「どうだフレミング少尉、俺のお古だがコマンドも悪くないだろう?」
「コマンドはいい機体ですね。性能はノーマルのジムより上ですし、しっかり整備されてるからカタログスペック通りの性能を発揮してくれるのは最高だ……前の機体は少々不具合があってもそのまま出撃させられましたからね」
「そいつはよかった。お前の腕を見込んでコマンドを渡したんだ、俺の期待を裏切るなよ?」
「ええ、わかっていますよ」
ムーア同胞団MS隊の隊長であるマイケル・ジョンソン大尉と期待の新人のイオ・フレミング少尉は新しい機体に慣れるため習熟訓練も兼ねて模擬戦を行っていた。
「まあ欲を言えばスナイパーカスタムに乗ってみたかったですがね。ガンダム並のスペックがあるという話でしたし」
「おいおい強欲な奴だな。やめとけやめとけ!ジョンのスナイパーカスタムはジオンの連中にモテモテなんだ。お前じゃ連中の熱烈なラブコールに耐えられんだろう……まあそもそもスナイパーカスタムは既に後方に送られたがな」
「データ収集の為に分解されるらしいですね。勿体ない」
「連邦軍は機体を分解してでもニュータイプのデータが欲しいのさ。ニュータイプ研究についてはジオンに大きく遅れを取っているからな」
模擬戦をする中でスミス中尉について話題が及ぶ。
「スミス中尉はガンダムを受領してすぐ出撃とはニュータイプも大変ですね」
「なんだ心配してるのか?ジョンについてはお前が心配しなくていい。奴はボール乗りの頃からエースだった。単独出撃とはいえ奴専用に調整されたガンダムに乗っているなら戦死なんてまずあり得ん。奴を殺せるとしたら同じニュータイプぐらいだろう……次の大規模攻勢でお会いするかもしれんな」
「ジオンもニュータイプを投入してくるかもしれないと?」
「連中も馬鹿じゃない。オールドタイプじゃジョンに対抗できない事は理解しているだろう」
「いや、中尉並の敵が出てくるとか考えたくないのですが」
「俺だって考えたくないさ。俺の杞憂であってほしいが、戦場では常に最悪の事態を想定するべきだ。お前も覚悟しておけ」
「了解です」
「……ふむ、これで5つ。このガンダムはいい機体だ。前のスナイパーカスタムもよかったが、この機体はより繊細な動きができるようになった。マグネット・コーティングか、素晴らしい技術だな」
一方その頃、ジョン・スミス中尉は受領したガンダムに乗ってサンダーボルト宙域に潜むジオン軍の間引きを行っていた。
(デブリに紛れつつ気配を探って捜索したらビンゴだ。ジオンの哨戒部隊を見つけられるとは……ここは戦場だ、悪く思うなよ)
必死の抵抗を行う哨戒部隊へスミス中尉は急接近する。哨戒部隊はMS隊と協力して弾幕を張るが、スミス中尉のガンダムは軽々と避けて接近しビームライフルを発射した。
「1つ、2つ、3つ、4つ……そしてMSは6、7、8……9と。これでここにいるジオンの部隊は殲滅したか」
そしてムサイ級3隻、護衛のMS9機で構成された哨戒部隊と補給の為来ていたパプア級1隻は、スミス中尉一人の奇襲によって殲滅されたのであった。
「ビーハイヴ、聞こえるか?こちらガンダム072F、ジョン・スミス中尉だ」
「こちらビーハイヴのグラハム副長だ、聞こえているぞ中尉。首尾はどうだ?」
「副長、先程私はムサイ3隻で構成された哨戒部隊と思わしきジオン軍と遭遇。補給船のパプア1隻と護衛のMS9機も含めて撃滅しました」
「よくやった中尉、サンダーボルト宙域に潜むジオン軍の「間引き」は無事上手くいったようで何よりだ。貴様もガンダムのちょうどいい試運転になっただろう。「間引き」はもう十分だから補給の為に帰還しろ中尉……次の大規模攻勢では貴様の活躍に期待しているぞ」
「了解しました」
「おい聞いたか?スミス中尉の「間引き」の戦果」
「ああ、さっき聞いたよ。スゲェなスミス中尉は!」
「鬼に金棒ならぬニュータイプにガンダムだな」
「これなら本当にサンダーボルト宙域を制圧できるかも!」
スミス中尉の「間引き」が終わり帰還する中、ムーア同胞団の旗艦ビーハイブでは整備兵達が明るい顔を浮かべて作業をしていた。
「そういえばスミス中尉のガンダムの整備は自分達がやらなくてもいいって本当なんですか?」
「そうだコーネリアス、中尉のガンダムは特別製でな。あちらのお客様達が対応してくださるそうだ」
整備班長が顎をしゃくった先にはビーハイブの整備兵達とは雰囲気が違う人間達が集まっていた。
「ムーアの狩人はスゴイな。ガンダムの試運転で哨戒艦隊を軽く殲滅してくるなんて。マダムがムーア同胞団に恩を売るわけだ」
「これが戦場で鍛えられた天然物のニュータイプの実力なのか」
「あの噂のWBの少年兵のように、戦いでこそニュータイプの力は磨かれるのかもしれないな」
「何はともあれ、機体のデータ解析が楽しみですね」
そこには定期補給便にて試作MSガンダムと共に付いてきた専門スタッフ達が目を輝かせていた。
「い、いやースゴイなスミス中尉は!女の子達からだけじゃなくジオンや科学者からもモテモテだなんて!男として完全敗北だ。ここまでくると嫉妬する気も起きんな!スゴイなーカッコイイなー」
「班長……あれって実験台のモルモットを見る目だと思うんですけど。大丈夫なんですか?」
「おいそんな事言うなコーネリアス、思ってても言うんじゃない。スミス中尉はムーアを代表するエースパイロットだし酷い扱いはされないだろうさ……多分」
「た、多分って」
「ま、まあいいだろ!そんな事よりもうすぐ着艦作業だからお前達も準備しろ!」
整備兵達は微妙な表情を浮かべながらも作業を進めるのであった。
「スミス中尉の活躍は素晴らしいわね。私もガンダムを融通した甲斐があったわ。素晴らしい部下を持って貴方も幸運ねクローディア艦長」
「……ありがとうございますハンフリー大佐」
その頃ビーハイブのブリッジではクローディア艦長が客人の対応を行っていた。
「貴方達ムーア同胞団には期待しています。貴方達ならきっとサンダーボルト宙域を奪還できるでしょう……作戦の成功を祈っています」
客人であるモニカ・ハンフリー大佐を見送ったクローディア艦長は大きく息を吐くと艦長席に座り込む。
「グラハム副長、私の対応は問題なかったかしら?」
「まあ、及第点ですな」
「そう、ならよかったわ。客人の前で無様を晒してなければいいわ……しかし、統合参謀本部第三局次長がわざわざ現場に来るなんて」
「それだけムーア同胞団、いやスミス中尉に期待しているのでしょう。自身の権限を使ってガンダムを融通するほどにね」
クローディア艦長は溜息をつきつつグラハム副長とこれから行う作戦……サンダーボルト宙域制圧作戦について話し合っていた。
「スミス中尉の機体、私も確認したけど随分と改造されてたわね。同胞団が金を積んで買ったガンダムとは外見が同じでも中身は別物だわ」
「ニュータイプ専用に調整された機体らしいですな。私は奴がニュータイプだとは思っていませんが、軍の上層部はスミス中尉をニュータイプだと判断しているようです。特別な機体を用意してくれる程に期待されているのですから、我々には失敗は許されませんよ艦長」
「ええ、そうね。しかし……」
そう言って言葉を詰まらせたクローディア艦長は手元にある資料を見て思わず天を仰ぐ。そこには今回の大規模補給にて送り出されたパイロット達の詳細が記されていた。
「本当に中学生を援軍として送り出すだなんて……!」
「艦長、貴方が気に病む必要はありません。ガキ共を送り出す決断をしたのはあのクソッたr、失礼しました。同胞団の上層部です。貴方の責任ではありません。貴方は余計な事は考えずサンダーボルト宙域の制圧に集中してください」
「わかってる、わかっているわよ……ごめんなさい副長、少しだけ艦長室で休むわ」
「了解しました」
よろよろとしながら立ち去るクローディア艦長を見送ったグラハム副長は溜息をついた。
「やれやれ、世話の焼ける小娘だ。作戦中に発狂されたらシャレにならん……こちらブリッジのグラハム副長だ、フレミング少尉はデッキにいるか?」
「……そういうわけだ少尉。艦長は平静を装っているが色々と限界が近い。貴様は艦長の幼馴染だろう?艦長のフォローを頼む」
「わかりました。自分はカウンセリングの心得はありませんが……そうも言ってられないみたいだ。コーネリアスも連れて行きます」
「うむ、よろしく頼んだぞ」
グラハム副長から連絡を受けたイオ・フレミング少尉は頭を掻きつつも幼馴染の為に一肌脱ぐ事にした。
「少尉、話は聞いた。新しく来た援軍のおチビちゃん達の対応は俺とジョンがやっておく。お前はカカ曹長と共に艦長の下に行け」
「ありがとうございます隊長」
ジョンソン大尉に礼を言ったフレミング少尉は去り際にデッキを見る。
「キャー!ムーアの狩人!本物のムーアの狩人だわ!」
「わぁ、写真で見た通りのイケメンだぁ……!」
「サイン、サインくださいスミス中尉!それと握手もお願いします!」
「う、うむ。これでいいかねお嬢さん」
「おい女子!お前らはしゃぎすぎだ!スミス中尉が迷惑してるだろ!」
「ムーアの狩人……僕もあの人みたいになれるかなアリシア?」
「んー、流石に無理だと思うわカール」
「そ、そこは嘘でもいいからできると言ってほしかったなぁ」
そこでは新しく来た援軍の学生パイロット達……まだ中学生の少年少女がスミス中尉を取り囲んできゃあきゃあと騒いでおり、スミス中尉は困ったような笑みを浮かべていた。
「はっはっは!いやあおチビちゃん達は元気一杯で何よりだ!まるでジュニアハイスクールのような雰囲気だな!柄にもなく学校時代を思い出して懐かしくなったぜ!あっはっはっはっは!……ハァ~~ッ……クソッたれが」
「隊長、溜息ついてますよ。ただでさえ強面なのに渋い顔してたらおチビ達が怖がりますって。お気持ちはすごくわかりますけど……では艦長室に向かいます」
「おう、行ってこい」
盛大に溜息をつくジョンソン大尉を見てフレミング少尉は深く同情していた。自分が同じ立場なら頭を抱えていただろうとわかるからだ。
「ったく、ジオンに兵なしって言うけど連邦だって兵なしじゃないか。なぁコーネリアス」
「イオ、それ上官の前で絶対に言うなよ……」
その後イオとコーネリアスは泣きじゃくる幼馴染の艦長を何とか宥めすかし、落ち着かせる事に成功したのであった。
「傾注!」
「休め!」
学生パイロット達の歓迎会が終わり。ブリーフィングルームにてパイロット達は出撃前に最後の確認を行っていた。
「これより我々MS部隊はサンダーボルト宙域制圧作戦の先鋒として出撃する!貴様ら、楽しいパーティーの時間だ!」
隊長であるマイケル・ジョンソン大尉が部下達に向かって演説をする。
「クソッたれなジオン軍は生意気にも援軍を呼び寄せた!だが心配するな!俺とジョンがいる限りムーア同胞団は負ける事はない!貴様らおチビちゃん達の任務は半分はビーハイブの護衛!もう半分は敵戦力を引き付ける事だ!」
学生パイロット達は真剣な表情を浮かべジョンソン大尉の演説を聞いていた。
「当然理解しているだろうがこれは重要な任務だ!俺達の帰る先を守る事!敵の注意を引き付け俺達が突入する隙を作る事!艦隊に辿り着ければ後は俺とジョン達がジオン艦隊をターキーショットして終了だ!」
「この作戦が成功しサンダーボルト宙域を制圧する事ができればア・バオア・クーへの補給路の一つを断つ事ができ、戦局に多大な影響を与えるだろう!」
「最後に一つ言っておく!……おチビちゃん達は敵を殺すよりも生き残る事を第一に考えろ!お前らはムーア再建の為の希望だ!お前達には未来がある!希望がある!このクソッたれな戦争を生き延びてムーアの再建に力を入れろ!わかったな!」
「「「「「サー!イエッサー!!」」」」」
学生パイロット達の返事を聞いてジョンソン大尉は静かに頷いた。
「よし!この作戦が終わったら全員でスイーツバイキングだ!俺とジョンが奢ってやる!」
「隊長、そこは乾杯しよう!じゃないですかね」
「あのなぁ少尉、おチビちゃん達が高校生ならそう言ってたが、中学生は流石にマズいだろう?」
「いや、それはそうですけど」
フレミング少尉のツッコミにジョンソン大尉は冷静に反論し、フレミング少尉は納得せざるを得なかった。そんな二人を見て学生パイロット達から笑い声が起きる。
(ふむ、適度に緊張が抜けたな。台本通りだ……後は作戦を成功させ、彼らを一人でも多く生存させる事を目指すとしよう)
スミス中尉はこの作戦を必ず成功させ、ムーアの未来を担う人材達を一人でも多く生存させる事を誓ったのであった。
<人物紹介>
●ジョン・スミス(ケツアゴ)
→本人は別にNTと自称しているわけではないが、連邦軍からは天然物のNTだと判断されている。実際NTに覚醒しているから間違っていない。サンボル世界ではムーアの狩人としてトップエースとなり有名人である。イケメンなので女性のファンも多い。そしてサンボル世界では軍を辞める事は当分できなくなった。
自分用に調整されたガンダムに乗ってジオンの哨戒部隊を軽く殲滅した。まあアムロやシャアならもっと洗練された動きで殲滅しただろう。
中学生が増援として来た事に愕然としつつも表には出さず、彼らを一人でも多く生かそうと考えている。
●マイケル・ジョンソン隊長
→ガンダムを受領してテンションが上がっていたが、増援の中学生パイロット達を見て一気にテンションが下がった。ムーアの未来を担う子供達にはとにかく生き残ってほしいと考えている。
●イオ・フレミング
→隊長のお古のジム・コマンドを渡されたが、前のノーマルジムより遥かにいいので満足する。幼馴染の艦長をコーネリアスと一緒に宥めて落ち着かせる事に成功しホッとした。
その後中学生パイロット達を見て軽く引きつつ隊長の苦労を想像し、自分なら同じ立場には絶対になりたくないと深く同情する。
●コーネリアス・カカ
→イオと一緒に艦長を落ち着かせる事に成功してホッとする。
●クローディア・ペール
→お客様の対応やサンダーボルト宙域制圧作戦の準備で忙しい。中学生パイロット達が送り出された事にショックを受けたが、イオとコーネリアスのおかげで冷静さを取り戻す。
●グラハム副長
→世話の焼ける艦長に対して溜息をつきつつも、発狂されたら困るのでイオにフォローを依頼した。家族が生き残って精神的に余裕があるこの世界では、中学生パイロット達を見て内心ドン引きしつつ上層部はクソッたれだと確信する。
●ムーア同胞団
→頼もしい増援(中学生)に現場はドン引きする者が続出した。ケツアゴのガンダムを整備・戦闘データを分析する為の専門スタッフが加入した。
●モニカ・ハンフリー
→原作より早くフライング登場した。スミス中尉の戦績を見てNTだと確信、ガンダムを融通してくれた。もちろんタダではなく、戦後ケツアゴはモニカの手駒になる事が確定している。
●ケツアゴの乗るガンダム
→見た目はフルアーマーガンダムのままだが、中身が大幅に改造されている。アレックスの親戚に近いかもしれない。マグネット・コーティング等によって繊細な動きが可能となったが、敏感過ぎる反応速度にオールドタイプなら機体に振り回されてまともに操縦できない代物になった。ケツアゴは上手く使いこなしているが、専門スタッフからは「うわ……あのじゃじゃ馬を使いこなしてるよ。マジでスミス中尉ニュータイプじゃん」と確信された。
ちなみにアムロならもっと上手く扱えるだろう。
●中学生パイロット達
→ネタバレですがほとんどが死にます。
次はジオンサイドになります。
完結となりましたがこの後も幾つか番外編を投稿する予定です。今後は少しずつ投稿していく予定ですがよろしくお願いします。