カリヌシは俺を連れて港へ行き、船に乗った。どこへ行くのかは知らない。
彼もれっきとしたハンターでライセンス持ち。俺を連れ歩いても何も問題はない。
なおかつ、彼は調教ハンター……つまり、様々な動物と出会ってはそいつらを調教して、人間世界になじませたり自然に返したり、そういった活動をしているらしい。
「今はたまたま付き合ってるヤツがいなかったんでな。カイトの頼みを引き受けたんだ」
話の中で、彼は調教してきた動物たちのことを元カノだのデートだのと、まるで恋愛のように表現していた。
じゃあそれで言うと俺が今カノってことか? やめろキモい。
調教とか言ってるけど、彼は鞭も暴力も使わない。
ひたすら対話だ。言葉が通じているかどうかは問題じゃないらしい。
目を見て説得すればどんな動物にも伝わるんだそうだ。
まあ、俺はその言葉も理解できるんだけどな。
「さて、お前さん、念が使えるんだって? ちょっとおれにも見せてくれんかな」
俺は右手を上げる。そしてそこにオーラを集め、もやもやをじわりとカリヌシの方へと近づけた。
「なるほど、オーラは多少使えるんだな。発はムリか。念のことはどの程度知っている? 四大行は理解しているか?」
このひと……めっちゃ話しかけてきますやん? カイト以上だ。
四大行ってのは初めて聞いた。発とか凝とかのことかな? 四つあるのかな?
「オッケーそこからだな。まず、
ええと……毛を逆立てようとしたらオーラが噴き出すからその逆……力を抜けばいいのかな。
全身の力を抜いて、かろうじて立ってられる程度の状態でオーラを感じ取る。
もやもやが俺の全身をめぐっているイメージ……手先から足先、頭からシッポ。
「ようし、それが纏だ。念を使って戦う場合、この状態が基本になる。垂れ流し状態だと防御がおろそかになるし、練を続けるとすぐにオーラが尽きてしまうからな」
練……オーラを噴き出させて留めるやつか。
時間制限さえなければ俺はそっちの方がやりやすいな。
踏ん張ればオーラはあふれ出る。
もっとも、その状態で戦えるまでにならなきゃいけないんだけど。
今の俺はただ力を入れて踏ん張ることだけしかできない。
『纏』・『凝』・『練』それに今まで何度も聞いた『発』
これでよっつの『四大行』なのかな、たぶん。
「次は絶だ。練の反対、体の外に出るオーラをまるっきりゼロにしてみるんだ」
あり? 『絶』……五番目のヨンタイギョーが出てきたぞ。どれが仲間外れだろ。
「ほれ、やってみ」
オーラをゼロ……どうやるんだ? 力を抜いても……オーラをゼロにはできないよな。
さっきの『纏』になるだけだ。
「あっ、もしかして精孔からわかってねーのか」
ワリーワリーと頭をかきながら、カリヌシは自分の片腕を突き出してきた。
「人間……この場合は虎であるお前もだな、その体には無数の精孔っていう見えないアナがあいている。オーラはその穴から出てくるんだ。特に何も意識しなければじわじわと漏れ出す感じだ」
目の前に突き出された腕。
最初にもやもやが薄く蒸気のように立ちのぼる。
そしてそのもやもやが腕の周りを包み込み、そして勢いよく吹き出す。
最後にどんどん薄くなっていき、しまいには全く見えなくなってしまった。
「『練』の時には精孔を大きく開く、『絶』の時にはそいつを閉じるイメージだな。よし、もう一度トライだ」
練の時は全身の毛穴が開いてるような感じがしてたから、逆に毛穴を閉じる感じでやればいいんだろうか。……どうやって?
よくわからん。きゅっと体を縮こませてみたり、力を抜いてみたり。
……やっぱだめだ、どうしても纏になっちまう。
「うーん……ああ、アレだアレ。お前さん、獲物を狩るときにどんな状態で待ち伏せる?」
狩りのとき? そりゃ、相手に気配がばれないように息を殺して小さくゆっくりとした動きで……。
「ソレだ」
コレらしい。
自分では全くわからないけど、体から出ているオーラをストップさせることに成功したようだ。
「何だかなー、やっぱ自然の中で身に着けちまったのかね、念能力。おれなんかさ、覚えるのにメチャクチャ修行したのよ?」
知らんがな。
「今やった、『纏』『絶』『練』それに必殺技の『発』をもって、念の基礎である四大行が完成する。まずは『発』以外のみっつを無意識でもやれるくらいに練習しろ。今のお前さんじゃ力入れたり抜いたりするのに精一杯で、他に何もできやしねえからな」
それから俺は『纏』・『絶』・『練』を何度も繰り返した。
そして、二時間ほどたったころだろうか、オーラが俺の制御から離れ始めた。
というのも、俺が意識をせずとも周囲の環境に合わせて体が勝手にオーラの出し入れをするようになったのだ。
普段は纏、あるいは絶。冗談でカリヌシが小さなオーラを飛ばしてきたときには反射的に練。
「おーおー、筋がいいじゃないか。お前さんなかなか見どころがあるぜ」
制御できないってよりは、自動運転になったって感じかな。
やろうと思えばそれぞれの状態を維持することもできる。
これが最低限の基礎、念の戦いに必要な四大行!(発を除く)
「よし、次は『発』だ。と言ってもコイツは今までのと違ってすぐに出来るわけじゃない。それぞれにあった能力と発想でもって、自分に適した技を自分で考えだすんだ」
『発』……カイトのピエロや、キルアの雷撃がこれに当てはまるんだろう。
俺は強化系だって言っていた。何かを強化する力。
「ちなみにおれは放出系。こういったことができる系統だな」
そう言うとカリヌシは手のひらからいくつかのボール状のオーラを出し、ひょいひょいとお手玉を始める。
これも『発』なのか? ……いや、単なる応用だな。俺にでもできそうだ。
俺は二つ足で立つと、上に向けた前足の肉球の上にオーラのボールをそれぞれ作り出す。
そこまではいけたけど、放り投げようとしたらボールが霧散して消えてしまった。
ついでにバランスを崩してひっくり返った。さすがに立つのは無理か。
「ひゃはは、まあ悪くねえ。初見でそこまでやれたってことはお前さん強化系か操作系ってとこだな。たぶん強化系か」
カリヌシも念のボールを消す。
「系統も違うし、別におれの真似をする必要はねえがな。『発』を作り出すには生まれ持ったもの、つまり念の系統。そしておまえさん自身がこれまでに経験し努力や思考によって磨かれた才能。この二つが重要になる。どちらもその内容は個々人で千差万別だ」
念の系統は強化系。そっちはいいんだけど、経験って……?
俺まだ生まれてからそんなに経ってないぞ。
ママと一緒にいたときはずっと守られてたし、あとはカイトやゴンキルと一緒にいたとき。
カイトの一件は俺にとって大きな出来事ではあるけれど、それがどうやって能力に結びつくのかなんて見当もつかない。
「ま、それはおいおいだな。そう慌てて作り出すようなもんでもねえ。今は他の四大行の修行をしながら、自分の能力について考えておくといいさ」
そう言って、カリヌシはまたも俺の頭に手を置いた。
「お前さんの『発』がどんな能力になるか楽しみだぜ」
……俺は、自分がどんな能力になるんだろうと想像を膨らませた。
自分の体……爪や牙を強化するのが一番手っ取り早いよな。
固くする、鋭くする、大きくする。いろんな方法を考える。
「ほら、修行しろ修行。やりながらでも考えることはできるだろう」
練と絶を繰り返しながら考える。
ほかに強化できるものは何か思いつくかな?
カイトがなんでも強化できるって言っていたことを思い出す。
自分の力、他人の力、物、道具、……なんでも?
右手を上げて、ちょいちょいと空を掻く。
右手で招く。左手で招く。俺は開運招き猫。いや猫じゃないけど。
俺が強化する? 何を強化する?
俺自身を強化するよりももっといい方法があるんじゃないか?
金運を招く右手招き、お客を招く左手招き。
キメラアントのことがなければ俺はそのまま、金運や千客万来を強化していたかもしれない。
でも俺はカイトを助けに行かなきゃいけない。
助けるためには何が必要だ?
オーラを何度も出したり引っ込めたりしながら、俺はうんうんと唸っていた。