タロと学園ラブコメするだけ 作:私利私欲
『では、これより――『仮面武闘会』を開催します!』
放送部によるアナウンスが流れると、テラリウムドームの各エリアから歓声が聞こえてきた。
今回はテラリウムドーム全域を使用することとなっており、少なくとも200人は参加しているとはネリネさんの談。
願わくばサバンナエリアの部員たちも参加していてほしいが……そこは彼らの自由なので、強制することはできない。
――さて、ぼくはぼくで色々とやることがある。
ここはテラリウムドームの中心、センタースクエア。
参加者には各エリアからスタートするよう通達しているので、今ここに居るのはぼくだけだ。
モンスターボールを手にすると、ぼくはあるポケモンを繰り出した。
「頼んだよ、ゾロアーク」
「くあぁ……」
アカマツとのバトルで疲れているのか、大きなあくびをするゾロアーク。ちゃんと回復したはずなんだけどな……
少し可哀想だが、彼女に頑張ってもらわなければこのイベントは成り立たない。
「あとで好きな料理持ってきてあげるから、ね?」
「くあっ!」
どうやらお腹が空いているらしく、料理の話をした途端にやる気を出しはじめたゾロアーク。
「くぁああああ……!!」
ゾロアークが咆哮すると、広大なドーム中を霧のようなオーラが立ちこめはじめた。
彼女の能力により、これで誰が誰だかわからなくなっている、はず。
「さて、幻覚は上手く効いてるかな……ん?」
双眼鏡を覗いた先には、大量のぼく、ぼく、ぼく……
「なんでみんなぼくの姿になっているんだゾロアーク!?」
「くっくっく」
いたずらのつもりなのだろう。
ゾロアークは戸惑うぼくを見て満足げだ。
「うええ、ぼくがワラワラ動いてる」
どこを見ても自分が居るというのは正直、非常に気持ちが悪い。悪夢のような光景だ。
これは幻覚なので、悪夢というのもあながち間違ってはいないのだが。
「はあ……じゃあ、あとは頼んだよゾロアーク」
「くあぁ……」
また大きなあくびをしているが、本当に大丈夫だろうか。
いまいち信用はできないけれど、いつまでもここに居るわけにはいかない。
「――覚悟、決めないとな」
一度深呼吸すると、ぼくはポーラスクエアに向かって駆けだした。
***
「まさか、彼がこんな機会を与えてくれるとはね」
先月、サバンナエリアへ見学にきたヴェーラという1年生。
聞くところによると、このイベントを開催しようと言い出したのは彼だそうだ。
「チャンスはやるから、カキツバタを倒してみろ、ってとこか」
全員が同じ姿となる以上、本来は相手が誰か判別することはできない。
しかし四天王とチャンピオンに関しては最初から正体が明かされており、全員元の姿のままなのだとか。
また彼らについては専用のバトルコートでのみ戦うことができるらしい。
「……やるしかないよな」
努力はしてきたけれど、勇気が出なかった。
俺は半端者だから、どうせまた負けるからと、向き合うことからずっと逃げてきた。
けれど、それも今日でおしまいだ。
頼もしい後輩たちに背中を見せつけられては、いつまでも腐ったままでは居られない。
才能があるとかないとか、そんなことを言っている場合ではないのだ。
俺は、俺の矜持のために戦わなければならない。
「……やっぱり、ここは寒いな」
普段温暖なサバンナエリアに居るせいか、ポーラエリアの厳しい寒さが堪える。
震える体を抑えながら、ポーラスクエアにたどり着くと――
「――ぶ、ブリジュラス、戦闘不能! チャレンジャーの勝利!」
――名もなきチャレンジャーに敗北する、カキツバタの姿がそこにあった。
「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」
イベントがはじまってからせいぜい20分――いきなりのジャイアントキリングに、ポーラスクエアが大きく沸いた。
「嘘、だろ」
俺の知るかぎり、カキツバタは一度も負けたことがなかった。
いつものリーグ戦とは違って、今日は2対2のダブルバトルのみ。ポケモンの交代ができない以上、相性次第で負けることもあるだろう。
でも――これなら。
「……っ」
はやる気持ちを抑えながら、俺はバトルコートの方へ向かう。
みんな同じ姿だったとしても、チャレンジャーのことは一目見ておきたい……!
「——いんやぁ、まさかオイラが負けるとはねぃ。こりゃ一本取られちまった」
「ありがとうございます。自分にとっても実りあるバトルでした」
カキツバタは知ってのとおり、いつのもオラチフジャージ姿だ。
チャレンジャーの方は……正直何の特徴もない。
口調はただの敬語だし、性別を推測しようにも一人称が自分では難しい。
ただ、ガブリアスを使っていることはわかった。
「……なあ、あんた名前は? そんな強えガブリアス、この学園で見たことないぜぃ?」
「名乗るほどのものではないので」
ひとつだけわかることがあるとすれば、あのチャレンジャーがものすごくかっこいいということだけだ。
お、俺だって、名乗るほどのものではない……とか言ってみたい! 羨ましい!
「色々と気に食わねえけどよ、そういうことなら仕方ないねぃ、
「——では、失礼します」
ガブリアスに乗ると、チャレンジャーはどこかへ飛んでいってしまった。
「……す、すごかったな今のバトル!」「もしかしてチャンピオンってそんなに強くない……?」「フルバトルだったら無理だけど、相性勝ちなら……」
チャンピオンだって無敵ではない――観衆の間で、そんな空気が流れはじめた。
「……あの! 次は俺とバトルしてくれませんか!」
だから、俺も……ほんの少しだけ、勇気を出してみようと思う。
そう――俺はカキツバタを倒すために鍛錬を重ねた
***
今回のイベントでは、夜分に開催するというのもあって各スクエアにケータリングを用意している。
普段、食堂で働いてくださっている職員のみなさんにお願いして用意してもらったわけだが——
「よっ、ほっ! ……っし、完成!」
サバンナスクエアの外れで、フライパンを振るっているぼく(の幻覚)を見つけた。
「アカマツ、か?」
「おっ、その呼び方は……カキツバタかな!?」
ちなみに最近四天王になったばかりのアカマツとスグリについては、今回は一般生徒として参加することになっている。
「違う、ヴェーラ」
「まさかのご本人登場かー!」
まあまあこっち来てよ! と手招かれ、近くにあったテーブルに腰かける。
また激辛料理を食べさせられるんじゃないだろうな……
「ケータリングも美味しいけどさ、やっぱり激辛もみんな欲しくなると思ったんだ!」
やっぱ激辛料理じゃねえか!!
タロさんに振られて傷心中かと思いきや、いつもどおりのアカマツで安心した。
しかしこんなのに負けてしまったのかと考えると複雑だ。
「ぼくは食べないからね?」
「大丈夫、これみんなの分だから!」
それは余計に大丈夫でない気がする。
「どう!? すごいっしょ!? オレ特製の激辛麻婆豆腐!!」
目の前のステンレス容器へ、なみなみと注がれていく大量の麻婆豆腐。
あまりにも赤く、熱く煮えたぎるそれはまるで溶岩のようで、とても人間が食べていいものとは思えない。
……ステンレスが溶けたりしない、よな?
「……いっ!? め、目が染みるんだけど!?」
「いつもより多めにトウガラシ入ってるからね!」
こいつはバイオテロでも引き起こすつもりなのだろうか。
激辛馬鹿のアカマツに呆れていると、こちらに向かってくる人影がひとつ。
「……あ! 君、絶対アカマツだよね!」
まあ、フライパンを持ちこむ生徒なんかアカマツぐらいのものだろう。
「俺だよ俺! 竜殺しの!」
「おー、リュウ先輩!」
竜殺し……? リュウ先輩……?
誰だかわからないが、サバンナエリアでぼくを案内してくれた3年生の先輩、か?
「き、聞いてほしいんだけどさ……俺、さっきカキツバタに負けたんだ!!」
「おー! ……って、負けたのかー!?」
「でもブリジュラスは倒した!!」
「す、すげー!?」
ブリジュラスはカキツバタの切り札であり、相棒だ。
チャンピオンの相棒となれば、それは学園最強のポケモンと言っても差しつかえないわけで。
それを倒したというのだから大したものだろう。
少なくとも、運だけで倒せるような相手ではない。
「ちゃんとリベンジできたみたいでよかったです」
「……もしかして、君はヴェーラかい!?」
「はい」
「ありがとう! 本当にありがとう……!」
リュウさんはぼくの手を握ると、ぶんぶんと強く上下に振った。
ストレートに感謝されると、少しむず痒いものがある。
「俺は3年生だし、進路のこともあるからブルベリーグに戻る余裕はなかったんだけど……だから、君がこのイベントを開催してくれたことにすごく感謝してる! おかげで自信を取り戻すことができたよ!」
……ああもう、本当にむず痒い!
「――そういえば、俺の前にカキツバタを倒した生徒が居たんだけど……あれって誰なんだろうな……?」
ぼくから手を離すと、ふとそんなことを言いはじめたリュウさん。
「カキツバタ先輩が負けた……!?」
「ああ、俺が見たときはガブリアスしか居なかったけど、もう1体はアーマーガアを使っていたとか……ともかく、カキツバタに勝った生徒が居るんだ!」
「それって、本当に生徒なんですか」
ぼくが口をはさむと、ふたりは同時にこちらを見た。
「今回は教職員も参加できるようにしてありますし……それに、そんな強い生徒が居るならブルベリーグでも有名になっているはずでは?」
「たしかに……なら、バトル学の先生とか?」
「可能性は高いかと」
いくらカキツバタが強いからといって、彼に負けているようではバトル学教師が務まるわけもない。
「そうか……まあ、だとしてもその人には勇気をもらえたわけだし、感謝しないとな」
そう言うと、先輩はぼくたちに背中を向ける。
「もう行っちゃうのかー?」
「ああ、ブリジュラスを倒したって早くみんなにも話したくてね」
「なら、せっかくだしこれ持ってってよ!」
アカマツ、いくら親しいからといって、サバンナエリアのみんなにその殺人麻婆豆腐を食べさせようとするのはどうかと思う。
「おっ、今日も真っ赤で美味しそうじゃないか!」
「いつもよりトウガラシマシマシで作ってみたんだ!」
「いいね、みんな喜んでくれると思うよ」
それじゃあ、と言って麻婆豆腐の入った容器を持っていく
「アカマツ……停学になっても知らないからな」
「え、なんで?」
純粋と邪悪は表裏一体なのだと、ぼくはまたひとつ学んだ。
***
ゾロアークは激怒した。
「くああぁ……!!」
あとで料理を持ってくると言いながら、なかなかヴェーラが帰ってこない。
朝からバトルに駆り出され、こうして長時間幻覚を維持させられ、自分はこんなにも頑張っているというのにこの仕打ち。
「くるるる……」
こうなったら、痛い目を見せてやらねば腹の虫がおさまらない。
高台に上り、ヴェーラの姿を探す。
さて、どんないたずらをしてやろうか。
「くるっふっふっふ」
彼はニンゲンたちがみんな同じ姿になることを望んでいた。
ならばそれを元の姿に戻してやるのはどうだろう?
……いや、戻すのはヴェーラだけにした方が愉快かもしれない。
なに、元よりみんな彼の姿となっているのだ、そう大した差ではない。
強いて言うなら、そう、今日の彼は『ワタシを模したもの』を身につけていた。
自らワタシの所有物であることをアピールしていくとは、なんとも殊勝な心がけだ。
であれば、それをニンゲンたちにも知らしめてやらねば。
「くぁああああ……!!」
早く帰ってこないと、えらいことになるぞ……?
***
最近、わたしは立てつづけに告白されている。
今日はアカマツくん。
この前はヴェーラくん。
その前は――はて、誰だったか。
別に珍しいことではない。
男の子に好かれそうな格好や立ち振る舞いをしている自覚はあるし、仕方のないことだ。
お断りするのは心苦しいけれど、せっかく勇気を出してくれているのだから、告白するなとまでは言えない。
けれど――まさかこんなことになるとは思っていなかった。
「タロ! 俺が勝ったら俺と付き合ってほしい!」
「もし僕が勝ったら、僕と付き合ってください!」
「俺が――」
「僕も――」
「私と――」
……みんな、今なら自分が誰かわからないと思って告白してくるのはやめてくれないかな!?
しかも、ヴェーラくんの姿で、だ。
本人に言われるならまだしも、中身は別人だと思うとすごく嫌な気持ちになる。
まあ、今のところ一回も負けてないから実害はないですけど……
「はあ……さすがに参ってしまいますね」
「お疲れタロち~!」
コーストスクエアのはずれで休憩していると、お友だちのサトちゃんがミネラルウォーターを持ってきてくれた。
イベントがはじまってから2時間、ずっとバトルしていたので喉がカラカラだ。すごくありがたい。
「へへっ、今日はいつにも増してモテモテですな~」
「やめてください」
「ごみ~ん」
気が立っていたせいか、つい真剣な声で言ってしまった。反省だ。
「あ、そういやカレシくんがタロちのこと探してたよ」
「……ヴェーラくんのことなら、その呼び方はやめてください」
ヴェーラくんとの関係はふたりで決めるべきこと。
第三者から勝手に恋人扱いされるのは不愉快だ。
「というか、それは本当にヴェーラくんなんですか?」
仮にヴェーラという名前を名乗ったとしても、それが本人だという保証はどこにもない。
「うん。だって、ひとりだけ違うんだもん」
見たらわかるよん、とだけ言い残すと、サトちゃんはどこかへ行ってしまった。
「せめてどこに居るかだけでも教えてほしかったんですけど……」
バトルコートへ戻ると――たしかに、ヴェーラくんらしき人が居た。
わたしを見つけると、彼は一度会釈してから駆け寄ってくる。
「――すみません、次は自分とバトルしてもらっても構いませんか?」
「……ふふっ、いいですよ」
彼なりの気遣いか、そうでないのか。
他人のふりをしながら話しかけてくるヴェーラくんが面白くて、思わず笑ってしまった。
「? ありがとうございます。よろしくお願いします」
普段より丁寧な言葉遣いで、一人称まで変えて。
それでも彼だとわかったのは——この中でひとりだけ、わたしがプレゼントした
きっと本人は目立っていることに気づいていないのだろう。
面白いので、しばらくそのままにしておこうと思う。
「——それでは、戦闘開始!」
彼とのバトルがはじまった。
「お願い、エルフーン! ドリュウズ!」
「……」
ヴェーラくんが無言で繰り出したのは——アーマーガアと、ゲンガー。
(……そんなポケモン、今まで使ったことなかったような?)
アカマツくんとのリーグ戦で使っていたのはあくタイプを基本としたパーティであり、この2匹は使っていなかった。
ここ最近、彼がすごく頑張っていたことは知っているけれど、これだけの数のポケモンを、しかもこんな高レベルまで育てられるとは思えない。
「ゲンガー、"ヘドロばくだん"」
「っ、避けてくださいエルフーン!」
謎は多いが、今は集中しなければ。
これがリーグ戦でなかったとしても、かわいい後輩に負けるわけにはいかないのだから。
***
ぼくがこの仮面武闘会においてこなすべき仕事はふたつある。
まずはゾロアークに幻覚を使ってもらうこと。
これは説明するまでもなく、仮面としての役割を果たすためだ。
そしてもうひとつは——
そもそもこのイベントは、サバンナエリアの部員たちに自信をつけてもらうために開いたものだ。
誰かが先陣を切り、自分でもリベンジできるかもしれないという可能性を示す必要があった。
勝てる勝てないは置いておくとしても、まず挑んでもらわなければ話にならない。
おかげで封印していた
カキツバタあたりは正体に気づいていそうな節があったけれど、なんとでも言い逃れることはできる。
これがフルバトルだったら勝てていなかっただろうし、回転数を上げるためと言って2体選出にしたのは正解だった。
交代できなくしてしまえば相性で勝つこともできるため、なるべく多くのチャンスを与えるためには必要なルールだったと言える。
しかしここに来てちょっとした問題が発生した。
「ご、ごめんゾロアーク! 料理を持ってくるって行ったのにすっかり忘れていたよ」
「くあっ!!」
——ゾロアークがお腹を空かせすぎた結果、幻覚に綻びが生じはじめたのだ。
具体的には、本人のパーツが見えてしまったり、全員タロさんになってしまったりと色々あったわけだが……
急いで料理を食べさせたところ、なんとか復帰することはできた。
「……ぼくの正体、タロさんにはバレてない、よな?」
このことが発覚したのはタロさんに勝利した直後のこと。
何も言われなかったし、問題はないと思うけれど……不安だ。
「せっかくならみんなを普段のぼくじゃなくて、今日のぼくに変身させてくれたらよかったのに」
「くあっ!」
ゾロアークはヘソを曲げてしまったらしく、言うことを聞いてくれる様子はない。
「こんなことならいつもの靴下にしてくればよかった」
特別な日だから、とゾロアの靴下を履いてきたはよかったものの、本人バレのリスクを考えると普段どおりの格好をしてくるべきだった。
もっとも、ゾロアークがみんなぼくの姿にしてしまうとは思っていなかったし、さすがにそこまでは予測できないわけだが。
「……それじゃあ、もうひと頑張りするか」
大きく伸びをすると、ぼくはキャニオンエリアに向かって歩きはじめた。
***
キャニオンエリアにたどり着くと、ちょうどネリネさんとのバトルが行われているところだった。
「ガオガエン! "DDラリアット"!」
「くっ……ランクルス、"まもる"」
チャレンジャーはかなりのやり手らしく、白熱した戦いを見せている。
というかあのガオガエンとズルズキン……もしかして、スグリのポケモン?
戦況は2対1でスグリ(?)の方が優勢らしく、ネリネさんは珍しく顔を歪めている。
「ずうぅ……るぁあっ!!」
「らぁっ!?」
ランクルスはガオガエンの攻撃を受け止めることに成功するも、その隙に死角からズルズキンの攻撃が炸裂し、耐えきれずに倒れてしまった。
「——ランクルス、戦闘不能! チャレンジャーの勝利!」
「……っしゃあ!!」
チャレンジャーが雄叫びを上げると、キャニオンスクエアに大歓声が鳴り響いた。
「……驚嘆。まさかこんなにも早く負けるとは思っていなかった」
「へへ……でも、フルバトルじゃねえし、まだネリネには敵わねえと思う」
「それはわからない。この1ヶ月でスグリは驚異的な成長を遂げた……そのことはネリネが一番実感しています」
「にへへ、そう言ってくれっと嬉しいべ」
やはりチャレンジャーはスグリだったか。
彼はネリネに直接バトルを教えてもらっているそうなので、今回は師弟対決だったというわけだ。
スグリも今や四天王だからな。いつ下剋上を起こしてもおかしくはない。
「……なら、ぼくの仕事はもう終わりか」
誰かがネリネさんを倒せばよかったのであって、必ずしもそれがぼくである必要はない。
これでチャンピオンと四天王は全員一度ずつ負けることとなった。
アカマツとスグリは一般参加のため、今回はよしとしよう。
新四天王のお披露目は夏休みが明けてから、だ。
「あ、ヴェーラ!」
センタースクエアにでも戻ろうかと考えていると、スグリらしきぼくに声をかけられた。
「なあなあ、見ててくれた!? 今の試合!」
「ああ、まさか本当に勝つとは思わなかったよアカマツ」
「だろ!? ……ってアカマツじゃねえべ! ス・グ・リ!」
念願のネリネに勝つことができたからか、いつになくテンションが高いスグリ。
「ちょっと、はしゃぎすぎじゃないスグ?」
……このぼくはゼイユさん、か?
「だってわや嬉しいんだもん!」
「ま、あんたがこの1ヶ月頑張ってたのは知ってるし……よくやったわね、スグ」
「にへへ、ありがとねーちゃん!」
ゼイユさんが素直に褒めるなんて、珍しい。
感動的な姉弟のやりとりだが、両方ぼくの見た目をしているため素直に感動できない。
「って、あんたヴェーラじゃない。久しぶり」
「お久しぶりです……って、どうしてぼくのことが?」
「スグリが普通に話せるの、あんたかあたしかネリネぐらいだし」
事実かもしれないけれど、それを本人の前で言うのはやめてあげてほしい。
当のスグリはあまり気にしていないようだし、口には出さないけれど。
「ヴェーラはこれからどうすんだ?」
「お腹空いたし、ここでご飯でも食べようかな、と」
「なら、おれも!」
スグリと食事か。
最近は別々に行動することも多かったし、なんだか久しぶりだな。
「ねーちゃんはどうする?」
「じゃ、あたしもスグリ様のご相伴に預かりましょうかしら」
「そ、それ、なんか怖いからやめてほしいべ」
というわけで、ぼくたち3人はキャニオンスクエアの飲食スペースへ移動することに。
しばらく近況について話しながら食事していると、突然ゼイユさんが、あ、と切り出した。
「そういえばスグ、あんたヴェーラに
「……あ!?」
あの話?
「そ、その、わや遅くなっちまって申し訳ねえんだけど……ヴェーラ、『林間学校』って興味ある?」
いわく、夏休みの間にキタカミの里——スグリたちの故郷で宿泊するイベントがあるらしい。
そこは自然豊かな地域であり、林間学校の間はオモテ祭りという行事が開催されているのだとか。
「正直、興味はすごくある」
「本当!?」
なんせスグリの故郷だ。
そんなの、行ってみたいに決まっている。
何より、遊びにいくだけで単位をもらえるというのがいい。
前期の単位、何個か落としたからな……少しバトルにかまけすぎたようだ。
「でも、今から申しこんで間に合うの?」
林間学校が始まるのは今から1週間後だとか。
元より帰省するつもりはなかったし、ぼくのスケジュールはなんとでもなる。
しかし学園側が対応してくれるかはわからない。
「元々4人は行けるようになってるから、あんたの予定が合うなら大丈夫よ」
ま、あんた以外誰も誘ってないんだけど、とはゼイユさんの談。
どうやらメンバーについては地元民のふたりに裁量があるらしい。
「ならあと1人は?」
「うーん、どうするべな……?」
「正直、あたしは誰にも来てほしくないんだけど?」
随分な言いようだ。
「あたしよそ者って嫌いなの。ヴェーラは恩があるからいいけど……」
「ならネリネさんは?」
「あの子は生徒会があるからダメ。毎年誘ってるけど、いつも無理なのよ」
ネリネさんならふたりと仲がいいし、ちょうどいいと思ったのだが。
ならアカマツであればどうだろうか――と口を開こうとしたところで、スグリが先に切り出した。
「なら、タロはどうだべ?」
「タロぉ? まあ、嫌いじゃないけど……なんで?」
「えっと、それは……」
答えられないからってぼくを見るのはやめてくれないかスグリ。
ぼくを気遣って言ってくれたのはわかる。
けれど、タロさんが好きなどと彼に言ったことがあっただろうか。
傍目から見てわかるくらいの態度をとっていたのだとしたら、それはすごく恥ずかしいぞ……?
「何、もしかしてヴェーラがタロのこと気になってるとか?」
「……」
「……」
「……えっ、マジなわけ!?」
ちょっと詳しく聞かせなさいよ! と言ってぼくの背中をバシバシ叩くゼイユさん。痛いです。
「詳しくも何も、ぼくが一方的に気になっているだけ、なので」
「きゃー! もう、そういうことは先に言いなさいよ!」
どうやらゼイユさんはぼくの恋愛話に興味津々のようだ。
「ならタロもつれていくわよ! 嫌がっても強引につれてきなさい!」
——こうして、ぼくたち4人は林間学校へ行くこととなった。