船は陸地につくと少しだけ川をのぼり、そこに港があった。
船から降りると、この街は今まで行った中でヨークシンに次ぐ規模の都会だ。
港から少し離れたら小高い山になっていて、山の斜面に階段状に家がたくさん連なっている。
その向こうにはさらに大きな山脈のような山も見える。
山のふもとにはビルも建ち並んでいる。
中規模の地方都市ってところかな。どこなのか知らんけど。
「ここはロカリオ共和国の港町ドーリだ。最初に船出した街に戻ってきたんだよ。今のぼってきた川をもう少し上流へ行くとおれらが出会ったNGLとの国境だな。ここも川向うはNGLだ。渡るのは禁止だが」
あら、来たことある港だったのね。全然気づかなかった。
まあ、あの時は俺も若干放心状態だったからな……。
「ひとまず中央広場に行くぞ。店もたくさんあるし近くに移動するための駅もある」
徒歩で15分ほど、そんなに遠くはない。
思うんだけどさ、俺を放し飼いにしてて大丈夫なのかなカリヌシ。
俺、もう大分成長したと思うんだけど……まだまだガキだってことか?
時々通りすがりの人がギョっとした感じで振り返って俺を見る。
でも呼び止められたり通報されたりしないってことはギリセーフな感じか。
中央広場はレンガで舗装されていて、中央にシンボリックな大きい噴水がある。
噴水が待ち合わせ場所に利用されているようで、周辺にはたくさんの人がいた。
「よっしゃ、お前さんここで何か芸しろ」
無茶ぶりキター!!
芸ってなんやねん虎にできる芸ってなんやねん火の輪くぐりでもしろってか。
「さあお立会い、この小さな虎にご注目!!」
客呼び集めてんじゃねーよヤメロヤメロ俺は照れ屋さんなんだ。
「虎はおなかがすいたら狩りをします。これは獲物を見つけた時ですね」
やめろ、そんな物騒な紹介の仕方すんな!! 俺人前でそんなことできねーって!!
「さて、この虎の狩りの方法とは……!!」
だからやめろってば!!
突然、カリヌシが両腕で俺をがばっと力いっぱい抑え込んだ!
ぎゃー! 何しやがるこの野郎!!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
「このように、獲物を捕まえる時に前足で押さえ込むのです」
おまえな……おまえな!!
「さて今度は虎の番」
カリヌシは俺に自分を捕まえさせる気だ。
今のところ、やられたい放題の虎野郎イズ俺。
やってやろうじゃないの。
ウガオー!!!!!!!
俺はカリヌシの胸元にとびかかって地面に引き倒す。
「この通り、虎は自分よりはるかに大きなモノであっても捕らえることができるのです!」
俺の両手を掴んでグイと引き離し、地面に降ろして自分も立ち上がる。
ちらほらと拍手がもらえた。
あー……芸の一種だと思われてんのか。
俺はただ単にカリヌシにキレただけなんだけどな。
キレたとはいえ別に殺そうとかってわけじゃない。
カリヌシにも怪我はないはず。もちろん俺にも怪我はない。
「続きましてはおれの逆立ち、ご照覧あれ!」
巨体のカリヌシが軽々と片手で逆立ちする。
……わかってるよ、俺もそれをやればいいんだろ?
まず両手で逆立ち。そして片方の手を宙に浮かせる。
今度はさっきよりもたくさんの拍手が上がった。よしよし。
そうやって主にカリヌシが何かしら芸をして俺はそれを真似て、10分ほど色々やっただろうか。
「本日の芸は以上になります、皆さまご覧いただきありがとうございました!!」
カリヌシが地面に置いたキャップの中にはたくさんの硬貨や札があふれていた。
「な? 意外と稼げるだろ?」
そうね、そうね、そうかもね。
でもほとんど硬貨だしトータルでは生活していけるほどの金じゃないよね。
「うし、泊まるほどの金はないからこの金で食料買って東にある山脈のふもとで野宿すんぞ」
結局また野宿かーい!!
今度は練で全力疾走。
したあと残りは纏で走って、トータル一時間ほど走っただろうか。
遠くにはかなりでかい山々が連なっているものの、そのほんのふもと、まだ全然登ってない。
街からは離れているので
「この辺ならいいかな……ほら、ここ。ここがおれらの寝床だ」
そこは大きな岩山。
確かに岩陰になるこの場所以外はひらけていて隠れる場所も少なく、逆に言えば敵襲に備えるにはもってこいだ。
敵襲? 誰の? キメラアントがここまで追ってくるのか?
「円の練習ついでに周りの様子探ってこい」
俺はカリヌシから言われたとおり周辺を偵察してくることにした。
岩山を中心に歩いて十五分くらいかな、森が見える。結構奥まで森が続いているようだ。
円を展開して周辺をウロウロする。
なんかいい獲物がいたら狩って帰ろう……そんなことを軽く考えていた。
……いた。
キメラアント。
円の圏内に入ったことで違和感は覚えたようだが、こちらの存在にまでは気づいていないようだった。
俺の円の広さは現在半径十メートルほどまで広がっている。
俺は息をひそめて絶をしてその場に座り込んだ。
少しだけ周囲を警戒して、首をかしげて……そいつは、ある方向へと向かった。
俺の存在よりも気になる何かがあるようだった。
引き続き絶のまま、俺はそいつの後を追う。
なぜならば、俺はそいつに見覚えがあったから。
ゴンとキルアが戦った奴。ハヤニエのあいつ。
ウサギと鳥を足したような耳の長いあのキメラアント。
ゴンが倒したけど、味方に救い出されて、生きたまま逃げた。
あいつが、国境を越えてこの場所に居る。何でここにいる?
今の俺ならこいつを倒せるかもしれない。
でも、こいつも体にオーラを纏っている。
元々の体が強いうえに念も使えるようになっている……?
攻撃するのは危険だ、俺はそう感じた。
俺は絶のまま追う。
奴はその後も俺に全く気づいていないようだった。
時折鼻をひくひくとさせながら、何かを追うように一方向に向かっていく。
森のさらに奥。地面にも木々の根っこがあちこち広がり歩くのもちょっと大変。
音を立てないように、ばれないように。絶のまま。
「おお~、人間の臭いがすると思って追ってみりゃ。覚えてるぜ、お前あの時のガキだろ」
俺とハヤニエのキメラアントをはさんで反対方向に同程度の距離。
そこにいたのは、キルアだった。
「不運だと観念するんだな」
キルアは一人……ゴンはいないみたいだ。
「これからお前が味わうのは地獄の苦痛!!……だが、永遠に続くわけじゃねェ」
対峙しているキルアはこいつと戦うつもり……なんだと思うんだけど、動こうとはしない。
「もう一匹の居処を吐けばなるべく早く楽にしてやる。ま……そう遠くにはいねェだろ? お前の連れだろ? アイツ」
キメラアントは手をグーパーさせながらゴキゴキと関節を鳴らしている。
「まぁ、オレは吐こうが黙ろうが構わねェ。お前の生首でも振り回しながら大声で探すさ。そうすりゃあっちの方から寄って来るだろ。それが人間ってモンなんだろ?」
キルアが怯えている。キルアが怯えている。
こんな奴キルアにしてみたら倒せる相手だって思うけど、それでもキルアがびびってる。
どうして。キルアならやれるのに。でもキルアはびびってる!
「がう!!」
俺は二人の間に割り込むようにして躍り出た。
「アン? ……ああ、あん時そばにいた変な虎か。お前も殺されに来たか?」
「タイガ! どうして……!」
キルアが怯えてるなら……俺は、キルアを守る!
「ぐるるるるる……」
練……堅……こいつを追い払う、キルアの為に。
俺も修行したから、ちょっとは立ち向かえるんじゃないかと思ってた。
でも、それは全然届かなかったみたいだ。
すぐに何度も殴り飛ばされて、ボロボロになる。
キルアは立ちすくんでいまだに動けない。それなら俺がやらなきゃ!
「ふはははは、それそれ、そのビビッてる感じ!!いーねェ!!」
あいつはキルアを指差して笑ってる。
俺はあいつに殴り掛かる。
腕の一振りで、俺は弾き飛ばされる。
命に関わるほどのダメージじゃない。でも俺はあいつにかなわない。
それでもキルアを守らなきゃ!!!
「うああああああああああ!!!!」
キルアもあいつに飛び掛かる。
そして俺と同じように殴り飛ばされる。
「ひゃはほほ、ビビリ過ぎだってお前!! 一歩も動けねェじゃねーかよ腰抜けたか!? あひゃひゃひゃひゃ」
あいつはキルアを殴る。
「あ~いィーッ! いィーッ!!」
あいつは俺を蹴る。
「あひゃひゃひゃ! 口ほどにもねェなあお前らァ!!!」
俺は、もう立てない。目がかすむ。
「オレが……守る」
それでもキルアは立ち上がる。
「だって……友達だもん」
キルアの友達、ゴン。
事情はよくわからないけど、今キルアはゴンを守るために戦ってる。
俺も、戦わなきゃ。
キルアとゴンを守るために、戦わなきゃ!
「あ~~~~~あ~~~~~やめろよお前らそんな
涙が出てきそうだ。前足は震えてる。
それでも戦わなきゃ! キルアもそう思ってる!
「あ、あ、あ、あ、もう我慢できね。
キメラアントは腕を振り上げる。俺は身動きが取れない。
あいつの腕がキルアに振り下ろされる。
その場所に……キルアはいなかった。
「!?」
遠く離れた場所。十五メートルは離れてるか。
そこに、キルアは立っていた。
手に何かを持っている。小さくて何かは見えない。
「はは…………やられた……」
キルアは手に持っているその小さな何かを握りしめた。
「イルミの野郎、こんなもん差し込んでやがった……オレの
キルアは大きく息を吐く。なんだかさっきまでと様子が違う。
「ああ―――――……なんかスゲースッキリした。完全に目が覚めた。……いや、解放されたって感じかな」
額と顔を袖でぬぐって、キルアは顔を上げる。
その表情にもう迷いや怯えは微塵も感じられなかった。
「ねえ、他の蟻にも言っといて。オレたちに近づいたら命ねーぞって」
気のせいかオーラの量まで増えた気がする。
キルアが、圧倒している。
「……っふざけ」
「あっそ」
一歩。
キルアが一歩踏み出しただけに見えた。
彼は右手でキメラアントの頭部を刈り取り、それを、握りつぶした。
「無茶すんじゃねーよタイガ。お前さ、あのハンターとどっか行ってたんだろ? 何でここにいるんだよ」
キルアが俺の傷の様子を見てくれる。
どこもひねったわけじゃないし、こんなのかすり傷だ。
ただ、キメラアントにビビってただけ、情けないことにな。
「がう……」
「おうどこまで行ったかと思えば、あんときのガキじゃねーかよ。なんだタイガ、そいつ見つけたから追っかけたんか?」
カリヌシが唐突に表れて、キルアと俺の前に立つ。
俺たちの怪我を見て、ざっくり状況を理解したようだった。
「よしよし。無事立ち直ったみてえだな。お前さんら、今は修行中ってとこか?」
「さぁね。こっちもいろいろ事情あってさ。もうちょいしたらキメラアントの巣に殴り込みかけるつもりだよ。その準備もしてる」
「ふむふむ。その事情について詳しく聞きたいところだが」
「無理だね、オレはもう行かなきゃ、急ぐんだ」
「オッケー、連絡先だけ教えてくれるか? 時間ができたら連絡をくれると助かる。タイガのことについてだ。お前さんのツレにも伝えといてくれ」
キルアとカリヌシはケータイを取り出して連絡先を交換する。
そしてキルアは走ってどこかへ行ってしまった。
「よっしゃタイガ、おれらも戻るぞ。さっきの場所に火を起こしてそのまま放置してきちまった。歩けるか?」
「がう」
俺は円を展開して、さっきの岩場へと戻る。
今度はカリヌシ以外の人間にも、キメラアントにも、出会うことはなかった。