フツーな少年とぼっちな少女   作:ウロタクサン

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幕間⑤:ケータとひとりのクリスマス

 

その後、ケータたちは無事、ひとりに家の前へと送り届けてもらった。もう外もすっかり暗く、寒さは身体の芯まで凍りつくほどであった為、ケータたちはひとりを家の中に招き入れた。始めは遠慮していたひとりだったが、真剣な表情で「こんな寒い中ひとりぼっちにはさせられない」と言うケータを見て初めてケータたちと会った時のことを思い出すと、なんだか遠慮ができなくなりおずおずと玄関へと上がり込んだ。

玄関に上がり込んだ時には、ひとりは既に直樹と美智代にロインを入れていた。そのロインにはすぐに既読がつき、直樹からも美智代からもただ一言「頑張っておいで」との返事が返ってきていた。ちなみに今のひとりは妖怪の状態であるため、ケータの両親に姿が見えることはない。

 

「うへへへぇ…。久し振りのけいくんの部屋…。クリスマスイブの夜に恋人の部屋で二人っきり…。聖なる6時間…!」

「……あの〜ひとりさん、一応あーたが想いを寄せている相手はまだ小学生であり、彼もまた同級生のクラスのマドンナに淡い恋心を寄せていることをお忘れなく…」

「二人っきりでもないニャンし…」

「……けいくんが好きだっていうその子には、絶対負けません」

「…今ひとりさんの纏う妖力が強まりましたね…」

「もうそこらの妖怪は裸足で逃げ出すレベルニャンね…」

 

その後、ケータの部屋に着いたひとりはカーペットに座り込みながら、恍惚とした表情で何事かを呟いていた。

 

「ひとりさんたち、何話してるの?」

「なっなんでもないよ、けいくん」

「そ、そうそう!大したことではござあせん!」

「ケ、ケータ!そんなことより早く晩ご飯食べに行くニャン!オレっちもうお腹ペコペコニャン!」

 

口々に話題をはぐらかす三人を少し怪訝に思いつつも、お腹が空いているのもまた事実であったケータは、頷きながら三人を連れて下の階へと降りた。

 

「……そうだね。オレもお腹空いたし、下でご飯食べよっか!…あ、ウィスパー。ヒキコウモリの分も取っといてくれる?」

「もちろん、お任せください!」

 

 

 

その後、いつものように晩ご飯を食べ終え、ケータが風呂に入ろうと下の階に降りかけた時、ひとりがおずおずと口を開いた。

 

「あっ、けいくん。せっかくだから今日は、私と一緒にお風呂、入ろ…?」

「ちょちょちょあーた何言ってくれちゃってんですか!?仮にも思春期入りかけの小学校卒業間際の男子ですよ!?」

「あっせ、聖夜だから良いかなって…」

「聖夜を免罪符にするなニャンッ!!」

「………ひとりさんが入りたいなら、オレは良いけど」

「────!?!?!?!?」

「誘った本人が一番ショートしてるーーーっ!?!?」

 

…結局、ケータは下の階にある天野家の風呂に、そしてひとりは、天野家に居候していた時に暮らしていたヒキコウモリのコレクション部屋に備え付けられてある風呂に入ったが、ひとり曰く「けいくんの破壊力バツグンのデレが見られたからお風呂に誘ったことに後悔はない」とのことである。

 

 

 

そして、夜寝る前。ケータはふと、何かを思い出したように口を開いた。

 

「そう言えば、今年のサンタ当番は誰なんだろうね」

「えーとですね…。どうやら今年のサンタ当番は───ん?なんでしょ、この通知」

 

ウィスパーがふと妖怪パッドを見遣ると、何やら妖怪サンタ協会から通知が届いていた。

 

「ええと…なになに。『今年のサンタ当番であったじんめん犬、妖怪アツアツストーブ病発症により天野景太に代役頼む』

───なんですとおっ!?」

「…ってことは今年のサンタ当番はケータニャン!?」

「オレ一応人間なのに!?」

 

ケータとウィスパーとジバニャンが驚いていると、何が何だか分かっていない様子のひとりがおずおずと口を開いた。

 

「あの〜、その『サンタ当番』って、何かな…?」

「ああ、妖怪たちが忙しいサンタさんの代わりに、子ども達にプレゼントを届けに行くんだよ」

「…え、サンタさんって実在したの…!?っていうか妖怪だったの…!?」

 

ひとりが深く衝撃を受ける中、ケータがふと外を見遣ると、大量のプレゼントを載せたソリがベランダの向こうに浮遊していた。ケータは、ひとりの方を見遣りながら言った。

 

「…ライブ終わりでさすがに疲れたけど、任されたからにはサンタ当番、頑張らないとね!オレとウィスパーとジバニャンで行ってくるから、ひとりさんは留守番してて!」

「ま、待って!…どうして、私を連れて行ってくれないの?」

「えっ、ひとりさんはライブとか、さっき力を使っちゃったこととかで疲れちゃってるだろうし…」

 

ケータが意表を突かれたようにそう言うと、ひとりは少し間を置いてからはっきりと言った。

 

「……疲れてるのは、けいくんたちだって同じじゃない。気を遣ってくれるのは、もちろん嬉しいよ。…でも、それよりも私は、けいくんと一緒にいたい。けいくんに頼られたい。だから───私も連れて行って!」

「…ケータ君、ここはひとりさんを頼っては?」

「そうニャン。こんなに強い妖力と想いを持っているひとりちゃんならちょっとやそっとの疲れじゃどうにもならないニャンよ」

「…わかった。じゃあひとりさん。サンタ当番、手伝ってくれるかな?」

「…うんっ!」

 

ケータがそう言うと、ひとりは心の底から嬉しそうに頷いた。ケータはソリに備え付けられていたサンタの制服に身を包むと、ウィスパー、ジバニャン、そしてひとりをソリに乗せて、冬の空へとソリを走らせた。

 

 

「うへへ…けいくんのサンタコス、可愛い…」

「…ブレないニャンね…」

「この人、そのうち変態行為に手を出さないか心配です…」

「…オレはひとりさんがサンタさんの格好するのも見てみたかったけどな」

「うぇっ!?…じゃあ今度、絶対に見せてあげるねっ…!」

 

四人はそんなアホみたいな会話を交わしながらも、順調にプレゼントを送り届けていった。

 

「…えっ、これって不法侵入になっちゃうんじゃあ…」

「人に見えない妖怪に課すことを前提にしている当番なので、その辺はしょうがないでうぃす…」

「なんでオレ人間なのに名指しで代役頼まれたんだろ…」

「妖魔界でも名の知れた妖怪マスターだからじゃないでうぃすか?」

「頼めば大体のことは引き受けてくれるお人好しってところもありそうニャンね」

「なんかフクザツ…。……けど、頼られたからには頑張るぞ〜!」

(こういうところなんだよな、けいくんのかっこいいところって…)

(わかります)

(わかるニャン)

「3人ともこっち見ながら腕組んで頷き合ってないで手伝って〜!」

「「「は、はいっ!」」」

 

 

 

 

そして、そんなこんなで帰り道。疲れが限界に達したケータは、プレゼントを配り終えた段階で事切れたように眠ってしまった。ひとりはそんなケータをしっかりと抱き締めつつ、独り言のように囁きかけた。

 

「けいくん、本当によく頑張ったね…。…誰かの為に頑張れるのは君の立派なところだけど、無理だけはしないで欲しいな」

「…その為に私たちがいるのです」

「…その通りですね、ウィスパーさん」

 

ひとりがウィスパーにそう返すと、ウィスパーとジバニャンはひとりに改めて向き合いながら、口を開いた。

 

「───時にひとりさん。私たちから一つ、貴方にお願いしたいことがあるのです」

「これは、ケータのともだちとして、そして、短い間一緒に暮らした家族としてのお願いニャン」

「っ」

 

二人のいつになく真剣な雰囲気に、ひとりは固唾を呑んだ。ウィスパーとジバニャンは、重々しく口を開いた。

 

「ひとりさん。どうか、これからもずっと、ケータ君の傍にいてやってはくれませんか。それこそ───ケータ君が寿命で死んでしまうその時まで、ずっと」

「ひとりちゃんと一緒にいる時のケータは、とっても幸せそうニャン。家族以外でケータが素直に甘えられる人間は、オレっちが知る中じゃひとりちゃんしかいないニャン。…オレっちたちは妖怪だから、ケータが人間界のことで困った時には助けてやることが出来ないニャン。……でもっ!人間でもあるひとりちゃんなら、いつでもケータのことを助けられるニャン!」

「ただでさえ結束バンドのみんなの夢を背負っている貴方に、これ以上の重荷を背負わせることは心苦しいのですが───私の知る人間の中で一番ケータ君のことを幸せにできる方は、貴方しか思いつかないのです。だから、どうか───」

「当たり前です」

「「…!」」

 

ウィスパーが皆まで言う前に、ひとりは口を開いた。はっと目を見開くウィスパーとジバニャンを見ながら、ひとりは続けて、重々しく言った。

 

「あの日、けいくんが───貴方たちが助けてくれたから、今私はここにいるんです。…それに、私はけいくんの───天野景太くんのことが、大好きだから。私がけいくんを幸せにするべき人間ならば、私は喜んでその責務を果たします。…むしろこっちからお願いしたいくらいですよ」

 

ひとりはそこで言葉を区切ると、ウィスパーとジバニャンに、キリッとした笑顔を向けた。

 

「だから───私に任せて。ウィスパーさん。ジバニャンさん」

 

ひとりがそう言うと、ウィスパーもジバニャンも、心底安心したような笑みを浮かべた。

 

「……けいくんが家族以外で素直に甘えられる人間も、けいくんを幸せにできる人間も、私しかいない…かあ!うへへ、うへへへ…」

「……オイ、さっきまでのかっこよかったときとの落差よ。あとあーたが一番ケータ君を幸せにできるとは言いましたが、ケータ君を幸せにできるのはあーたしたいないとまでは言ってませんからね!?」

「でも、この変態的なまでの想いの強さがあるからこそ、ひとりちゃんはケータを一番幸せにできる人間足り得るのかも知れないニャンねえ…」

 

ジバニャンがそうしみじみと呟いていると、ソリは天野家の前へと到着した。

 

 

 

 

 

 

そして、翌日の朝。

 

「……ほぇ?」

 

目が覚めたケータは、自室のベッドの上でひとりに思いっきり抱き締められながら寝転がっている、という状況に混乱していた。昨日、SICK HACKのクリスマスライブに行ってから、ひとりの背中に乗って家に帰り、それからサンタ当番でさくらニュータウン中の子ども達の家を回った。思い出すだけでもかなりハードな活動量で自分でも驚きだが、それよりも驚きなのは今のこの状況である。ベッドから起き上がったケータがしばらく呆然としていると、ベッドの中からふと、ここ数ヶ月間で随分聞き慣れた声が聞こえた。

 

「……あっ、けいくん。おはよう。…ふふっ。ウィスパーさんもジバニャンさんもまだ寝てるし、もう少しだけ、一緒に寝てる…?」

「…いや、そもそもどうしてオレは今ひとりさんと一緒に…」

「…昨日、プレゼントを届け終えた後、けいくんすっかり疲れちゃってたみたいで私の胸の中でぐっすり寝てたよ。可愛かったなあ…。口の端にちょっと涎垂れちゃってて、私のジャージにもついてたっけ。…あのジャージ、家宝にしよっかな」

「……まさかオレ、ひとりさんのジャージ涎で汚しちゃってた!?ほ、本当にごめんっ!」

「気にしなくて良いよ、そんなこと。…それよりも私、嬉しかったなあ。けいくんが私に寄りかかって寝てくれたことが」

 

ひとりがそう言うと、ケータは思わず首を傾げた。

 

「…嬉しかったって、どうして?」

 

ケータがそう言うと、ひとりは少しむっとしながら言った。

 

「…どうしてって。決まってるじゃない、そんなの。私がけいくんのこと、大好きだからだよ」

「……その気持ちは嬉しいけど、ひとりさんくらい綺麗で凄い人なら、オレなんかよりも素敵な人いくらでも見つかると思」

「いないよ、そんな人」

「…え?いやいや、オレってフツーだし、ひとりさんたちみたいな特技もないし…。ひとりさんみたいな素敵な人とは、到底釣り合わな」

「そんなことない。私はけいくんが欲しい。…君以外の誰かなんて、いらない」

「…………え、え〜〜〜〜〜……」

 

ひとりがいつになく真剣な表情とはっきりした口調でそう言い切る様を見たケータは、もはや何も言うことができなくなった。赤らんだ頬を必死に抑えていると、ひとりは続けて口を開いた。

 

「…前にも言ったでしょ。君が自分のことをそんな風に言っちゃうと、君のことが好きな人たちはみんな君に酷いことを言われた時よりも傷つくって。……嫌なら嫌って、言ってよ。変に理由を作って私から遠ざからないでよ」

「…ごめんね。ひとりさん。ひとりさんのオレへの想いを、バカにするようなことを言っちゃって」

「ううん。…気にしてない訳じゃないけど、気にしないで」

「は、はは…」

 

ケータが未だにどこかむっとした表情を浮かべながらこちらを見つめるひとりに苦笑していると、ひとりはふと、何かを思い出したように言った。

 

「…あ、そうだ。ちょっと気まずい空気になっちゃったけど、私、けいくんたちにクリスマスプレゼント持ってきたんだよ」

「……えっ!?」

 

ケータが驚いたようにそう言うと、ひとりは「ちょっと待っててね」と言いながら、自分の背中の辺りを探り始めた。

 

「んーと…んーと…。……あった!はい、これ、けいくんにプレゼント!」

「え、コレって───オレが欲しかったフィギュア!?」

 

ひとりが差し出した『Mr.エポックマン』と書かれたフィギュアを見たケータが驚いたようにそう言うと、ひとりは笑顔で頷きながら言った。

 

「うん。……ちょうどこの前店長さんのプレゼントを一緒に選びに行った時、けいくん欲しそうにしてたから」

「これ、1万円くらいするフィギュアなのに…。星歌さんへのプレゼントも、ほとんどひとりさんがお金出してくれてたよね…?本当に、良いの…?」

「もちろんだよ。…私、これでもオーチューブでは登録者数10万人のカバー投稿者だからねっ!お金ならいっぱい持ってるんですっ!」

 

ひとりがふふんと胸を張りながらそう言うと、ケータは満面の笑みを浮かべてひとりにお礼を言った。

 

「ありがとう、ひとりさん。……絶対、大事にするねっ!」

「ふふっ、どういたしまして!」

 

ケータのその顔を見たひとりは満足げに頷くと、続けて10本ほど入ったプレミアムチョコボーの詰め合わせと、液晶クリーナーと、暖かそうな毛布を続けて取り出した。

 

「…これって、もしかして」

「うん。ウィスパーさんたちへのプレゼントだよ」

 

ひとりが頷きながらそう言うと、ウィスパーとジバニャンがちょうど起き上がってきた。

 

「おはようござんす、ケータ君、ひとりさん…おや、そちらのチョコボーや液晶クリーナーなどは?」

「おはようニャン、二人とも…。…ニャニャ!?プレミアムチョコボー詰め合わせ10本分!?」

「あ、ちょうど起きてきた」

 

ケータがそう言うと、ひとりはウィスパーとジバニャンに向かって口を開いた。

 

「あっ、ウィスパーさん、ジバニャンさん。ささやかながら、私からのクリスマスプレゼントです。ウィスパーさんには、液晶クリーナー。ジバニャンさんには、チョコボー10本分詰め合わせです」

「…おやこれは、中々お高い画面クリーナーじゃないでうぃすか!…本当によろしいので?」

「ありがとニャン、ひとりちゃん!さっそく今日のおやつにいただくニャン!」

「テメーはもう少し遠慮っつーものを見せんかいこのジバ野郎がァ!!!」

「くれるって言ってるんだからありがたく受け取っときゃ良いニャン首掴んで揺らすなニャン!!」

「あっあっあのお二人ともケンカは…」

「ウィスパーもジバニャンも落ち着いて!ひとりさん焦りすぎて3秒で描いたボー坊みたいな顔になっちゃってるじゃん!」

「はっ!?私としたことが思わず取り乱してしまいました…」

「お前が取り乱すのはいつものことニャン…」

「あんだァコラ?」

「だからやめてってば!!」

 

ケータは気を取り直して、毛布を持ったひとりを連れながらクローゼットに優しくノックをすると、出てきたヒキコウモリに声を掛けた。

 

「ヒキコウモリ、ひとりさんからクリスマスプレゼント!」

「最近寒さも厳しくなってきたので、毛布です。…あの時は本当に、お世話になりました」

「おや、私にもくださるのですか?嬉しいです!ちょうど寒さで作業が思うように進まず困っていたところでした。ありがとうございますっ!」

 

ひとりがヒキコウモリに毛布を手渡すと、ヒキコウモリは嬉しそうにそれを受け取った。その様子を見ていたケータが、笑いながら言った。

 

「今日のひとりさんはまさしく『ひとりサンタ』だねっ!」

「いえいえ、ここは『ゴトウクロース』でしょう!」

「ケータのヤツはダジャレくさいしウィスパーのヤツはサンタ要素がないし、どう考えても『ぼっち・ざ・さんた』の方が語感が良いニャン!」

 

三人がそんなくだらないことでやいのやいの言い合っていると、その様子を優しい目で見つめていたひとりは、心の中で静かに呟いた。

 

(ああ…なんか私、今、とっても楽しい。けいくんたちと出会えて、本当に、良かったな)

 

 

 

 

 

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