ちょっと若干シリアス気味な描写があるかも知れませぬ。お気をつけて
春休みも中盤に差し掛かったある日、STARRYにて。
「そう言えば、ケータくんたちって今までどんなことしてきたの?」
練習も掃除も一頻り終えて落ち着いた空気の中、虹夏はふと、ケータにそのようなことを尋ねた。
他の三人も興味深げにケータたちの方を見守っていると、ウィスパーがふと、大仰にその口を開いた。
「……いや〜、とうとうそれを聞いてしまいますか虹夏さん。
───聞かれてしまったからには語らねばなりませんね。私たちの歩みを!」
「…別にそんなご大層なもんでもないけどね」
ケータはウィスパーの大袈裟なセリフに呆れながらそう言うと、懐かしい思い出を振り返るように語り出した。
「……そうだなあ。山の中で友達と虫取りしてたら見つけたガシャガシャを回してウィスパーと出会ったり、交差点でジバニャンと出会ってともだちになったり、妖怪映画監督の作る映画に出たり……」
「充分色々やってるじゃない!」
「けいくん、良かったらもっと詳しく聞かせて…?」
郁代もひとりも、ケータの話に強く興味を惹かれたように耳を傾けた。
ケータは頬を掻きながら、そっと呟いた。
「……うーん。オレとしては、結束バンドのみんながどうやって出会ったのかとか、オレが来るまでにどんなことがあったのかとかも気になるんだけど…」
ケータのその呟きを受けた虹夏は、少し考える素振りを見せると、ゆっくりとその口を開いた。
「…そうだなあ。あたしとリョウがバンド組んで、メンバーの募集をかけてたら喜多ちゃんが来てくれて……その後初めて合わせ練習しようとした時にバックレちゃったけど」
「あ、あの時のことは掘り返さないでくださいっ!」
「あはは、ごめんごめん」
虹夏は、頬を膨らませながらぷんすこと怒り出す郁代を窘めながら、続けて言った。
「……去年の5月くらいに、近所の公園でぼっちちゃんと出逢って、ぼっちちゃんが結束バンドのメンバーになって、ぼっちちゃんのおかげで喜多ちゃんもまたバンドに戻って来てくれて。
それから、アー写を撮ったり、オーディションを受けたり、台風の中初めて四人揃ってライブをやったり、みんなで江の島に行ったり、ぼっちちゃんと喜多ちゃんの高校の文化祭でまたライブをやったり…。
───本当に、色々あったよ」
虹夏がどこか懐かしむようにそう言うと、他の三人も、感慨深げに目を細めた。
虹夏は続けて、ケータに向けて誇らしげに言った。
「オーディションとか、初めてのライブの時のぼっちちゃん、ものすっごくかっこよかったんだよ?張り詰めた空気を一瞬で吹き飛ばしちゃってさ!
……あの時のぼっちちゃんは、本当にヒーローみたいだったなあ」
ケータは虹夏のその言葉を聞いて、どこか惜しむように呟いた。
「……オレも見たかったな」
「う、うへへ…。けいくんが昔の私に興味を示してくれてる……!
だ、だったらさ。これからはずっと私と───私たちと一緒に居ようよ、けいくん。
昔はそうじゃなかったかもしれないけど……これからの私たちは、ずっとずっと、けいくんと一緒に在るから」
ひとりは、昔の自分の姿を本心から「見たかった」と言うケータを見てだらしなく頬を緩めると、緩まった頬を引き締めてから、改めてケータの方に向き直りながら言った。
他の三人も、深々と頷きながらケータの方を優しい目で見つめた。
その時虹夏は、ふと思い出したように慌てて口を開いた。
「……って、そうだったそうだった!今はケータくんの話を聞こうとしてるんだった!」
虹夏がそう言うと、他の三人もはっと目を見開いてケータの方へと目を向けた。
ケータは四人の視線を受けると、ゆっくりとその口を開き出した。
「……あの夏の日、近所の山で虫取りをして、獲った虫の大きさを友達にからかわれて悔しくなってた時に光る虫が飛んでいくのを見つけて、それを追いかけていたらいつの間にか山奥まで来ちゃってて、そこで古ぼけたガシャガシャを見つけたんです。
そのガシャガシャを不思議に思って見つめていると、突然『い〜れろい〜れろ』なんて変な歌が聞こえてきて。……ジュース代の100円を試しに入れて回してみたら、コイツが───ウィスパーが、出てきたんです」
ケータはウィスパーを乱雑に抱きかかえながら、続けて口を開いた。
「コイツは出てきていきなりオレの執事に名乗りを上げ始めて、オレの傍をついて回るようになりました。オレが初めて付けた妖怪ウォッチも、コイツから渡されました。……始めの頃はこんなヘンなヤツ傍に置いておけないって思ってたんですけど、話してみたら意外と面白くて、優しくて。
……そうしている内に、いつの間にか、すっかりウィスパーに───妖怪たちに心を許しているオレがいました」
ケータがそう言うと、ケータの腕の中にいるウィスパーは心底嬉しそうに口を開いた。
「いや〜、面白くて優しくて頼りになってイケメンだなんて、ケータきゅんったら照れますね〜」
「……半分くらい言ってないんだけど。
っていうか、結局オレあの時のジュース代返してもらってないし〜?」
ケータがからかうようにそう言うと、ウィスパーは一際慌てながら頭を下げた。
「ももも申し訳ございませんケータ君っ!!今は持ち合わせがありませんがいつか必ず〜〜っ!!」
「あっはは!冗談に決まってんじゃん。そんなこと今さら気にしてる訳ないでしょ。……変なとこで律儀なんだからな〜、ウィスパーは」
「んも〜、びっくりしたじゃないですかケータきゅうん…」
二人のそんな仲良さげな遣り取りを、ひとりとリョウは、心底羨ましげに見つめていた。
その時ふと、ずっと寝転がりながらケータたちの話に耳を傾けていたジバニャンが、感慨深げに口を開いた。
「……そうニャンねえ。ケータは───オレっちのエミちゃんへの想いを認めてくれた、ただ一人の人間ニャン」
「……エミちゃん?」
虹夏が不思議そうに呟くと、ケータが解説した。
「……ジバニャンの、生前の飼い主の女の子の名前です。ジバニャンはエミちゃんのことが本当に大好きで───死んじゃったきっかけも、トラックに轢かれかけたエミちゃんを庇ったことだったんです」
「……っ!」
ケータのその言葉を聞いた虹夏は、何かを思い出したように強くその目を見開いた。………カウンターから何となしにケータの話を聞いていた星歌も、強く目を見開いてジバニャンの方を見遣った。
ジバニャンは続けて、軽い調子で笑いながら言った。
「……ま、あの時死んだおかげでこうしてケータたちと出会えて楽しくやれてるトコはあるニャンし、なによりエミちゃんを守れたニャンからね。飛び出したことに後悔はないニャン!」
「………でも、お前に遺されたエミちゃんは、きっと途方も無いくらいに悲しかったと思うぞ」
星歌は、ケータたちの方へと歩み寄りながら、軽い調子でそう言うジバニャンに向けて、重々しくその口を開いた。
ジバニャンはその言葉に、自分を戒めるようにその口を開いた。
「………分かってるニャン、そんなこと。オレっちが死んだ時に見せた、エミちゃんのあの涙────到底、忘れられるもんじゃないニャン」
「……ジバニャン」
ケータは、悲しげにそう呟く星歌に向けて、ふと口を開いた。
「……ジバニャンは、本当に飼い主想いの猫なんです。またエミちゃんに飼われた時に車に轢かれない猫になる為に、交差点の前で日々トラックに勝つ為の特訓を続けてたんです。……たった一人で、何度も」
「…人様に取り憑いて寸止め交通事故起こしてましたけどねえ」
「シャレになってねえ!!!!」
「ジバニャンちゃんそれは流石にダメだよ!!!!」
ウィスパーのその言葉を聞いた姉妹は、流れかけた涙を引っ込ませながらジバニャンに詰め寄った。
ジバニャンは過去の自分を心底恥じるように口を開いた。
「あ、あの時のオレっちは本当にどうかしてたニャン。……危うく、エミちゃんや自分と同じ思いをする人を増やしちゃうところだったニャンから」
ジバニャンは続けて、ケータの方を優しく見遣りながら続けて言った。
「……でもケータは、そんなオレっちの想いを認めてくれて『他の人に迷惑かけるならオレに取り憑いて良い』って言ってくれたニャン。…だから、ケータはオレっちにとって、最高のともだちなんだニャン」
「そうだったんですね…。
……けいくんはやっぱり、本当に優しい人だ」
「ケータはいつだってそう。私みたいな人間にも、そのあったかい手を笑いながら差し出してくれるんだから。
……だから、この笑顔だけは絶対に、守らなきゃいけない」
ジバニャンのその話を聞いたひとりとリョウは、ケータの方を優しく見つめながら、そっと呟いた。
その呟きを聞き取ったウィスパーが、頷きながら辞典のようなものを取り出した。
「うんうん。お二人の言う通りでございます。
……それではここいらで、素晴らしき我が御主人様であるケータ君が今までにともだちにした妖怪たちをご覧に入れましょうか!
てってれー!妖怪大辞典〜」
ウィスパーがどこぞの猫型ロボットのようにそう言って妖怪大辞典をテーブルの上に置くと、ひとりがふと、ウィスパーに向けて不思議そうに尋ねた。
「あっあの。妖怪大辞典って……なんですか?」
「よくぞ聞いてくださいましたひとりさん!妖怪大辞典とは、妖怪とのともだちの証である妖怪メダルを収納しておく為のアイテムでございます。
…もちろん、ひとりさんのメダルも大事に収納されておりますよ」
ウィスパーがそう解説すると、ジバニャンが小さく付け加えた。
「オレっちやエンマ大王様のメダルは、ちょっと前まではいつでも呼び出せるようにポケットに入ってたみたいだけどニャ」
「ご、ごめんね。あの時はことあるごとに呼び出しちゃって…」
「別に全然良いニャンよ。
……むしろ、最近は中々頼ってくれなくて寂しいくらいニャン」
ジバニャンが寂しげにそう呟いていると、ひとりがふとケータに向けて口を開いた。
「じゃっじゃあ私のメダルも、これからは大辞典じゃなくてポケットに入れてよ…!」
「……流石に申し訳ないよ」
ケータが小さくそう言うと、ひとりは首を大きく振りながら叫んだ。
「私はけいくんといつでも会いたい!いつでも頼って欲しい!どんな妖怪さんよりも……ジバニャンさんよりも、真っ先に私を呼び出して欲しいっ!!」
「ちょっと今聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするニャン…」
ジバニャンがひとりをジト目で見つめながらそう呟いていると、虹夏がふと小声で、驚きを滲ませながら呟いた。
「……ちょ、ちょっと待って。今『エンマ大王』って聞こえたような…」
「さ、流石に気の所為ですよ伊地知先輩!」
虹夏の言葉に郁代が焦ったようにそう返すと、リョウがふと───紫色のメダルを辞典から見つけ出して、静かに言った。
「……いや、気の所為でもないみたいだよ」
「「……ほえっ?」」
リョウのその言葉に、虹夏も郁代も、素っ頓狂な声を上げた。
リョウが取り出したその紫色のメダルの名前欄には────はっきりと『エンマ大王』の名が、書かれていた。
虹夏と郁代は、思わず大声で叫んだ。
「「え……えーーーーーッ!?!?!?」」
「こ、このエンマ大王って、あの嘘ついた人の舌べろ引っこ抜くっていう、地獄の王様!?マジで!?」
「ケータくん、そんな人ともともだちなの!?
……やっぱり、普通なの私だけなんじゃな〜い!!ケータくんの裏切り者〜〜!!!」
虹夏が叫び、郁代が大声で喚き立てると、ケータが慌てながら言った。
「ふ、二人とも落ち着いてください!喜多さん、前だって言ったじゃないですか!どんな妖怪とともだちになったってオレ自身はずっとフツーのままだったって!オレから見たら、オレなんかよりもずーっと喜多さんの方が凄い人ですっ!!」
「…どこの世界にエンマ様とともだちなフツーの男の子が居るって言うのよお。
………あと、前みたいに『郁代さん』って呼んでよ」
郁代が泣きべそをかきながらそう言うと、傍から見ていた星歌が呆れながら呟いた。
「…ま、そりゃそんな反応にもなるわなあ」
「お姉ちゃん、知ってたの…?」
「ああ。前にウィスパーさんから聞いた」
星歌が頷きながらそう答えると、虹夏は「聞いてないんだけど…」と不満げに呟いて、深く溜め息を吐きながら気を取り直した。
そして、ふと虹夏は、リョウの持つエンマ大王のメダルを見ながら呟いた。
「……このメダルに描かれてるエンマ様、あたしの知ってる閻魔大王と大分イメージ違うんだけど」
「…確かに。閻魔大王ってこんな金髪褐色の兄ちゃんじゃなくて、もっと荘厳に帽子被って尺とか巻物とか持ってるお爺ちゃんのイメージだよな」
「………わ、意外とイケメンなんですね」
「ひぇっ。金髪褐色陽キャ…」
そのメダルを同じように覗いた星歌が頷きながら呟くと、また続けて同じようにメダルの絵を見た郁代とひとりも呟いた。
四人のその呟きを聞いたウィスパーは、笑いながら言った。
「このエンマ大王様は当代の大王様ですからね。虹夏さん方がイメージしていらっしゃる閻魔大王様は、恐らく先代の閻魔大王様でしょう」
「閻魔大王って襲名制だったんだ…」
虹夏が驚いたように呟いていると、ケータはふと、懐かしむように口を開いた。
「……にしても、懐かしいなあ。60年前に行ってじいちゃんと会ったり、世界の次元がいきなり変わって、そこで出会った女の子を助けたり。
……エンマ大王と初めてともだちになった時なんて、
───ケータがそう呟いたその瞬間。STARRY内の空気が、一瞬にして凍りついた。
ケータは、一変した空気に戸惑いながら慌てて口を開いた。
「……あ、あれ?みんな急にどうしちゃったんですか?」
「…そりゃあいきなりこんなどデカい爆弾ブチ込まれたら」
「こうもなるニャンね…」
ウィスパーとジバニャンが呆れたようにそう呟くと、ケータは殊更に戸惑った。
彼女たちを包んだ数刻の沈黙の末に、最初に口を開いたのは───ひとりだった。
「……ねえ、けいくん。
「…えっ?い、いやあ…死んだって言っても全然大したことじゃないんだけど」
「良いから。答えて」
ひとりの、今までで一番であろうその圧の強さに内心怯えながらも、ケータはゆっくりと、その口を開き出した。
「……いつものようにウィスパーと一緒に学校に行ってたら、工事トラックの荷台に積まれていた鉄骨の下敷きになりかけてた人が居て。慌ててその人を助けた後、調子に乗って後ろ向きでスキップしてたら、開いたマンホールに気づかないまま落ちちゃって、そのまま死んじゃいました」
ケータは続けて、辛気臭い空気を取っ払うように、軽い調子で笑いながら言った。
「ははっ。だっさい死に方ですよね!こんなの笑い話くらいにしかなりませんよ!しかもしかも、死んで妖怪になっても、取り憑いた相手をフツーにしちゃう妖怪『フウ2』だなんて!もう流石に色々と酷すぎでしょーって!!あはは、はは、はははは…」
……ケータのその笑い声は、星歌と、実はこっそりと話を聞いていたPAさんも含めた、六人分の無の表情と───彼女たちの頬を静かに伝う涙を見たことによって、徐々に消えていった。
三人はふと、静かにケータに向けて尋ねかけた。
「……ケータ。そんな大事なこと、どうしてもっと早く私たちに言ってくれなかったの?」
「え?い、いや〜…。わざわざ言うまでのことでもないかな〜って…」
「……言うまでのことでもないって、何?ケータくんにとって、私たちはその程度の存在だったの?
……それともケータくんは、私たちにとってはケータくん自身なんてどうでも良い存在、とでも思ってたの?」
「そ、そういう訳じゃないんですけど…。ほ、ほら!いきなり『オレ実は死んだことあるんですよ〜』みたいなこと言うのってヘンじゃないですか!」
「……痛くなかったの?悲しくなかったの?怖くなかったの?寂しくなかったの?
………どうしてケータくんは、そんな目に遭っても、笑っていられたの?」
「い、いやあ…。あの時はあまりにも急過ぎたから、怖いとか悲しいとかは特に…。
死んだと思ったら、いきなり『妖怪市役所』なんてところに連れて行かれて妖怪にさせられて、人間界に戻って来たって思ったら『有馬ユウト』っていう男の子に取り憑くことになっちゃって。…本当に色々あり過ぎて、そんなこと思ってる暇とかありませんでした。
…それに、結局その後、あっさり人間に戻れましたしっ!」
ケータが三人の質問にあっさり答えると、ひとりはふと、ケータに向けて尋ねかけた。
「……『エンマ大王とともだちになった時』って、さっきけいくんは言ってたよね。
……ってことは、けいくんがそんな目に遭ったのは、エンマ大王の所為ってこと…?」
「ま、まあそうだね。エンマ大王はあの時、人間と妖怪の絆を試したかったみたいで…。その試練として、オレを妖怪にして試したって言ってた。『デーモンオクレ』っていう死神妖怪を出して、その死神妖怪にオレがスキップしてる道の先にあったマンホールの蓋を開けさせて、間接的にオレを殺して妖怪にしたって。
…オレだけじゃなくて、ジバニャンやイナホさんたちにも、それぞれに向けた別の試練を与えていたみたい」
ひとりたちが黙ってケータの話に耳を傾ける中、ケータは続けて口を開いた。
「……事の発端は、ぬらりひょんっていうエンマ大王の側近が謀反を起こして、人間と妖怪の交わりを断とうとしていたことなんですけど…」
ケータがそう語る中、ひとりは───自分の身を灼く憤怒の炎に、静かに耐えていた。
(……エンマ大王。『試練』で人の命を───けいくんの命を弄んでおいて、のうのうとけいくんのともだちでいるなんて。
……許せない。……………許さない)
ケータはそんなひとりの様子に気づくことなく、憧れるように天井を見上げながら、続けて語り出した。
「…凄いですよね。側近を説得する為に自ら人間界に出向いて、わざわざ自分の力を使ってまでしてオレたちに試練を与えて。
アイツは……エンマは本当に、人間と妖怪のことをいつだって第一に考えて、王として自分ができることをしている……王の鑑みたいなヤツです」
「───どこが?」
ケータが感慨深そうにそう言い切ると……ひとりは激昂し、激しい妖気を全身から放出しながら、静かにその口を開いた。
「けいくんを殺したソイツの、一体どこが王の鑑なの?……なんでソイツはけいくんをそんな目に遭わせたのに、けいくんにそんなに信頼されてるの?
………分かんない、分かんない、…………分かんないよッ!!」
「ひ、ひとりさん……!?」
ひとりがそう叫ぶと、ケータは戸惑いながらひとりの方を見遣った。
ひとりは激しい怒気と殺気を放ちながら、ケータに向けて口を開いた。
「……ごめんねけいくん。私、一回その『エンマ大王』ってヤツの顔を思いっきりぶん殴らないと気が済まないかも」
「ひ、ひとりさん。オレはもう気にしてないからさ…」
ケータが慌ててそう言うと、ひとりは悔しげに歯噛みしながらケータに詰め寄った。
「………なんで…!?どうしてけいくんは、自分を殺した相手にまでそんなに優しいの…!?」
「な、なんでって言われても……」
ケータが返答に悩んでいる時───ふと、男の活発な声が響いた。
「────そりゃ、オレがケータの『ともだち』だからだろ」
「うぃすっ!?………こ、このお声は…!?」
「ま、まさか…!?」
その声を聞き取ったウィスパーとジバニャンは、ふと圧倒的な熱気を感じると、店の扉の方へと視線を向けた。
───そこには。
「よおケータ!久し振りだな!……最近中々呼び出してくれねえし、
ま、小学校も卒業して、マネージャー業が忙しくなってきたみてぇだからしょうがねえか」
───妖魔界の現大王である『エンマ大王』その人が、人間界の辺境のライブハウスの玄関に、堂々と鎮座していた。
ケータは。久方ぶりに会う友人に、嬉しそうに手を振りながら口を開いた。
「エンマ大王!ごめんね本当に色々あってさー!」
「オレとしてはお前が楽しそうなのが何よりなんだが、たまにゃオレらんとこにも顔出してくれよ?お前の卒業祝いだってしたいし、ぬらりも時々、お前を心配し過ぎてお母さんみたいなこと言い出すからな」
「ははっ!ぬらりひょんも本当に優しくなったよねー!前に遊びに行った時なんて───」
「………貴方が」
ケータが楽しげにエンマ大王と話をしていると、ひとりはふとエンマ大王の方へと近寄りながら、静かにその口を開いた。
「貴方が………けいくんを殺した、エンマ大王ですか……!!」
「始めましてだな、後藤ひとり。……そして、伊地知虹夏、山田リョウ、喜多郁代───結束バンドに、その保護者二人よ」
ひとりだけでなく、他の五人も静かに大王の方を睨みつけていると、大王は静かに、その口を開いた。
「……まずは、お前たちのおかげでケータの顔に笑顔が増えたこと、礼を言わせてもらおう」
「………あんた、ケータの何?」
リョウは大王のその言葉に、敵意と嫉妬心を全開にしてそう返した。
大王は笑いながら、その言葉に返事を返した。
「はははっ!さっき言ったろ?ともだちだよ。……お前らがケータと知り合う、その前からのな」
「……ふざけたことを」
大王の言葉に対してひとりが静かにそう呟くと、大王は未だに自分の方を睨み続ける六人に向けて、改めてゆっくりと話し始めた。
「お前らのことは、ずっと妖魔界から見させてもらってた。
…ところで、お前らはオレがケータを殺したことを怒ってたな。
……その怒りは、至極真っ当だ。コイツは笑って許してくれたどころか、オレの行いを褒めてすらくれたが───オレのあの時の行動は、人の命を弄ぶ、到底褒められた行為じゃないって、自分でも思ってる」
「……大王様」
ウィスパーが大王のその言葉に驚いたように呟くと、大王は続けて、ひとりの後ろの五人に向けて話し始めた。
「………特にひとりはともかく、後ろのお前ら。お前らはひとりと違って戦う力を持たないただの人間にも拘らず、良く臆することすらなくケータの為にこのオレに怒ってくれた」
「………そんなの、当たり前でしょ」
リョウが静かにそう言うと、大王は続けて、六人に向けて満面の笑顔を浮かべながら口を開いた。
「───オレは今、確信した。お前たちにならば、ケータを任せられるとな」
そして、大王は静かにひとりの方へと近づくと───静かに自らの頬を、差し出した。
「…後藤ひとりよ、お前の怒りは尤もだ。
………オレには、お前の怒りを全霊を以て受ける責務がある。……さあ、殴れ」
「……殴れる訳、ないじゃないですか。だって貴方は、けいくんの大切なともだちです。さっき、貴方と話しているけいくんのあの楽しそうな顔を見て、確信しました。
貴方を傷つけたら───けいくんを傷つけることになってしまいます」
大王はひとりのその言葉を受けると、満足げに頷きながら口を開いた。
「はははっ!…お前ならそう言うって思ってたぜ、後藤ひとり。
だってお前には───ケータを傷つけることなんて、できないもんな」
大王は六人に向けて手を振り、妖魔界へと帰る準備をしながら言った。
「じゃあお前ら、邪魔したな!
……あと言っとくけど、ケータに会いたいのは
「はっ、大王たる者が馬鹿を言いなさんな。ケータが人間で居る限り、ケータとの距離は
「……山田リョウ。お前、死んで妖怪になったら覚えとけよ?」
リョウが大王を小馬鹿にするようにそう言うと、大王は明確に怒りを滲ませながら、リョウの方を睨みつけた。
リョウは大王のその睨みに怯えることすらなく、ケータの方へと向き直った。
ケータは、大王に向けて手を振りながら言った。
「じゃあエンマ大王、また遊びに行くからね!」
「ああ!待ってるぜ!……これで死ぬまでオレらんとこに来なかったら、そんときゃお前の舌べろ引っこ抜くからな〜!!」
大王が空の彼方へと消えて行くまで、ケータは大王に向けて手を振り続けたのだった。
大王が妖魔界へと帰った後。ひとりは改めて、ケータに声をかけた。
「……ねえ、けいくん。今度
「ひ、ひとりさん……?」
ウィスパーとジバニャンはひとりのそんな言葉を聞くと、呆れながら腕を広げた。
「……やれやれ。妖魔界の大王様にジェラっちゃいましたか、ひとりさん」
「ひとりちゃんならあながちエンマ大王様より強くなることだってできそうなのも、また何とも言えないニャンね…」
虹夏はその時、ふと思い出したようにケータに尋ねた。
「そういやケータくん、さっき60年前にタイムスリップしておじいちゃんと会ったとかなんとかも言ってたよね」
「はい!『怪魔』っていう人の心の闇を増幅させる化け物を相手にして、じいちゃんやともだち妖怪と一緒に戦いました!」
「……改めてすっげえ経歴持ってるな、ケータくん」
傍で話を聞いていた星歌が引き気味にそう呟くと、ウィスパーが自慢気に言った。
「ちなみにケータ君のお祖父様は、妖怪ウォッチを初めて創り出した人間でもあるのですよ〜?」
「じゃあもう血統から妖怪との縁があるじゃんケータくんっ!?」
「コイツもう一体どこが『フツー』なんだよ!?」
虹夏と星歌が姉妹仲良くそう叫んでいると、ひとりがふと、頬を緩ませながら口を開いた。
「……うへへぇ。けいくんの義祖父様…。いつかご挨拶に向かわなきゃ…!」
「……この人は相変わらずですね」
「でもケイゾウなら多分、ひとりちゃんのこともケータの妻として認めるだろうニャ…」
ウィスパーとジバニャンがそう囁き合っていると、ケータが懐かしむように口を開いた。
「…ケマモト村、久し振りに行きたいなあ。おばあちゃんにも久し振りに会いたいし、じいちゃんはもう死んじゃったけど、妖怪になってどっかに居るかもしれないしっ!」
「……そっか」
虹夏はどこか切なげにそう呟くと、その次の瞬間、張り切りながら声を上げた。
「…じゃあいつかさ、あたしたちで一緒にケマモト村に行こうよ!ケータくんのおばあ様にも、ちゃんと挨拶しておきたいしっ!」
「いきなりこんな大人数で押しかけたら迷惑ですよ伊地知先輩!」
「うっ、確かに…」
ケータは虹夏と郁代のそんな遣り取りを見ると、楽しげに笑いながら言った。
「あははっ!おばあちゃんなら、きっと喜んでみんなを出迎えてくれますよ!」
ケータを笑顔で見守っていたリョウも、その時ふと思い出したようにケータに尋ねた。
「……ところで、世界の次元が変わってそこで出会った女の子を助けた、っていうのは?」
「ああ。『南海カナミ』っていう、ちょうどみんなと同じくらいの年頃の女の子を助けたんです。
…その女の子、バレエをやってたみたいなんですけど、事故で脚が動かなくなっちゃったみたいで…。その哀しみで『大妖鬼ホゲホエール』っていう妖怪を産み出しちゃって。オレたちはその妖怪と戦って、カナミさんを救いました」
ケータがそう言うと、リョウとひとりは複雑そうな表情を浮かべた。
その時ふとウィスパーが、ケータをからかうように言った。
「あの時のケータきゅんったら、カナミさんを救う為に必死でしたもんね〜?オロチだのキュウビだのロボニャンF型だの、いつになくガチな妖怪を呼び出して街中駆けずり回ってましたし。
カナミさんに面と向かって『君を助けたいんだ』って言った時なんて、私もう飛び回った後の息切れとキュンキュンする心臓で死ぬかと……」
「もーウィスパーったら、いちいち掘り返さないでよお!あの時のオレのテンションちょっとおかしかったんだからあ!!」
ウィスパーのその言葉を聞いた四人は───いや、後ろの大人二人組も、思わず心臓を抑えた。
(け、けいくん。私を助けてくれた時だってそうだったけど、やっぱりかっこよすぎるよ……!!
……ちょっとカナミさんっていうその人が、羨ましいな)
(ケータくんマジ…!?心がやられてるときにそんなこと面と向かって言われようもんならあたしだって堕ちちゃうんだけど!?)
(わ、私の時もそうだったけど、やっぱりケータはこういうところが本当に………ずるい)
(ケータくん、言葉がもう乙女心にクリーンヒットね…。ひとりちゃんもリョウ先輩も惚れるわけだわ…)
(ケータくんったらとんでもねえ女誑しだ…。アタシも不覚にもキュンと来ちまった…)
(ケータくんの気取らない素直な声でそんなこと言われちゃったら、もう…。
……やっぱり私、この子のこと気になりますね…)
その一日は結局、ケータたちと結束バンドが、お互いの思い出話で花を咲かせている内に終わっていった。
───妖怪とともだちでごくごく『フツー』な心優しき少年、天野景太の運命は……
───陰キャで『ぼっち』な心優しき少女、後藤ひとりによって、確かに日々、その形を徐々に変え始めているのだった。
これにて『フツーな少年とぼっちな少女』第二章が完結となります!ここまでお読み頂いた方々、本当に本当にありがとうございました。そしてもしもよろしければ、まだまだ拙作とお付き合い頂ければ恐悦至極にございます。
さて、第三章からはとうとう未確認ライオット編に入ります!ぼざろキャラと妖ウォキャラの親密度が本格的に上がり始めたので、ここからはもっともっとクロスオーバーらしいエピソードも書いていきたいですね!(願望)
どっちだと思う?
-
ぼケー
-
ケーぼ