25.それぞれのはじまり
Side:天野景太・未空イナホ
今日は、さくら第一中学校入学式の日。
ごくフツーの
───その時だった。
「お、ケータ!おはよう!」
「おお、おはようクマ!」
恰幅の良いクラスのガキ大将的なポジションにして、ケータと特に仲の良い友達の一人『クマ』こと熊島五郎太が、ケータの肩にぽんと手を置きながら、元気良く声をかけた。
クマは続けて、愉快そうにクラス表に指を差しながら、喜びを滲ませた声で口を開いた。
「見てみろよそこのクラス表!俺もカンチもフミちゃんもケータも、みーんな同じクラスだ!一昨年からずっとだけど、こんなことってあるんだなあ!」
「えっマジで!?………うわっ!?ホントだ!!」
クマが指さした方を見遣ったケータは、驚きと喜びを滲ませながら叫んだ。
そして『未空イナホ』という名前を見つけたケータは、クマには聞こえない声量で静かに呟いた。
「……あ、イナホさんも一緒じゃん」
(…おや、これはまた何という偶然。ケータ君にツチノコでも取り憑いているのでしょうか。
……まあ何にせよ、ケータ君が今年も孤立することなく無事に学校生活を送ることができそうで何よりでうぃすね)
(ケータが今年も学校で楽しく過ごせそうで、オレっちたちもひとまず安心ニャン)
ケータがクマには聞こえない声量で少し嬉しそうに言うと、人間の友達と会話を交わしていたケータの為に空気を読んで黙っていたウィスパーとジバニャンが、暖かな微笑みを浮かべながら心の中で呟いた。
その時、また後ろから声が響いた。
「───ええ〜、こんなことってあるんだねえ!ボクも驚いたよ!」
「「カンチ!」」
常にヘッドホンを付けたオタク気質なお坊ちゃんにして、ケータと特に仲の良い友達の一人『カンチ』こと今田干治が、クラス表を見ながら二人に向けて口を開いた。
そしてまた続けて、声が響いた。
「───あ、みんなー!!まさかみんなとまた同じクラスになれるなんて、私もびっくり!今年もまたよろしくねっ!」
「「「フミちゃん!!」」」
クラスのマドンナ的存在にして、ケータが密かに想いを寄せる美少女『フミちゃん』こと木霊文花が、三人に向けて手を振り駆け寄りながら口を開いた。
「俺ら四人、勢揃いだなっ!!」
「今年もまた楽しい一年になりそうだねえ!」
「うんっ!オレもみんなとまた一緒になれて嬉しいよ!」
「私も私もっ!これからまた楽しみだよ!!」
四人がそうして和気藹々と盛り上がる中、その様子をUSAピョンと共に傍から見守っていたイナホが、静かに呟いた。
「……同じクラスになったんで挨拶しにケータさんの元に向かおうと思ったけど、あの輪の中に入っていくのは陰者の私には流石に厳しいもんがあるなあ」
「……意外と友達の多いユーを陰者に分類して良いのかどうかは些か疑問が残るところダニが、あの輪に入っていくハードルが高いのはまあ同意ダニね…」
USAピョンが呆れ気味にそう呟くと、周囲の生徒は教師の指示の元、ぞろぞろと体育館へと集まって行った。
「…ってヤッベ!!私らももう行かなきゃ!準備してUSAピョン!体育館にゴーだよゴー!!」
「わ、分かったダニ!!」
周囲を見たイナホが焦ったようにそう言いながら駆け出すと、USAピョンも急いでそれを追いかけた。
そうして、代わり映えのないメンバーで行われた入学式は、驚くほどあっさりと終わりを迎えた。
その後、教師の指示の元集まった教室にて。黒板に貼られてある座席表のプリントを見遣ったケータが、その意外過ぎる隣席者に心の中で強く驚きながら所定の席へと向かうと───
「あ、ケータさんちわーっち!
…同じクラスになった挙げ句に隣の席なんて、とんだ偶然っすね」
既に所定の席へとやって来ていたケータの隣席者───未空イナホが、いつもの調子でケータへと挨拶を投げかけた。
「イナホさん!オレもホントにびっくりしたよ〜。これからまたよろしくね!」
「はい、こちらこそ〜!」
二人がそうして挨拶を交わしていると、その足元で三人の妖怪たちも、主人と同じように挨拶を交わした。
「……まさかこのようなことが起こるとは正直私も思いもしておりませんでしたが、何にせよまたよろしくでうぃす!」
「ミーも流石に予想できなかったけど……まあ、一緒に頑張るダニ!」
「これはこれで楽しくなりそうでオレっちとしちゃ全然OKニャン!USAピョン、よろしくニャ!」
「ダニ!」
妖怪三人が仲良く頷き合っていると、クラス担任によるホームルームが始まった。
クラス担任の話を聞く中、ケータはふと結束バンドのメンバーに思いを馳せた。
(……そう言えば、ひとりさんや虹夏さんたちの新学期も、明日始まるんだっけ。
虹夏さんは今年受験生って言ってたし、虹夏さんの負担を少しでも抑える為にも、今年はオレが頑張るぞ〜!!)
ケータはそう奮起すると、これからの
───そうして、ウォッチ使いたちの中学校生活は、幕を開けたのだった。
Side:伊地知虹夏・山田リョウ
今日は、下北沢高校始業式の日。
高校三年生となった伊地知虹夏と山田リョウは、去年に引き続き同じクラスとなった。
「えーーー!?また今年もリョウと同じクラス!?
あたしたちずっと一緒じゃん!も〜やだ〜〜〜!!」
「……今年もよろしくね、虹夏」
虹夏がどこか満更でもなさそうにそう喚き立てると、リョウはどこか神妙な表情を浮かべながら呟いた。
虹夏はふといつもの癖でリョウの胸元のリボンを見遣ると、意外そうに呟いた。
「……リョウ、なんかいつもと違ってリボンちゃんと整ってるね」
「うん。……ねえ、虹夏」
リョウは頷くと、ふと虹夏に向き直りながら口を開いた。
虹夏が驚きつつもリョウに顔を向けると、リョウは真剣な面持ちで、言葉を紡ぎ出した。
「………今年からは、私はなるべくあんまり虹夏に頼り過ぎないようにする。虹夏だって受験生になっちゃうからあんまり負担はかけられないし。
何より───私は、ケータに心配をかけたくないし、ケータにとって頼り甲斐のある女になりたいから」
「………そっか」
そう言い切るリョウを見た虹夏は、嬉しくもどこか寂しそうだった。
虹夏は続けて、リョウに向けて感慨深そうに口を開いた。
「リョウ、最近じゃ人にお金借りることも随分減ったし、借りるにしてもちゃんとすぐ返すようになったし、ウチでご飯食べることだってめっきりなくなっちゃったもんね。あのリョウがケータくんのおかげでこんなに変わるなんてな〜…。
……じゃあこれからは、あたしがリョウの制服にアイロンかけてあげたり脱いだ洋服を洗濯機に入れてあげたりする必要もないのかもね」
「いや、それは虹夏が勝手にしてただけでしょ。…ありがたかったけど」
リョウがそう呟くと、クラス担任が虹夏に向けて呼びかけた。
「───そろそろホームルーム始めるぞ〜。そこ席に着け〜」
虹夏が席に着くと、担任は続けてクラス中に向けて指示を出した。
「じゃあ出席番号順に自己紹介でもするか〜。
そういう訳で伊地知、お前から自己紹介頼む」
「はーいっ!」
担任が虹夏に向けてそう指示を下すと、虹夏は立ち上がりながら自己紹介を始めた。
「伊地知虹夏です!これから一年間よろしく!結束バンドってバンドでドラムやってまーすっ!みんな見に来てねー!」
虹夏がそう言い終えると、教室中は一瞬しんと静まり返った。……下北沢高校は進学校である為、学外の趣味活動はあまり推奨されていないのだ。
担任は呆れたように頭を振りながら、虹夏に向けて口を開いた。
「……バンド活動にうつつを抜かすのも良いけど、受験頼むぞ〜。お前の組んでるバンドって確か、被り物してダイブしたり、メンバーが急に数週間くらい消えたりする曰く付きの色物バンドなんだろ?」
「知られたくない情報だけ広まっちゃってる!!」
虹夏は思わずそう叫ぶと、バンド活動に対する担任の淡白な態度に、不満げに頬を頬を膨らませながら着席した。
───そうして、自己紹介の順番は最後のリョウへと回って行った。
「じゃあ最後は山田な〜」
「…はい」
担任がリョウを指名すると、リョウは静かに返事を返して立ち上がった。
リョウは、立ち上がりながら静かに思考を巡らせた。
(担任に小言言われるのだるいから、ここは適当に『東大目指して頑張ります!』とか嘘でも…)
ついとこうかな。と考えたその時、ふと彼女の頭の中に、自身の想い人の───天野景太の笑顔が、脳裏をよぎった。
(───いや、ここで嘘とかついちゃったら、私はこれからケータに顔向けができなくなっちゃう。あれだけ私たちの為に一生懸命頑張ってくれてるケータの気持ちに、泥を塗ることになっちゃう。
………担任に小言を言われることなんかよりも、そっちの方がずっとずっと嫌だ。だって、私はもう、ケータにとって頼れる女になるって、そう心に決めたんだから)
リョウは静かに自分にそう言い聞かせると、思い切ってその口を開いた。
「山田リョウです。………虹夏のバンドで、ベースをやっています。興味あったら覗いてみてね」
リョウのその言葉を聞いた虹夏は驚いたようにはっと目を見開いて、リョウの方を見遣った。……そしてその口元は、みるみる内に笑顔の形へと変わっていった。
(リョウ、絶対適当な嘘でもでっち上げてやり過ごすのかと思ってたけど…。
……やるじゃん)
虹夏が静かに笑みを浮かべていると、担任が心底呆れたように言った。
「……山田。お前は成績が良い伊地知と違って留年がチラついてる成績なんだから、もっとちゃんと考えろ。好きなことを追うのは結構だが、もう3年生なんだから進路はちゃんと考えとけよ」
「……はい」
担任から案の定小言をもらって渋々といった様子で着席するリョウを見て、虹夏は静かに心の中でぼやいた。
(……本当うちの学校はバンド活動とかにドライなんだから。あたしもリョウも本気で考えてるし、結束バンドは全員本気でやってるバンドなのに。
…ぼっちちゃんたちの学校は自由そうで良いなあ。二人とも、同じクラスにはなれたのかな?
……ケータくんは今年から中学生かあ。もしもなにか辛いこととかがあったら、あたしたちにいつでも頼って欲しいな)
不満や他のバンドメンバーへの思いが胸を燻る中、虹夏はただ呆然と、窓から見える青空を眺めていた。
Side:後藤ひとり・喜多郁代
直樹と美智代は、深く衝撃を受けていた。
「ひ、ひとり………本気か?」
「………ひとりちゃん、本当に、大丈夫なの?」
玄関に立っているひとりは、両親のその大袈裟な態度に内心でショックを受けながら口を開いた。
「だ、大丈夫だよお父さんお母さんっ!私のことなんだと思ってるの!?」
「…だ、だってお前───今日、新学期だぞ?」
直樹が震えを抑えながらそう言うと、ひとりはぷんすこ怒りながら言った。
「だから大袈裟だってば!私だっていつまでも成長がない訳じゃないんだよ!!」
「…そ、そうよね。ごめんなさい。ひとりちゃん新学期の日はいつもトイレで30分は籠城していたものだから、つい…」
美智代が申し訳なさそうにしながら、それでも驚きを拭い去ることができなさそうな様子で言うと、ひとりは叫びながら家を出た。
「もうっ!お父さんもお母さんもいつまで昔の話ばっかりしてるの!!私もう行くから!!行ってきます!!!」
ひとりは家の扉を勢い良く開くと、そのまま駅まで駆け出して行ってしまった。
直樹と美智代は、そんなひとりの後ろ姿を見ながら呆然と呟いた。
「……アイツも、変わったなあ」
「ひとりちゃん、けいくんに出逢ってから随分と頼もしくなったわね。……やっぱり、恋する乙女の力は強いわ〜」
その後、いつもの秀華高校通学路にて。ひとりは歩きながら、心の中で静かにぼやいた。
(もう、お父さんもお母さんも失礼過ぎるよ。私だっていつまでも昔のまんまじゃないのに…。
た、確かに一昨年までの私は、日本陰キャラ協会調べ陰キャのトラウマイベント第三位であるクラス替えを恐れて、トイレの中に長時間籠もってたりしてたけどさ。
……私だって、変わるよ。だって───私を頼りたいって思ってくれているけいくんに、そんな情けない姿見せられないもん)
ひとりは心の中に自身の想い人の姿を思い浮かべると、その心は途端に想い人の方へと向き始めた。
(……ああ、けいくん。会いたい。あいたい。
学校での自分の立ち位置とか友達の多さとかもうどうでも良いから、とにかく今すぐにでもけいくんに───逢いたい)
ひとりの歩くペースが徐々に遅くなり、ひとりの全身から妖気が放出され始めると、その近くにいた、先程まで入る部活について会話を交わし合っていた新入生二人が、ひとりに奇異と恐怖の入り交じったような目を向けた。
(な、何あの人!?全身ピンクジャージだし、なんかものすっごい黒いオーラ纏ってるしっ!?)
(あ、あの人なんか怖え〜……)
その後、溢れ出る妖気と寂しさをどうにか抑えながら教室の扉を開けたひとりは、その教室の中に居た思わぬ人物に声をかけられた。
「───あっ、ひとりちゃん!私たち同じクラスになったのよ!これから一年間、よろしくね〜〜っ!!」
「あっきっ喜多ちゃん!?」
ひとりは思わず驚きながら声を上げて、指定された自身の席へと着席した。出席番号順の席順の為、丁度郁代の後ろの席だったのだ。
(惨めなところもっと見られそうで少し恥ずかしいけど、同じクラスなのは嬉しいな…)
ひとりがそんなことを思いながら郁代に向けて手を伸ば───そうとしたその時。郁代の背後に居る女子クラスメイト達が一斉に自分に不審な目を向けている様子が見えた。ひとりが伸ばしたその指先は、郁代が周囲に纏っている光によって若干焼けていた。
(こ、コレ迂闊に近づいたら死ぬヤツ!!)
郁代が纏う陽のオーラで少し焼けた指先を引っ込めながら、ひとりはボソッと呟いた。
「これが陽の結界……」
「えっなに何の話?」
当の郁代は不思議そうに首を傾げながら、既に癒えた指先を擦っているひとりの方を見遣った。………もしも今ひとりの身体から少しでも妖気が漏れ出ていたならば、郁代の纏っている陽のオーラに反射的に防御反応が起き、制御を失った妖気によって一瞬でクラス中が陰キャと化していたのだが、それはさて置いて。
ひとりは静かに、心の中で寂しげに呟いた。
(私には喜多ちゃんしか学校に友達居ないけど、喜多ちゃんにとって私は数ある友人の内の一人なんだな…)
その次の瞬間ふと、ひとりの頭の中には───やはりと言うか何と言うか、自身の想い人の姿が浮かび始めた。
(…もしかして、けいくんにとっての私も、数多く居るともだちの内の一人に過ぎないのかな。私はけいくんにとって、特別でもなんでもないのかな。
………まあだとしても、けいくんが幸せで居てくれるなら、私は─────)
その次の瞬間、ひとりはただ一言呟いていた。
「嫌だ」
「……ひとりちゃん、どうしたの?」
郁代が心配そうな様子でひとりに向けて声をかけても、ひとりの耳には届いていない様子だった。
その時、ひとりと郁代の背後から、少し気怠げな女子生徒の声が響いた。
「───お、喜多〜。今年も同じクラスじゃん。腐れ縁だね〜」
「…あら、さっつーじゃない!これで5年連続ね〜」
(………って知らない人!?い、いや、まさかまた喜多ちゃんの友達…!?)
郁代から『さっつー』と呼ばれたその女子生徒の声が聞こえると、ひとりの意識は途端に我に返った。
ひとりの意識が戻ったことを感じ取った郁代はひとりの肩を小さく叩くと、その女子生徒に手を遣りながらひとりに向けて口を開いた。
「ひとりちゃん紹介するわね!佐々木次子、さっつーよ!中学から一緒なの!」
「ども〜。
……あっ、確か、去年の文化祭のあの〜…後藤さんだっけ?よろしく〜」
(意味深な笑い!!)
若干笑みを浮かべながらそう言う次子を見たひとりは、せっかく紹介してもらったのだからここで何か言わないのも失礼だろうと思い直して、おずおずと口を開いた。
「あっすっ好きなバンドとか…」
「ウチヒップホップしか聴かないんだよね。喜多たちがやってるようなバンドの曲は聴かないわ。ごめん」
次子がしれっとそう言い放つと、ひとりは顔面崩壊しながら深く落ち込むでもなく、愛想笑いを浮かべることすらなく、心の中でただそっと呟いた。
(…まあ、もう良いや。無理に友達を作ろうとなんてしなくたって。だって、けいくんは、私のことちゃんと見ててくれるから。
………私にはもう───けいくんさえ、居れば良いから)
ひとりが気を取り直して目線を教卓へと向けると、クラス担任がふと、全体に向けて指示を出した。
「じゃあ自己紹介始めるぞー。そっちから順に立ってってなー」
(ひとりちゃんきっと不安だろうし、丁度前の順番の私が場を温めてあげなくちゃっ!)
郁代がそう奮起したその直後、順繰りに自己紹介が始まっていった。
「はい、次〜喜多、頼むわ」
そうして、自己紹介の順番は郁代へと回った。
「喜多郁代です!喜多ちゃんって呼んでください!趣味はイソスタなので映えスポットに行くことがあったら私も誘ってね!
あっ、もちろんみんな知ってると思うけど『結束バンド』ってバンドでボーカルやってます!動画サイトでMVも公開してるから、みんな拡散すること!」
クラスメイトの笑い声が響く中、郁代は徐ろにひとりの方へと指を差しながら言った。
「ちなみに後ろの席の後藤さんがリードギターやってるの!もうすっごく上手だから、一度は生で見ないと損よ〜〜!!」
(き、喜多ちゃん…!わざわざ私の為に…!)
(場はあっためておいたわよ!)
郁代が静かにひとりにサムズアップをすると、ひとりは少し感極まりつつも、心の中でぽつぽつと言った。
(……まあそりゃ、まだ私も友達は欲しいし、ちやほやだってされたいけど。
───でもそれは、けいくんたちや、結束バンドのみんなみたいに、真っ当に『私』っていう人間を認めてくれる人にだけだから。だからここは変に飾らず、取り繕わず、ありのままで行こう。『誰に見せるんだ』なんて思ってたありのままを、ここで思いっきり、ぶちまけてやろう。
……喜多ちゃんには、悪いことしちゃうけど)
「…じゃあ次、後藤」
担任がひとりを指名すると、ひとりは静かに立ち上がった。
「あっその…。きっ喜多さんも言ってた『結束バンド』ってバンドでリードギターやってます、後藤ひとりです…。みなさん、興味あれば是非見に来てください…」
ひとりがそう言い切ると、周囲の生徒からは、結束バンドに対する前向きな声が上がっていった。
自己紹介を終えて席についたひとりに向けて、郁代は小さく笑いかけながら言った。
「…良く頑張ったわね、ひとりちゃん。まあ声はいつもみたいにちっちゃかったし、ずっと俯いちゃってたけど、周りの人達も結束バンドに興味持ってくれてるみたいだったわよっ」
「あ、ありがとうございます、喜多ちゃん…」
ひとりは内心「こんな地味な自己紹介で良いんだ…」と思いつつも、郁代のその褒め言葉を素直に受け取った。
ちなみに次子の自己紹介は至極淡白なもので、たった一行であっさりと終わってしまった。
───そしてその後、放課後の教室にて。
(結局誰ともまともに話せなかった…。何人かは話しかけてきてくれたけど、会話もほとんど弾まなかったし…。わざわざ話しかけてくれたのに、申し訳ないことしちゃったかも)
ひとりが心の中で反省会を開いていると、その後ろに居た次子が、ふとひとりに向けて口を開いた。
「あっ、そうだ後藤」
「……さっ、ささささん?」
「ははっ。何その呼び方。おもしろ〜」
次子はひとりのその声に、軽い調子で笑いながら口を開いた。
「…さっき言い忘れてたけど、去年の文化祭のギター、かっこよかったよ。あれが印象的だったから、後藤のこと覚えてたんだよね〜」
「えっ?」
「そんじゃね〜」
ひとりは何がなんだか良く分かっていないながらも、少し感動しながら次子の方を見遣った。
(あ、あれ…?もしかして良い人…?)
「さっつーナイス!」
すぐ近くでその光景を見ていた郁代が次子に向けてサムズアップを送ると、郁代が教室に残っているクラスメイトに向けて呼びかけた。
「みんな〜!クラスのグループチャット作ったから入ってね!
……ほら、ひとりちゃんもっ!」
郁代がそう言いながらひとりにグループチャットに参加させると、ひとりは心の中で静かに喜んだのだった。
(どうでも良いなんて思っちゃったけど、もしかしたら、学校でも少しは楽しい思い出も作れるかもしれないな。
……私がこうして学校に通えているのも、またバンド活動ができるようになったのも、全部、全部)
ひとりはそこで、今日だけでもう何度思い浮かべただろうというあの少年の顔を思い浮かべると、ふと張り切って顔を上げた。
(───そうだ。今日はもうバイトも練習もないし、せっかくだから帰りにけいくんの家に寄って行こうっと!)
ひとりはそう決意すると、いつになく軽い足取りで駅へと向かっていった。
ケータたちは入学したてで席順は出席番号順のはずだからイナホが隣の席になるのは割とおかしいですが、これはケータとイナホにウォッチャー特有の謎の運命力が働いて席順を決める際に校長先生におれリュウが取り憑いたせいです。
どっちだと思う?
-
ぼケー
-
ケーぼ