フツーな少年とぼっちな少女   作:ウロタクサン

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特別幕間その②です。またまたちょいと未来のお話です。


特別幕間②:ひとりのハッピーバースデー

 

今日2月21日は、私、後藤ひとりの誕生日だ。と言っても、今まで友達のいなかった私は、家族以外の誰かに誕生日を祝われたことなど、ただの一度もなかった。もちろん、みんなと食べるケーキは美味しかったし、お父さんとお母さんが私の為にプレゼントを用意してくれるのも嬉しかったけど…。…やっぱり、他のみんなみたいに、友達に誕生日を祝われたいっていう気持ちが強かった。まあ、人に自分から話しかけられない私には、誕生日を祝ってくれるような友達ができることなんて夢のまた夢だったんだけど。

───けど、今年の私の誕生日は、そんな夢が叶うどころか、それよりも遥かに喜ばしいことが起こる日だったのだ。

 

 

朝ごはんを食べ終えてからしばらくして。部屋でギターの練習をしていると、ふとインターホンが鳴った。それからまた少しすると、下の階からお母さんが私を呼ぶ声が聞こえた。

 

「ひとりちゃ〜ん!けいくんが来てくれてるわよ〜!」

「…あえっ!?!?」

 

お母さんのその言葉が耳に届いた瞬間、私は驚きのあまり手に持っていたギターを取り落としかけた。ギターを床に置くと、私は急いで玄関へと向かった。……けけけいくんが片道2時間も掛けて私の誕生日を祝いに来てくれたっていうその気持ちだけで既に嬉しすぎて破裂しそうっていうか初対面の時からずっとそうだったけどけいくんはどこまで私の心をときめかせれば気が済むんだろうもう絶対離さない離したくない君は生涯かけて私が守る守らなきゃいけないんだ私をこんな気持ちにさせたのは君なんだから責任取って私と結こ

 

「あ、ひとりさん!誕生日おめでとう!…どうしても早く祝いたくて、こんな時間からお邪魔させてもらっちゃったけど、もし迷惑だったらごめんね」

「私がけいくんのこと迷惑になんて思うわけがないでしょーがあっ!!!!!」

「うわあっ!?ひとりさん!?」

「ごめんなさいね〜けいくん。この子ったら嬉しすぎて情緒が不安定になっちゃってるみたいで…」

「そ、そうなんですか…」

「…ひとりさんも最近どんどんヤバさが増してきてるでうぃすね」

「本当にこの人にケータを任せて大丈夫ニャンだろうか…」

 

玄関に立っているけいくんのそんな言葉を聞いた私は、これだけ私の心を奪っておいてまだ私とどこか距離を置こうとしているけいくんに怒りに近い感情を覚えて、思わず大きな声を上げてしまった。……もしも今のでけいくんを怖がらせてしまっていたならば、私は己の妖力の全てを以て、私自身に死よりも恐ろしい責め苦を与えようと思う。けいくんを怖がらせておいて楽に死ねると思うな、私。

 

 

 

「ひとりさん、これプレゼントっ!改めて、誕生日おめでとう!」

「ありがとう…!」

 

そんなこんなで私の部屋へとやって来たけいくんは、鞄を探ると、中からラッピングされた円柱形の何かと、紙でできたチケットのような物を取り出して、手渡してくれた。

 

「…開けてみて、良いかな?」

「うん、もちろん!」

 

けいくんが天使そのものの笑みを浮かべながら頷くのを見て、私はいそいそとその包みを開けてみた。

 

「これ…ハンドクリーム?」

「うん!この時期は特に手の乾燥が気になると思って!…あ、でもひとりさんは半分妖怪だから、人間用のハンドクリームは効きが悪いかな…」

 

ギタリストにとって手は命だ。それを分かった上でのこのチョイス。流石は私のけいくん。そもそもけいくんがそれほど私のことを考えてプレゼントを選んでくれたこと自体がもう嬉しい。このハンドクリーム、家宝にしようかな。…いやいや、けいくんの私への想いがこもったものなんだから、使わなきゃもったいなさすぎる。

 

「ううん、すっごく嬉しい!…と、ところでさ」

 

そして私はそのチケットのような紙を手に持って、けいくんに尋ねた。

 

「この、チケットみたいな紙は、一体…?」

「ああ、これはね…」

 

次の瞬間にけいくんが放った言葉によって、私の心が至上の喜びと底なしの穴のように深い悩みに包まれることを、この時の私は知らなかった。

 

「───オレが一回だけなんでもひとりさんの言うことを聞く券!お金で買えるものだけじゃちょっと味気ないかなって思って入れたんだけど…流石にいらないよね、こんなの」

「欲しい欲しい凄く欲しいですそれっ!!!」

「うわわっ!?どうしたのひとりさん!?」

 

どこか恥ずかしそうにしながらそう言うけいくんからその神器を賜ると、大事に大事に、そっと机の中へとしまい込んだ。

あー、何をお願いしようかな…。結婚?…いやいや、流石に早とちりすぎて気持ち悪いか。じゃあ、一日だけ私の部屋で私とずっと一緒にいてもらうとか?……けいくんのプライベートは大切にしたいしな。…うーん。これは想像以上に……悩む!!!

 

「…ひとりちゃん、よっぽど欲しかったニャンね…」

「まあその気持ちは分からなくもないですけどね…」

 

小声で何やら囁き合っていたウィスパーさんとジバニャンさんが私たちの方へと近づくと、懐から何かを取り出しながら言った。

 

「ケータ君、一つ目のフツー過ぎるプレゼントから二つ目で急にヤバいの持ってきましたねえ。私温度差で風邪引きそうになりましたよ。

…っと、これは私からのプレゼントでうぃす、ひとりさん。じゃじゃーん。妖魔界の楽器屋さんで買ったギターピック〜」

「あ、ありがとうございます!」

「オレっちからは…よいしょっと。コレニャン!ケータがよく使ってるのと同じシャンプーニャン!」

「…あ、ありがとうございますぅ…!」

「…あ、鼻の下伸びた」

「もしかしてオレっちのチョイス、失敗だったニャンか…?」

 

ウィスパーさんがくれたギターピックは、部屋でギターを弾く時にでも使ってみよう。妖魔界のギターピックってどんな音が鳴らせるんだろう。ちょっと興味あるな…。

…ジバニャンさんがくれたシャンプーは、今日の夜にでも使ってみよう。明日の枕の匂いが楽しみだなあ…!うへへ…。

 

 

 

───そんなこんなで良い時間になったので、けいくんと一緒に家でお昼ご飯を食べてから、ギターと鞄を背負ってSTARRYへと向かった。

電車に乗っている最中、私はけいくんに、気になっていたことを尋ねた。

 

「そ、そう言えばさ。朝から私の家まで来て祝ってくれたのはほんっと〜に嬉しいんだけど、けいくんの家の場所的にすっごく遠回りになっちゃうんじゃないかって…」

 

私がそう言うと、けいくんは納得したように笑いながら言った。

 

「確かに、ひとりさんの家からよりもオレの家からの方がSTARRYまでよっぽど近いね。それに、交通費だって掛かっちゃうし…」

 

けいくんはそこで言葉を区切ると、私の方を見ながら笑顔で言った。

 

「…でも、オレは今日、どうしても早く、ひとりさんの笑顔が見たかったから。それに、こうしてひとりさんと一緒に電車に乗って話してる時間も、オレは結構好きだし!」

 

…まったく、けいくんは本当に、私の心をときめかせるのが上手なんだから。

私は、今にもけいくんに抱きついて頬擦りしたい衝動と緩む口元を必死に抑えながら、返事を返した。

 

「そ、そっかあ…!じゃ、じゃあ今日はSTARRYに着くまで、二人だけでいっぱいお話しよっか…!」

「…あの〜、一応私たちもいるのですが…」

「オレっちたち、今完全にひとりちゃんに存在を忘れ去られてたニャンね…」

 

 

 

感覚としては5分にも満たなかった2時間が過ぎ去り、電車は下北沢駅へと辿り着いた。ああ、私とけいくんの二人だけの時間が終わってしまう…。

 

「…あの〜、だから私たちもいましたって。元からあーたとケータ君だけの時間じゃありませんでしたって」

「…ウィスパー、ありゃもう何言っても無駄ニャン。今のひとりちゃんの目にはケータしか映ってないニャン」

「恋は盲目とは本当に良く言ったものですね…」

「ひとりさん、早く行こっ!きっとお店のみんなも、ひとりさんにプレゼント、用意してくれてると思うから!」

「…う、うん。でも、けいくんともっと二人でいたいから、ちょっとだけゆっくり行こ…?」

「なーに言ってんの!そんなの、後でいくらでも付き合うよ。さ、早く行こう!」

「ほ、ほんとっ!?うへへ…」

「…やっぱコイツら二人だけの世界に入ってやがんな。空気を読んで黙ってりゃ良い気になりやがって…」

「気持ちはまあ分かるけどとりあえず落ち着けニャンッ!」

「ぶぼっ!?腹殴んのはやめろって!!」

 

けいくん、後でいくらでも付き合ってくれるんだ…!じゃあそうと決まれば、早くSTARRYに行かなきゃ!今日もけいくんにカッコいいところ沢山見せるぞ〜!

 

 

 

 

 

「こんにちは〜!」

「こっ、こんにちは…!」

「お〜、ケータくん、ぼっちちゃん、一緒に来るなんて珍しいね〜!」

「きっと今日はひとりちゃんの誕生日だから、早くから家まで祝いに行ってあげてたのね!粋なことするじゃないのよケータく〜ん!」

「…ケータ。ぼっちだけじゃなくて、私の誕生日もそうやって祝ってね」

 

STARRYへと辿り着いた私たちは、結束バンドのみんなから口々に出迎えを受けた。……リョウ先輩、流石にそれは私が許しません。…私が許さなくてもけいくんは絶対に許しちゃうから、多分どのみち私も許しちゃうけどね。だってけいくんに嫌われたくないんだもん。

 

「…じゃあ、みんな揃ったことだし、早速スタ練、始めちゃおう!」

「おー!」

 

…虹夏ちゃんのノリに乗っかるけいくん、可愛いな。

 

 

 

 

 

そうして練習とバイトを終えた私たちは、けいくんが買って来てくれた飲み物を受け取りながら、汗を拭いて帰り支度を進めていた。

 

「ふ〜!お疲れ様です!今日のみんなもカッコよかったですよ!」

「ありがと〜!ケータくんもいつもお疲れ様!」

「今日もいっぱい手助けしてもらっちゃったわね!いつもありがとう!」

「名誉マネージャーなので当たり前ですよ!」

「ケータ。名誉マネージャーたる者、メンバーのボディケアとメンタルケアは当然。ちょっと向こうで私の肩を揉みながら、愚痴を聞いて欲しい」

「任せてください、リョウさん!」

「…リョウ先輩、変な冗談はやめてください」

「冗談なんかじゃないよ、ぼっち」

「「むむむむむ…」」

「はいストップ!ストーップ!!二人とも、ケンカするならオレもうしばらくは二人に口聞きませんからね!」

「ケ、ケンカなんかしてない。私たち超仲良し。ねーぼっち。…だからその不穏な言葉は今すぐ取り消して。お願い」

「は、はいリョウ先輩。わ、私たちはケンカなんてしてないよ〜。…だから、口聞かないなんて言わないで。けいくんに無視なんてされたら、私死んじゃう…」

「…すげー。ケータくん、あの二人を完全にコントロールしてる…」

「自分を慕う人間や妖怪の扱いが上手なところも、ウチのケータ君の魅力の一つでうぃす!えっへん!」

「なんでお前が誇らしげにしてるニャン…?」

 

私がけいくんから死刑宣告を受けかけたその時、結束バンドのみんなが思い出したように口々に言った。

 

「あ、そうだ!あたしたちもぼっちちゃんにプレゼント用意してたんだった!…喜多ちゃんは心配ないとして、リョウも流石に用意してるよね?」

「もちろんですよ!」

「私も抜かりないぜ」

 

三人はそう言いながら、私に包みを差し出してきた。

 

「はいっ!あたしからは化粧水とヘアオイル!ぼっちちゃん元から奇跡的なまでに肌艶も髪艶も良いけど、女の子なんだからもっと美容には気を遣わなきゃ。ケータくんに見せても恥ずかしくないようにしようね!」

「あ、ありがとうございます…!」

 

…そっか。今までずっと洗顔とシャンプーだけで済ませてきたけど、私もそろそろ美容に気を遣った方が良いよね。将来的にずっとけいくんに見せるものになるんだから…。けいくんの目に入る私は、いつだって最大限かっこよくて、頼りになって、そして綺麗でなくちゃならないんだ。

 

「私からは、ギターの替えの弦と簡単な化粧セットよ!伊地知先輩の言う通り、いつでも好きな男の子に見せて恥ずかしくない自分でいること!それにケータくんは歳下でもあるんだから、かっこいいところも沢山見せられるようにしなくちゃね!」

「ありがとうございますっ…!」

 

喜多ちゃんの言う通りだ。今までの私は、ちょっとだらしがなさすぎた。…でも、いきなり普通の女の子みたいに化粧とかおしゃれとか始めるのも、それはそれで私の性分とは違う気がする。だから、私は私のままでかっこよく、綺麗になって、私のままでけいくんを愛して、そしてけいくんに愛されてみせる。…まあ、ほんの少しくらいは着飾っても良いかもしれないけど。

 

「私からは、ノイズキャンセリング機能付きの高音質ワイヤレスヘッドホンと、作詞用の大学ノート3冊と、前借りてた2000円。…ぼっちは憎っくき恋敵だけど、私たちの頼れる作詞担当にしてリードギターだから、プレゼントに妥協はしない。……負けないからね、ぼっち」

「ありがとうございます。……例えリョウ先輩でも、勝たせるつもりなんて、ありませんから」

 

リョウ先輩、本当に良い物くれたなあ。…借金返済も同時に済ませちゃうところが、何ともらしいけど。

……でも、けいくんのことは絶対に奪わせませんよ。リョウ先輩でも、容赦はしません。

 

「…じゃあ、今日のところはこれで解散!明日はお休みだから、みんなゆっくり羽根を伸ばしてね!」

 

もうすっかり暗くなった空を見た虹夏ちゃんがそう言うと、喜多さんとリョウ先輩はそれぞれ荷物を背負って私たちに手を振りながら、STARRYを出た。

 

「じゃあまたね、ひとりちゃん、ケータくん!暗いから気をつけて帰るのよ〜!」

「はっはい…!」

「はい!喜多さんも気をつけてくださいね!」

「ばいばいぼっち、ケータ。…ケータの誕生日も祝ってあげるから、また次会った時、いつが誕生日か教えてね」

「…はい、また明後日に」

「ホントですか!?嬉しいですっ!じゃあ、また次会った時に言いますね!」

 

…私はもう、けいくんの誕生日がいつなのか知ってます。抜け駆けなんてさせませんからね、リョウ先輩。

 

 

二人がSTARRYを出た後、私はけいくんに声を掛けた。

 

「じゃあ、私たちもそろそろ帰ろっか…!」

「うん!…虹夏さん、さようなら!」

「ばいば〜い!…ぼっちちゃん、ウィスパーさん、ジバニャンちゃん。もうすっかり暗いから、ケータくんのことちゃんと守ってあげるんだよ!」

「…当たり前です」

「この私がいれば安心でうぃす!」

「オレっちに任せるニャン!」

 

帰り際に店長さんとPAさんから誕生日プレゼントの臨時ボーナスを貰いつつ、私たちはすっかり暗くなった寒空の中、駅へと向かった。

 

 

 

 

 

駅前で電車を待っている時、けいくんはふと、私に声を掛けてきた。

 

「そう言えば、ひとりさん。あのチケットでオレに何をお願いするのか決まった?」

「うん…!」

 

けいくんのその言葉を聞いた私は、にっこりと笑いながら頷いた。…実は今日、いつものように練習やバイトをしながら、ずっとそのことについて考えていたのだ。そしてその結論は、虹夏ちゃんの「明日はお休み」という一言が最後のピースとなって生まれた。

私が、けいくんにお願いしたいこと。それは。

 

「───明日一日だけ、人間の高校生でも、結束バンドのリードギターでも、ましてやギターヒーローでもなく、天野景太のともだち妖怪の後藤ひとりとして、けいくんと一緒に過ごしたいです」

「…!」

 

私がそう言うと、けいくんは驚いたように目を見開いた後、嬉しそうに笑いながら言った。

 

「あははっ、なにそれ〜。…でも、嬉しいよ。ひとりさん。分かった。明日7時くらいに、こっちに呼ぶから」

「…うん!待ってるねっ!」

 

私は笑顔でそう言うと、けいくんに手を振って金沢八景行きの路線に足を運んだ。…明日が、楽しみだ。早く来ないかな。

 

 

 

 

 

 

 

そして、私は家に帰ると、今日みんながくれた誕生日プレゼントの包みを開いて、取り出したその中身をそれぞれの場所に置いた。ジバニャンさんがくれたシャンプーと、虹夏ちゃんと喜多さんがくれた化粧類は、ペンで名前を書いて洗面台に。ウィスパーさんがくれた妖魔界のギターピックと、喜多さんがくれたギター弦と、リョウ先輩がくれたヘッドホンと大学ノート3冊は、押し入れの中に。リョウ先輩が返してくれた2000円と、店長さんとPAさんがくれた臨時ボーナスの入った封筒は、その中身を丁重に貯金箱の中に。…そして、けいくんがくれたハンドクリームは、枕元に置いた。

プレゼントを一つ一つ置いている内に、私は改めて、今の自分が多くの人に恵まれていることを痛感した。ひとりぼっちだった私が、一歩踏み出したことでこんなにも変わることができた。…でも、その一歩で得たものだって、あの日けいくんが助けてくれなければ、全てがダメになっていたかもしれなかった。だから。けいくんが私にしてくれたように、私もけいくんを助けてあげたい。ただ義理を返したいんじゃない。私は───天野景太くんのことが、心の底から大好きなんだ。私が、私自身が、彼を幸せにしたいんだ。

私はそんなことを思いながら、いつものように晩ご飯を食べて、お風呂に入って、歯を磨いて、そして眠りに就いた。思いの外疲労が溜まっていたようで、ぐっすりだった。

 

 

そして、次の日の朝。早くに目が覚めた私は、歯を磨き、朝食を食べて、しばらくギターを弾いた後、けいくんの家からでも学校に行けるようにと制服のスカートと教科書が入った鞄を持ちながら、けいくんの召喚を今か今かと待ち望んでいた。昨日お父さんとお母さんに今日のことを話したら、二人とも親指を立てながら無言で深く頷いてくれた。

時計の針は、今6時58分を指している。けいくんが呼び出してくれる約束の時間まで、あと2分。…この2分間は、昨日けいくんと一緒に過ごしていた電車の中での2時間よりも、圧倒的に長く感じられた。

───あと1分。私の体がまだ人間のものである証の、心臓の鼓動が高まる。1分後にはこの鼓動も既に消えているだろう。

─────あと30秒。早く。早く逢いたい。愛しい私のともだち(想い人)に。心臓の鼓動はさらに高まる。

───────あと5秒。4、3、2、1…………0。

時計の針が7時を指した瞬間、私がこの永遠にも思えるような2分間に何よりも待ち望んでいた声が、頭の中に響いた。

 

『オレのともだち、出てこい、ひとりさん!妖怪メダル、セットオン!』

 

けいくんのその凛々しい声にうっとりしながら聞き惚れていると、頭の上に、ピンク色の経文が書かれた光の帯が現れた。私は瞬時にそれに飛び込むと、視界がまばゆい光に包まれた───

 

 

 

 

「あ、ひとりさん!おはよう!」

「おはようございますひとりさん!」

「おはようニャン!」

 

閉じていた目を開くと、私はけいくんの部屋にいた。私は思わずだらしのない笑みを浮かべながら、けいくんに抱きついた。

 

「うへへへへぇ…。ちゃんと呼び出してくれたね、けいくん…」

「ちょわっ!?……当たり前だよ!だって約束したもんね!」

 

突然抱きついてきた私に戸惑いながらも、ちゃんと返事を返してくれるけいくん。好き。結婚して。

 

「…あの、そろそろ恥ずかしいから、離してもらえると…」

「……わかった」

 

しばらく抱きついていると、けいくんが顔を赤らめながらそう言った。…むう。午前の間はずっとこうしていたかったけど、けいくんに言われちゃったら仕方ない。

 

「そうだ!ひとりさん、今日映画観に行こうと思ってたんだけど、ひとりさんも一緒に行く?…ひとりさんが好きなタイプの映画かどうかは、分からないけど」

「行くっ!!けいくんと映画デートッ!!!」

「うわわっ!?」

「あの〜一応私たちも同伴するんですけれども…」

「ひとりちゃん、昨日からずっとこんな調子ニャンね…」

 

けいくんからあまりにも素晴らし過ぎる提案を受けた私は、二つ返事で了承した。…けいくんと映画デートなんて、楽しいに決まってる。どんなジャンルでも、隣にけいくんがいるだけで楽しく観れる気がする。…映画よりも、映画を観ているけいくんの方にばっかり視線を向けそうだけど。

 

 

そして、その日の私はけいくんたちと一緒にアクション映画を観たり、聞き分けのないいたずらな妖怪さんを私の力で追っ払ったり、さくらニュータウンの街をなんとなく歩いて、アッカンベーカリーでけいくんが買ってくれたパンを食べてみたり、けいくんやヒキコウモリさんたちとボードゲームで遊んだりと、色々なことをやった。けいくんの家に居候させてもらっていた時のことを思い出して少し切なくもなったが、とっても楽しかった。

 

 

───そして、その次の日の朝6時30分。つまりは月曜日。案の定というか、私はけいくんと離れたくなさすぎて、けいくんに泣きついていた。

 

「いやだああ…!もっとずっとけいくんと一緒にいたいい…!学校に行きたくないい…!お願いけいくん、もう一日、もう一日だけけいくんのともだち妖怪として過ごさせてえ…!」

「わーちょっとひとりさん!?オレは別に構わないけど、それ後でひとりさんが困っちゃうヤツだから!それに結束バンドだって今大事な時期でしょ!!」

「分かってるよお、分かってるけど、それでも君と離れたくないんだよお…!」

「…こりゃあ重症でうぃすね」

「正直薄々こうなるだろうなとは思ってたニャン…」

 

ウィスパーさんとジバニャンさんの呆れを含んだ目線を背後に受けながら、それでも諦めきれずに私はけいくんに泣きつき続けた。

…私の手を引っ張って、こんな明るい世界に連れてきたのは君だよ。もう私は、元の暗い世界になんて戻れない。私は君に変えられちゃったんだから。だから───その責任、ちゃんと取ってよね。天野景太くん。

 

 

 

 

 

 

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