タロと学園ラブコメするだけ   作:私利私欲

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 林間学校の課題であるオリエンテーリング。

 その内容はさほど難しくなく、全部で3ヶ所を巡り、設置されている看板の前で写真を撮ればいいとのこと。

 

 しかし、ここでひとつ問題が発生する。

 

「2人1組、って言われてもなあ」

 

 ここに居るのはブルーベリー組が4人とパルデア組が3人、合わせて7人。

 2人組を作っていくと、必ず1人余ることとなる。

 なるべく他校の生徒と組むように言われているので、余るのはブルーベリー学園の生徒。

 

 となると——

 

「じゃあ、ぼくは1人で大丈夫なので」

「あの、3人グループを作れば済む話では……?」

 

 なるほど、その発想は無かった。さすがはタロさんだ。

 

「んじゃ、3人グループはオレたち野郎チームってことでどうだ?」

「おれはいいと思う」

「ぼくも異論はないよ」

 

 親友のスグリはともかく、ペパーとも昨日のうちに打ち解けた(?)ので、このメンバーで巡ることができるのは素直に楽しみだ。

 

「わたしたちはどうしましょう?」

「うち、正直ふたりきりは気まずい……」

「ならいっそ4人グループにしちゃえばいいんじゃない?」

「そ、それっていいのかな……?」

「いいの! 他校と交流さえしてれば文句ないでしょ!」

 

 ……というわけで、男子グループと女子グループの二手に分かれて行動することとなった。

 ただみんな一緒に行動しては意味がないので、出発する時間を少しだけずらすことに。

 

「それじゃ、早速行こうぜ!」

 

 ぼくたち男子グループはまず、ともっこプラザに向かって歩きはじめた。

 

「オレ、こういうのって初めてちゃんだからさ、楽しみすぎて昨日全然眠れなかったぜ……!」

「あはは、実はおれも……」

 

 ぼくは疲れすぎて爆睡してしまっていた、とは言わないでおこう。

 

「……そういやヴェーラって、ネモと幼なじみって言ってたべ?」

「そうだけど、どうかした?」

 

 しばらく景色を楽しみながら歩いていると、ふいにスグリが切り出した。

 

「その、ふたりがどんな関係だったのか気になっちまって……」

「あ、オレも!」

 

 スグリはぼくの親友で、ペパーはネモの親友だ。

 親友の過去が気になるのは当然か。

 

「大体、ネモが昨日言ったとおりなんだけど……家が近所で、ぼくたちが生まれる前から親同士の付き合いがあったんだって」

「なんだよ、生まれる前から一緒とかずるいちゃんだぞ!」

 

 そんなことを言われても親は選べないのだから仕方がない。

 

 というか、ずるいちゃんって何だ?

 

「ネモって昔は身体が弱くてさ。学校にも通えないぐらいだったから家庭教師を雇っていたんだ。それで、ついでだからってぼくも一緒に授業を受けさせてもらうことになって」

 

 5歳ぐらいの話だったか。

 ぼくがネモのことを明確に認識したのはこのときからだ。

 

「ネモは昔からポケモンバトルが好きだったんだけど、虚弱だから外には出られないし……ってことで、代わりにぼくがポケモンを捕まえてきたりしてさ、それでずっとふたりでバトルしてたんだ」

 

 砂浜でバトルするぼくたちを見かねてか、ネモのお父さんがバトルコートを用意してくれたのだから、あのときは驚いた。

 

「それで、ネモが走り回れるぐらい元気になったから、一緒にアカデミーへ通おうって話になって。授業に出るのも、旅に出るのも、ずっと一緒に居たんだけど……なんでかな。それではいけないって、ぼくはそう思うようになったんだ」

 

 今になって思えば、あれは反抗期のようなものだったのだろう。

 成長にともなって自立しようとする心が芽生えはじめ——半ば共依存にあったネモから距離を置くべきだと考えるようになった。

 

「ネモがすごいやつなのは知ってるだろう? バトルは強いし、勉強もできるし、運動はちょっと苦手だけど、今や生徒会長になれるぐらいのリーダーシップもある。そんなネモがぼくとしか仲良くしないなんて、すごく嫌だったんだ。あいつの未来を奪っているような気がしてさ」

 

「だから、ネモを置いて転校したって?」

「おかしいと思うかな」

「……どうだろうな。オマエの言うこともわからなくはねえけど、そう簡単に飲みこめるもんでもねえよ」

 

 親友であるペパーからすれば、そうなのだろう。

 しかし再三言っておくが、ぼくはこの判断を間違えたとは思っていない。

 

「オレが引っかかるのはさ、ネモに何も言わずに転校したことなんだよ」

「それは、」

「アイツ言ってたぜ? 大切な人が急に居なくなったって、行き先も教えてくれなかった、ってガキみてえに泣きじゃくってよ」

 

 ……それを知ってしまうと、胸が痛いな。

 

「ぼくはあえて何も言わなかったし、クラベ(校長)ル先生にも口止めしておいたんだ。だってブルーベリー学園に転校したって聞いたら、きっとそのときのネモならついてきてしまうだろう? 多少強引に別れないと、意味がないと思ったんだ」

 

「それなんだけどよ、本当に距離を置く必要はあったのか? 依存すんのって、そんなに悪いことかよ。死ぬまで一緒に居られるなら、一生そのままでもよかったらんじゃねえの?」

 

 ——それはネモの望むことだったのか?

 

 ペパーから問いつめられて、ぼくは初めて言葉に詰まってしまった。

 

 今までぼくは、ぼくのやったことはすべてネモのためであるかのように説明してきた。

 

 でも、実際はそれだけではない。

 転校という手段を選んだのは、ぼくのための決断でもあった。

 

「……嫌な言い方をするけれど、ぼくは自由になりたかったんだ。ネモとふたりだけの世界じゃなくて、その外の世界を知りたかった。ネモが居たら……それはできなかったんだよ」

 

 ぼくだって、ネモから求められて悪く思うわけがない。

 一生ふたりきりだったとしても、それはそれで幸せにはなれたはずだ。

 しかし——互いに満たし、満たされて……満足してしまったぼくは、欲をかいてしまったのだろう。

 

 だから、多分、ぼくはタロさんに惹かれてしまったのだと思う。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はん、贅沢な野郎だぜ」

 

 自覚があるからこそ、ペパーの言葉が突き刺さった。

 

「きみは違うとでも言いたいのかな」

「ああ、まったく違うね! オレは小さいころから親が居なかったし、ダチだって最近できたばかりだからよ……今の話、いっこもわかんなかったっての」

 

 ぼくが飽きを感じていたのだとすれば、ペパーは飢えが満たされつつある、といった感じか。

 であれば、当然ぼくたちがわかり合えるはずもない。

 

「おれは、ヴェーラの気持ちもわかるかも……ヴェーラに出会って、ねーちゃんに頼ってばかりじゃダメだって、そう思ったから」

 

 思えば、ぼくはスグリとも共依存しかかっている節があった。

 類は友を呼ぶと言うように、きっと似たような人間とひかれあうようになっているのだろう。

 

「おいおい、スグリまでそっち側かよ!? オレってそこまで家族に恵まれてなかったちゃんなのか……?」

「ま、まあまあ」

 

 ショックを受けるペパーに対し、フォローを入れるスグリ。

 

 出会ったばかりのことを考えると、スグリは随分と話せるようになった。

 今だって彼が会話を回しているわけで、違いは一目瞭然だ。

 きっかけがあったとすれば、やはり四天王に昇格したからだろうか。

 自分に自信がついたのか、以前よりもぐんと大人になったように見える。

 

「……なら、さ、ペパーはどうやってネモと知り合ったんだべ?」

「おっ、聞きたいか? オレとネモの冒険譚!!」

 

 ま、ワケあって言えないことも多いんだけどよ、とつけ加えるペパー。

 

「オレには大切な家族が居てさ、マフィティフってポケモンなんだけどよ」

 

 マフィティフ——あくタイプのポケモンだったか。

 おやぶんポケモンと呼ばれるほど仲間想いなポケモンで、いかつい見た目に反して子どもと遊ぶことが大好きという可愛らしい一面もある。

 

「……一度、オレのワガママでそいつを傷つけちまったことがあって。ずっと治らねえ傷が残っちまったんだ」

「それで、どうやったら治せんのかって色々調べたら『ひでんスパイス』ってのにたどり着いてよ! それを探すのに付き合ってくれたのがネモだったってワケだ」

「そっから……これもちょっと言えねえんだけど、色々あってオレの問題を解決してくれてさ、そんでボタンとも引き合わせてくれて……だからオレ、ネモにはすげえ感謝してんだ」

 

「——だからオマエみたいな浮気野郎は絶対許せねえ!!」

 

 結局はそこに着地するのか……

 

 そもそも浮気とは何を指して言っているのだろう。

 タロさんとのことをペパーは知らないはずだし、ネモを置いてふらふらしている(ように見える)ことを浮気と呼んでいる、のか?

 なんにせよ、その言葉が相応しくないことには違いない。

 

「別に恋人だったわけでもないんだから、どこへ行こうが浮気じゃないよ」

「でも将来お婿ちゃんになる予定なんだったら浮気ちゃんだろうが!!」

「だから、それは親ちゃんが面白がって話してただけだって言ってるちゃんだろう?」

「オレの真似すんじゃねえ!!」

「じゃあ筋の通ってない言いがかりはやめてくれるかな!!」

 

「はあ……こりゃ仲良くなるのは無理そうだべ」

 

 間に立ってもらっているスグリには悪いけれど、同感だ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 男子グループが出発してから10分後。

 わたしたち女子グループも、同じ方へ向かって歩きはじめたわけだが——

 

「……あ! りんご畑!」

 

 自然豊かなキタカミの里は目新しいものばかりで、すぐに目移りしてしまうわたしが居た。

 

「何よ、りんごなんか別に珍しいものでもないでしょう?」

「わたし、木になったりんごって初めて見たので……」

「タロってどんだけ箱入り娘なん……」

 

 そ、そんなに変なことを言ったかな?

 

「りんごと言えば……あ、ほら見て! カジッチュ!」

 

 ネモさんが指した方を見ると、そこにはりんごから目としっぽだけを出したポケモンが。

 

「わ、かわいいポケモンですね!」

「可愛くはないけど……?」

 

 あんなの害虫みたいなもんじゃない、と言い捨てるゼイユさんには風情というものがないのだろうか。

 そんな彼女は置いておくとして、わたしはカジッチュを見るためにりんご畑のそばへ。

 

「……ガラル地方では、好きな人にカジッチュを渡すと恋が実る、って話がある」

 

 すると、ボタンさんが素敵なジンクスを教えてくれた。

 

 好きな人に、カジッチュ……一応、覚えておくとしよう。

 

「……で、なんで今それ言ったわけ?」

「い、いや、他意はないが?」

「なんで女しか居ないこのグループでそんなこと言ったわけ!?」

 

 何が”げきりん”に触れたのか、ムキーッ! と怒り出すゼイユさん。

 最初は怖がっていたボタンさんもすぐに慣れてしまったらしく、今では涼しい顔で聞き流している。

 

「なら、ゼイユは仲のいい男子とか居ないの!?」

「そ……そんなの多すぎていちいち覚えてられないわよ」

 

 覚えていられないほどなら、仲がいいと言えないのでは……?

 

「ゼイユさんはほら、仲がいい人が居るじゃないですか。カキツバタとか」

「あれだけはない」

 

 カキツバタという名前を聞いた途端、ゼイユさんは本当に嫌そうな顔をした。

 

 まあ、同じ立場ならわたしもそんな顔をしていたでしょうけれど。

 カキツバタがかわいそう……でもないですね。自業自得だし。

 

「何々!? それってどんな男子!?」

「……ブルーベリー学園で一番強い生徒、ですかねー」

 

 仕方がないので、彼の悪い部分については黙っておいてあげることにする。

 

「す、すごい! わたしその人と戦ってみたい!」

「まーたネモってる……色気より、勝気?」

 

「なら、今度はあんたがうちの学園に来なさいよ。あのバカなら何回でも戦ってくれると思うわ」

 

 昨日、散々バトルに付き合わされた腹いせか、容赦なくカキツバタを売ったゼイユさん。

 

「そういえば交換留学って手があったよね……うん、じゃあそうする!」

「あんた本当に来るわけ……?」

 

 自分で誘っておいて、そんな嫌そうな顔をするのはよくないと思います!

 

「……で? そっちにはいい男子とか居ないわけ?」

 

 ゼイユさんが問いかけると、パルデア組のふたりは顔を見合わせる。

 

「いいヤツはいっぱい居るけど、今のところそういう目では見てない」

「ボタンってばスター団のみんなからモテモテだもんね!」

「も、モテモテ言うなし」

 

「へ、へえ……?」

 

 ボタンさんが自分より先を行っていることが悔しかったのか、ゼイユさんは顔をひきつらせている。

 

 ボタンさん……かわいいし、守りたくなっちゃうし、モテモテなのも納得だ。

 

「じゃ、じゃあネモは!?」

「わたし? わたしは……うん、やっぱりヴェーラかなー!」

 

 ——ピシッと、空気が凍る。

 

「あ、あれ? わたし、何かまずいこと言ったかな?」

 

「そ……そんなことはないわよ!? ……ねえ?」

「あはは……」

 

 そんな露骨にこちらを見られても困る。

 ヴェーラくんがわたしを好いてくれているのは明白かもしれないけれど、逆にわたしから何か言ったことはないわけで。

 ま、まあ? 彼のことは()()()()()()()し、何も思ってないわけでもないですけど?

 

「それで!? ヴェーラのどんなところが好きなのよ?」

「うーん……やっぱり優しいところかな? ツンってしてるところもあるんだけど、なんだかんだわたしのことをちゃんと見ててくれるっていうか」

 

 な、なんか恥ずかしくなってきちゃった! と言って顔を赤くするネモさん。かわいい。

 

 かわいいけれど、言っていることはまったくかわいくない。

 ヴェーラくんが優しいとか、そんなのわたしだって知っている。

 わたしだって……あなたの知らないヴェーラくんをたくさん知っているのに。

 

「あと! 何よりもポケモンバトルが強いってとこがいいよね!」

「へえ……ん?」

 

 どうやらゼイユさんも、わたしと同じところが気になったらしい。

 

 たしかに彼はすごくバトルが上手くなったけれど、それはブルーベリー学園に来てからの話。

 とすると、ネモさんの言っていることとは矛盾を引き起こす。

 

「ヴェーラ、うちに来るまでバトルはほとんどしたことなかったってスグリが言ってたわよ?」

「まっさかー! わたしとは昔からよくバトルしてたし、チャンピオンクラス一歩手前まで行ったんだからそんなわけ……ってあれ?」

 

「「……」」

 

 ヴェーラくん、もしかしてブルーベリー学園では弱いふりをしていたってこと……?

 

「へ、へえ……? あいつ、本当はめちゃくちゃ強いくせに、初心者のふりしてうちのスグリたぶらかしたってわけ……?」

「まあ、何か事情があったのかもしれませんし……」

 

 しかし、そういうことなら仮面武闘会で見せたあの強さも納得だ。

 でも、あのときはどうして他人のふりをしてわたしと戦いにきたのだろうか。

 ヴェーラくんの考えていることは、やっぱりわからない。

 

「そ、そっちでは弱いふりしてたの!? それは……どうしてだろう」

「転校したばっかりで目立ちたくなかった、とかじゃない? 知らんけど」

 

 その割には入部直後にイベントを開催しようとしたり、結構目立つような行動をしていた気がする。

 

「うちが言えたことじゃないけど、ヴェーラってなんか……めんどくない? ネモのためにとかなんとか言って勝手に転校したりするし、そんなん独りよがりもいいとこ——」

「そ、そこもいいところなの! ね!?」

「は、はい!」

 

 つい勢いで答えてしまったけど、本当にいいところなのだろうか。

 思えば、彼が仮面武闘会を企画したのだって、わたしが気づいていないだけで何か裏がありそうな気がする。自分からそんなことをするタイプには見えないし。

 

「……で? タロはどうなのよ」

「どう、とは?」

()()()()()()()()が居るんでしょ? かなり噂になってたわよ」

 

 アカマツくんが告白してくれたとき、気になっている人が居るからと言って断ったのは記憶に新しい。

 あえてそうしたのはわたしだけれど、やっぱり噂になっちゃいますよね……

 

「なになに!? その話聞きたい!」

「え……タロって人間のこと好きになったりするん?」

 

 かなり失礼なことを言われた気もするが、ここは聞かなかったことにしておく。

 

 しかし、どうしたものか。

 今まではつとめて恋愛に関する言及を避けてきたけれど、こうして噂にまでなってしまった以上、バケーション明けからは立ち回りを変える必要があるだろう。

 

 ……言ってもいいのだろうか。

 本当の気持ちを言葉にしても、いいのだろうか。

 でも、今ここで言わないと……ネモさんに先を越されてしまう気がする。

 

 本当に欲しいものは、自分で()()()()()()()()

 

「——わたし、ヴェーラくんのことが好きなんです」

 

「「「……」」」

 

 ――わたしたちの間を吹き抜けていく、碧の風。

 

「あ、ああああんた!! それ本当!?」

 

 そんな中、いち早く騒ぎ出したのはゼイユさんだった。

 

「はいっ! 本当ですよ」

 

 ヴェーラくんのことが男の子として好き、だ。

 アカマツくんに負けて涙を流す彼を見たとき――わたしは自分の気持ちを確信した。

 

「きゃー!! もうっ、何よ!! あんたら両想いだったってわけ!?」

 

「両、想い……?」

 

 ぽつり、と。

 そうつぶやくと、ネモさんは歩みを止めてしまった。

 

「あ……いや、これは――」

「はい、そうなんです」

 

 何やら弁明しようとするゼイユさんを制し、わたしはネモさんの前までゆっくりと歩いていく。

 

「実はわたし――1ヶ月ほど前、ヴェーラくんから告白されていまして」

 

 告白!? と騒いでいるゼイユさんは置いておくとして。

 

「告白……」

「そのときは保留にさせてもらったんですけど、あらためてお受けしようと思ったんです」

 

 だって、好きだから。

 優しくて、かわいくて、わたしのために必死になってくれるヴェーラくんのことが好きだから。

 

「ごめんなさい、ネモさんのお気持ちは察するにあまりあるのですが――」

「い、いいの!」

 

 謝罪しようとするわたしを、ネモさんがさえぎる。

 

「だってそれは、ヴェーラが選んだこと、だよね?」

「そう、ですね」

「だったら、いい。むしろネモ離れができてめでたい、っていうか? ヴェーラってばいつもわたしにべったりだったからさー!」

 

 ネモ離れってなんだし……後ろでぼそっとボタンさんがつぶやく。

 

「だから、いいの……わたし、ふたりのこと応援する」

「ありがとうございます」

 

「……っ、ごめん。あとで追いつくから!」

 

 こらえきれなくなってしまったのだろう。

 それだけ言い残すと、ネモさんは踵を返して走り去ってしまった。

 

「ごめん、あたし……」

「いいんです。わたしが言えることじゃないですけど、遅かれ早かれこうなっていたでしょうから」

 

 もとよりわたしは、この林間学校でヴェーラくんに想いを伝えるつもりだった。

 その結果、誰かが傷つくことがあるのであれば、それは早い方がいいに決まっている。

 これが帰る直前だったならば、きっとわだかまりを残したままお別れになっていただろうから。

 

「……気まず」

 

 いざこざに巻きこんでしまったボタンさんには、あとできちんとお詫びをさせてもらうとしよう。

 

 

 

 ***

 

 

 

 昔々、キタカミの里には恐ろしい『鬼』がいた。

 ある日、怒り狂った鬼は人里へ降りてきて、村人たちは恐怖したが、偶然そこに居合わせた『ともっこ』たちが命をかけて戦い、村に平穏が訪れた。

 

 ……というのが、ともっこプラザの看板に書かれている伝説だ。

 

「この伝説……おれは鬼さまがかっこいいと思うんだけど、ふたりはどう思う?」

 

「格好いいというか、正しいのはともっこだと思うけれど」

「オレは……鬼だな」

 

「だべ!? ひとりで複数の敵相手したの、わやかっこいいべな!」

 

 スグリの中では、ぼくの意見は最初から無かったことになっているらしい。

 

「大体、鬼が恐ろしいっつうのは人間の主観だろ? 本当は人間と仲良くなりたくて里に降りてきた可能性だってあんじゃねえの?」

「否定はできないね」

 

「にへへ……みんなともっこがいいって言うからさ、おれ、ふたりが鬼さま派でうれしい!」

 

 ぼくは別に、どちらの肩を持つわけでもないのだが。

 まあ、スグリが喜んでいるならいいか。

 

「おれ、昔から鬼さまに憧れてて……強いし、かっこいいし、人間から仲間外れにされてもへっちゃらって感じで、おれもそんな風になりたいって思ってた」

 

「……でもさ、おれ、鬼さまとは違うけど、ちょっとだけ強くなれた……と、思う」

 

 そう言って視線を向けてくるスグリに、ぼくは頷いて答える。

 

「へへ、ありがとな! それも全部、ヴェーラがリーグ部に入ろうって言ってくれたからだべ」

 

 そんなことは言っただろうか。言っていない気がする。

 だってぼく、タロさんに誘われたから入部しただけだしな。

 

「……なんだよ、オマエら仲良すぎだっつうの! オレだけのけものちゃんか!?」

「あ、ご、ごめん。ペパーとは今から仲良くなりたいと思ってて……本当だべ!?」

「それは! オレもそうだけどよ……林間学校が終わったら、オレたちお別れちゃんになっちまうわけだろ?」

 

 そんなの、寂しいだろうがよ……と消え入りそうな声で言うペパー。

 

「……林間学校が終わったら、ぼくは一度パルデア地方に帰る。だからお別れにはならないよ」

 

 ネモと顔を合わせたくなかったし、元々帰省するつもりはなかった。

 しかしこうなれば同じことだ。両親も心配しているだろうし、顔ぐらいは見せておきたい。

 

「はんっ、オマエと会えたって嬉しくねえよ」

 

 そうは言いつつも喜びが隠しきれていないペパー。

 こいつ、意外と可愛いところあるな……

 

「な、ならおれも、交換留学でパルデア地方さ行く!」

「シアノ先生にお願いして、みんなで行けるようにしてもらおうか」

「うん!」

 

「……ありがとな」

 

 ぎくしゃくはするけれど、なんだかんだ最後には仲直りする。

 ネモとは一度も喧嘩したことがなかったから、こういう関係は初めてのことだ。

 

 でも……存外悪くない気がした。

 

 

 

 

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