タロと学園ラブコメするだけ   作:私利私欲

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「——部員の整理を実施しようと思います」

 

 次の日の放課後。

 重要な告知がある、と言って部室に集められたぼくたちは、()()()()()()()()()タロさんからそう告げられた。

 

 昨日、気を失って倒れた彼女だが、一晩眠って活力を取り戻したらしい。

 と言っても、その表情は普段より厳しいし、ぼくとは目すら合わせてくれないわけだけれど。

 

「あの、それってどういう……?」

「長期間部活へ参加しない生徒……いわゆる幽霊部員に向けて退部勧告を行います」

 

 退部、という言葉に反応し、ざわつきはじめるリーグ部員たち。

 

「な、なんでそんなことするんだよ!」

「ほとんど参加しない部活に部費を払い続けるのは無駄ですから。こちらとしても部員の数だけ事務処理が増えていくわけですし、活動しない部員にはぜひ退部していただきたい」

 

 要するに仕事を減らすための措置、というわけらしい。

 

「基準としては、平均して週に1回以上参加していない部員にお声かけしようと考えています」

「それって絶対に従わないとダメなんですか……?」

「いいえ。残りたいのであれば残留していただいて構いません。わたしはただお声かけするだけですから」

 

 退部する必要はないと聞いて、部員たちは安堵の息を漏らした。

 

 一見、なんてことのない取り組み。

 しかしぼくは、タロさんが何のためにこれを実施しようとしているのか、手に取るようにわかってしまう。

 

「——ああ、例えばゼイユさん。あなたは基準を満たしているようですけれど、この機会に退部なされませんか?」

「……」

 

 タロさんの提案に対し、沈黙するゼイユ。

 

「た、タロ!? ねーちゃんに向かってなんてこと言うんだべ!?」

「いい、いいのスグリ」

 

 姉に代わって抗議するスグリだが、ゼイユは自らそれを制した。

 

「……そうね、学業が忙しいし、その話受けようかしら」

 

「ねーちゃん!?」

「スグは黙ってて!!」

 

 以前までのゼイユなら、こんな提案を受けるはずなかった。

 けれど今は、黙ってぼくと関わろうとしていたという負い目を感じているはず。

 タロさんもそれをわかっているから、退部の自由を本人に委ねたのだろう。

 

「書くわよ、退部届」

「勇気あるご決断、ありがとうございます」

 

 タロさんはカバンから退部届を取り出すと、ゼイユに手渡した。

 

「他にも退部されたい人が居れば、いつでも声をかけてくださいね」

 

 ——結局、この場ではゼイユ含めて4人が退部することとなった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 部室で解散した直後。

 

「――さて、どうすりゃタロの暴走を止められっと思う?」

 

 カキツバタから食堂へ呼びつけられたと思いきや、開口一番がこれであった。

 

「タロ……いくらなんでもあんなやり方はないべ……!!」

 

 お姉さんが半強制的に退部させられたのがよほど堪えたらしく、スグリは怒り心頭だ。

 

「選択権はゼイユにあったんだからよう、全部が全部タロが悪いってもんじゃねえと思うぜぃ?」

「でも……っ!」

 

 ま、やり方はえげつねえけどな、と続けるカキツバタ。

 

「そいでキョーダイ、ゼイユが狙われたのにはなんか理由があんだろぃ?」

「……」

 

 あるにはあるが、ぼくが説明してもいいものだろうか。

 しばらく考えこんでいると、突然誰かがカキツバタの隣にかけた。

 

「——あたしがヴェーラにちょっかい出したのが悪いのよ」

 

 話題の渦中にあるゼイユだ。

 

「……へえ? お前さんが?」

「そうよ。悪い?」

「どっちかっつうと悪い寄りだねぃ」

「タロはヴェーラのこと好きだって公言してたんだし、当然よね」

 

 もっと言えば、ゼイユはぼくたちが両想いであることを知っていたはずだ。

 その上で手を出そうとしたのだから、噛みつかれても仕方のないことではある。

 

「……ねーちゃん、なんで、そんな」

「だって好きになっちゃったんだもの。仕方ないじゃない」

 

 お姉さんが友だちのことを狙っていたとか、スグリからすれば複雑なことこの上ないだろうな。

 

「スグリのこと成長させてくれたし、何よりどんどん成長していくヴェーラが……なんか、いいと思ったのよ!」

「ねーちゃん……ごめん、やっぱ気持ち悪いべ」

「くっ!」

 

 スグリが言いたいことを言えるようになって何よりだ。

 

 それにしてもゼイユは開き直りすぎだろう。

 聞いているこっちが恥ずかしくなってしまう。

 

「というか誤解してほしくないんだけど、あたしヴェーラとは電話しかしてないから」

「んー……そんだけで退部させようって話になるかねぃ」

「タロがヴェーラと一緒に居るときにかけちゃったのよ」

「一番やっちゃいけねえことやっちまったねぃ」

 

 彼女はなんてことないように言っているが、あのときは本当に焦った。

 

「だからあたしはいいの。でも、これから先……同じことをタロが繰り返すのだとしたら、それは止めないといけない」

「オイラもさんせーい」

 

 タロさんは部長としての権限を使い、気に入らない人間を排除した。

 経緯はどうあれそれが事実。

 ぼくとしてもゼイユの意見には賛成だ。

 カキツバタもそう思ったからこそ、ぼくたちをここへ呼んだのだろう。

 

 それに、タロさんがありのままで居ることを望むのであれば、どのみちチャンピオンの座から降りてもらう必要がある。

 誰かの上に立つということは、それだけたくさんの期待や理想を背負うということ。

 なりたい自分を目指して努力してきたつもりが、逆に彼女の首を絞めてしまうこととなったわけだ。

 

「スグリよう、めちゃくちゃ頑張ったらタロんこと倒せたりしねえかい?」

「……どうかな。昨日のバトルを見るかぎり、今の俺じゃどうにもならないべ」

 

 スグリ(天才)にここまで言わせるのだ、カキツバタとのバトルは圧倒的な展開を見せたのだろう。

 ヤーコンさんと話していたばかりに、リーグ戦を観られなかったことが悔やまれる。

 

「タロさんのポケモンは覚えていますか?」

「忘れたくても忘れらんないねぃ」

 

 そう言ってさらさらと6匹分の名前を書き上げるカキツバタ。

 

 ドラゴンとフェアリー。

 相性不利ながら最後の2匹までめくったのだから、さすがは元チャンピオンといったところか。

 

「——以前とはほとんど違うポケモンになっているみたいですけど、フェアリータイプ中心なことには変わりませんね」

「ミミッキュにブリムオン……これ、キタカミで捕まえたポケモンかしら」

 

 里で見たことあるもの、と続けるゼイユ。

 

 林間学校にて、女子グループ(主にネモ)は強いポケモンを捕まえにいくと言って行動していた時間があった。

 機会があったとすれば、おそらくそのときだろう。

 

「そいや昨日は”トリックルーム”を主体にした戦い方だったねぃ」

「ダブルバトルじゃ珍しくねえ戦法だけど、技選びとか交代とか、全部のタイミングが神がかってたべ」

 

 となると、ポケモンではなくトレーナーそのものが強いという感じか。

 学園の掲示板にそのときの動画がアップロードされていたので、みんなで観てみることに。

 

「――これ、ぼくたちじゃ勝てなくないですか」

 

「ちょっと、弱気になってんじゃないわよヴェーラ!」

「まあ、こんなバトル見せられちまったら弱気にもなるべ」

 

 カキツバタも最善手を選び続けているというのに、それをすべて上回ってくるタロさん。

 

「「「「……」」」」

 

 タロさんの異様な強さに、ぼくたちは沈黙するほかなかった。

 

「あたしたちじゃ無理ね」

「同感だぜぃ」

 

 先ほどぼくに対して弱気になるなと言ったのは一体何だったのだろうか。

 

 しばらくみんなでぼやいていると、突然ゼイユがぽんと手を叩いた。

 

「――そうだ、チャンピオンにはチャンピオンをぶつけてみたらいいんじゃない?」

「するってえと?」

「ネモを呼べばいいのよ!」

 

 ネモ、か。

 たしかに彼女はべらぼうに強いが、それはシングルバトルでの話。

 しかし――いや、あいつの手を借りるのも悪くない気がしてきた。

 

「そいつぁ名案だ! ……ところでネモとはどちらさんで?」

「パルデア地方で一番強い学生、ってところかな」

 

 もしかしたら大人の中でもトップかもしれないけれど、それはさすがにハードルを上げすぎだろう。

 

「たしかにネモなら……でも、他の学校の生徒が勝って、なんか意味あんのか?」

 

 同じリーグ部員であればチャンピオンを交代することもできるが、他校の生徒となるとそれは難しい。

 

「だったら、そのネモとやらをリーグ部に入れちまえばいいんじゃねえの?」

「それでチャンピオンになられても、帰った後が困りますよ」

 

 ネモを交換留学で呼びつけたとして、滞在してもらえるのはせいぜい2週間程度。

 パルデア地方に帰った後は、きっとタロさんが元の鞘に収まることとなるはず。

 

「そもそもの話、ダブルバトル経験の少ないネモじゃ、タロさんには勝てないでしょうね」

「なら、なおさらネモを呼ぶ意味がないべ?」

 

「——いや、意味はあると思う」

 

 否定的なスグリに対し、ぼくは断言する。

 

「あいつは天才だから、ダブルバトルだってすぐに覚えてしまうだろうね」

「そんでも、さすがにタロには……」

「サンドバッグとしては役に立つ」

 

 ネモのことだ。どんなポケモンも、どんな戦法も、すぐに自分のものとしてしまうだろう。

 タロさんのバトルを見せれば、仮想タロさんとして振る舞うことすらできてしまうかもしれないからな。

 であれば、練習相手としてこれ以上の選択肢はない。

 

 ——ということを説明すると、3人からはドン引きされてしまった。

 

「あんた……いくら幼なじみだからってネモの扱いひどくない?」

「さすがに俺もフォローできないべ……」

「キョーダイよう、身内には優しくしといた方がいいんじゃねえか……?」

 

 帰省中は散々バトルに付き合わさせられたのだ、今度はぼくが便利に使っても文句は言われないだろう。

 というかあいつはバトルさえできれば何でも喜ぶだろうし、むしろこっちが損しているまである。

 

「そいで、結局誰がタロんことぶっ倒しに行くので?」

 

 ネモに協力を仰ぐことにはしたけれど、肝心なところが未定だ。

 

 ……と言っても、ぼくの中ではすでに答えが出ているのだが。

 

「タロさんはぼくが倒します」

 

 ぼくが手を挙げると、みんなどこか納得した様子で頷いた。

 

「ま、お前さんが蒔いた種だしねぃ」

「あたしが言えたことじゃないけど……応援してるわよ」

「俺、いつでも相談乗っからな!」

 

 み、みんな……!

 

「するってえと、キョーダイは四天王を全員ぶっ倒していくってことでいいんだよな?」

「スグ、間違っても手え抜くんじゃないわよ!」

「にへへ……ヴェーラと戦えんの、わやうれしい……!」

 

 手を抜いてくれなんて言うつもりは毛頭ないが、みんなは一体誰の味方なんだ。

 

「……お手柔らかにお願いします」

 

 今のタロさんのことは、いまだ好きになれそうにない。

 ぼくが勝ったからといって、元の彼女に戻るわけでもない。

 

 でも、助けたいと思った。

 ありのままの自分を目指して必死にもがくのは、さぞ苦しいことだろう。

 できることなら、ぼくがその手を引いて、自由な世界へ連れ出してあげたい。

 おこがましいかもしれないけれど、それが自分に正直でいるということだと思うから。

 

 それに――

 

「おっ、なんでぃ? キョーダイもオイラの美貌に見惚れちまったかい?」

 

 ……最初は苦手だったとしても、いつしか気が変わることだってあるものだ。

 

 だからぼくは、タロさんと関わりつづけたい。

 少なくとも、彼女から愛想をつかされるまでは。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ネモを呼びつけるにあたって、ひとつ意外だったことがある。

 それはぼくが推薦するまでもなく、彼女が交換留学生としてすでに決められていたということ。

 

『ネモさん? その子なら、この前タロちゃんが推薦したいって言いにきたよー?』

 

 ——とは、シアノ先生の談だ。

 

 要するに、元よりタロさんはネモをブルーベリー学園へ招待するつもりで居たということ。

 

 そのことを知っているのはぼくだけだが――

 

「ヴェーラっ! 3週間ぶりだねー!」

「ぶえっ」

 

 ……まあ、()()()鹿()には言わなくてもいいか。

 

 ブルーベリー学園エントランス前にて――ぼくはまた、ネモに抱き絞め殺されかけていた。

 

「ネモ……しょっぱなから殺意高すぎ」

「だからっ、いくら幼なじみだからってすぐ男に抱きつくなって言ってんだろ!?」

 

「ああっ!?」

 

 ぼくにまとわりついて離れようとしないネモを、ペパーが強引に引きはがす。

 

 ……ん? ペパー?

 

「――ぶはあっ、はあっ……な、なんでペパーと、ボタンさんまで居るんだ……?」

 

「にへへ、俺がシアノ先生に頼んで呼んでもらったんだべ」

 

 サプライズ! と言ってピースするスグリ、かわいい。

 

「オレたちまで呼んでくれてありがとちゃんだぜスグリ! 校外学習ってことで単位もらえるらしいからよ、マジに助かった!」

 

 ペパーとボタンさんは学校をサボり気味だったそうだし、渡りに船といったところか。

 とはいえいくつか授業は受けることになるわけで、普通にアカデミーへ通うのとそう変わらない気もするが……黙っておくとしよう。

 

「……めっちゃ今さらなんやけど」

 

 くいっと制服の裾を掴んでくるボタンさん。

 

「うち、一応、1年生だから。呼び捨てでいい」

「へ?」

「2年のペパーが呼び捨てで、1年のうちがさん付け。なんか腹立つ」

 

 本人がそう言うのであれば、遠慮なくボタンと呼ばせていただきたいところだが——

 

「ボタンって、1年間ガラル地方に留学してたとか言ってたような……?」

「でも1年生なのはマジだから」

 

 よし、考えるのはやめよう。

 

「あれっ、ゼイユとタロは?」

 

 ぼくとスグリしかお迎えに来てないことに気づいたのか、あたりを見回すネモ。

 

「ええと、ゼイユはブライア先生に同行中で、タロさんは――」

 

「――お久しぶりです、みなさん」

 

 振り向くと、そこには薄い笑みを浮かべたタロさんが。

 遅れて来るとは言っていたけれど、タイミングを計っていたのだろうか。

 

「やっほータロ! 元気してた? また会えてうれしいよ!」

「いえいえ、私もネモさんとはまたお会いしたいと思っていたので」

 

 ネモは何も考えていないだろうが、タロさんはいかにもバチバチといった感じで敵意を向けている。

 冷や汗をかいていると、また制服の裾をちょんと摘ままれた。

 

「た、タロ、闇堕ちした……?」

「……まあ、そうだね」

 

 どうやらボタンはタロさんの変わりようにショックを受けているらしく、腰が引け気味だ。

 特にふたりはかわいいもの繋がりで仲良くしていたようだし、驚くのも無理はない。

 

「まずはリーグ部にご案内します。何かと関わることも多いでしょうから」

 

 そう言って一度ぼくを見ると、タロさんはエントランスに向かって歩きはじめた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ようこそリーグ部へ! 元部長のオイラが歓迎するぜぃ!」

 

 部室へ到着すると、カキツバタが全力の自虐で出迎えてくれた。

 見ているこっちがいたたまれないので、ちょっとやめてほしい。

 

「カキツバタ……も、もしかして、あなたがこの学園で一番強いっていう……!?」

「……え!?」

 

 ネモに悪気はないのだろうが、まだ新しい傷をえぐるのは勘弁してやってほしい。

 

「ふふっ、少し前までは彼がチャンピオンだったんですけどね」

「じゃあ今は!? 誰!?」

「さあ、すぐにわかることですから」

 

 私です、と言いにくいのはわかるけれど。タロさんも人が悪い。

 

「私は席を外しますけど、みなさんはゆっくりなさってくださいね」

「うん! ありがとねタロ!」

 

 あの様子だと、タロさんはバトルの練習へ向かったのだろう。

 今日ぐらいみんなと話していけばいいのにとは思うが、ぼくたちにとっては好都合だ。

 

「……な、なあ、タロのやつ、一体どうしちまったんだ……!?」

 

 ここまでずっと我慢してきたのだろう。

 タロさんが部屋を出たのを確認すると、ペパーがそう切り出した。

 

「端的に言うと、闇堕ちした」

「や、やみー……? 美味いもん食いすぎたってことか……?」

「太ったわけではない」

 

 アホなのかそうでないのかわかりにくい勘違いだな。

 

「タロって前からあんな感じじゃなかったっけ?」

 

 ネモ、それはさすがに他人を認識できていなさすぎる。

 

 とにもかくにも、まずは情報を共有しなければはじまらない。

 タロさんが林間学校からおかしくなってしまったこと、ゼイユが退部させられるなど実害が出ていること、ひとまず彼女を倒して部長を辞めさせたいこと、そのために協力してほしいこと。

 それらを伝えると、パルデア組のみんなは快く頷いてくれた。

 

「いっぱい戦えるならわたしは大歓迎だよ!」

「ま、ダチが困ってんなら助けねえわけにもいかねえしな」

「中二病……早く治さないと予後が悪い」

 

 ボタン、中二病呼ばわりはやめてあげてください。

 

「……なんだよ、キョーダイってば友だちいっぱいで妬けちゃうでやんすねぃ」

 

 ぼくが学外の生徒と仲良くしているのが面白くないのか、どこか拗ねた様子のカキツバタ。

 

 ――しかしそれを見逃すネモではない。

 

「カキツバタは友だち欲しいの?」

「へ? いや、別にそういうわけじゃあ」

「ならみんなでバトルしようよ! バトルしたらみんな友だち、だよ!」

 

 あーあ、バトルジャンキーに火がついてしまった。

 

 しかしカキツバタもその提案にはまんざらでもなかったらしく。

 

「……そいじゃ、みんなでテラリウムドーム行くとすっかねぃ!」

「おー!」

 

 ――数時間後、バトルのやりすぎで干からびたカキツバタが発見され、ちょっとした騒ぎとなったのはここだけの話。

 

 

 

 ***

 

 

 

 急遽テラリウムドームにて開催されることとなった交流戦は大いに盛り上がった。

 戦いの中で成長したネモがカキツバタをあと一歩のところまで追い詰めたり、スグリとオーガポンのコンビが猛威を振るったりと、それはもう見どころの連続であった。

 

 そして夜――LEDパネルの夜空の下で、ぼくたちはちょっとしたパーティーを行っていた。

 

「うおおおおおおおお!! 辛さ20倍増しだああああああああ!!」

 

「バカ!! どう考えても辛くしすぎちゃんだっての!!」

 

 料理が得意なペパーとアカマツは意気投合……したように見せかけて、方向性の違いで上手くいっていないようだ。

 もっともふたりがヒートアップするにつれてものすごい勢いで料理が出来上がっていくため、食べる側としては助かるのだが。

 

「カキツバタ、アカマツの激辛炒飯を持ってきました」

「キョーダイはオイラに死ねって言うのかい……?」

 

 さすがに冗談だ。

 バトルのやりすぎでしおしおになっているカキツバタへミネラルウォーターを渡すと、ぼくはモンスターボールをその場で投げた。

 

「お食べ、マスカーニャ」

「にゃっ!」

 

 ぼくが皿とスプーンを渡すと、マスカーニャは器用に激辛炒飯を食べはじめた。

 彼は辛いものが好きだからな。久しぶりにアカマツの料理が食べられて上機嫌みたいだ。

 

「……そいでキョーダイ、ぶっちゃけ勝算はあんのかい?」

 

 勝算、というとタロさんのこと言っているのだろう。

 

「どうかな。絶対に勝てるとは言えませんけど……」

 

 少し離れたところでネリネさんと会話しているネモ。

 生徒会長同士というのもあってか、盛り上がっているようだ。

 

「ぼくはネモの方が怖いです」

「へっ、違えねえや」

 

 シングルバトルでは完敗した挙句、ダブルバトルでは負ける寸前まで追い詰められたのだ。カキツバタはさぞ怖かったことだろう。

 

「でもよう、オイラ……最近、負けて喜んじまってる自分が居んだ」

 

 変な話だろ、と言って笑うカキツバタ。

 けれど、ぼくはそれを笑い飛ばすことができなかった。

 

「タロに負けたときはすげえ辛かった。でも、さっきネモにやられたとき……なんか、肩の荷が下りたような気がしちまったんだ」

 

 オイラ、最強じゃなくていいんだな――カキツバタはどこか晴れやかな顔でつぶやいた。

 

「勝ち続けるのは、辛いことですから」

「……キョーダイはわかってくれんのかい?」

「少しだけ」

 

 ぼくはカキツバタみたく頂点に立ったことがない。

 だから完全には理解できないけれど、終わりのない努力を強いられる辛さはわかる。

 

「ネモについていくため、血反吐が出るほど努力してた時期がありまして」

「考えたくもないねぃ」

「全部嫌になって、ポケモンリーグ最後の1匹で降参したぐらいです」

「随分大胆なことすんじゃねえの」

「おかげでチャンピオンになり損ねました」

 

 どうりで強えわけだ、と独りごちるカキツバタ。

 

 以前まではこのことを誰かに言うつもりはなかったけれど、もういいだろう。

 これからチャンピオンを目指すのだから、実力を隠していても仕方がない。

 

「タロさんも辛いでしょうね」

「元々才能はあっけど、ありゃ血のにじむような努力の結果だろうからねぃ」

 

 みんなの前では余裕そうに振る舞っているけれど、タロさんが無理をしているのは明らかだ。

 日を追うごとに痩せていっているようだし、顔色の悪さをメイクで隠しきれていないときがあるし、何よりぼくの前で一度倒れている。

 

 すべてはありのままの自分で居たいがため。

 その目標は応援したいけれど、体を壊すぐらいなら止めなければならない。

 

「――噂をすりゃ、だな」

 

 見ると、そこにはネモと会話するタロさんの姿が。

 交流会には参加していなかったし、今、初めてここへ来たのだろう。

 

「これ美味しいよ! タロも一緒に食べようよ!」

「お気遣いありがとうございます。でも、今は固形物を受けつけなくて……」

 

 どうりで脚が細くなったわけだ。

 ここ最近、タロさんとは一度も食事していないが、やはりきちんと食べられていないらしい。

 

「——すみません、ネモさんにはひとつお願いがありまして」

「なになに? 何でも聞くよー?」

「いつでも構いませんので、私とバトルしていただきたいんです」

 

 そのためにネモを交換留学で呼びつけたのだから、当然の要求だろう。

 おそらく彼女は、すべての面で――女性としても、トレーナーとしても――ネモを超えようとしている。

 

 それはきっとぼくのせいだ。

 ぼくに受け入れられなかったから——せめてぼくが誰かに盗られてしまわないよう、敵となりうる存在を排除しようとしている。

 ゼイユを退部させたのも、ネモを倒そうとしているのも、結局はそういうこと。

 それ以外の生徒には目もくれないのだから、タロさんが何を考えているのかは簡単にわかってしまう。

 

 しかし――彼女はひとつ勘違いしていることがある。

 

「いいよ! じゃあ今から戦ろっか!」

「……今から、ですか?」

 

 ――ネモは戦えさえすれば、勝とうが負けようが関係ないのだ。

 

「こう言ってはなんですが、ダブルバトルでは私に利があると思いますよ」

「だってタロがチャンピオンなんだもんね! もうっ、もったいぶらずに教えてくれればよかったのに!」

「勝ち目が薄いのに、本当に戦うんですか?」

「うん! だってその方が楽しいでしょ!」

「楽しい……?」

 

 多分、今ごろタロさんの頭の中はぐちゃぐちゃになっていることだろう。

 

 楽しいから、好きだから頑張れていたポケモンバトル。

 それらを捨てて、楽しくない努力を重ねて強くなったタロさんに、その言葉は劇薬だ。

 

「っ! はあっ、はあ……っ!?」

 

 突然喉元を抑え、苦しみ出すタロさん。

 

「だ、大丈夫!? 具合悪い!?」

「急患。至急、医務室へ」

 

 医務室へは行くことになるだろうが、過呼吸であればひとまず対処可能だ。

 ぼくは彼女たちのもとへ近づくと、タロさんを近くのLEDブロックへ座らせる。

 

「息を吐くことを意識してください」

「はあっ……ヴェーラ、くん……?」

 

 ……久しぶりに名前を呼んでもらった気がする。

 こんなときに言うのもなんだけど、少しだけ嬉しい。

 

「大丈夫、すぐに収まります」

 

 吸って、吐いて、吐いて。

 背中をさすりながら、呼吸のタイミングを思い出してもらう。

 

「すう……はあ……ごめんなさい、私……」

「謝ることはありません」

「わたし……みんなに……迷惑、ばかり……」

 

 それだけ言うと、タロさんはぼくの胸に向かって崩れ落ちた。

 

「すう……はあ……」

 

 どうやら眠ってしまったようだ。

 呼吸は正常に戻っているし、ひとまず問題はないだろう。

 

「ネリネさん、メタグロスにお手伝い願えますか」

「……承知」

 

 この場で用意できる揺れが少ない運搬手段となれば、念動力で浮遊することができるメタグロスぐらいのものだろう。

 

 ちなみに人力で運ぶのはおすすめしない。ソースは全身筋肉痛になったぼく。

 

「お願いします、メタグロス」

「メタッ!」

 

 メタグロスが一鳴きすると、タロさんの身体がふわっと浮かび上がった。

 そのまま頭部に乗せると、メタグロス自身も浮遊をはじめる。

 

「すみません、すぐに戻りますので!」

「ネリネも同行します」

 

「う、うん! タロのことよろしくねーっ!」

 

 心配そうなみんなを尻目に、ぼくとネリネさんはメタグロスを追って歩き出す。

 

「……随分、過呼吸の対処に慣れているのですね」

「経験豊富なもので」

 

 ぼく自身、過呼吸に悩まされていた時期があった。

 それがネモと『宝探し』に出ていたときとは口が裂けても言えないけれど。

 

「彼女が倒れるのは、これで2回目です」

「そうですね」

 

 一度だけならまだしも、こうなると慢性的な問題を抱えていることになる。

 

「タロについて、ヴェーラは何か存じているのですか」

「一通りの事情は」

「叶うことなら、早急に対処するべきかと」

「もちろんそのつもりです」

 

 ぼくたちに残された猶予はきっと、思っているよりもずっと少ない。

 

「ネリネにできることなら、何なりとお申しつけください」

「では、遠慮なく」

 

 なんせチョロネコの手も借りたいような状況だ。

 みんなだけでなく、ポケモンたちの力も借りて、総力を挙げてことにあたるべきだろう。

 

 

 

 

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