フツーな少年とぼっちな少女   作:ウロタクサン

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19話のケータがリョウの家に来てから結束バンドの三人に再会するまでの間のお話です。本編に入れられなかった。かなしい


幕間⑦:リョウとケータの二人きり

 

───リョウの部屋へと招かれたケータは、立て掛けられた楽器類や、絵画など、整った豪華な部屋に驚いていた。

 

「……わあ、リョウさんの部屋、凄い…!…ベースとかギターだけじゃなくて、バイオリンもあるんですね!」

「……昔少し習ってただけ」

 

楽しそうにそう言うケータに、リョウは少し思い出したくないことを思い出したように、不機嫌そうに呟いた。

 

それからしばらくして。頭を悩ませながら作曲作業に取り掛かるリョウの様子を見ながら、ケータは静かに心の中で呟いた。

 

(……リョウさん、本当に今自分がやってる音楽に、真摯に取り組んでる人なんだな)

 

そして、ケータは台所にいたリョウの母親にお茶の置き場所を尋ねると、リョウの為にお茶とお茶菓子を部屋に持って行った。リョウの母親は、そんなケータの後ろ姿を、ただただ嬉しそうに、見つめていた。

ケータが持って来たお茶とお菓子をありがたくいただいていた時、ふとリョウは、お盆を持つケータの左腕を見遣りながら、気づいたように言った。

 

「……ケータ。そう言えば、妖怪ウォッチは?」

「外してきました。いつでもともだちを…ジバニャンや、ひとりさんを呼び出せる道具を持っていくのは、リョウさんに悪いかなって思って」

 

ケータがそう言うと、リョウはどこか嬉しそうに笑いながら呟いた。

 

「…律儀だね、ケータは」

 

 

 

そして、昼頃になると、リョウの母親が庭からリョウに呼び掛けた。

 

『リョウちゃ〜ん!折角お客さんが来たから、今日のお昼は豪勢にバーベキューよ〜!』

「…ケータ。お腹空いてるでしょ。一緒に行こう」

「…良いんですか?じゃあ、ありがたくいただきます!」

 

その声を聞いたリョウは、ケータを連れて庭へと足を運んだ。

 

 

「わああっ!美味しそう!」

「いっぱい食べてね〜!」

 

こんがり焼かれたお肉の前にケータが目を輝かせていると、リョウの母親は次々と、ケータの皿に肉を盛った。ケータは、ずっとただ焼いてもらっているのも申し訳ないからと、途中から肉を焼く方を手伝い始めた。

 

「ケータくん、手際良いわね〜!」

「ありがとうございます!はい、リョウさん!食べてみてください!」

「…いただきます。……ん、美味しい」

「…良かった!」

 

ケータは、自分の焼いた肉を美味しそうに頬張るリョウを優しげに見つめると、微笑みながら呟いた。

 

 

 

 

 

「……そう言えば、ケータくんってどの辺に住んでるのかしら?」

 

リョウがケータを家に引き留めた後の夕食の時間、リョウの母親は、ケータにそんなことを尋ねた。

 

「さくらニュータウンです」

 

ケータが答えると、リョウの父親は、続けて心配そうにケータに尋ねた。

 

「そっか、電車で1本分くらいの距離なんだね。…今更なんだけど、学校は大丈夫なのかい?……娘のわがままに付き合ってもらっている分際でこんなことを聞くのは、おかしなことだってわかってるんだけどね」

「…大丈夫です。だって、ここに来たのは、オレの意思ですから。自分でどうにかしますよ」

「そうか。君は立派な子だね。……やはり君になら、リョウちゃんのことを任せられるかもしれないな」

 

ケータの返答を聞いたリョウの父親が感心したようにそう呟くと、リョウはふと、怒ったように口を開いた。

 

「…父さん、母さん。あまりケータに詮索しないで。ただでさえ私のわがままに付き合ってもらってるのに、その上肩身の狭い思いまでさせないで」

「…そうね、その通りだわ。ごめんなさいね、ケータくん。お風呂が沸いたら、また呼ぶから。……娘が迷惑をかけるけど、どうか、よろしくお願いいたします」

「…ケータくん。君には大変申し訳ないことをしてしまったね。お詫びと言ってはなんだけど、ここにいる間は、どうかのびのびとくつろいでいて欲しい。……娘のわがままに、どうか付き合ってやってください」

 

リョウの両親がそう言うと、ケータは静かに頷いた。

 

 

 

そしてその後、ケータ、リョウ、リョウ母、リョウ父の順で風呂に入った。ケータの着替えは、幼少期のリョウのお下がりを貸してもらった。

夜寝る前になって。作曲作業に取りかかっていたリョウは、ケータにふと、声を掛けた。

 

「……ケータ。用意された寝室に行く前に、私の質問に答えて欲しい」

「…はい」

 

ケータが静かに頷くと、リョウは小さく息を吸ってから、ケータに尋ねた。

 

「……ケータは、どうしてこんなに私に優しくしてくれるの?…結束バンドの、名誉マネージャーだから?」

「いいえ」

 

ケータはそう言って首を振ると、静かに、それでいてはっきりと言った。

 

「オレがリョウさんのことを、一人の人間として好きだからです。…あっ、もちろん、ヘンな意味じゃないですよ!」

「……ヘンな意味でも、正直そこまで嫌じゃないけど」

 

リョウが静かにそう呟いても、ケータの耳には届いていないようだった。ケータは続けて、口を開いた。

 

「…オレ、尊敬してるんです。結束バンドのみんなの…リョウさんのことを。オレって、今までずっと周りの人から『フツー』って言われながら生きてきて。そう言われる度に、オレの心のどこかは、いつも傷ついてたんです。

……ウィスパーやジバニャン、妖怪のみんなとともだちになっても、オレはフツーのままだったけど、ひとりさんと、結束バンドのみんなと出会ってからのオレの周りには、オレなんかとは違って、面白いほどに個性的で、そしてとっても心優しい人たちがたっくさんいて…。……みんなのおかげで、今とっても、楽しいんです」

「…ケータ」

 

リョウはケータの方を優しく見遣りながら、静かに言った。

 

「…私は、ケータのその『フツー』な所が、好きだよ」

「……えっ?」

 

ケータが驚いたように声を上げると、リョウは続けて言った。

 

「どんな時でもあったかい、ケータのその『フツー』の優しさが好き。私から言わせてもらうと、ケータの『フツー』は立派な『個性』だよ。……それをバカにするヤツらは、ケータの魅力をわかってない、可哀想なヤツらだ」

「……リョウさん」

 

ケータは感極まったような表情を浮かべてそう呟くと、リョウに一言お礼を言ってから、寝室へと赴いた。リョウは、そんなケータの後ろ姿を、ただただ優しく、見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝食の時間。ケータはふと、リョウの両親に、気になっていたことを尋ねた。

 

「あの〜、お二人ってお仕事、何されてるんですか?……オレが言うのも何なんですが、平日にずっと家にいるって、大丈夫なんでしょうか…」

 

ケータがそう言うと、リョウの両親は笑いながら言った。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ!私たち病院やってるけど、今は休業中だから!……リョウちゃんがこんな素敵なお客さんを連れて家にずっといようとしてくれてるんだから、もうお仕事なんてやってる場合じゃないと思って!…体調が悪くなっちゃったりしたら、いつでも私たちに言ってちょうだいね!」

「そーそー!患者よりも娘と娘のわがままに付き合ってくれる人の方が大事だよ!…あっ、ついでに今、君の健康状態診てあげようか!もちろんタダで!」

「……あ、ありがとうございます。あはは…」

(…二人とも、お医者さんだったんだ…。こんな豪華な家に住めるってことは、きっと腕の良いお医者さんなんだろうけど、プライベートを優先するって、大丈夫なのかな…)

 

ケータが苦笑しながらそう思っていると、隣のリョウが小声で囁きかけてきた。

 

「……私の両親、こんなテンションでずっと振り回してくるから、気をつけてね」

「は、はは…」

 

 

 

 

───それから二日間。リョウはひたすらに作曲作業を続け、ケータはそんなリョウを、献身的にサポートした。リョウにお茶やお菓子を出したり、疲れたリョウの肩を丁寧に揉んだり、時々、山田家の家事を手伝いつつも、リョウの部屋に入り浸って、リョウの作曲作業を必要以上に言葉を発することなく、静かに、それでいて確かにサポートし続けた。

リョウはあまり多く言葉を発さないながらも、そんなケータの献身的なサポートに、確かな居心地の良さを覚えていた。ケータが山田家の家事を手伝っている内に、リョウの両親からのケータへの信頼と好感度も、次第に厚くなっていき、ケータに出される食事の量と質が、日に増して豪華になっていった。

 

 

───そして、金曜日の朝になった。リョウは自室で自分の作業を黙々とサポートするケータを見遣ると、ふとケータに、笑いかけながら言った。

 

「…ねえ、ケータ。このまま二人だけで、どこか遠くに旅に出ちゃおうか」

 

ケータは驚いたようにリョウの方を見遣ると、優しく微笑みながら言った。

 

「…リョウさんがそうしたいのなら、オレはそれに付き合うだけです。だって、傍にいるって決めましたもんね」

「そっか。…やっぱりケータは、優しいね。……そうと決まれば、早速支度、しよっか」

「……はいっ!」

 

リョウはそんなケータの方を嬉しそうに見遣ると、ふと立ち上がって、身支度を始めた。ケータもそれを手伝った───が。

 

「……ごめん。やっぱりなんか準備で気が遠くなってきちゃった。しょうがないから、ウチの庭でキャンプしよ」

「リョ、リョウさん…。…でも、そういう緩い感じの方がリョウさんらしいかもですね!」

 

すぐに面倒臭くなってしまったリョウは、用意していたテントや寝袋などを、庭に設置し始めた。ケータも楽しそうに笑いながら、それを手伝った。

 

 

 

 

もう空もすっかりと暗くなってきた頃。木炭を焼く赤々とした炎が灯る中、リョウはふと、ケータに話しかけた。

 

「…ケータはさ。ぼっちのことを助けてくれたり、私のわがままに付き合ってくれたり、自分を犠牲にしてでも人に優しくすることに躊躇いがないよね。……どうして?」

「う〜ん…」

 

ケータは少し悩む素振りを見せてから、ゆっくりと口を開いた。

 

「…やっぱり、困ってる人のことは放っておけないじゃないですか。……それが大事な友達だったり、家族だったりするなら、尚更」

「……大事」

 

ケータのその言葉を聞いたリョウは、嬉しそうに呟いた。

そしてケータは続けて、笑いながら言った。

 

「それに、オレは、今まで人を助けて後悔したことは、一度としてありません。…オレの周りには、いつだってウィスパーが、ジバニャンが、妖怪のみんなが、いてくれます。誰かを助けて大変な思いをした時だって、アイツらが傍にいてくれたから、楽しかったんです。

……ところで、リョウさん『わがまま』って言ってましたけど、この三日間、オレ、すっごく楽しかったんですよ?」

「……どうして?」

 

ケータのその言葉に、リョウは心底驚いたように尋ねた。ケータは笑いながら、その問いに答えた。

 

「…出してくれたご飯はとっても美味しかったですし、リョウさんのお父さんとお母さんもとっても優しい人たちでしたし。……何より、リョウさんと二人だけで過ごす時間が新鮮で、とっても楽しかったです」

「……ひたすら無言で、お茶とかお菓子とか出したり、私の肩を揉んだりしてただけだったのに」

「……あはは。オレって一人っ子ですから、静かな方が性分に合ってるんですよ」

 

ケータが笑いながらそう言うと、リョウはいたずらな笑みを浮かべながら、嬉しそうにそっと呟いた。

 

「そっか。……私たち、相性良いのかもしれないね」

 

ケータが火を処理すると、リョウはケータに手招きして、二人仲良く同じテントの中で、眠りに就いたのだった。

 

 

 

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