それからしばらくして。虹夏は改めてひとりの方へと視線を向けると、どこか心配そうに口を開いた。
「…ケータくんは心配いらなさそうだけど、ぼっちちゃんは本当に大丈夫?」
「あっはいっ!」
虹夏がそう言うと、ひとりは威勢良く返事を返した。
「ライブ審査とかネット投票とかもあるみたいだけど、本当に大丈夫なんだね!?」
「あっはい…」
虹夏の続く言葉に、ひとりは少し勢いを落としながら返事を返した。
「最終審査ではフェス形式で数千人以上の前で演奏するみたいだけど、本当に大丈夫なんだね!?」
「うぅ…う〜…」
虹夏のその言葉を前にしてひとりはとうとう勢いを失ってしまったように、唸り声を上げた。
「…本当に大丈夫なんですかね、コレ」
「あはは…」
傍からその様子を見ていたウィスパーが思わず呆れながらそう言うと、ケータは苦笑した。
───しかし。
「あっはい…」
「「「おお〜っ!!」」」
ひとりが確かにそう返事を返すと、虹夏と郁代とケータは歓声を上げ、ウィスパーは驚いた様子で言った。
「な、なんと…!あのひとりさんが、数千人規模のライブに怖気づきながらも、勇気を振り絞って返事を返しました…!」
「凄いやひとりさん!その調子その調子!」
「う、うんっ…!任せてっ、けいくん…!」
ケータに褒められたひとりがすっかり調子を取り戻していると、虹夏はふと、ひとりの持っていたフライヤーがぐしゃぐしゃになっていたことに気づいた。
(ぼっちちゃんがこうして探してきてくれたなんて…。フライヤーもぐしゃぐしゃだし、きっとたくさん、悩んだんだろうな)
虹夏は、ひとりと、郁代と、そしてケータの三人を自分の方へと抱き寄せると、染み入った様子で言った。
「ぼっちちゃんも、喜多ちゃんも、ケータくんも、私と同じ気持ちでいてくれて嬉しいよ。ありがとう…」
その様子を見ていたリョウが、焦ったように言った。
「実は私も持ってきたから仲間に入れて」
「お前は相変わらず素直じゃないな〜〜〜っ!」
虹夏は呆れたようにそう言うと、全員の方を見遣りながら、改めて状況を整理した。
「改めて確認するね!順番にデモ審査、ウェブ投票、ライブ投票があって、最終審査はフェス形式でやるみたい」
「なるほど…。ライブするまでにも、一筋縄では行かなさそうでうぃすね」
虹夏のその説明を受けたウィスパーは、少し神妙な顔つきになりながら言った。虹夏はウィスパーの言葉に軽く頷くと、説明を続けた。
「うん。そして、デモ審査の締切が4月だから、それまでに曲とかMVとかも作って、たくさん宣伝しないとね」
「4月…。ケータはもう中学校に入学する頃ニャンね」
ジバニャンがそう言うと、ケータは、入学という大きいイベントと同時期にデモ審査の締切があるという事実に、少しプレッシャーを感じた。
(そっか、オレ、中学校への入学も控えてるもんね。…これからきっとどんどん忙しくなるだろうけど、ここで怯んでちゃダメだ)
ひとりはケータのその思い悩むような表情を見ると、心の中にケータへの心配と強い決意を浮かべた。
(けいくん、ちょっと気持ちが追い詰められてるみたいで心配だな。…私が、けいくんのことちゃんと見ててあげないと。…助けて、あげないと)
虹夏はケータとひとりのその神妙な顔つきを見て、どうしたのだろうと少し不安になった。
(ケータくんとぼっちちゃん、ちょっと様子がおかしい気がするけど、どうしちゃったんだろ。…二人のことも心配だけど、今はまず、これからの予定を確認しないと!)
虹夏は一瞬ケータとひとりの方に目線を遣ると、気を取り直したように言った。
「…STARRYの月一ライブじゃ足りないし、路上でもして行こう!路上ならタダでできるし!」
「これから忙しくなりますね」
「うん。バンド活動中心の生活になるだろうね」
虹夏が郁代の言葉に頷きながらそう言うと、星歌は遠慮がちに口を開いた。
「あの〜〜〜…ウチのシフトだけはちゃんと入ってね……」
「いくらでもここでライブさせてやるって展開にはならないんだ…」
虹夏が呆れた様子でそう言うと、星歌は頬杖をつきながら言った。
「んなの、いっぱいシフト増やしてここでライブすりゃ良いじゃねえか」
星歌のその言葉に、虹夏は頭を抱えながら喚いた。
「一回三万円もするのに無理だよ!」
───と、その時。
「ちょっと先輩っ!」
郁代の焦ったような声が、虹夏の耳に届いた。虹夏がその声に振り返ると、郁代が持ったチラシを指差しながら詰め寄ってきた。
「ここここれ、優勝賞金百万円もあるんですか!?」
「そうだよ〜〜〜」
郁代のその質問に虹夏がさらっと返事を返すと、ケータとウィスパーとジバニャンの三人は、驚きのあまり同時に叫びを上げた。
「「「…えーーっ!?!?」」」
郁代は驚きながら、去年のライオット優勝者が得た百万円をどのように使っていたのか、ということに思いを馳せていた。
「去年優勝した人達は、この百万円を何に使ったんでしょうね…!」
「そりゃ楽曲制作とかでしょ〜」
虹夏が郁代のその疑問に答えていると、星歌が親指を立てながら言った。
「おいお前ら、思う存分ここでライブしろよ。分け前五十万で手を打とう」
「遠慮します」
掌を返したようにそう宣う姉に、虹夏は容赦なく断りを入れた。
その様子を見ていたウィスパーとジバニャンは、小声で囁き合った。
「…あの人、金に目が眩んで露骨に態度変えましたね」
「いっそ清々しかったニャンね…」
虹夏は気を取り直すと、パソコンを開いてメンバーに呼びかけた。
「あ、そうだ!同世代で人気のバンドでもチェックしてみる?ついでに曲も聴いてみようよ!」
「良いですね!」
虹夏はケータたちの方にも手招きをすると、笑顔で呼びかけた。
「ほら、ケータくんたちもこっちに来て、一緒に見てみようよ!」
「はいっ!」
ケータは元気にそう返事すると、ウィスパーとジバニャンを連れてパソコンの画面を眺める結束バンドのみんなの方に近づいていった。
「まずは都内中心に活動中のエレクトロロックバンド『ケモノリア』。ダンスミュージックとロックを融合させた斬新なサウンドが特徴的なバンドだね」
「ほうほう…」
リョウがそうスラスラと解説すると、ウィスパーは興味深そうに頷いた。
「次は大阪のバンド『なんばガールズ』。曲中にパロディを盛り込んだりで若者中心に人気を集めてる…コミックバンドって感じだね」
「コミックバンド…って何ニャン?」
リョウの説明を受けたジバニャンが聞き慣れない単語に首を傾げていると、リョウはスマホを見ることすらせずに素早く答えた。
「演奏よりも、曲中の仕草とか、歌詞のおかしさで生まれる笑いで観客を楽しませるバンドのことだね」
「なるほど、そういうバンドもあるニャンね…」
ジバニャンが納得したようにそう呟くと、虹夏が感心したように言った。
「リョウって結構同世代のバンドのことに詳しいんだ!勉強熱心だね〜!」
虹夏がそう言うと、リョウは首を横に振って言った。
「いや、そうまとめサイトに書いてあった」
「情報源が浅いなこの現代っ子め!」
「…言われてるニャンよ、ウィスパー?」
「うるせえぞジバ野郎」
虹夏のリョウに対するツッコミを聞いたジバニャンがウィスパーにからかうようにそう言うと、ウィスパーは静かな怒りを見せながら言った。
ウィスパーとジバニャンが仲良くケンカする様を面白そうに見ていたリョウが、ふと思い出したように口を開いた。
「あ、そうだ。最近だと新宿FOLTで活動中の『SIDEROS』ってバンドも良く聞くね」
「新宿FOLT?」
ケータが聞き慣れないライブハウスの名前に首を傾げていると、ひとりが解説した。
「前にけいくんも会った廣井きくりさんが、主な活動の拠点にしてるライブハウスだよ。…こ、今度一緒に行ってみようか?」
ひとりがどこか期待したような目でそう言うと、ケータは嬉しそうに言った。
「うん!オレも気になるから、是非行きたいな!」
「そっかあ…!じゃ、じゃあ今度、私と新宿デートに…」
「私が話してる時に露骨にイチャつかないで」
「「ご、ごめんなさいっ!」」
リョウがケータとひとりにそうツッコむと、二人は声を揃えて謝罪した。
気を取り直したリョウは、説明を続けた。
「…こほん。SIDEROSのリーダーは、このギターボーカルの大槻ヨヨコって子。このバンドは、結成一年足らずでワンマンできる程に人気みたいだね」
「へー!…この人、なんかちょっとカッコいいかも」
「「「「…」」」」
ケータが興味を惹かれたようにそう呟くと、結束バンドの四人がジト目でケータの方を見つめた。
「あれ?みんなどうしたんですか?」
「…あーたはもう少しご自分の言動に慎重になった方が良いかと」
「気をつけないとその内とんでもない目に遭うかもしれないニャンよ…」
そんな四人の視線にキョトンとするケータを見て、ウィスパーとジバニャンが呆れながら呟いた。
ジト目をやめたリョウは、改めて説明を続けた。
「…活動自体は三年前からしてるけど、メンバーをクビにしまくってるせいで、今のメンバーでは一年目らしい」
「お、恐ろしいでうぃすね…」
「なるべく関わりたくないタイプの人ニャンね…」
その説明を受けたウィスパーとジバニャンが、顔を引き攣らせながら相槌を入れた。
そして、SIDEROSのライブ映像を観ていた郁代が、どこか鬱陶しそうに言った。
「っていうか、高確率でライブ映像に映り込んでる廣井さん、邪魔すぎません?」
「FOLTでは絶対ライブしたくないね」
虹夏が郁代のその発言に同意するように言うと、郁代が一際神妙な顔つきになって呟いた。
「…でも、同世代にこれだけ活躍してる人達がいるんですね」
郁代がそう呟くと、一瞬だけ場の空気が沈黙に包まれた。
虹夏が、改めて確認するように口を開いた。
「当面はこの人達があたしたちの目標ってことになるね。…でもこっちには、曲も知名度もまだ全然足りない」
虹夏は、これからやるべきことを一つ一つ確かめていくように言った。
「あたしたちのオリジナル曲もまだ三曲しかないし、あと一曲は欲しいね。それでミニアルバムを作って、MVも撮ろう」
虹夏は、三人の方を見据えながら、強い口調で言った。
「───だから次は、最高の一曲を作ろう。その曲をデモ審査に送る!」
「あっ頑張ります」
虹夏のその言葉に少しプレッシャーを感じたひとりは、どうにか返事を返した。
「…まあ頑張るわ」
(リョウさん、今少し様子がおかしかったな。…もしかして、曲作のプレッシャーで、やられちゃったのかな。
リョウさんがあまり一人で抱え込み過ぎないように、オレがちゃんと見ててあげないと)
ケータはリョウのその様子に少し違和感を覚えると、心の中で決意を固めた。
同じくリョウの様子に少し違和感を覚えたひとりが、思わずリョウに尋ねた。
「あっ先輩、どうかしました…?」
「あぁ、ごめん」
ひとりにそう尋ねられたリョウは、後輩に心配をかけまいと態度を取り繕いながらいつもの調子で言った。
「ぼっち…作詞作曲者には印税が入るんだぜ。タワマン住めるくらい凄いの作ろうぜぇ」
「あっはい。…けいくんとタワマン生活…うへへ…」
「生々しい話するのやめて!!!…あとぼっちちゃん、本当に相変わらずだね…」
二人の話を聞いていた虹夏は思わずそうツッコむと、気を取り直して自分の仕事を確認した。
「あたしは映像の編集したりCDのジャケット描くから!」
郁代も続けて、ウィンクしながら言った。
「私は広報します!トゥイッターとかイソスタの!」
ケータも、おずおずと言った。
「オレも、できることは限られてますけど、できるだけのことは全力で手伝います!」
「おお、ケータくん、頼もしい〜!」
「頼りにしてるわねっ!」
「ケータがいれば心強いね」
「…ただ傍にいてくれるだけで、私は本当に嬉しいけどね」
ケータのその言葉を受けた四人は、嬉しそうに口々にそう言った。
その様子を見守っていたPAさんが、くすくすと笑いながら口を開いた。
「あ、動画と言えば店長、前にスマホでみんなのライブ撮ってませんでしたっけ」
「おいこら!やめろ!」
星歌はPAさんのその言葉を聞いた途端、急に焦り出した。虹夏は星歌の方を見ながら、困惑気味に礼を言った。
「えっありがとう…。でもなんで?」
虹夏にそう問われると、星歌は焦りのあまりしどろもどろになりながら、苦しすぎる言い訳をした。
「いやっ…えっ…そのライブの…あれ…光…照明がイルミネーションみたいで綺麗だなって…」
「言い訳が苦しすぎる!」
「絶対何か隠してますねえ」
苦しい言い訳をしてどうにか難を逃れようとする星歌を見て、ウィスパーは面白がるように言った。
「ケータ君、バクロ婆呼んじゃいましょ」
「こんなことで呼ぶのはバクロ婆に悪いしいいよ…」
ケータがウィスパーの提案に呆れ半分でNOを返していると、痺れを切らした虹夏が星歌を羽交い締めにした。その隙を見たPAさんは星歌の懐からスマホを取り出して、件の動画を再生しながら言った。
「あれ〜、そんなこと言って、この動画に映ってるの後藤さんばかりですね〜」
「そ、それは鑑しょ…監視だ!」
「私まだ店長さんに目付けられてたんだ…」
PAさんのその言葉を聞いた星歌は、思わず動画を撮った本当の理由を言いかけてから、咄嗟に取り繕った。ただ、肝心のひとり本人は、星歌が本当に監視目的でその動画を撮ったものと思っているようだ。
「あの人今鑑賞って言いかけてませんでした?」
「完全に言いかけてたニャンね…」
星歌のその様子を傍目で見ていたウィスパーとジバニャンは、気持ち引きながらそう囁き合った。
それからしばらくして。パソコンに落としたその動画を改めて再生していると、郁代が言った。
「本当にひとりちゃんばっかりですね…」
「なっ何かあった時の記録用にな」
「お姉ちゃん素直になりなよ…」
虹夏は尚も苦しい言い訳を続ける自身の姉の姿に呆れた目線を送りながらそうツッコむと、気を取り直して言った。
「…まあいいや。知名度上げたいし、これを良い感じに編集して動画サイトにアップしよう」
「え、虹夏さん動画の編集もできるんですか!?カッコいいな〜!」
「頼もしいですっ!」
ケータと郁代が目を輝かせながらそう言うと、虹夏は気を良くして言った。
「ふふん、任せなさい」
虹夏がそう言って編集を始めると、他三人が口々に要望を付け始めた。
「あっ私は顔が見えてないカットオンリーで…」
「あの〜、私の顔って編集できますか?加工アプリに慣れてちゃってるから何か素の顔恥ずかしいです」
「ベースイントロなんだから私から始めてよ」
「み、みなさ〜ん、そんな一々注文付けちゃったら虹夏さん困っちゃうから…」
編集を進めていく虹夏に後ろからうだうだと口を出す三人を見かねたケータは、三人をやんわりと止めた。一瞬怒りの感情を露わにしそうになった虹夏は、ケータが自分の為に三人を止めにかかる様子を見て溜飲を下げた。
(ケータくんが三人を止めてくれなかったら、危うく怒りが爆発するとこだった…)
虹夏が早速名誉マネージャーのありがたみを痛感していると、ケータが鞄からペットボトルの緑茶を取り出して言った。
「あ、そうだ。こんなこともあろうかとさっき自販機で緑茶買っときました。虹夏さん、良かったらどうぞ!」
「ありがとう…!」
ケータからもらった緑茶を飲みつつ編集を進めていた虹夏が編集の合間に伸びをしながら肩をほぐしていると、ケータが思いついたように言った。
「虹夏さん、良かったら肩揉みますよ」
「ほんと?じゃあお願いしちゃおっかな〜」
「任せてください!」
ケータはそう言うと、虹夏の後ろ側に回って、虹夏の肩のツボを的確に押した。
「ぁ゙ーそこそこ。ケータくん上手だね〜」
「ありがとうございます!たまにお父さんの肩をこうやって揉んでるんですよ」
「お父さんの肩揉むノリで揉まれてたんかい…。まあ気持ち良かったから良いや!ありがと!」
───そして、ケータの献身的なサポートもあり、動画は思いの外順調に完成した。
「よしできた!」
「結局私たちの要望、少ししか通らなかった…」
リョウが不満そうにそう呟くと、ケータは三人に向けてしれっと言った。
「でも、リョウさんはイントロ以外の時だっていつでもかっこいいですし、喜多さんは加工なんてしなくたって全然綺麗ですし、ひとりさんの顔はいっぱい見えたほうが嬉しいですよ」
「「「!」」」
ケータがそう言うと、三人は顔を赤らめながらだらしなく頬を緩ませた。
「そ、そう。…やはり私のクールさは、イントロ中のみならず演奏中も常に滲み出てしまうものなのか」
「も、もうケータくんったら!そんなこと言ったって何も出ないわよ!…綺麗、綺麗かあ。ふふっ」
「…けいくんは、私の顔がいっぱい見えた方が嬉しいんだ。なら、良いや。うへへへ…」
「…ケータ君、もはや恐ろしいでうぃすね」
「クセ強連中が一瞬で牙を抜かれたニャンね…」
ケータの本心からのその言葉によって一瞬で三人の不満が拭い去られた様子を見て、ウィスパーとジバニャンはもはや恐怖すら覚えかけた。三人の方をちらちらと見遣った虹夏は、少し期待するような目でケータを見て言った。
「…ねえねえケータくん。あたしには何か言ってくれないの?」
ケータは、虹夏から唐突にそのようなことを言われて驚いたが、すぐに気を持ち直して答えた。
「虹夏さんは、いつもみんなのリズムの指標になっていてリーダーとしての頼りがいを感じますし、演奏中にたまに見せる楽しそうな笑顔からは、頼りがいの中に親しみやすさや可愛らしさが感じられてとっても大好きです」
「…そっかそっか、とっても大好き、か…。えへへ…」
ケータのそのまっすぐな言葉の前に虹夏はすっかり顔を赤らめて、三人と同じように頬を緩ませてしまった。ウィスパーとジバニャンはまたまた呆れ顔になり、虹夏に憐れむような視線を向けた。
「まあったくケータ君はなんつー人誑しなんでしょうかねえ…」
「聞いてるこっちが恥ずかしくなるような台詞を恥ずかしげもなく吐いてくるニャンね、アイツ…」
完成した動画をまだ再生していないことを思い出したケータは、未だに顔を緩ませてる四人にツッコんだ。
「…って、みなさん早く動画再生しましょうよ!」
「そうだ、今完成した動画観ようとしてたところなんだった!」
ケータのその一言で正気に戻った四人は、緩みきった頬を引き締めてパソコンの前に向かった。四人が画面の前に並ぶと、虹夏は動画の再生ボタンを押した。
動画を観ながら、四人は無意識の内に、直前まで観ていた同年代のバンドのライブのクオリティと自分たちのライブのクオリティとを比較してしまっていた。…そして。
(他のバンド観た後だから…)
(なんか余計、私たちって…)
((((微妙…))))
「…じゃ、スタジオ練習しよっか」
四人の中に微妙な空気が流れると、虹夏は気を取り直して言った。
「客観的に見ると気づくことってあるよね」
「私の声ってあんなに音にかき消されてたんですね…」
(私、リードギターなのに華がなさすぎる…)
続けて虹夏が反省するように口を開くと、郁代も落ち込みながら言い、ひとりも内心で深くショックを受けた。
ショックを受ける四人を見たウィスパーが、困ったような笑みを浮かべて言った。
「あらまあ、みなさんご自分の演奏のクオリティに大変ショックを受けてしまった様子で…」
「まあこういうのって良くあることだよね…」
「競争の世界に身を置く人間の宿命ニャンねえ…」
ケータとジバニャンが、ウィスパーのその言葉に相槌を返した。
そしてケータは、自分がまだ思い悩む結束バンドの四人の姿をどこか他人事のように見ていることに気づいて、そのことを心の中で深く恥じた。
(…って、いつまでもそんな他人事みたいに思ってちゃダメだ。だってオレは、ひとりさんたちを───結束バンドのみんなをすぐ傍で応援するって、決めたんだから)
ケータは心の中で静かにそう決意を固めると、四人の奏でる楽器の音が聴こえるスタジオの方へと向かった。
「───今日のライブも激良かったすねえ〜」
場所と時間は変わり、新宿FOLTにて。
「客の盛り上がり、過去最高でしたね〜」
マスクを着けた白髪の少女───長谷川あくびは、ソファに座り、疲れの中に確かな満足感を滲ませながらそう言った。
「ねえはーちゃん」
ほんわかとした薄い茶髪の少女───本城楓子は、隣に座るあくびにスマホを見せながら声を掛けた。
「さっきスマホで動画サイト見てたら、新着に面白い名前のバンド上がってて。結束バンドっていうんですけど」
「ほお〜。バンド名は激サムだけど、曲は意外と嫌いじゃないっすねえ」
二人がそう言い合っていると、静かに話を聞いていた先の赤い茶髪の少女───このバンド『SIDEROS』のリーダーである大槻ヨヨコが、声を上げた。
「それ貸して!」
ヨヨコはそう言うと、楓子のスマホを半ば取り上げるようにして手に取った。すると、その表情はみるみる内に冷たくなった。
「───これが?」
ヨヨコは楓子にスマホを突き返すと、続けて言った。
「こんな再生回数百回程度のバンド聴く必要ないわよ!そんな暇があるなら、二週間後またウチに来る未空イナホを感動のあまり大声で叫ばせるようなライブにする為に練習なさい!」
「…ヨヨコ先輩、あの子の劇的な反応が癖になってるっすね」
「まあ、あんな凄い反応してくれた子は初めてだったから、その気持ちもちょっとわかるけどね〜」
二人はそう囁き合うと、ライブ終わりで疲弊した身体に鞭を打ちながらソファから立ち上がった。
どっちだと思う?
-
ぼケー
-
ケーぼ