<とある兄妹のその後について>
「……平和だなぁ」
「ええ、平和ですね!」
宇宙世紀0081年、地球のニュータイプ研究所の一つにて元ジオン軍人で現在は地球連邦軍に所属するビリー・ヒッカム少尉は平穏な生活を送っていた。
「平和なのはいい事だよ、戦場で命の遣り取りをするよりはずっといい」
「そうですねお兄ちゃん!あのムーアの狩人と戦って生き延びたのは奇跡だと思います!」
「ああ、それは俺も同意する。初陣で超一流のニュータイプである狩人と戦えとか無理ゲーだよな。よく生きてたもんだ俺達は……でもアリス、そのお兄ちゃん呼びはやめろって」
自分を兄として慕うアリスの言葉に同意しつつ、ビリー少尉はお兄ちゃん呼びはやめるようアリスに注意する。ジオン軍にいた時はフラナガン機関の
「お兄ちゃんはお兄ちゃんです!お兄ちゃんが自分の命よりも私の事を優先して助けてくれようとしていた事は覚えています。私の自慢のお兄ちゃんです!」
「おいおい、そこまでベタ褒めされると照れるな」
「お兄ちゃんとセバスチャンさんは私の家族です!クソジオン共とは違います!」
「……お、おう」
キラキラと目を輝かせながら断言するアリスを見てビリー少尉は少しだけ引いていた。
「あ、この後定期検査がありますからそろそろ行きますね!お兄ちゃんもサイコミュの試験頑張ってください!」
「そういえばそうだったな、アリスも気をつけてな」
「はい!」
笑顔で退室するアリスを見送ったビリー少尉はなんとも言えない表情を浮かべるも、妹が元気なら別に問題ないかと思い直した。
「お疲れ様ですビリー少尉」
「おうお疲れセバスチャン。なあ、地球連邦に来てからアリスが元気になったのはいいけどさ、反ジオン感情が強過ぎるんだけど
アリスと入れ替わりに入室したセバスチャン・モース元曹長にビリー少尉はふと疑問を尋ねる事にした。ちなみにセバスチャンは軍を退役後ニュータイプ研究者として再就職しており、ビリー兄妹の世話係となっていた。
「いいえビリー少尉、地球連邦に保護されてから彼女は人道的な扱いを受けています。
ビリー少尉の疑問にセバスチャンは苦笑しつつ否定する。
「ダイクン派の両親が謎の
「確かにそれもそうか」
「しかも戦後の調査の結果両親はザビ家の命令で暗殺されたと判明しました。両親は謀殺された上に自分は実験体として拉致され色々と弄くられたと理解したらジオンに愛想を尽かすのも仕方ありませんよ」
「ああ、うん、そうだよなぁ。そんな仕打ちを受けたらゴリゴリのアンチジオンになって当然だよなぁ……」
アリスの境遇を思い返したビリー少尉はアリスが反ジオンになるのも無理はないと納得していた。
「マダムや地球連邦政府はアリスさんを反ジオンのプロパカンダに利用しました。今や彼女は悲劇の少女として地球圏では有名です……そのお陰で彼女は一個人として扱われ、戦場に出たり非人道的な扱いを受ける事はなくなりましたのでプロパカンダに利用された対価としては十分かと」
「そして俺もそのおこぼれにあずかって身の安全が保証されたわけだ。アリスやマダム様々ってわけだな、あの二人に足を向けて寝られないよ」
「そうですね。でもビリー少尉も客観的に見れば十分悲惨な境遇ですよ?」
ビリー少尉とセバスチャン研究員は自分達が幸運だった事を再確認する。希少なニュータイプとして実験体にされ使い潰される事なく人間として扱われるのがどれだけ幸運なのか理解していたのだ。
「まっ、退屈だけど今後も軍人生活頑張りますか。でも本当に暇だな。軍人といっても後方でずっとサイコミュの試験ばかりだし」
「ハハハ、ビリー少尉はまあ、アリスさんやムーアの狩人と比較してニュータイプ能力が大きく劣りますからね。ムーアの狩人という戦力がいる以上態々前線に出す理由はありませんよ。それにビリー少尉にはアリスさんの精神安定剤としての役割があるじゃないですか。彼女が健やかに成長するのを見守るというのも立派な任務ですよ」
「そうかぁ?というか俺が弱いってはっきり言ってくれるなセバスチャン。まあ事実だけどさ」
ビリー少尉達はリラックスした様子で今後について雑談する。
「俺の勘ではアリスはいつか大人になって独立し結婚して家庭を持つようになる。そういう未来があってもいいはずだ」
「素晴らしい未来だと思います。ニュータイプ兵士として実験体にされ戦場で戦う未来に比べたら遥かに幸せですよ。その未来が実現する為にも平和が長続きすればいいのですが」
「ああそうだな。戦争なんて起きなければいい……多分だけどアリスの結婚式に参加したら泣くよ俺は」
「おやおや、もう完全にアリスさんのお兄ちゃんですねビリー少尉は」
ビリー少尉達は今後も平和が続いてほしいと強く願うのであった……ちなみに未来では短い間隔で何度も起きる戦乱に辟易しつつもビリー少尉は妹の結婚式に参加し感極まって泣き出し、セバスチャンは笑顔でアリスの結婚を祝福する事になるのだがそれはまた別の話である。
<虹の彼方に行った僧正>
「マダム、これは一番高い御香ですね。とっておきの一品を使うとは一体何があったのですか?」
「あの子が亡くなったと報告があったのよ。あの子を悼む為に香を炊こうと思って」
「ああ、彼ですか」
ニュータイプ研究所の所長であるモニカ・ハンフリー大佐はかつて研究所にいた被検体の一人であるレヴァン・フウ僧正が亡くなったと報告を受け彼の死を悼んでいた。
「南洋同盟では盛大な法要が執り行われているとか」
「ええ、私もテレビの中継で見たわ。あの子を慕っていた信徒達があの子の為に念仏を唱えていた……大勢の民衆に死を悼まれるなんて凄い事よ」
話をするモニカ大佐はふと視線を感じて周囲を見回す。
「マダム?」
「あの子が見ていた気がしたけど気の所為ね。あの子は私と違って天国、いや仏教だから極楽に行けるでしょうしこんな所にいるわけがないもの」
気の所為だと判断したモニカ大佐はレヴァン僧正の冥福を祈るのであった。
(……………)
自分の為に祈るモニカ大佐を見ていたレヴァン僧正の思念体はやがて一息つくとその場を離れる事にした。
(私は結局死んだ後も恨みを捨てる事ができなかった。だがこれでよかったのだろう。
自分の境遇に思うところがあるレヴァン僧正であったが、死ぬ直前に視たビジョンを思い返しこれでよかったのだと思う事にした。
(あの世界では
本来の歴史と言える光景を視たレヴァン僧正はそう結論を出す。いくら大義や恨みがあったとしても自分の我儘に他人を巻き込むなど言語道断であると。
(もう私は死んだのだし過去の未練は忘れるべきだ。この世界も多くの戦争が起きるだろうが私は虹の彼方で見守るとしよう)
この世界でも戦争が起きると予想し悲しみの表情を浮かべるレヴァン僧正であったが、自分にできる事はもう何も無いと虹の彼方でこの世界を見守る事にするのであった。
<人物紹介>
●ビリー少尉
→戦後は地球連邦軍に所属しサイコミュ研究に従事している。戦場に出る事は一度もなかった。アリスの事は妹として大事に思っているようだ。
ちなみにケツアゴの理不尽な強さを近くで見て戦慄するも、そのケツアゴを凌駕する白い悪魔の実力を見て乾いた笑みを浮かべていた。
●アリス
→戦後はニュータイプ研究の犠牲者として地球連邦の宣伝に利用され、悲劇の少女として扱われ地球圏で有名になった。でもそのお陰で実験体ではなく一人の人間として扱われた。ビリー少尉の事は自慢の兄だと思っている。未来では平凡な少年と出会い結婚し家庭を築く事になる。セイレーンの魔女と呼ばれる双子と仲がいいようだ。
ジオンはクソ!人面獣心のクソ野郎!と強烈なジオンアンチになったが境遇を考えたら仕方ないね。
●セバスチャン
→軍を退役しニュータイプ研究員として再出発した。もともと大学で教鞭をとっていたエリートなので研究員になるのは簡単だった模様。ビリー少尉とアリスの世話係と周囲から思われているが本人は今の環境に満足している。
●モニカ大佐
→レヴァン僧正が亡くなったと聞いて彼の死を悼んでいた。自分と違ってあの子は極楽に行けるだろうと確信している。
ムーアの狩人という強力な手駒があるので原作よりも評判は高い。
●レヴァン僧正
→この世界ではケツアゴが頑張ったせいでサイコブッダにはならず大人しく亡くなった。大勢の人から死を惜しまれ盛大な法要が執り行われたので原作よりも恵まれた最後だろう。
死ぬ直前に原作の展開をビジョンとして視た結果真顔になり、あんな馬鹿な真似をしなくて本当によかったと思った人間の鑑。原作では魔が差しただけで善人である事は確かである。
予定を変更し後1話後日談を書いてケツアゴのサンダーボルトを終わらせる予定です。
完結となりましたがこの後も幾つか番外編を投稿する予定です。今後は少しずつ投稿していく予定ですがよろしくお願いします。