タロと学園ラブコメするだけ 作:私利私欲
01
「ぼくは――モテたい」
放課後、食堂にて。
クラスメイトの『スグリ』に対し、ぼくはそんな話を切り出した。
「え……な、何?」
「スグリ、ぼくはモテたくて仕方がないんだ」
なんせ思春期だ。
異性に興味を抱くのは当然であって、恥ずべきことでないとはわかっている。
けれど、生まれてこのかた恋愛話なぞしたことがないものだから、友人がどう思っているのか気になってしまった。
「きみだって女子に興味がないわけではないだろう?」
「……な、ないけど」
興味津々だべ! なんて言ってほしくはないけれど、興味がないとまで言われると疑わしい。
「嘘はいけないよ」
「本当だべ!」
「じゃあ、男子の方が……?」
「それも違うから!」
スグリは可愛らしい顔立ちをしているし、彼氏ならすぐにできそうなものだが。
しかしこんなことを口走っては本当に嫌われてしまいそうなので、胸に秘めておくこととする。
「話を戻すけれど、スグリはどうやったらぼくがモテるようになると思う?」
「……そんなこと言ってるうちは無理だべ」
ふん、と鼻を鳴らし、フライドポテトをもそもそと食むスグリ。少しからかいすぎたらしい。
お詫びとして、学園シェーキについてきたキャンディーを彼のコーラへ突き刺しておく。
少しはしたないけれど、これも青春の1ページというやつだ。
ちなみにスグリの機嫌は余計に悪くなった。
「——思うに、ぼくは子どもっぽいからモテないと思うんだ」
「というと?」
「見た目もそうだけど、みんなのことが大人びて見えるからさ……」
ぼくだって、最初はクラスメイトと仲良くしようと頑張ってみたけれど、いまいち話が合わなくて無理だった。
流行りの音楽は知らないし、誰と誰が隠れて付き合っているとか、あの授業は寝ていても大丈夫とか、みんなが好むのはそんな話ばかり。
ぼくが理解できていなかっただけで、もっとえげつない話もしていたのだろう。
なので結局、ぼくはスグリとしか仲良くなることができなかったわけだ。
彼はぼくと一緒で世間知らずなところがあるし、今どきスマホロトムを持っていないのもポイントが高い。ぼくはスマホロトムを持っているけれど。
「だから、ぼくは大人になろうと思う」
「どうやって?」
「いやらしい単語を暗記するとか?」
「テスト勉強じゃねえんだから」
さすがに冗談だけれど、いつかはそういった知識も覚える必要があると思っている。
なんせ箱入り息子なものだから、俗世間というものにあまり触れてこなかった。
インターネットで少しずつ勉強しているものの、いまだにわからないことは多い。
「なら、きみはどうすれば大人っぽくなれると思う?」
「色んな経験をする、とか?」
「経験って?」
「……恋愛、とか?」
「その恋愛をするために大人っぽくなりたいんだけど?」
駄目だ、スグリでは話にならない。
やはりここは恋愛経験の豊富な先輩を探すべきか――
「ぷっ」
そんな風に思っていると、小さく噴き出したような声が聞こえてきた。
「く、ふふっ……ごめんなさい、おふたりの会話がかわいらしくって」
見ると、テーブルふたつ挟んだ先で肩を震わせている、知った顔の先輩が。
「タロさん!?」
「はいっ、タロです!」
彼女の名前は『タロ』。
肩あたりまで伸ばしたボブヘアと、エメラルドをあしらえたヘアクリップが特徴的な女子生徒だ。
ぼくたちよりひとつ上、2年生の先輩で、この学園においてはアイドル的人気を誇っているのだとか。
そして何より、彼女は『四天王』である。
ポケモンバトルの強さによってランクづけされるブルーベリー学園――その中で、彼女は第2位につけている。
可愛くて人望があって、ポケモンバトルまで強い完璧超人。
タロさんを表すとすれば、こうだ。
「……し、知り合い?」
「転校してきたときに、色々とお世話になったんだ」
つい1ヶ月前のこと。
それがきっかけでぼくは、彼女を好き——とまではいかずとも、憧れの先輩として密かにお慕いさせていただいている。
「そちらはヴェーラくんのお友だちですか?」
「はい、クラスで隣の席になりまして」
「あ、う……スグリ、です」
言葉を詰まらせながらも、なんとか自己紹介をこなすスグリ。
いきなりキラキラ女子に話しかけられるとびっくりしちゃうよな。わかる。
「スグリくん……どこかで聞いたことがあるような……?」
一方、タロさんは顎に手を当てて、何か考えこんでいる。
しかし思いあたる節はなかったようで、一度かぶりを振ると、紙カップのカフェラテを持ってひとつ隣のテーブルまで移動してきた。
食堂内は空いているため、これぐらいなら構わないだろう。
「——それで、女の子にモテたいという話でしたよね?」
「あ、いや……ええと、はい」
なんとも品のない話題だ。数分前の自分を殴ってでも止めたい。
その上、顔見知り——それも憧れの先輩であるタロさんに聞かれていたのだから救えない。
公共の場で話していたのが悪いと言われれば、それはそのとおりなのだが。
「盗み聞きしちゃったのはごめんなさい。でも、少しだけなら力になれると思うんです」
と、言いながら鞄を漁りはじめるタロさん。
やがて見つかったのは、
「突然ですけど、おふたりは『リーグ部』に興味ありませんか?」
リーグ部、というとポケモンバトルの部活のことか。
たしかブルーベリー学園では最大規模の部活であり、多くの生徒が所属していると聞いたことがある。
「男女比はちょうど半分くらいですし、部活を通じてカップルになった子たちも結構居るんですよ!」
つまり、部内で恋人を作ればいい、と言いたいのだろう。
「そんな不純な目的で入っていいんですか?」
「結構緩い部活ですから、よほど風紀を乱すようなことをしなければ問題ありません」
「そう、ですか」
正直、悪くない提案だ。
元々部活には興味があったし、スポ根のごとく頑張る必要がないのであれば、是非入部したい。
そして何より、タロさんが所属しているのだから、むしろ入らない方がおかしい。
「ヴェーラ……?」
ぼくが乗り気なことを察してか、スグリは不安げな表情で見つめてくる。
置いていかないでくれ——そう目が語っている気がするけれど、ぼくの幻想だろうか。
でも、ごめんスグリ。
ぼくは友情よりも恋情をとる……!
「——入部します。入部させてください!」
「わ、ヴェーラくんはやる気満々ですねー」
ありがとうございますっ! と言って入部届を渡してくれるタロさん。
「うぅ……ヴェーラ、本当に部活さ入んのか……?」
「男に二言はないよ」
わやじゃ……と言って肩を落とすスグリ。
彼は部活に入りたくないとこぼしていたこともあったし、唯一の友人から置いていかれそうになって苦しい状況なのも理解できる。
本当はスグリにこそ必要な部活だと考えているからだ。
なので、ここは全力で彼の背中を押して行こうと思う。
「スグリ……ぼくたちはライバル、だろう?」
「ライバル……」
彼とはよく授業でバトルするけれど、その勝率は五分五分。
実力が拮抗しているわけだし、ライバルと呼んでも差しつかえないだろう。
「ぼくはさ、きみに勝ちたいんだ」
「……」
「そのためにはたくさん経験を積む必要がある。違うかな?」
ぼくがリーグ部へ入ったのは、スグリに勝ちたいがため。
こういう言い方をすれば、彼の心に響くものもあるはず。
「……とか言って、本当はモテたいだけのくせに」
こうかはいまひとつ、と。
仕方がないので、ここは切り口を変えていくことに。
「そもそも、きみはお姉さんから部活に入るよう言われているんだろう?」
「う……」
以前、彼が自分で言っていたことだ。
部活に入って友だちのひとりやふたり見つけてこい、と言われているらしい。
「……」
今度はこうかばつぐんだったようで、腕を組んで考えこむスグリ。
「リーグ部に入って、ぼくと一緒にチャンピオンを目指そうよスグリ」
「う、うーん……」
「そしてぼくと一緒にモテモテになろう、スグリ!!」
「ぜ、絶対そっちが本音だべ!?」
そんなことはない。いや、部分的にはそうかもしれない。
「……」
やがて、この状況からは逃げられないと察したのだろう。
しばらく無言で悩んだのちに、スグリはおずおずと入部届を手に取った。
「ありがとうございますっ! これでおふたりはリーグ部の一員ですね!」
ぱちぱちと手を叩いて祝福してくれるタロさん。
そんな彼女に見守られながら、ぼくとスグリは入部届を書き上げ、提出する。
「いやー助かりました! 今年度は新入部員が少なくて困ってたんですよー」
ちょうど部員を集める方法を考えていたところでして――よく見ると、最初に彼女がかけていたテーブルにはノートが広げられている。
部活があるのにどうして食堂へ居るのかと思っていたが、そういうことだったのか。
「今、お時間は大丈夫ですか? よかったらわたしが部室までご案内しますよ!」
「はい! よろしくお願いします!」
「うぅ……勢いで流されちまった気がする……」
顔を青くしているスグリは置いておくとして。
ぼくは残りのフライドポテトをすべて口に入れると、学園シェーキでホエルオーのごとく流しこんだ。
「もぐもぐ……よし、行きましょう!」
「……ヴェーラくんって、もしかしてびっくり人間……?」
成長期だからだろうか。この頃、無限に食べられる気がしてならない。
***
「さあ着きましたよ! ここがリーグ部の部室です!」
じゃーん! と言って両手を広げるタロさん。かわいい。
けれどそこには数人の部員が居るのみで、思っていたよりずっと閑散としているようだ。
「すみません、みんなテラリウムドームへ行ってるみたいで……あ、よかったらそこにかけてください!」
言われたとおり近くのイスへかける。
すると、すーっと音を立ててスナック菓子がテーブルの上を滑ってきた。
……開封済みのスナック菓子が。
「へへっ、そいつはツバっさんからの差し入れだぜぃ」
見ると、テーブルに突っ伏したままニヤリと笑う男子生徒がひとり。
「ちょっと! 新入部員に食べさしをお出しする部長がどこに居るんですか!」
「はっはっは、こいつぁ失敬」
どうやらふたりは知り合いらしい。
急いでスナック菓子を回収するタロさん——その背後へ、男子生徒はぬるっと並び立つ。
「チャンピオン……?」
「おっ、オイラのこと知ってくれてるたあ嬉しいねぃ」
どうやらスグリは彼を知っているらしい。
かくいうぼくも、ブルーベリー学園で誰が強いかぐらいは把握している。
彼の名前は『カキツバタ』。
逆立てた髪型と、オラチフのジャージが特徴的な男子生徒だ。
噂によると、彼は2年生ながら3回留年しているらしく、その間ずっとチャンピオンの座を守り続けているのだとか。
「——そういうお前さんはスグリ、だろぃ?」
「えっ!? お、おれのこと、知ってる……ですか?」
意外なことに、カキツバタさんもスグリのことを知っているようだ。
「あたぼうよ! 姉ちゃんとよく似てっから、一目見ただけでわかっちまったよぃ」
「……ああ! どうりで名前を聞いたことがあるわけです」
どうやら先輩方はスグリのお姉さんと知り合いらしい。
ぼくはまだ会ったことがないものの、お姉さんは3年生の先輩で、気が強い性格をしていることは弟の彼から聞いている。
「そ、そう? ……にへへ、わやうれしいべ」
チャンピオンから認知されていたことが嬉しいのか、スグリは上機嫌だ。
「へへっ、オイラも可愛い後輩ができてわや嬉しいぜぃ!」
カキツバタは満足げに頷くと、次はぼくに視線が向いた。
「そいでお前さんは……んん、見ねえ顔だな?」
まさか全校生徒の顔を覚えているわけでもないだろうに。
ただぼくの場合、カキツバタさんが知らなくても仕方のない理由がある。
「つい1ヶ月前に転校してきたばかりでして」
「転校……こんな時期にかい」
「何か?」
「いんやあ、出席日数とか大変そうだなーなんて思ってよう」
カリキュラムが異なる関係上、前籍校での出席はカウントされないため、ここではすべてゼロからのスタートとなる。
前期については、補習を受けてやっと単位がもらえるぐらいなので、たしかに大変だ。
「はあ……あなたはまず自分の出席日数を心配してください、
「へへっ、違いねえ」
……ん?
タロさん……今、カキツバタさんのこと呼び捨てにしなかった……?
基本的に他人を呼び捨てしない彼女が、何故……?
「……」
「おーい? 難しい顔してどうしたんでぃ?」
今になって思えば、さっきカキツバタさんが開封してあるスナック菓子を渡してきたのは
『カーキカキカキカキ! タロはオイラの"たべのこし"ツバタねえ〜!?』
い、嫌すぎる!
タロさんに彼氏が居るなんて、考えたくもない。
しかも、その相手がカ
うっ……脳が破壊されてしまう……!
「ぼくの名前はヴェーラです。よろしくお願いします。カキツバタ」
「い、いきなり呼び捨てたぁご挨拶だねぃ」
おっと、ヴェーラAIが暴走してつい呼び捨てにしてしまった。
まあ? 来年度には彼と同学年になっていることだろうし、別にいいか。
これからも愛憎の念をもって、カキツバタのことは呼び捨てさせてもらうとしよう。
「ま、そんだけツバっさんが親しみやすいってこったな!」
「尊敬するに値しないだけじゃないですか?」
「そりゃ言いすぎだぜタロよぅ……」
ま、別にいいけどよ――カキツバタはこちらの背後に回ると、ぼくたちの肩を叩いた。
「——そいじゃ、未来のチャンピオンたちがどれだけ戦れんのか見せてもらおうかねぃ」
つまり、ぼくとスグリでバトルしてみろ、ということか。
「なに、ちょっとした入部試験みたいなもんさ。と言ってもハナから落とすつもりは——」
「や、やる! おれ、バトルしたい!」
スグリは随分と乗り気らしい。まるでおもちゃを前にした子どものようなはしゃぎようだ。
さっきはあれだけ入部するのを嫌がっていたのに、現金なものである。
「スグリはやる気満々って感じだねぃ……ヴェーラはどうよ?」
「断る理由がありません」
わざわざバトルの機会を設けてくれるというのだ。先輩の厚意はありがたく頂戴しなければ。
「そいじゃ、テラリウムドームへ行くとすっかねぃ。タロはどうする?」
「もちろんわたしもご一緒しますよ!」
……タロさんも観てくれるのか。
あまり考えていなかったけれど、そうなると話が変わってくる。
「ヴェーラくんたちのバトル、楽しみにしていますね!」
ものすごく緊張してきたんですけど……!