一回で多くのダメージを与えてやらなければ……
『どうか……元の貴方に、戻って……!』
──わーお、逞しいねぇ。
私が動くまでもなく、ヨハンナがアレを破壊してしまわれたよ。始めの大剣じゃなくてディアナなら壊せるはずだと貸してあげたけど、まさか一撃で壊してみせるとは想定外だ。
女の情念、恐ろしや……でもこれで、首を返還できるようになったはず……っ!?
「まだ燃えてる……!?マジかよ!」
『そんな……まだダメだというの……!?』
首元から股座まで貫通するようにディアナを突き刺され、アレは確実に破壊された。それなのに"綺憶喪失"は何事も無いかの……いや、下半身の馬部分まで炎が広がっていた。
第三形態……もう行くところまで行ったって感じだけど、まさか今までのやり方は間違ってたということなのか?いやでも、確かに形態進行はしているいや寧ろ後退しているという可能性もあ……
「オ……オ…………!!」
『ヴィンセント様!心まで、魔に堕ちてしまわれたというのですか……!?』
──心……何か、引っ掛かるような……?
「心……人の心とか……」
──あ……もしかして、そういうこと……か?
アレさえ破壊できれば、炎は消えると思っていたのにそうはならなかった。
いったい何がいけなかったのか、何を失敗と呼べば良いのか……考えてみて一つ、アイデアのようなものが頭に思い浮かんだ。これが合っているという確証は無いが、確信はある。きっと上手くいく……はずだ、今度こそそのはずだ!
「……人から外れた部分を全て外す」
『……え?』
大前提、"
故に、炎さえどうにかできるなら人の道に引き戻せると思っていた……あからさま過ぎて、もう一つの人の道を外れた部分を見落としていた。消火にはそちらの対処も必要だったのだ。
「馬だ。下半身の馬部分、あそこもヴィンセントから切り離そう。人の道を外れた部分を全て切り離して身体だけでも人に戻すんだ」
『ッ!ならば……!』
「それは私がやるよ。君はその生首……しっかりと守っておきなよ!」
全身を獄炎で覆われた今、ヨハンナでは触れることもキツいだろう。彼女に死なれた困るしここは言い出しっぺとして私が動くべきだ。
武器は……
「頼むぜ、【煌月杖ララ=ルーナ】」
アンデット特効の聖なる力を持ち、かつ長物なのでリーチも問題無いララ=ルーナ。コイツにこの場面は頼ることにしよう。
ただ、問題があるとすれば……長物を使って戦うには些か"
──ま、そういう時に取る手は一つだ。
「『
ララ=ルーナを鎌モードにして、構えを取り"綺憶喪失"を迎え討つ。
魔眼込みでも捉え切れない程速いなら、そういう時に取るべき方法は一つだけだ。そう……攻撃の瞬間を狙ったカウンター。
「…………!!」
「……ッ!はっ、フェイントが上手いじゃないか」
突っ込んでくる所へのカウンター。自分の速度で守る間も無く真っ二つになれ……と、タイミングを合わせてララ=ルーナを振る。
タイミングは完璧だった、しかしそれを予期していたとしか思えない挙動を"綺憶喪失"は取った。鎌の間合いにギリギリ入らない所で急停止し、被弾を回避した上で反撃の機会を作ったのだ。
体勢が悪過ぎる。
大振りな武器である鎌を振り切ったことで体勢を崩していた私には、マトモに回避行動を取ることはできずスキルの発動も間に合わない。"
「…………!!」
「捕まえた。もう逃さんよ……
──できれば、さっきで仕留めたかったけど……元よりこっちが本命さ!
カウンターで仕留める、それが無理なら蘇生を活かして無理やり自分自身に縫い留める……そういう二段構えの作戦だった。
獄炎のダメージは普通に痛いけど、HP満タンからなら超過機構発動まで耐えられる。そしてコイツの火力は、アンデットの"
「人に戻りな、ヴィンセント!『
「…………!!」
獄炎に身を焼かれながら、月の大いなる煌めきを纏ったララ=ルーナを振り下ろす。
狙うは勿論、腹部。奴を異形の魔物たらしめている部分を切除し、人の部分だけを残す。それが正解だったのか、単なるダメージの蓄積によってかは分からないが……彼方へ飛んでいく"
『ヴィンセント様……貴方の首は、ここに』
上半身の飛んでいった先には、ちょうどヨハンナが待ち構えていた。後生大事に抱えていた彼の首を返し、断面をくっ付ける。
アレも壊したし、馬も切り離した、獄炎も消火できている……これ以上やれることは思い付かないが果たして、ちゃんと戻るのだろうか?何かあればすぐ動けるよう、警戒だけは怠らずに二人の様子を少し離れた場所から見守る。
「ア……あ……よは、んな、か」
『ヴィンセント様……!お分かりになりますか!?私です、貴方のヨハンナでございます!』
──成功か。ホント、良かった……
「めい、わくを、かけた……すまな、い」
『そんな……そんなことはありません!私は貴方のためならば何でも……ッ!』
「おか、げ、で……人と、して、いける」
『ヴィンセント様……』
──おーい、私のこと忘れてないか!?
ここにお前らをちゃんと引き合わせた立役者が居るんですけどー!?私の尽力は無視っすかー!?
「さよ、なら、だ。ヨハンナ……また、いつか……その、ときも、お前と……」
『……ええ。さようなら、ヴィンセント様。いつかまた……何処かの世界で再び、巡り逢いましょう』
──消えた……成仏した、か。
私の内心の叫びをガン無視して続いたイベントは終わり、"
これが最良の終わりなのかどうかは、私には分からないけど……二人はいつかまた、生まれ変わっても出逢い恋に落ちるのだろう。きっと、この別れも二人には一時的なものに過ぎないはずだ。この結末を齎した物として……その
『ありがとう。おかげであの人を、人として逝かせてあげることができたわ』
「礼には及ばんよ、お安い御用さ」
『ふふ……強い人なのね』
愛する人との別れを終え、私の方へ向き直ったヨハンナも存在感が薄くなってきている。本懐を果たしたことでこの世に己を縛る未練が消え、倒すまでもなく成仏できるようになったということか。
その顔に、暗い翳りは見えない。先の未来など分からずとも、この結末に後悔は無い……そんな感じの微笑みを湛えていた。ハッピーとは言わずとも、グッドエンド位にはできた……のかな?
『時間ね。私も逝くわ……最期に、貴女の名前を教えてくださるかしら』
「ロンミン。しがない開拓者だよ」
『本当にありがとう、ロンミン。どうか……貴女の未来に、幸いがありますように』
「……バイバイ」
こうして、ヨハンナも成仏して消えた。先程まで立っていた場所に、一つのアイテムを遺して。
拾う同時に、アナウンスが表示される。二体のアンデットだった二人の結末は、悲しい別れで終わってしまったけれど。いつか、何処かでまた二人は出逢い、幸せになるのだろう。
【その身が、魂が果てようと、愛は不滅。ヴィンセント、ヨハンナ……二人の行く末に、幸いあれ】
【ユニークシナリオ『
【称号『暫しの別離れ』を獲得しました】
【称号『いつかまた、何処かの世界で』を獲得しました】
【称号『永劫不滅の愛』を獲得しました】
【アイテム『隣り合う想い』を獲得しました】
【
そう思わせてくれるような、優しいフレーバーテキストであった。
【
・『
・発動から10分間、自分を含む味方・敵が死亡する度にその戦闘中のみ適用される特殊なスキルポイントを発動者に付与する。ポイントはどのステータスにも振り分けられ、パーティメンバーにも分け与えることが可能。
・リキャストタイムは24時間だが、修得者が命を奪う程短縮される。
評価・感想など、お待ちしております。