<イオ達の休日>
「あーっ、頭が痛い!」
「二日酔いね」
「昨日のパーティーで飲み過ぎだよイオ」
「んな事わかってんだよ二人とも」
ムーア首長府でのパーティーの翌日、イオはフレミング邸の一室で幼馴染のクローディアとコーネリアスの二人と一緒に寛いでいた。
「……こうやって部屋で3人で寛げるって、本当に戦争が終わったんだね。あのサンダーボルト宙域やア・バオア・クーを無事に乗り切ったんだ」
「そうねコーネリアス、こうしてノンビリできるのは奇跡だわ」
「もう一度やれと言われたら無理だろうな」
地獄のサンダーボルト宙域やア・バオア・クー攻略作戦を振り返り、自分達が生き延びたのは奇跡だと三人は再確認する。
「あれ、イオは自分ならもっと上手くやれるって言うと思ったけど」
「無茶言うな、俺だってそこまで自惚れてないさ……サンダーボルト宙域奪還作戦で戦ったジオンのニュータイプちゃん、ア・バオア・クー攻略戦で見たスーパーエース達は本当に強かった。あんなヤバい連中ともう一度やれと言われたら慎んでお断りするぞ」
それはイオの偽りのない本音であった。MSパイロットとしては一流の腕前を持つイオであったが、一年戦争で見たジオンの強敵達を見て、自分では彼等には届かないと素直に認めていたのだ。
「アイツらに勝てるとしたら中尉でもなきゃ無理だ。いやホント、よく生き延びたなぁ俺」
「あら、イオもムーアの狩人には敵わないか」
「当たり前だろクローディア、僚機として共に戦ったからよくわかるが中尉の動きは本当に別格だ。逆立ちしたって俺にはできない……越えられない壁という奴を実感したぜ」
スミス中尉の驚異的な活躍を側で見ていたイオはオールドタイプの自分では決して中尉には届かないだろうと痛感していた。
「でも色々と中尉には驚かされているが、一番驚いたのは俺達より年下だったって事だよなぁ」
「スミス中尉ってまだ二十歳なんだよねぇ、僕も驚いたよ」
「見た目は私達と同年齢に見えるくらい大人びているのにね」
その後も3人は部屋で寛ぎつつ雑談を続けていた……平和になって穏やかな時間を過ごす事ができるようになり、彼等は幼馴染とこの何気ない平穏な時間を共有できる事に幸せを感じるのであった。
「そういえばイオは軍を続けるんだっけ?」
「ああ、同胞団は居心地が良いしな。マイケル隊長の下でムーアを護るとするさ」
雑談も一段落したイオ達は自分達の今後について話していた。
「コーネリアスはどうするんだ?」
「僕も同胞団に残るよ。イオやクロちゃんを置いて辞めるのも気が引けるしね」
「別に気にしなくていいのによ、これからもよろしくな相棒……んで、クローディアは」
「当分軍人を続けるつもりよ。というか辞めようにも辞められないのよね」
イオが躊躇いがちにクローディアに尋ねると、彼女は苦笑しつつ当分退役するつもりはないしできないと話す。
「一年戦争でサンダーボルト宙域奪還とア・バオア・クー攻略作戦での功績で大佐に昇進し、マスコミからはムーアの戦姫と呼ばれるようになったわ。お飾りといえども、すぐには退役を認められないでしょうね」
「出世したのは喜ばしい事なんだがなぁ」
「そういい事ばかりじゃないわよイオ。大佐になったらやるべき事が多いし、繰り上げ出世の影響で経験と知識が足りないから軍務と並行して色々と勉強する必要もあるのよ……この休暇が終わったらまた激務と勉強漬けだなんて少し憂鬱よ」
「うわぁ」
「……クロちゃん頑張れ、マジ頑張れ」
ウンザリした表情を浮かべるクローディアにイオとコーネリアスは本気で同情していた。
「あら、そんなに心配しなくてもいいわ二人とも。戦争中の事を思えば負担はかなり減っているし、現場についてはグラハム少佐に任せる事になったから大丈夫よ……少佐には迷惑ばかり掛けているわね」
「グラハム副長、いや艦長になるのか。あの人が艦長なら安心だよ。クロちゃんのフォローをしてくれてたしね」
「口は悪いが悪い奴ではないよな、あのオッサン」
グラハム副長、もといグラハム艦長がビーハイブの艦長になると聞いてイオとコーネリアスは特に文句もなく受け入れていた。副長としてクローディアのフォローを事あるごとにしてくれていたのを2人は知っていたのでグラハム少佐の事を信頼していたのだ。
「あ、そうだ。なあ2人とも、あの約束を覚えているか?いつか3人で旅をして見て回ろうって」
「うん、覚えてるよイオ」
「そうね。そんな事約束してたわね」
イオは昔の約束を思い出して2人に尋ねる。
「なら次に長期休暇を取った時地球に行かないか?折角戦争が終わったんだ、地球に降りて地球の景色を存分に見て回ろうぜ!」
「ああそうか、そうだねぇ……魅力的な提案だけどねぇ」
「うーん、地球を見て回るのは当分の間難しいと思うわよ?」
イオが目を輝かせて地球に降りて観光に行こうと提案するも、コーネリアスとクローディアは今地球に降りるのは難しいと残念そうな表情を浮かべる。
「えぇ?なんでだよ?」
「いやだって、クロちゃんが忙しいからまとまった休みを取るのが難しいのもあるけど、コロニー落としのせいで地球環境とか大変な事になってるだろ?」
「コロニー落としだけじゃないわ、地球各地に潜伏したジオン軍の残党達の問題もあるわよ。戦争が終わったばかりで地球や各サイドの復興も始まったばかりだし、気軽に観光に行ける状況ではないわね。地球に降りて観光だなんて今後数年は無理じゃないかしら?」
「あ、あー……」
2人から冷静に反論されイオも納得するしかなかった。
「はぁ、地球観光は暫くの間お預けか。じゃあせめて何処に行くか予定を立てておこうぜ。俺は第一候補はエベレスト、第二候補は極東の富士山だ」
「いやいやエベレストって、イオの事だから登頂する気だろ?無茶だって、僕達も巻き込まないでくれよ。でも富士山はいいかも。浮世絵で見た事あるから興味あるんだよね。確か一富士二鷹三……三はなんだっけ?」
「俺が知るわけないだろ。まあそれはともかく富士山は第一候補として……なあコーネリアス、やっぱエベレストはダメか?」
「素人が最初に登る山じゃないでしょエベレストは。せめて段階を踏もうよイオ」
「フフッ、二人とも目を輝かせているわね。小さい頃を思い出すわ。こうやって計画を立ててはしゃいでたっけ」
あーだこーだ言い合うイオとコーネリアスを見てクローディアは小さい頃を思い出し微笑むのであった。
<戦後のムーア同胞団>
「定時報告、こちら第3小隊のカールです。サンダーボルト宙域異常ありません」
「こちらビーハイブ了解した、引き続き解体業者の護衛を続けろ。それとここはもうサンダーボルト宙域じゃない、サイド4ムーアの管理宙域だ。間違えるなよ」
「あ、失礼しました」
宇宙世紀0080年9月、ムーアでのパレードが終わったムーア同胞団は、元サンダーボルト宙域にて復興事業に従事していた。サンダーボルト宙域の大量の残骸やデブリをフレミング財団所属の業者達が解体・回収作業にあたる中で同胞団は業者の護衛を行っていた。
「ふぅ、しかしすごいデブリの数だな。終わりが見えないや」
解体・回収しても一向に減らない膨大な量のデブリを見て中学生パイロットの生き残りであるカール伍長はため息をついた。
「いやあ悪いね、俺達も頑張っているんだが、これだけ数が多いとどうしても時間が掛かるんだよ」
「どれくらい掛かりそうですかね?」
「んー、新しくコロニーを配置する為の空間の確保をする必要があるし、最低でも2~3年、下手すれば5年後も作業してるかもなぁ」
「うわぁ……」
長丁場になるとわかりカール伍長は遠い目をする。ちなみにカールはガールフレンドのアリシアと共にムーア同胞団に残っており、先輩達から可愛がられつつもアリシアとの仲についてよく揶揄われていた。
「その間護衛を頼むよ同胞団さん。アンタ達がいてくれるから俺達は安心して作業できるんだ」
「あ、はい!頑張ります!」
「うん、いい返事だ!しかし坊主はまだ中学生だってのにしっかりしてるなぁ。俺の息子は同じ中学生でも生意気盛りでクソガキだったよ……あんなんでもいなくなったら寂しいもんだ」
「あ、あの」
「ああ悪い、こっちの話だよ。ところでガールフレンドとは上手くやってるのか?」
「え、ええと……上手くやれてるとは思います」
「そうかそうか!そりゃあよかった!じゃあもうベッドインもしたのか?」
「ま、まだ早いですよぉ」
その後も作業をしつつ雑談をしていたカール伍長と解体業者であったが……
「カール伍長!任務中にペチャクチャお喋りするんじゃない!いつまでも中学生気分でいるのはやめろ!」
「し、失礼しました艦長!」
「悪いね艦長さん、俺の方から話しかけたんだ。あまり坊主を責めないでやってくれ」
「……貴方達もあまりガキ共を甘やかさんでください」
ビーハイブのグラハム艦長から注意され、カール伍長は慌てて護衛任務に集中するのであった。
「まったくガキ共め、目を離すとすぐこれだ」
「ハハハ、数ヶ月の訓練を受けただけの中学生にしては頑張っている方でしょう。しかし業者達から随分と可愛がられていますな」
ビーハイブのブリッジにて溜息をついたグラハム艦長は、隣にいる副長と会話していた。
「……亡くなった自分の子供をガキ共に投影しているのだろうさ。自分の命は助かっても家族を失った人間は大勢いる。俺のように自分と家族が全員助かったパターンは稀だ」
「……そうですな。戦争は終わりましたし、これ以上犠牲者が増えない事を祈りたいものです」
しんみりした空気になりつつも同胞団の今後について艦長達は雑談する。
「少なくない数のジオン軍、いやテロリストの連中が武装解除に応じず潜伏していますが、連邦政府はどうするつもりなのでしょうか?」
「テロリスト共を放置するわけにもいかんから何かしら対策はするだろうさ。だがそれはムーア同胞団には関係のない事だ。テロリストの相手はあの男に任せて、俺達はムーアの再建だけを考えていればいい」
「そうですな。それとスミス中尉ですが、彼が艦長の娘さんと結婚するか同胞団の間で賭けの対象になっていますが……」
「はあ!?なんだそれは!初耳だぞ!」
雑談する中で自分の娘とスミス中尉が結婚するか賭け事の対象になっている事を知りグラハム艦長は驚愕する。
「艦長には極秘で賭けていたようですな。ちなみに娘さんと結婚するにベットしている者は全体の7割です」
「今すぐやめさせろ!そんなしょうもない賭け事などするな!誰だ発案者は!」
「恐らくフレミング少尉です」
「あんの若造がァ……!」
青筋を浮かべるグラハム艦長を副長は苦笑しつつ落ち着かせ、ブリッジのクルーは表面上は平静であったが、笑いを堪えるのに必死だった。色々とトラブルもありつつも一年戦争で共に戦い絆を深めたムーア同胞団は、その後も一丸となってムーア再建に力を入れ、ムーアを護っていくのであった。
<人物紹介>
●イオとコーネリアスとクローディア
→戦争を生き延びて平穏な生活に戻れた事を喜ぶ。彼らはムーア同胞団にてムーア復興に力を入れ、地球圏での戦争には一切関わらなかった。
ちなみに地球への観光はデラーズ紛争、グリプス戦役、第一次ネオ・ジオン紛争が勃発する度に延期され、イオは苛立ちつつも諦めてたが、宇宙世紀0090年頃、ようやく地球への観光が可能となり3人は家族を引き連れて地球に降り立つ事ができたのであった。
●中学生パイロット達
→生き残り達はムーア同胞団に残ってムーア再建に協力した。
カールとアリシアは微笑ましいカップルとして周囲から見られていたが、高校生になってパパとママになり周囲を困惑させた。その後周囲から説教された後祝福され二人は結婚したのであった。
●ムーア同胞団
→今日もムーア再建の為に頑張っている。ムーアの狩人が所属していたとして地球圏でもそこそこの知名度がある模様。
あと2話程後日談を書いてケツアゴのサンダーボルトを終わらせる予定です。予定としてはジオンサイドとしてダリル達などの後日談、そしてケツアゴの後日談となる予定です。
完結となりましたがこの後も幾つか番外編を投稿する予定です。今後は少しずつ投稿していく予定ですがよろしくお願いします。