びしょぬれタイガー   作:海砂

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第十六話 ババアババア!

 この街は(今はちょっと山の方に離れてはいるけど)NGLの隣の国。

 そこにキルアと多分ゴンもいた。

 ということは、二人は準備を整えてカイトを助けに行くつもりだったんだろう。

 その準備もしていると言っていた。

 俺も一緒に行きたい。でも今の俺にはまだ力が足りない。

 毎日練の修行は繰り返しているけれど、なかなか時間が伸びないのは元々そういうものなのか。

 必殺技も必要だ。発のことも一生懸命考えてはいるけれど、これといっていいものは思いつかない。

 

 

 翌日、俺とカリヌシは再び港町の中央広場へ戻る。

 芸をする前に「殺気を込めずに練をしながら芸してみ」とか言われたんだけど。

 練をしながら動くのは、それはもう余裕。

 芸もそんなに難しいことをするわけじゃないので、できる。

 

 練をすると、俺たちの芸を振り返って見てくれるお客さんが増えた。

 それが即収入につながるわけではないけれど。

 見る人が多ければ立ち止まる人が増える。

 立ち止まる人が多ければお金を落としてくれる人も増える。

 ついでに俺の練の修行にもなる。

 一回、芸をするのに気を取られて殺気が漏れ出てしまった時は、その場にいた全員が逃げるようにどっか行っちゃった。

 一般人に敵意を向けるのはいくないね。反省。

 集中しすぎてムキーてならないようにするのも大事な大事な修行。

 俺は虎なんだから。猿じゃないんだから。ムキー。

 

 

 俺が引き続き芸をしていると、一人の小さくてかわいらしい老婆がやってきた。

 

「こんにちは。少し見ていってもいいかい?」

 

「がう!」

 

 おばあさんは、お客さんの中では珍しくカリヌシをスルーして俺に話しかけてくる。

 

「すごいねえ、こんなに小さいのにねえ」

 

「がうがう」

 

 両後ろ足で立って、バク宙したり。

 カリヌシの投げる石ころに前足でアタックして。

 でも練をしてる状態だから力を入れ過ぎて壊さないようにそっとはたき落としたり。

 そんなつまらない芸の一つ一つに拍手をくれて、そして丁寧にティッシュで包んだおひねりまでくれたよ。

 うれしいね。

 お礼に二つ足で立って、おばあさんに向けてお辞儀をした。

 それにもニコニコと笑顔で拍手をしてくれた。

 

「可愛いねえ、賢いわねえ。カリヌシ、あんたの今度の彼女さんは今までで一番の器量良しかもしれないねえ」

 

 おばあさん、カリヌシと知り合いだったんか。

 でも彼女呼ばわりはやめてキモい。

 芸は終わり、他のお客さんは散っていったけれど、おばあさんはカリヌシと立ち話をしていた。

 

「おうよ、まあやんちゃな盛りだからうまくいかねえこともあるがな。基本は悪い奴じゃねえ」

 

「おやおや、やんちゃにも程があったあんたの口からそんな言葉が聞けるときが来るとは思わなかったよ」

 

 おばあさんはそんなことを言いながら、俺に向かってゆっくりと手を伸ばす。

 ゆっくり、ゆっくりと。ただしその手は、オーラに包まれていた。

 手が俺の腹に触れる。俺は練をしていたのに、思いっきり吹っ飛ばされた。

 

「油断すんなよタイガ。そのババア、見た目通りじゃねえぞ」

 

 言うのが遅いんだよバカ……ぐふっ。

 

 

 

 ババアがティッシュに包んでいたのがなんと一万ジェニー札だったので、今日俺たちはホテルに泊まることができた。

 シングルルームにカリヌシと俺。隣の部屋にババア。

 そもそもこのババア何者なんだよ。

 もうおばあさんとか言わねーぞ。一般的なおばあさんは虎を吹き飛ばしたりしない。

 

「タイガ、この人はな、おれの師匠だ。おれが呼んだ」

 

「初めまして、タイガちゃん。あたしはアイリーン。このバカの師匠だったんだけどね、今はもう引退してのんびり暮らしているただのババアさね」

 

 何度でも言うぞ。ただのババアは虎を吹っ飛ばしたりはしない。

 つまり、このババアはただものじゃないんだ。

 俺は油断してたわけじゃない。全力の練を展開していた。

 全開でオーラぶっ放してた。なのに吹っ飛ばされたんだ。

 

「で、今回の本題だがな。タイガにちっと修行をつけてやってくれねえか」

 

「おやおや、あんたがそんなこと言うなんて珍しいね。あんたからあたしに頼み事するなんて初めてじゃないかい?」

 

 ババアはくくっと喉を鳴らして笑う。

 

「タイガのオーラがな、まだまだ足りてねえんだ。いっちょ前に戦えるくらいには仕上げたい」

 

 ああ……そういうことか。俺はまだ弱い。

 だからこのババアに修行をつけてもらえと。

 おそらくはカリヌシより強いであろうこのババアに。

 

「タイガちゃん。あんたは強くなりたいかい?」

 

 ババアが俺に問いかける。俺は、強くなりたい。

 今のままじゃダメなんだ。全然足りないんだ。

 もっと強くなって、ゴンやキルアの役に立ちたい。

 カイトを助けたい。

 

「がう……」

 

 強くなるにはどうしたらいいですか、と言おうとした俺を制したのはカリヌシだった。

 

「タイガ。お前さん一人で強くなろうとしてねえか?」

 

「……がう?」

 

「はっはっはっは! こいつは先手を取られたねえ!」

 

 ババアが豪快に笑いだす。なんだ急に。俺が何かしたか?

 

「いいかいタイガちゃん、強くなろうとする時はねえ、一人じゃダメなんだ。大事なのは師匠、そして友人。師匠はまあ、あたしかカリヌシでもいいだろうさ。でも絶対に友人が必要だ、それも切磋琢磨しあえるようなね」

 

「ぎゅう……」

 

 俺はゴンやキルアのことを思い浮かべた。

 多分俺なんかじゃ彼らに追いつくことはできないだろう。

 けれど彼らは優しいから、俺が強くなればきっと喜んでくれる。

 そして一緒に強くなろうと言ってくれるはずだ。

 一緒に切磋琢磨ってのはまだまだ無理かもしれないけど、彼らの存在を常に念頭に置いて俺が修行に励むことはできる。

 

「がう!」

 

 わかった、と俺は答えた。

 

「タイガちゃん、あんたはいい男になる素質があるねえ。あたしが保証するよ」

 

 そう言ってババアは俺にウインクした。

 

 

 

 その日から、俺とババアの修行が始まった。

 まず最初の課題はオーラ量を増やすこと。

 今後も練をしながらの芸は毎日続ける。

 これは今まで通りだ。

 でも、その後にはババアとの組手も始める。

 今日はその組手から。

 いや、組手なんて生易しいものじゃないな。

 オーラを込めた手で毎回吹っ飛ばされる。

 堅ではまるで歯が立たないから、ババアの手の動きをよく見て、手が触れるであろう箇所に凝。

 それでもダメで吹っ飛ばされた。

 

「自分の体のオーラの動きをよく見るんだよタイガちゃん。どこにオーラがあって、どこにないのか。凝の時、オーラはどんな風に集まっているのか。集めていないオーラはどうなっているのか」

 

 集めていないオーラ……?

 俺が凝でオーラを手の触れる箇所に集めたとき、それ以外の部分も纏より薄くはあるけれどオーラを纏っている状態だということ。

 何度か吹っ飛ばされてから、そのことに気付いた。

 このオーラも全部まとめて凝をするべき箇所に移動することができたら!

 

 そうして何度目かの組手。

 俺は全てのオーラをババアが触れようと狙っているであろう自身の尻に集中させ、それ以外の箇所は絶。

 ババアが俺の尻に触れたけれど、ずうんと重い感触はあったけど、俺は弾き飛ばされることはなかった。

 

「ようし、それが『硬』だ。オーラを一か所に留め、それ以外の箇所は全て絶。効果は絶大だけど防御は凝よりさらに弱い。使いどころは考えないといけないがねえ」

 

「すげえなババア、さすが亀の甲より年の功ってか。おれだったら具体的に硬の方法を教えてからやらせるとこだった。自分で気づければ使いこなせるようになるまでが早いもんな」

 

 そうなのか。

 

「タイガちゃん。あんた本当に飲み込みが早いねえ」

 

 そうなのか? ババアに吹っ飛ばされるのが嫌だっただけなんだけどなあ……まあいいか。

 こうして俺は硬を覚え、そのあとも組手を続けたけども。

 結局俺がババアを吹き飛ばすまでには至らなかった。ムリムリ。

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