タロと学園ラブコメするだけ 作:私利私欲
15
夏休みはあっという間に明けて、ブルーベリー学園の後期がはじまった。
「ふわあ……眠い」
つい昨日までパルデア地方に居たものだから、時差ボケが酷い。
本当はもっと早く戻るつもりだったが、ぼくとの別れを惜しんだ両親――あとはネモとペパーとついでにボタンさん――に引き留められた結果、こうしてギリギリになってしまったというわけだ。
あとは度々夜遅くまでゼイユと通話していたのもあって、生活リズムが不安定になってしまった。
「行ってきます」
返事がないことを寂しく思いながら、ぼくは寮の自室を出る。
教室棟を目指して歩いていると、エレベーターホールにちょっとした人だかりができていることに気づいた。
「た、タロちゃん? その、今日は随分と気合入ってるね……?」
「はいっ! 心機一転、まずは形から入ってみようと思いまして」
……タロさん?
もう一度人だかりの方を見てみると、その中心にはたしかにタロさんが居た。
もっとも、ぼくの知る彼女とは大きく異なる姿をしているわけだが。
「――あ! ヴェーラくん!」
勘違いでなければ、タロさんはぼくのことを待っていてくれたのだろう。
目が合うと、人だかりを押しのけてぼくの方まで駆けてきてくれた。
「どうですか? 私なりにイメチェンしてみたんですけど」
どうと言われても……正直、目のやり場に困ってしまう。
まずリーグ部のノースリーブとショートパンツがよくない。手足が丸出しだから。
その上からダウンジャケットを羽織り、足元はパープルのレギンスで覆っているとはいえ、以前よりずっと露出が増えた。
あとは厚底のスニーカーを履いているからか、つい脚のラインに目が行ってしまう。
口に出すつもりはないけれど、すごくエッチだ……!
「その……大人っぽくなりましたね?」
「ふふっ、わかりますか?」
そう言って妖艶な笑みを浮かべるタロさん。
よく見るとメイクが強めになっているようだし、それこそ
髪はハーフアップにまとめ上げ、全体的にスタイリッシュな印象にまとまっている。
そして何より――虹色にきらめくヘアクリップが目を惹いた。
「それ、てらす池の……」
「はい! スグリくんのおじいさんから余った結晶を譲っていただきまして」
パパの会社の人に加工してもらったんです――タロさんがそう言うと、ヘアクリップがきらりと輝いた気がした。
「ほら、すっごく綺麗でしょう?」
たしかに綺麗だ。
この世のものとは思えない輝きを放っていて、つい欲しくなってしまうのも理解できる。
けれどそれはてらす池の結晶であり、テラスタルオーブの中身と同一と考えられる。
そんな強いエネルギーを秘めた結晶を身につけていて人体に影響はないのか、疑問でならない。
「……えいっ!」
「なっ、タロさん!?」
しばらく考えこんでいると、タロさんはぼくの手に指を絡ませてきた。
すると、こちらを見ていた人だかりからワッと声が上がる。
「別に、これくらいいいでしょう?」
「……でも、変な噂を立てられたら」
「私にとっては好都合です!」
林間学校ではかなり積極的だったタロさん。
夏休みが明けて落ち着くかと思いきや、ぼくが見ていないうちに悪化していたようだ。
「ほら、行きましょう? 私、ヴェーラくんと一緒に教室まで行きたいです!」
「……せめてそっちの教室にしてくださいね」
こうなっては時間の問題だろうが、クラスメイトに騒ぎ立てられるのは避けたい。
ぼくたちは手を繋いだまま、教室棟へ向かうエレベーターに乗りこんだ。
***
「おっとぉ? こいつぁ絶賛炎上中のヴェーラくんじゃあねえですかい」
放課後。
ぼくが部室の机へ突っ伏していると、明らかに面白がっている様子のカキツバタが現れた。
「カキツバタ!」
「わりぃわりぃ、ちとからかいすぎたよぃ」
ぼくが朝から大変な目に遭っていることはクラスメイトのスグリが一番よくわかっている。
彼に諌められつつ、カキツバタはぼくの隣へかけた。
「率直に聞くけどよ、お前さんマジにタロと付き合いはじめたのかい?」
どうやら噂はカキツバタの教室まで広まっているらしい。
「いや……でも正直、秒読みかと」
「ほんならタロが暴走してるっつうわけか」
暴走。
あまりいいニュアンスではないが、今日——いや、ここ最近のタロさんを表した的確な言葉だ。
「おてて繋いで登校して? ふたりでランチして? 選択授業ではずーっとべったりだったって聞いたぜぃ?」
その認識はおおむね正しい。
強いて言うなら、ことあるごとに人目のない場所でハグしようとしてきて大変だった、というのもつけ加えておきたいところだ。
「そいでキョーダイはダッシュで部室に逃げてきた、と」
「はい……」
あの調子だとぼくの教室まで迎えにきそうなものだったから、終礼が終わった瞬間にここまで走ってきたのだ。
タロさんのことは好きだけれど、今日の彼女はなんか、怖い。
「イチャつくのは悪いことじゃねえけどよう……ま、こんだけ目立っちまうとさすがに辛えわな」
「ヴェーラ……」
時間が経つにつれて増えていくリーグ部員たち。
その多くがぼくのことを見て、ぼくの名前を呼んで、ものすごく居心地が悪い。
生まれてこの方、これだけ悪い意味で注目を浴びたことがなかったからなおさらだ。
アップルアカデミーでネモと行動していたときですらここまでではなかった。
「——な、なあ! お前タロと付き合いはじめたってマジ!?」
「馬鹿、1年に絡むなって」
「だって、気になるじゃんかよお!」
「……」
こうして野次馬から突撃されることもままあるし、本当に最悪だ。
ぼくが知らぬふりをしていると、それを見かねてかカキツバタが立ち上がった。
「……あー、アテンションプリーズ? 見てのとおりキョーダイは憔悴しきってっからよう、ひとまず詮索すんのはなしにしてくれーい」
「はんっ! タロとお付き合いできて幸せそうなくせに、んなこと知ったこっちゃねえよ!」「それは言いすぎだけど、タロちゃんがああなった理由は気になるよね……」「実際のところ何があったんだ1年生ー?」
しかしそれは逆効果だったようで、部員からの矛先が完全にぼくへと向いてしまった。
ぼくだって何がタロさんをああさせたのか知りたいのに、答えられることなんかあるわけがない。知っていたとて答えるつもりはないけれど。
「だから、詮索はするなって——」
「一体何の騒ぎですか?」
ヒートアップしかけていたところで、氷のように冷たい声が部室に響いた。
「
「ああ……そういうことですか」
タロさんは心底つまらなさそうな顔をすると、みんなから見える位置へ移動する。
ぼくですら質問責めに遭っているのだ、彼女はそれ以上に同じことを訊かれてきたのだろう。
「私とヴェーラくんは
たくさんの視線に囲まれながら、なんてことのないように言うタロさん。
「ですが少なくとも、私は彼のことを異性として好いています」
突然のカミングアウトに、リーグ部が大きく沸きあがった。
「な、なんだよそれ!」「タロちゃんってああいう感じがタイプだったの!?」「まだ付き合ってないってどういうことだよ……」「なんかショックかも」
「——いけませんか? 私が誰かを好きになることが」
タロさんらしからぬ、重く冷たい声。
不思議とよく響いたそれは、過熱しかけていた部室を一瞬にして沈黙させてしまった。
「……じゃ、じゃあタロちゃんがイメチェンしたのって……?」
「単にかっこいい服を着てみたかったというのもありますし……後期からは気を引き締めようかと思いまして」
そう言ってタロさんは——カキツバタを射殺すような目で見つめる。
「カキツバタ——私は、あなたをチャンピオンの座から引きずり下ろしたい」
「……怖いねぃ」
笑顔を浮かべながらも、冷や汗を垂らすカキツバタ。
横で見ているぼくですら手が震えるのだから、すさまじい威圧感だ。
「——はいっ! 暗い話はこれで終わりにしましょう!」
しばらく見合ったのち、一度手を叩くと、タロさんは打って変わって柔らかな笑顔を浮かべた。
その変わりようが恐ろしかったからか、部員たちは何も言えずにいる。
「そういえば、先生から言づてを頼まれていまして」
タロさんはカバンに手を入れると、1枚の紙を取り出した。
「ご存知の方も多いでしょうけど、今期最初の四天王が確定しました!」
ホワイトボードに貼り出された紙にはこう書かれている。
チャンピオン カキツバタ
四天王 タロ・ネリネ・スグリ・アカマツ
「スグリ……!」
「ま、夏休みの前からわかってたことだべな」
そうは言いながらも、どこか得意げなスグリ。
この調子なら、ネリネさんが卒業するまでに下剋上を果たすことすらできるかもしれない。
やはりぼくの見る目は間違っていなかったようだ。
「前期では1年生のふたりが大躍進を遂げました! こうなるとわたしたち上級生もうかうかしていられませんねー」
「――それじゃ、今日も頑張っていきましょー!」
それだけ言い残すと、タロさんはさっさと部室を出ていってしまった。
突然の幕引きに、部員たちの空気が弛緩する。
「……なんか、疲れたな」「タロちゃん、やっぱり変わっちゃったよね……」「これも全部あの1年生のせいだ!」「おいやめろって……」
ちらほらと視線は感じるものの、タロさんが矢面に立ってくれたおかげか、ぼくに対する興味が多少薄れたように見える。
しばらくすると、みんなパラパラとテラリウムドームへ向かいはじめた。
「……ま、困ったことがあったら、何でも相談してくれよキョーダイ?」
「お、俺も! 俺にできることなら何でもするからなヴェーラ!」
「……ありがとう」
ぼくは本当にいい先輩と、いい親友を持ったものだ。
***
部活動を終えて、寮の自室に帰ってきた直後。
部屋着に着替えようとしていたところで、インターホンが鳴った。
「はーい?」
『お疲れ様です、ヴェーラくん!』
モニターの向こうには、見覚えのありすぎる姿が。
「タロさん?」
『実はヴェーラくんのためにお夕飯を用意しようと思いまして……よかったら上げてもらえませんか?』
「夕飯……」
以前、風邪を引いたときに作ってもらった――一緒に作ったポテトポタージュが脳裏をよぎったが、急いで振り払う。
このまま外で待たせていたら、他の生徒に見られてしまうかもしれない。
状況はよく飲みこめないけれど、ひとまず部屋に上がってもらうことにする。
「ど、どうぞ」
「失礼します!」
ドアを開けて、タロさんを部屋の中へ。
どうやら前回よりも荷物が増えたようで、さすがの彼女も額に汗している。
左手にはレジ袋と、右手には大きな包み。
それらを受けとると、ぼくはひとまずカウンターの上へ置いた。
「すごい荷物ですね……一体何を作っていただけるんですか?」
「それは出来上がってからの秘密ですっ!」
見たかぎり、また多種多様な材料を手当たり次第買ってきたように思えるが……本当に大丈夫だろうか。
内心不安に思っていると、突然キョロキョロとしだすタロさん。
「……あらためて見ると、ヴェーラくんの部屋って男の子っぽくないですよね」
「というと?」
「みんな物が多くて散らかしがちじゃないですか」
言われてみれば、以前スグリの部屋へ上がったときは結構汚かった気がする。
お菓子の箱が散乱していたし、壁に直接ペンで書きこんだりもしていて、正直見ていられなかった。
そのときはぼくが片づけたけれど、今はどうなっているのだろうか。あまり考えたくない。
……ところで、タロさんはどうして男子の部屋事情をご存知なのですか?
「随分と男子の部屋について詳しいんですね」
「あ、嫉妬させちゃいました?」
にやりと得意げに笑うタロさん。
「わたしだって、男の子の部屋ぐらい何度か上がったことはあります!」
「へ、へえ?」
ずっと考えないようにしてきたけれど、やはりタロさんも誰かと付き合ったことがあるのだろうか。
——オイラの知るかぎりじゃ、タロは誰とも付き合ったことがないみたいだぜぃ?
だなんてカキツバタが言っていたけれど、信憑性はない。だってカキツバタだから。
「——ふふっ、そんなに心配しなくたって、わたしは誰ともお付き合いしたことがありませんよ」
そう言うと、タロさんはぼくの鼻先を指でつんと突いた。
「部屋に上がったのはお誕生会へ招待されたときのことですし、他のお友だちも一緒でしたから」
「懇切丁寧に解説していただいたところ大変恐縮ですけれど、別にぼくは何も思っていませんよ」
「そういうことにしておいてあげます!」
すっかり手玉に取られてしまっているようで、あまり面白くない。
意地悪してくるタロさんも好きだけれど、超えてはいけない一線があると思うのだ。
悶々とするぼくをよそに、タロさんはレジ袋からエプロン——以前に比べると随分使用感が出てきた——を取り出した。
「それじゃ、ちょっとキッチンお借りしますね!」
ダウンジャケットを脱いで、エプロンに着替えはじめるタロさん。
要するにそれは、ノースリーブの上からエプロンを着用することになるわけで。
……そこはかとなく、裸エプロンに見えてしまうわけで。
「そういうの、よくないと思います」
「へ? 何がですか?」
何がですか、と言いつつも、タロさんはいたずらな笑みを隠そうともしない。
「ふふっ、もしかして私のことエッチな目で見てますか?」
「そ、そんなことはないですけど?」
エッチな目では見ていないが、ただその、露出が多すぎるというか、それだけだ。
「いいですよ。ヴェーラくんなら、そういう目で見ても」
「へ?」
「ヴェーラくんに意識してほしいから私、こういう格好をしてきたんです」
この人に恥や躊躇いというものはないのだろうか。
きっとあるのだろうけど、ぼくが相手だとブレーキが壊れてしまうようだ。
「……今日は色々とごめんなさい」
少し呆れていると、急にタロさんが謝りはじめる。
「朝からはしゃぎすぎてしまいました。本当はもっと段階を踏むつもりだったんですけど……ずっと会えていなかったから、つい嬉しくなってしまって」
林間学校が終わってから約1ヶ月。
会えないことを寂しく思っていたのは、何もタロさんだけではない。
「……タロさんに会えて嬉しいのは、ぼくだって同じですから」
「っ、ヴェーラくん……!」
突然、勢いよく抱きついてくるタロさん。
気持ちが抑えきれないのか、少し痛いぐらいだ。
「好きっ! 好きですヴェーラくん……!」
「う」
鼻腔をくすぐるモモンの香りと、身体に伝わってくる柔らかさ。
そんな状態でストレートに好きと言われるとこう、なんか駄目だ。理性が保たない。
ぼくが悶々としていると、不意にタロさんは首を傾げ、ぼくから距離をとった。
「……身長、やっぱり伸びましたよね?」
「どう、ですかね」
自覚はなかったけれど、言われてみれば目線がちょうど同じ高さになったかもしれない。
タロさんが厚底を履いていることを考慮すれば、むしろ少し高いくらいか。
ということは、この1ヶ月で5cm以上も伸びたのかぼく……!?
げに成長期とは恐ろしいものである。
「ふふっ……ヴェーラくんがどんどんかっこよくなってくれて嬉しいです」
――わたしが思わず恋してしまうような、素敵な男の子になってくださいね。
2ヶ月ほど前、カフェでタロさんに言われたことを思い出す。
あれからぼくはちゃんと成長できているだろうか。
タロさんは好きだって言ってくれるけれど、ぼくはいまいち自信が持てない。
「でも、タロさんはかわいいものがお好きなんでしょう?」
「かっこいいからこそ、かわいいが引き立つんですよ?」
よくわからないが、彼女が言うならきっとそうなのだろう。本当によくわからないが。
「……よしっ、とりあえず不足分のヴェーラニウムは補給できました!」
怪しげな成分を吸い終えると、タロさんはぼくから身体を離す。
「ではちゃちゃっと作っちゃいますので、ヴェーラくんはゆっくりしていてください!」
彼女が押しかけてきたとはいえ、見ているだけというのも忍びない。
「手伝いましょうか?」
「大丈夫です! あの日の私とは違いますからねっ!」
そこまで言うのなら、彼女のことを信じるとしよう。
***
「できました! タロ特製のソノオ鍋ですっ!」
そう言って土鍋――タロさんが持参した――のふたを開けると、中から湯気とダシの香りがふんわりと立ちのぼった。
どうやら海鮮をメインとした料理らしく、切り身やトウフ、たくさんの野菜が敷き詰められている。
ナベ……知識としてはあっても、食べるのは初めてだ。
「昔、家族でシンオウ地方に行ったことがあって、そのときにいただいたお鍋なんです!」
それから我が家では鉄板メニューになってしまいまして、パパが大好きなんですよ! とはタロさんの談。
「それは?」
「イモモチです! これもパパが大好きなお料理でして!」
要するに、これらはタロさんにとっての家庭の味、ということなのだろう。
「ママと一緒に練習しましたし、多分大丈夫だと思うんですけど……」
鍋を取り皿へよそいながら、どこか不安げなタロさん。
元々疑ってはいなかったけれど、こうして目の当たりにしても特に問題は感じない。
「いただいても?」
「ど、どうぞ」
最後にお箸を渡してくれたことへ感謝しつつ、スープに口をつける。
「……美味しい」
「本当ですかっ!?」
食べたことのない味。
しかし不思議と馴染んでいくというか、どこか懐かしい感じのする味だ。
それに……とても温かい。
「いや、本当に美味しいですよ。ちょっといいお店で出されてもわからないくらい」
「ふふっ、きちんと出汁をとったかいがありましたね!」
ダシをとった、が何を指しているのかはわからないけれど、つまり相応の手間をかけてくれたということなのだろう。
「ありがとうございます、本当に」
「どういたしましてっ!」
どうやらタロさんはまた一歩、
もっとも、料理ができなくたって彼女が素敵なことには変わりないのだが。
***
『ロトロトロトロト……』
夕食を終えた後。
ぼくのスマホロトムで映画を観ながら食休みしていたところ、突然画面に着信通知が入った。
「ゼイユさん……?」
……あ、これ、駄目なやつ。
底冷えするような声でつぶやいたタロさん。
それを見て見ぬふりしながら、ぼくは立ち上がる。
「何か急用ですかね」
高鳴る心臓を抑えつつ、少し離れたところへ移動する。
本当は後でかけなおすべきなのだろう。
しかしそれではやましいことがあると言っているようなものだ。
「出てもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
意を決して、応答ボタンをタップする。
『あ、ヴェーラ? 今大丈夫?』
「いえ、あまり大丈夫ではないですね」
あまりというか、状況としては最悪に等しい。
これが他のタイミングならともかく、今は背後にタロさんが居る。
「急用ですか?」
『何言ってんの。ちょっと話したくなったからかけたに決まってんじゃない』
夏休みの間はかなりの頻度で通話していたため、きっとその延長でかけてしまったのだろう。
誤解してほしくないのだが、その内容はいたって普通の雑談だった。
ゼイユからの好意をひしひしと感じつつも、浮気となりそうな一線は超えないよう努めてきたつもりだ。
付き合っていないのに浮気も何もないだろうと言われれば、それはそうなのだが。
「
呼び捨てではなくあえてゼイユさんと呼ぶ意味――彼女なら理解してくれるはずだ。
『は? なんで今さらさん付け?
バカ! アホ! ゼイユ!
それでは夏休みの間もやりとりがあったと言っているようなものだ。
呼び捨てまではタロさんも知っていることだけれど、通話していたことまで悟られるのはあまりよくない。
「――見ないうちに、おふたりは随分仲良くなられていたようで」
突然耳元でささやかれ、背筋に悪寒が走る。
『……誰?』
「こんばんはゼイユさん。タロです」
ぼくの左腕に身体をまとわりつかせながら言うタロさん。
ビデオ通話でなかったのが幸いだが——ビデオ通話だったとしても、彼女は同じことをしていただろう。
『っ、タロ!?』
「ゼイユさん……わたしの恋路を応援してくれるって、林間学校ではそう言ってくれていたじゃないですか」
ぼくには知る由もなかったけれど、女子グループではそのような会話があったのだろう。
思えば、オモテ祭り初日――ぼくとタロさんを置いて、みんなが先に行ってしまったのは不自然だった。
『べ、別に嘘じゃないわよ。あたしはあんたたちのこと――』
ゼイユが言い切る前に、タロさんは通話を切ってしまう。
「……さ、映画の続きを観ましょうか!」
打って変わって明るい表情を浮かべるタロさん。
そんな彼女に逆らえるわけもなく、ふたたびベッドの上へ腰かける。
「ヴェーラくんったら、モテモテで困ってしまいますね」
その言葉に、ぼくは何も返すことができなかった。
ソノオ鍋=石狩鍋
と変換していただければ……!