先生がフィジカルモンスターなヒト型邪龍系女先生だった世界線   作:ジンオウガを飼いたい

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悪酔い

 シャーレオフィスはヤマタと彼女を護衛する為に同行したユウカたちの手により、暴徒達に襲撃・略奪行為をされる前に奪還することに成功。

 道中でどこから仕入れたのか戦車が持ち出されるという出来事もあったのだが、それはヤマタが背後に回り込んで戦車を持ち上げ、ハスミが車体底部を撃ち抜くことであっさり撃破した。

 

 シャーレが彼女の手に渡ったことでサンクトゥムタワーの制御権の奪取にも成功し、キヴォトス全土に及んでいた発電施設の停止や通信機器の異常等も落ち着きを見せている。

 

 やることをやり終えた彼女は日が落ちるまで軽く眠り、午後6時頃に起床。

 先生として就任してまだ一日も経っていないのに既に溜まり始めている書類に目を通し、リンへ電話を掛けていた。

 

 

「あ、もしもしリンちゃん? いやぁ悪いねこんな遅くに」

『いえ、こちらもまだ書類整理をしていましたので。どうかされましたか? 何か書類に不備でも?』

 

 お互い、書類整理に取り組んでいるのは同じ。

 違う点といえばリンは真面目に書類1枚1枚に目を通して誤字脱字が無いか、計算の狂いは無いか見ているのに対してヤマタはサラッと流し見をしている点だ。

 

 やる気がないとも見える姿勢だが、ヤマタにはこれで良い。

 人間の真似事程度は造作もないことであり、人間のように血眼にならずとも不備に気付ける。

 

「うんにゃ? 不備って程の不備じゃないんだけどさ、私の給与面に関しての書類についてなのよ。あ、先に言っとくけど額が足りねぇ!とかじゃないからそこはモーマンタイ」

『金額への不満ではないとなると、給与の内訳に関してでしょうか』

 

 金額に不満があると言われるとリンとしても少し困ったことになるが、そうでは無いとなると給与の内訳に関しての質問くらいしか電話を掛けてまで確認したい事柄は無いようにリンは思えた。

 

 それが普通だ。相手が普通の人間なら、そう思うのが普通なのだ。

 

「ちゃうくてさ、私お金要らんよ?」

『……はい?』

 

 まさかの発言にリンは耳を疑った。

 激務続きで聴覚に異常でも起こしたかと己を疑い、少し間を開けて裏返った声を発する。

 

「別に私お金には困ってないしさ。これ以上お金が増えても困るんだよねぇ……そこでさ、代わりに現物給付にして欲しいのさ」 『現物給付、ですか……具体的には何を』

 

「ガ〇プラ」

 

 現物給付が良い、と言われてもはいそうですかとはいかない。

 

 シャーレの先生を務めてもらう以上は要望等は最大限叶えたいが、それでも予算という限度がある。それを超過する高級品の類は流石にリンでも調達の目処が立てられなかった。

 せめて何を給付して欲しいと願っているのか。それを聞き取ろうとメモの準備までリンの耳は、およそ激務の対価に見合うとは思えない代物の名前を聞き取っていた。

 

『が、がん…〇ら……ですか?』

 

「そうガンプ〇!! いやぁ昨今のは凄いのよ! パーツポロリを徹底的に阻止する作りとか、そこ見えなくなるだろって場所まで徹底的にモールド作り込まれてたりさぁ! いっくら作っても飽きないのよアレ!」

 

 そこから数分、ヤマタによる〇ンプラ熱弁が開始。

 素材のプラスチックに関して、ゲート跡を目立たないようにする企業側の努力について、その他あれやこれやと話の方向は右往左往しながらも給付を希望した代物について語って行く。

 

 どこから持ち込んだのか手元にある酒を飲みながらの熱弁ということもあり、熱弁は大層力の入っているものであった。

 全く興味のない代物の話を聞かされているはずのリンでも少し興味を惹かれ、電話をしつつ自身のパソコンで調べ始める。

 

「てなわけで、お給料はガン〇ラ現物給付でお願いリンちゃん! あ、転売してる輩から仕入れるのとかはやめてね。そんなの欲しくないし」

 

『分かりました。では明日の午前中にでも、現状で手に入れられそうなものをリストアップして送付します。今調べた所ですとHGやMGといった規格のようなものがありますが……』

 

「とりあえずはHGかなぁ。久しく作ってない訳だし、リハビリも兼ねて手頃な所から行きたいと思うんだぁ♪」

 

 かなりのワガママを言ったつもりだったが特に問題になることなく話は進み、安心したヤマタは蛇殺しと書かれた酒器をご機嫌に傾ける。

 

「それじゃ電話切るね〜♪ いきなり電話してごめんよぉ? リンちゃんも仕事程々にして休みなねぇ♪」

 

『お気遣いありがとうございます。先生もどうか無理せず、ゆっくり休んでください』

 

 最後にお互い無理をしないこと、しっかり休息を取ることを伝え合うと電話が終わる。

 真っ暗になった画面を覗き込んだヤマタの顔は、若い身空で頑張っている少女を誇らしく思っているとも心配しているとも取れる複雑な表情を貼り付けていた。

 

 そんな自分の顔を見て、らしくないと思ったのだろうか。

 ブンブンと顔を左右に振り、再び酒器を傾けた。

 

「ああぁ〜〜♪ お酒お酒えぇ〜〜♪」

 

 酔っ払った。

 

 心地よく酔っているのがひと目でわかる程に上機嫌で、床に胡座をかいて座り酒器を傾けている。

 ゆらゆらと体は左右に揺れている。既に安定した座位を保てないレベルで酔っているらしく、目の焦点も合っていない。

 

 先程までリンと電話でやり取りが出来ていたとは思えないくらい、酷い酔い具合だった。

 

「おっ、おまたせ……しました…」

 

 そこにエプロン姿のワカモが塩茹した枝豆、スライスしたサラミ、鮭とばを乗せたお盆を持って現れる。

 

 一目惚れした相手に番だなんだと迫られて頭がパンクし気絶したワカモは、ヤマタたちによるシャーレ奪還後も気絶し続けていた。

 リンはユウカたちが撤収する際に再度、ワカモを矯正局に送還することを提案したがヤマタは拒否。シャーレで身柄を預かることに。

 

「おっ♪ 待ってました待ってましたぁ〜♪ ほらほら、ワカモちゃんもこっち座って座って♪」

 

 先程まで目の焦点も合わないほどベロベロになっていたはずなのに、ワカモの姿と彼女の持ってきたつまみの匂いを嗅ぎ取ると途端に嬉しそうな顔になる。

 

 自分の横をバシバシと叩く様は悪質なダル絡みの酔っ払いそのものだが、顔付きは穏やかだ。

 とてもキヴォトスの地に訪れる前まで、外の世界で邪龍だなんだと騒がれていたとは思えない顔付きをしている。

 

「い、いえ! そうはいきません! 私はこの建物をあなた様の目的地と知らず、破壊しようとしたのですから!」

 

 お盆をヤマタの目の前に置いたワカモは隣に座ることを拒否する。

 

 目を覚ました彼女がまず最初に目にしたのは見慣れない天井と、自分の隣で眠っている大柄の女性。

 ここはどこで、この人は誰なのか。寝起きの回らない頭で考え、一目惚れした相手が同衾しているという事実に気付くと彼女の頭は沸騰した。

 

 悲鳴はあげなかったが、驚きのあまりそれはもう身悶えた。

 それによってヤマタも目を覚まし、自分が何者でここがどこなのかの説明をしてそのまま晩酌と相成った。

 

「いーのいーの♪ 結局ワカモちゃんはここを壊さなかったんだしさぁ♪」

 

 ヤマタとしてはシャーレを破壊されたとしても、大して問題ではなかった。

 仮に破壊されていた場合もとりあえずリンたちに合わせてどうしよっかーと下手くそな演技をし、皆に立ち去ってもらった後に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 おいそれと魔法を使わないのが人間の姿を得る際に結んだ契約であり、魔法を使うとなると契約違反だから面倒くせぇなぁと軽く考えていた。

 

 結局シャーレは無事であり、全ては杞憂に終わった。

 契約違反云々を気にする必要が無くなり少しばかり気を緩めたと思えばこれである。

 

 己を構成する要素の死因の一つであり絶賛堪能している御神酒 八塩折之酒も魔法で作り出したものだ。

 死ぬ間際に味わった芳醇な味わいと脳天から尾の先端まで突き抜けるような刺激を思い出しながら再現し、それはもうベロベロに酔っ払っている。

 

「それにおばさん、1人でちびちびお酒飲むの寂しいなぁ……泣いちゃうなぁ……シクシク…」

 

 今度は泣き始めた。酒癖の悪さは生前と変わらない。

 

「な、泣かないでくださいあなた様! お、お隣ししっ、失礼しますぅ!」

 

 先生が泣いてしまってはワカモも悪事を働いたから隣には座れない、と言い張ってもいられない。

 罪悪感等々を抱えつつも最優先すべきは先生が楽しくお酒を楽しめることだと自分に言い聞かせ、意を決して先生の隣へ腰を下ろした。

 

「ういぃ〜〜〜きたあぁぁぁぁ〜♪ うひっ♪ うしひひひひひっ♪」

 

「きゃっ!? なっ、あなた様なにを!?」

 

 ちょこんと隣に可愛らしく腰を下ろしたワカモの姿にヤマタ大興奮。

 

 着用しているスーツの襟に手を掛けたかと思った矢先、それをガバッと開いていきたり上裸になってしまった。

 重犯罪者である依然に一人の年相応な女の子であるワカモにとって、一目惚れした相手の上裸姿ほど心臓に悪いものは無い。

 

 女性らしいシルエットを崩さない程度に抑えられつつも、まるで岩石を思わせるがっしりとした筋肉を纏う上半身。

 特に女性的と感じさせる豊満な胸も剥き出しとなり、ワカモは鼻血を噴く寸前だ。

 

「ひっく☆ ワカモちゃぁぁぁぁん♪ 私ねぇ☆ 人間じゃないんだよぉぉぉうひひひひヒックィ☆☆♡」

 

 酷いを通り越して邪悪とまで言えそうなレベルでの絡み酒。

 酔っ払いの戯言として片付けられてしまいそうな物言いをするヤマタだが、ワカモはそれを戯言なのか否かと判断する余裕すらない。

 

 剥き出しの胸に顔面が埋め尽くされている。上裸のヤマタに抱き締められているのだ。

 

「〜〜〜〜〜!?!?!?!?」

 

 声にならない悲鳴が上がる。

 もがけばもがくほど抱擁は強くなり顔が胸の谷間へと押し込まれ、もがいた分息が上がる。

 酸素を求めて息を吸えば石鹸や香水とは異なりつつも鼻腔に強くこびり付く良い匂いが吸い込まれた空気に乗って流れ込み、ワカモの脳を侵食する。

 

「可愛い可愛いかわいいぃぃぃ〜〜♪」

 

「わっぷ! あっ、はうっ!? せっ、せんせぇ!」

 

 抱き締めた上体でヤマタが左右へ体を捻るせいでワカモの体が振り回される。

 

 恥ずかしいやら嬉しいやらで彼女の頭は2度目のパンクを迎えかけており、どうにかして逃れようとバタつかせた手が何やら硬いものに触れた。

 

「えっ?」

 

 最初、彼女は筋肉に触れたのかと思った。

 見ただけでも岩石を想像させるほどに鍛えられているヤマタの筋肉なら、触れた第一印象が『硬い』というのも理解出来る。

 

 だが、ワカモが感じた硬さは筋肉に触れた際に感じるものとは違うように思えた。

 例えるなら鋼。人の温かみなど微塵も感じさせない、冷徹な鋼の硬さ。

 

「あの、先生? これは」

 

「触った? そう、それが私が人間じゃないって証拠だよ」

 

 私は何に触れたのか。そう問おうとしたワカモの声に、彼女の可愛らしさにメロメロだった酔っ払いとは思えない落ち着き払ったヤマタの声が被せられる。

 

 抱擁が解かれる。

 天国のような地獄から顔を離したワカモは左手が触れている箇所、ヤマタの右胸下部へと視線を向けた。

 

「……鱗、ですか?」

 

 鱗だ。鱗が生えている。

 色白な肌には不似合いな暗黒色の鱗が右脇腹から右胸の乳頭を頂点とし、右鎖骨へ抜けるように半円を描くように生えていた。

 

「そう、鱗。これはただの鱗じゃないよ、邪龍の鱗なんだ」

 

 サイズの合うブラが無かったから鱗で支えてるんだぁ、とあっさり言ってのけながらヤマタは八塩折之酒を煽る。

 

「私さ、本当はドラゴンなの。色々あって人間の姿をしているけど結構不憫なんだなぁこれが……()()()()()()()()()

 

 額が盛り上がり、2本の角が生えてくる。

 逆ハの字を描きながら後頭部側へと伸び、頭部の輪郭に沿って湾曲し、頭頂部を過ぎた辺りで天へ先端を向けるように反り上がって止まる。

 

 肩甲骨からは翼が姿を現す。

 使い古された黒い幕を思わせる翼膜を備え、長身のヤマタが小さく見えてしまうほどに巨大な翼が、シャーレの壁を突き破らないように折り畳まれる。

 

 ベルボトム風のパンツスーツは尾てい骨付近に大胆な大穴が開けられており、そこから八本の尾が生えてくる。

 黒々とした鱗に覆われ、その上に苔が生い茂っている尾はシャーレの床を撫で回し、感触を確かめているような動きをしていた。

 

「ふぅ――スッとしたぜぇ〜♪」

 

 体内に格納していたとは思えない部位を全て展開し、ぐーっと伸びをしたヤマタはその見た目に似つかわしく無い柔和な笑みを浮かべ、硬直しているワカモへと視線を向けた。

 

「庵治窟 ヤマタ。その実態はアジ・ダカーハ、ファフニール、そしてヤマタノオロチが混ざり合ったハイブリッド邪龍だったのでしたおろろろろろろろろろ♪♪♪」

 

「あなた様!?」

 

 色々とはっちゃけ過ぎたせいだろう。

 

 ヤマタは盛大に嘔吐した。ワカモはお酒という飲み物が少しトラウマになった。

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