フツーな少年とぼっちな少女   作:ウロタクサン

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14.襲来!ぽいずん♡やみ 後編

 

「…なんの話?」

 

郁代がぽかんとした様子でそう言うと、やみはひとりの方に向かって腕を振り上げながら呆れたように言った。

 

「あんたたちまさか知らないの!?このギターヒーローさんはねぇ!超凄腕高校生ギタリストでッ!それでいて男女問わず学校中の人気者でロインの友達数は千人超え彼氏はともだち想いで動物に好かれてる歳下のハイパー優男クンの超リア充女子なの!」

 

やみのその早口言葉を聞いた郁代は、にべもなく言い放った。

 

「人違いじゃないですか?」

「即答!?」

 

郁代のそのあまりにも容赦のない回答にやみが驚いていると、畳み掛けるように虹夏が言った。

 

「そっそうですよ!その人とこのド陰キャ女子が同一人物に見えますか!?」

(グハァッ!?)

 

ひとりが虹夏の容赦ない言葉に深いダメージを負っていると、その様子を見ていたウィスパーとジバニャンが、呆れながら囁き合った。

 

「…途中の見栄丸出しの虚言はともかく、最後のは完全にひとりさんの内なる願望が漏れ出てるでうぃすね」

「動物って、もしかしてオレっちとかヒキコウモリとかのことニャン…?」

 

虹夏のその発言を受けたやみの中に、本当に目の前の少女がギターヒーローなのかどうかという疑問が生まれかけた。

 

(…確かに、ネットに書いてたことと、この子の印象はかなり違う気がする)

 

───しかし、度を越した憧れとは実に人を盲目にするもので、やみはすぐに思い直した。

 

(けど…この伸びっぱなしの髪は抜け感を出しているとも言えるし、普段のジャージもあえて世間からのトレンドを外すことによるカリスマ性が感じられるし…)

 

やみは改めてひとりを見据えると、目を輝かせながら尋ねた。

 

「やっぱりあなたギターヒーローさんですよね!?」

「なんで!?」

 

やみの結論が変わらなかったことに虹夏が全力でツッコミを入れると、やみは矢継ぎ早にひとりに詰め寄りながら言った。

 

「カリスマは一般人とは一味違うしッ!レモンとパプリカが好きでフラミンゴ飼ってますよねッ!?」

「…どこの誰津玄師だよ、それ」

 

やみの発言にウィスパーが思わず耳に届くことのないツッコミを入れたその時、扉の方からケータが遠慮がちに声を上げた。

 

「───あの〜、ごめんなさい。…そのギターヒーローっていうのが何のことなのか、オレにはさっぱり…」

 

何が何だか分かっていない様子で扉の前に呆然と立っているケータがやみの方に目を遣りながら言うと、やみは、ケータの方に距離を詰めて自分の持っているスマホの画面を見せながら言った。

 

「あんた、その歳でライブハウスに出入りするくらいだからよっぽど音楽好きな小学生なのかと思ってたのに、まさかギターヒーローさんのことも知らないだなんて!!

…良いから、これを見なさいっ!」

「わっなんですか!?」

 

ケータは驚きつつもやみの差し出したスマホの画面に目を遣ると、和室を背景にピンクのジャージを着てギターを弾いている人の姿が現れ、明らかにプロ級の技術の演奏が聴こえてきた。

 

「す、凄い…。これが本当に、ひとりさんなの…?」

 

ケータが感動のあまり震える声でそう言うと、ひとりは思わず照れながら言った。

 

「あっいやえへへぇ…けいくんったらそんな、凄いだなんてぇ…」

「絶対この子ーーー!!」

 

ひとりのその反応を見たやみが確信を持った様子でそう叫ぶと、虹夏がひとりの肩を揺らしながら言った。

 

「ちょっと何答え合わせしちゃってんの!?」

「いや…けいくんが凄いって…」

「ケータくんに褒められたらすぐこれだよ!!」

 

虹夏が喚いていると、郁代が遠慮がちに声を上げた。

 

「あの、結局そのギターヒーローって…」

 

郁代のその声を聞いたやみは、心底呆れたように郁代の方にスマホを突き出した。

 

「まったく、あんたたちと来たら本っ当に…

良いからあんたもこれを見なさい!!」

 

やみは、ケータにしたように郁代にも動画を見せながら、自慢するように言った。

 

「SNSでその道の人間には大注目のギタリストなんだから!」

「確かに、この見覚えのある格好と部屋…」

 

動画に映ったそのピンク色のジャージと和室を見ると、郁代は納得したように呟いた。

 

「まあひとりちゃんね」

「ぼっちだね」

 

そして、郁代と一緒に、動画をちらっと覗き込んでいたリョウが特に驚きもなくそう言い放つと、やみは二人のそのドライな反応に喚き散らした。

 

「ちょっと!もっと良い反応してよ!」

 

そしてやみは、若干涙目になりながら続けて言った。

 

「あたし一人で盛り上がってなんか痛いヤツみたいじゃん!あたしが痛いのは格好だけ!」

「自覚あったニャンね…」

 

傍で見ていたジバニャンがまたまた本人の耳に届くことのないツッコミを入れていると、リョウが口を開いた。

 

「ぼっちが上手いことはなんとなくわかってたけど、本人が言わないから別にどうでもいいかって」

 

郁代が続けて、苦笑しながら口を開いた。

 

「私もなにかあるんだろうなとは薄々思ってたので、別に…。でも、ひとりちゃんがこんなに凄い人だったなんて」

 

特段驚いた様子は一切見せない二人を見て、やみは納得いかないようにして泣き出しながら言った。

 

「なにこれ!!もっと驚いてよ!漫画だったらもっと引き伸ばしても良い展開なのに!」

 

やみのその言葉を聞いた郁代は、呆れながら言った。

 

「いや驚いてますよ。この大量の虚言には…」

 

リョウも続けて、ひとりの方にわざとらしく諂いながら言った。

 

「ぼっち様動画のお金の管理は是非この私めにお任せください」

「むきーーーっ!!」

 

相変わらず驚きのないドライな反応を返す二人に堪えかねたやみが悔しげに叫ぶと、その様子を見ていた虹夏は、二人がひとりがギターヒーローであることを特別気にしていないことに安堵した。

 

(…なんだ、良かった。みんなこのこと知ったら気まずい感じになるかもって思ったけど、杞憂だったな)

 

虹夏がそんなことを思っていると、やみが気になったようにひとりに尋ねた。

 

「ところでギターヒーローさん、さっきのライブではなんであんな酷い演奏を…!?」

 

ひとりはやみのその質問に、俯きながら答えた。

 

「わっ私人見知りで…。だからバンドだと上手く合わせられなくて…。動画は、家で一人で弾いてるから…」

 

ひとりのその答えを聞いたやみは、明るく笑いながら言った。

 

「良いんですよぅ、天才にだって欠点はあるものです!なんなら逆にプラス要素まであるかもっ!」

「ぼっちちゃんにだけとことん甘いな…」

 

やみの露骨な態度に思わず怒りを抑えきれずに虹夏がそう言うと、ギターヒーローの動画を見たファンの二人が口々に驚いた様子で言った。

 

「え〜!ひとりちゃんってこんなに凄い子だったの?」

「再生数すご〜!」

(あそこの男の子とこの女の子達は私の期待通りの反応をくれたわね!良かった良かった…)

 

ファン二人のその反応を受けたやみは、ケータとファン二人に向かって目を輝かせながら言った。

 

「扉の方に突っ立ってる小学生男子とそこの大学生女子二人!これからでかい面出来るから喜びなさい!なんてったってあんた達はギターヒーローさんの選ばれし古参ファンだから!」

 

やみはそこで言葉を区切ると、矢継ぎ早に続く言葉を繰り出した。

 

「将来メジャーデビューして事務所の意向で音楽性がガラリと変わり新規ファンを疎ましく思いあんなに大好きだったミュージシャンに愛憎という名の感情を抱くようになり聴くのは昔のアルバムばかり…」

 

ケータもファン二人も呆然とした顔でやみを見つめるが、やみは構わず続けて言った。

 

「インディーズ時代は良かったと裏垢で愚痴る厄介ファンへと変わり果てる権利が…あんた達にはある!!」

「何が何だかわからないけど、全然嬉しくない…」

 

やみのその言葉を聞き終えたケータは、引き攣った表情でそう言った。

 

「ケータ君、これはわからなくて良いですよ…。むしろわからないままでいてください…」

 

ウィスパーが切実そうな様子でそう呟いたその後、やみはあっけらかんとした様子で話を変えた。

 

「っていうのはまあ冗談だけど!」

「私達もケータくんも、絶対そんなことにはなりませんから!」

(なんだこれ…)

 

やみのその言葉を受けると薄い茶色のファンは心外そうに言い、その様子を傍から見ていた虹夏は少し呆れていた。

───しかし、虹夏のその表情も、次の瞬間にやみの口から放たれた言葉によって、心底からの喜びと希望に満ちることになる。

 

「ウチの編集長の人に掛け合って、業界の人に紹介してもらえるように言っときます!良い人がいるって!」

 

やみがその言葉を発すると、次の瞬間、STARRY内の空気が一気に和気藹々としたものに変わった。

 

「えーデビュー出来るかもってこと?」

「すごーい!」

 

ファン二人がそう言い、結束バンドのメンバーも、喜びを隠しきれない様子だった。

 

「一気に結束バンドのみんなが遠い存在に思えてきました!」

「うへへ」

「もうひとりちゃん、顔がたるんでるわよ!」

「そう言う喜多ちゃんもね」

「虹夏もね」

 

薄い茶髪のファンがはしゃいだようにそう言った。

ひとりも、郁代も、ついさっきまであれほどやみを疑ってかかっていた虹夏ですら、やみの言葉の前に頬をたるませていた。リョウは冷静に虹夏にツッコミを入れたが、それでもどこか喜びを隠しきれていなかった。

 

 

───しかし、ケータだけは神妙な顔つきのまま、はしゃぐファンと結束バンド、そして張り付いたような笑みを浮かべるやみの方へと目を遣りながら、ポケットの中にあるかえりタイの妖怪メダルを、強く握りしめ続けていた。

 

(…いや、何だか嫌な予感がする。あの人は───やみさんは別に、結束バンドに興味がある訳じゃないんじゃないかな)

 

これは、妖怪不祥事案件を解決していく中であらゆる人や妖怪の心の機微に触れ続けてきた妖怪マスターとしての勘なのだろうか。それとも、ケータのみがこの瞬間で状況を客観視できるただ一人の人間であったからか。

天野景太ただ一人がやみの真意に薄々と勘付く中、STARRY内に満ちる和気藹々とした雰囲気は───他ならぬ、やみ自身の手によって、粉々に打ち砕かれた。

 

「え?結束バンド?何の話?」

 

やみは当然のようにそう言うと、ひとりの方を指さしながら続けて言った。

 

「私が言っているのはギターヒーローさんだけ」

 

やみは少し考え込むような素振りを見せた後、四人(夢見る少女たち)に、残酷なまでの現実を叩きつけた。

 

「結束バンドは高校生にしてはレベルはまあ高いと思うけどさ。でも良くいる下北のバンドって感じだし」

 

やみがそう言うと、ケータは何故か猛烈に、やみに次の一言を言わせてはならないような気がした。そして、かえりタイを呼び出そうとポケットの中からメダルを取り出すと───ウィスパーの白い腕が、ケータを静かに止めた。

 

「…ケータ君、これは彼女たちの身に降り掛かった、言わば彼女たちが自身の力で乗り越えるべき試練です。ここで彼女たちがどんなに手酷いことを言われようとも、私たちが口を出すべきではありません」

 

ウィスパーがいつになく真剣な表情を浮かべながらケータにそう言うと、ケータは納得したように頷いて、ウィスパーにかえりタイのメダルを手渡した。

そして、次の瞬間。やみの口から、伸びきった鼻と思い上がりを根元からへし折るような一言が放たれた。

 

「…っていうか、"ガチ"じゃないですよね」

「えっ…」

 

やみのその言葉を受けた虹夏は、頭を思いっきり殴られたかのような強い衝撃に襲われた。

やみはそんな虹夏には構わず、続けて言った。

 

「だって客も常連だけだし、宣伝もそんなにやってないみたいだし、本気でプロ目指してるバンドに見えないんだもん」

 

やみはにべもなくそう言い放つと、手に持ったスマホを操作しながら、ひとりの方に向き直って言った。

 

「ギターヒーローさんはもうプロとして通用するので、ちゃんとしたバンドに入った方が良いですよ!良い話がないか、色々探しておきますね!」

「あっあの、私は…」

 

ひとりがそう言いかけると、やみは構わず、独り言のように続けて言った。

 

「いや〜ゴミ記事取材のつもりが大当たりですっ!今度単独記事書かせてくださいっ!今の邦ロック業界にドカーンと衝撃を───」

「おい」

 

やみが続けて口を開こうとしたその時だった。

 

「もう店閉めるから帰ってもらっても良い?」

「誰!?なんか凄い重装備してるけど!?」

「店長ですよ〜」

 

ぶりっ子対策にガスマスクを着けた星歌が、やみを咎めた。

 

「帰れ」

「まだ話は終わってないから帰らないですぅ」

 

やみが粘ると、星歌は渋々といった様子で言った。

 

「じゃあ実力行使でいくしかないな…」

 

星歌がそう言うと、やみは少し怖気づいた様子で言った。

 

「なっ何っ!?暴力でも振るう気!?」

 

星歌は首を横に振ると、スマホを取り出しながら言った。

 

「お前みたいなアクの強いライターは絶対アンチがいるからな」

 

星歌は続けて、情も容赦もなく言い放った。

 

「ネットで調べたら本名が出てきた」

 

横から出てきたPAさんは、やみに近づくと、クスクスと笑いながら言った。

 

「このご時世、名前さえ分かれば実家の連絡先も分かりますねえ。この意味、わかります?」

「ぎゃーーーーッ!?!?」

 

あまりのおぞましい脅しにやみが思わず絶叫すると、星歌は咎めるように言った。

 

「次コイツらに近づいたら、ぽいずん♡やみ14歳を親御さんにバラすからな」

「人間の心ってもんがないの!?」

「いやあーたが付けた名前でしょうよ…」

 

近くで話を聞いていたウィスパーが思わずそうツッコむと、やみはひとりに向かって手を振りながら別れの挨拶をした。

 

「ギターヒーローさんそれでは〜!今日のことは頭の隅にでも入れといてくださ〜い」

 

やみはそこで言葉を区切ると、一際真剣な顔つきになり、ひとりに言い残した。

 

「…こんなところでうだうだやってると、あなたの才能腐っちゃいますよ」

 

星歌はやみのその様子を見ると、PAさんに一言指示を下した。

 

「電話」

「はーい」

「帰る帰るぅ!ごめんなさい!あばよ☆」

 

二人が容赦なく自分の実家に電話を掛けようとする様子を見たやみは、流石に身の危険を感じてスタコラサッサと帰って行った。

やみが帰って行くのを見届けると、星歌とPAさんは、この上ないほどにわざとらしく言った。

 

「穏便に済んで良かったなあ」

「超平和的解決ですね」

「信じてたのに…」

 

濃い茶髪のファンがそんな二人に内心ドン引きしながらそう言うと、星歌は気を取り直したように四人に声を掛けた。

 

「お前らもあんなヤツの言葉あまり真に受けるなよ。今日はもう全員上がって良いから」

「あっありがと」

 

姉の珍しい気遣いに虹夏が内心じんわりしていると、星歌は続けて、コテコテのツンデレ台詞を放った。

 

「あんなキモいヤツ置いてたら店が腐るから追い出しただけで、別にお前らの為じゃない」

「…よもや今どきこんなコテコテのツンデレ台詞を吐く人がいるとは…」

 

星歌のその台詞にウィスパーが思わずツッコミを入れていると、虹夏がひとりとケータに帰りの挨拶を交わした。

 

「じゃーねぼっちちゃん、ケータくん。気をつけてね!」

「あっはい」

「ありがとうございます。虹夏さんたちも、あまり気にしすぎないでくださいね」

「…うん、ありがと」

 

 

その日のひとりとケータは、駅までの帰り道で一言も会話を交わすことがなかった。歩きながらずっと何か思い詰めたような表情を浮かべているケータに、ひとりは何も言うことができなかった。

───いや、何かを言う必要がないことを、お互いに分かっていた。

 

 

───ひとりとケータが駅まで歩いて行った後、虹夏はリョウと郁代に声を掛けた。

 

「あっあのさ…さっきのこと、みんな大丈夫?

…ライターさんもきついよね。あたしたちだって───」

「まあその話は良いじゃないですか!」

「うん」

 

虹夏がそう言いかけると、郁代もリョウも、無理矢理その言葉を遮った。

郁代は気を取り直したように、虹夏に言った。

 

「次のライブの日程、また明日決めましょーね!」

「あっ…うん」

 

虹夏はそんな郁代の様子に気圧され、頷くことしかできなかった。

結局、微妙な空気が場を包んだまま、その日の三人は解散した。

 

 

 

 

 

────所変わって、ここは後藤家。ひとりは改めて、今まで、そして今日あった出来事を振り返っていた。

 

(結束バンドに入ってから───完熟マンゴーや下北沢のツチノコになったり、喜多ちゃんにヒューマンビートボックスを披露したり、文化祭でダイブして地面に激突したり、急に妖怪になっちゃったり。…失敗の記憶や苦い思い出ばっかり、フラッシュバックするけど)

 

ひとりはひとしきり自分の失敗について思い返すと、ケータの顔や結束バンドのみんなの顔を思い浮かべた。

 

(けど───けいくんや、結束バンドのみんな。私が大切にしたい人たちだって、沢山できた。けいくんだって見てる中でライターさんにあんなことを言われて、とても悔しかった)

 

そしてひとりは、手に持っていたギターを、静かに握りしめると。

 

(だから、私の───私たちの本気を、みんなで、証明するんだ)

 

その瞳には、静かで、それでいて激しい、決意の炎が灯った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───『未確認ライオット』?」

 

翌日の下北沢STARRYにて。

虹夏から差し出されたチラシを前に、郁代が興味を惹かれたように呟いた。

 

「10代アーティスト限定のロックフェス。ここからメジャーデビューする人もいるんだって」

 

その呟きに虹夏はそう答えると、続けて俯きながら言った。

 

「昨日は結束バンドを否定されて悔しかったけど、今のままじゃそう言われても仕方がないのかも…」

 

虹夏はそこで顔を上げると、続けて不安そうに言った。

 

「だからこれに出て、みんなの力をちゃんと証明しよう!どうかな…!?」

 

虹夏のその言葉を受けた郁代は、少し恥ずかしそうに笑いながらスマホを取り出して言った。

 

「じ、実は私もその話を今日しようと思ってたところだったんです…」

「喜多ちゃん…」

 

郁代がそう言うと虹夏は感極まったように郁代の方を見た。

そして、今度は期待のこもった目でリョウの方を眺めた。

 

「じゃあリョウも!?」

「みんなが出たいなら良いよ」

「空気読めないなコイツ…」

 

リョウが興味なさげにそう言うと、虹夏はジト目でリョウの方を見た。

 

「あとはぼっちちゃんとケータくんだけど…」

 

虹夏がそう呟くと、郁代もリョウもどこか不安そうに言った。

 

「ひとりちゃんはこういうの嫌がりそうですし…。ケータくんだって、私たちの為にそこまで時間を使いたいと思ってくれてるか…」

「実際昨日の話はぼっちにとっても悪い話じゃないし、ケータだっていくら優しくても、こんな先の見えない話についてきてくれるかどうかは分からないもんね」

 

 

二人がそんなことを言った、その時。STARRYの扉が開くと、そこからひとりが現れた。

 

「あっぼっちちゃん!今みんなで未確認ライオットってフェスに出ようって…」

 

虹夏が皆まで言う前に、ひとりはいつになく不敵な笑顔を浮かべながら、一枚のチラシを取り出して言った。

 

「結束バンドで…グランプリ獲りましょう!」

 

 

 

───その時だった。

 

「…ケータ君、もう良いんじゃありませんか?」

 

ウィスパーの間延びした声が響くと、ケータが影から姿を現した。

 

「…ありがとう、ジミー」

「このくらいお安い御用だよ、ケータ。…またいつでも、ボクを頼ってね」

「うん。ジミーも、またいつでも遊びに来てね」

 

ケータは『ジミー』と呼ばれた忍者のような妖怪にお礼を言うと、結束バンドのみんなの方に、顔を向け直した。

 

「あのっ!…実はオレ、最初から虹夏さんたちの話を聞かせてもらってました」

「「「えっ…!?」」」

 

ケータが申し訳なさそうにそう言うと、虹夏とリョウと郁代は、驚いたように声を上げた。ひとりだけは、最初から気づいていたように、優しい笑みを浮かべながらケータの方を見ていた。

 

「みんなの気持ちを、どうしても確かめたくて。

…盗み聞きなんて趣味の悪いことして、本当にごめんなさい!」

 

ケータがそう言って頭を下げると、虹夏は笑顔で言った。他の三人も、嬉しそうにケータの方を見ていた。

 

「気にしないで。…ケータくんがそれだけ私たちのことを考えてくれてたことが、あたしたちはとっても嬉しい」

 

虹夏のその言葉を受けて、ケータは口を開いた。

 

「昨日あんなことを言われて、みんななら大丈夫だって思ったんですけど、どうしても不安になっちゃって…。今日の朝、下北沢に来て、星歌さんに店に入れてもらって…。

ジミーの力も借りながら、みんなのことをずっと見てました」

 

ケータは深い笑みを浮かべながら、続けて言った。

 

「…でもやっぱり、心配なんていりませんでしたね」

 

自分が心配しなくても、結束バンドのみんなは、困難を乗り越え、手を取り合うことができる。結束バンドのみんなの夢を追う心は、あんなことで折れるほど、脆くできちゃいない。

天野景太は、そのことだけが知りたかった。そのことを知ることさえできれば───十分だった。

 

「みんな、未確認ライオット、本気で勝ちに行くんですよね。

なら───オレにも、本気で夢を追うみなさんのこと、手伝わせてください」

 

ケータが強い決意のこもった瞳を四人に向けながらそう言うと、四人は頼もしい味方を得たような、安心した笑顔になり───

 

「お願いしなきゃいけないのは、むしろこっちの方だよ。

…私たちのこと、これからもどうか、よろしくお願いします。天野景太くん」

 

四人を代表した虹夏が、そう言って、ケータに深々と頭を下げた───!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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