「おおっ!これがジオンのニュータイプ専用MSなのか!」
「なんて僥倖だ!損傷が激しいとはいえサイコミュ技術を鹵獲できるなんて!」
ムーア同胞団の母艦ビーハイヴにて、ハンフリー大佐から派遣された専門スタッフ達が目を輝かせていた。彼等が見ている先には攻撃隊が持ち帰ったジオンのサイコミュMS……ジオング(頭部と半壊した胴体付き)とサイコミュ高機動試験用ザクがあった。鹵獲したMSはビーハイヴの整備兵がデータ解析を行おうとしていた。
「この白いのは頭部の形状からとりあえずザクの親戚として、こっちのデカブツは見たことない新型だな。バンカーには入らなそうだ。よし、データ解析班!手の空いている奴はこっちに集まってくれ!」
「ああ下がれ!下がれ!そちらの2機については我々が対応する!ムーア同胞団のクルーは触るんじゃない!」
「はあ!?」
専門スタッフ達が慌てて割り込み整備兵達は困惑する。
「何言ってるんだアンタら。俺達は鹵獲した新型のデータ解析をする必要が」
「すまないが君達素人は指一本触れないでくれ!この2機は今の地球連邦軍が一番欲している物なのだ!ここは我々に任せてくれ!」
「いや素人って」
「ニュータイプ専用機の解析はここでは無理だ!安全な後方に至急移送させる!マダムに許可をいただくからどうかそのままにしておいてくれ!頼む!」
「ああもうわかった!わかったよ!」
鬼気迫る様子で言葉を連ねる専門スタッフ達に気圧された整備兵はジオング達の解析を諦めるのであった。
「まあ本当はここで解析したいけどな」
「気持ちはわかるがやめろ。ここで本格的な解析なんて出来ないし後方に送るしかないさ」
「みんな、グッドニュースだ。先程救助したジオン軍捕虜の中にフラナガン機関の研究者達がいたらしいぞ!」
「なにっ、本当なのか!?」
更なる吉報を聞いて専門スタッフ達は沸き立つ。
「スゴイじゃないか!ジオンのサイコミュ技術の手掛かりを手に入れ、ジオンのニュータイプを確保し、そしてフラナガン機関の研究者達のオマケ付き!大戦果を超えた大戦果だ!マダムもきっとお喜びになられるだろうな!」
「ビーハイヴに敵が迫った時はもうダメかと思ったけど、今は最高の気分だわ!」
「落ち着け皆!喜ぶのはわかるが手が止まっているぞ!私はこれからマダムへご報告する!ジミー達はニュータイプ専用機の移送準備、レイラ達はスミス中尉のガンダムの整備とデータ収集を行え!作業にかかれ!」
「「「「「はい!!」」」」」
ハイテンションになった専門スタッフ達はビーハイヴの整備兵達に引かれていたが、彼等はそれを気にすることなく自分達の作業に没頭するのであった。
「わかりました、至急回収部隊を向かわせるわ。回収隊が到着次第機体と捕虜の引き渡しを。貴方達は引き続きビーハイヴでスミス中尉のガンダムの整備とデータ収集をお願いするわね」
報告を受けたモニカ・ハンフリー大佐は予想外の吉報に機嫌を良くしていた。
「素晴らしい成果ですねマダム。マダムがムーア同胞団を支援したのは彗眼でした」
「そうね、彼等は期待以上の働きをしてくれたわ。ジオンのニュータイプと戦い勝利するだけでなく、まさかニュータイプ専用機とニュータイプの両方を確保してくれるなんて……同胞団にガンダムを融通した甲斐があったわ」
出来過ぎとも言っていい戦果にハンフリー大佐は笑顔を浮かべる。
「スミス中尉には今後も活躍してほしいわね……残りはア・バオア・クーね。予定より早くサイコミュ技術の確保ができましたが当初の予定通り計画を実行します」
「かしこまりましたマダム」
「ふむ、我々の悲願であるサンダーボルト宙域の奪還に成功か」
「犠牲は大きいですが、現場の人間はよくやってくれましたな」
「早速マスコミを使ってサンダーボルト宙域奪還を報道させます。不満を貯めている難民達も久々の朗報に喜ぶでしょう。スミス中尉についてはムーア同胞団が誇るスーパーエースとして大々的に宣伝します」
「そうだな、スミス中尉は驚異的な戦果もだが顔もいいし格好の宣伝材料になる。彼には戦意高揚の為に役立ってもらおうか」
同じ頃ムーア同胞団の本部では上層部がサンダーボルト宙域奪還の報を聞き意気揚々と今後について話し合っていた。
「それにサンダーボルト宙域奪還だけではない、サイコミュ技術の確保は地球連邦軍への貢献としてこれ以上ない程の成果だよ」
「うむ、ジャブロー本部やあの御婦人も満足されるだろう」
「だが連邦軍への貢献はこれで終わりではない。ア・バオア・クーでもムーア同胞団は戦果を上げてもらおう」
「そうですな、同胞団の被害は大きいですがムーアの狩人とジョンソン大尉は健在ですし、ガンダムを遊ばせる余裕はありませんからジャブロー本部も応援を要請するでしょう。彼らには悪いですが引き続き頑張ってもらいましょうか」
そうしてムーア同胞団はア・バオア・クーの決戦に参加する事が決定されたのであった。
「おーおー、アイツらすんごいハイテンションだ。お客様達は新しく手に入ったオモチャに大喜びだよ」
「ジオンの決死隊が来た時は隅っこで震えてたのにな」
ハイテンションで作業する専門スタッフ達にビーハイブの整備兵達は呆れた表情を浮かべていた。専門スタッフと違い整備兵達はサンダーボルト宙域が奪還されても素直に喜ぶ事は出来なかった。
「戦闘の恐怖を忘れるレベルの素敵なプレゼントだったようだ、攻撃隊が持ち帰った代物は」
「俺達に絶対に触らせないくらい重要なブツみたいだな」
「まったく吞気なお客様達だね……俺達はそれどころじゃないのに」
整備兵達はデッキに帰還した攻撃隊に視線を向ける。そこにはボールを含めて10機ほどしか残っていなかった。
「あれだけいたのに、これだけって」
「言うな。ジオン艦隊とその護衛、俺達を散々苦しめたスナイパー達、そしてジオンのニュータイプがいる中に突っ込んだんだ。全滅せず艦隊を撃滅できただけ十分過ぎる」
「それはそうですけど、そうなんですけど……!」
沈痛な表情を浮かべる整備兵達は帰還したパイロット達を見る。
「た、隊長すみません。身体の、身体の震えが止まらないんです」
「お、おいデイジー!?デイジー!」
「しっかりしてデイジー!みんなは、他のみんなはどうしたの!?」
「みんな、みんなやられちゃった……敵のニュータイプに殺されちゃったぁ……!」
「お、落ちつけよデイジー!なぁ落ちつけって!」
「カール、貴方も落ち着いてよ!」
「整備兵!おチビ達が限界だ!俺達は艦長に作戦結果を報告する義務がある!すまんが代わりに子供達を医務室に連れて行ってくれ!」
「は、はい!」
攻撃隊に参加していた中学生パイロット達の唯一の生き残りであるデイジー伍長が震えながら座り込み、心配した護衛部隊の中学生パイロット達に囲まれていた。デイジー伍長だけでなく中学生パイロット達が全員精神的に限界なのが見て取れたマイケル隊長は彼らを医務室へ連れて行くよう指示を出す。
「……中学生が殺し合いに耐えられるわけないよなぁ」
「ちくしょう、みんないい子だったのに」
「マジで何を考えて前線に送り出したんだよ上の連中は。こうなるなんてわかりきってただろうに」
「人がいないんだから仕方ないだろ」
子供達の様子を見てサンダーボルト宙域奪還の喜びが消えた整備兵達は戦争の虚しさを痛感する。
「そういや捕虜になったクソッたれのスナイパー共、五体満足な奴が誰もいなかったらしいぞ」
「ああもう、本当に戦争はクソだな。早く終わってほしいよ」
「もうすぐ終わるさ。後はア・バオア・クーだけだ。ア・バオア・クーさえ落とせばジオンも降伏するしかないからな」
「そうだといいけどね」
「パイロットルームが随分広く感じますね。出撃前はあんなに騒がしかったのに」
「そうだなフレミング少尉、あのおチビ達がいないとこうも静かだとは」
「……」
艦長への報告を追えてパイロットルームに戻ったパイロット達はサンダーボルト宙域奪還について特に喜ぶ事はなく沈黙していた。疲弊していたのもあるが戦友が大勢戦死した事も彼らを憂鬱にさせていた。
「隊長、ムーア同胞団がア・バオア・クー攻略戦に参加するって本当なんですか?」
「正式な命令は来てないが、その可能性は高いだろうな。まったく勘弁してほしいぜ」
「うへぇ……」
まだ戦いが残っているとわかったフレミング少尉はウンザリした表情を浮かべる。
「ジョンソン大尉、スミス中尉。後30分でマスコミの取材がありますので準備をお願いします」
「ああ、わかってる。ったく、疲れてるのに取材だなんてウンザリする。なぁジョン」
「ええ、士気高揚の為とはいえ正直勘弁してほしいですな」
その後マイケル隊長とスミス中尉は内心ウンザリしつつも笑顔でマスコミの取材を受けたのであった。
「艦長、臨時補給便のリストです。ご確認ください」
「ありがとうグラハム副長」
掃討作戦が一段落し一息ついたクローディア艦長達であったが、臨時補給便のリストを見て自分達がまだまだ休めない事を悟る。
「……大規模補給の後にこれだけの援軍を送り出すなんて、これだけ余裕があったのなら先に送り出してほしかったわね」
「MS30機、ボール20機、セイバーフィッシュ20機、サラミス3隻とは。残っている戦力を根こそぎ搔き集めたようですな。サンダーボルト宙域防衛の為にこれほどの戦力を送り出す必要はありません。恐らく上層部は我々をア・バオア・クー攻略に参加させるつもりです」
「そうね、ジャブロー本部からの激励文でも「サンダーボルト宙域ノ奪還見事デアル、貴官ラノ更ナル活躍ヲ期待スル」と言ってたもの。ア・バオア・クー攻略戦に参加するのは確定事項ね。まったく無茶を言ってくれるわ。軍人としてやるしかないのだけど……副長、準備をお願いします」
「了解しました」
溜息をつきつつクローディア艦長達はア・バオア・クー攻略戦への準備を始める。
「ア・バオア・クーか……これで戦争が終わればいいのだけど」
「ええ、これが最後の決戦となるでしょうな。私はこの戦争が終わったら一度長期休暇を取って、再建されたムーアで妻と娘と一緒に過ごす事にします」
「あら、それは素晴らしいと思うわ。私もイオとコーネリアスと一緒にゆっくり休みたいわね」
戦後について考えつつも、これが最後の決戦だとムーア同胞団は気合を入れるのであった。
<人物紹介>
●モニカ・ハンフリー
→ニュータイプ専用MSとニュータイプとフラナガン機関の研究者を確保したと聞いて驚き上機嫌になる。ムーア同胞団を支援したのは間違ってなかったと確信、ケツアゴについては貴重な天然物のニュータイプで優秀な手駒として大事に扱うつもりである。
●ムーア同胞団上層部
→サンダーボルト宙域の奪還とサイコミュ技術の確保に成功した事で上機嫌となる。更なる地球連邦軍への貢献として同胞団をア・バオア・クー攻略戦に参加させる事を決定する。ガンダム2機が無事な事も参加決定の一押しになったとか。
ケツアゴについては得体の知れないNTだが忠誠心はあるようだし、今後もムーアの役に立ってもらおうと考えている。一部ではムーアの狩人スゲー!NTスゲー!と脳を焼かれている者がいる模様。
●ムーア同胞団
→多くの戦死者が出た為サンダーボルト宙域奪還を素直に喜べない人間が続出した。戦争はクソだと痛感した者も多いが、ア・バオア・クー攻略戦に参加する事が決まりこれが最後の決戦だと気合を入れる。
●中学生パイロット達
→精神的に限界だったので医務室送りになる。生き延びたデイジー伍長やアリシアとカールの中学生カップル達は十分頑張ったとして後方に送られることになった。
●ジョン・スミス(ケツアゴ)
→パラレル世界のサンボルではサンダーボルト宙域の奪還の功績を称えられ、ムーア同胞団のスーパーエースとして有名人となる。顔がいいので多くの女性ファンを獲得しファンクラブが作られた。ムーア同胞団を代表する有名人なのでNT研究所でモルモット扱いされる事はなくなったが、当分の間軍人を辞める事はできなくなった。
中学生パイロット達が大勢戦死した事にやるせない気持ちを抱くが、彼らの死を決して無駄にはしないとマイケル隊長と一緒に誓った。
NTについては自分はただの勘がいいだけのエースパイロットであり、新人類などでは決してないと謙虚な態度を取る。マスコミの取材では自分はNTなどではないし、そもそもNT自体ジオンのプロパガンダだと否定した。取材内容については何故か地球圏で報道され、NTを全否定した事でジオンからより殺意を向けられた模様。
完結となりましたがこの後も幾つか番外編を投稿する予定です。今後は少しずつ投稿していく予定ですがよろしくお願いします。