青物語 作:蛙帰る
001
阿良々木暦とキヴォトスの麗しい女性陣の、如何わしい物語を期待していた読者諸君、お前らは一人残らず騙された。この件からお前達が得るべき教訓は、本で書かれている文章以上に、ネットに名も知らぬ誰かに勝手に書かれている文章はペテン以下の胡乱さの塊と言うことだ。
この俺、詐欺師の貝木泥舟が、何故か女子高生と獣人と機械しかいない胡乱な街、キヴォトスとやらに迷いこんだこの展開のように、ネットに書かれた事など、善良な一般市民ですら、善良なままに右から左へ流してしまうような、嘘以下の胡乱で虚ろな世迷い言の山である。
嘘と胡乱は、似ているようで違うものだ。
嘘は真実の振り位はするが、胡乱はその振りすら放棄、唾棄する。
作品が作品の枠を超えて、誰も誰かも知らない奴によって著作権などのあらゆる商業的、即ち金になる権利を無視して双方を勝手にクロスオーバーさせられて、勝手に我が物顔でその違法の塊をネットに公開する、この現状のように。後悔とかしないのだろうか。
無論そんなものが、許される筈が無い。いや、個人的には法を犯してまで金にならない虚無を産み出している事に、ガラパゴス的な、即ち珍生物を観る的な本能的な興味が湧かないと言ったら嘘になる、かもしれない。
しかし現実に───こうして俺の一人語りが読まれている事に、俺は警鐘を鳴らさざるを得ない。それは即ち、この嘘以下の胡乱、虚ろ、虚無を信じたい人間が居るという事だ。
最早、人を騙す事に嘘すらつく必要が無くなるなど、詐欺師にとって生きやすい世の中になった物である。
人は見たくも無い面倒臭い真実より、プロに造られた無駄に精巧で高尚な嘘より、ただ甘いだけの粗製の胡乱を信じたいのだ。
この理屈や設定の補完が甘い胡乱な世界、キヴォトスのように。
002
その日、俺は、エレベーターに乗っていた。
前後の記憶が曖昧である上に、語り部が詐欺師なので何が真実かなどあって無いようなものだが、最低限、情景を思い浮かべられるようこう語り出しておく。尤もこれも嘘かもしれないが。
七神リンと名乗る女の話を右から左に流しながら、俺は自身の置かれた状況を考える。
キヴォトス、そう呼ばれている学園都市に俺はいるらしい。
……どうやら俺は、本当に情け無い事に、現実に騙されていたらしい。
一日前まで続いていた世界観が、物理法則が、宇宙が、無意識にある程度は脈絡を持って一日後も続いていると、心の何処か、ほんの少しだけ信じてしまっていたらしい。
愚かで、疎かな話であろう。騙されてしまった以上、詐欺師の看板は下ろさなくてはならない。この世界は、俺に『先生』という看板を背負わそうとしてくる為、ある意味、ここまで含めて俺に対する詐欺なのかもしれない。
しかし、それでも、俺は詐欺師である。
そもそも『詐欺師』と書かれた看板を掲げて、詐欺をする詐欺師が存在する訳ないだろう。よって、このような精神的なやり取りは全て無意味であり、残念ながら俺は『先生』へと更生する事なくあいもかわらず詐欺師なのである。
しかし、貰えるものは、貰って置こう。学園都市において、『先生』という看板は金になる。
俺は適当に話を合わせて、その看板を受け取ってみた。
『独立連邦捜査部S.C.H.A.L.E 顧問』
大層な名前だが……書類に目を通した所、権威だけある空っぽの組織というのが所感である。こう言った組織には、俺は些かばかりの親しみを覚える。空っぽのビル、実体の無い組織、形だけの組織、これらは皆、詐欺の友達である、つまり詐欺師の友達である。
無論、こうした都合の良い展開、流れには、俺自身が騙されている可能性が大きく存在する。簡単に言えば、詐欺師になる為のセミナーを開き、まんまとやって来た詐欺師志望の若者を騙くらかす事と同じである。
用意されていた物には、誰かの意図があり、都合がある。タダと言う言葉にただ喜んでいると多大な被害を受けてしまうのだ。
しかし、これまでの議論・懸念は全て無意味である。何故なら、既に大きく騙されている俺に拒否権など存在しないからだ。
結局、俺は嘘であれ誠であれ、『先生』として振る舞う他無いのだ。
003
エレベーターが上りきり、ドアが開いた先のフロアはなんだか騒がしかった。
隣に立っていた七神を見つけるや否や、彼女に詰め寄っている。
話の内容は、責任を取れだの、説明しろだの、俺が詐欺にかけて不幸に追いやった善良な一般市民と似たような事を喚いている。尤も、不幸に追いやった連中に詰め寄られるような事があった時点で詐欺としては失敗なので、これも嘘になるのだが。
そうしていると、何故か、本当に脈絡も無く話がこちらに向いた。いや、七神がこちらに向けてきた。
「───この先生こそが、そのフィクサーになってくれるはずです」
何を言っているんだ、この女は。
「ちょっと待って、そう言えばこの先生はいったいどなた?どうしてここにいるの?」
「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」
「いいえ、違います。俺は、カラオケ屋で働いている鈴木という物です。鈴の音の鈴に、林の半分の木と書いて、鈴木です。ここまで連れてこられて何ですが、人違いじゃないでしょうか?」
なにやら、ここで了承するととても面倒な事に長く巻き込まれると予感した為、咄嗟にそうとぼける。
「そうでしたか。ではカラオケ屋の鈴木さん。貴方は連邦生徒会長から特別に指名されており、キヴォトス全土の行政制御権を委任された状態にあります。ですので……」
七神は、不気味な程あっさり、俺の程度の低い嘘に騙された。いや、この場合は俺が詐欺師の貝木泥舟なのか、カラオケ屋の鈴木なのかという事の重要性がキヴォトスとやらの全権を持っているという事実に比べたら途方も無く小さいからであろう。相手がどこの誰であろうか、という事は関係なく、権利・権限を持っているという事実のみが重要なのだ。
「いえ、ちょっと待ってください!代行!どうして訳の分からない大人に、キヴォトスの全権が渡るなどという事態になっているのですか!」
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」
「誰がうるさいって!?あっ、私は早瀬ユウカ!漢字は、早起きの早いに浅瀬の瀬。覚えておいて下さい、先生……じゃないんでしたっけ」
七神の言う通り、残念ながら煩いのは間違いないだろう。
「いいえ、この方にはどの様な形であれ、先生になって頂きます。不手際であれ、何であれ、権限がこの方にある事は間違い無いのです。無論、金銭・生活の保証は致しましょう。これは、法的な処置として受け入れて頂きます。尤も、その法の権限すら、鈴木先生が持っているので、これも超法規的な処置であると言わざるを得ませんが」
「わかった、降参だ、抵抗を放棄する。法では砲には勝てん」
拳銃、ライフル、マシンガン、ざっと見ただけでも銃刀法に守られている日の本の善良な一般市民では一生拝む事が叶わない様な火器をこのフロアにいる俺以外の全ての人間が、いつでも打てる状態で携帯している。
銃の装飾、持ち方などから鑑みても使い慣れており、引き金も軽いように見える。
加えて、皆一様に奇病に罹っているときた。
後頭部に、おおよそ輪っかのような物が絶えず方を変えながら取り憑いているのだ。中には頭や腰から羽の生えた奴までいる。
もう訳がわからん。
そうして俺はそんな奇病を患った集団と共にヘリコプターに詰め込まれ、戦地になっているらしい認証装置がある地点まで送り込まれるのだった。
ひょっとしたら、俺は覚えのある方の世界で死んでしまって、高度な地獄に送り込まれたのかもしれない。
そう、胡乱な仮説・信じやすい甘い話が頭を掠めてしまう程、俺はキヴォトスという名の劇場型詐欺に鴨にされている。