ケータたちによってひとりが無事に家族と再会した、その一日後。
「ふああ…」
いつものように目覚めたケータは、まだ眠っているウィスパーとジバニャンを横目に見ながら、また少し、心にぽっかり穴が空いたような気持ちになっていた。
「…そっか。ひとりさんは、もうウチにはいないんだもんね」
ケータは頬を両手で打ち付けて気合いを入れ直すと、ふと今日は日曜日であったことを思い出した。
普段であれば、ウィスパーやジバニャンを連れて外に遊びに行ったり、家でゴロゴロしたり、クマやカンチと遊んだりと、やりたいことが山ほど出てくる、そんな日曜日。───しかし、今日は不思議と、家でだらける気にも、誰かと遊びに行く気にも、全くなれなかった。その代わりに頭の中に浮かんでくることといったら、ひとりのことばかり。
ケータは、その後ウィスパーとジバニャンが眠りから目覚めても、朝食を食べている最中に箸を取り落として両親に心配されても、午前の時が終わろうとしていても、ずっとずっと、上の空のままだった。
昼食を食べ終えたケータは、自室へと戻り───そこで、俄には信じがたい光景を目にした。
「あっケッケータくん。昨日ぶりだね。うへへ…。き、きちゃったっ」
───そこには、少し恥ずかしそうにしながら、行儀良くカーペットに座るひとりがいた。
ケータは、驚きのあまり、声にならない声でひとりに尋ねた。
「ひ、ひとりさん…?どうして、ここに…」
ケータのその質問を受けたひとりは、もじもじしながら言った。
「き、昨日ケータくんたちが帰ってから、中々落ち着けなくて…。」
ひとりは続けて、顔を真っ赤にしながら言った。
「久し振りに趣味のギターを弾いてみても、全然気分が休まらなかったから、リビングに行ってソファに座ってたら、ふたりに『昨日ケータくんたちが帰ってからずっとそわそわしてて気持ち悪い』って言われちゃって…。」
ひとりは、一呼吸置いてから、また口を開いた。
「…お母さんとお父さんにも『さくらニュータウンまで送って行ってあげるから、ケータくんに会いに行ってきなさい』って言われちゃって…」
ひとりのその言葉を聞いたケータは、驚きつつもどこかとても嬉しそうに言った。
「…そっかあ。そんなことがあったんだね!」
ひとりは慌ててケータに言った。
「あっ、もっもし迷惑だったらごめんね!そうだったとしたらすぐにお母さんとお父さんに迎えに来てもらうから!」
ケータは、ひとりの手を慌てて握って言った。
「そ、そんなことないよ!むしろすっごく嬉しい!」
ウィスパーとジバニャンが、からかうように口を挟んだ。
「午前中のケータきゅん、ひとりさんと離れ離れになった寂しさで、見ていて心配になるくらいずっと上の空でしたもんね〜?」
「昨日オレっちたちを窘めてたのに、結局ケータが一番ひとりちゃんのこと引きずってたニャン!」
ケータは恥ずかしさのあまり、手で真っ赤になった顔を隠した。
「も、もうやめてぇ〜…」
そんなケータの姿を目にしたひとりは、愛おしさと激しい喜びがない混ぜになったような表情を浮かべてケータの方を眺める。
そして。
「〜っ!ケータくんケータくんケータくんっ!!」
未だに紅潮した顔を両手で抑えるケータに、思いっきり抱き着いた。そんな光景に、今度はウィスパーとジバニャンが顔を真っ赤にしながら言った。
「ひひひとりさん!?なんと大胆な…!」
「もう見てるこっちが照れくさくなってくるニャン…!」
それからしばらくして、ひとりの腕の中で茹でダコのようになっていたケータが落ち着きを取り戻すと、真剣な表情を浮かべてひとりの方へと向き直った。
「───ひとりさん。オレ、ちょうどひとりさんに伝えておきたいことがあったんだ」
ケータのその表情を見たひとりは、気を引き締めながら尋ねた。
「…どんなこと?」
ひとりの質問を受けたケータは、ゆっくりと口を開いた。
「ひとりさんの、バンドメンバーのみんなのことだよ」
「…!」
その言葉を聞いたひとりは、ケータが次にどんなことを言うのか、なんとなく予想がついた。
ケータは、続けて言った。
「ひとりさん、家族のみんなの目にはもう見えるようになったみたいだけど、バンドメンバーのみんなの目にはまだ見えるようにはなっていない訳でしょ?」
ケータの言葉を受けて、ひとりは重々しく頷いた。
「…うん」
ひとりの返事を聞いたケータは、強い決意の滲んだ様子で言った。
「…なら、オレのやるべきことはまだ残ってる。
バンドメンバーのみんなに、ひとりさんを会わせてあげること。これが今のオレのやるべきことだと、オレは思ってる」
ひとりは、申し訳なさそうに言った。
「で、でもケータくんはもう、私を家族のみんなに会わせてくれたよね…?住む場所も与えてくれて、家族ともまた会えるようにしてくれたのに、バンドメンバーのみんなのことまで、ケータくんにお願いするなんて───」
ひとりが皆まで言う前に、ケータが遮った。
「水臭いこと言わないでよ、ひとりさん。ひとりさんとオレたちは、もうともだちでしょ?…もしもひとりさんがまだそうは思えてなかったとしても、オレはひとりさんのことを、大切なともだちだと思ってる。だから、オレはひとりさんのことを助けたいんだ。
…お願い、ひとりさん。オレに、ひとりさんのこと───助けさせてよ」
ケータのその言葉を最後まで聞き終えると、ひとりが涙を目尻に溜めながら言った。
「も、もう。…本当に君は、どこまで行っても、泣いちゃうくらいに、優しいんだから。」
ひとりは、一旦深呼吸して、心の準備をしてから、言った。
「わかったよ、ケータくん。
…ケータくんが良ければ、また、私のこと───助けて、くれますか?」
ひとりがそう言うと、ケータはみるみるうちに顔を綻ばせて、心の底から嬉しそうに、言った。
「うん!…喜んで!」
それからしばらくして、笑い合う二人を静かに見守っていたウィスパーが口を開いた。
「…あのー、すみません。私から一つご提案が」
ケータは、ウィスパーに向けて促した。
「どうしたの?」
ケータの言葉を受けたウィスパーは、続けて言った。
「ひとりさんをバンドメンバーに会わせる、とのことでしたが、バンドマンの集うライブハウスは、小学生が一人で行くには些か不自然過ぎる場所だと思うのです。…それに、ご家族とバンドメンバーとでは事情が違い過ぎます故、傍目から見える人間がケータくんだけの状況では、バンドメンバーの皆さんにひとりさんの存在を信じていただける保証はないと思います」
ウィスパーのその発言に、ケータは深く納得した。
「…確かにそうだね」
不安で少し落ち込んだケータに、ウィスパーは明るい調子で言った。
「そこで!我々には既に、ひとりさんのご両親という強力な証人兼保護者になりうる方々がいらっしゃいます!」
「!!」
ウィスパーのその考えを察したケータは、不安が全て吹き飛び、その表情が明るくなった。
ウィスパーはそんなケータを見やりつつ、ひとりの方に目を向けて言った。
「つまりは…。ひとりさんのご両親にそのライブハウスに連れて行っていただき、そのままお二人同伴の元、ひとりさんのバンドメンバーに事情を説明する、という訳でうぃす」
ウィスパーの説明を受けたひとりは、納得の行った表情を浮かべて言った。
「…なるほど。分かりました。ケータくん、いつ頃私のライブハウスに着いてきてくれるか教えてくれたら、お父さんとお母さんに伝えておくね」
ひとりの言葉を聞いたケータは、首を横に振って言った。
「ううん。今、ひとりさんのお父さんとお母さん、こっちまで来てるんでしょ。…だったら、オレが直接お願いしたいな」
ケータのその願いを聞いたひとりはしっかりと頷くと、スマホを取り出して、父親に電話を掛けた。
「───もしもし、お父さん?」
ひとりがそう言うと、直樹は電話越しに返事を返した。
『ああ、ひとり。ケータくんとは無事に会えたかい?』
直樹が言うと、ひとりは少し顔を赤らめつつ、喜びの感情を滲ませて言った。
「う、うんっ!会えたっ…!…それで、そのケータくんが、二人に会って話がしたいって言ってる。私をバンドメンバーのみんなと再会させようとしてくれてるみたいで、そのために、二人の力が必要なんだって」
ひとりのそんな言葉を聞いた直樹は、どこか嬉しそうにして言った。
『…そうか、わかった。ケータくんは本当に優しい子だね。
ちょうど時間潰しにおつかい横丁で買い物をしてたところだけど、すぐに母さんとそっちに行くね』
「う、うん…!」
直樹はそう言って、ひとりの返事を受けると、すぐに電話を切り上げた。
電話を切ったひとりは、ケータに言った。
「お父さん、ケータくんが二人に会って直接話がしたがってるってことを聞いたとき、ちょっと嬉しそうにしてたよ」
ケータは喜びながら言った。
「そうなの?なんか嬉しいな」
ひとりはそんなケータを、愛おしいものを見るように見つめた後、言った。
「買い物を切り上げて、すぐにこっちに来てくれるみたい。もうすぐ着くと思うよ」
ひとりがそう言うと、近くから車のエンジン音が聞こえた。
ケータたちが外に出ると、ちょうどその車がケータの家の近くへと来たところだった。
ケータの手前で停まった車の中から、直樹と美智代が出て来ると、口々にケータに声を掛けた。
「やあ、ケータくん。昨日は本当にありがとうね」
「ひとりったら、昨日ケータくんが帰った後からずっと落ち着かなかったのよ〜。…本当に、本当にありがとうね」
そんな二人の言葉を受けたケータは、表情を緩ませて言った。
「いえいえ。家族がまた一つになれて、良かったです!…ところで、オレ、お二人にお願いがあるんです」
ケータがそう言うと、直樹はケータに笑いかけながら言った。
「ああ、ひとりから聞いてるよ。ひとりをバンドメンバーに会わせる為に、僕らの力が必要ってことだろう?」
ケータは頷くと、続けて言った。
「今度の土曜日のお昼頃に、さんかく公園に来てください。どうか、よろしくお願いします」
直樹は、笑いながら言った。
「あはは、むしろお願いしなきゃいけないのは僕らの方じゃないか」
そして直樹は、態度を改め直すと、ケータに頭を下げながら言った。
「…また迷惑をかけちゃうけど、どうか娘を助けて欲しい。よろしくお願いします」
美智代も、続けてケータに頭を下げた。
「私からも、お願いします。娘を…ひとりを、助けてください」
二人のそんな言葉を受けたケータは、強い決意の滲んだ声で、返事を返した。
「はい、もちろん。…お任せください」
それからケータは、また5日間いつものような学校生活を過ごした。いつものように妖怪たちが教室までケータに会いにやってきたり、時にはいたずらしてきたりと、相も変わらずの学校生活だった。
───そして、土曜日の昼がやってきた。
親に、友達と遊ぶ約束をしている、と言ってさんかく公園に来ていたケータたちは、後藤家の車がやって来るのを待っていた。
…それからすぐに、後藤家の車がやって来た。運転手の直樹は車窓から顔を覗かせると、ケータに声を掛けた。
「やあ、ケータくんたち。準備は大丈夫かい?すぐにでも行けるなら、今ドアを開けるよ」
ケータが頷くと、直樹は車の自動ドアを開いた。ケータはウィスパーとジバニャンを抱いて後部座席のひとりの隣の席へと座ると、直樹に言った。
「直樹さん、運転よろしくお願いします」
直樹は、笑って頷いた。
「任せて」
車が道路を走る中、ケータはひとりに尋ねた。
「そう言えば、ひとりさんのライブハウスってどこにあるの?」
ひとりは、ケータのその質問に答えた。
「STARRYっていう、下北沢にあるライブハウスだよ」
ケータの膝の上に行儀良く座っていたウィスパーが、口を挟んだ。
「ほほう、『星空』でうぃすか。何やらロマンティックな名前ですねえ」
すると、ウィスパーは何かに気づくと、少し胡乱な目でひとりを見た。
「…てかひとりさんあーた、下北沢って金沢八景からガチガチに県外ですよね。毎日そんな距離をギター背負って行き来してるんでうぃすか…?」
ウィスパーの疑問を受けたひとりは、平然として答えた。
「?はっはい」
ひとりの、何もおかしいと感じていなさそうなその表情を見て、ウィスパーは思わず心の中で呟いた。
(この人、意外とやべーやつかも知んねえ…)
ひとりは、続けて言った。
「こ、高校も、誰も自分の過去を知らない場所に行きたかったので…。県外の高校に、通ってます」
その言葉を聞いたウィスパーは、疑念が確信へと変わった。
(あこの人ちょっとヤバいわ)
ケータは、そんな二人の会話に耳を傾けながらも、何も言わずにただ流れ行く目の前の風景を眺めていた。
そうしている内に、下北沢に着いた。下北沢に着くと、ケータは今までに見たことがないようなラフでおしゃれな雰囲気を、街の中から感じた。
街をしばらく眺めていると、ウィスパーがいつものように、街の概要を知ったかぶりもすることなくすらすらと教えてくれた。
「ここ下北沢は、バンドや洋服など様々なアートやカルチャーの発祥の地!そしてなんとあの『ポケットモンスター』シリーズが産まれた地でもあるのでうぃっす〜!」
ウィスパーの軽い説明を聞いたケータは、関心を寄せた。
「へえ〜、ってことはエネコロロにも会えるのかな」
ケータのその言葉を聞いたウィスパーは、思わずツッコんだ。
「何故そんなマイナーどころのポケモンを…。つかポケセン行けよ…」
ケータは構わず、独り言を呟いた。
「にしても、サブカルかあ…。イナホさんとかが好きそうな街だな…」
ケータのそんな呟きが耳に入ったひとりは、内心穏やかじゃない様子だった。
(イナホ、って多分…女の子の名前だよね。…どんな子なんだろう)
しかし、STARRYまでの距離が段々と縮まってくるのを感じて、すぐに気を持ち直した。
(っだめだめ!今はまだ、そんなこと考えてる場合じゃないんだ。せっかく私を助けようとしてくれてるケータくんに、失礼だよ)
───そうこうしている内に、車は、地下のライブハウス付近の駐車場という、文字通りいかにもアンダーグラウンドな雰囲気が漂う場所に停車した。
車から出たひとりは、もうかれこれ一、二週間ほどは見られていなかった目の前の風景を前にして、立ち尽くしていた。
(ああ…本当に、これからまたみんなに会えるんだな…)
ひとりは、同じく車を出たすぐ隣にいるケータの方を見ると、感慨深そうに微笑んだ。
(…ケータくんがここまで私のことを必死に助けようとしてくれたからこそ、ここに戻って来ることができたんだ)
ケータは、そんなひとりの目線に気がつくと、深く頷いて、ライブハウスに向かう階段へと歩みを進めた。
直樹も、美智代も、ケータの後ろに着いて、階段を降りた。
ライブハウスのドアの前に着いたケータは、不安を感じつつも、背後の二人の存在に安心感を感じながら、ゆっくりとそのドアを開いた───!
「チケットの販売は、夕方5時からですよ」
ケータの頭上から、頭に特徴的な三角形が乗った、黄色い髪の色をしている怖そうなお姉さんの声が響いた。お姉さんは少し呆れたようにケータの方を見ると、その後ろの二人の存在に気づいた。
「って小学生…と、貴方方は?」
と、その時。
「───あ、ぼっちちゃんのお母さんとお父さん!今日はどうなされたんですか?」
その後ろから、同じように頭に特徴的な三角形が乗り、黄色い髪の色をした、サイドテールが特徴的な元気そうな女の子の声が響いた。
直樹と美智代は、嬉しそうにその女の子に声を掛けた。
「虹夏ちゃん!元気そうだね」
「この前は、喜多ちゃんと一緒にウチに遊びに来てくれてありがとね〜」
(えっ、この人達ってぼっちちゃんのご両親だったの!?)
怖そうなお姉さんが内心で大きく驚く中、虹夏と呼ばれたその女の子は、少し楽しそうに返事をした後、不思議そうに尋ねた。
「いえいえ〜、この前はあたしも楽しかったですっ。…それで、そちらの男の子はどうしたんですか?」
直樹は、虹夏のその疑問に答えた。
「この子は天野景太くん。娘を───ひとりを、助けてくれた子なんだ」
虹夏とその怖そうなお姉さんは、同時に驚いた。
「「ぼっちちゃんを…!?」」
ケータは、着けていた腕時計を外して、虹夏に持たせた。
「お二人とも。説明するより、見てもらった方が早いと思います。その腕時計の右についてるボタンを押して、光が出てきたら、その光をオレの近くに照らしてみてください」
「う、うん…」
虹夏とお姉さんは見たことがない形をした腕時計に驚きつつも、恐る恐る右のボタンを押した。そして、出てきた光を、ゆっくりとケータの左右に照らした。
すると、変な幽霊のような生き物と、猫のような生き物と───この数ヶ月間ですっかり見慣れた、結束バンドの頼れるリードギターのシルエットが浮かび上がった。光を照らしていくうちに、そのシルエットは、明確な姿を現していく。
二人は、同時に声を上げた。
「「ぼ、ぼっちちゃんーー!?!?」」
二人のその声を聞いたひとりは、何やら気まずそうにしながら返事を返した。
「ど、どうもお久しぶりです。虹夏ちゃん。…て、店長さん。」
「なるほど〜、そんなことがあったんだねえ…」
ひとりから一通り事情を聞き出した虹夏が、驚きながら言った。直樹と美智代は、入り口の方でお姉さんと話をしていた。
「…にしても」
虹夏はそう言って、笑みを浮かべつつケータの方へと顔を向けた。
「本当にありがとね、ケータくん。ぼっちちゃんのことを助けてくれて、あたしたちにもまた会わせてくれてっ!」
ケータは、そんな虹夏の言葉に、少し照れながら言った。
「いっいえ!オレは全然、大したことはしてません!」
ひとりは、ケータが虹夏に対して照れを見せていることに、内心穏やかではなかった。
(ケータくん、虹夏ちゃんが相手だと、ちょっと照れるんだね。…私の前だと、そんな顔中々見せてくれなかったのに)
そんなひとりの表情に気づいた虹夏は、意外そうに、少し楽しそうに目を見張った。
(およ、ぼっちちゃん、もしかしてあたしにちょっと妬いてる?
…おっと、これはもしや〜?)
その後すぐに、虹夏は気を取り直した。
(っていやいやいや、今はこんなこと考えてる場合じゃないんだった!早くリョウと喜多ちゃんを呼ばないと…!)
虹夏はすぐに女子トイレの方へと走っていくと、声を張り上げた。
「リョウ〜!喜多ちゃ〜ん!ちょっとなるはやでこっち来て〜!」
…すると、女子トイレの方から二人ほどの人影が現れた。片方は綺麗に切り揃えられた前髪を持った、左目の泣きぼくろが特徴的な青い髪の女の子。名前は、リョウと言うらしい。もう片方は、はねっ毛が特徴的な赤い髪の女の子だった。喜多というのは、恐らく名前ではなく苗字だろう。…三人揃うと、なんだかちょっと、どこぞのヘビ妖怪たちを思い出すカラーリングだった。
「虹夏、一体何の用なの?…ところでこの男の子は、誰?」
リョウがそう言うと、虹夏は改めて二人にケータのことを紹介した。
「この子の名前は天野景太くん。ぼっちちゃんを助けてくれた子なんだよ」
虹夏のその言葉を聞いた二人は、強く驚いた。
喜多が、驚きのあまり大声で尋ねた。
「ひとりちゃんを!?」
ケータは再び腕時計を外して、驚く二人に腕時計を渡しながら言った。
「口で説明するよりも、実際に見てもらった方が早いと思います。…右に着いているボタンを押して、出てくる光をオレの周りに照らしてみてください」
ケータにそう言われた二人は、素直に右のボタンを押して、恐る恐る辺りを照らした。すると、先ほどと同じように、幽霊のようなシルエットと、猫のようなシルエットと、二人にとっても馴染み深い、このバンドの頼れるリードギターのシルエットが浮かび上がった。また同じように光を照らし続けていくうちに、シルエットが明確な姿を持ち出した。
喜多も、クールそうなリョウも、驚きのあまり大きな声を上げた。
「…ひ、ひとりちゃん!?」
「…ぼ、ぼっち!?」
ひとりは、またも気まずそうに、そっと挨拶をした。
「あっどうもお二人とも…。後藤ひとり、無事帰りました…」
「ほう、そんなことが…」
「相変わらずひとりちゃんの体って不思議ね…」
一通り事情を虹夏から聞き出した二人は、驚いたように呟いた。
「…そう言えばケータくん、あたしたちの自己紹介がまだだったね。本当にごめんね」
虹夏は心底申し訳なさそうにそう言うと、改めて自己紹介を始めた。
「あたしは伊地知虹夏。高校2年生ですっ!ぼっちちゃんのこと、本当にありがとね!もしもこれから先、何かあたしたちに頼りたいことがあったら、いつでも言ってね!」
リョウも、喜多も、続けて自己紹介を始めた。
「私は山田リョウ。…ぼっちのこと、本当にありがとう。ケータからは何だか、いい人のニオイがするね」
「私は喜多よ!ケータ君、ひとりちゃんを助けてくれて、どうもありがとう。良かったら私たちとも、おともだちになりましょう!」
喜多がなぜだか自分の名前を教えてくれなかったことがケータは少し気がかりだったが、何やら触れない方が良さそうだったので、触れずにそのままそっとしておくことにした。
ケータも、そんな三人に、改めて自己紹介を始めた。
「もうご存知かと思いますけど、オレの名前は天野景太です」
そんなケータに、虹夏はずっと気になっていたことを尋ねた。
「…ところでケータくん、さっきからぼっちちゃんだけじゃなくて、なんだか変な白い幽霊と赤い猫も見えるんだけど、その腕時計って一体…?」
「ああ、これはですね───」
ケータが妖怪ウォッチについての説明をしようとしたその時、執事のやかましい声が響いた。
「ちょっとちょっとそこの虹夏とか言う頭に変な三角形乗っけた黄色いアナタ!私たちを変なの呼ばわりとは一体どういったご了見ですか!」
ジバニャンも続けて、抗議の声を上げた。
「そうニャン!この白いのはともかくとして、オレっちはそこまで変じゃないはずニャン!」
ジバニャンのそのセリフを受けたウィスパーは、怒鳴り声を上げた。
「んだとこのジバ野郎〜〜!!!」
ケータは、苦笑しながら虹夏たちに言った。
「白い幽霊がウィスパーで、赤い猫がジバニャンです。あはは、おかしなヤツらですけど…。でも、いざという時には本当に頼りになる、大切なオレのともだちです」
ケータは続けて、言った。
「そして、この時計は『妖怪ウォッチ』。フツーの人の目には見えない妖怪たちを見ることができる、腕時計です」
ケータの口から出される情報の数々に驚きつつも、これだけは伝えておかなくてはと、虹夏が口を開いた。
「もうぼっちちゃんから聞いてるかもしれないけど、あたしたちはこのライブハウスで『結束バンド』って名前のバンドを組んでるんだ」
虹夏は、一拍おいてから、続きを話した。
「でね。このライブハウスでは色々なバンドが見られるんだけど、入場する為に必要なチケットは1枚2000円もするし、ドリンクチケットは500円もするんだよ。…でも、ケータくんにはとってもお世話になったから、ただでいつでもこの店に入店させちゃいまーす!…あ、妖怪のおともだちはいいけど、人間のお友達は連れて来ないようにね〜」
虹夏がそう言うと、後ろからひとりの両親と話を終えた様子のお姉さんがやって来た。
「虹夏、勝手に決めるんじゃねえよ…。ま、別に良いけどさ」
お姉さんは、ケータの目の前までやってくると、自己紹介を始めた。
「自己紹介が遅れちまってごめんな。アタシの名前は伊地知星歌。このバカ妹の姉貴で、このライブハウス、STARRYの…店長だ」
ライブハウスSTARRY、そして───結束バンド。
この出会いは、あの夏の日の出会いと同じくらいに、自分の人生に大きな影響をもたらすものになるだろう。そう漠然と───でも、確かにそう思うケータだった。
原作タグ、どっちにした方が良い?
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妖怪ウォッチ
-
ぼっち・ざ・ろっく!