タロと学園ラブコメするだけ 作:私利私欲
タロさんの通報を聞いたぼくたちは、ひとまず公民館前で集合することに。
彼女いわく——みんなでポケモンを探している途中、ともっこプラザで休んでいると、何故かともっこの墓が動き出し、突然3匹のポケモンが現れたのだとか。
「なんかすっごい悪そうな顔してたし、絶対ともっこたちだよあれは!!」
「今すぐとっちめに行きましょう!! オーガポンの敵討ちよ!!」
伝説によると戦いに勝利したのはオーガポンなので、敵討ちというのは違うだろう。
というか、そもそもオーガポンは死んでいない。
「ともっこがどこへ行ったのかはわかりそうですか?」
「大まかな方向は……たしか、あっち」
そう言ってボタンさんが指したのは『鬼が山』の方角。
「……もしかしてあいつら、鬼さまんとこ行ったんじゃねえべな!?」
一度殺された恨みを晴らすために、と復讐へ向かうことは十分に考えられる。
「でもよ、オーガポンってアイツらボコボコにするぐらいには強かったんだろ?」
「それは多分、お面があっての強さだから……」
オーガポンのお面はスグリのおじいさんが持っているものの、おそらく修理しなければ使えないだろう。
額にはめられていたテラスタルの結晶——そこから何かしらのエネルギーを得ていた可能性は高い。
「じゃあ、お面がない今、オーガポンが襲われたりなんかしたら……!」
「と、とにかく! 今すぐ鬼さまんとこ行くべ!」
「あ、ならわたしがおじいさんに結晶を渡してきますよ!」
わたしは後で追いつきますので、と言うタロさん。
「じゃ、じゃあ頼んだべ、タロ!」
「はい! 任されました!」
スグリはタロさんに結晶を預けると、弾かれたように駆け出した。
彼に置いて行かれないよう、ぼくたちも後を追いかけていく。
「……本当にきれい」
***
「鬼さまをいじめるなああああああああ!!!!」
オーガポンを"ふくろだたき"にするともっこたち。
それを見つけたスグリの怒りといったら、見ているこちらの心臓が縮こまるほどだった。
「蹴散らせガオガエン!!」
「ガオガアッ!!」
「ヌゥッ!?」「マシキャ!?」「キチィ……!!」
モンスターボールから飛び出したガオガエンは”いかく”すると、修羅のごときスピードでともっこたちを蹂躙していく。
「何よ、スグだけでなんとかなっちゃうんじゃない?」
「油断は禁物! わたしたちも加勢するよ!」
スグリならこのまま無勢でも蹴散らしてしまいそうな勢いがあったが、ネモの言うとおり油断は禁物だ。
ぼくたちはポケモンを繰り出すと、ともっこたちが逃げられないように取り囲む。
「痛い目見たくなかったら、さっさと降参するんだなともっこ共!!」
「もう十分痛い目見てる件について」
ボタンさんの言うとおり、ガオガエンによってともっこたちはすでに満身創痍だ。
結局、そこから彼らが逆転できるわけもなく、実にあっさりとスグリのモンスターボールへ収まってしまった。
「まさか本当にスグリが全員倒すなんてね」
「うー……わたしだってともっこと戦いたかった!!」
そうは言いながらも、鬼気迫るスグリに横やりを入れようとはネモも思わなかったようだ。
まあ、彼女にはあとで
「――お、鬼さま、大丈夫!?」
ともっこたちの入ったモンスターボールには目もくれず、スグリは倒れ伏しているオーガポンのもとへ。
「今すぐ治してやっからな……!」
「ぽに……」
キズぐすりを使い、慣れた手つきでオーガポンを治療していくスグリ。
傷がすべて回復したころには、苦痛が和らいだのか表情が柔らかくなったように見えた。
「あら、鬼って言われてるわりには可愛い顔してるじゃない」
「こんにちはオーガポン。助けにくるのが遅くなってごめんね」
「ぽ……ぽにいいいぃ……!!」
「わやっ!?」
ここに居るみんなが味方だとわかり安心したのだろう。
オーガポンはスグリに抱きつくと、声を上げて泣きはじめた。
「お、鬼さま!? その、抱きつかれっとおれ、なんか緊張しちまうっつうか」
「ぽにぃ……」
スグリの言葉は届いていないらしく、彼の胸元に顔を押しつけるオーガポン。
「鬼さまに信用してもらえてよかったね、スグリ」
「わやじゃ……」
最初は固まってしまっていたスグリも、やがては現状を受け入れたようで、むせび泣くオーガポンの背中をさすりはじめた。
「――はあ、はあっ、みなさーん! お面が直りましたよー! ……って、もう終わってる!?」
オーガポンが落ち着いたところで、一度戻るべきかと話していると、タロさんがお面を持ってきてくれた。
「はい、オーガポン! あなたのお面ですよ」
「ぽに……」
お面を渡そうとするタロさんだが、どういうわけかオーガポンはそれを受け取ろうとしない。
「あ、あれ……?」
「鬼さま、どうかしたか? タロならおれたちの仲間だべ?」
「ぽにぃ……」
さっとスグリの後ろに隠れてしまうオーガポン。
お面というよりかは――どこかタロさんを拒絶しているように見える。
「え、えー……こんなかわいい子に嫌われるとか、かなーりショックなんですけど……」
「オーガポンにはあんたの黒い本性が透けて見えてるのよ」
「本性とかないですからね!?」
仕方ないですね……と言いながらタロさんはスグリにお面を渡すようお願いする。
「遅くなってごめんな。これ、鬼さまに返すべ」
「ぽにぃ……!」
スグリが相手であれば問題ないらしい。
オーガポンはお面を受けとって着けると、ご機嫌にその場で踊りはじめた。
「わたしだけ戦いに参加しなかったから信用されてないのかな……」
「そんなことはないと思いますけど……お面、ありがとうございましたタロさん」
本気でへこんでいるタロさんを慰めつつ、ぼくたちは今後の方針について話し合うことに。
「とりあえずオーガポンにお面を返せたのはいいけどよ、これからどうする?」
目的は達成した。
しかしオーガポンはこのままひとりにしておいていいのか、という思いがみんなの胸に去来していた。
ともっこたちはスグリが捕まえたので問題ないとして。
毎年ひとりでオモテ祭りに参加しているのだとしたら、それはとても寂しいことではないかという意見が多数出た。
「オーガポンが望むなら、このままそっとしておくのが最良と思われ」
「うーん、でもここは連れてってあげた方がいいような……」
「鬼さまはどうしたい?」
スグリが問いかけると、オーガポンはためらうことなく彼の手をとった。
「ぽに! ぽにぃっ!」
「オーガポンはスグと一緒に行きたいんだってさ」
「わやじゃ……」
***
夜の11時。
布団の中で、ぼくは今日の出来事――過去のネモと出会ったことについて考えていた。
あのネモが本物だったのか、幻覚だったのか。
どちらにせよ、ぼくにはこの林間学校が終わるまでにやらなければならないことがある。
――それは、この時代に居るネモへきちんと謝るということ。
ブルーベリー学園に転校したこと自体は間違っていなかった。
ぼくも、ネモも、それぞれに親友と呼べる人間ができた。
でも、それは結果論であって、ネモのためだと言いながら、結局はぼくが自分のために選んだ道だ。
ぼくのエゴで悲しませてしまったのであれば、やはり謝りたい。
(とすると、やっぱりオモテ祭りかな)
明日、午前中はみんなでキタカミの里をまわることとなっている。
というのも、キタカミの人たちにオーガポンが悪いポケモンではないことを説明していくつもりなのだ。
オーガポンがスグリについてくるにせよ、彼がまたここへ帰ってくることがある以上、早めに誤解を解いておくべき、とぼくたちの間で結論が出た。
真実の歴史については口外するなと言っていたおじいさんには悪いけれど、今のままではオーガポンが自由に里を歩くことができないし、何よりスグリがそれを認めない。
そしてその夜――林間学校最後の夜は、もう一度みんなでオモテ祭りを楽しもうということになっている。
ゆっくり話す機会があるとすれば、ここしかない。
(タロさんに告白……は、また今度にしておくか)
今なら告白を受け入れてくれるかもしれない。
けれど、林間学校でのタロさんは積極的すぎて、まるで別人のように感じているぼくが居る。
向こうから距離を詰めようとしてくれるのはすごく嬉しい。
しかし旅先だから浮かれてしまっているだけという可能性もある。
告白するとすれば、夏休みが明けてお互いに冷静になったときの方がよさそうだ。
それに、ネモに謝ったその足で告白するというのは、どちらにもすごく失礼だろう。
タロさんを選ぶということは、ネモを選ばないということ、だから。
「――なあヴェーラ。まだ起きてるか?」
方針は決まったしそろそろ寝ようか――そんな風に考えていると、隣の布団で寝ていたはずのペパーに話しかけられた。
「起きてるけど、何?」
「……オーガポンが寂しくねえかと思ってよ」
オーガポンはスグリのポケモンになることを選んだものの、村に戻ることを怖がっているため、まだモンスターボールには入ってもらっていない。
なので林間学校が終わるまで、もしくは里の人間を説得するまでは鬼が山のねぐらで過ごしてもらうことにした。
ペパーは、そんなオーガポンがひとりで寂しくないかと案じているようだ。
「今からここ抜け出してさ、オーガポンと一緒に一晩明かしてやらねえか?」
「いいアイデアだけど、多分大人の人に怒られるよ」
「そんなもん覚悟の上だっての」
大人に怒られてでも、オーガポンのそばに居てやりたい。
ペパーがそう思うのはきっと、ひとりで眠る夜の寂しさを知っているから、なのかもしれない。
「わかった、腹をくくるよ」
「へっ、オマエならそう言ってくれると思ったぜ」
とはいえエントランスは施錠されているため、正面から出ることはできない。
ぼくたちは極力音を立てないよう部屋の窓を開けると、念のために持ってきていた寝袋を持って外に出た。
「な、なんかこういうの、ワクワクすんな!」
オーガポンのためとは言いつつも、本当はペパーが夜遊びしてみたかっただけなのかもしれない。
***
オーガポンが寝床にしている『恐れ穴』まで徒歩で向かうと、そこにはすでに先客が居るらしく、たき火の明かりが洞窟を照らしていた。
中を覗くと、スグリとオーガポンが何やら親し気に話し合っているのが見えた。
「よう、キャンプファイヤーならオレたちも混ぜてくれよな」
「――ペパー!? それにヴェーラまで、なんで居るんだ!?」
「ぽに!?」
「みんな考えることは同じことだったってわけか」
驚いているスグリとオーガポンをよそに、隅っこへ荷物を置くと、彼らの正面に腰を下ろす。
「オーガポンが寂しくないかと思って来てみれば……オレらはお邪魔ちゃんだったか?」
「そんなわけないべ! な、
「ぽにお!」
ふたりは随分と親しくなったようで、いつの間にかスグリも『鬼さま』呼びから『オーガポン』と呼び捨てできるぐらいの関係性になったようだ。
「おれとブルーベリー学園戻ったらここにはしばらく来ねえし、なるべく楽しい思い出さ残して帰ろうって思って」
「へっ、そりゃいいじゃねえか」
じゃあ、話のアテにこんなのはどうだ? と言ってペパーがリュックから取り出したのは竹串とマシュマロ。
「わ、焼きマシュマロ!? 食べたい!」
「ぽに……?」
はしゃぐスグリと、マシュマロが何かよくわかっていない様子のオーガポン。
「こんな時間におやつか……虫歯になるよ」
「んなもん一晩でなったりするかよ! 言っとくけど、ここでのことはオレたちだけの内緒だぜ?」
たき火をしながら焼きマシュマロを食べたなんて言ったら、みんな羨ましがることだろう。
「うん!」「わかった」「ぽにお!」
「では、配給を開始する!」
――こうしてぼくたちの夜は更けていくのであった。