その翌日の朝。
「よ〜し、昨日は寝ちゃったけど、今日は気を取り直してひとりちゃんを大解剖するわよ〜!小中学校の文集とかアルバムとか見せて!」
郁代が元気良くそう言うと、ひとりは心臓を抑えながら苦悶の表情を浮かべた。
「ヴッ…卒業文集ッ…」
「何故その言葉で致命傷を…!?」
「ひ、ひとりさん、大丈夫…?」
ケータが心配げにひとりを眺めていると、ひとりは押し入れから文集を取り出しながら言った。
「たったまに暗い人が謎の勇気を出して面白いことやろうとして滑ってる時ってあるじゃないですか…」
ひとりは、自身の黒歴史となった中学時代の文集を二人に見せながら言った。
「私も卒業文集でやっちゃったんですよね…」
「わ、若気の至りくらい誰にだってあるわよ!」
「大丈夫ひとりさん。妖怪に取り憑かれてる時のオレのやらかしに比べたら多分全然可愛いから…」
ケータは、ひとりのその痛々しい文集の文面を見ても引くことはなく、何か苦い記憶を思い出すように俯きながらそう言うのだった。
「け、けいくん一体どんなことになっちゃってたの…?」
「人前で急に腹踊りしたり鼻ほじったり、好きな女の子の前でチャック全開になったり、魔が差してイタズラばっかりするようになったり、変なことばっかり言うようになったりとか、本当に色々やらかしてきたよ…」
「ケ、ケータくん……」
ケータがそう言いながら項垂れて動かなくなると、郁代はケータに憐れみの視線を送り、ひとりはそんなケータを優しく抱き締めた。
「げ、元気出してけいくん。むしろそんな目に遭ってるのに自分をそんな目に遭わせた妖怪さんとも仲良くなってるんだから凄いよっ!」
「…うん。ありがとひとりさん」
(……ひとりちゃんの言う通りかも。私が同じことされたら、多分そのことを引きずっちゃって、そんなことさせてきたヤツと仲良くなんてなれないだろうな…。
…ケータくんがひとりちゃんやリョウ先輩の心をあそこまで開くことができた理由も、きっとケータくんのこの度量の大きさにあるんでしょうね)
ひとりのその言葉によって、郁代はケータの持つ度量の大きさを改めて感じたのだった。
ケータが元気を取り戻すと、郁代はひとりにアルバムを見せるように頼んだ。
「あっ個人の写真と集合写真しかないんですけど…」
(解説されるまでもなく中学時代が伝わってくるわ…)
ひとりのアルバムを傍で見ていたケータは、静かに呟いた。
「……中学時代のひとりさんも、やっぱり綺麗だな」
「えへへへぇ…」
(……対して今のひとりちゃんは本当に幸せそうで良かったわ…)
ケータのその呟きを聞き取ったひとりがニヤニヤと笑っていると、郁代はひとりにどこか呆れたような目線を送りながら心の中でそう呟いた。
そして、ページを捲った郁代は、ふと寄せ書きのスペースに何か書かれていることに気がついた。
(あっでも寄せ書きのスペースは何か書いてある!白紙じゃなくてよかっ……ん?犬のエサ、洗剤、15時に宅配受け取る……?)
文集のページに書かれるには些か意味不明なその文字の並びを見た郁代は、思わず呟いた。
「なにこれ」
「えっそこメモスペースですよね…?」
ひとりがそう言うと、つい最近卒業文集を受け取ったケータは何も言わずにひとりの肩に手を置き、郁代は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて眉間を抑えながら言った。
「……ひとりちゃん、とっても言いづらいんだけど───そこ、メモスペースじゃなくて寄せ書きスペースよ」
「………!?!?!?!?」
郁代のその言葉を受け、深いショックを受けたひとりは、静かにどこからともなく取り出した棺桶に入り、そのままゆっくりと目を閉じたのだった。
「だ、大丈夫ひとりさん?よしよし…」
「ア……生命が蘇ってく…。けいくんのなでなでは生命の泉……」
「即蘇生されてる…」
ケータが棺桶に横たわったひとりの頭を静かに撫でつけると、ひとりは即座に蘇ったのだった。
その後、下の階に降りた郁代は、ひとりの家族にインタビューをすることによってひとりへの理解を深めることにした。
(ひとりちゃん自身を見ても何も分からなかったから、こうなったらひとりちゃんのご家族に聞いてみましょう!)
と言うわけで、喜多郁代による後藤家インタビュータイム突入である。
───母、後藤美智代の証言。
「うーん、小さい頃から人見知りで引っ込み思案な子だったわねえ。物心ついた時は良く『お腹に戻りたい』って言ってたし…」
「キャラ徹底してますね!?」
「───あ、でもけいくんと出逢ってからは毎日本当に幸せそうでね〜!最近なんか、いつでもけいくんに呼び出されても良いように常にスタンバってるのよ〜!だからけいくんには、遠慮なんてせずにもっと気軽にひとりちゃんを召喚して欲しいって思ってるわ〜!」
「やっぱりケータくんが来てから大きく変わったのね…」
───妹、後藤ふたりの証言。
「おねーちゃん幼稚園のみんなからユーレイって言われてるよ〜」
「それは流石にあんまりじゃないかしら!?……って思ったけど、そう言えば今のひとりちゃん、それに近しい存在だったわね…」
「確かにそうでうぃすね…。まあ、妖怪と幽霊は厳密には似ているようで割と違う存在なんですけどねえ」
「……ウィスパーさん、ふたりちゃんに頭のほにょほにょで凄く遊ばれてるけど大丈夫ですか…?」
「楽しんでくれてるようで何よりですねえ。
…では、私たちはここいらで失礼させていただきます。喜多さん、インタビュー、頑張ってくださいね!
……ふたりちゃん、インタビューは終わったみたいなので、向こうで一緒におままごとしてましょ」
「わーい!遊ぶ遊ぶー!」
───犬、ジミヘンの証言。
「ワンワンワンワンワンワンワンワンワン!」
「なんて!?」
「『アイツはヘンなことしてる時もあるけど、優しくて心にアツい魂を秘めたすげえヤツだぜ』って言ってるニャン。…コイツ、本当にこの家のみんなのことが大好きみたいニャンね」
「言ってること分かるのジバニャンちゃん!?」
「そりゃそうニャン。オレっちだって元はフツーの飼い猫だったニャンからね」
「にしたって猫が犬の言葉分かるのはおかしくないかしら!?って言うかそもそもなんで地縛霊になったら人の言葉喋れるようになるの!?」
「……ま、そこは飲み込んでくれニャン」
「あからさまにはぐらかされたわ!?」
「ワンワン、ワンワンワン!」
「ん?ああ、そうかそうか。分かったニャン。
…じゃ、オレっちたちはこれで失礼するニャン。
ジミヘン、向こうで一緒にご主人が命の危機に立たされた時どう守るかについて語り合うニャンよ〜」
「語り合う議題が健気過ぎるわ…!」
───父、後藤直樹の証言。
「僕とひとりはふたりの中の家族カーストの最下位争いをしてるんだけど、良いライバルだよ!」
(ろくなエピソードが集まらないわね…)
「ちなみに1位はお母さんで、その次がふたりとけいくん。その次くらいにウィスパーさん、その次がジバニャンとジミヘンで、その下に僕らっぽいね」
「なんか若干天野家混ざってません!?」
「ははは。天野家はもう実質後藤家のようなものだからね」
(直樹さん、目が笑ってないわ…)
───元家主にしてともだち、天野景太の証言。
「…え、オレもですか?オレより喜多さんの方がひとりさんのこと良く知ってると思いますけど…。
……ってひとりさん、なんか怒ってる?」
「……私のこと、何も知らないみたいに言うのやめてよ。あんなに一緒に過ごしたのに…」
「ご、ごめんねひとりさん。
……そうだなあ。ひとりさんは───初めて会った時は本当にびっくりしたし、少し怖いとも思っちゃいましたけど。
……でも、本当はすっごく優しくて、かっこよくて、綺麗で。…素敵な人だなって、思います。オレが落ち込んでいた時も、何度だって慰めて、寄り添ってくれました。ひとりさんにならきっと、甘えても大丈夫なんだなって、思えました。
───ひとりさんは、他の誰かの為に本気で動くことができる、本当の意味での『ヒーロー』なんだなって、オレはそう思います」
「……!」
「け、けいくんっ…!私のことそんな風に思っててくれたんだねっ…!」
「……ってひとりさん!?うわあオレってばなんて恥ずかしいことをっ!?」
「うへへ…。けいくん。今私、とっっても、嬉しかったよ…!」
「わああひとりさん忘れて忘れてっ!頭撫でないでえっ!!」
「嫌だ。忘れてやらない。………絶対にね」
「もーひとりさんのいじわる!ちょっ抱き上げないで……力強っ!?」
(ジミヘンのとケータくんの以外まともなインタビュー内容がなかったわ…。
───そうよね、ケータくん。本当に本当に、君の言う通りだわ)
その後、インタビューを終えた郁代は、ふと思い出したように直樹に尋ねた。
「そう言えば、ひとりちゃんっていつ頃からギター始めたんですか?」
「あ、それオレも気になります!」
「私も気になりますね」
「オレっちも聞きたいニャン!」
話を聞いていたケータたちも続けて直樹に尋ねかけると、直樹は顎に手を当てながら語り出した。
「うーん…。確か中学に上がってすぐの頃からだったかなあ。昔から勉強も運動も頑張ってはいたんだけど、周りの子について行けてなかったみたいで。
…でも、ギターを始めてからは、その悔しさを埋めるみたいに没頭してたなあ」
郁代たちが静かに話を聞いていると、直樹は続けて、感慨深そうに言った。
「毎日6時間以上練習して今じゃプロレベルになってるし、努力家で天才なんだよ。本当に熱中できるものに出会えて良かったなあ。……ははっ、これじゃあ親バカかな?」
「ろ、6時間も……」
「ひとりちゃん凄すぎニャン…」
「彼女の好きなものに対する執着深さは知ってはいましたが、にしても凄いですね…」
ケータとウィスパーとジバニャンが驚く中、郁代は静かに頷いた。
直樹は続けて、若干苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「でもネット上で彼氏居るとか妄言吐くようになったのだけはな………いや、今となっては妄言なんかじゃないか」
「何故あーたはそこでケータきゅんの方を見るんです…?」
「はは、聞くまでもないでしょうウィスパーさん」
「…ちなみにそれ、みんなにアカウントバレてからピタッと止みましたよ」
「おお、そうなのか!……良かったあ」
───そうして、時間はあっという間に過ぎて行った。途中ケータたちは家に帰ろうとしたが、ひとりに懇願され、ふたりが駄々をこねた末にもう一日残ることにした。
夜、相も変わらず二つだけの布団が並べられたひとりの部屋にて。ケータは、少し寂しげに、それでも毅然として口を開いた。
「ひとりさん、喜多さん。……今日はオレ、美智代さんに言ってふたりちゃんとウィスパーと寝てきます。二人だけで話したいことも、きっとたくさんあるでしょうし」
「ありがとね、ケータくん。…でも、私が話したいことは、ひとりちゃんだけじゃなくて、ケータくんにも聞いていて欲しいことだから。……行かないで」
「……喜多さん」
「…喜多ちゃんもこう言ってるしさ、今日も私と一緒に寝よ?」
「……うん!」
ケータはどこか嬉しそうにしながら頷くと、いそいそとひとりの布団の中へと入っていった。
ひとりは電気を消して布団に入ると、ケータを抱き寄せながら言った。
「じっ時間が経つのあっという間でしたね…。何か掴めそうですか?」
「うーん…」
郁代は少し考える素振りを見せてから、にべもなく言い放った。
「ひとりちゃんは昔からひとりちゃんね。特に目新しい情報はなかったわ」
「あっ何かすみません…」
郁代は続けて、自信を失ったように言った。
「……ひとりちゃんが私と正反対な人生を歩み過ぎてて…。
やっぱり、私みたいな平凡な人間に、ひとりちゃんの書いた歌詞を歌いこなすことなんて出来ないのかな」
ひとりとケータが目を見開く中、郁代は続けて、天井を見上げながら言った。
「私って自分で言うのもなんだけど、そこそこ勉強も運動もできるのよ。友達だって多いし」
「あっそうですね」
ひとりが相槌を返すと、郁代は続けて、どこか物足りなさそうに言った。
「…でも、何かが特別秀でてる訳でもないし、ほんとふつーっていうか。楽しいんだけど、自分の人生味気ないなってぼんやり思ってて」
「……喜多さん」
ケータが郁代を見遣りながらそう呟くと、郁代は続けて、ケータを見遣りながら言った。
「───だから、ケータくんがフツーな自分に悩んでるってことを知った時、私、とっても君のことが放っておけなくなった。
……それと同時に、嬉しくもなっちゃったのよ。同じ悩みを分かってくれる人が現れたかもって。……酷いわよね」
「…そんなことないですよ」
きっぱりとそう言い切るケータを見ると、郁代は安心した表情を浮かべながら、続けて話した。
「リョウ先輩の路上ライブを見た時は、先輩の見た目に惹かれたのもあるけど、それと同時に普通じゃない道を歩いてるのは羨ましいなって思って。だから私も、バンドに入って頑張ってるつもりだった」
郁代は、そこで言葉を区切ると───一際悲しげな表情を浮かべながら、続けて言った。
「それでも、私には何もないのかなって」
ひとりとケータが息を呑む中、郁代は続けた。
「大槻さんみたいに伝えたいことがあって曲を作って歌ってる訳でも、先輩たちみたいにずっと音楽が好きでやってきた下積みも、ケータくんみたいに、自分の人生の時間を賭けてでも誰かの為に動きたいっていう想いも。
……ひとりちゃんみたいに、全ての時間をギターにつぎ込む情熱も、唯一無二の才能も、カリスマ性も…」
郁代がそう言い終えた時、ケータはふと吹き出した。
郁代もひとりも、不思議そうにケータの方を見遣ると、ケータは笑いながら言った。
「ははっ、ははははっ…!
……分かるなあ。こんなに人の気持ちが分かったのなんて初めてだから、思わず笑っちゃった」
「……ケータ、くん?」
郁代が目を丸くしていると、ケータは続けて、腕時計を郁代の目の前に運びながら口を開いた。
「…オレもこのウォッチをウィスパーからもらって、色んな妖怪たちとともだちになりました。色んな世界を見て、冒険して、色んな人を助けたりもしました。
───それでも。どんな冒険をした後でも。オレは絶対に『フツー』のままだったんです。自分をヒーローみたいに思い込んだことだって、もちろんない訳じゃなかったけど…。オレなんて、この妖怪ウォッチがなかったら、ただの無力なガキンチョです。
それでももし、誰かがオレをヒーローだと思ってくれているのなら───それはきっと、この妖怪ウォッチと、何よりどんな時でもオレの傍に着いてきてくれた、オレの頼れるともだちのおかげです。オレの力なんて、あってないようなものですよ」
「……君のその人柄がなかったら、きっと妖怪さんたちだって、君に力を貸してなんてくれなかったのに」
ひとりがどこか悔しげにそう呟いていると、ケータは続けて言った。
「…それに喜多さん、オレの『想い』を褒めてくれましたけど、買い被りですよ。初めてみんなのライブを観た時は聞こえの良い言葉ばっかり並べ立ててましたけど、オレの想いなんて、ちっぽけでくだらないものなんです」
ひとりと郁代が不思議そうにケータの方を見遣ると、ケータは恥ずかしそうに、そしてどこか自嘲気味に笑いながら言った。
「……『この人たちの傍にいれば、きっとオレもフツーじゃないオレになって、そんなオレのことを好きになれるのかな』なんて、打算交じりの想いなんですよ。
……くっだらないですよね。オレはいつだってそうだ。…すぐに人の力に頼っちゃう、情けないヤツだ」
「───だったらさ」
ケータがそう言い終えると、それまでただ黙って話を聞いていたひとりが、ふといつになく明確に怒りを滲ませながら口を開いた。
「私たちバンドマンは楽器がなかったらただの無力な人間だし、承認欲求を満たすっていう打算交じりで夢を追ってる私の想いも、ちっぽけでくだらないね」
「…そうは言ってないじゃん」
ケータが頬を膨らませながら納得の行かないように呟くと、ひとりはずいとケータに顔を近づけながら真顔で続けた。
「おんなじことだよ、けいくん。君の言ってることは、そういうことだ。……別に、私が怒ってるのは自分がそう言われたって思ってるからとか、そう言うことじゃないからね。
───君が、あんまりにも君を馬鹿にするから、私は今、すっごく怒ってるんだよ」
「……え?」
ひとりに真顔のままそう言われたケータは、いつにない迫力に思わず竦み上がった。
郁代も続けて、頬を膨らませながら言った。
「そうよケータくんっ!さっき言ってたケータくんのその『打算交じりのくっだらない想い』とやらは、私だって余裕で持ってるんだから!
………それに、ケータくんが私たちの為に動いてくれる理由が打算だけな訳じゃないって、私たちはもう知ってるから。卑屈になるのは、もうやめて欲しいな」
郁代はそこで言葉を切ると、続けて嬉しそうに言った。
「──ってことは、私とケータくんは
「
ケータが不思議そうに返事を返すと、郁代は頷きながら言った。
「うんっ!だって私もケータくんも、フツーな自分を変えたくて頑張ってるじゃない?立派なお揃いよ〜〜!!!」
「よ、夜なのに眩しいっ!?」
テンションが上がった郁代は、いつものように唐突に身体を輝かせ始め、ケータはそのあまりの眩しさに反射的に目を覆った。
その様子を見ていたひとりは、頬を膨らませながら、郁代に向けて言った。
「喜多ちゃん。私を差し置いて勝手にけいくんと盛り上がらないでください。
……あと、そういう意味なら、私もきっと二人とお揃いです。……仲間外れに、しないでください」
「…どういうこと?」
郁代が不思議そうに首を傾げ、ケータも同じような表情でひとりを眺めていると、ひとりはゆっくりと、その口を開き出した。
「───喜多ちゃんも、けいくんも、私も、このバンドを通じて自分を変えたいって思ってる所」
ひとりがそう言うと、郁代もケータも、はっと目を見開いた。
ひとりは続けて、郁代に向けて言った。
「その感情を共有できれば、きっと、喜多ちゃんに歌ってもらう理由だって充分だと思うんです。
……そっそれに、喜多ちゃんみたいな普通で楽しい人生を送ってきた人だからこそ届けられるものも、きっとあると思います」
ひとりがいつになくそう言い切ると、郁代もケータも、感心したようにひとりの方を見遣った。
その直後、ひとりは少し自信を失ったように小声で言った。
「あっえっ偉そうに語ってすみません…。少なくともけいくんに救われた私はそう思うっていうか、や、やっぱ他の人から見たらそうでもないかもすみません…」
「そこは自信を持って断言してよ!!」
「あっはい…」
「…ははっ!やっぱひとりさんはこうでなくちゃ!」
ケータがそう言って楽しげに笑うと、郁代もひとりも、心底嬉しそうに微笑んだ。
一頻り三人で笑い合うと、ひとりはそろそろ寝ようと口を開いた。
「あっじゃあお休みなさい」
「え〜!もう少しお話しましょうよお。思えばお泊まりっぽいこと全然してないしっ!恋バナしましょうよ気になっている人いる!?」
「そんなの天野景太くんに決まってるじゃないですか」
「そうだった、持ち掛けるまでもなかったんだわ…。テンション上がり過ぎて失念してたわ…。
……じゃあケータくんっ!」
「えっオレも!?……えーっと…。オレのクラスのマドンナの木霊文花ちゃん、ですかね…?」
「……むぅぅ〜〜っ…」
「じゃあじゃあっ!結束バンドだったら誰が気になる!?」
「この空間でそんなこと答えられるわけないでしょ!?
……う〜ん。みんな凄く魅力的な人だけど……虹夏さん……と…………ひ、ひとり、さん……」
「きゃ〜〜っ!!」
「うへへぇ…。けいくん、私のこと気になってるんだあ…。
……じゃっじゃあ、明日から付き合ってみる…?」
「小中学生に男女付き合いは早くないかしら?」
「あっ愛に年齢は関係ないので…」
「……その内ファンにショタコン呼ばわりされるわよ」
「それは心外です。私が好きなのはけいくんだけなので。ケータコンプレックスなら許しますけどね」
「略称はケーコンかしら?」
「それもそれでどうなのひとりさん…。
……まあ、嬉しくない訳じゃないんだけどさ」
そんなくだらない話を続けながら、三人の夜は更けていった。
───そして、またその次の日の朝。
「あっ朝ごはん用意してきますね…」
「うん、ありがと〜!私はケータくんと一緒に部屋片付けとくわねっ!」
「ひとりさん、よろしくね!」
「うんっ!
…喜多ちゃん。ご飯冷めちゃいますから、なるべく早くけいくんとリビングに来てくださいね」
ひとりがそう言って部屋を出ると、郁代は文集を片付ける為に押入れを開けた。
「えーと…。確か文集は押し入れの中に………え?」
───そこには、かつて自分たちがひとりと撮ったアー写が、びっしりと貼られていたのだった。
「どうしたんですか、喜多さん…………うわあっ!?何この写真!?」
「ま、前に私たちがひと……後藤さんと撮ったアー写なんだけど、なんでこんなにびっしり───」
郁代がそう言いかけた時、再び部屋の扉が開くと、そこからひとりが顔を出した。
「あっ目玉焼きは半熟で良いですか…?けいくんも半熟で大丈夫?」
「ひぃっ!?後藤さん!!ごめんやっぱり私帰るわ!ケータくんもまたSTARRYで会いましょっ!!」
郁代はそう言うと、凄い勢いで帰り支度を進めて、そのままそそくさと帰って行ってしまった。
「えっ!?何か距離感が…」
「きっ気の所為よ!これからも半分同じヒト科としてよろしくね〜!」
(わっ私と喜多ちゃんを繋ぎ止めるものが種族だけに…!?)
ケータは、帰って行く郁代を唖然としながら見送っていたひとりを静かに慰めた。
「ひとりさん。きっと、虹夏さんたちと写真撮れて、嬉しかったんだよね?……でも、あれは流石にちょっと怖いからさ。ちょっと剥がそっか」
ケータからそう言われたひとりは、ケータが何のことを言っているのかを思い至ると───全速力で自室へと向かい、開きっぱなしになっていたロッカーの中に貼っつけてあった写真を、片っ端から剥がしていったのだった。
───その後日。
「えっ歌を録り直したい!?」
「はい!前の歌じゃあ納得できなくて!」
「って突然言い始めて」
虹夏と郁代に唐突にそう頼み込まれたPAさんは、内心面倒くさく思いながらも、自分が曖昧な返答をしたせいかと思い直して、取り直しを許可しようとした。
その時、後ろで話を聞いていたケータも、PAさんに頭を下げながら言った。
「オレからも、お願いします。……喜多さん、少しでも自分とこのバンドが変わる為に、本当に頑張ってるんです。
───PAさんが頼りなんですっ!!」
「……し、仕方ないですねえ。ケータくんがそこまで言うんじゃあ、ね…」
「やったあ!ありがとうございます!」
ケータにそう懇願されたPAさんは、どこか満更でもなさそうにしながら作業の準備を始めた。ケータはその様子を見て、自分のことのように喜んでいた。
「PAさん、ありがとうございますっ!……ケータくんも、ありがとね」
「収録頑張ってくださいね、喜多さんっ!」
「任せなさ〜い!」
郁代がPAさんとケータに向けてお礼を言うと、ケータは笑顔で返事を返した。
その直後ふと、郁代は思い出したように口を開いた。
「……そう言えば、PAさんって名前なんでしたっけ?」
「あたしも知らないや…」
「やっぱりやりませんからねッ!!」
虹夏と郁代の遣り取りにショックを受けたPAさんは拗ねてしまったが、名前を覚えてもらっていないPAさんを流石に可哀想に思ったケータが普段の慰労も兼ねて肩を揉むことを提案すると、すぐさま機嫌を直して収録作業に取り掛かった。
どっちだと思う?
-
ぼケー
-
ケーぼ