フツーな少年とぼっちな少女   作:ウロタクサン

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17.聖夜のライブと、思わぬ再会

 

そして、クリスマスライブ当日。ちょうど昨日に終業式を終えたケータは、ひとりと共に新宿へと向かう為、さくら中央シティ駅にて待ち合わせをしていた。

 

「いや〜、今日のライブ、楽しみだよね!」

「ええ!何しろ今日は、インディーズバンド界隈ではかなりの有名どころらしいSICK HACKや、結成から一年足らずでワンマンライブをするほどの人気を誇るSIDEROSの演奏も聴くことができますからねえ!私も楽しみ過ぎて昨日は夜8時間しかしか眠れませんでした!」

「オレっちはもちろん、ひとりちゃんたち結束バンドの演奏も楽しみニャン!」

「私だってもちろんひとりさんたちのことも忘れちゃいませんとも!」

 

駅に辿り着いたケータが、ウィスパーやジバニャンと楽しげに雑談をしていると、いつものジャージの上に防寒着を着込んだひとりが現れた。

 

「ご、ごめんね、けいくん。待たせちゃったかな」

「ううん。大丈夫だよ、ひとりさん」

「そっか…!それじゃあ、一緒に新宿、行こっか!…ふへへ、なんだか今の会話、恋人同士、みたいだったね」

「…そ、そうかもね」

 

ひとりがだらしなくニヤけながらそう言うと、意識したケータは少し顔を赤らめながら返事を返した。そんな二人の様子を見て、ウィスパーとジバニャンは呆れたように囁き合った。

 

「あーあ、ま〜た始まったよこのバカップル共…」

「コイツら、最近になって更に露骨にイチャつくようになった気がしてならないニャン…」

 

ひとりとケータは、そんなウィスパーとジバニャンの言葉などまるで耳に届いていない様子で雑談を始めた。

 

「けいくん、これから新宿まで行くけど、怖くない?」

「ううん、大丈夫。ひとりさんこそ、緊張してない?」

「私は…うう、正直、かなり怖い…」

「ひとりさんなら大丈夫だよ!だって、練習だってみんなと一緒にあんなに頑張ってきたじゃない。ひとりさんの頑張りは、オレが知ってるから」

「けいくん…!…ふへへ、けいくんが見ててくれるって思うと、なんだか怖くなくなってきたよ。…でも、まだちょっと怖いから、手、繋いで励まして欲しいな…?」

「うん、もちろん!」

 

ひとりがそう言って右手をおずおずと差し出すと、ケータは笑顔で、その手を左手で握り返した。ひとりは顔を赤らめながら、ボソボソと言った。

 

「…あっ、できれば指も絡めてくれると…」

「天下の往来で恋人繋ぎを要求しないでくれます?」

 

ウィスパーのそのツッコミと共に、新宿行きの電車がやって来た。ケータたちはその電車に乗り込むと、人の多い電車に揺られながら、新宿へと向かった───

 

 

 

 

「本日お世話になる結束バンドの実質的なマネージャーを務めさせていただいている天野景太です。お邪魔しま〜す…」

 

そして、ケータたちは新宿FOLTの扉の前へと辿り着き、ケータがひとりに守られながら扉を開くと、野太い声をしつつもどこか女性的な雰囲気を纏った男性が、笑顔で出迎えてくれた。

 

「あら!結束バンドのリードギターの後藤ちゃん…と、きくりとイナホちゃんが言ってた天野景太くんね!いらっしゃ〜い!私は新宿FOLT店長の吉田銀次郎よ。気軽に銀ちゃんって呼んでね!」

「これまた物凄く個性的な方が出てきましたね…」

「バンドに関わる人間ってヘンなヤツしかいないのかニャン…?」

(…あれ、今あの人『イナホちゃん』って言ってなかった…?)

 

ウィスパーとジバニャンがそう口々に反応する中、銀次郎の発言の中に出てきたとある名前が気にかかったケータは、銀次郎におそるおそる尋ねた。

 

「あのっ…!銀ちゃん…さんはイナホさんをご存知なんですか?」

「知ってるどころか、可愛いお客様よ〜!今日もきっとライブを観に来てくれるんじゃないかしら〜!」

 

銀次郎が嬉しそうにそう言うと、ケータとウィスパーとジバニャンは大いに驚いた。

 

「「「……えぇーーーーっ!?!?」」」

「け、けいくんたち、どうしたの…?」

 

ひとりが少し心配そうにケータたちの方を見遣ると、気を取り直したウィスパーが顎に手を当てながら口を開いた。

 

「…これはまさしく妖怪不祥事案件で言うところの『特殊な境遇や能力を持った人間同士ってなんかやたら色んなとこで思わぬ遭遇しがちだよね』ですねえ…」

「そりゃ妖怪不祥事案件ってか、ただのアニメや漫画におけるあるあるニャン…」

 

ジバニャンがウィスパーにそう冷静にツッコミを入れていると、ひとりが首を傾げながら尋ねた。

 

「あの…前にもちょろっと名前出してたけど、その『イナホ』って子は一体…?」

 

ひとりのその質問を受けたケータは、何かを思い出したように申し訳なさそうにしながら言った。

 

「あ、そっか。ひとりさんはまだ、イナホさんが誰のことか分からないんだっけ。…ごめんね。勝手にこっちで騒いじゃって」

「う、ううん!気にしないで!」

 

ひとりが慌てて首を振ると、ケータは安心したような顔になりながら口を開いた。

 

「ちょうど1週間くらい前に、ひとりさんが助けてくれた男の子のお姉ちゃん。オレの隣にいた、あの眼鏡の女の子が未空イナホさんだよ」

「……そっか。あの子が」

「…ひとりさん?」

 

ひとりが据わった目でそう呟く様子を見て、ケータはどことなく不穏な気配を感じた。

そして二人のやりとりを不思議そうな顔で見ていた銀次郎は、時計の針を見ると、焦ったように二人に声を掛けた。

 

「あらいけない、もうこんな時間!後藤ちゃんたちもそろそろスタジオに急いだ方が良いわよ!練習する時間は長い方が良いでしょ!」

 

銀次郎のその言葉で正気に戻ったケータは時計の針を見遣ると、焦ったようにひとりの手を引きながらスタジオへと向かった。

 

「あっ、そうだった!銀ちゃんさん、ありがとうございます!ひとりさん、急ごう!」

「あっえっけいくん、そそんな急に手なんて握られちゃったら、私、わたしっ…!」

「言ってるばやいですか、急ぎますよひとりさん!」

「イチャつくのはとりあえず後にしろニャンッ!」

 

こんな状況でも構わずに赤面しながら頬を緩めだすひとりを力強く引っ張りながら、ケータとウィスパーとジバニャンは急いでスタジオへと向かった。

 

 

 

そして、ひとりたちはスタジオへと辿り着き、結束バンドの面々とも顔を合わせると、挨拶もそこそこにリハーサルに入った。

 

「じゃあドラムさん、キックお願いします!」

「はい」

 

虹夏がキックを踏む中、ひとりは改めて、今日これから自分たちが参加するライブに対してのプレッシャーを感じていた。

 

(あと少しでここのスタジオに500人が入るんだ…。そう考えると、今まで以上のプレッシャーかも…)

 

でも、ひとりは心の中に、未確認ライオットのグランプリを獲るというあの日仲間たちとともに交わした決意とケータの輝くような笑顔を思い浮かべると、そのプレッシャーを振り切った。

 

(…でも、フェスではもっと大勢の前で演奏するんだから、こんなところで怖気づいてちゃダメだ。私たちはあの日、みんなでグランプリを獲るって決めたんだから。…何より、私はけいくんが初めて私たちのライブを観た時のあの笑顔が、どうしても忘れられない。またけいくんのあの笑顔を見る為にも、こんなところで立ち止まってちゃ、ダメなんだ)

 

プレッシャーを振り切ったひとりの瞳には勇気の輝きが宿り、その身体からは徐々に眩い輝きが溢れ出した。

 

(今こそみんなに、けいくんに、パワーアップした後藤ひとりを見せるんだ───!)

 

そしてひとりはバッと立ち上がると、身体中から煌めくオーラを迸らせた!

 

「ぼっちちゃんがなんか輝き出してる!」

 

リハーサルを終えた虹夏がひとりの方を見遣りながら驚いて声を上げると、ウィスパーが叫んだ。

 

「あ、あのオーラはひとりさんの妖力でうぃす!」

「……ええっ!?」

 

虹夏が驚いて声を上げると、続けてひとりの方を見たジバニャンが叫び、ケータが小声で付け加えた。

 

「でもでも、あんな激しいオーラ、中々見ないニャンよ!?」

「本気のバトルしてる時のオロチとかキュウビくらいのオーラだよねアレ…?」

 

ウィスパーはパッド片手にひとりの方を見遣りながら、推測を始めた。

 

「えーと…アレは恐らく、この前ひとりさんがケータ君に呼び出されて初めて本格的に妖怪としての力を使ったおかげで、彼女の身体が徐々に妖怪の力に慣れてきた結果、彼女の持つ本来の妖力が覚醒し始めているのかもしれません。そしてライブに向けた気迫など諸々の精神的要因が加わった結果、その溢れ出る妖力が身体の外に漏れ出ているようでうぃすね…」

「マジニャンか…!?」

「今のひとりさんは人間なのにそれだけのオーラ出せるって、ひとりさんの本当の力どんだけ強いの…」

「私には良くわからないけど、とりあえず凄いことになってるのね…」

「いつぞやの超スーパーぼっちの再来だね」

 

ひとりがキラキラ輝き、傍でその様子を見ていた虹夏たちがそう言い合う中、スタッフが郁代に声を掛けた。

 

「ボーカルさん、ギターお願いします」

「あ、はい!」

(喜多ちゃんは大丈夫そうだね…)

 

スタッフのその言葉とともに、郁代は毅然とした表情でギターを鳴らした。その様子を見た虹夏が安心していると、スタッフは続けて郁代に声を掛けた。

 

「ボーカルください」

「…〜〜〜っゲホッゴホッヴェホッ!!!」

「口の中カラカラになってる!」

「この人たちホントに大丈夫かオイ…」

「不安ニャンね…」

「いや、なんとかなるよ。っていうか、なんとかしなくちゃいけないんだ。…喜多さん、お疲れ様です!お水どうぞ」

「け、ケータくん。ありがと…カヒュッ…」

 

緊張のあまり口の中がカラカラになっている郁代の方を見ながら虹夏たちがそう言い合っていると、リハーサルを終えた郁代が咳をしながら近づいてきた。見かねたケータが郁代に水の入ったペットボトルを渡すと、郁代は息も絶え絶えにそれを受け取った。

 

「ギターさんお願いします」

「は、はいっ!」

 

スタッフがひとりに声を掛けると、ひとりはオーラを身に纏ったまま勇ましくギターを弾き始めた。

 

(…なんか眩しいな。照明ちょっと強過ぎたかな?っていうかこの子だけなんかやたらと上手くないか?…まあ、気のせいかな…)

 

スタッフはひとりの演奏を聴きながら少し怪訝そうに首を傾げると、すぐに気を取り直した。

 

 

(この人たち、本番数時間前でまだこんな調子って…。後藤ひとりは随分上手かったけど、他の人たちは下手くそ過ぎ…。二度とこんな間違いが起こらないように、姐さんにはキツく言っておかないと)

 

そんな結束バンドの様子を近くで見ていたヨヨコは、心の中で悪態をついた。

 

『じゃあ、2曲目のサビだけやろう』

『はい!』

「……」

 

虹夏と郁代のその遣り取りが耳に届いたヨヨコは、改めて四人の方を見据えると、静かに楽屋へと足を運んだ。

 

 

 

 

「ぼっちちゃん以外リハで走っちゃってたから本番は気をつけてね」

「わかりました」

 

リハーサルを終えた結束バンドは、楽屋にて休憩しつつリハーサルの反省会をしていた。

 

「SIDEROSとSICK HACKのリハ凄かったわね…」

「あっですね…」

「…ひとりちゃんのギターも、なんかいつもよりも凄かったけどね」

「…?」

 

郁代がどこか落ち込んだ様子でそう言うと、ひとりはそれに相槌を打った。しかし、その後の郁代の小声の呟きを聴き取ることは、ひとりにはできなかった。そして、郁代は殊更に落ち込んだ様子で口を開いた。

 

「私あの二人に比べたら全然歌上手くないし…」

「あっ私のギターも全然…」

「…ひとりちゃん、謙遜は時に人を深く傷つけるものよ」

 

郁代は心底ダメージを受けた様子でそう弱々しく呟くと、思い直した様子で口を開いた。

 

「…でも、こうなったらもう、ライブパフォーマンスをド派手にするしか、技術の足りない私たちがお客さんを楽しませる方法はないわね…」

「あっですね…」

「じゃあ負けた方のギター叩き壊すってことで…」

「じゃんけんぽ…」

「会場ドン引きだよ!!」

「ひとりさんも喜多さんも考えが極端過ぎるし発想が怖いよ!!…ハッ、ねえウィスパー、ジバニャン。まさかこれって妖怪の仕業じゃ…?」

「ええ、これは流石に妖怪の仕業でしょう…!」

「ケータ、今すぐひとりちゃんたちの辺りをウォッチで照らしてみるニャン…!」

「うんっ…!」

 

ケータがそう頷きながら、楽屋全体にウォッチのサーチライトを隈無く照らすと、いつもの如く人に取り憑いて悪さをする妖怪が現れ───なかった。どこをどう照らしても、妖怪が姿を現さないことに、三人は深く衝撃を受けながら顔を見合わせた。

 

(……妖怪のせいじゃない!?)

(…ってことは、もしかして…)

(ひとりちゃんは当然として、喜多ちゃんの……いや、結束バンドのみんなのおかしなところは…)

 

三人はお互いに頷き合いながら、お互いが同じ結論に達していることを確認した。…三人が出した結論。それは。

 

(((完全に………素!!!)))

 

ひとりと郁代の───いや、結束バンドメンバーの性格や行動、及び思考回路の異端さは、妖怪とか関係なく、彼女たち自身が元々持っている性質によるものである、という結論だった。

人も妖怪もみな、大なり小なりどこか狂った部分を持っている。それはこの三人とて同じことなのだが───結束バンドの()()は、この三人の()()よりも、大きく上を行くものだった。三人は、結束バンドのメンバーとの付き合いを深めていく内に、そのことを痛感していた。結束バンドのメンバーは全員基本的に心優しく常識的な人間であるが故に、三人がこの瞬間に感じていた衝撃も殊更に深かった。

 

「ぼっちちゃん、喜多ちゃん。お客さんたち廣井さんのファンだしさ。きっと温かく迎えてくれるよ」

「…廣井さんのファンだから、余計怖くないですか?」

「そりゃ確かに…。…あれ、ケータくんたち、どうしたの?」

「い、いえっ!!なんでもありません!ハハ、ハハハハ…」

「…なんでちょっとあたしたちと距離置いてんの?」

 

あからさまに愛想笑いを浮かべているケータの方を見た虹夏が少し傷ついたように尋ねると、リョウが口を開いた。

 

「…今日の客は荒れてるぜ、気をつけろ」

「えっなんで!?あたしたちそんなに歓迎されてない!?」

 

ケータたちも驚いてリョウの方へと視線を向けると、リョウはしれっと言った。

 

「わざわざクリスマスイブにロック聴きに来るヤツなんて恋人のいないヒマ人に違いない」

「偏見が過ぎるニャン!!」

 

ジバニャンがリョウのその言葉にツッコミを入れていると、ケータがおずおずと口を開いた。

 

「オレはカップルの人達もクリスマスイブにロックバンドのライブくらいフツーに来ると思いますけど…」

「だよねえケータくん。全くリョウったら偏見ばっかり持ってるんだから…」

「クリスマスライブでデート、良いですね!」

「よ〜し!そうと決まれば、今日は私たちがみんなのサンタさんだよ!素敵なライブをプレゼントしよっ!」

 

ケータの言葉に頷いた虹夏がそう言うと、ひとりとリョウは表情を歪めた。

 

((私たちの音楽がカップルを盛り上げるBGMに…!?))

「結束バンドの曲でそんな雰囲気にはならないと思いますが」

 

ウィスパーのその言葉に虹夏がうんうんと頷いていると、リョウとひとりは深く落ち込みながら言った。

 

「なんでこんな日まで幸せな人間の為に演奏しなきゃいけない…」

「この歌詞を共有したいのに…私もけいくんとクリスマス過ごしたいのに…」

(二人ともクリスマスだから卑屈度上がってるな〜…。つかそんなこと言ってるけどぼっちちゃんはカップル予備軍じゃん…)

 

虹夏は二人に呆れつつも、気を取り直してひとりに声を掛けた。

 

「ぼっちちゃん家はクリスマスとか楽しそうじゃん!」

「あっ家族とのパーティーは楽しいんですけど、12月はギターヒーロー宛のリクエストがラブソングばっかりで…」

 

ひとりはそこで言葉を区切ると、更に落ち込んだ様子で続けて言った。

 

「…10曲くらい弾いた辺りで耐えられなくなって、その後は暗い部屋でお経を流して仏像に囲まれながら『私は仏教徒』ってずっと呟いてました…」

「何急に怪談!?」

「…ひとりさんの妖力があれだけ強い理由、なんだか分かった気がしますねえ」

「陰の気も集中力も強いから、妖怪としての力も強くなったニャンねえ…」

 

ウィスパーとジバニャンがそう囁き合っていると、見かねたケータがひとりにおずおずと言った。

 

「ひ、ひとりさん。もし良かったら、これからのクリスマスはいつでもオレん家に遊びに来なよ」

「………うぇっ!?本当に…!?」

「うん!なんならクリスマスだけじゃなくて、いつでもおいでよ!ひとりさんが行きたいって思った時にさ!」

「そ、そっかあ…!それじゃあ、明日早速、良いかな…?」

「待ってるね!」

「……ふへへっ。やっぱりけいくんは、優しいなあ…」

 

ひとりがケータのその言葉にだらしなく頬を緩めていると、リョウが咎めるように口を開いた。

 

「…ぼっち。ケータとイチャコラするのは結構だけど、それで面白くない歌詞書くようになったら、私は承知しないからね」

「…わかってます」

 

ひとりが胸の前で拳を握りしめながらそう呟くと、虹夏は心の中で不安そうに言った。

 

(みんなの緊張、中々解けないなあ…。大槻さんも何故かずっとこっちを睨んできてるし、余計萎縮しちゃうよ〜。…なんだかあたしも、初めてライブした時のこと思い出して不安になってきちゃったな)

 

空間を包んでいたその緊張感を打ち破ったのは───まさかまさかの、天野景太だった。

 

「───あっ、ヨヨコさん!お久し振りです!リハーサルとってもかっこよかったです!今日はよろしくお願いしますねっ!」

(…って、ケータくん!?なんか大槻さんにめちゃくちゃ懐いてない!?)

 

虹夏が驚く中、ケータにそう声を掛けられたヨヨコは、どこか満更でもなさそうにしつつ口を開いた。

 

「…っ!ひ、久し振りね、天野景太。ちゃんとやってるのかしら?」

「至らないところも多いですけど、精一杯やらせてもらってます。温かく見守ってくれてるみんなの優しさに応えられるように、これからも頑張りますっ!」

「…ふんっ!成長し続けたいなら、その謙虚さを持ち続けなさい。…でも、無理だけはするんじゃないわよ」

(大槻さんと話してる時のけいくん、なんかとっても楽しそうだな。……むう)

 

ひとりが楽しそうにヨヨコと話すケータを見ながらむくれていたその時、傍でその様子を見ていたSIDEROSのメンバーが、ぞろぞろとケータに近づきながら声を掛けた。

 

「貴方が天野景太くんっすね。この前ここに遊びに来た未空イナホって女の子から聞いたっす。あ、自分は長谷川あくびっす。どうかよろしくお願いしますね」

「あ、やっぱりイナホさんのこと知ってたんですね!よろしくお願いします、あくびさん!」

(えっ!?天野景太って未空イナホの知り合いだったの!?…そう言えば未空イナホも、天野景太のと似たような腕時計を付けていたような…)

「私は本城楓子です!ケータくん、礼儀正しくて良い子だね〜。これからよろしくねっ!」

「よ、よろしくお願いします。…楓子さん」

「私は内田幽々ですぅ〜。…おやまあケータさん、話に聞いてた通り、沢山の妖怪さんをお連れのようですねぇ〜」

「…えっ!?幽々さん、まさか妖怪のことが見えるんですか!?」

「な、なんですと〜!?きくりさんに続いてまたもや私たちのことが見える人が…!」

「ニャンと!?こりゃ驚きニャン…」

「はい〜。私の魔力によって、サタン様から悪の力を授かっているんです〜。あっ、サタン様っていうのはこのぬいぐるみのルシファーちゃんとベルゼブブちゃんのことでえ…」

「そ、そうなんですね、なるほど〜…」

(…幽々ったら相変わらず変なこと言ってるわね。いやでも、天野景太もなんか幽々と同じ物が見えてるような反応してたし…。…ま、まさか、ね)

 

またすげえ人達が現れたなと三人が放心していると、虹夏たちの緊張に気づいたあくびが、その緊張を解す為に声を掛けた。

 

「あ、結束バンドのみなさんもそんな心配しなくて大丈夫っすよ〜。…自分らがどんなライブをしようが、どうせ最後はめちゃくちゃになるんで」

「あ、ありがとう…」

 

虹夏がおずおずと返事をすると、あくびは続けて言った。

 

「結束バンドの曲、自分は好きっす!同年代のバンド少ないんで仲良くしましょう!」

「こちらこそ〜!メンバーの入れ替わりが激しいって聞いてたからもっと殺伐とした雰囲気なのかと思ってたよ」

「あ〜それは…」

「結束バンド」

 

あくびが虹夏に、SIDEROSのメンバーの入れ替わりが激しい理由を説明しようとしていたその時。突如としてヨヨコが声を上げた。

 

「ゲストだからってSIDEROSと同じ土俵に立ったと思わない方が良い。言っとくけど私のトゥイッターフォロワー数は1万人だから」

「突然急カーブして謎のマウント取ってきた!?」

「やっぱバンドマンって変な人しかいないんでしょうか…」

「…今度楽器やってる妖怪の友達に聞いてみるニャン…」

「ヨヨコさん…」

 

ケータが少し失望したような視線をヨヨコに向けていると、ヨヨコは慌てて取り繕いながら言った。

 

「そっそのくらい人を惹きつけてるってこと!幕張イベントホールの収容人数と同じくらいにね!」

「へー」

「それでしたら、私も…」

 

リョウが興味なさそうに相槌を返すと、郁代は徐ろにスマホを取り出して、自身のイソスタのアカウントを立ち上げた。

 

「イソスタで最近人気投稿に入ったみたいで、1万5千人いるんですけど…」

「なっ!?」

「喜多ちゃん武道館じゃん!」

 

虹夏が驚いてそう言うと、ヨヨコは苦しげな表情をしながら叫んだ。

 

「〜〜っバンドマンなら演奏技術で勝負しなきゃダメでしょーがっ!」

「自分から言い始めたのに!!」

 

虹夏がそうツッコむと、あくびは呆れながら言った。

 

「…とまあ、こんな感じで大槻先輩のコミュニケーションが下手すぎて人間関係が上手くいかないだけです」

「なるほど」

「あのキツい態度はそういうことだったニャンねえ…」

「ヨヨコさんはきっと、物言いこそキツいけどなんだかんだで心優しい人なのでしょうね。なんせウチのケータ君が懐くくらいですから!」

 

虹夏が納得したように呟き、傍で遣り取りを聞いていたジバニャンとウィスパーがそう言い合っていると、あくびが頭を下げながら言った。

 

「ウチの先輩が迷惑かけて本当にすみません…」

「でも、みんな良い感じにリラックスできたんじゃないですかあ?」

「あ、言われてみればそうかも」

 

幽々がそう言うと、虹夏は自分の緊張がいつの間にか解れていることに気がついた。

 

「凄いね。あたしたちと歳変わらないのに、こんなに落ち着いてて」

「いや〜、自分たちも毎回緊張してますよ」

「うんうん」

 

虹夏がそう言うと、あくびも幽々も、首を振りながら言った。あくびは続けて、口を開いた。

 

「…でも、自分たちよりあがってる人を見ると、逆に冷静になってくるんですよね」

「あはは、それってあたしたちのこと?」

「いや」

 

虹夏が笑いながらそう言うと、あくびはヨヨコの方を見ながら言った。

 

「毎回先輩が緊張で三日ほど寝てこないんですよ」

「睨んでるんじゃなかったんだね!!」

 

虹夏が大きく驚きながらそう言うと、ヨヨコはふらりと倒れかけた。

 

「騒いだら頭痛くなってきた…」

「だ、大丈夫ですかヨヨコさん!」

 

その様子を見ていたケータが焦ってヨヨコの肩を支えると、近くのソファに寝かせた。

 

「あ、天野景太…ありがと」

「どういたしまして!…ヨヨコさんも、これからライブなんですから、ちゃんと休まないとダメですよ?」

「…そうね」

(……大槻さん、けいくんに肩を支えてもらってソファで寝かせてもらえるなんて、ずるい…。…けいくんもけいくんだよ。さっきからSIDEROSの人達とばっかり話して。…後でいっぱい、私にも構ってもらうからね。けいくん)

 

ヨヨコがケータに照れ臭そうにお礼を言い、ケータがそれに笑顔で返事を返していると、ひとりは静かに頬を膨らませた。ひとりのその様子を見ていた虹夏はもはや特別何かを思うことはなく、ヨヨコに向けて声を掛けた。

 

「…人気バンドの大槻さんでも、そんなに緊張するんだね」

「当たり前でしょ。プロのバンドだって、ライブが怖くなくなるなんてことはないはず」

 

ヨヨコはそこで言葉を区切ると、続けて言った。

 

「上を目指してバンド活動続けるなら絶対一生緊張し続ける。その不安を少しでも無くす為に寝る間も惜しんで練習してるの」

「だからヨヨコ先輩、ライブの時毎回半目なんですよ〜」

「えっ!?そうなの!?」

 

後輩から容赦なく衝撃の事実が暴露されると、ヨヨコはショックのあまり叫んだ。ヨヨコは気を取り直すと、ひとりと、ケータと、そして結束バンドのメンバーの方に目線を向けて、ゆっくりと口を開いた。

 

「…後藤ひとりと天野景太、そして結束バンド。辛気臭い空気で私たちの士気を下げられたくないから言うけど」

「あっうん」

 

ヨヨコはそこで言葉を区切ると、先輩のバンドマンとして、そしてSIDEROSのリーダー『大槻ヨヨコ』としての風格を滲ませながら、はっきりと言った。

 

「さっきまでのリハ、今までに見た貴方たちの演奏よりもさらに良くなっていた。いつも通りやれば絶対上手くいく。───努力は裏切らない」

「…!」

 

『努力は裏切らない』。この一言を聞いた瞬間、天野景太はハッと目を見開いた。

 

(…きっと、この言葉は、ヨヨコさんが真摯に音楽に向き合ってきたからこその言葉なんだろうな。……だって、込められた重みが違うもん)

 

ケータはそっと拳を握ると、ひとりの、そして結束バンドのみんなの方を見遣った。ひとりはヨヨコの方を驚いたように見た後、ケータの方に優しく笑いかけると、ヨヨコに静かに、それでいてはっきりと、お礼を言った。

 

「…ありがとうございます」

「…ふんっ!」

 

ヨヨコは照れ臭そうにそっぽを向くと、少し威張った様子で口を開いた。

 

「私に追いつきたいなら1日6時間は練習…」

「え〜〜っ、ぼっちさんネットでも活動してるんですか!?」

「ほんとは上手い」

 

ヨヨコがひとりに向けてそう言いかけた時、あくびとリョウのそんな遣り取りが、ヨヨコの耳に届いてきた。

 

「ヨヨコ先輩見てください、凄いですよ〜」

「え?」

「別名義らしいんですけど、再生回数えぐいっすよね。あ、チャンネル登録者数も見てみてくださいっす」

 

ヨヨコは怪訝そうに、自分のスマホでひとりのオーチューブチャンネルを覗き込んでみた。───すると、そこには衝撃的な数字が並んでいた。

 

「……ドーム2個分!?!?」

「さっきからその単位なんなの!?」

 

ヨヨコが思わず吐血しながらそう言うと、虹夏はその謎の単位にツッコんだ。ヨヨコは気を取り直して、出番が近づく結束バンドに向けて励ましの言葉を贈った。

 

「…本番始まるよ!ドームと武道館なら大丈夫!私確信した!」

「決め手の理由酷くない?」

 

虹夏がそう言うと、ヨヨコはつっけんどんに言った。

 

「うるさい!早くステージ上がれば!?」

「「「ごめんなさ〜い!」」」

 

虹夏とひとりと郁代がそう言うと、結束バンドメンバーは蜘蛛の子を散らすようにステージへと駆けて行った。

 

「あっ、オレも早く行かなきゃ!ヨヨコさん、本当にありがとうございました!ヨヨコさんたちも頑張ってくださいね!…ライブ、楽しみにしてますから!」

「誰に言ってんの、天野景太!…結束バンドのみんなのこと、ちゃんと見てやってきなさいよ」

「もちろん!」

 

ケータはそう言うと、急いで楽屋を出て観客席へと向かった。去り行くケータの背中を見届けると、ヨヨコは落ち込んだ様子で口を開いた。

 

「敵にアドバイスして何やってんだろ、私…。後藤ひとり何者?1万人って多いと思ってたけどそんなことないのか…」

「数字に惑わされる悲しい現代人…」

 

 

観客席までの道を、ケータたちは急ぎながら通って行った。

 

『こんばんは〜結束バンドです!』

 

虹夏のMCが耳に届くと、ケータは更に脚を速めた。

 

「ケータ君、そんなに急ぐと転んでしまいますよ!」

「わかってるけど、急がないとひとりさんたちのライブに間に合わない…!」

「一曲で終わる訳じゃないからそんなに焦ることはないニャンよ。むしろ変に焦った結果転んだり人にぶつかっちゃったりした方が大変ニャン」

「…それはそうだね」

 

ジバニャンのごもっともな指摘を受けたケータは、少し歩くペースを緩めながらも、やっとの思いでステージへと辿り着いた。

 

「着いた着いた。…さーて、どっかに空いてる場所はないかな…っと、あそことか良さそうかも!」

「行ってみるニャン!」

 

ケータが結束バンドのみんなの姿が見えるスペースを探し出して、そこに脚を止めた時だった。すぐ隣から、自分と同じようにウォッチを持つ、隣のクラスの知人の声が聞こえたような気がした。

 

「いや〜、USAピョン『結束バンド』だってえ。なんだかダジャレみたいな名前のバンドですなあ。…あり?あの全身ピンクの人、な〜んか見覚えがあるような…?」

「なんか絶妙にダサい名前ダニね…。どんな感じの曲を作ってるのか、少し気になるダニ」

(…この絶妙に失礼な感じがする口調と、おかっぱの髪型と丸眼鏡と、すぐ隣にいる黄色いヘルメットを被った妖怪…。この人ってやっぱ、もしかしなくても…)

 

ケータはおそるおそるその知人と思しき人の方へと視線を向けると、その知人と思しき人、というかその知人本人───未空イナホも、同じようにケータの方へと視線を向けた。そして、二人はお互いの顔を見合わせると。

 

「………ケータさん…!?」

「………イナホさん…!?」

 

周りの観客の迷惑にならないように、極力静かに互いの存在に驚き合ったのだった。

 

 

 

 

 

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