びしょぬれタイガー   作:海砂

11 / 22
第十一話 メシメシ!

 纏と練と絶を繰り返しているうちに、少しだけオーラの量が増えてきた気がする。

 気のせいかな? 自分でもわかるほど増えるわけないか。

 

「よしよし、頑張れ頑張れ」

 

 カリヌシは口先だけで俺を応援しながら、えっちな本を読んでいる。

 やる気ないなこいつ。

……とはいえ、俺に必要なことは教えてくれた。

 

 どのくらい船に乗っていたのか覚えていない。

 その間、俺は修行に集中していたから。

 

「おい、降りんぞ」

 

 船から降りた港は、どこにでもよくある感じの港町。

 船着き場のすぐそばに赤と白で塗装された小さなタワーが立っている。灯台の代わりかな。

 

「知ってっか。この町は海鮮丼が有名なんだよ」

 

 そもそもここがどこかも知らねーよ。

 だが待て。海鮮丼……だと……?

 

「がうぎゃうがう!」

 

 食いたい!

 

「おっ、やる気だね。よっしゃ食いに行くか」

 

 タワーを通り越して少し歩くと小さな集落があった。

 その中でも中央の広場の横にあるひときわ大きい、唯一コンクリートで建てられている建造物の一階にその店はあるらしい。

 海鮮丼って言ってたけど、見た感じ洋風のカフェみたいだな。テラス席もある。

 丼よりコーヒーとかサンドイッチの方が雰囲気には似合いそう。カツサンド食べたい。

 

「海鮮丼二つ! 一つは大盛り、一つは薄味で頼む!」

 

 テラス席のひとつに座ると、カリヌシはよくとおる大声で注文した。

 

「お前さんは火を通した魚の方が好みかもしれんがな。ここの海鮮丼食ったら人生観変わっちまうぜー」

 

 いやいや何をおっしゃる。

 俺は焼いた肉以外のものが食いたくて食いたくて仕方なかったんですよ?

 今のところ、食ったことのある人間の手が入った加工食品はジャーキーと干し魚くらいだ。

 

「お待たせいたしました」

 

 店員さんが海鮮丼を運んできた。

 

「うお、来たぜ来たぜ! ほら、食ってみろ!」

 

 カリヌシは大喜びで俺に食べるように促した。

 彼の海鮮丼にはさっきのタワーのごとく、うず高く刺身が積まれている。

 そこまではないにしても、俺の海鮮丼も盛りだくさんだ!

 ピンクの刺身、真っ赤な刺身、白い刺身に白と赤のツートンカラーの刺身。

 ウニにイクラにエビに貝柱! 見えるもの全部ぷりっぷりだ。

 下にはつややかに炊かれたご飯が隠れてる!

 上に振りかけられている刻んだ焼き海苔も香ばしい!!

 薄味だって言ってたけど、ちゃんと醤油も少しだけかけてある。

 

 俺は箸を使えないので丼に直接に頭を突っ込んでいただくことにした。

 うめえ! うめえ! やべえ! うめえ!

 

「ひゃはは、そーか気にいったか! だよな! ここの海鮮丼は最高だ!」

 

 前世以来の海鮮丼、あっという間に食べ尽くしてしまった。

 カリヌシの方を見ると、あの大盛りの丼はとっくに空になっている。

 食べるの早いな……俺も結構早い方なんだが。

 

「ふいー、食った食った!」

 

 満足した様子で食後のコーヒーを飲むカリヌシ。

 俺はさすがにコーヒーまでは飲まない。ので、ペット用の食器で水を飲む。

 水までおいしい。素晴らしい。この水テイクアウトできんかな。

 

 お会計は全部カリヌシが払ってくれた。俺は金なんて持ってないから!

 

「よぅし、食ったら次は運動だ! ほら、こっち来い」

 

 連れられて町はずれに移動する。

 小さな町なのですぐに集落の外に出ることができた。

 海側を背にして、目の前には広大な草原が広がっている。

 

「凝はできたよな。後ろ足に凝して、思いっきり前に向かって跳んでみろ」

 

 ……? ジャンプすればいいのかな。

 後ろ足に力を入れて、思いっきり、ぴょん!!

 

 俺は十メートルほど吹っ飛んだ。びっくりした……なんだこれ。

 驚きはしたものの前足から華麗に猫着地。

 

「ひゃははは、船で修業したからオーラの使いどころが上手になったんだろな。よしよし、だがまだまだ甘いな。今度は俺と一緒に飛ぶぞ、ほれほれ」

 

 横一列に並んで、いちにのさんで二人ともジャンプした。

 俺はさっきと同じくらい。カリヌシは一歩で俺の倍は距離を稼いでいた。

 いやオカシイだろ。ニンゲンはそんなに跳ばない。

 

「ひゃはは。どうだ、結構跳ぶだろ?」

 

 得意げなカリヌシ。

 いやでもこれ、確かに前よりジャンプはできるようになったけどさ。それだけで強くなるのか?

 

「なんのこっちゃわかんねーって顔してんな。まあ見てろって」

 

 さっきは両足でジャンプしていたが、今度は片足で地面を蹴る。

……何メートル跳んでんだこいつ。

 

「ほいっ次はお前さんの番!」

 

 俺も同じように片足だけに力を集中して跳んでみる。

 同じくらいか? いや絶対違うわ。高さも飛距離も段違いだよ! ボロ負けだよ!

 

「あー、アレだ。両足にオーラを分けちまうと、力も半分になっちまう。片足にまとめた方が効果は高いのよ」

 

 そしてカリヌシは俺の目の前で、両の手でこぶしを握りそれぞれに凝をする。

 

「例えばパンチする時もだ。全身にオーラを纏っている纏よりも、そのオーラを集中させた凝の方が攻撃力が高い。そして」

 

 今度は全身のオーラを絶でとじて、全てを手のオーラだけに集中させた。

 さっきとは比べ物にならないほどの強力なオーラのこぶし。

 

「コイツが硬だ。見ての通り、攻撃力はケタ外れだな。ただし、体の他の箇所のオーラを全部拳に持ってきちまっているわけだから、隙はデカい」

 

 さらに左手のオーラをすべて右手に移動させる。

……こいつはやばい。これで殴られたら俺なんかひとたまりもないだろう。

 

「攻撃力だけで言うなら硬>凝>練>纏。凝や硬は攻撃だけじゃなく防御にも使える。例えばおれがお前さんの頭を殴るって前もって確実にわかっていれば、頭部をオーラで覆えばいい」

 

 こぶしのオーラの量を半減させると、カリヌシは俺の目の前にその拳を突き出した。

 

「今からこいつでお前さんを殴るとする。殴るのは頭か腹のどちらかだ。……お前さんなら、どうする?」

 

 今までの説明と、頭と腹という限定条件。

 答えは、頭と腹をオーラで守り、それ以外の箇所は絶!!

 

「よし、正解だ。……つっても相手が攻撃してくる場所を懇切丁寧に教えてくれるわきゃねーからな、防御の場合は基本、纏か練だ。ちなみに練をずっと続けて全身をオーラで覆い続けている状態を堅という。よしゃ、堅、やってみ」

 

 全身の毛を逆立てて力を入れて、練!

 その状態を維持する! 大量のオーラを、体の周囲に留め置く!

 

……すぐにガス欠になって倒れてしまった。ほんとにあっという間。

 体力とオーラは全くの別物なんだな。

 

「続ければ潜在オーラの量が増えて堅の時間を延ばすこともできるからな、修行あるのみだ。ある程度堅を維持できねぇと戦闘ではお話にならねーぞ」

 

 でもそれができるようになるのっていつなんだ? 修行って言うけどいつまでかかるの?

 その前にキメラアントが世界を滅ぼしちゃったらどうしよう。

 

「焦んなって」

 

 俺の頭をなでるカリヌシ。そして遠くの方を指さして言う。

 

「お前さんに今一番足りてないのはあれだ、時間だよ。とにかく先のことは考えずにひたすら修行しろ、やり方はおれが教えてやる。まずはそうだな、この草原を抜けた先にちょっと大きな町があって、そこにラーメンのうまい店があるんだ。纏よりちょっとオーラを多く出した状態で、そこまでダッシュすんぞ。まずはほら、纏」

 

 纏はもう、簡単にできる。それから、ちょっとだけオーラを出す……?

 練ほど気合い入れずに、軽く力入れる感じでいいのかな。

 

「よし、その状態を維持しながらダッシュだ。行くぞ!!」

 

 カリヌシは言い終わる前に駆け出した。俺もあわててその後を追う。

 

 一時間ほど駆け抜けた先に町が見えた。

 そして俺たちはクソうまい醤油ラーメンにありつくことができた。

 ラーメン! うめえうめえ! 猫舌だけどあちあちうめえ!

 沸き立つ湯気! 香るチャーシュー!

 俺は肉食獣だけどメンマだってうめえうめえ!

 

……俺、虎なんだけど。こんなしょっぱいもの食っていいんだろうか。

 いいのかな? いいよな! 問題ないよな! ヨシ!!

 

 そして俺たちはこの町に宿をとることに……しなかった。

 この町のホテルはペットが宿泊できないらしい。

 つまり、町から少し離れた場所で野宿。

 俺はまあ、それが当たり前だったからいいんだけどさ。

 カリヌシも見る限り野宿するのに慣れているみたいだ。よかった。

 町で薪を買って持ち込んで、草原の片隅で火をおこして。

 日が暮れる前にはしっかりとした焚き火を作ることができた。

 

「ほらよ」

 

 カリヌシが俺の前に何かを放り投げてくる。肉の塊。

 今までに嗅いだことのないにおいだ、なんの肉だろう。

 

「ラムだよ。お前さんらは肉を自分で焼いて食うんだろう?」

 

 自分で焼くと言っても、俺の角じゃまだ肉を刺して焼くことはできない。

 どうしようかとオロオロしていると、カリヌシがその塊を拾い上げて、何かで包んで火の中に放り込んだ。

 

「お前さん、だいぶんガキだよな。まだ母ちゃんのオッパイにしがみついててもおかしくない年頃だ」

 

 長い枝で肉をつついてコロコロと転がしながら、カリヌシと俺は火を見つめる。

 そうだね、でもママとはもう別れたんだ。俺は一人で生きる。

……いや、全然一人じゃないんだけど。みんなに助けてもらって生きてるよ。カリヌシにもね。

 

「まー特訓は厳しいかもしれんがよ、お前さんが独り立ちできるまでしっかり付き合ってやるからさ」

 

 うん、これからもよろしく頼むよ。

 俺は早々に強くならなきゃいけないんだ。

 誰よりも。キメラアントよりも。できればカイトやゴンやキルアよりも。

 

 せっかくのラム肉は、カリヌシがうっかり目を離したせいで焦げてしまった。

 まあ、外側を削れば食えるよ、気にすんなって。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。