ぼっちちゃんが妖怪になってから、ケータくんと出逢うまでのお話。
───私、後藤ひとりはダメ人間だ。バカだし。運動オンチだし。人の目を見れないし。会話の頭に必ず「あっ」て付けちゃうし。
…でも、そんな私にも、つい最近になってとうとう、人生の転機が訪れた。
虹夏ちゃんに結束バンドに誘われてから、バイトを始めて人の目を少しだけ見れるようになって、バンドのオリジナルソングの作詞をすることになって、ライブも何回かやって…。色々なことがあった。
…それで、文化祭でもライブをやって、少しはこのバンドのリードギターとして、そして一人の人間として成長できたかなって思って、よしこれからだ!…って、そう思ってたのに。
「お父さん!ひとりちゃんがどこにもいないわ!部屋の中にも!」
「なんだって!?…どうして。何があったんだ、ひとり!」
「ねえねえ、お母さんお父さん。お姉ちゃん、どこにいるの…?」
…一体どうして、こんなことになっちゃったんだろう。
それは、文化祭が終わって、結束バンドのみんなで御茶ノ水に行って、楽器屋さんで楽器を買ったその翌日のこと。
私はいつものように目が覚めると、何故か周りの人たちに、自分の存在が認識されなくなっていたことに気がついた。
そのことに気づいたのは、お母さんが私を起こしに来た時だった。
「ひとりちゃーん?今日はお休みだけど、昨日新しくギター買ったんでしょー?早くにでも手に馴染むように、起きて弾いてみた方が良いんじゃなーい?
…ひとり?どこにいるの?」
お母さんは私から掛け布団を引っ剥がすと、そのままいつものように布団を畳もうと───はしなかった。そしてお母さんは、すぐに何やら焦った様子で、辺りを見回し始めた。
「…いない、いない…!?部屋のどこにも、ひとりちゃんがいないわ!?押入れの中にもいないなんて…!?」
私は堂々と布団に寝っ転がったままのに、お母さんは私が潜っている布団を引っ剥がすなり、血相を変えて焦りながら部屋のあちこちを見回す始末。
(お母さんに私のことが見えていない…?一体どうしちゃったんだろ、私の身体…)
私のお母さんはちょっと変な人ではあるけど、決して趣味の悪い冗談を言うような人ではない。
そのことは私もよく知っていたが、それでもその時は、いつも身体が胞子になったり溶けたりするみたいに、また私の身体の中で何か変なことが起きて、そのせいでみんなから見えなくなったんだろう。ならば、放っておけばまたそのうち元に戻るだろうと、楽観的に考えていた。
(…ま、いつもみたいに、そのうち元に戻るよね)
───しかし。それから一日、二日と時間が経っても、私がみんなから見えるようになることはとうとうなかった。
私がみんなから見えなくなって一日が経った頃。
その日は月曜日だった。
「ひとりちゃん、一体どこに行っちゃったのかしら…」
「あの子は学校をサボるような不真面目な子じゃないし、家出なんてできない。…これは絶対におかしいよ。今すぐにでも、警察に連絡しよう」
「…そうね。そうしましょう」
私に家出するような度胸も非行に走るような常識のなさもないことを知っている私の両親は、一日経っても私の姿が見えないことにとうとう焦りを見せて、警察に捜索願を出そうとした。
『お父さんお母さん!私はここにいるよ!警察の人達に言わなくたって大丈夫だから!…ねえ、ねえってば!』
その様子を見ていた私は、必死に二人を止めようとしたが、虚しいくらいに何もできず、ただその光景を指を咥えながら見ているしかなかった。
(声すら聞こえないだなんて、そんな…!)
たまらなくなった私は、STARRYのみんなならば私の姿が見えるかもしれないと思い、夕方になると駅で電車に乗り、下北沢駅へと向かった。
(結束バンドやSTARRYのみんななら、もしかして…!
…もう、そう思うしかない!)
駅員さんに姿を見られることもなければ、何故か物をすり抜けられる身体になっていたたので、もちろん運賃の払いようもなかった。
(こ、これって無賃乗車になっちゃうよね。見られることはないとは言え、かなり申し訳ないな…。…ええい、今は迷っている場合じゃないっ!駅員さん、運転手さん、ごめんなさいっ!)
私は罪悪感に駆られながらも、下北沢方面の電車へと駆け込んだ。…一応、窓口の方に運賃分の現金を置いておいたが、気づいてもらえたかどうかは分からなかった。
───そうして、しばらく電車に揺られていると、下北沢へと辿り着いた。
下北沢に着くと、私はもはや歩き慣れた道を、大急ぎで走って───いや、飛んでいた。
どういう訳か、この身体は周りの人に見られなくなって物をすり抜けられるだけじゃなくて、空を飛ぶこともできるらしい。しかも、結構なスピードで。
…しかも、何やら身体の芯から、
(空を飛ぶのって、こんな感覚だったんだ…。
…あれ?今の私って、空も飛べるし、フシギな力も持ってるし、実はめちゃくちゃかっこいい存在だったりする?…って、ダメだダメだ!)
…この状況を暢気に楽しんでいる自分が心のどこかにいるということがとても憎らしかったが、そんな感情も振り切って、私は全速力で、STARRYへと向かった。
そうしてSTARRYに着いて扉を開くと、結束バンドのみんなが何やら不思議そうにしていて、店長さんとPAさんは心配げにソワソワとしていた。…カウンターの方で店長さんにうざ絡みしていたお姉さんが何やら私の方を見ていた気がするが、何も声を掛けてくれなかったので、きっとただの気のせいだったのだろう。
「…ぼっちちゃん、今日は遅いね。どうしちゃったんだろ」
虹夏ちゃんはそう言うと、落ち着かない様子で私のいる扉の方をちらちらと見た。
「ひとりちゃんは今日、学校にも来ていませんでした。学校にもバイトにも来てないのに、何も連絡がないなんて…。なんだかちょっと、おかしいです」
喜多ちゃんも、虹夏ちゃんに同意するように、どこか不安そうにしつつそう言った。
「…ぼっちにも、たまにはそういう日くらいあるでしょ。明日また来たら、何も言わずにいつも通り接してやればいい」
リョウ先輩はいつになく真面目な顔をして、そう言った。リョウ先輩。なんだかんだで私のこともちゃんと思いやってくれてるんだな。…この前貸した二千円、未だに返してもらってないけど。
…すると、カウンター側の方から、店長さんたちの会話が聞こえてきた。
「ねえねえせんぱぁ〜い、シャワー貸して〜。ついでにお酒奢って〜…むぐっ。ちょ、先輩、力強…」
「うるっせーんだよ廣井この野郎。今はてめえなんかに構ってる場合じゃねんだ。
…ぼっちちゃん、本当にどうしちゃったんだろ。…まさか、ここでバイトするのが嫌になっちゃった、とか…!?」
「それはないとは思いますけど…。喜多さんによると、今日の後藤さんは学校にすらきてなかったみたいです」
「学校にも?…そりゃちょっと心配だな。明日来たら悩みとか聞いてあげないと。…いや待て、そもそもぼっちちゃんは明日、ここに来てくれるのか…!?」
店長さんたちが何を言っているのかは聞き取ることができなかったが、それでも、みんなが私のことを心配してくれているのは確かだ。
…でも、それでも。この場にいる誰一人として、一向に私の存在に気づいてくれないままだという状況は、少しずつじっくりと、私の心の中を確実に蝕んていった。
…そして、結束バンドのみんなが合わせの練習を終えた頃、私は結束バンドのみんなの元に向かって、喉から全力で声を張り上げた。
『…あの、みなさんっ!私は…後藤ひとりは、ここにいますっ!!』
私が、今までの人生で出したことがないような大声を出しても───三人が私の存在に気づいてくれる瞬間は、ついぞ訪れなかった。
(…っ!!)
家族も、STARRYのみんなも、私の存在に全く気づいてくれなかった。その事実にとうとう堪え切れなくなった私は、帰る場所もないのに、がむしゃらに辺りを飛び回った。
家に帰ろうとすらしなかったし───思えなかった。
…そうして、夢中で飛び回っている内に、私の中にある力は、どんどん消耗し始めた。周りの景色は、いつの間にか、今までに見たことがないような景色になっていた。
とうとう疲れに負けた私は、見知らぬ街の道路のど真ん中で眠りに就いた。その眠りは随分と深かったようで、目覚めた頃には既に、一日か二日ほどの時間が過ぎていたようだった。
───雨が降りしきる中。
私は目覚めると、すぐさま自分の置かれていた状況を思い出して、頭の中がごちゃごちゃになった。
自分でも何を言っているのか全く理解できないようなことをぶつぶつと呟きながら、私の心と頭は、激しい不安と絶望感に駆られてしまった。
そんなとき、傘を差した小学生ほどの年頃の男の子が、何やらおそるおそるといった様子でこちらへと近づいてくると。
───安心させるような笑顔を私の方に向けながら、優しい声で、こう言った。
「───あの!オレ、天野景太って言います!何か困ってることがあるなら言ってみてください!力になれるかもしれません!」
私はその声を聞いた瞬間、心のどこかで、この男の子なら絶対に自分を助けてくれると───そして、この子との出会いが、自分の人生にとってこの上なくかけがえのないものになると、そう確信していた。
さて、次回からはとうとう第二章に入りますね。
第二章からは、ぼっち・ざ・ろっく!のアニメ化範囲以降の内容を多く含むようになります。
原作タグ、どっちにした方が良い?
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妖怪ウォッチ
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ぼっち・ざ・ろっく!