タロと学園ラブコメするだけ   作:私利私欲

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 部室を出たぼくは、さっそくサバンナエリアへ行ってみることに。

 本当はコーストエリアでタロさんときゃっきゃうふふしたかったところだけれど、宿題はさっさと片づけておくにかぎる。

 

 それで、件のサバンナエリアへたどり着いたわけだが——

 

「……うーん?」

 

 メンバーはそれなりに揃っているものの、遠目にはきちんと活動しているように見えない。

 みんな、各々好きなことをしているような――

 

「やあ、リーグ部の見学に来たのかい?」

 

 しばらく見ていると、リーグ部員らしき男子生徒が話しかけてきた。

 

「ええと、実は昨日入部したばかりで」

「そうだったのか! ようこそリーグ部へ、歓迎するよ」

 

 まだ出会って十数秒だけれど、今のところ彼は善人のように見える。

 

「でも、サバンナエリアは避けた方がいいと思うよ」

「というと?」

「ここにはチャンピオンや四天王をよく思わない生徒が集まっているからね。新入生の君にはとても勧められないよ」

 

 どうやらカキツバタの言っていたことは真実のようだ。

 

「そういうことなら、ぼくに向いた場所だと思います」

「……君もわけありなのかい?」

「カキツバタが、ちょっと」

 

 カキツバタには悪いが、ここは彼の名前を使わせてもらうことにする。

 まあ、うっすら嫌いなのは本当のことなので問題ないだろう。

 

「そうか……実は俺もそうなんだ」

 

 カキツバタの名前を出した途端、先輩の表情に影が差す。

 続きを促すと、彼はゆっくりと語りはじめた。

 

「俺は3年生なんだけど、カキツバタは入学してきたときからずっと居てね……」

 

 カキツバタは3回留年しているそうだし、事実なのだろう。

 

「そのときから彼はずっとチャンピオンなんだけど、これって良くないと思うんだ」

「というと?」

「彼がすごく強いのはわかるし、尊敬もしてる! けれど今のままじゃ新陳代謝しないっていうか……チャンピオンが卒業していくならまだしも、留年してまで居座りつづけるのは違うと思うんだ。そのせいで、彼が居る間はどうせ勝てないんだから頑張っても仕方ない、みたいに思う人も多くてね」

 

 至極真っ当な意見だ。真っ当すぎて何も言えることがない。

 彼の話を聞くかぎり、真にリーグ部の雰囲気を悪くしているのはカキツバタではないだろうか。

 

「まあ、俺なんかはマシな方さ。あいつを見てみなよ」

 

 彼が指した先には——岩の上であぐらをかき、一心不乱にスケッチブックへ何かを描いている男子生徒がひとり。

 

「あいつ、ブルベリーグじゃかなりいいところまで行ったんだけどさ、タロにだけはどうしても勝てなくて……それからタロのドリュウズでしか抜けなくなってしまったんだ」

「抜け……は?」

「率直に言うと、シコれなくなったんだ」

「は?」

 

 この人は何を言っているんだ……?

 

 いや、言葉の意味はわかる。

 シコるとは、つまり自慰行為のことを指しているのだろう。

 ただ、その、タロさんのドリュウズでしかできないというのはわからない。

 

 ポケモンで……するんですか?

 ぼくにはまだ早い話かもしれない。

 

「だからああして絵を描いて自給自足しているんだ。あと、たまに写真を撮ってる。もちろんタロじゃなくて、そのドリュウズの写真をだけどな。タロ本人は嫌いだって言っていたよ」

「なるほど……?」

 

 よくわからないが、バトルで勝てなくなったところで普通、そんな風にはならないはずだ。

 なっとるやろがいと言われれば、それまでだけれど。

 

「次はあいつを見てほしい」

「もうお腹いっぱいなんですけど……」

 

 見ると、そこには両手両足を地面につけ、アメタマのような体勢でじっとバトルコートを見つめる女子生徒が。

 

「どうやら彼女はメタグロスになりたいらしい」

 

 アメタマではなくメタグロスだったようだ。

 

「それはネリネさんに負けたから?」

「よくわかったね! 君の言うとおりだよ」

 

 褒めてくれるのは嬉しいが、何ひとつ手ごたえを感じない。

 

「彼女は特殊でね。ネリネを憎んでいるのではなく、強く憧れた結果、彼女のメタグロスになりたいと思ったそうなんだ。いわゆる夢メタグロスってやつだね!」

 

 いわゆると言われても、ぼくの辞書に夢メタグロスなんて言葉はない。

 推測するに、それは夢女子のようなものなのだろう。

 詳しくは知らないけれど、詳しく知る必要性は感じない。

 

「ああやって”めいそう”を続けた結果、小石ぐらいなら浮かせられるようになったと言っていたから、今度見せてもらうといいよ」

「なるほど、サイキッカーとしての才能が花開いたわけですね」

「ああ、彼女は本当にすごいやつさ!」

 

 いまだに理解できないことばかりだけれど、ノリはわかってきた気がする。

 きっとこの場においては考えるのではなく、感じることが重要だ。

 

「じゃあ、あそこでアフタヌーンティーをしている人たちは?」

「あれはカキツバタアンチお嬢様部だね。いつかカキツバタをお茶会に招待して、紅茶で毒殺するのが夢なんだってさ」

 

 まさかカキツバタの毒殺を目指す人間がこの世に6人も居るとは驚きだ。

 殺意を抱くまではともかく、どうして紅茶という手段が被ってしまうのやら。

 

「じゃあ、あれは?」

「特殊ルールでならカキツバタを倒せるんじゃないかって、ひたすらトリプルバトルを練習しているのさ。俺もたまに参加するけど、結構面白いよ」

「へえ」

 

 トリプルバトルの概念は知っていたものの、本格的にやっているのを見たのは初めてだ。

 

「――見てのとおり、ここはそういう()()()()()やつらの集まりさ」

 

 いや、それはどうだろうか。

 ここまで多種多様な人間が集まっていると、逆に()()()()()ような気がしてならない。

 

「だから、できれば君は他のところへ行った方がいい」

「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です」

 

 最初は面食らったけれど、こうして話を聞いているとなかなか面白い場所のように思えてきてしまった。

 

 勝者の裏には、必ず敗者が存在する。

 努力を重ねていくうちに、才能の壁へぶつかってしまうことだってあるはず。

 そういう人たちのためにも、ここは残しておいた方がいいだろう。

 

 それとは別に、彼らの鬱憤を晴らせる機会があればとも思うが——

 

「もっと見学してもいいですか? この場所が気に入ってしまいまして」

「君は変わったやつだな……いいよ、俺についてきて」

 

 君に会わせたいやつが居るんだ。

 そう言って連れてこられたのは、サバンナスクエアの……キッチン?

 キッチンではないのだろうが、ガスコンロを置いて調理している生徒が見える。

 

「彼は『アカマツ』。バトルしたいのにみんなから構ってもらえなくて、仕方がないからここで料理しているんだって」

 

 なるほど、彼がカキツバタの送りこんだ生徒というわけか。

 

「——あれ、お客さん?」

「君と同じ1年生が見学に来たんだ」

 

 コンロの火を消すと、アカマツがこちらに駆け寄ってくる。

 

「ええと、ヴェーラです」

「よろしくなヴェーラ! こんなとこまで見学に来るなんて、キミって結構変わってるんだな!」

「それはどうも……」

 

 変わっているだなんて、こんなところで料理している人には言われたくない。

 とはいえ、他の部員に比べればずっと常識的に見える。

 

「オレはアカマツ! カキツバタ先輩に言われて、サバンナエリアを明るくしようと頑張ってるんだ!」

「へえ……ん?」

 

 カキツバタと関係があることを言ってはいけないのでは……?

 

 横目でカキツバタアンチ先輩を見るも、彼はニコニコと笑みを浮かべるばかり。

 

「あはは、カキツバタがここを気にかけていることはわかっているし、構わないよ」

 

 ――だって、君もそうなんだろう?

 

 そうストレートに聞かれてしまうと、否定することはできなかった。

 

「いつからぼくのことを……?」

「そんなの最初からに決まっているじゃないか! 君たちって自分が思っているよりもずっとまともなんだよ?」

 

 褒められているのやら、貶されているのやら。

 狂っていて当たり前のここでは、正常なのがいいことなのかわからない。

 

「来るものはカキツバタ以外拒まず——それが俺のモットーだからね」

 

 カキツバタだけは拒まれてしまうのか……

 

「そういうことだから、あとはふたりでごゆっくりどうぞ」

 

 それだけ言い残すと、先輩はさっさと去っていってしまった。

 

「あの先輩、普通にしゃべってくれるしいい人だよな!」

「そうだね。……そうかな?」

 

 ここでの生活に慣れてしまったせいか、彼の中ではいい人のハードルが低くなっているらしい。

 

「——それで、ヴェーラはカキツバタ先輩からなんて言われてきたの?」

「アカマツと協力して、サバンナエリアを明るくしてほしいって言われてるけど……」

「ほ、ホント!? よかった! オレ、このままずっとひとりで居なきゃなのかと思って、すげービビってたんだよなー……!」

 

 増援がきたことがよほど嬉しかったのか、アカマツは目尻に涙すら浮かべている。

 

 なんだか、彼がすごく可哀想に思えてきた。

 カキツバタの言うことなんか最悪無視しても構わないのに、ずっとひとりで頑張っていたなんて、どこまで健気なやつなんだアカマツは。

 

「そ、そうだ! よかったらオレの料理食べてかない!?」

「……いただこうかな」

 

 あまりにも可哀想なので、ここは素直にアカマツの提案を受け入れることに。

 

「はいどうぞ!」

「お、わ……」

 

 手渡された皿を見て、思わず言葉を失う。

 これは……見るからに辛そうな……何だ……?

 

「いただきます」

「うん、召しあがれ!」

 

 ひとまずトウガラシの部分を避けて、比較的辛くなさそうな肉と野菜を口へ運ぶ。

 

「ん? 美味し……あ、これ駄目なやつだ」

 

 皿を手近なところへ置き、リュックの中からペットボトルを取り出すと、それを勢いよく飲み干した。

 

「どう? オレ特製の激辛回鍋肉!」

「はあっ、はあ……何の注意もなしに食べさせていい辛さじゃないよこれ……!」

 

 口の中が燃えるように熱いし、耳の中まで痛くなってきた……!

 

「えー? オレはちょうどいいと思うんだけどなー」

 

 そう言ってひょいひょいとトウガラシごと食べ進めるアカマツ。

 

 訂正しよう。

 やっぱりこいつも変人だ。

 

「……辛さはともかく、味はよかったと思う」

「へへっ、ならよかった!」

 

 何も良くないけど……?

 この先、アカマツと上手くやっていけるか心配になってきた。

 

「ん?」

 

 突然、腰元のモンスターボールがぶるぶると震え出す。

 手に取ると、ニャオハがひとりでに飛び出してきた。

 

「にゃーう!」

「うわ、どうしたんだニャオハ?」

 

 自由の身となったニャオハは、アカマツのもとへ駆け寄ると、その足元でぴょんぴょんと跳ねはじめた。

 

「にゃっ! にゃっ!」

 

「辛い匂いが気になって出てきたんじゃない?」

「そう、なのかな?」

 

 試しにアカマツが小皿へとって置いてみたところ、ニャオハはふんふんと匂いを嗅ぎはじめた。

 

「ぐるるる……にゃっ!」

 

「あ、食べた!」

「あまり無理はしない方が……って、聞いてないか」

 

 お腹が空いていたのか、ものすごい勢いで激辛回鍋肉を食べすすめるニャオハ。

 

「よしよし、いっぱい食べて大きくなるんだぞー……えっと、ニャオハ!」

 

「にゃはーっ!」

 

 どうやら彼は辛いものが好きらしい。

 好物に出会うことができたからか、かつてないほどご機嫌だ。

 

「……あ、よく見たら目元が仮面みたいになってる!」

 

 カワイイ! と言ってスマホロトムで撮影をはじめるアカマツ。

 言われてみれば、たしかにニャオハの目元には仮面のような模様がある。

 

 仮面……マスカレード(仮面舞踏会)……?

 

「そうか、その手が」

「え、何? 何か思いついた?」

 

 ニャオハの撮影を止めないアカマツをよそに、しばらく思考を続ける。

 

「ここの人たちの共通点って何だと思う、アカマツ?」

「えーっと、みんな変!」

 

 間違ってはいないけれど、そんな声高々に言うのはひどいと思う。

 

「ぼくが言いたかったのは、みんなリベンジを諦めていないよねってこと」

 

 タロのドリュウズでしか抜けない、ネリネのメタグロスになりたい、カキツバタを紅茶で毒殺したい――形は違えど、それらはすべて執念だ。

 

 言いかえれば、怨念。

 それが発散できないかぎり、きっと彼らは成仏できない。

 

「じゃあ、それをスッキリさせてあげれば……ってこと!?」

 

 アカマツはちょっとアホの子なのに、突然芯を食ったことを言うから驚かされる。

 

「——つーか、そうなるくらいなら普通にリベンジすりゃいいじゃん!」

「それができたら()()はなっていないよ」

 

 執念を上手く発散できず、自分なりの形で表現する人たち――現在のサバンナエリアを表すならこうだろう。

 

 本当に嫌なことがあるなら、さっさとリーグ部を辞めているはず。

 それができないのは、一矢報いたいという気持ちがまだ残っているから。

 

「人間、こいつには勝てないって思うと、戦うことすら嫌になるものだよ」

 

 だからって諦めはつかない。

 かといって恥はかきたくない。

 

 前進も後退もできない状況は、ものすごい勢いで心を蝕んでいくものだ。

 その経験があるからこそ、ぼくは彼らに共感するし、なんとかしたいとも思う。

 

「うーん、オレにはわかんない気持ちだけど……なら、どうするの?」

「バトルに対する、心理的なハードルを下げる」

 

 そこで使うのが『仮面』というわけだ。

 

「仮面をつけて、誰が誰だかわからない状態なら、みんな遠慮せずに戦えると思わない?」

「おー、なんか楽しそう!」

 

 我ながらいいアイデアだ。

 カキツバタの思惑とは違うけれど、『サバンナエリアを明るくする』という目標さえこなせば文句はないだろう。

 ストレスを発散できれば、笑顔も少しずつ増えていくはず。

 

「名づけて『仮面武闘会』――リーグ部主催でイベントを開こう」

 

 突破口が見えてきた。

 これならサバンナエリアの問題はすべて解決——とまでは行かなくとも、一歩前へ進められそうだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 1時間後。

 アカマツとともに簡素な企画書を書き上げると、一度先輩方に見てもらおうということになった。

 ネリネさん(生徒会長)が居るキャニオンエリアの方がいい気もしたけれど、何故かふたりの意見が一致したため、ぼくたちはコーストエリアへ向かうことに。

 

「な、なんか緊張してきた……!」

 

 道中、目に見えて口数が減っていたアカマツ。

 企画書の大半を考えたのはぼくなのに、どうして彼が緊張するのだろうか。

 きみは「いいね!」とか「それいい!」とか「めっちゃいいじゃん!」としか口出ししてこなかっただろう。ポケスタグラムかよ。

 

「あ、タロさん居るよ!」

 

 コーストスクエア付近までくると、部員同士のバトルを見守っているタロさんが見えた。

 アカマツの声が大きかったからか、彼女はすぐにこちらの存在へ気づいたようだ。

 

「——ヴェーラくん!」

 

 それにアカマツくんも! と言って駆けてきてくれるタロさん。かわいい。

 

「来てくれたんですね! もう鼻血は大丈夫ですか? というかおふたりって知り合いだったんですか!?」

「まあ、色々とありまして」

 

 ぼくたちがカキツバタの依頼で動いていることは伏せておくべきだろう。

 これ以上、タロさんに心配をかけたくないからな。

 

「オレたち、実はサバ――むーっ!?」

 

 と、思いきやバカマツ……アカマツが口走りそうになったので、急いで口元をふさぐ。

 

「サバ……?」

「砂漠の料理について話をしていたら、仲良くなりまして。ね?」

 

「むん! むんむん!」

 

 どうやら言ってはいけないことを理解してくれたようなので、しぶしぶアカマツを解放する。

 

「ぷはあっ……うん、クスクスとか美味しいよなっ!」

 

 砂漠料理について補足してくれたつもりなのだろうが、いっそボロが出ないよう静かにしておいてほしい。

 

「――タロさんにひとつお願いがありまして」

「お願い?」

 

 企画書代わりのノートを開き、タロさんに見せる。

 

「実はイベントを開きたいと考えているんです」

「お料理の、ですか?」

「違います」

 

 話の流れで勘違いするのはわかるけれど、一度料理から離れていただきたい。

 

「ぼくたちなりにリーグ部を盛り上げられればな、と思いまして」

「オレも一緒に考えたよ!」

 

 ぼくの意見に反応していただけのことを()()()と言うのは、さすがにおこがましいぞアカマツ。

 しかし悪意など一切なさそうなのが、彼の恐ろしいところだ。

 

「ふたりとも……! 特にヴェーラくんは昨日入部したばかりなのに、まさかそこまで考えてくれているなんて……!」

 

 言われてみると、いきなりイベントを開きたがるなんてすごく不自然な行動だ。

 彼女からすれば、ぼくはモテたいがためにイベントを主催しようとしている不届き者、のように見えているのではないのだろうか。

 

「うう……わたし、感激しちゃいました!」

 

 ……まあ、この様子なら大丈夫か。

 

 タロさんはノートを受けとると、すぐに内容を確認しはじめる。

 

「仮面武闘会……なるほど、仮面をつけた状態でバトルするんですね。生徒、教員問わず誰でも参加可能、と」

 

 サバンナエリアの問題だけなら、参加するのはリーグ部員に限定してもよかった。

 しかしぼくがそうしなかったのには理由がある。

 

「今年は新入部員が少ないとおっしゃっていましたよね。もしかしたらリーグ部のレベルが高くて腰が引ける部分もあるのかなと思いまして」

 

 すぐ近くにあるバトルコートでは、素人目にも高度なバトルが行われている。

 あんなものを見せつけられては、初心者が委縮してしまうのも無理はない。

 

「先輩たち、みーんな強いもんね!」

 

 中身の薄い補足をありがとう、アカマツ。

 

「だから、そのハードルをなくしてしまえばと考えたんです。実際は強い人、弱い人が居るわけですし、部外の人にはそれを実感してもらいたい」

 

 せっかく大がかりにやるのだ。

 叶うことなら、これで部員不足も解決してしまいたいと考えた。

 

 それに、このイベントを開催するメリットは他にもある。

 

「部員のみなさんも、正面切ってバトルしてくださいとは言いにくい相手って居ると思うんです。格上に挑んでみたり、仲の悪い人と戦ってみたり、普段できないことに挑戦してもらえれば……なんて思いまして」

 

 ぼくにとっては、これこそが本命の理由だ。

 サバンナエリアに立ちこめる暗雲を払うため、ぼくは仮面武闘会を開催しようと考えた。

 

「――いい、いいと思います! 素晴らしい企画ですよ、これ!」

 

 しばらく考えこんでいた様子であったが、どうやらタロさんには気に入ってもらえたようだ。

 

「へへっ、だよね!」

 

 だからどうしてきみが得意げなんだ、アカマツ。

 

「では、早速これをシアノ(校長)先生に持っていきましょう!」

「はい?」

 

 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

 企画書はまだ草稿であり、ノートにシャープペンシルで殴り書いたものでしかない。

 

 そんなものを校長に見せる……? 正気ですか?

 

「その、もっと細かいところを詰めるとか、せめて体裁だけでも整えた方が……」

「あれこれ考えても、最終的に許可がもらえなければ意味がありません! まずは話を聞いてもらって、細かいことはあとで考えればいいんです!」

 

 タロさんがそう言うのであれば、ぼくに断ることはできない。

 

「それでは早速校長室へ向かいましょう!」

 

「おー!」

「お、おお……?」

 

 

 

 ――こうしてぼくの……ぼくたちの考えた『仮面武闘会』の企画は動きはじめた。

 

 

 

 

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