フツーな少年とぼっちな少女   作:ウロタクサン

17 / 38
番外編です。何故か過去最長です。


幕間③:未空イナホの新宿探訪

 

───天野景太がSTARRYにて、結束バンドのみんなと共に『未確認ライオット』への出場を目指すようになったその頃。

 

「さあUSAピョン、ここが東京の中でも特にオッシャレ〜で賑やか〜な街、新宿だよっ!」

「…相変わらずイナホは突飛なことするダニねえ。私の新しい趣味を発掘する為に新宿に行こう、なんて言われた時は度肝を抜かれたダニよ」

 

ケータと同じように左腕に妖怪ウォッチを着けた丸眼鏡の少女、未空イナホが、その相棒であるウサギの耳が付いた黄色いヘルメットを被った妖怪、USAピョンとともに、新宿へと訪れていた。

朝の10時頃にさくら中央シティ駅から電車に乗り、揺られること数十分。ついに辿り着いたその街は、人々の雑踏に溢れかえっていた。

 

「さくらニュータウンも結構な都会のはずだけど…ここは相当ですなあ」

 

イナホが人混みの多さに気圧されたようにそう言うと、USAピョンは忠告するようにイナホに言った。

 

「都会慣れしてるとは言え、イナホはまだ小学生ダニ。迷子になったら大変ダニから、勝手な行動はしないようにするダニよ」

「…USAピョン、保護者か何か?」

 

イナホは思わずUSAピョンにそうツッコむと、USAピョンは呆れたように言った。

 

「…あながち間違っちゃいないんじゃないダニか?」

 

USAピョンは続けて、少し楽しそうに言った。

 

「…まあでも、ミーも正直結構楽しみだったりするダニ。イナホ、最初はどんな所見て回るダニ?」

「うーん…」

 

USAピョンにそう問われたイナホは、頭を悩ませた。なにしろ、これは新しい趣味と出会う為の旅。予め知識を入れてしまってはそれはもう「出会い」とは言えないため、予定を立てるようなことは一切していない。言わば完全にノープランで新宿まで来たのだ。

───と、そんなことを考えていると。イナホのお腹から、ぐうという音が鳴り出した。

 

「ぷっ。イナホ、来て早々お腹すいちゃったダニか?」

 

その音を聴いたUSAピョンがからかうようにそう言うと、イナホはUSAピョンの方を恨めしげに見つめながら言った。

 

「くっ、なめ吉にからかわれた…!この未空イナホ、一生の不覚ッ…!」

 

少し間を置くと、イナホは眉を下げてしみじみと呟いた。

 

「…でも、本当にお腹空いたなあ。ちょっとその辺のカフェでお食事でもしていこう。USAピョン、あそこで良い?」

「ミーはどこでも良いダニよ」

「おっけ、じゃあ行きますかー」

 

イナホはUSAピョンに確認を取ると、手近にあったカフェの扉を開いた。

 

 

 

「私はオムライスにしようと思うんだけど、USAピョンは何にする?」

 

メニュー表を開きながらイナホがそう言うと、USAピョンは申し訳なさそうにしながら言った。

 

「…わざわざミーの分まで頼んでくれるダニか?それは嬉しいダニけど、お金かかっちゃうし、何よりイナホが周りの人から変な目で見られちゃうダニ」

 

USAピョンがそう言うと、イナホは笑いながら言った。

 

「いーのいーの!どうせ店の人も忙しくてそんなこと一々気にしてる余裕なんてないだろうし、変な目で見られるのはもう慣れっこだし」

 

イナホは少し俯くと、申し訳なさそうに微笑みながら言った。

 

「…それに、私の無茶に付き合わせちゃったんだから、これくらいはしないと、USAピョンに悪いよ」

 

イナホのその言葉を聞いたUSAピョンは、励ますように言った。

 

「そんなことないダニ!ああは言ったけどミー、実は今結構楽しんでるダニ!」

 

イナホはUSAピョンのその言葉を聞くと、安心したように言った。

 

「…そっか。なら良かった!」

 

イナホは続けて、USAピョンの方を見つめて優しく言った。

 

「でも、USAピョンもお腹いっぱい食べたいだろうし、ご飯は本当に好きなの頼んで良いよ。今日の為にわざわざ貯金箱のお小遣いをフルベットしてきたからねっ!」

 

イナホがウィンクしながらそう言うと、USAピョンは遠慮がちにメニュー表に写っているカレーの写真を指さしながら言った。

 

「…じゃ、じゃあ、このカレーが気になってたダニ」

「おっけー!今頼んじゃうね!」

 

イナホはそう言って呼び鈴を鳴らすと、出てきた女性の店員にメニューの注文をした。

 

「すみません、オムライスとカレーを一つずつください!」

「は、はい。少々お待ちくださいね」

(…大食いそうな子には見えないけど、こう見えて意外と良く食べるのかな)

 

店員は困惑しつつもメモを取ると、店の奥へと消えて行った。

 

「…ほら言わんこっちゃないダニ」

 

USAピョンはそう言いつつ、少し嬉しそうだった。

 

 

 

それからしばらくして。

 

「はー、美味しかったねー!」

「ミーもお腹いっぱいダニ。イナホ、ありがとうダニ!」

「良いってことよ!そんじゃ、街歩き再開しますか!」

 

ご飯を食べ終えた二人は、店を出て、街歩きを再開しようとしていたところだった。お昼ご飯で三千円ほど消し飛んだが、お小遣いはまだ沢山ある。いくら都心の物価がお高いとは言え、今日一日だけ見て回る分には十分な額だ。

 

と、その時。

 

「───おやおやあ〜?そちらの眼鏡を着けたアナタ、もしかしてアナタも『視える』人ですかぁ〜?」

「…ほえっ!?」

 

突如近づいてきた黒髪の女性が、そのようなことを言ってきた。女性の年齢は高校生ほどだろうか。何とも言えない妖しさを纏ったその雰囲気に、イナホは思わず気圧された。

イナホはおそるおそる、その女性に尋ねた。

 

「あの〜、もしかしてあなた様、こちらにいる耳の付いた黄色いヘルメットを着けたうさぎもどきの小動物が見えている感じでしょうか…」

「テメー誰がうさぎもどきの小動物ダニ!」

 

その女性はクスリと笑うと、頷いて言った。

 

「はい〜。見えてますよぉ〜。何やらアナタに向かってキレているようですね〜」

「「!」」

 

女性がそう言うと、イナホとUSAピョンは確信を持った様子で囁き合った。

 

「ねえ、USAピョン。コレってやっぱり…」

「間違いないダニ。あの女性は───ウォッチなしで妖怪が見える人間ダニ」

 

妖怪ウォッチなしで妖怪が見える人間。たまにそのような人間がいることを前々から知ってはいたが、街歩きをしている時に偶然鉢合わせるとは、まさかイナホも思ってもみなかった。

女性は、驚くイナホたちを他所に、自己紹介を始めた。

 

「あ、申し遅れましたあ〜。私は内田幽々ですぅ〜。高校一年生でぇ〜、霊的な存在が視えるのは私の内にある魔力でサタン様から授かった悪の力によるものなんですぅ〜。…あっ、サタン様っていうのはこのぬいぐるみのルシファーとベルゼブブちゃんのことでぇ〜」

((なんかスゲェ人キターーーーッ!!))

 

その女性───内田幽々のあまりの変人ぶりに、USAピョンも、イナホでさえ内心で大きく驚いた。

しかし、相手が自己紹介をしたのなら、こちらも自己紹介を返すのが礼儀。思い直したイナホは、幽々に自己紹介を返した。

 

「わ、私は未空イナホです。小学6年生で、こっちのUSAピョンにこの妖怪ウォッチっていう腕時計を渡されたことで、霊的な存在───即ち妖怪が見えるようになった所存であります」

 

イナホは幽々に腕時計を見せながらそう言うと、幽々はイナホが差し出した妖怪ウォッチを興味深そうに眺めて言った。

 

「ほほう、これが妖怪ウォッチですかぁ〜…。話には聞いたことがありますけどぉ〜、実際に見たのはこれが初めてですぅ〜。…しかし、私が聞いたことあるのは白いものと青と赤のもののみで、黄色のものがあるのは知りませんでしたぁ〜」

 

イナホは、ウォッチをしげしげと眺めている幽々に説明を続けた。

 

「妖怪ウォッチにも色々な種類があるみたいで、私が着けているのは『妖怪ウォッチU2』という種類のものです。白いものは私の隣のクラスにいる天野景太さんっていういかにもフツーそうな男の子が着けてました」

 

イナホがそう言うと、幽々は驚いたように言った。

 

「なんと、アナタ天野景太さんと同じ学校に通っていらっしゃるのですかぁ〜?」

 

幽々が知っているような口振りでその名前を呼ぶ様を見て、イナホもUSAピョンも大きく驚いた。

 

「ええっ!?幽々さん、ケータさんのことご存知なんですか!?」

 

イナホが驚きながらそう言うと、幽々は頷きながら言った。

 

「はい〜。私がお会いする幽霊さんが良く話しているのを聞いたことがありますぅ〜。私の遠い親戚の『日影真生』ってコも、天野景太さんと同じ学校に通っているようでぇ、そのコからも話を聞いたことがありますねぇ〜」

 

幽々は続けて、思い出したように言った。

 

「…あっ、そう言えばぁ〜、アナタ方のこともちらっと聞いたことがありますぅ〜。丸眼鏡を着けたオタク少女と銃を持ったうさぎのような妖怪がやっている探偵社があるとかぁ〜」

「イナウサ不思議探偵社のことまで知ってたダニか!?」

「いや〜、私らも有名になったもんだねえ…」

 

大いに驚いているUSAピョンを尻目にイナホがしみじみとそう呟くと、幽々は一つの提案をしてきた。

 

「あ、そうだぁ〜。私、実はSIDEROSっていうバンドに入っていてぇ〜。そこでベースをやってるんですよ〜。これも何かの縁なので、もしご興味があれば私のライブハウスまでご一緒にどうですかぁ〜?」

 

その提案を受けたイナホは、目を輝かせながら言った。

 

「マジすか!私、ちょうど新しい趣味を開拓しようとしていたところなんです!バンドは未開拓だったから、めちゃくちゃ気になりまーす!」

「これは意外な展開ダニ…。まあ、何を見ようか悩んでたところだったからちょうどいいダニか」

 

イナホとUSAピョンがそう言うと、幽々は楽しそうに言った。

 

「それではぁ、二名様、新宿FOLTへごあんな〜い」

 

 

 

 

 

 

 

新宿FOLTへ着くと、イナホとUSAピョンはライブハウス特有のアンダーグラウンドな雰囲気に圧倒されていた。

 

「これがライブハウス…。生で見ると独特な迫力がありますなあ」

「何とも言えない圧迫感を感じるダニね…」

 

幽々は怯む二人を尻目に、その扉を開いて言った。

 

「銀ちゃ〜ん、ヨヨコせんぱぁ〜い。面白そうなコがいたのでぇ〜、連れてきちゃいましたぁ〜」

「あらまあ!幽々ったらなんてこと!」

 

中から男性の野太い声が響いたと思えば、扉から顔を出してイナホに声を掛けた。

 

「ごめんなさいね、ウチの幽々が。私はこのライブハウス、新宿FOLTの店長である吉田銀次郎です。…あら?貴方ってもしや小学生かしら?」

((またまたキャラ濃い人キターーーッ!!!))

 

銀次郎という名の男性がそう言うと、幽々に連続してキャラの濃い人が現れたことによって、イナホとUSAピョンの混乱度はマックスが近づいていた。

イナホはなんとか気を取り直すと、自己紹介を始めた。

 

「わ、私は未空イナホです。小学6年生です。そちらの内田幽々さんとは先程偶然街中で出会いまして…。私も彼女のように不思議な存在が見えることで、何かの縁としてこちらまで連れて来ていただいた所存であります」

 

イナホのその自己紹介を聞いた銀次郎は、感心したように言った。

 

「まあ、貴方イナホちゃんって言うの!礼儀正しい子ね!

…そうね。せっかくここまで来たんだし、良かったらこの子たち───SIDEROSのライブを見せてもらったらどうかしら?」

 

銀次郎がそう言うと、イナホは嬉しそうに言った。

 

「え、良いんですか!?ありがとうございます!」

 

イナホがそう言った時、奥から茶髪でツインテールの少女が現れた。

 

「───ウチの幽々が世話になったみたいね。私は大槻ヨヨコ。高校二年生。SIDEROSのリーダーよ」

 

ヨヨコと言う名の少女はそう言うと、自信に溢れる様子で続けて言った。

 

「私たちのバンドSIDEROSは、メタルバンドで、結成から一年足らずでワンマンが出来るほどの人気を誇るバンドよ。貴方はライブハウスが初めてみたいだけど、初めてライブハウスで見るバンドのライブが私たちのものになることを、決して後悔はさせないわ」

 

ヨヨコのその言葉を聞くと、イナホは感動した様子でUSAピョンに囁きかけた。

 

「何あの人、チョーかっこいい!いやー、まさかこんな人に出会えるだなんて。知らない場所にも来てみるもんですなあ」

「あの子、自信たっぷりダニね。…でも、その自信を裏付けるだけの実力もあるみたいダニ。これはライブが楽しみダニね、イナホ!」

 

ヨヨコはそんなイナホの様子を見ると、怪訝そうに言った。

 

「…何一人でブツブツ言ってるの?さ、早くスタジオに行くわよ。私の他のバンドメンバーを紹介してあげる」

「す、すみません!今行きますっ!」

 

イナホはそう言うと、歩き出すヨヨコの後ろに着いて行った。

 

 

 

 

スタジオに着くと、マスクを着けた白髪の少女と、おっとりした雰囲気の茶髪の少女が楽しげに会話を交わしていた。

 

「…おっ、ヨヨコ先輩と幽々さん…と、そちらの丸眼鏡の女の子は?」

 

白髪の少女がそう言うと、ヨヨコは毅然とした態度で言った。

 

「この子は未空イナホって子。幽々がお世話になったみたいだから、そのお礼にこれから私たちのライブを見せてあげるつもりなのよ」

「…聞いてないんすけど」

 

白髪の少女がそう言うと、ヨヨコは焦った様子で言った。

 

「ご、ごめんなさい。さっき急に決まったものだから」

「も〜、そういうの良くないと思いますよ、先輩〜!」

「うぐぅ…」

 

茶髪の少女にそう言われたヨヨコは、シュンとした様子になった。

その様子を見たイナホは、焦って口を開いた。

 

「いやいや、お願いしちゃったのは私の方ですしっ!ヨヨコさんは全然っ!」

「…まあ、ヨヨコ先輩面倒見良いっすから、多分幽々さんのワガママに付き合ってあげてる感じでしょうね」

「先輩のそういうところ、私たちは大好きですよ〜!」

「…ふんっ!」

 

二人がそう言うと、ヨヨコはどこか嬉しそうにしながらそっぽを向いた。その様子を見たイナホは、何やらわなわなと震え出すと、唐突に大声を上げた。

 

「───ツンデレキャラキターーーッ!!」

「「「「!?」」」」

 

あまりの唐突なその叫びに、SIDEROSのメンバーは一斉に驚いてイナホの方を見た。

四人の視線を受けて正気に戻ったイナホは、恥ずかしそうに言った。

 

「あっす、すみません…。つい叫んでしまって」

「…なんか、凄い子ね。イナホちゃん」

「変人の周りには変人が集まるんすかね…」

 

白髪の少女と茶髪の少女の二人は小声で囁き合うと、気を取り直して自己紹介を始めた。

 

「あ、申し遅れました。ウチは長谷川あくびっす。歳は高校一年生っす。ゲームは大体好きっすけど、特に好きなのは音ゲーっすね。担当楽器はドラムっす」

「私は本城楓子ですっ!歳は同じく高校一年生です!趣味はお菓子作りで、担当楽器はギターで〜す!」

 

二人が自己紹介を終えると、イナホは興味深そうに言った。

 

「ほほう、あくびさん。音ゲーとはこれまた」

 

イナホがそう言うと、あくびは目を輝かせながら言った。

 

「!イナホさん、貴方ももしや音ゲーマーっすか!?」

 

その言葉を受けたイナホは、首を振って言った。

 

「いいえ、私は言わば全方位オタク。あらゆるゲーム、あらゆる趣向物を嗜み、一つのジャンルに限定されない生き方をする者」

「全方位…オタク…?」

 

あくびは聞き慣れない単語に首を傾げた後、嬉しそうに言った。

 

「…まあ何にせよ、同志になれそうで嬉しいっす。またいつか音ゲー談義しましょうね!」

「もちろんですとも!」

「…ゲーマー同士で分かり合ってるダニね」

 

ゲーマー同士が親睦を深めていると、ヨヨコがジト目で言った。

 

「…ちょっとそこ、ライブのこと忘れて盛り上がってんじゃないわよ」

「あ、そうだったっす。すみません…」

「す、すみません!もちろん、ライブもとても楽しみです!」

 

イナホがそう言うと、ヨヨコは機嫌を取り戻した様子で言った。

 

「そ、そう。じゃあそろそろライブ始まるから、貴方は観客席で待ってなさい。…ちなみに私の担当はギターボーカルよ」

「ヨヨコさん、ギターとボーカルを同時にやってるんですか!?何それすっげーーー!!!」

「ふふん…」

 

イナホが感動した様子でそう言うと、ヨヨコは誇らしげに胸を張った。

そんなヨヨコを見ると、あくびと楓子が囁き合った。

 

「今先輩、露骨に自分凄いアピールをしましたね」

「ヨヨコ先輩そーゆーとこあるからねえ…」

「そこ二人、何か言った?」

「「いえいえ何も」」

 

ヨヨコが不信な目付きであくびと楓子を見遣ると、イナホはSIDEROSの四人に向かって手を振りながらスタジオを出た。

 

「それじゃあ、ライブ楽しませていただきまーす!」

「…しかと見てなさい、未空イナホ!」

 

ヨヨコはイナホのその言葉を受けると、不敵な笑みを浮かべながらそう言った───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、凄い…。これが、バンドのライブ…。これが、ヨヨコさんたちの本気…」

 

観客席には自分とUSAピョンしかいない中、ステージの上で悠然と楽器を鳴らす四人を見て、イナホは思わずそう呟いた。

 

「オーマイガーダニ…。ミーも昔、ヒューリー博士に少しバンドのライブに連れて行ってもらったことがあったダニけど、ジャポンにまさかこんな凄い高校生バンドがあったなんて…」

 

USAピョンも、大いに感動した様子でそう呟いた。

ステージの上で喉を震わせながら鉄を掻き鳴らすヨヨコを見て、イナホは先程までの彼女とのギャップに大きな衝撃を受けた。そして「結成から一年足らずでワンマンをするほどに人気」という彼女自身の言葉が、見栄でもなんでもなく真実であることを、この時イナホは悟った。

 

そして、イナホとUSAピョンがSIDEROSのパフォーマンスに目を奪われていると、二人のみの観客で行われたそのライブはあっという間に終わりを告げた───

 

 

 

 

 

ライブを終えると、汗を垂らしたヨヨコが自信たっぷりな様子でイナホに尋ねた。

 

「はあ…はあ…未空イナホ、ライブはどうだったかしら…。まあ、聞くまでもないでしょうけどね!」

 

ヨヨコからそう問いかけられると、イナホはわなわなと震え出した。

 

「ど、どうしたのかしら。…まさか、貴方の期待に応えられなかった…!?」

 

イナホのその反応を見たヨヨコが、少し不安そうになった時だった。

 

「…最っ高でしたああああっ!!!」

「!?」

 

突如として叫び出したイナホに、ヨヨコは思わず驚いた。イナホは構わず、目を輝かせながら早口で続けた。

 

「なにあれなにあれっ!あんなん見せられちゃったらもうっ、ファンになるしかないじゃああーりませんかっ!!」

 

イナホはそう言うと、ヨヨコに深く礼をしながら言った。

 

「ひっじょーに素敵ですんばらし〜いライブを、どうもありがとうございましたっ!!次のライブも絶対行きます!今度はちゃんとチケット代も払って鑑賞させていただきますっ!!!いやあ〜、凄い人達と出会っちゃったなあ〜!」

 

イナホは心底感動した様子でそう捲し立てると、ヨヨコは少し引きつつも心底嬉しそうに言った。

 

「そ、そう…。何にしろ、気に入っていただけたみたいで良かったわ!次のライブは2週間後だから、楽しみに待ってなさい!」

「はい!絶対行きます!」

 

イナホがそう威勢良く叫ぶと、ヨヨコも、その後ろにいたSIDEROSのメンバーも、満面の笑みを浮かべた。

 

 

ライブも観終わったし邪魔にならない内にそろそろお暇しようと、イナホとUSAピョンが銀次郎に帰りの挨拶をしにカウンターへと向かうと、何やら騒がしい酔っ払いの声が聞こえた。

 

「でさあ、この前天野景太くんっていう子がSTARRYに来てて、その子の前で先輩に絡まれてたらその子が怒り狂う先輩を見て怖がっちゃって、それを見たぼっちちゃんに私までブチギレられちゃってさあ。あの時ばっかりは私何もしてないのに、流石に酷くない?」

「きくり、ソレは普段のきくりの行いが悪いからダヨ」

「イライザの言う通り、それはお前のただの因果応報だ。そもそもお前が星歌先輩に頼らなきゃいけないような生活を送ってるから、そんな目に遭ったんだろ」

「全く以てその通りねえ」

「うわーん!みんな酷いや〜!!」

 

その様子を傍から見ていたイナホは、USAピョンに囁きかけた。

 

「ねえ、USAピョン。あれ…行って良いと思う?」

「あの手のタイプの人間には関わらないのが一番ダニ…。仕方ないけど、どっか行くまで待ってた方が良いダニね」

「だよねえ…」

 

イナホは怯えながらそう言うUSAピョンにとほほといった様子で同意すると、カウンターの方に背を向けて適当に時間を潰そうとした。

───その時。

 

「姐さんたち!いらっしゃってたんですね」

 

イナホの背後から、ヨヨコの大きな声が聞こえた。ヨヨコはイナホの方を見ると、叱るように言った。

 

「ほら、未空イナホ!貴方も姐さんたちにご挨拶なさい!」

「ね、姐さん…?」

 

イナホが困惑しながら呟くと、ヨヨコはしまったといった様子で口を開いた。

 

「…今日初めてライブハウスに来たんじゃ、知らないのも仕方ないわよね。あちらにおわす御三方は、SICK HACKっていうインディーズバンドを組んでいる、それはもう凄い人たちなのよ!」

 

目の前の酔っ払い達が、ヨヨコがそれだけ尊敬する人物であるという事実に萎縮しつつも、イナホはどうにか三人に挨拶をした。

 

「あ、あの〜、こんにちは〜。お邪魔させていただいてます。未空イナホです。歳は小学6年生です」

 

イナホがそう言うと、イナホに気づいた銀次郎が慌てて三人にイナホを紹介した。

 

「あらイナホちゃん!気づけなくてごめんなさいね。今この三人にも貴方を紹介するわね。

この子は未空イナホちゃん。幽々がウチに連れてきた子で、今さっきSIDEROSのライブを観てきたところみたい」

 

銀次郎がそう言うと、SICK HACKのメンバーは口々に自己紹介を始めた。

 

「イナホちゃん、私たちが怖がらせちゃったみたいでごめんね。私は岩下志麻。このバンドのドラムをやっている。よろしくね」

「私は廣井きくりだよ〜。…なんか、キミの隣にもケータくんの時みたいにヘンなヤツが見えるねえ。キミが連れてるのはヘルメットを着けた…え、うさぎ?カワウソ?」

「ワタシは清水イライザ!日本のアニメ大好きネ〜!」

 

イナホはまたもや思いがけない名前を聞いて、大きくひっくり返った。

 

「…ええ!?き、きくりさん、ケータさんのことご存知なんですか!?なんかUSAピョンのことも見えてるっぽいし…」

「うん、知ってるし、うさぎみたいなのも見えてるよー。ケータくんはこの前私の大学の先輩がやってる下北沢のライブハウスで会ったんだ〜。変なのが見えるのは…なんか事故物件に住んでたら霊感みたいなのが強くなっちゃった!」

 

たははと笑いながらそう言うきくりを見て、USAピョンは驚きのあまり呆然としながら言った。

 

「オ、オーマイガー…。今日だけでケータを知っていてかつ、ウォッチなしで妖怪が見える人間に二人も出会ったダニ…。やっぱり、妖怪に関わりのある者同士は惹かれ合うんダニか?」

「んなどこぞの幽波紋じゃああるまいし…」

 

イナホが思わずUSAピョンにそうツッコむと、同志の気配にきらんと目を輝かせた。

 

「それよりも清水イライザさんっ!日本のアニメがお好きなようですね!どのような作品を嗜まれていらっしゃるのですか!?」

「んーとネー、色々観てるケド、最近は女児アニメに特にハマってるネー!セラピアーズとか面白いよネ!」

 

イライザのその言葉を聞いた瞬間、イナホの脳裏に電流が走った。

 

(…ま、間違いないっ!この人は…『同志』!!!)

 

イナホは一瞬でイライザの目の前まで来ると、その手を掴んでブンブン振りながら言った。

 

「分かります分かりますすっごい分かりますっ!まさかこんなところで同志にお会いできるなんてっ!」

「オー!イナホちゃんもアニメ好きなんですカ?なら是非ともこれからも仲良くしまショー!」

「もちろんですともおっ!!」

「…イナホ、今日だけで趣味仲間を二人も作り上げてるダニね」

 

 

 

そうこうしている内に日が暮れてきたので、イナホは新宿FOLTの人々に別れの挨拶をした。

 

「じゃあ、今日は本当にありがとうございましたー!次はちゃんとチケット代を払って、ライブを楽しませてもらいまーす!」

 

イナホがそう言うと、銀次郎は慌てて言った。

 

「ウ、ウチの幽々がご迷惑になったみたいだから、次からもお代は結構よ!貴方まだ小学生だし!」

 

イナホは首を振って言った。

 

「いえいえ、いつまでもみなさんのご厚意に甘える訳にもいきませんよ。それに、今日は本当に楽しかったですしっ!」

 

イナホのその言葉を受けた銀次郎が、染み入った様子で言った。

 

「…なんて良い子なのかしら。きくりにも見習って欲しいくらいだわ。…また、いつでも遊びに来てちょうだいね」

 

イライザが楽しそうに言った。

 

「イナホちゃーん、またワタシとオタク談義しましょーネ!」

「はい、是非!」

 

ヨヨコが念を押すように言った。

 

「未空イナホ!次来る時は必ず、私たちだけじゃなくて姐さんたちのライブも観ること!日光を見ずして結構と言わないことね!

…また、来なさいよ」

「もちろんですともっ!」

 

イナホとUSAピョンは新宿FOLTを出ると、暗くなる前に帰ろうと、素早く駅へと向かった───!

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、未空家にて。

 

「いやー、今日はとっても楽しかったですなあ!」

 

イナホがそう言うと、USAピョンも心底楽しそうな様子で言った。

 

「ミーも今日はとってもワクワクしたダニ!新宿FOLT、また行きたいダニ!」

 

イナホは頷いて言った。

 

「うん!次は二週間後だね!ヨヨコさんの言ってた通り、SIDEROSだけじゃなくて、SICK HACKのライブもちゃんと観よっ!」

「賛成ダニ!」

 

新しい趣味を発掘する、という目的で唐突に行われた、イナホとUSAピョンの弾丸新宿探訪。その成果は、まさかまさかの大成功に終わった。

───そして、一ヶ月後のクリスマスイブにて、隣のクラスのあのフツーの少年と、思わぬ場所で、思わぬ再会を果たすことになるとは、この時のイナホとUSAピョンはまだ、知る由もなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どっちだと思う?

  • ぼケー
  • ケーぼ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。