ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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 1話で収めるためにかなり長くなりました


97:神代最強の男

 さて、旧大陸でやっておきたいことは大体終わらせることができた。

 そろそろ、ずっと情報だけあって縁の無かった新大陸を目指してみようと思う……が。その前にもう一つだけ旧大陸(ここ)でもできることをやっておきたい。

 

「それで、アタシの出番って訳だねぇ」

「頼むぜヒステリア、アンタの魔法なら必ず実現できるって信じてるよ」

 

 ──【憧焉傑刀『画竜点睛』】、その更なる真化のための条件達成。

 

 それが、やっておきたいことの中身である。

 シュトーレン曰く、武器の真化には『その武器をどう使っていたか』や『その武器で何を成し遂げたか』が重要になる……しかし、この画竜点睛に関しては少し特殊なのだと言う。

 

 画竜点睛……ひいては強化前である【擊竜】【無貌】の素材元となったモンスター──クアッドビートル"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"。

 神代最強の英雄たる墓守の強さに憧れ、自らもそうあらんと研鑽を続け、終ぞ夢見た高みに届くことはなくその命を散らした一匹の蟲。画竜点睛にはそんな蟲の無念が宿っている……それ以上に、直接遺志を託された私自身にこそ、かの蟲の無念・怨念は強く宿っているそうなのだ。

 

 故に、画竜点睛の真化は『私が』条件を達成さえすれば画竜点睛を振るわずとも成せる。

 そして、その条件が二つ。シュトーレン曰く『三界の真竜を討ち果たす』そして『神代の英雄を越え蟲の未練を晴らす』とのこと、今回試したいのは後者の条件に関してであった。

 

「"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"はウェザエモンに憧れ、ウェザエモンを志していたモンスター……その縁を辿れば、追憶シナリオでウェザエモンと戦えるようになる……そのはずだ、多分ね」

「随分と自信無さげだねぇ」

「そりゃあ、まだ仮説の段階だからね」

 

 ──そりゃ、仮説の実証前は不安になるものさ。

 

 心配になるのも当然だ。これが成功したならそれで良いけど、もしダメだったらウェザエモンとの再戦要素を見つけ出すか、追憶シナリオを出せるようになるまで縁を集めないといけない……確実に長い時間を持っていかれることになるのだから。

 再戦要素に関しては、アーサーが何かしら情報を持っているようだけど……ユニーク関連の情報を素直に教えてくれるかなぁ?双王決戦も近いから敵になる者同士で絡み過ぎるのも良くない……いや、そういうのはこれが失敗してから考えよう。成功さえすればこんな問題で悩む必要は無いのだから。

 

 ──さぁ、どうなるか……?

 

「それじゃあヒステリア、頼むぜ」

「おうよ。ふむ……喜びな、アンタのやりたいことはちゃんとできそうだよぉ」

 

 ──マジか!

 

 その朗報を聞いて、私はすぐに追憶シナリオの発生をヒステリアに依頼する。

 そこから彼女の仕事は早かった。澱みない所作で魔法陣を展開し、画竜点睛の持つ縁から目的の追憶シナリオを発生させ私を追憶空間へ送る。

 

「相手は神代最強の英雄……その勇名はアタシも良く知っているから言えるけどね、アンタの挑戦は確実に多難なものになるよぉ」

「最強なんだろ?なら、そうこなくっちゃ。簡単に越えられちゃあ"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"も浮かばれねぇ」

「威勢が良いねぇ。それじゃあ、行って来な」

「おう、吉報を楽しみに待ってな」

 

 ──よっしゃ、やりますか!

 

【ユニークシナリオ・EX追憶(エクストラメモリー)『古きを温ねて新しき英雄となる』を開始します】

 

【装備状況がロックされました】

 

【ステータスがロックされました】

 

【このシナリオ中は、『晴天流』以外のスキル・魔法・アイテムを使用することはできません】

 

 何だか、凄っごい嫌な予感のするメッセージが流れていた気がするが……きっと気のせいだ、うん。気のせい気のせい。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「ここは……道場?」

 

 追憶空間への転移が完了し、私が降り立ったのは世界観とはかけ離れた和風建築。

 シャンフロ世界では初めて見るけど、リアルならかつて毎日のように通っていた……武術道場とそっくりの建造物の中に私は居た。

 

 ──うわ、装備変わってる……!

 

 ふと気付く、己自身の異変。装備が変わっている上に世界の動きが速い。原因を察しまさかと思い装備欄を見てみると、やはりと言うべきか私の装備は全く違うものに置き換わっていた。

 いつもの月天霊装ではなく、【訓練正装】という道着のような服に着替えさせられている上に、アクセサリーも全て外されている。格納鍵インベントリアは例外のようだが……アイテムもロックされているから使えないことに変わりは無い。

 

 スキルもそうだ。レベリングのおかげで初めての頃よりは多少増えた『晴天流』以外のスキルが、全て無限のリキャストタイムが課せられて使用不可能状態になってしまっている。

 最後にステータス……これは、元の数値自体は特に変わりないようだが、この数値から上がりも下がりもしないようになっているようだ。鍛えた己の身と晴天流の技で戦え……と、そういうコンセプトのシナリオなのだろう。

 

 ──アレは……

 

 少し中を歩き、辿り着いた先の襖を開ける。

 そこには、一人の男が居た。長い黒髪を大きな三つ編みに縛った、中東風の顔立ちの男だ。

 

【ウェザエモン・天津気に遭遇しました】

 

 どうやら、あの男こそが墓守の……いや、その前身たるウェザエモン・天津気その人らしい。

 今の私と同じ格好をして、真っ直ぐ姿勢の伸びた美しい正座で精神統一を図っている。こちらから何かしら動かない限りは、恐らくいつまでだってあんな風に座してられるのだろう。

 

「……失礼します」

 

 一言置いて、私もウェザエモンの前に正座して刀を置く。私の装備の中で唯一持ってくることを許された憧焉傑刀『画竜点睛』を。

 正座をしたのは、多分これがシナリオのフラグになっているのだろうという読みもあるが……それ以上に、何と言うべきか『姿勢を正さねばならない』という雰囲気に押された形だ。

 

「……来たか。未来からの客人よ」

「……分かるんですか、そういうの」

「この星では、不思議なことなど当たり前のように起こるのだからな」

「はぁ」

 

 ──私が来ること、知ってたのか……?

 

 追憶空間によって再現された存在が、どうしてそんなことができるのかは不思議だが。まぁ何かしらの理由があるのだろう……理屈を付けるのは全部が終わってからでも遅くない。

 そんなことよりも、今はこれから起こるであろう戦闘にだけ集中しろ。ウェザエモンの……倒すべき敵の、越えるべき相手の一挙手一投足全てを見逃さず捉え続けるのだ。

 

 装備欄から外された夜駆ける幻狼の魔眼(ヴォルファント・ヴィル)には頼れない……己の身一つで、かつての時代で最強とされた男に勝たねばならないのだから。

 

「……構えよ」

「ええ」

「行くぞ、二号計画(セカンドプラン)の申し子よ……フロンティアに根付いた新たなる人類の力、見せて貰うぞ」

「……胸を借りる、なんて言いませんよ」

 

 ──勝たせて貰います……よッ!

 

 試合が、始まった。

 

 まずは先制攻撃──ウェザエモンの『断風』を屈んで避け、その勢いで横っ飛びし追撃の『大時化』も躱す。

 発生1Fも無いだろう神速の抜刀斬りと、その振り抜く勢いを活かしての掴み投げ。低AGIのプレイヤーは最初の断風だけでも死ねる、殺意満点のコンビネーションだが。私のステータスと反応速度なら紙一重だけど避けられる……伊達に、死んだら終わりの人生縛りをやってはいないのだ!

 

 ──蘇生方法が増えて、もうその縛り形骸化して来てるだろって?言うな!

 

 攻撃を避けたら、次はこちらの番……しかし反撃の仕方には注意が必要だ。

 私の扱える『晴天流』スキルは、三界王装(アルカディア)を装備するためのレベリングの過程で増えた最低限のものしか無い。

 

 当然その性能はウェザエモンのものより低く、レパートリーも少ない。故に、私はジリ貧になる前に勝たなければならない……短期決戦で勝負を決めなくては敗北がほぼ確定してしまうのだ。

 さっさと勝負を決める……そのために必要なことは『疾風』を確実に当てること。そのために取るべき方法は──

 

「晴天流──『迫雷』!」

「むぅ……ッ!」

 

 ──スタン効果で、ごく短時間に限り相手の身体の自由を奪える晴天流『迫雷』!

 

 連撃の隙を突いて当てた『迫雷』で、ウェザエモンをスタンさせその間に『疾風』を叩き込み勝利を引き込む……成功すれば最高だったが、流石に初手で終わらせられる程甘い相手ではない。

 柄に手を当てた頃にはもう、ウェザエモンのスタンは終わり次の行動を始めていた。『入道雲』で壁を作って私に距離を取らせたのだ。流石に当たる訳にはいかないので、これは避けるしかない……英雄の癖に狡い手を使ってくるじゃないか。

 

 ──復帰早過ぎだろ、バケモノめ!

 

「今のはヒヤリとしたぞ。新たな人類も中々育っているようで何よりだ」

「そりゃあ、どうも……ッ!」

 

 さて、初手という一番成功確率の高い奇襲が失敗した以上ここからは耐えのターンだ。

 少なくとも、『迫雷』のリキャストタイムが終わるまでは攻勢には移れない。撃つまでの隙も撃った後の隙も大き過ぎて、行動制限無しにはマトモにスキルを撃つことは不可能だからだ。転ばせたりすればより大きな隙を作れるだろうが……うん、ウェザエモン相手にゃあ無理だろうな。

 

 ──ぶっちゃけ、もう実質的には負け確のようなものなんだけど……

 

 だからって、甘んじて攻撃を受け入れるつもりは無いしこのまま負けてやるつもりも無い。

 しかし現実、有効だと思われていた勝ち筋が潰れた以上は別の勝ち筋を模索する必要がある。しっかりと考えろ、この状況から私がウェザエモンに勝つにはどうすれば良いだろう……?

 

 ──ゴールポストをズラす、ってのはどうかな?

 

「晴天流──『雷鐘』!」

「チィ……出やがったな、クソ技!」

 

 考えている間にも、ウェザエモンの即死級の技の数々は遠慮無く襲い掛かって来る。

 それらをどうにか受けて、避けて……致命傷だけは貰わないように立ち回る。防御と位置取りは私の十八番のようなもの、得意な技術にウェザエモンの目線や仕草からの行動予測を加え、成功率を更に高めることでどうにか凌いでいた。

 

「晴天流──『火砕龍』」

 

 避けろ。受けろ。絶対に死ぬな。

 

「晴天流──『灰吹雪』!」

 

 ウェザエモンから引き出せ……『コイツは普通にやっても仕留め切れない』と言う思考を!

 

 私の考えた次の勝ち筋は、『ウェザエモンの奥義を乗り越えることで負けを認めさせる』こと。

 ただやったのでは、スキルの質的に勝つことはほぼ不可能……なら、勝利の定義を変えて別の方面から勝利を主張するという訳だ。

 

 晴天流奥義『晴天大征』。

 約30秒もの間、リキャストタイム無しで技を連発し最後に『天晴』で〆る必殺技。これを引き出した上で乗り越えられたなら、負けを認めさせることは恐らく可能だ……"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"も、奥義が通じなかったがために負けを認め散ったのだから。

 

 とは言え、それにも問題はある。

 ウェザエモンの技は、一つ一つが"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"のそれよりも更に上質であること。これに関しては私のステータスの進歩もあって、相対的に同じ位の脅威度に収まっているが……それが連発されるとあれば話は別だ。『何を』……例えば雷鐘を連打されて足場が制限されたところに断風、なんてされたらもうひとたまりも無い。

 

 そしてもう一つ、最後の『天晴』に保険一切無しで立ち向かわねばならないこと。

 対処法は分かっている、だがそれをするには僅かな躊躇いもあってはならない。失敗は許されないという焦りが力みを生み、力みが失敗を導くという嫌なサイクルができてしまいかねないのだ。

 

 最後に、追憶空間で死んだ時はリスポーンが必要かどうか分からない問題。

 追憶シナリオは何度かやったが、その全て一度も死ぬこと無く突破したせいで追憶空間で死んだ時にどうなるのかが分からないのだ。私以外追憶シナリオができる人も居ないだろうから、人に聞くことはできないし……あぁ、挑戦する前にヒステリアに話だけでも聞いとけば良かったなぁ!

 

 場合によっては、年明けを待たずして今日キャラロスが確定してしまうが……こんなところで臆するようでは、人生縛りはできんのだよ!

 

「……ウェザエモン、『晴天大征』で来な!」

「ほう……?」

「ここまでで分かっただろ、単発の技じゃあ私には当たらない……ならするべきことは一つ、自分でも分かってるだろ?」

「ただの挑発……ではないな。其方自身も同じであるが故の苦肉の策だろう」

 

 ──はは、バレてーら。

 

 取り敢えず『天鬼夜砲』以外の技をノーダメで凌いで見せ、一度挑発を入れてみる。

 たった一度では効果は薄いだろうし、二度でも三度でもやってやるつもりでいたが。以外にもウェザエモンは挑発にノリノリで応えてくれた。

 

 浅い魂胆はバッチリ見透かされていたが、それでも納得は得られたらしい。

 実際、技の揃っていない未熟な状態で尚も奥義を凌げるのなら、それはウェザエモンの奥義を乗り越えた……勝ったと言っても過言じゃないだろう。酷い屁理屈だが、納得してくれたみたいで良かったよ本当に……これで、まだ分からなくなった。

 

「晴天流の真髄は一意専心……未だ技の一つすら成らぬ身に奥義を越えられたとあっては、確かに負けを認めざるを得まい」

「……」

「越えてみよ、我が──『晴天大征』を!」

「ええ……勝つのは、私ですよ!」

 

 ──さぁ、正念場だ!

 

 この30秒で、私の明暗が別れる……乗り越え生きて戻るか、死んで世界から消え去るか。

 最善を尽くせ。たとえどちらに転ぼうとも、その結末に後悔は無いと言い切れるように。

 

「『断風』……『火砕龍』『雷鐘』!」

 

 ──姿勢は低く……地を這うように!

 

「『灰吹雪』……『雷鐘』『雷鐘』『入道雲』!」

 

 ──近付くな、入道雲の届かない範囲で全て処理しろ!灰吹雪は単発なら許容範囲!

 

「『断風』『断風』『断風』『断風』……ッ!」

 

 ──二発目を避けると同時に、背後へ!

 

「──『大時化』ッ!」

「『迫雷』!」

 

 ──危っぶねえ、間一髪だったな……!

 

 ここまではどうにか凌いでいる。

 しかし、ここで来てしまう……凌ぎ切れないと危惧していたコンビネーションが。

 

「『雷鐘』『雷鐘』……『雷鐘』ッ!」

「くっ、のっ、多過ぎんだよ……ッ!」

「──『断風』」

「そのコンビは……」

 

 ──想定済み、だッ!

 

 無傷では確実に済まない、ならば最小限の被弾で切り抜けるしか無い。

 しかし、『断風』も『雷鐘』もどちらも一発食らえば御陀仏の強技……『最小限の被弾』で軽く死ねるがどうすれば良いのか。答えは簡単──

 

「晴天流……『引波』!」

「何……ッ!?」

 

 ──自分で自分を、投げる!

 

 晴天流『引波』、相手を掴んで遠くまで投げ飛ばす投擲距離に特化した投げ技。それを自分に使うことで、『断風』『雷鐘』の範囲から逃れたのだ。

 曲がりなりにも技、そして己の高ステータスのせいで被ダメは大きいが。自分で自分を投げるという無茶な姿勢のおかげで、普通に相手を投げるよりは飛距離が伸びず、隙も小さく済んだ。

 

 自爆は想定していなかったようで、ウェザエモンの顔が驚愕に染まっている……良いね。鼻を明かしてやれたのも含めて大成功だ。

 そして、これで30秒が経過した。ウェザエモン本当の最終技『天晴』……これを越えられなければここまでの全てが水泡に帰す。確実に、パリィを決めなくてはならない。

 

「本当に、ここまで耐え凌ぐとは思わなんだ。故にこそ、これさえも越えられると信じているぞ、二号計画の申し子よ」

「……さぁ、何処からでもどうぞ」

「……行くぞ。晴天大征、流転と手向けを以て終極と成す」

 

 脚が硬直する。目前のウェザエモンから目が離せなくなる……最終技の前準備だ。

 それに合わせて、私も画竜点睛を構えて迎撃態勢を取る。正面ではなく側面から……振り下ろす瞬間に『疾風』を重ね、カウンターでウェザエモンの刀を弾き飛ばすのだ。

 

「我、天をも断つ──────────」

 

 ──大丈夫。私ならできる。

 

 台詞の間に一呼吸入れ、覚悟を決める。

 根拠の無い自信なんかじゃない、何故なら私には憑いている……ウェザエモンに憧れ、そうあらんとした蟲の無念が。死して尚も遺る奴の志が、画竜点睛には込められているのだから。

 

 さぁ、今こそ憧れを越える時だ。

 

「──────天、晴ッ!」

「……『疾風』!」

 

 失敗の許されない一発勝負。

 

 私は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……成る程。其方一人の力ではない、か」

「流石……そういうのも、分かりますか」

 

 ──成功、させた。

 

 横っ面を張り上げられたウェザエモンの刀が宙を舞い、壁に突き刺さる。最終奥義……これにて攻略完了だ。

 成功できるという確信があった。【憧焉傑刀『画竜点睛』】は、攻撃の成功時耐久減少を無効化する効果を持つ。刃以外は普通の刀と無敵の刀がぶつかり合えば、当然勝つのは無敵の刀の方……いつかの"皇金世代(ゴールデンエイジ)"戦で、サンラクの傑剣への憧刃(デュクスラム)が奴の牙をへし折って見せたのと理屈は同じだ。

 

 武器が大丈夫なら、後は自分がしっかりとタイミングを合わせられるか。そして私は、そのタイミングを"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"戦で知っている。

 道具も知識も万全、覚悟も決めた……ならばそこに失敗する理由はもう無い。この成功は確定されたものであったと、断言しておこう。

 

「窮極の一太刀を乗り越えた者に、天晴は転じて祝いとなる……『天晴れ』であると」

「ダジャレですかい」

「ふふ……ホント、面白いでしょう?」

 

【天津気刹那に遭遇しました】

 

 決着の付いた場に現れる白衣の女性。アナウンスがその正体を告げる……ウェザエモンの恋人でありアーサーが執着した『遠き日のセツナ』のオリジナル、天津気刹那その人だ。もっとも、彼女もまた追憶空間が再現した虚像でしかないはずだが。

 

 ──何か、こっちを普通に認識してるせいで作り物と断言できないんだよなぁ。

 

「刹那……見ていたのか」

「ええ、一部始終バッチリと。あなたの奥義が通じない人間なんて初めて見たわ……ねぇ、あなたの名前を教えてくれないかしら?」

「ロンミン、しがない開拓者の一人だよ」

「ロンミン……覚えたわ。ウェザエモンに打ち勝ったあなたに、私からのご褒美をあげる。未来に帰ったら、それを()()に渡してあげて。きっと良い物を造れるわ」

 

 そう言って、刹那から私に渡されたのは晴天流のフラッシュメモリーに似た小さなキューブ。何やら良い物を造れるとのことだが、何かの設計図ということなのだろうか?

 そして、勇魚という名前は聞いたことがある……確か新大陸のバハムートを司るAI、ベヒーモスを司る象牙の同類だったはずだ。新大陸を目指す理由がまた一つ増えてしまったな。

 

 そして、どうやらここで終わりのようだ。

 追憶シナリオの終わりを示す、身体と世界のブレが始まった……程なくしてこの世界は崩壊して私は現世に戻される。出会ったばかりだが、これでもう二人とはお別れの時間だ。

 

「良い物を見せて貰ったわ。あなた達の生きる未来が明るいものでありますように……さようならロンミン、頑張ってね」

「我が奥義を越えた其方に、最早これ以上の言葉は不要……これからも精進していくように」

「ありがとう、二人とも。あなた達の生きた証は、確かに未来に繋がってるよ……バイバイ」

 

【ロンミンは神代の英雄を越えた】

 

【蟲の憧憬は終わり、新たな地平へ続く】

 

【ユニークシナリオ・EX追憶(エクストラメモリー)『古きを温ねて新しき英雄となる』をクリアしました】

 

追憶結晶(メモリークリスタル)が今回のシナリオを記録しました】

 

【称号『英雄のお墨付き』を獲得しました】

 

【称号『刹那に笑う者』を獲得しました】

 

 そうして、シナリオは幕を閉じ。私はフィフティシアへ無事帰還するのだった。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「ただいま」

「おかえり。その様子だと、勝ったみたいだねぇ」

「勝ったっていうか、負けを認めざるを得なくさせたって感じだけどね……」

「ふぅん?ま、勝ちは勝ちさね。英雄を越えた偉業であることに変わりは無いよ」

 

 戻って早々、待機していたヒステリアが労いの言葉を掛けてくれる。理想的な勝ち方ではなかったけれど、まぁその通りだ。ウェザエモン……かつての英雄に負けを認めさせた偉業は、しっかりと誇りとして胸に刻んでおこう。

 そして、これで旧大陸で私がやれることは全て終了したということにする。まだまだやれることはあるかも知れないけど、例えばレイドとか……でもそれを言っていてはキリが無いので、未練が生まれる前に新大陸に向かってしまうのだ。

 

 新大陸へは海を泳いでいく。

 三界王装の試運転と、画竜点睛の真化に必要な海の真竜探しも兼ねての大冒険。果たしてどんなものになるか……今からとても楽しみだ。

 

「よし、行くぜ新大陸!」

「頑張ってきなよー!」




【ユニークシナリオ・EX追憶(エクストラメモリー)
・ユニークモンスターに関連する追憶シナリオ。
・一度クリアすると同じシチュエーションのシナリオは二度と受注できなくなるが、逆に言えば様々なシチュエーションでユニークモンスターと戦えるということになる。
・通常の追憶シナリオと同じくアイテムも経験値も得られないが、ユニークモンスターと戦うことが条件になっているスキルや魔法を修得したり、称号を集めるには最適。
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