ファンタジー系の異世界に転生することの利点とはなんだろう、と。
そう考えた時、やはり一番にあげられるのはファンタジー要素そのものだろう。
魔術やスキルといった、前世には存在しなかった特別な力や。
エルフやドラゴンといった、人とは違う種族の存在。
かつて創作の中にしか存在しなかったそれらが目の前に存在することが、一番の魅力だろう。
というか、ゲームや漫画といったオタクコンテンツのない世界だ。
それくらいの利点がないとやっていけない。
後、転生チート。
俺の場合、チートと呼べるほどやばいチートはなかったけれど。
生家に恵まれ、魔術や剣術のようなファンタジー要素を直に学べるのは良かったと思う。
それ等を学ぶ以外に娯楽らしい娯楽がなかったのもあって、俺は随分と強くなることに傾倒した。
だが、それ以上に――
俺は世界に魅了されていたのだ。
ファンタジー世界、素晴らしいものだった。
何と言っても景色がいい。
前世では禄に旅行なんて行かなかったけど。
それでも、時折出かけた先の絶景は、確かに美しいと思った。
そんな絶景が、世界のあちこちに広がっている。
高い崖に囲まれた竜の里を。
巨大な亀の魔物の上に築かれた都市を。
山肌に建築された宗教都市を。
そんな美しい世界を目にする度に、この世界へ転生して良かったと思うのだ。
特に、絶景を飛行魔法で飛び回って探訪するのは最高だ。
ゲームで絶景から飛び降りたりすることはよくあるけれど、それを実際にできるのは異世界転生ならではだと思う。
だから、敢えて言おう。
俺は普通に異世界を観光したいだけなのだ。
自分から厄介事に首を突っ込んでいるわけでもなければ、突っ込みたいわけでもない。
むしろ、厄介事なんて無ければいいと本気で思っている。
ただ、だというのに。
どういうわけか俺が訪れた先では、俺を待ち受けるかのように事件が起きるのだ。
*
その日、俺はこの街の景色を一望できるレストランのテラスで朝食を取っていた。
諸々のアレヤコレヤが全部片付き、ようやく腰を落ち着けて取れるようになった朝食である。
夜光の大樹林と呼ばれる森の中に作られたこの都市は、朝、昼、夜、一晩中夜の中にいるような状態だ。
森の木々に太陽が遮られ、代わりに無数の光源となるマナクリスタルが木々に張り付いている。
まさしく夜光と呼ぶに相応しい壮大な光景を楽しみにながら、異世界料理に舌鼓をうつ。
幸いにも、この世界の料理はどれも美味しいものが多い。
今俺が食べている夜光のスパゲティも、夜光の森で取れた素材を使ったスパゲティだ。
夜光の森のマナクリスタルは色の種類が様々で、自然と景色も色とりどりの光に彩られるのだが。
それを素材で再現したスパゲティだ。
それでいて、味はチーズ系でまとめられていて大変美味。
これを食べるために、この”夜光の街”までやってきたのだ。
そんな時である、俺は自分に対して”通信”の魔術が使われたのを感じた。
この世界では、魔術で遠くにいても比較的簡単に通信ができる。
一般人は専用の道具を必要とするが、俺みたいに魔術をかじっていれば直接通信を受け取ることも可能だ。
念話みたいだな。
通信相手は……妹か。
『――アルマお兄様、またやったのですか!?』
そして、開口一番これである。
いやまぁ、予想はできていたけどね。
それにしても耳が早い。
通信魔術ってのは便利なものだなぁ。
「おはようリンリィ。またとは失礼だな、俺だってやりたくてやったわけじゃないんだぞ」
『またそう言って、お兄様は自分のトラブル体質を自覚してください!』
「しょうが無いだろ、俺は遍歴の身で、事件は俺がいてもいなくても起きてるんだから」
イヤほんと、何か街についたら起きてるんだよ。
大抵の場合俺が来たことで、事件を起こしてる黒幕は大慌てするし。
慌てるくらいなら、事件なんて起こさないでくれって話だ。
『それで、今回は何をやらかしたのですか?』
「やらかした、とは失礼だな。夜光の大樹林の木を伐採して密輸しようとしている悪徳商人がいたんだよ」
『夜光の大森林の木をですか!? 大森林の奥にはハイエルフの里だってあるのに、大胆過ぎません?』
「な? 俺もそう思うんだが、誰もやったことがないからこそ、やってみようってやつは現れるんだろう」
そして、伐採の現場に丁度俺が出くわし。
俺の立場もあって、伐採しようとしてた連中は即座に俺を攻撃。
そっからはまぁ、色々大変だった。
「まず密輸しようとしてる連中を倒したら、俺が密輸業者だと誤解した街の警備隊長と戦闘になるだろ?」
『あそこの警備隊長って、元Sランク冒険者でしたよね?』
「おかげで森を破壊しそうになって、慌てて釈明したよ」
『……森を破壊しなければ、そのまま戦闘に突入していました?』
「…………その後は、何とか誤解を解けて向こうの謝罪を受けて、後は流れでって感じかな」
『お兄様!?』
ハハハ、と適当に笑って妹の問いを流しつつ話をまとめる。
そこからはまぁ、いつも通りというかいつも通りになってしまったというか。
妹――リンリィの言う通り、俺はトラブル体質だ。
何もしていないのに事件が俺を待ち構えている。
どうしてそんな体質になってしまったんだろうな?
『それは……お兄様の血筋の問題では?』
「だったら、リンリィや兄上殿もトラブル体質じゃないとおかしいだろう」
『お兄様は特別なのです。私もご当主様も、お兄様みたいに冒険者気質ではありませんから』
ご当主様っていうのは、俺達三兄弟の長兄のことだ。
少し前に親父殿から当主の座を受け継いで、今はリンリィもご当主様と呼んでいる。
兄上殿が、リンリィが反抗期だと嘆いていたな。
『ある意味で、先祖返りです。我々のご先祖様は昔、冒険者のように各地を旅していたわけですから』
「そして、そのご先祖様もトラブル体質だったと?」
『適当を言っているので、後で調べてみますね』
「適当なのか……」
リンリィも、しっかりしているようできっちり俺の妹だと感じる時はあるな。
俺には前世の記憶があって、血筋以外にも適当になる理由があるのに。
ともあれ。
『それでお兄様、これからどうするのですか?』
「夜光の大樹林を観光したら、次はハイエルフの里に向かおうと思っていてな」
『……そちらでも事件が起きているのでは?』
「まさか。それに、街の警備隊長に招待されてるんだ。あの人はハイエルフだからな。せっかくなので彼女に案内してもらおうかと」
『お兄様はまたそうやって、女性とのロマンスを楽しんで!』
「楽しんではいないかな……普通に話して終わりが多いし……」
異世界に転生して、色々とエンジョイしているわけだが。
いわゆるハーレム展開は、残念ながら存在しなかった。
いや、現実でハーレムは面倒なだけと、王族のお偉方を見て学んだので、やりたいわけではない。
ただリンリィは、おませな年頃の少女だ。
俺が女性と話をしているだけで、ロマンスだ何だと言ってくる。
『絶対ぜーったい、ロマンスしてますよ! 賭けてもいいです!』
「じゃあ俺は、ロマンスしてない方に賭ける」
『勝ったらお土産増やしてくださいね』
それが目的だったか、と苦笑する。
リンリィは食いしん坊なので、世界各地の料理に目がないのだ。
「にしても、本当になんだってここまでトラブルが続くかねぇ」
『血筋のせい、お兄様の悪運のせい、色々と理由はあると思いますが……それらを総合して、結局のところ言えることは一つだと思いますよ』
呆れたようにリンリィが告げる。
それは、これまでに何度も俺達の間でされてきた会話だ。
結論も、また同じ。
できれば俺が違っているといいなぁ、と思うのも。
『お兄様が、勇者様だからですよ』
――勇者。
それは、かつて世界を旅し人類を救った存在だ。
世界各地でトラブルに巻き込まれ、それを解決していくうちに勇者と呼ばれるようになり。
最終的には、人類と魔族の共存の架け橋になったという。
そんな勇者の末裔が、俺やリンリィだ。
ただ、勇者と言ってもすでにその役割は終えて久しい。
あくまで、血を引いているだけの貴族、というのが実情だ。
だからこそ、リンリィ達にはご先祖のようなトラブル体質は存在しない。
何故か、世界を旅したいと思い、実際に度に出た俺にだけそのトラブル体質が発生するのだ。
果たしてそれは、俺が転生者ゆえの宿命なのか。
それとも、世界が俺に勇者になれと導いているのか。
ただなぁ、ご先祖が勇者をしていた頃と違って今は、事件こそ起きているけど世界は平和だ。
正直、勇者が必要になることなんて、ないと思うのだけど。
ああ、本当に。
俺はただ、普通に異世界を観光したいだけなのに。
どうしてこう、勇者みたいに周囲から思われなければならないのか。
異世界に対して不満はないけれど、面倒だなぁと思いうときはあるのだった。
まぁ、旅を止めるつもりはないけどね。
転生者がトラブルに巻き込まれながらそれを解決するよくあるやつです。