フツーな少年とぼっちな少女   作:ウロタクサン

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しばらくスランプ気味になってました。久し振りにやった妖怪ウォッチ3が思いの外楽しくて執筆が滞ってたとかではありません。はい決して。
……嘘ですごめんなさい。時間忘れてやり込んじゃってました


21.悩む赤髪、葛藤する寝グセ

 

新曲『グルーミーグッドバイ』のMVが投稿されてから数週間が経ち、2月も終わりかけている頃の土曜日のこと。いつものようにSTARRYにて一堂に会した結束バンドとケータたちは、投稿したMVの再生数を確認しようと、パソコンの画面の前に集まっていた。

 

「MV結構再生されてるー!」

「おや、本当でうぃすね!」

「前見た時の再生数は確か500回くらいだったニャンけど、今は1万回以上も再生数されてるニャンか!…やっぱり、本格的な映像がつくと、かなり違うもんニャンねえ」

「曲が良かったからじゃん?……ね、ケータ」

「えっオレ!?…はい、リョウさん!」

(……リョウ先輩、今けいくんならそう言ってくれるって分かってて話題振ったな)

 

自画自賛しているリョウに唐突に話題を振られたケータが困惑しつつも笑顔を浮かべながら返答を返して、そしてその光景を見ていたひとりがリョウの方を鋭い目つきで見つめていると、虹夏が郁代に向けて口を開いた。

 

「次のライブからは人増えるんじゃない?頑張ろうね喜多ちゃん!」

「えっ、あ、はい!」

(……ん?喜多さん、なんかいつもよりちょっと元気がないような…)

 

虹夏のその言葉に郁代が歯切れ悪く返事を返すと、その様子を見ていたケータは郁代の方を心配そうに見遣った。

 

(けいくん、喜多ちゃんの方ばっか見てる。さっきはリョウ先輩のことも褒めてたし。

……ずるい、ずるい。私の方も見てよ)

 

そんなケータの様子を見ていたひとりは、心の中で静かに嫉妬心を燃え滾らせながら、静かにケータに擦り寄った。ケータは何も言わなかったが、その耳と頬は少しだけ、赤らんでいた。

 

(ひ、ひとりさん、近い…。な、なんか柔らかいし、良い匂いだしっ…!そ、それに……すっごく落ち着く。

……なんなんだろう、この感覚)

 

ケータが自分の身体にくっつくひとりの感触から感じられる未知の感覚に頭を悩ませる中、虹夏がふと残念そうに口を開いた。

 

「でもただ動画あげただけだとこれ以上は伸びないかなあ。…どっかが紹介してくれないかなあ〜」

「その前に私、この動画のコメント欄閉じたいんだけど…」

「おやリョウさん、なして?」

 

虹夏の傍でパソコンの画面をじっと眺めていたリョウがふと気まずそうに口を開くと、ウィスパーが尋ねた。

リョウは、ウィスパーに向けて、女子大生の失恋エピソードが書かれたその画面を静かに指差しながら、不満とも畏怖とも言い難い何とも言えない表情を浮かべて言った。

 

「……そのうち傷心女達の日記帳代わりにされてしまう…」

「別に楽しみ方は人それぞれだから良いでしょうがよ!」

 

リョウがそう言うと、ウィスパーはその言葉に大声でツッコミを入れた。

リョウは続けて、静かに愚痴を呟いた。

 

「好きな曲に変なエピソードつけるのやめてほしい…」

(リョウ先輩、それはかなりわかる…)

「あ、あはは…。でも、その人達はそれだけこの曲に感情移入してくれてるってことじゃないですか!そんな曲作れるなんてやっぱり凄いですよ、リョウさん!」

「…ふふん。もっと褒めろケータよ」

「……けいくん。私も作詞、頑張ったんだよ…?」

「もちろん!この曲はひとりさんの歌詞なしでは語れないよ!

作曲のリョウさんに作詞のひとりさん、まさに『最強の二人』だねっ!」

(……このコメント書いた人の気持ち、分かっちゃったかもしれない)

(……このコメントの人みたいに、もしも私がけいくんと付き合って、その後私がけいくんに振られでもしたら。

───いやだいやだだめだそんなのけいくんをふこうにするわたしなんてこのせかいのどこにもいちゃいけないけいくんをしあわせにできないわたしはいらないそんなわたしをわたしはぜったいにゆるさないかげもかたちものこらないくらいにけしさってやるころしてやるほかのだれよりもわたしがけいくんをしあわせにするんだあのえがおをまもるんだはなさないしあわせにするぜったいにまもるあいしてるわたしのけいく)

「あの…PAさん。私の歌ってどうでしたか?」

「えっ、……あーーー…」

 

ひとりの心がまたも闇に染まろうとしていたその時。ふと郁代は、思い詰めたようにPAさんに声をかけた。

PAさんは少し気まずそうに、愛想笑いを浮かべながら口を開いた。

 

「……補正しがいがあって、私は楽しかったですよ?」

(フォローになってねえ…)

(むしろトドメ刺してますよねコレ…)

(こりゃ致命傷ニャンねえ、喜多ちゃん…)

 

ウィスパーとジバニャンは、星歌共々郁代にフォローを入れるどころかトドメを刺したPAさんに呆れたような目線を送っていた。

 

 

 

バイトが終わり、それぞれが帰路についた帰り道。自分の技術に自信を喪失しかけていた郁代は、唐突にひとりに向けて声をかけた。

 

「───ひとりちゃん!一緒にカラオケに着いてきてくれるかしら!?」

「あっはい!!………えっ!?」

 

勢いで返事を返したひとりは、郁代の言葉を反芻すると、一拍置いて驚いた声を上げた。

気を取り直したひとりは、郁代に尋ね返した。

 

「な、なんでカラオケに行くのに私を…?」

「カラオケって一人じゃ行かないでしょ?」

「そ、そんなことないですよ。一人カラオケとかありますし…」

「ええっ私の周りにはそんな人いないけど!?見たことないわよ!カラオケって普通みんなで行く場所でしょ!?」

「うっ!?ぐふっ!?」

 

二人のその遣り取りを傍から見ていたケータたちは、静かに囁き合った。

 

「喜多さん、自覚ないままひとりさん刺してる…」

「なにもかもが正反対だから、何を言われると傷つくのか、どうして傷つくのかが分からないニャンね…」

「確かにひとりさんと喜多さんは、性格から思考回路の何から何までが正反対でうぃすねえ。

……でも、あのお二人、実は案外似ている所もあるんじゃないでしょうか」

「……ウィスパー、それってどういう…」

「…貴方ならきっと分かりますよ。ケータ君」

 

ウィスパーのその呟きを聞き取ったケータが不思議そうに首を傾げながら尋ねると、ウィスパーは静かに微笑みながら、ケータにそっと囁きかけた。

 

「お願い一緒に来てっ!一人なんて恥ずかしくて嫌ーーっ!!」

(家族としか行ったことないのになぜか傷つく…)

 

郁代は続けて、精神的ダメージの余り口から変な液体を吐き出しているひとりに向けて縋り付くように声をかけた。

その時、ひとりはふと何か重大な事実に気づいたように目を見開いた。

 

(…あれ?これを口実にすれば、最近私にあんまり構ってくれないけいくんに一緒にカラオケに来てもらうこともできるのでは!?

そっそれに、けいくんと一緒なら、私もより落ち着いて遊べそうだしっ…!)

 

ひとりは一瞬ケータの方をちらりと見遣ると、おずおずと口を開いた。

 

「あっけいくんが着いて来てくれるなら…」

「………へっ?」

 

あまりにも唐突なご指名に、さしもの天野景太も素っ頓狂な声を上げることしかできなかった。

郁代はひとりのその言葉に、キタン!と目を輝かせながら口を開いた。

 

「……ひとりちゃん、それナイスアイデア!ケータくんがいれば、バンド演奏のない私の歌を聴いた客観的な感想も聞けるものね!

ケータくんお願い!私たちのカラオケに着いて来てっ!もちろんお金は私たちが出すから!ねっ、ひとりちゃん!」

「はい!」

「……えーーーっ!?!?!?」

(ひとりさん、最近ケータ君が他の女のところばっかりに行ってる寂しさで…)

(ケータもあまりの唐突さにびっくりして叫んじゃってるニャンね…)

 

ケータが郁代のその提案に驚きのあまり叫びを上げ、ウィスパーとジバニャンがその傍で何とも言えない表情を浮かべながらその光景を眺めていると、続けてひとりが、不安げに口を開いた。

 

「……けいくん。もちろん、嫌なら嫌って言ってね」

「…嫌なんて言う訳ないでしょ、ひとりさん。ひとりさんたちがオレを頼ってくれたんだ。オレが行かない理由はないよ」

 

郁代が元気良く、ひとりが縋るようにそう言うと、ケータはゆっくりと頷いた。ウィスパーとジバニャンも、そんなケータを嬉しそうに、どこか満足げに見つめていた。

ひとりと郁代が───大切なともだちが、面と向かって自分を頼った。この時点で、天野景太の心の中には「誘いを断る」などという選択肢は存在しなかった。このことを分かっていたひとりは、自分自身を嘲笑しながら心の中で静かにごちた。

 

(ははっ…。リョウ先輩のこと言えないな、私)

 

 

 

 

 

そして、下北沢のカラオケ店にて。

 

「ひとりちゃん、ケータくん!人数少ない分私が盛り上げるから、この3時間、たっぷり楽しみましょうね!」

「あっへへ…」

 

ひとりが引きつった表情で愛想笑いを浮かべていると、ケータが申し訳なさそうに口を開いた。

 

「……あの、ここのお金出してくれるって言ってましたけど、流石に申し訳ないので自分の分は自分で出しますよ」

「何言ってるのケータくん!私たちのお願いに付き合ってくれてるんだから当たり前よ!…それに私たちはケータくんより歳上、お姉さんなんだから。ここで甲斐性を見せてあげなくちゃどうするのよっ!」

「そっそうだよけいくん。ご飯も好きなの頼んで良いからね。最近お給料入ったから、いっぱい食べて良いよっ…!」

 

郁代と、続けてひとりがそう言うと、ウィスパーとジバニャンがケータに静かに囁きかけた。

 

「…ケータ君、ここは素直にお二人に甘えては?ケータ君のお小遣いだって、そこまで余裕がある訳ではないでしょう」

「そうニャンケータ。ここは甘えといた方が良いニャンよ。

……そうした方が多分、ひとりちゃんたちも喜ぶニャン」

 

ウィスパーとジバニャンがそう言うと、ケータはゆっくりと頷いた。

 

「…うん、そうだね。

ひとりさん、喜多さん!ここはご厚意に甘えさせていただきますっ!」

「うんうん、お姉さんたちに任せなさいっ!」

「うへへ…。けいくん、何食べたい?好きなの頼んで良いからねっ…!」

 

 

それぞれドリンクを注文した後、郁代はコートをハンガーに立てかけながら口を開いた。

 

「よーし、じゃあ早速歌入れちゃいましょ!」

「えっ店員さんドリンク運んで来ますよ…?」

「?別に良いじゃない」

 

郁代がひとりの言葉に構わず歌い続けると、ウィスパーが静かに呟いた。

 

「…恐らく、ひとりさんが危惧しているのはカラオケ不祥事案件の一つ『歌ってる最中に店員さんが注文の品を店の中に届けに来るとなんかめちゃくちゃ恥ずかしいよねー。中断するのも意識してるみたいで恥ずかしいからか細い声で何とか歌おうとすると更に変な空気になるよねー』

…でございますね」

「あー、なんかちょっとわかるかも…」

「カラオケって店の仕様上しょうがないことではあるニャンけどね…」

 

ウィスパーの言葉にケータとジバニャンが気まずそうに頷いていると、廊下から男性店員の声が響いた。

 

「すぁっせーん!ドリンクっす〜」

「あっ店員さんが…!時間稼がなきゃ…!」

 

徐ろに立ち上がりドアの方へと向かおうとしたひとりを、ケータが慌ててその手を掴んで止めた。

 

「ちょちょちょひとりさん!入り口塞ごうとしなくて大丈夫だから!むしろそっちの方がおかしなことになっちゃうから!」

「けっけいくんそんな、こんな場所でいきなりっ…!ここ心の準備があっ…!

……でっでも、けいくんがそうしたいならわたしはっ…!」

「何を勘違いしているのか知りませんし知りたくもありませんが早く座ってくださいひとりさん!」

「服と髪の毛だけじゃなくて脳内も真っピンクニャンかコイツ!?」

 

ウィスパーとジバニャンも続けてひとりを止めて席に座らせると、郁代が熱唱する中、店員は静かにドリンクの載った盆をテーブルの上に置いた。

 

(ハーレム小学生?…羨ましいなあ)

 

店員はケータの方を見遣ると、なんとも言えない表情を浮かべながら部屋を出て行った。

 

(……ケータくんたちが来てくれて本当に良かったわね、コレ…)

 

ひとりがまたも奇行に出ようとする様を歌いながらもチラチラと不安そうに見ていた郁代は、ケータたちの存在に心底から安心感を覚えるのだった。

そして郁代が歌い終えた後、ケータは、ふと思いついたように二人に向けて声をかけた。

 

「あ、オレも歌って良いですか?喜多さんが歌ってるところ見てたらオレもなんだか歌いたくなってきちゃって!」

「もちろんよ!ケータくんも楽しみましょっ!」

「あっうん。けいくんの歌、私も聴いてみたい…!」

 

ケータのその言葉に郁代とひとりが笑顔で頷くと、郁代から注文用タブレットを受け取ったケータは、何を歌おうかと頭を悩ませた。

 

「ケータきゅん、何歌うんでうぃすか?」

「うーん、どうしよう…。……あっ、結束バンドの歌あるかな?」

「流石に知名度的に厳しいんじゃないニャンか…?」

(けいくん、私たちの歌を真っ先に探そうとしてくれてる…!)

(ケータくんったら、そんなに私たちのことを…!……嬉し過ぎて頬が緩んできたわ…)

 

ひとりと郁代は、そもそも正式にレーベルに所属していないインディーズバンドの曲をカラオケに入れられるものなのかどうかということさえ知らなかったが、ケータが他の有名どころのバンドの曲には目もくれずに真っ先に自分たちのバンドの歌を探そうとしている様子の前では、そのような問題など些末なことだった。

 

「…うーん。結束バンドの歌はなさそうだなあ。歌いたかったんだけどな…」

 

ケータはそう残念そうにぼやくと、その時ふと何かを見つけたように嬉しそうに言った。

 

「……あっ!?SIDEROSの歌あるんだ!…そう言えばこの曲、クリスマスライブの時すっごくかっこよかったなあ…!歌ってみよっと!」

「「……えっ?」」

「あケータ君そりゃちょいとマズイのでは…!?」

「ひとりちゃんたちのケータを見る目がヤバイことになってきてるニャン…!」

(…けいくんったら、そんなに嬉しそうな顔して大槻さんたちの歌を歌おうとするなんて。……浮気者)

(……ケータくん、私たちのこともっと引きずってくれたって良いじゃない)

 

ウィスパーとジバニャンが止める間もなく、ケータはタブレットで注文を入れた。

その様子を見ていたひとりと郁代はショックのあまり声をあげると、まるでデート中に他の女性にばかり目線を向けている彼氏を見つめる彼女のような、旦那の浮気現場を目にした妻のような目をしながらケータの方を恨めしげに見つめ続けた。

 

 

 

一方その頃、そのすぐ隣のカラオケルームにて。

 

「……あの〜、ヨヨさん。本当に私らなんぞがヨヨさんのカラオケに同伴させていただいてよろしいのでございましょうか…。部屋とかご飯の代金も奢ってもらっちゃってるし…」

 

イナホは、隣の席で自分と同じように気まずそうにしているUSAピョンの方をちらりと見遣りつつ、向かいの席に座るヨヨコに向けてそっと声をかけた。二人が向かい合うテーブルの上には、既に食べ終えたピザやポテト、ドリンクの容器などが積まれていた。

 

「…私が良いって言ってんだから良いのよ。むしろその…ありがとね。わざわざ来てもらっちゃって」

「いえいえ!今日は探偵社の依頼もなくて私もUSAピョンもヒマしてたので!それに、ヨヨさんの歌声をこんなにみっちり聴ける機会なんてそうそうないので、こんな貴重な機会逃す手はないとっ!」

 

イナホが目を輝かせながらそう言うと、ヨヨコは緩む頬を必死に抑えながら言った。

 

「……そ、そう。まあ、アンタたちにならいつでも聴かせてあげても良いんだけどね」

「やっふうあざーっす!」

「……なんだったらリクエストとかもして良いけど?」

 

気を良くしたヨヨコがイナホに期待するような目線を向けながらそう言うと、イナホは大はしゃぎで言った。

 

「マジすか!?…じゃじゃ、この前のライブのトリで歌ってた曲、お願いできますか?」

「SIDEROSはインディーズバンドだから、カラオケの楽曲には登録されてないと思うダニよ…」

「あちゃ〜、そっか…」

「されてるわよ」

「「ええっ!?」」

 

イナホとUSAピョンが残念そうに言い合っていると、ヨヨコが食い気味にそう返した。

 

「じゃじゃ、早速歌っちゃってください!

───おや、この歌は。そしてこの声は…?」

「どうしたのイナホ?

……って、この歌、まさか…!」

 

イナホのおかしな様子に気づいたヨヨコは怪訝そうにイナホを見遣ると、隣の部屋から聴こえてくる自分のバンドの歌に気づいた。よく聴くと、声もどこか聴き覚えがあるような気がした。

途端にソワソワし出したヨヨコを見かねたイナホは、静かにヨヨコに声をかけた。

 

「あの〜、ヨヨさん。お隣の部屋、見に行ってみます…?」

「そ、そうね。そうしましょう」

 

 

 

「…ごめんなさ〜い。もしやケータさんにあらせられますか〜?」

 

イナホはヨヨコとUSAピョンを連れながら、隣の部屋のドアを小さくノックしてから開いた。SIDEROSの曲を熱唱していたケータは、思わぬ来訪に頬を赤らめつつも、若干上擦った声で気丈に歌い続けた。

ラスサビに突入して返事を返すに返せないケータの代わりに、ウィスパーとジバニャンと郁代が応対した。ひとりはケータが脱いだ防寒具を抱き締めながら、顔見知りが増えて気まずさが増した空間に必死に耐えていた。

 

「おやイナホさん……と、ヨヨコさん!こりゃまたとんだ偶然でうぃすねえ!」

「二人でカラオケニャン?」

「仲良しなんですね〜!!」

「そ、そうよ。これは決してバンドメンバー全員にバックレられてあまりの寂しさにダメ元でイナホに連絡して来てもらったとかそういうのじゃないから。私たちは今日友達として一緒に遊びに来てるんだから」

「ヨヨコ、ユーはもう何も言うなダニ…」

 

USAピョンがヨヨコに憐れみの視線を向けながらそう言うと、苦笑いを浮かべていたイナホが、ふと尋ねた。

 

「ところで、みなさま方は何故にカラオケに?黄色い方と青い方は今日はいらっしゃらないので?」

「…私の練習の為のカラオケに付き合って貰ってるの。バイト終わりにひとりちゃんとケータくんたちにお願いしたから、先輩たちは今日はいないわ」

「……ふーん。練習、ね」

「…ヨヨコ?」

 

郁代の方を静かに見据えながらそう呟くヨヨコを見たUSAピョンは、不思議そうに首を傾げた。

その時、歌い終えたケータが、郁代たちの方へと近づいて行った。

 

「イナホさんとヨヨコさん!……あはは。恥ずかしいとこ見られちゃったな」

「恥ずかしくなんかないわよ、ケータ。……むしろ、嬉しかった。アンタが歌う私たちのバンドの歌、いつかもっとちゃんと聴いてみたいわ」

「あ、ありがとうございます!ヨヨコさんっ!」

「そうですよケータさん!とってもお上手でしたよ〜!」

「はは…。イナホさん、お世辞は良いって…」

「……私も一応本心で言ってるのにこの対応の差〜…」

「普段のテメーの言動の自業自得ダニ。甘んじて受け入れとくダニよ」

 

USAピョンがそう言った時、郁代はふと、ヨヨコたちに手招きをし出した。

 

「あ、そうだ!もし良かったら三人も一緒に歌いませんか?」

「……まあ、偶には大人数も悪くないわね。イナホ、USAピョン、アンタたちはどう?」

「私も賛成っす!」

「ミーもちょうど久々にウィスパーとジバニャンと話したかったダニ!」

「良いですねえ。私も久々にUSAピョンとお話してみたかったんです!」

「オレっちもニャン!」

(あ、あれ!?いつの間にかみんな同席する空気になってる!?)

(……ひとりさん、大丈夫かな)

 

妖怪三人が積もる話で盛り上がる中、反対と言い出せる空気ではなくなってしまったことを必死に思い悩んでいるひとりを見かねたケータは、ひとりの方にこっそり近づくと、小さい声で呼びかけた。

 

「……ひとりさん、イナホさんたちが同席しちゃっても大丈夫?無理そうだったら、オレからみんなに言うから」

「う、ううん。大丈夫。けいくんがこうして私を見ていてくれるから…」

「…そっか。でも、無理はしないでね。オレ、ひとりさんの隣に座ってるから、辛くなったらそっと知らせて。服の裾を掴むでも、背中を小さくつつくでも良いからさ」

「うっうん…!……うへへっ。ありがとけいくんっ…!」

 

ひとりの同意を得たケータは、再び郁代たちの方へと近づいて言った。

 

「オレも賛成です!ヨヨコさんと一緒に遊ぶのなんて初めてだから、楽しみだな〜!」

(……大丈夫じゃないって、言えば良かったかな)

 

楽しそうにそう言うケータを見遣ったひとりは、心の中で静かに呟いたのだった。

 

 

 

「じゃあヨヨさんっ!さっき結局ヨヨさんの歌聴きそびれちゃったんで、改めて聴かせてくださいっ!」

「オレも楽しみです〜!」

「ふふん。アンタたち、耳の穴よ〜く広げて聴いてなさいな」

「「……むぅ」」

 

歌い出そうとするヨヨコの方へと目を輝かせながら視線を向けるケータを見て、ひとりも郁代も、不満げに小さく頬を膨らませた。USAピョンとの世間話に花を咲かせながらその光景を眺めていたウィスパーとジバニャンは、またアイツはとかぶりを振りつつもヨヨコが歌い出す様をUSAピョン共々ワクワクしながら見つめていた。

 

 

そして、ヨヨコの歌に聴き入りながら、ケータは改めて心の中でしみじみと呟いた。

 

(やっぱり、分かってはいたけど、ヨヨコさんの歌は凄いな。

…そりゃもちろん喜多さんだって上手だけど、ヨヨコさんは、なんというか、こう───()()()が違う)

 

ケータは続けて、これといずれ正面から戦うことになるという事実を再認識すると、その心の中に、ヨヨコの歌声への感動と共に、小さくも強い不安が湧き出した。

 

(……当たり前だけど、結束バンド(オレたち)は、いずれSIDEROS(ヨヨコさんたち)と正面から戦わなくちゃならない。

…でも、オレが今こうして不安になってたってどうしようもないし、オレなんかよりも、結束バンドのみんな───特に、喜多さんの方が不安だろうから、オレがみんなまで不安にさせちゃダメだ。オレだけは、みんなを安心させてなきゃダメだ。だって、オレは───結束バンドのマネージャー、天野景太なんだから)

 

ケータがそう心の中で呟いていると、歌い終えたヨヨコが、テーブルの上にマイクを置いた。

感嘆の声が響く中、郁代は静かにそのマイクを取り、歌い出した。ヨヨコは鋭い目つきで郁代を見据えながら、その歌声にじっくりと耳を傾けた。

 

 

───そして、郁代が歌い終え、ヨヨコが険しい表情を浮かべながら郁代に向けて声を上げようとしたその時だった。

 

「…オレたち、ちょっとドリンクのおかわり貰ってきますね」

「……えっちょっ、ケ、ケータさん?」

 

ケータは唐突にイナホの腕を掴むと、自身のコップを手に持ち、妖怪たちを引き連れて、カラオケの部屋を出た。

郁代は虚を突かれたようにケータの方を見つめていたが、ひとりはケータの意図を察して、ヨヨコもなんとなくケータの意図に勘付いていた。

ヨヨコは、部屋の扉を閉めるケータを見て、静かに呟いた。

 

「……私、歳下に気を遣わせてばっかりね」

 

 

 

そして、廊下にて。ケータの意図は分からないながらも空気はなんとなく察したイナホは、小声でケータに尋ねた。

 

「いきなりどうしたんですかケータさん。あんな強引に引っ張ってくるなんて珍しい」

 

イナホがそう言うと、ケータは静かに、心底申し訳なさそうに口を開いた。

 

「…ごめんねイナホさん。でもオレ、なんだか、あの瞬間だけは、オレたちはいない方が良いように───いや、()()()()()()()ように思えちゃって。……痛くなかった?」

「それは大丈夫ですけど……」

()()()()()()()って、どういうことダニ?」

 

ウィスパーとジバニャンに唐突に扉まで押し込まれたUSAピョンが、イナホに続けてケータに尋ねた。

ケータはゆっくりと、その口を開き出した。

 

「…多分、オレたちがいると───ヨヨコさんも、喜多さんも……そして、ひとりさんも、()()()()()()()()()を、ちゃんと言えないんじゃないかって、思って」

「……そういうことだったんですね」

 

ケータがそう言い終えると、イナホは納得の行ったように深々と頷いた。USAピョンは少し不思議そうに首を傾げていたが、ヨヨコの郁代を見るあの表情を思い返すと、小さく頷いた。

ケータと共にドリンクバーへと辿り着いたイナホは、いつもの調子で軽口を叩いた。

 

「いや〜、ケータさんも立派にマネージャーっぽくなってきてるじゃないっすか!能力とか発想とか性格とかは相変わらずフツーそのものですけど!」

「出たよそのフツーいじり…」

 

ケータがイナホのそのいつものいじりに呆れた目線を送っていると、ふと何か思い詰めるように口を開いた。

 

「……マネージャー、かあ。頑張るって決めたけど、まだオレじゃ力不足な気がしちゃうな」

 

ケータが不安を滲ませながらそう言うと、イナホは不思議そうに尋ねた。

 

「力不足、ですか?それまたどうして」

「……イナホさんも知っての通り、オレって『フツー』なんだよ。ひとりさんやヨヨコさんたちみたいな飛び抜けた特技もなければ、イナホさんみたいなバツグンの勘もない。

……そんなオレが、本当に結束バンドのみんなの支えになれるのかって思うと、どうしても、不安になっちゃって」

 

ケータがそう言い終えると、イナホはいつになく真剣な表情を浮かべながら、ケータの方を見据えて言った。

 

「───ケータさん。ケータさんが『妖怪マスター』と呼ばれる所以は、ケータさんのその『フツー』さにある。………少なくとも、私はそう思ってます」

 

イナホがそう言うと、ケータははっと目を見開いた。

イナホは続けて、いつものような茶化しなどは微塵も感じられない毅然とした態度で、心の底からの尊敬と羨望を滲ませながら、言葉を紡ぎ出した。

 

「貴方のその『フツー』さは、人間も妖怪も関係なく、多くの存在を救っています。

どんな時でも、どんな相手にも『フツー』でいられる。……これって、実は全然()()のことなんかじゃないんですよ」

 

イナホは続けて、少し小声になりながら言った。

 

「……実は、USAピョンが最初に探していた人間は、ケータさんだったんです。私がその話をUSAピョンから聞いた時、ケータさんのことを羨ましいって思いましたよ。

……私みたいなオタクかぶれなんかよりも、ずっとずっと常識的で、頼りになって。そんなケータさんに、私はずっとずっと憧れて、嫉妬してたんです。私がしつこいくらいにケータさんの『フツー』をいじってたのも、その所為だったんです。

……本当に、ごめんなさい」

 

イナホがそう言って頭を下げると、ケータは慌てて手を振った。

ケータが口を開くその前に、イナホは続けて言った。

 

「ひとりさん───結束バンドのみなさんは、きっと、そんな『フツー』なケータさんだからこそ助けられる人たちです。あの人たちは心の底から、貴方を頼りにしています。面と向かって話したのはほんの一瞬だけでしたが、私には、何となく分かるんです。

だって、私は───イナウサ不思議探偵社の探偵、未空イナホですから!」

 

イナホがバシッと決めてそう言うと、ケータは少し笑いながら言った。

 

「あははっ。ありがとう、イナホさん。イナホさんにそう言ってもらえて、なんだか凄く楽になったよ!」

「良かったです!私らももうすぐ中学生になりますが、これからもウォッチ使い同士、時には頼り合いながら仲良くやっていきやしょっ!」

「───もちろん!」

 

二人がそう言ってコップ片手にグータッチを交わすと、扉の向こうからなにやらひとりの少し大きめな声が聞こえてきた。声の内容を聞くに、ヨヨコが郁代に向けて放った何かしらの手酷い言葉に対して反論しているようだった。

 

(…そうだよね。ひとりさんは、誰かの為に本気になれる人だ。オレの時だって、そうだった。誰よりも優しくて、怖がりで、怒るところなんて想像もできないのに、自分の大切な人の為に、その怖さを振り切って、本気で怒ることができる。

───そんなひとりさんが好きだから、オレはここまで来れたのかもね)

 

天野景太はそう心の中で呟くと、静かに扉を開けたのだった。

 

 

 

 

 

そして、ヨヨコとも別れた後、駅構内にて。イナホとUSAピョンは空気を読んで二人で下北沢散歩に出かけた為、ひとりと郁代とケータの三人が、帰りの電車を待っていた。

 

「あっじゃあけいくん、喜多ちゃん、また明日…」

 

金沢八景方面の電車がやって来ると、ひとりと───ケータの手を引いた郁代が、それに乗り込んだ。

 

「……えっちょっ喜多さん!?」

「何考えてるニャン!?」

「待て待て待て!?」

「!?!?!?!!?!?!?」

 

ひとりは郁代の行動に対する驚きのあまり、言葉さえも出なかった。

郁代がケータを自分とひとりの間に座らせると、ジバニャンと共にどうにか車内に着いて来たウィスパーが、おずおずと口を開いた。

 

「…あのー喜多さん。あーた一体何をお考えで…」

「……さっき大槻さんに、ボーカルとしての私の問題点を色々指摘してもらって、今後のバンド活動の為に、ボーカルは自分の曲への理解を深めた方が良いって改めて思ったのよ」

 

郁代は続けて、一際目を輝かせながら言った。

 

「ひとりちゃんに直接歌詞を解説してもらえれば、私の課題もきっと突破口が開けるはずよ!だからお願い!今週末ひとりちゃんのお家に泊まらせて!」

「えーと…じゃあオレはなんで…」

「なーに言ってるのっ!今のひとりちゃんを語る上でケータくんの存在はもはや必要不可欠でしょっ!」

「だからって唐突にケータくんを巻き込むのは辞めてくださいよ……オイコラそこのピンク野郎うんうん頷いてんじゃねえっ!!!」

「───はっ!?!?

……喜多ちゃん、けいくんにもけいくんの生活があります。私たちの事情にあんまり無理矢理巻き込まないでください」

「そ、そうよね。…ごめんなさい、ケータくん」

 

ウィスパーの怒号で正気に戻ったひとりが郁代を咎めるようにそう言い、郁代がその言葉にしゅんとすると、ケータが慌てて口を開いた。

 

「ま、待って待ってひとりさん!オレは全然大丈夫だからっ!むしろオレも、そろそろまたひとりさんの家に遊びに行きたいって思ってたところだったし!」

「……まそりゃ確かに」

「オレっちもそろそろまたジミヘンと漢の語らいをしたいって思ってたところだったニャン!」

 

ケータのその言葉にウィスパーとジバニャンが同意すると、ケータは続けて口を開いた。

 

「……それに、オレを頼りたい人がいるなら、オレはその気持ちに全力で応えたい。それがオレにとって大切な人なら、尚のことだよ。

…ひとりさん。オレ、普段のひとりさんの気持ちが、今やっと分かった。オレ、もっとワガママになるよ。みんなをいっぱい頼るよ。……だから、ひとりさんたちも───オレをいっぱい、頼って欲しいな」

 

ケータからそう言われては、ひとりに残された行動は、もはや頷くことだけだった。

 

「う、うん!けいくん、やっと分かってくれたんだねっ!じゃあ、これからはもっとたくさん、私を呼ぶんだよ?……大切な人、大切な人かあ…。うへっ、うへへへっ…。

…………まあ、できることなら、けいくんには私だけを頼って、私だけに甘えて欲しいんだけどね」

(ひ、ひえぇ…。ひとりさん、今一瞬纏う妖気がエンマ大王様並みに…)

(ひとりちゃん、独占欲がすっぽんぽんの丸出しニャン…)

 

ひとりが最後に付け加えるように、若干ガチトーン気味にそう呟くと、その呟きを聴き取ったウィスパーとジバニャンは、静かに戦慄した。

ひとりはそんな二人のどこか恐怖の混じった視線に不思議そうな表情を浮かべながらも、隣に座るケータの温もりと匂いを静かに楽しんでいた。

 

 

 

 

どっちだと思う?

  • ぼケー
  • ケーぼ
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