フツーな少年とぼっちな少女   作:ウロタクサン

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12.ずっと、すぐ傍で

 

月曜日。その日は祝日だった。

 

「みんなおはよー!…お、ケータくんたちもいるねー!」

「お邪魔してます、虹夏さん」

 

虹夏がSTARRYへと入ってくると、早くからSTARRYへとやって来て、カウンターの方でひとりたちと談笑していたケータが、虹夏に挨拶を返した。

虹夏を見つけた郁代は、虹夏の方へと駆け寄ると、何やら囁き声で話しかけた。

 

「…伊地知先輩。さっきみんなでお話していたら、ひとりちゃんのケータくんへの呼び方が変わってたことに気づいちゃったんですけど…。あの二人、何があったんでしょう?」

 

虹夏はその郁代の問いに、静かに答えた。

 

「…ケータくんがぼっちちゃんにいつでも頼っていいって言われた時に申し訳なさそうにしてたから、そのお返しとして呼び方を変えさせてもらうことにしたんだって」

 

郁代は虹夏からその言葉を受けると、呆然としながら呟いた。

 

「…ケータくんって、やっぱり時々、小学生の男の子とは思えない優しさを見せるわよね…」

 

 

 

───それからしばらくして。なんとなくスマホを眺めていた郁代が、ふと何か慌てたように声を張り上げた。

 

「ちょっと、これ、見てください!大変なことになってます!」

 

郁代は、一斉に振り向いた三人にスマホを見せながら叫んだ。

 

「この前の文化祭ライブ、ダイブの所だけネットに流出してます!」

「ほ、ホントだー!?」

「…あばばばばあ…デジタルタトゥーがあ…」

 

三人がそのスマホを見ると、そこには、まとめサイトに載せられた、ひとりが文化祭ライブ終わりに観客席に飛び込む映像が映っていた。

まさかと思い自分のスマホでトゥイッターを開いた虹夏も、悪い予想があたってしまったようで、続けて口を開いた。

 

「ああーっ!トゥイッターにも転載されてる!しかもやたらとバズってるし!」

「顔ぼかし入ってて本当に良かったですね…」

「有名バンドじゃん」

「あああ…いずれ私のせいでけいくんが変な人に狙われて危険な目に…」

「だ、大丈夫だよぼっちちゃん。こんな話題どうせすぐに忘れ去られるからさ!気にしない気にしない!」

 

そんな四人の様子を見ていたジバニャンとウィスパーが、呆れたように呟いた。

 

「あーあ…インターネットの悪いところが出ちゃってるニャンねえ…」

「人の噂も七十五日とはいえ、あれは中々キツいでうぃすね…」

 

ウィスパーはそう呟いた後、暇つぶしがてら妖怪パッドを開くと、何となしに妖怪ウキウキペディアを開いてみた。

────そして、ある妖怪のページが新しく追加されているのを見ると、驚愕のあまり叫びを上げた。

 

「…み、みなさん!今のひとりさんがちょっとした有名人なのは、何も人間界だけに限った話じゃないようでうぃす!」

「ヴェッ!?」

 

虹夏は驚きながら、ウィスパーに尋ねた。

 

「…え!?ど、どういうことですか!?」

 

ケータもジバニャンも気になった様子で、ウィスパーの持つ妖怪パッドを覗き込んだ。

───すると、二人の表情が見る見るうちに驚きへと変わっていった。

ケータは思わず、大声で言った。

 

「ええーーーっ!?妖怪ウキウキペディアに、ひとりさんのページが追加されてるーーーっ!?」

 

驚きのあまり腰が抜けたケータの代わりに、ジバニャンがそのページの内容を読み上げた。

 

「えーと…なになに。

プリチー族後藤ひとり。妖怪不祥事案件『人と話す時に思わず会話の頭に"あっ"て付けちゃったり、他人の目線が気になるあまり挙動不審になっちゃったりすることってあるよねー』を引き起こす妖怪

…って書いてあるニャン」

(えっ!?私の能力ってそんなのだったの…!?)

 

ジバニャンのその説明を聞いた虹夏は、衝撃を受けているひとりを横目に苦笑しながら言った。

 

「あはは…なんともぼっちちゃんらしい能力だね」

 

郁代は、聞き慣れない単語の数々に首を傾げながら言った。

 

「…ところで、さっき言ってたその『妖怪ウキウキペディア』とか『妖怪不祥事案件』ってなんですか?」

 

その疑問を受けたウィスパーは、自信満々に答えた。

 

「お教えしましょう。妖怪ウキウキペディアは、私も参考程度に利用している妖怪にまつわる情報が掲載されているサイトのこと。そして妖怪不祥事案件とは、妖怪たちが引き起こす困った現象のことでうぃす」

 

郁代は感心したように言った後、驚きのあまり呆然と呟いた。

 

「へえ〜。そのサイトって、なんだかウィキペディオみたいなサイトですねっ!

っていうか、インターネットって妖怪の世界にもあったのね…」

 

ウィスパーのそんな説明を聞いていたジバニャンが、呆れながら小声でツッコんだ。

 

「参考程度って、丸々読み上げてる癖してどの口が言ってるニャン…」

 

ウィスパーがジバニャンのその言葉を軽く聞き流していると、短時間にあまりに大きいショックを連続で受け続けたひとりの口から変な液体が垂れ始めていた。

 

「おぼぼぼぼ…。人間の世界だけじゃなくて妖怪の世界にまで私のデジタルタトゥーが…」

 

先程の衝撃から既に立ち直っていたケータは、ひとりを優しく慰めた。

 

「だ、大丈夫だよ、ひとりさん!虹夏さんも言ってた通り、こんな話題、みんなすぐに忘れちゃうよ!それに、オレはひとりさんが世間でどんな評判になってようと、ひとりさんのことは好きなままだしさ」

 

ひとりはケータからそんな言葉を掛けられると、たちまち頬を赤らめ出した。そしてその直後、正気を失うほどに落ち込んでいたことが嘘だったかのようにケータに詰め寄った。

 

「…えっ、えっ!?けけけいくん今、最後の方なんて、なんて!?」

「うわわっ!?ひとりさん、落ち着いて!?

…えっわっ、ひとりさんの身体が溶け出した!?ちょちょちょ、一体これどういう仕組みー!?」

 

ひとりに急激に詰め寄られた後、ひとりの身体がいきなり目の前で溶け出した状況にケータが思わずツッコミを入れていると、傍でその状況を見ていた虹夏とウィスパーが静かに呟いた。

 

「そりゃ愛しの男の子からいきなりあんなこと言われちゃ、正気も身体の形も保てないわ…」

「ケータ君、相変わらず罪な男でうぃすね…」

 

 

 

それからまたしばらくして。ひとりが正気を取り戻すと、ケータは思い出したように四人に尋ねた。

 

「…そう言えば、ひとりさんたちって、文化祭でライブをしたんですか?」

 

その言葉を聞いた虹夏は、思い出したように言った。

 

「そっか。あの頃はまだ、あたしたちとケータくんたちは知り合ってなかったんだっけ」

 

たははと笑いながらそう言う虹夏を見て、ケータは、そう思ってもらえるまでに自分たちがこの空間に馴染んでいたという事実に、胸がいっぱいになった。

 

(…そっか。オレたち、いつの間にかこの空間に、そんなに馴染めてたんだね)

 

 

そして、ケータは、自分がまだこの四人が楽器を演奏している様子を見たことがなかったことを思い出した。

 

「───あ、そう言えば!オレ、まだひとりさんたちが楽器を演奏している所、見たことありません!」

 

ケータのその言葉を聞いた結束バンドの四人は、どこか期待するような目でケータの方を見た。

そして、四人を代表するように、虹夏がおそるおそるといった様子で、ケータに尋ねた。

 

「…見たい?」

 

虹夏がそう尋ねると、ケータはキラキラした目で答えた。

 

「見たいですっ!」

 

ケータの素直なその反応を見て、四人はすっかりだらしなく頬を緩ませた。

 

「えへへ。けいくん、そんなに私たちのライブを見たがってくれるなんて…」

「私たちの音楽に興味を示すなんて、ケータは将来有望。そんな未来ある少年の期待に、応えない訳にはいくまい…!」

「こんなに素直に期待されたことなんてあんまりないから、私、今すっごく嬉しいわ…!」

 

三人が口々にそう言う中、虹夏はケータに向かってでへでへとニヤけながら、とても嬉しそうにしてわざとらしく言った。

 

「…そっかあ、見たいかあ〜」

 

と、虹夏はそこで言葉を区切り、三人の方を見遣って頷き合うと、キリッとした顔つきになって、ケータに言った。

 

「じゃあ、今からあそこのステージで…あたしたちのかっこいい所、ケータくんにたっくさん見せてあげちゃいますっ!」

 

ケータは虹夏のその言葉を聞いて、無邪気に跳ね回りながら喜んだ。

 

「本当ですか!?やった、楽しみ!」

 

ケータが無邪気に喜んでいる姿を見ると、四人は改めて気合いを入れ直し、ステージの方へと向かった。

 

 

 

「…良いんですか?止めなくて」

 

と、そんな様子を遠巻きに眺めていたPAさんが、事務作業をしている星歌に尋ねた。

星歌はため息を吐くと、仕方がなさそうに言った。

 

「…あんな素直に喜んでるケータくんの顔を見ちゃ、そんなことできねえよ。それに、営業開始まではまだまだ時間あるしな。

アイツらにとっても、ケータくんの反応は良い刺激になるだろ」

 

星歌のそんな言葉を受けたPAさんは、思わず本心の呟きが漏れ出た。

 

「なるほど。シスコンですね」

 

その呟きを聞き取った星歌は、キレ気味に言った。

 

「お前今度またそれ言ったらクビだからな」

「は〜い」

 

PAさんがからかうように生返事を返したその瞬間、彼女たちの耳にも、ステージの方から結束バンドの奏でる楽器の音が聴こえてきた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(す、すごい…。これが、ひとりさんたちの本気…)

 

たった三人の観客のステージで四人が奏でる音楽を聴きながら、四人が音楽を創り上げるその様を呆然と見つめていたケータは、四人の普段の時とライブの時とのそのギャップに、改めて驚かされていた。隣で一緒に見ていたウィスパーとジバニャンも、すっかり夢中になって四人の音楽に聴き入っている。

ケータはバンドの楽曲を聴いたこと自体はあったが、それはCDかテレビ番組でのみ。生で聴いたのは、これが初めてだった。

 

四人が音楽を奏でる様子にすっかり心を奪われていると、ケータの心の中に、ある一つの想いが芽生え始めた。

 

(…オレ、なんだか、ひとりさんたちが奏でる音楽を、もっと近くで、いつまでも聴いていたいな)

 

ケータがそんなことを思い始めている内に、結束バンドによるケータの為だけの演奏会は、終わりの合図を始めた────

 

 

 

 

 

 

 

 

「け、けいくん。…どうだった?」

 

ライブ終わり。頬が紅潮し、息もすっかり上がっているひとりが、ケータにそんなことを尋ねた。

ケータはそのひとりの声を聞くと、ぱあっと顔を明るくしながら言った。

 

「…すっっごく、カッコよかった!」

 

ケータのそんな言葉に、四人は満足そうな笑顔を浮かべた。

 

「歌も、演奏も、とっても凄かった。聴いててとっても感動しちゃった!横で一緒に見てたウィスパーとジバニャンも、すっかり演奏に聴き入っちゃってたよ」

 

ケータがそう言うと、ウィスパーとジバニャンは口々に結束バンドを讃えた。

 

「私もとっても感動しました!あれがライブというものなんでうぃすね…」

「オレっちもニャン!ニャーKBのライブには良く行くニャンけど、バンドのライブを見たのは今日が初めてニャン!初めてのバンドのライブ、めちゃくちゃ楽しかったニャン!」

 

ウィスパーとジバニャンのその言葉を聞くと、四人は更に嬉しそうな顔になった。

そんな四人を見ながら、ケータは一つお願いをしようと、口を開いた。

 

「…あのっ!」

 

ケータがそう切り出したのを見ると、虹夏は優しく尋ねた。

 

「…どうしたの?ケータくん」

 

ケータは虹夏の、そして四人の方を見遣って、その口を開いた。

 

「オレ、またみんなのライブが見たいです。…だけど、何回もタダで見せてもらうのは、流石に申し訳ないので…」

 

ケータはそこで言葉を区切ると、少し拳を握る力を強めてから言った。

 

「───アルバイトとか、バンド活動のこととか、みなさんの身の回りのことを、オレにも色々手伝わせてください!」

「「「「…!?」」」」

 

ケータがそう言うと、結束バンドの四人は驚いて顔を見合わせた。

虹夏が唖然としながら、ケータに言った。

 

「け、ケータくんにならそれは全然任せられるし、あたしたちとしてもすっごくありがたいんだけど…」

 

虹夏はそこで言葉を区切ると、おそるおそるケータに尋ねた。

 

「ケータくんは、本当にいいの?STARRYにはいつでも来て良いんだから、あたしたちのライブだって、今のままでもいつでも見られるよ?」

 

ケータは首を横に振りながら言った。

 

「いえ、いつまでもこのまま、虹夏さんたちのご厚意に甘えている訳にはいきません。…それに」

 

そしてケータは、少し楽しそうにして言った。

 

「オレ、見つけちゃったんです。今まで夢も目標も特にない、フツーの人生を送ってきたオレが、初めて心の底からやりたいって思ったことを。それは、ひとりさんたちが奏でる音楽を、すぐ傍で聴いていることと───先の見えない夢を追うひとりさんたちを、ずっと近くで、応援していることです」

「えっ…!?」

 

ケータのその言葉を聞いたひとりは、たちまち泣きそうなほどに喜びに満ちた表情になった。ひとり以外の三人も、どことなく嬉しそうな顔をしていた。

そんな様子を見守っていたウィスパーは、いつになく真剣な表情で口を開いた。

 

「私からも、どうかお願いいたします。…ケータ君、ひとりさんやみなさんと出会ってから、本当に毎日が楽しそうなんです。

これはケータ君の執事としての、真剣なお願いです。

…誠に勝手なことを申しているのは重々承知しているのですが、どうかケータ君を…私のご主人様を、みなさんの傍においてはいただけないでしょうか」

 

ジバニャンも続けて、真剣な表情で言った。

 

「オレっちからも、頼むニャン。…ひとりちゃんたちになら、ケータのこと任せられるニャン」

 

ケータは、そんな二人の様子を見ると、驚いたように呟いた。

 

「…ウィスパー、ジバニャン」

 

───そんな時、虹夏が困ったように、それでいてどこか満更でもなさそうにしながら叫んだ。

 

「…あー、もう!そうまで言われちゃ断れないじゃん!

わかったよ!ケータくんには、これからあたしたちのサポートをお願いする!多分、ほとんどぼっちちゃん関連だと思うけど…」

「えへへぇ…」

 

虹夏が付け加えたその言葉を聞いたひとりは、なぜか嬉しそうに頬を緩めた。

すると、ケータは結束バンドの全員の顔を見回して、改めて頭を下げながら言った。

 

「ひとりさん!そして、結束バンドのみなさん!…これから、どうかよろしくお願いします!」

 

ケータがそう言うと、四人は、満面の笑みで頷いた。

 

今まで夢も何にもなかった自分のフツーな人生が、今、この瞬間に大きく変わり始めた気がする。

漠然と、でも、それでも確かに、天野景太はそう感じたのだった────

 

 

 

その日、STARRYの業務を全て終え、家に帰ってきたひとりは、今日あった出来事を改めて思い返していた。

 

(けいくん、私たちのことをすぐ傍でずっと応援していたい、だなんて…。ふふっ)

 

ひとりは頬をだらしなく緩めると、何か思うところがあったようで、その後すぐに表情を引き締め直した。

 

(…でも。けいくんが私たちの力になろうとするあまり無理をしちゃうことだけは、心配だな)

 

ひとりはそう思うと、自分の中に既に確かにあった決意が、さらに強まったような気がした。

 

(…だったら、私が。私がしっかり、けいくんのこと見ててあげなくちゃ。けいくんにとって、いつでも、一番に頼れる私でいなくちゃ。)

 

そして、ひとりはこの瞬間に、何よりも恐れていたことがあった。

それは、ケータが何かふとしたきっかけで、自分のもとに姿を見せられなくなることだった。

 

(…それに、けいくんはまだ小学生だ。いつ、何が起こるかわからない。急に親の事情で引っ越しちゃうかもしれないし、もう下北沢に行っちゃダメ、なんてことを、これから先お父さんやお母さんに言われちゃうことだってあるかもしれないし…。そもそも、けいくんがもう私たちの顔を見たくなくなっちゃうことだって───これから先、あってしまうかもしれない)

 

ひとりはそう考えた途端に、心の中が途方もない悲しみに支配された。ひとりはその悲しみを振り切ると、静かに、それでも強い意志を込めながら、呟いた。

 

「…できることなら、私のこの力を使ってでも、そんなことは絶対に起こさせたくないけどね」

 

ひとりは続けて、強い決意がこもった瞳で自分の掌を見つめると、拳を握りしめながら言った。

 

「けいくんがどうしても私のことを頼ってくれないのなら───もういい。私の方から、無理矢理にでもけいくんを助けに行ってやる」

 

後藤ひとりは、二つの夢を見ている。一つは、結束バンドのみんなで有名になって、人気者になって、いつまでもみんなと、楽しくバンドを続けている夢。

───そして、もう一つの夢は、天野景太と、いつまでも一緒にいる夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。

 

「あ〜もう、筆がノらな〜い!」

 

とあるアパートの一室で、ツインテールの女性が、パソコンの画面の前で頭を悩ませていた。

 

「な〜んかあたしの琴線に触れるような、ピロピロギャリーン!みたいな技巧派バンドが見つかったりしないかなあ…。あたしって今何の為に音楽ライターやってるんだろ…」

 

女性はそうぼやくと、パソコンの画面をスクロールさせていく。

───すると、何やら興味を惹かれる一文と動画が、彼女の視界へと入り込んできた。

 

「…ん?『高校の文化祭ライブで女子高生ダイブ』…?なんか面白そうだし、今回はこれネタにして記事書こーっと」

 

そして女性は何となしにオーチューブを開くと、彼女のお気に入りのカバー動画投稿者である『ギターヒーロー』という名のチャンネルが投稿した新しいカバー動画を発見した。

 

「お、ギターヒーローさん、新しくカバー動画投稿してる!」

 

女性はそのカバー動画を立ち上げて視聴すると、しみじみと呟いた。

 

「ほんっとすっごい上手〜。…あーあ、どっかにこーゆー才能に満ちた人がいるバンド、転がってないかなあ〜」

 

───その後彼女はその例のダイブ少女の通っている高校を特定して「文化祭ライブで観客にダイブを決め込んだ後丸二週間ほど学校に来なくなり、かと思えばつい最近何事もなかったかのように学校に来るようになった」だとか「さくらニュータウン方面にある赤い屋根の家の近くにいたのを見かけた気がする」だとかの有用と言えなくもないような情報を手に入れたり、侵入した高校の教師に見つかり中学生と勘違いされて補導されかけた後、本名と職業を知った彼らに説教されて帰されたりと色々あった。

 

───色々あった末に、文化祭ダイブ動画をネットに投稿していたその高校生に話を聞くことにした。情報を聞き出そうとした所、その高校生は本人の事情に配慮していたようで、情報を出すことに躊躇いを見せていたが、悪用は絶対にしないことを約束した末に、とうとう有用な情報を手に入れた。

 

「結束バンドの、後藤さん…か。お、ちょうど今日ライブやんじゃん!ラッキー!」

 

この女性がきっかけで、結束バンドの運命に───そして、天野景太の人生に、また大きな波紋が広がるということを、この時はまだ、誰も知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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