タロと学園ラブコメするだけ   作:私利私欲

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 無事に風邪から快復し、すぐに2週間が経った。

 

 今日は『仮面武闘会』の日。

 しかしその前に、ぼくはやるべきことがある。

 

「へへっ、まさか本当にブルベリーグを駆け上がってくるなんて、やるじゃんヴェーラ!」

「それほどでもある」

 

 エントランス前——海に囲まれたバトルコートの両端で、ぼくとアカマツは向かい合っていた。

 

 現在、ブルベリーグにおいては、ぼくが6位、アカマツが5位。

 名前のとおりこれはリーグ戦のため、ここでぼくが勝てば順位は入れ替わる。

 

 要するに、この試合でどちらかが四天王へ昇格となるわけだ。

 

「でも、よかったの? アカマツはもう四天王になってるのに」

 

 先に四天王になった方がタロさんに告白する、というこの勝負。

 順位的にはすでにアカマツが四天王入りしているわけで、本来なら彼の勝利だろう。

 

「いい! だってヴェーラもすっげー頑張ったのに、公平じゃないじゃん!」

 

 今の順位になったのはつい昨日のこと。

 同時に5位と6位で並んだのだから、最後は直接勝負で決めよう、というのがアカマツの言い出したことだ。

 個人的には納得していないものの、勝者が言うのであればそれに従うほかない。

 

「あとオレ、ヴェーラと戦ってみたかったし!」

「ありがたい言葉だ」

 

 結局、ブルベリーグでは一度も当たることがなかったからな。

 そんな風に言ってもらえるのであれば、トレーナー冥利に尽きる。

 

「勝てよアカマツ!! 君はサバンナエリアの星だー!!」

 

「「「がんばれアカマツー!!」」」

 

 いつの間にかアカマツは、サバンナエリアの部員から随分と信頼されるようになったらしい。

 バトルコートの向こう側からはたくさんの応援が聞こえてくる。

 

「おーぅい!! オイラんこと散々便利に使ったんだからよう!! 絶対勝てよーい!!」

 

 一方、こちらはカキツバタがひとり、なんとも卑しい理由で檄を飛ばしてきた。

 

「……テンション下がった」

「あははっ! チャンピオンから応援してもらえるなんて羨ましいぞヴェーラ!」

 

 最近、リーグ部ではほとんどカキツバタとしか関わってこなかったからな。

 こうなることはわかっていたけれど、少しだけ堪える。

 

 一応、スグリにだけは今日のことを伝えておいたのだが、「ヴェーラが勝つから、いい」と言って応援を断られてしまった。

 きっと今ごろ()()()()()()()ぼくと戦うためにポケモンを鍛えていることだろう。

 

 なんせ彼は現在ブルベリーグ4位――ぼくたちよりも先に四天王入りしてしまったわけだからな。

 

「どっちも頑張ってくださーい!!」

 

 そしてタロさんは、ぼくたちを中立の立場で応援してくれているようだ。

 

「約束、忘れてないよね?」

「一応」

 

 先に四天王となった方がタロさんへ告白する――それがアカマツとの約束。

 

「よかった! なら、今日はオレが勝っちゃうからね!」

「言ってなよ」

 

 目を閉じると、一度深呼吸する。

 大丈夫、シミュレーションどおりにやれば負けることはない。

 

「――ただいまより、アカマツ選手とヴェーラ選手の試合をはじめます。ルールはダブルバトル、6体選出の持ち物あり、レベル制限はなしで行います」

 

 懐からモンスターボールを取りだし、構える。

 

「――試合開始!!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 この1ヶ月、キョーダイ――ヴェーラを鍛えてみてわかったことがある。

 

 それは、彼が戦っているとき、感情を押し殺す傾向にあるということ。

 

 決して悪いことではない。

 ダブルバトルでは特に戦術性が求められるため、冷静で居ることも重要だ。

 

 しかしポケモンというのは不思議なもの。

 ときにトレーナーの感情と共鳴し、常識を超えた力を発揮することがある。

 どうやらヴェーラは、そういった不確定なものに頼るのを嫌がっているようだ。

 

 反対に、アカマツはそれを味方につけるのが上手い。

 

「ヴェーラにアカマツ……実力はイーブンってとこか」

 

 ふたりともかなりの早熟型だ。

 ヴェーラの方が頭の出来はいいが、アカマツは天才的な発想を見せる瞬間がある。

 それを考慮すれば、現状実力は拮抗しているように見える。

 

 しかしこの試合、勝敗をわける理由があるとすれば――この一戦にかける熱量、だろう。

 

 ヴェーラはよく頑張った。

 この1ヶ月、オイラが直接鍛えてきたからこそよくわかる。

 並大抵の努力では、こんな短期間でブルベリーグを駆け上がることなどできない。

 風邪を引いてふらふらになりながらもモンスターボールを構えだしたときには、さすがのオイラもドン引きした。

 

 努力は十分。

 実力も十分。

 ただ、熱量だけが足りない。

 

「可哀想なやつ」

 

 ふたりの顔を見ていればよくわかる。

 バトルが楽しくて仕方ないアカマツに対し、ほとんど表情を動かさないヴェーラ。

 

 ポケモンバトルが好きでないのだろう。

 あれだけの才能を持っていながら、なんとも歪な存在だ。

 

「……こりゃキョーダイの分が悪いねぃ」

 

 オイラのメンツのためにも、せめて大敗は避けてくれよ――そう、オイラはキョーダイに願った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 まずい、まずい、まずい……!!

 

 戦局は終盤となり――ぼくはかつてないほど焦っていた。

 というのも、想定していたよりアカマツがずっと強かったのだ。

 

 過去の試合では見せなかった戦術。

 それと、何より()()が違った。

 

「へへっ、このまま強火で押し切っちゃうよ!!」

 

 気づけばこちらはマスカーニャが1匹、アカマツはブーバーンとバシャーモの2匹。

 ただでさえタイプ相性が悪いのに、ここからどうすれば逆転できるというのか。

 

(……今こそ『テラスタル』できればなあ)

 

 テラスタル――戦闘中にタイプを変更できるという、パルデア地方特有の現象だ。

 ブルーベリー学園では使えないとわかっていても、追い詰められるたびに脳裏をよぎってしまう。

 

「……」

 

 一度深呼吸し、はやる気持ちを落ち着ける。

 

 勝ち目は薄い。

 打開策も思いつかない。

 けれど、諦めるわけにもいかない。

 

 まずはできることから、確実に。

 

「マスカーニャ、ブーバーンを狙うよ」

「にゃっ」

 

 マスカーニャはまだ傷が浅いし、機動力を失っていない。

 少し身をかがめると、彼はブーバーンに向かって勢いよく駆けだした。

 

「バシャーモ! マスカーニャを止めちゃえー!」

「ッシャ!」

 

 バシャーモよりも、マスカーニャの方が速い。

 特性の”かそく”を考慮したとしてもまだ速い。

 避けることは十分可能だ。

 

「”アクロバット”! 高く飛べマスカーニャ!」

 

 ひこうタイプの技である”アクロバット”を使い、数メートルの高さを舞うマスカーニャ。

 

「”つじぎり”で仕留めろ!」

「にゃああああああああっ!!」

 

 マスカーニャは体勢を変えると、天高くからブーバーンに向かって突撃する。

 

「ぶあ――っ!?」

 

 元々ダメージが蓄積していたブーバーンは、意識の外からマスカーニャの斬撃を受けて倒れた。

 

「な、何、今の!? すげーカッコいい……!!」

「褒めてる場合か」

 

 アカマツのそういうところは嫌いではないけれど、よくもまあこの局面で相手を賞賛できるものだ。

 

 ――あるいは、勝利を確信しているからこその余裕か。

 

「よーし、やっちゃえバシャーモ!」

「シャアアア!!」

 

 もはや技ですらない指示を受け、バシャーモがマスカーニャに飛びかかる。

 特性の”かそく”によって得た素早さを発揮し、バシャーモはラッシュをしかけてきた。

 

「ッシャアアア!!」

「にゃにゃにゃにゃーッ!!」

 

 こうなると素早いバシャーモから逃げ出すのは難しい。

 目にも留まらぬ速さでインファイトを繰り広げる2匹。

 お互いに体力をすり減らしつつあるようだが、わずかにこちらの分が悪そうだ。

 

「マスカーニャ、”ふいうち”」

「――にゃっ」

 

 マスカーニャの掌底があごに突き刺さり、耐えきれずによろけるバシャーモ。

 

「そのまま追撃」

「にゃっ――!」

 

 そのまま腹部に蹴りを受け、バシャーモは大きく後退した。

 

「シャァア……」

 

 肩で息をしているあたり、バシャーモの体力は残り少ないらしい。

 

「……へへっ、これってもしかしてピンチってやつ?」

「もしかしなくてもそうだね」

「まいったなー、今日だけは絶対負けらんないのに」

 

 そう言って頭をかくアカマツ。

 

 ……諦めたのか?

 

 そんな風に思っていると、突然、アカマツの目が七色の閃光を放ちはじめる。

 

「――バシャーモ、”きしかいせい”!!」

「なっ」

 

 視界からバシャーモが消える。

 ”かそく”に”かそく”を重ねたバシャーモは神速の域へ突入し――突然、マスカーニャの前に現れた。

 

「にゃ――ッ!?」

 

 マスカーニャは咄嗟に回避しようとするが、間に合わない。

 

「いっけえバシャーモーーーー!!!!」

「シャアアアアアアアア!!!!」

 

 ――負けたな。

 

 ”きしかいせい”という言葉を聞いた瞬間、ぼくは、ぼくたちの敗北を確信してしまった。

 

「マスカーニャ、戦闘不能! 勝者はアカマツ選手!」

 

「……っしゃああああああああ!!」

 

「「「「わああああああああ!!」」」」

 

 アカマツが勝利の雄叫びを上げると、あたり一帯に大歓声が響いた。

 

「……負けた」

 

 どうして負けた?

 最後は冷静さを取り戻したし、優勢な状況に持っていけたはずだった。

 

 その上で負けたのだとすれば――油断した、のか。

 バシャーモが”きしかいせい”を放ったあの瞬間、ぼくにできることは本当に何もなかったのか?

 

 いや、あの状況を覆すのはどうやっても無理だ。

 あの状態のバシャーモを超えるスピードはマスカーニャにない。

 

 なら、その一手前、アカマツと会話しているとき、あのときに攻撃しておけば――

 

「惜しかったねぃキョーダイ」

「……カキツバタ」

 

 放心しているぼくの肩を、後ろからカキツバタが叩いた。

 

「悔しかったら、ツバっさんの胸で泣いてもいいんだぜぃ?」

「は?」

 

 彼が変なことを言うものだから、考えていたことが全部吹き飛んでいってしまった。

 

「別に、悔しくはないですよ。負けて困るような勝負でもありませんでしたし」

「そうかい」

「強いて言うなら、タロさんに無様な姿を晒したのは心残りですけど」

「んだなあ」

「どうして負けたのか、すぐにでも考えないと――」

 

「ヴェーラ」

 

 もう一度肩を叩かれて、我に返る。

 

「悔しくねえならよ、お前さんはどうして泣いてんだ?」

 

 泣いて、る?

 目元に手を当ててみると、指先が生温かい液体で濡れる。

 

「はは……何なんですかね、これ」

「……」

「もう、子どもじゃ……ないんだから、そんな、泣くようなことじゃ」

 

 言葉を口にするごとに、喉が詰まっていくのを感じる。

 

「……ごめん、なさい」

 

 細まった喉をこじ開けて出てきたのは、そんな言葉。

 

「なんだあ? いつものふてぶてしいキョーダイはどこ行ったよ」

「だって……カキツバタには、あ、あれだけバトル、付き合ってもらった、のに」

 

 文句こそ言えど、カキツバタはぼくとの練習をサボったことがなかった。

 それだけ面倒を見てもらいながらこの始末。

 申し訳なくて、情けなくて、思わず涙が溢れてくる。

 

 それに、何より――

 

「アカマツに、勝てなか、った」

「悔しいかい?」

「悔し、い」

 

 思えば、誰かに負けて悔しいと思ったのは何年ぶりだろうか。

 

 本気で努力し、全力で挑んだ。

 それが実を結ばなくて、悔しくないわけがない。

 

 そんな当たり前のこと、すっかり忘れてしまっていた。

 

「その気持ち、大事にしろよ」

「うん」

 

 ポケットから取り出したハンカチ――ムンナの刺繍が入っている――で涙をぬぐう。

 カキツバタに目を向けると、彼はいつになく優しい笑みを浮かべてぼくを見ていた。

 

「ま、さっきのアカマツは正直、神懸かって見えたからよ。ありゃ誰だって勝てねえよぃ」

「カキツバタにも、見えた?」

 

 ”きしかいせい”を放った瞬間、アカマツの目に見えた光。

 

 ――才能の、光。

 

「まぶしすぎて、目がつぶれちまうかと思ったぜぃ」

「そのまま失明すればよかったのに」

「ひでえこと言うじゃねえの!?」

 

 でも、よかった。

 あの光が見えたときの絶望は、ぼくだけのものじゃなかった。

 

「ありがとうカキツバタ。……これからも、よろしく」

「はいはい。バケーションが明けたら、ほどほどに頑張ろうぜぃ」

 

 明日からは夏休みがはじまる。

 頑張るのは一度置いておいて、少し”はねやすめ”するべきか。

 まだやることは残っているけれど、ちょっとだけ楽しみになってきた。

 

「――ほれ、あっち見てみろよ」

 

 カキツバタに言われて、バトルコートの向こう側へ視線を向ける。

 

 そこには、サバンナエリアの部員たちから揉みくちゃにされるアカマツの姿が。

 ぼくが見学しにいったときとは打って変わって、みんな楽しそうな表情を浮かべている。

 

 ……何人かがカキツバタに中指を立てているように見えるけれど、涙でにじんでいるせいでよくわからない。

 

「サバンナエリアのこと、キョーダイには感謝してるぜぃ?」

「あれはアカマツの功績ですけどね」

「ヒール役を務めたのはお前さんだろぃ」

 

 ぼくを倒すために、アカマツが決起した。

 言われてみれば、たしかにそのとおりかもしれない。

 意図していたわけではなかったけれど、結果的に問題が解決されつつあるようで安心した。

 

 ……まさかぼくとアカマツが対立するところまで読んでいたわけではないよな、カキツバタ?

 

「そいで夜には、お前さんの考えてくれた『仮面武闘会』が待ってる。ふたりは十分すぎるぐれえ頑張ってくれたよぃ」

 

 そう、ぼくの仕事はこれで終わりではない。

 図らずもアカマツが役割を果たしたように、ぼくもやるべきことをやらなければ。

 

「――ヴェーラ!!」

 

 突然、ぼくの名前がエントランスに響きわたる。

 見ると、そこには緊張した面持ちのアカマツが。

 

「いい、よな?」

「うん」

 

 ぼくが頷いて返すと、アカマツはタロさんのもとへ。

 

「あの、タロ先輩!!」

「何? アカマツくん」

 

 告白するときの空気って、あるものなんだな。

 事情を知っているぼくはともかく、それ以外の生徒たちも一斉に静まりかえる。

 

 ……嫌だな。

 タロさんがアカマツを選ぶわけない、なんて思ってきたけれど、それはぼくの勝手な想像であって。

 もし彼女が告白を受け入れてしまったら、ぼくは――

 

「――一目見たときから好きでした!! オレと付き合ってください!!」

 

 そう言って頭を下げ、右手を差し出すアカマツ。

 

「えっと……」

「……」

 

 タロさんに驚いた様子は見られない。

 アカマツに向きなおると、小さく笑みを浮かべる。

 

「まずは告白してくれてありがとうございます。好きだと言ってもらえて、すごく嬉しいです」

 

 でも――タロさんは続ける。

 

「――()()()()()()()()()()()ので、お付き合いはできません」

 

 ごめんなさい、とだけ残して、タロさんは去っていってしまった。

 

「……フラれたああああああああ!!」

 

 そう叫んで、清々しい顔で笑うアカマツ。

 

「うおおおおよく頑張ったなアカマツ!!」「ドンマイ、アカマツ。次があるさ」「アカマツ、おまえもドリュウズをすこれ」「やめろ馬鹿! 本当にドリュウズが好きになったらどうする!」

 

「うん……へへ、ありがとうみんな!」

 

 まあ、サバンナエリアの人たちと仲良くできているみたいで何よりだ。

 

「あーあ、やっぱフラれちまったか」

「わかっていたなら、止めてあげればよかったのに」

「んな無粋なこたぁしねえよぃ」

 

 そう言って小さく笑うと、カキツバタはぼくを見た。

 

「そんで、キョーダイはいつ告白するんですかい?」

「今のところは、未定で」

 

 まさかぼくが告白未遂を犯しているだなんて、カキツバタは思ってもみないだろうな。

 まあ、そのことは色々と落ち着いてから考えようと思う。

 

 

 

 というか、タロさんの気になっている人って、誰……!?

 

 

 

 

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