タロと学園ラブコメするだけ   作:私利私欲

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 林間学校の間、キタカミの里では『オモテ祭り』が開催されている。

 全員仮面をつけて参加すると聞いたときには、奇しくも仮面武闘会と同じだと知って驚いた。

 もしかすると、身分や立場に関わらずみんなで楽しみたいという気持ちは万国共通なのかもしれない。

 

「ごめーん遅くなっちゃったー!」

 

 ぼくたち男子グループ――先に着つけ終えた――が待っていると、遠くから女性陣が小走りで駆けてくるのが見えた。

 

「あ! ヴェーラはわたしとお揃いだね!」

 

 そう言ってはにかんだネモは、くるっと回るとセクシーポーズ(?)を決める。

 

「どう? 似合う?」

「認めたくはないけど、まあ」

「もうっ、素直じゃないなー」

 

 ネモが身につけているのは緑色の甚平で、髪色も相まってよく似合っている。

 ちなみにスグリとペパーは白色、ゼイユさんとボタンさんは青色の甚平を選んだらしい。

 公民館から借りたものなのでデザインは統一されているものの、各々ヘアアレンジをするなどして着こなしを楽しんでいるようだ。

 

「ぷっ、前髪上げたらずっげえ印象変わったなボタン!」

「う、うるさい……うちだってお願いしてやってもらったわけじゃないし」

 

 着つけの人から強引に勧められたのか、前髪を頭のてっぺんで留められたボタンさん。

 本人は不服そうだが、これはこれでよく似合っている。

 

「……あれ、タロさんは?」

「タロならもう少し遅れてくるみたいだから、あたしらは先行くわよ」

 

 先に歩き出したゼイユさんへついて行こうとするも、何故かネモに押し留められる。

 

「ヴェーラは、……タロのこと、待っててあげて?」

「それはいいけど……」

 

 どうしてそう、苦しそうな顔をするんだ、ネモ?

 

「お腹でも痛いのか?」

「……そ、そんなわけないじゃん! ヴェーラったらデリカシーなさすぎ!」

「ただ心配しただけだろう」

 

 ネモは昔から体調を崩しがちだからな。

 そんな顔をされると心配になってしまう。

 

「よくわからないけど、辛くなったらすぐに言えよ」

「……うん」

 

 一度ぼくにハグすると、ネモはみんなのもとへ駆けていった。

 

 ……いや、なんでハグした?

 

「変なやつ」

 

 そのまま待ちぼうけていると、遠くからタロさんらしき人影が駆けてくるのが見えた。

 

「ご、ごめんなさい! わざわざ待ってもらっ、てえっ——!?」

 

 慣れない草履で走ったからか、足をもつれさせるタロさん。

 咄嗟に抱き止めると、鼻腔をモモンの香りがくすぐった。

 

「もう、タロさんってば、意外とそそっかしいとこ……あ、る……」

 

 ——この人は、何度ぼくを惚れさせれば気が済むのだろう。

 

 髪を編みこみ、普段よりも少し大人っぽいメイクを施したタロさん。

 いつにも増して可愛い……というよりは、すごく綺麗に見えた。

 ちなみに彼女は桃色の甚平を選んだようだ。

 

「あ、ありがとうございます……な、何ですか? そんなジロジロと」

 

 おっと、つい見惚れてしまっていたらしい。

 

「いや、タロさんが綺麗だな、と」

「きれっ!? ……もうっ! 先輩をからかわないでください!」

 

 早く行きますよ! と言って手首を引いてくるタロさん。

 

 ぼくたちは会場に向かって歩き出すが――

 

「あの、近くないですか」

「そうですか?」

 

 そうです。

 近すぎて肩がぶつかりそうになるくらいには近いです。

 

「うーん……わたしたちって普段からこれくらい、ですよね?」

 

 そうだったか。言われてみるとそんな気もしてきた。いや、本当にそうだったか?

 

 ……それにしても、タロさんはいつになったら手を離してくれるのだろう。

 ぼくとしてはずっとこのままでも構わないけれど、みんなに見られるのは彼女も困ってしまうはず。

 

「タロさん、手……」

「へ? あ……ごめんなさい」

 

 そう言って手首から手を離すと、今度はぼくの指に指を絡ませてきた。

 

「た、タロさん!?」

「……ちゃんと手を繋いでいないと、小さいヴェーラくんは迷子になっちゃうかもしれませんから」

 

 突然の暴言。

 タロさんより小さいとは言っても、せいぜい2、3……いや5センチほどしか変わらない。

 それにぼくはまだ成長期の途中であって、タロさんなんかすぐに追い越し——いや、まあ、それは置いておくとして。

 

「……うぅ」

 

 きっと今のは照れ隠しだったのだろう。

 タロさんも手をつなぐのは――それも恋人つなぎは相当恥ずかしかったらしく、顔を真っ赤にしている。

 

「……みんなからは姉弟のように見えてるんですかね、ぼくたち」

「あはは、お姉ちゃんって呼んでくれてもいいですよ?」

「それは遠慮しておきます」

 

 勢いあまって姉に告白する弟はどうかと思うし、何より姉弟では恋人になることができない。

 タロお姉ちゃんというのも魅力的ではあるけれど、そんなのはごめんだ。

 

「というか、いいんですか? タロさんには気になっている人が居るってこの前——」

「いいんです」

 

 そう言い切られてしまうと、何も言うことができない。

 

「わたしはヴェーラくんがいい、です」

「……」

 

 これもう完全に付き合ってるよね???

 

 頭が真っ白になって何も言えずにいるうちに、ぼくたちはオモテ祭りの会場に到着した。

 

「み、みんな先に来てるみたいですけど、どこに居るのかなあ? なんて……」

 

 そう言ってみんなのことを探しにいこうとするも、タロさんに手を引いて止められる。

 

「わたしは……ヴェーラくんとふたりが、いいです」

「……承知いたしました」

 

 ダメだ、ちょっとタロさんの火力が強すぎる……!

 

 

 

 ***

 

 

 

 今日のタロさんは――なんというか、すごい。

 

 手をつないできたのもそうだが、「わたし、りんご飴が食べてみたいです!」とか「射的! わたし、ヴェーラくんのかっこいいところが見てみたいなー、なんて」とか「ヴェーラくんのヤキソバ、一口食べさせてもらえませんか?」とか……いつになく積極的というか、とにかくすごい(語彙力)

 

 もしかして今、ここでもう一度告白すれば受け入れてもらえるのでは……?

 

「はあ、ちょっと食べすぎちゃいました……ちょっと人の少ないところで涼みませんか?」

 

 などと考えていると、タロさん自ら人気のない場所へ誘ってきた。

 

 もしかして今、ここで告白されてしまうのでは……!?

 

「……」

「……」

 

 内心ドキドキしながら、ぼくとタロさんは会場のはずれへ向かう。

 明かりのない場所というのもあってか、ぼくたち以外には誰も居ないようだ。

 

「……そういえば結局、スグリたちの姿が見えませんでしたけど……みんな大丈夫かな」

「えっ、それなら屋台のあたりで何回か見かけましたけど……?」

 

 周りが見えなくなるほど、タロさんにのめりこんでいたんですかねぼくは……

 

 そんな自分に呆れていると、ふと視界の隅に人影をとらえた。

 

「あれ、こんなところに子ども……?」

「迷子、ですか?」

 

 背丈はぼくよりずっと小さいし、おそらく子どもだろう。

 夏だというのに半纏をまとっており、顔はひときわ大きい鬼のお面によって隠されている。

 

 せっかくいい雰囲気ではあったけれど、もし迷子だとすれば心配だ。

 

「タロさんはここで待っていてください」

 

 そう言って、ぼくはその子のもとへ駆け寄ると、目線を合わせて話しかける。

 

「迷子になっちゃった? 家族の人は居るかな?」

「ぽに……」

 

 その子は首を振ったかと思いきや、逃げるようにしてたったっと軽やかに階段を駆け上がっていく。

 

「あ、ちょっと、階段で走ると危ないよ!」

 

 ぼくが声をかけたのがよくなかったのかもしれない。

 その子は振りかえると、勢い余って大きなお面を落としてしまった。

 

「言わんこっちゃない……ん?」

 

 暗くてよく見えないが、あの子は――もしかしてポケモン、なのか?

 

 まあ、その子が何であるにせよお面は返してやりたい。

 

「ほら、これ!」

「……」

 

 お面を返そうとするも、ぼくのことが怖いのか、どこかうろたえた様子。

 しばらくすると、その子は山の方へ走り去っていってしまった。

 

「おーい……これ、どうすればいいんだ」

 

 こんな立派なお面、落とし物センターに預けるのも忍びない。

 宝石で装飾されているようだし、まかり間違って第三者に盗まれても困る。

 

「――お、鬼さま!! 今の、絶対鬼さまだべっ!?」

 

 どうしたものかと悩んでいると、何故かスグリがぼくの方へ駆け寄ってきた。

 

「見ていたのかスグリ?」

「あ……ヴェーラの姿が見えたから、声かけようと思って。偶然、だべ?」

 

 それ、絶対偶然じゃないやつだろう。

 

 彼の後ろを見ると、向こうからゼイユさんにネモとペパーとボタンさん……というか、みんな居るじゃないか。

 本当に偶然なんだろうな? という意味をこめて見ると、スグリは気まずそうに顔をそらした。

 

「ごめん……どっちかが告白するんじゃないかって、ねーちゃんが」

 

 気が合いますねゼイユさん、ぼくもここで告白されるかと思いましたよ。

 

 しかしこうなっては仕方ないので、ぼくたちもみんなと合流する。

 

「ヴェーラ! そのお面ってよ……」

「うん、多分、鬼のお面だよね」

 

 鬼さま、鬼さまとスグリが騒ぎ立てたことで、ぼくたちの中ではさっきの子イコール『鬼』という共通認識ができていた。

 

「でもその子が本当にオニ様だったとして、どうしてこんなところに居たんだろうね?」

「そりゃ人間と仲良くなりたくて、祭りを見にきたに決まってんだろ!」

 

 絶対に間違いない! と言って胸を張るペパー。

 きっと昼間に話した仮説が当たっている可能性が浮上して、得意げになっているのだろう。

 仮にあの子が恐ろしい鬼だったとすれば、対面したぼくが無事なのは変な話だ。

 とすれば、彼の考えもあながち間違っていないのかもしれない。

 

「人間と仲良くなりたいけど、遠いところから見てるしかできない……うっ、古傷が」

「ひとりで何をブツブツ言ってんのよボタン?」

「ゼイユは黙ってて。陽キャには理解できない」

「なんですってえ!?」

 

 いつの間にかボタンさんとゼイユさんは気兼ねなく話せるようになったようで何よりだ。

 それはそれとして、ボタンさんのせいでぼくの古傷も開いたので謝ってほしい。

 ぼ、ぼくだって本当はクラスのみんなと仲良くだな……

 

「あの、お面を見せてもらっていいですか?」

「あ、はい」

 

 仮面を渡すと、タロさんはお面に手を這わせはじめる。

 その手つきが妙になまめかしくて、ぼくは目をそらした。

 

「……すごくきれい」

「お、おれも見たい! おれにも見せてタロ!」

 

 スグリがぴょんぴょんと跳ねてねだるも、タロさんは仮面へ釘づけになったまま。

 

「た、タロ……?」

「タロさん?」

 

「……あ、ご、ごめんなさい! その、よく見たらここが割れちゃってるな、と思いまして」

 

 見ると、額の宝石が大きく欠けてしまっている。

 きっと階段から落としたときに割れてしまったのだろう。

 

「じゃ、じゃあさ! おれたちでお面さ直して、鬼さまに返してあげるべ!?」

「そんなこと言ってあんた、ただ鬼と会いたいだけじゃないの?」

「そ、そんなことはないべ!?」

 

 目が泳ぎまくっているし、そんなことはあるのだろう。

 しかしぼくにはお面を取り落とさせてしまった責任があるわけだし、スグリの意見には賛成だ。

 

「でも、直すたってうちら、そんな技術ないし」

「う……な、ならとりあえずじーちゃんに訊いてみるべ!」

 

 じーちゃんは仮面職人だし、たしかうちに似たようなお面があったべな! と続けるスグリ。

 

「似たようなお面? そんなの家にあったかしら」

「あ、いや……」

「……あんた、いくら鬼が好きだからって勝手にあれこれ探ろうとするの、やめた方がいいわよ」

 

 聞くところによると、昔からスグリはひとりで山に入ったり、勝手に家の倉庫を漁っていたりもしていたらしい。

 どうやら鬼のことになると好奇心を止められなくなってしまうようだ。

 

「なら、早速スグリとゼイユのお家に突撃だー!」

「頼むから物を壊したりするなよ……?」

 

 ネモの号令で、ぼくたちはスグリの実家へ向かうこととなった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 スグリが友だちを5人も連れてきたことに腰を抜かしていたおじいさん。

 しかしぼくたちが鬼に会ったという話をすると、途端に顔つきが変わった。

 

「これは……たしかに、鬼さまのお面のようだ」

「だべ!?」

 

 やっぱあれは本物の鬼さまだったんだなー!! と大はしゃぎするスグリ。

 

「まさか今も鬼さまが祭りに来てくださっていたとは……」

「じーちゃんまで鬼さま呼ばわり……鬼って、村を襲う悪いやつなんじゃないの?」

 

「……本当の歴史は逆なんだ」

 

 ゼイユさんが問いかけに対し、おじいさんは本当の歴史を語りはじめた。

 

 いわく、鬼――『オーガポン』はいたずらっ子ではあったものの、人間を傷つけたりするようなことはなかったらしい。

 

 そんなオーガポンとともに海外からやってきた大男。

 村人から受け入れられず、山でひっそりと暮らしていた彼らのために作られたのがこのお面なのだとか。

 ひときわ美しい仮面をつけたオーガポンたちが村の祭りに参加すると、彼らはたちまち羨望の的となり――やがてそれを奪おうとする者が現れた。

 大切なお面を盗まれたオーガポンは、当然盗っ人をこらしめることにした。

 しかし――その怒り狂った姿を見た村人はオーガポンを『鬼』と呼んで恐れるようになり、反対に盗っ人であるポケモン3匹を、命を賭して村を守った英雄として『ともっこ』と呼ぶようになった。

 それ以来、悲しみに暮れたオーガポンは人間の前に姿を現すことがなくなった……というのが、代々仮面職人であるこの家に語り継がれてきた真実らしい。

 

「何よそれ……」

「チッ、胸糞わりぃ話だぜ……」

 

 おじいさんから語られた真実の歴史に、みんな言葉を失ってしまう。

 

「だ、だったら、今からでも村のみんなにそれを伝えた方が……!」

「もちろん先祖さまはそうなさったが……異端者として迫害を受けたようだ」

 

 だから君たちもこのことは口外しないでほしい、と釘を刺すおじいさん。

 キタカミの里という小さなコミュニティでは、現代においても同じことを繰り返す可能性がある。きっと彼の判断は正しい。

 

「「「……」」」

 

 あんまりな話を聞いて、意気消沈してしまったぼくたち。

 ぼくも同じ気持ちだが、いつまでもこうしている場合ではない。

 林間学校という時間は有限だ。お面を返すなら、すぐにでも動かなければならない。

 

「何にせよ、ぼくたちのやるべきことは変わらないよ」

「……んだな。じーちゃんの話が本当なら、なおさら鬼さまにお面を返してやりてえ」

 

「ひとまず、お面はわしが預かろう。材料さえあれば直せるかもしれない」

 

 お面をおじいさんに渡すと、ぼくたちはお面を返す具体的な方法について話し合いはじめた。

 

 

 

 

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