先生がフィジカルモンスターなヒト型邪龍系女先生だった世界線   作:ジンオウガを飼いたい

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過ち

「……私のミスでした」

 

 眩しくもどこか儚いと感じさせる夕陽を背に浴びながら、目の前の少女は私に対してそう呟く。

 ガタンガタンと音を立てながら揺れ動く縦長の鉄の箱……確か、電車とかいった乗り物。それに揺られている彼女の肉体はそこかしこから嗅ぎ慣れた匂いを漂わせている。

 

 鉄の匂い

 

 人類にとって忌避すべき匂い

 

 血の匂い

 

 血液が流れ落ちており、白っぽい見慣れない服を汚している。

 

 失敗であった。そう一言で片付けてしまうのは極めて簡単ではあるものの、それを簡単に片付けて良いものだと思えるようになるまでは相当な年月を要した。

 

 様々な苦悩や葛藤に苛まれたものだ。思い出すだけで胸の内が気持ち悪くなるあの感覚、認めたくないものを嫌々ながらに認めざるを得ない屈辱感。

 それを目の前にいる少女は思い起こさせてくれた。以前の私たちであればこれを侮蔑と受け取り、一切の申開きを聞き入れることなく殺しにかかっていただろう。

 

「……私たちも、失敗したなぁ」

 

 失敗した。

 

 アータルの物言いに怖気付かされ、光輪を略奪し損ねた

 

 アナーヒターの助力を取り付け損ね、あの忌々しいフェリドゥーンとの戦いに敗れ封印された

 

 父を殺した事に満足したせいで愚弟レギンに自由を与え、シグルズを差し向けられて殺された

 

 最期の最期まで財宝への執着心を捨てられなかったからだろう、シグルズは私の忠告に耳を傾けてはくれなかった

 

 好物につられて頭がいっぱいになったせいで、罠に気付かず酒に溺れて気づいた頃にはヤマトタケルに首を斬り落とされていた

 

 失敗も失敗、大失敗だ。どれを見ても少し勇敢であれば、少しの冷静さがあれば、少しの謙虚さがあれば……少しの何かしらを私が持っていて振り絞ることが出来たのなら、回避出来たかもしれない過ちだ。

 

「羨ましいよ、その目。私たちには無い目をしている」

 

 失敗した者同士でありながら、私たちと彼女は明確に違う。種族だとか体格差だとか、そういった安直な話ではない。

 

 彼女の目には後悔がない。死に体でありながらも、その目は失敗したという物言いには不似合いの真っ直ぐで澄んだ目をしている。

 

「無理矢理に受け入れた風でもない。受け入れているのだと装っているのでもない。失敗したと言っておきながらも、それを良かったと思っているような目をしている……羨ましいよ」

 

 私たちが声をかけても彼女は答えない。私の声なんて届いていないかのように身動ぎもしない。

 

 でも、届いていないなんてことは有り得ない。

 彼女の目は、失敗を良かったと受け入れているその目は、真っ直ぐに私を見つめているのだから。

 

「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。結局、この状況に辿り着いて初めて、貴女の方が正しかったことを悟るなんて……」

 

 彼女の物言いは過去を振り返っているはずなのに未来を見ているかのような、酷く不確かで死ぬ間際の戯言と片付けられそうなものではある。

 

 しかし、そう短絡的に片付けるには不似合いな納得感を私に与える。

 

 

「今更図々しいでしょうがお願いします、先生。私の持てる物、将来持ち得た物、その全てを貴女へ捧げます。ですからどうか」

 

 私たちに何かを乞おうとする為に下げられそうになった彼女の頭を、私は手で押さえて止める。

 

 彼女が私たちに何を頼もうとしているのか、何を伝えようとしているのか、何をして何を引き起こしてきたのか、それは正直なところどうでも良かった。

 何がどうであれ、私たちは彼女の頼みを受け入れるのだから。

 

「既に契約は成されている。お前は私たちに差し出せるモノ全てを差し出し、差し出したモノ全ての命運を私たちに一任している」

 

 私たちは3体で1体

 

 生まれついての絶対悪によって生み出されておきながら威圧に萎縮し、忌々しいフェリドゥーンに敗れて封印され、未だ見ぬ英雄ガルシャープスにより世界の終末に殺されると定められた邪龍

 アジ・ダカーハ

 

 金銀財宝に身も心も縛られ、生みの親を殺め、死の間際まで取り憑かれた邪龍

 ファフニール

 

 食した女の味を忘れることが出来ずに取り憑かれ、異様と力によって人間を従わせ、最後は好物に酔って殺された邪龍

 ヤマタノオロチ

 

 後世にはそれぞれが宗教や神話において人類にとっての災厄や宿敵のように描かれている存在であり、何れも何かしらによって封印あるいは討伐されている。

 

 彼女はそれ等を呼び起こした。

 

 死に至る程の血液と、死に至る己の肉体と、死に至るまで己を支えた全ての五臓六腑と、彼女が選んだ選択によって招かれた全ての結末と、私たちが選ぶ選択とそれによって招かれる全ての結末と、彼女と私たちにとって宝物となる全ての事柄を捧げることで、私たちを呼び起こして統合した。

 

「出鱈目な奇跡を引き起こす女の頼みだ、無下にすればどうなるか分からないからな。喜んで引き受けるとも」

 

 私たちが知る限りの憎き神々やそれ等の寵愛を受けし勇者や英傑と呼ばれる類、それ等と並び得る偉業を彼女は成し遂げて見せた。

 異なる地域、異なる時期、異なる世界線の邪龍を呼び起こして統合し、人の形を与えるなど邪龍である私たちですら前代未聞。

 

 表舞台から退き呆れ果てるほどの年月を経た私たちにとって、その偉業は手放しで賞賛するに相応しい行いであり警戒すべき行いでもある。

 断りでもしようものならどうなるか……想像するだけでも鳥肌が立つというものだ。立つ鳥肌なんて持ち合わせていないのだが。

 

「お前に差し出された全て、私たちが新たな私たちを形作るのに使わせてもらう。代わりに私たちがお前の望みを叶えよう。欠伸が出るほどの平和を、不必要な流血とは無縁の平和を作ろう」

 

 笑える話だ。邪龍が平和を作るなど、どんなひねくれた解釈での『平和』になるか想像も付かない。

 

 人類のいない世界こそが平和なのだと全人類の抹殺を行われてもおかしくないというのに、彼女はそれを受け入れて契約を交わした。

 

 これこそ過ちであろう。あまりにも無計画過ぎる。

 自分が望む何かのために頼る相手としては配役ミスも良いところであり、望む何かを見るも無惨に蝕み犯されたとて文句は言えない愚かしさ。

 

「他ならぬお前の頼みだ、連邦生徒会長とやら。お前の覚悟、お前の決意、お前の遺志、全て私たちを魅了し説き伏せるに足る至極の品々であった。供物として過去最大級のものであったと、滅びぬ我が身が滅び果てるその日まで記憶に留め置こう」

 

 その愚かしさを私たちは気に入った。これ程の決意を抱き、己の全てを投げ出せる英傑を私たちは一切の悪意なく尊敬した。

 

「……ありがとうございます、先生」

 

 連邦生徒会長の顔が上げられる。

 私を殺すと定められた大英雄ガルシャープス以外で初めて直視しても良いと思える大英雄の顔は、邪龍に供物を捧げて酷く不確かな契約を結んだとは思えないほどに晴れ渡っていて

 

 


 

「あなた様。おはようございますわ」

 

「……ああ、おはよう」

 

 私たちの顔を覗き込む可愛い狐耳の少女の顔が視界いっぱいに映り込んでいる。

 体を起こすと掛けられていた布団がズレて、何も身にまとっていない剥き出しの上半身が体温で温められた布団による温もりを外気に奪われていくのを感じる。

 

「その、何か着て下さると助かります……目のやり場に困りますので……」

 

 連邦生徒会長に託された世界 キヴォトスには前途有望ながらも苦境に立たされ、邪悪な思惑や欲望によって前途も希望も食い潰されてしまう少女たちが大勢いると聞いた。

 

 そこに化身たるザッハークの姿で現界するのは良くないだろうと同性であり成熟した個体でもある女性の姿をとったのだが……それでもワカモにとっては刺激的すぎるようだ。

 

「……ふひひひ♪ 悪いことじゃんじゃんやってきた君が困るってんなら、これは定期的に素っ裸見せてあげないとねぇ♪」

 

 女性の姿をしてはいるが、私たちの性的趣向の矛先は異性ではなく同性へと向けられるように調整してある。

 

 連邦生徒会長が守りたいと望んだ者、導いて欲しいと望んだ者だと理解はしていても今の私たち 庵治窟 ヤマタを構成する要素の1つが悪さをするのは目に見えている。

 

 気に入った村娘を生贄として求めた邪龍 ヤマタノオロチ

 

 これが連邦生徒会長にとっての宝物を損壊してしまうのは彼女の決意に対する侮辱であり、あの晴れ渡った空のような笑顔に泥を投げる行為だ。

 

 それに彼女にとっての宝物である生徒達はファフニールの要素である財宝への執着にも引っ掛かっている。私たち自身を構成する要素同士で反発するなど愚の骨頂。

 故に生贄として食べるという行為における、『食べる』の意味合いを歪めることで解消することとした。

 

「そっ、それは困ります! あなた様の肉体を見ているだけで顔から火が出てしまいそうなのに……」

 

 顔を赤くして照れている彼女の可憐な姿を見ていると、下腹部の辺りでグツグツと熱い何かが湧き上がってくる。

 これならば仮に抑えが効かなくなり彼女達へ欲望をぶつけたとしても、殺して食らってしまうのは避けられるだろう。

 

 尤も、今の私たちはヒトの真似事をしているとはいえ先生であり大人だ。前途有望なこの子達を食い物にするなどあってはならぬ行為であり、欲望をぶつけるなど有り得ない話である。

 

「なら布団においでよ♪ 熱が冷めるまでじっくりねっとり可愛がってあ・げ・る♪」

 

「っ〜〜〜!?!? あっ、朝ご飯の仕上げッががまだなのでッ! 失礼いたしますっ!」

 

 グッと胸を寄せながら誘ってみたら効果はテキメン。顔を茹でダコみたいに真っ赤にして、ワカモも走り去ってしまった。

 

 やり過ぎた感もあるが、これも社会勉強だよ ワカモくん。

 

 ぐいぃ〜っと背伸びをし、気分を入れ替える。

 ザッハークの頃に人間の真似事をしていたのだ、窮屈ながらも感覚は何となく理解している。

 

「分からんなりに、先生とヤラをやってみるさ」

 

 蘇らせてくれた恩人であり、敬意を表する偉人でもある連邦生徒会長に向けて呟いた私たちは布団を剥ぎ、悪酔いして脱ぎ捨てた衣服を纏う。

 

 お酒は怖いものだという勉強にもなっただろうけど、少し刺激が強かったかな……少しは控えるか。

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